PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黄泉桎梏>Crux et Mortui

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「これが……あるべき世界だというのか……!?」
 豊穣郷カムイグラ。隠密組織『折紙衆』は水之江 霄。彼は水流の鎌を握りしめ、その奥歯を強くかみしめた。
 眼前に広がるは穢れた空。
 崩壊した街並を歩く、巨人の列。
 彼らの額には呪詛に染まりきったロザリオが逆向きに埋め込まれ、手にした巨大な十字架めいた戦鎚を引き摺っている。
 それだけではない。同じようにロザリオを額に埋め込んだ亡者の群れが意味不明な言葉をつぶやきながらこちらへよろよろと歩いてくる。まるで生きる屍のようだ。
「――ッ」
 錺はクナイを無数に生成し『亡者』たちへと投擲。簡単に倒せるだけのもろさだが、あまりに数が多い。倒れた味方を踏み越え、彼らは走り出した。
 口から吐き出す呪詛はこちらの動きを鈍らせ、体力やスタミナをじわじわと削ってくる。
 そうしている間に『巨人』がその戦鎚でもって殴りかかってくるという寸法らしい。
 こんなものが認められるか。吐き捨てるように言った霄は走りだそうとし――その肩を同じく隠密の白金 錺に掴まれた。
「先走るな。霄殿」
「この惨状を認めろと!?」
「違う。私達の使命は親方様の探索と調査。この敵の群れに飛び込めばそれもかなわない」
 違うか? と問いかける錺に、霄は歯ぎしりの音が聞こえるほどに唸った。
「親方様! 必ず助けに参ります。それまで、ご辛抱を……!」
 見つめる先。巨大な十字のオブジェクトの中央には半透明なカプセル。
 その中に、ハーモニアの女性が膝を折る形で閉じ込められている。
 意識は無いのか、眠っているように安らかな表情で。


「おい! グドルフ! 親方様を助けろ!」
「あぁ? なんだテメェ尻尾巻いて逃げたくせによぉ『お願いします』はどうしたぁ?」
「ええい黙れ山賊風情が親方様に近づけるだけありがたく思え!」
 額をガツンとぶつけ合わせにらみ合う霄とグドルフ・ボイデル(p3p000694)。
 仲間が心配そうに見ているが、天目 錬(p3p008364)は肩をすくめて言った。
「大丈夫だ。この二人はこう見えて仲が良いからな」
「「誰が!」」
 息ピッタリで吠える二人。錬が『な?』という顔でこっちを見てきた。
 そんな彼らを余所に、白金 錺はコホンと咳払いをする。
「『神の国』が豊穣まで進出してきたことは知っているな? その一部に、我等の主、神羅様が取り込まれてしまっている。生きた準聖遺物として核にされてしまっているようだ。
 神羅様を救出すれば神の国を破壊することができるが、それもそう簡単にはいかない――」
 神の国内は滅びた首都の様子を再現しており、そこには呪物の力によって凶暴化した怪物たちが闊歩しているという。
 彼らを突破し神羅を救出するには相当の戦闘力を要するだろう。

 ところでその神羅というのは誰なんだ? そう誰かが訪ねた時、グドルフは露骨にそっぽを向いた。
 錬が苦笑し、話を繋ぐ。
「元は天義でシスター・カミラとして知られていた人物で、ロザリオなど強い力をもったアイテムを作成できる人だったらしい。人望も高くて、いろんな人に慕われたらしいな。
 それがバグ召喚で豊穣に飛ばされて、神羅という名前でこの地の人々のために活動するようになったらしい。いまここにいる水之江と白金は彼女を頭領とする『折紙衆』という隠密組織に属しているんだ」
「説明感謝する」
 錺が肩をすくめてみせる。霄の様子が相変わらずだからだろう。
「この通り、人を引きつける魅力のある御方だ。それに強い力も持っている。核として利用されても不思議ではないな」
「貴様何を悠長な!」
 霄が狂犬のように振り返り吠えるが、それを錺は手をかざして制止した。
「私達も同行する。どうか、神羅様の救出に協力してもらいたい」

GMコメント

●シチュエーション
 『神の国』に囚われ核とされた神羅。彼女を助け出すべく神の国へと突入します。

●神の国とは
 冠位魔種ルストの勢力がルストの権能によって作り出した異空間です。
 聖遺物などを核として作られ、彼らの提唱する在るべき世界がここには再現されています。
 これを放置すると現実世界に帳がおり、この状態に書き換えられてしまうという脅威を持っています。

●エネミーデータ
・亡者
 ロザリオを埋め込まれた亡者の群れです。
 戦闘能力は一般人程度と非常に低いですが、数がとんでもなく多い上に吐き出す呪詛がこちらの能力を低下させるBSを含んでおり、またAPにダメージを与えてきます。
 放っておくとスタミナ切れを起こすことになるので、早めに処理しましょう。

・巨人
 巨大な十字の戦鎚をもった巨大な亡者です。厳密には亡者を切り刻み合体させて巨大な人型の怪物に作り替えたものであるようです。
 純粋に戦闘力が高く、巨体から繰り出すパワーによって街をなぎ払っています。
 神羅救出において直接的な障害となるので、きっちり準備して戦う必要があるでしょう。

●味方NPC
・水之江 霄
 水の鎌を操るアタッカー。修行を経て水の術を使うことができるようになり、いるだけで周囲の味方全体にバフを与えるなど役に立つ効果を複数持っている。

・白金 錺
 金の術を使うくノ一。範囲攻撃が得意だがAPが枯渇しがちなので今回の戦場ではAP不足がネックになる。そこさえ抑えてやればかなり頼りになるサブアタッカーになってくれる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄泉桎梏>Crux et Mortui完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月10日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ロレイン(p3p006293)
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

リプレイ


「ようよう霄くぅん? 久しぶりじゃあねェのよぉ?」
「なんだゴブリン討伐されたくなったか?」
 ギヒヒと笑う『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)とにらみ付ける霄の顔が至近する。
「覚えてっかぁ? 俺らがお前ボコしてから連れ帰ってやった時のコト」
「その節は大変お世話になりましたって言われたいのか子鬼ィ。今度はお前をボコしてやっても――」
「じゃれ合うのもそのくらいにしておけ」
 錺が彼らをひっぺがし、はあとため息をつく。
「お前たちは顔を合わせればすぐこれだ。まあ、仕事をしてくれればそれでいいんだがな」
「あたりめぇよ。今回もあん時みたいにバシッとキメて、ちゃちゃっと連れ帰ってやるからさあ。 辛気臭え顔してんじゃあねェよってな。
 なんたって派遣会社ルンペルシュティルツの社長の俺がわざわざ出向くような現場なんだからよ。うまく行かねェ訳がねェのさ! ガハハハ!」
 相変わらずのキドーと小刻みに震える霄。キドーは金歯を見せて笑いながら……ちらりと『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)のほうに視線をやった。
「あ? なんだ?」
「べぇつに」
 視線をもどすキドー。グドルフは『いつものように』腕を振り、首をこきりとならした。
「ったくクソどもが調子に乗りやがって。嗚呼、最高だ。今俺は、最ッ高に腹が立ってるぜ。
 行くぞ、お前ら。チリひとつ残すなよ!」
 いつも通りの山賊ぶりは、聞こえない声をキドーに聞かせるようだった。
 ──遂行者ども。
 ──先生に、手を出したな。
 誰にも見せない、その顔と声を。そうと教えぬそのままに。

 神の国へと至るその前に。『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は腕組みをしてため息をついた。
「滅び去った豊穣だと? これがあるべき世界であるはずがない。奴らにとって都合が良い世界なだけだ。
 この豊穣で『神の国』を嘯く連中に遠慮はいらない、確実に救出して奴らの出鼻を挫いてやろう」
 そう言って振り返ると、ロレイン(p3p006293)が肩をすくめた。
「確かに。市井も一時代前な状況だったけどこっちもこっちで違和感しかないわね。
 亡者って……カムイグラで溢れる事態があったかしら? 巨人も、見たのはどちらかといえば幻想だった気がするわ」
「ああ、その辺はあとで詳しく説明するよ。豊穣でも似たような事件が起きたことがあってな。もし俺たちがいなかったら……こんな状況になってたかもしれない」
「それにしても……人を核にすることもできるんですね。一刻も早く助けてあげないと。自分のせいで世界が作り替えられたとなると、凄く凄く悲しいでしょうから。
 それにこの亡者はどのようにして連れてこられたのでしょう?死して安らかに眠っていた子が無理矢理起こされているのなら、彼らもきちんと黄泉に返してあげましょう」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)がそう語ると、『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が自分なりの見解を述べ始める。
「『神の国』はそれ自体が偽りの世界。歩く人々も建物も空も大地も。だからきっと、この亡者や巨人たちも作り出されたニセモノなのだわよ」
 その上で……と。
「神羅さんを護る為、この侵攻から世界を護る為、そして死者の安らかな眠りを護る為。こういう護る戦いこそ、私のありたいイレギュラーズの姿なのだわよ」
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)はなんだか変わった考えがあるようで、話には加わらずに横を歩いている。
 だから代わりに、『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)が話を汲み取った。
「その通り。こんな世界があるべき世界だなんて認めてやるもんですか。
 世界はもっと楽しくて、綺麗な音色であってほしいから」
 ギターをケースから取り出し、ベルトを肩にかける。
「だから、絶対に救い出しましょう――!」


 握るギターピック。手首を僅かにかしげ、鳴らす弦の音が、粒の細かい音楽へと一瞬で変わっていく。
 涼花の奏でるその音は、亡者だらけの戦場に強く気高く響き渡った。
「行きましょう、みなさん!」
 彼女の演奏に背を押されるように、錬は迫る亡者の群れへと挑みかかった。
「まずはこいつだ、式符・殻繰――!」
 式符より地殻を操作して絡繰兵士を鍛造。武器を手にした絡繰兵士が亡者の群れへ対抗し襲いかかった。
 がつがつとぶつかり合う亡者と絡繰兵士。頭にロザリオの埋め込まれた亡者は呪詛を吐き出し、それは黒い煙のようになって広がっていく。
 呪詛は時としてダメージに、時として身体にまとわりつく邪魔に、時として精神に異常をきたす幻へとかわる。
 一体一体の攻撃はさほど脅威にならないが、これが大量に浴びせられればこちらも回避がどんどんしづらくなるというものだ。
「この呪詛は厄介だな……けど、纏めて払えば問題無い」
 錬は特別な治癒符をホルダーから抜き取ると仲間たちへと次々に投げた。
 涼花と力を合わせてのBS回復だ。ここまで慎重にやっていけばそうそうBSを後に残すことはないだろう。
 問題はこちらがガス欠を起こす前に亡者たちの攻撃をやめさせなければならないということだが……。
「ざぁこ♡」
 マリカは『No life queen』の術を用いて亡骸の玉座に腰掛けると、『Drop of despair』と『Sugar void』の術を行使した。
 湧き出す空っぽの鎧の集団が涼花たちを守るべく配置される。
 実際亡者たちは涼花を狙って走るが、それを鎧の集団がブロックし攻撃を無効化していた。
「神の国……受け入れがたい歴史しか出さないわね?
 改革は、イレギュラーズが来る前から進んでいたし、それが失敗したのがここなのかしら?」
 ロレインは鳥銃『Black Atonement』を構えると神秘の力を込めて四方八方へと打ちまくった。
 神秘の閃光を伴った爆発があちこちでおこり、ブロックされていた亡者たちがなぎ払われていく。
「それにしても数が……!」
 演奏の合間に涼花が歯噛みする。ダメージとBSは払えても、APダメージばかりはどうにもならない。
「涼花、そっちも頼めるか。消耗が酷くなってきた」
 錬は星霊符を取り出し自らに使用する。回復レートの高いAP回復手段だ。
 涼花は頷き、演奏の種類を『女神の口付け』に変更した。熱いギターソロによって喉が潤うような感覚が戻ってくる。
 これを、仲間たちにも行き渡らせれば……。
 そうして回復支援を受けたフルールは精霊と融合。自らに清炎と悠炎を付与した。
 見た目こそかわらないが、しかしその姿は遥か遠くに燃える炎のように僅かに揺らめいて――またその蒼白く静かに燃える炎は全ての神秘を燃やし消し去る。
 群がる亡者たちの呪詛も殴りかかる拳も、もはやフルールには届かない。
「大きな巨人を倒さなければ、神羅の救出は不可。だけど、亡者の群れがさらに邪魔、と。ひとまずはこの亡者の群れから巨人に辿る道を作らねばなりませんね」
 続けて紅蓮穿凰(ぐれんせんおう)を発動させた。
 翳した手から放たれる紅蓮の鳳凰が羽ばたきをもって亡者たちの群れの中を突き進む。焼き尽くす炎そのものとなって。
 この調子なら仲間を庇う必要はしばらくなさそうだと華蓮は頷いて、皆が一塊になっている間に『稀久理媛神の追い風』を発動させた。
 込められた言葉はそう――「あなた達が我が巫女の友である限り、神の名において幸運を約束しましょう」と。
「私とうちの神様が支えるのだわ、思うままにやっちゃって欲しいのだわよ!!」
 続けて『稀久理比女の声』を発動。錬と涼花がAP回復に力を割いている間に爆発的な回復量を確保しようという考えである。
 実際、本気を出した華蓮の回復量は他を圧倒するほどのものだ。
 これだけ防御と回復が潤沢な状態なら、亡者の群れがどれだけ襲ってこようが問題にならないだろう。
「……っし」
 グドルフは山賊刀を手の中でくるりとまわし、山賊斧と擦り合わせるように、あるいは研ぐようにしゃらんと鳴らした。
「雑魚どもがうじゃうじゃと、邪魔くせぇんだよ!」
 仲間のガードを突破し、走り込んでくる亡者。
 もはや人間の顔面とは思えないような変形を遂げたそれが大口を開き、呪詛を垂れ流しながら乱れるように走ってくる。
 そんな亡者の助走を付けた跳躍を、しかしグドルフは斧の一振りでたたき落とす。
 相手の胸部に食い込んだ斧をそのまま地面へたたき落とすように振り込むと、亡者の肉体は爆散したように破壊された。血は出ない。肉も散らない。まるで泥の人形のように散って、溶けて、そして消えてしまう。顔面に埋まっていたロザリオも動揺に。
「全部まるごとまがいモンってことかよ、クソがよ……!」
 苛立ちは、尚も募る。『先生』を核にしてまで生み出したものが、こんな世界だなんて。それすらもまがい物であるだなんて。勿論、本物の亡者を生み出して徘徊させたなら、それはもっと許せないことなのだけれど。
「どっからでもかかってきやがれ!」
 山賊刀の回転斬りが亡者たちを纏めてなぎ払い、グドルフは獣のように吠えた。
「ったく、キレ散らかしてやがる」
 キドーは煙草に火を付けると、それを『契約』にして邪霊の群れを召喚した。
 亡者の群れには邪霊の群れだ。呼び出されたワイルドハント狩猟団はいつもよりずっと数が多く、八本足の馬も黒い犬も、角笛を吹く正体不明な頭領もいつにも増して勇猛果敢だ。
 そう、キドーが死後この狩猟団に加わるという契約の下に、今すぐにでも戦い果てて誇り高く死ぬと信じて疑わぬ様子で。踏み倒す気まんまんで契約を工夫したゴブリンの悪辣さなど知らずに、亡者の群れへと食らいついていく。
「おう、錺。力貸せよ。この場は俺とお前みたいな奴が適任だ」
「そのようだな。霄、お前も」
「分かっている!」
 錺はクナイを大量に作り出して投擲。霄は鎌を振り回しながら味方の強化をはかる。
 そうして、スコップで土を掘るかのようにくりぬいた亡者の群れの向こう側、巨人たちの隊列へと突き進むのであった。


 亡者たちの中を切り抜けた錬は、ビリリと背筋に悪寒が走るのを覚えた。
 それは遠い予感や未来の悪夢等では勿論無く、今まさに頭上で巨人が十字の戦鎚を振り上げたさまを視界の端でとらえたがためであった。
「う――おおお!?」
 回避行動は、間に合わない! 咄嗟に錬は連れていた絡繰兵士を前に出し防御姿勢をとらせた。戦鎚はゴルフスイングのように錬たちを襲い、絡繰兵士をバラバラの粉砕。ギリギリで防御行動をとれた錬はダメージこそ軽微なものの、そのまま派手に吹き飛ばされた。
 半壊した建物を更に壊しながら突っ込み瓦礫の中を転がる錬。
「ったく――神の遂行者を名乗りながらこんな胸糞悪い術式使うとは。お里が知れるということだな!」
 悪態をついて立ち上がると、巨人はもう一度彼を狙うように構えていた。
 が、それを許す仲間たちではない。
 涼花が、『お友達』を召喚したマリカがそれを阻んだ。
 ギターをかき鳴らしたことで生まれた音のウェイブが魂の矢となって浮かび、巨人へと飛ぶ。
 一方でスイングされた戦鎚は空っぽの鎧たちが受け、そして絡繰兵士たちと同様に粉砕された。
 マリカは吹き飛ぶ鎧に手をかざし軽く防御の姿勢をとると、『Nether mocha』の術式を発動、巨人へと解き放つ。
 そんな中で積極的に前に出たのは、涼花だった。
 音楽によって仲間を癒やし、仲間を助ける。それは今までと変わらない。けれど――。
(それでももう、庇われたその背で支援することしかできないのは嫌だ。たった一つだけの手段でも)
 燃える魂は青い瞳を煌めかせ、魂の熱は尚も魔法の矢となって出現する。
 大量の矢は、叫びと共に解き放たれた。
「もう守られるだけじゃないことを証明したいんです!」
 矢の雨がぶつかり、巨人は大きくよろめいた。半壊した建物の列へと倒れ込み、派手に瓦礫をはねさせる。
「いいぞ、その調子で責め立てろ!」
 錬は相克斧を瞬間鍛造すると巨人めがけて斬りかかる。
 一方で――。
「……どこまでも部外者でしかない神の国が、一体何の正しさを掲げるのかしら?
 この国の痛みも葛藤も、この国のもの。イレギュラーズは背中を押して、ちょっと手伝っただけなのよね……」
 ロレインも巨人たちとの戦いに参戦していた。
 ライフルから放たれるファントムレイザー弾が、巨人の硬い防壁を無視してえぐるような一撃を叩き込む。
 後衛に密集しつつあるロレインたちを纏めて蹴散らそうと巨人が走るが、それを阻むように翼を広げた華蓮が空中に立ちはだかった。
「躱せるものなら、見せてみなさいなのだわよっ!」
 そして放つ、神罰の一矢。
 神弓『桜衣』につがえた矢には祈りが込められ、放たれた矢は見事に巨人の顔面へと突き刺さる。
「私とうちの神様が支えるのだわ、思うままにやっちゃって欲しいのだわよ!!」
 顔を押さえて叫ぶ巨人に更なる攻撃を加えようと弓を構える華蓮。
 連続して放たれた矢を受けて、巨人はおもわず数歩後退する。
 追撃を試みたのはフルールである。至近距離へと接近し。『蒼星真火』の術を叩き込む。
 苛烈な色を称えた紅蓮よりも強き炎が、巨人の巨体を包み込む。
 苦し紛れに繰り出された戦鎚がフルールへとぶつかるも、炎がそれを相殺した。
 が、こちらの炎も衝撃によって吹き消される。
 錬やマリカの時といい、どうやらブレイク効果をもっているようだ。だがここまで追い詰めてしまえば関係は無い。
 フルールが更なる炎を次々に放つ中、キドーが残った巨人めがけてククリナイフを抜き飛びかかった。
「霄、錺! 援護だ!」
「言われなくとも!」
 水と金の刃が巨人へと集中し、それを防御した巨人のその防御の隙間をつくようにキドーのナイフが差し込まれる。
 ククリナイフによって切り拓かれた傷口が、そのまま激しい泥のしぶきとなって空にあがった。
 転倒し、崩れていく巨人。
「おら行け山賊!」
 キドーが呼びかけると、グドルフはハッとした顔を一度だけ向けてから、そして『山賊らしく』笑った。
「ゲハハ! いいとこ取りさせてもらうぜェ!?」
 倒れた巨人たちの間を走り抜け、核となって宙に浮かんでいた十字のカプセルへと跳躍する。
「山賊から奪おうなんざ、100万年早ェんだよ!!」
 クロスした斬撃がカプセルにヒビをいれ、ガラス細工のように破砕した。
 解き放たれた神羅は宙へと投げ出されるも、それをグドルフは必死にキャッチし、地面へと着地する。
「――!」
 歯を食いしばり、胸のロザリオに手を当てる。僅かに灯った癒やしの力が、神羅へと流れ込んだ。本当に僅かなそれは、しかし……。
「……ぐど、るふ」
 囁くような呟きを、神羅がもらす。
「……」
 グドルフは答えない。ちがう。俺じゃない。
 目を開けた神羅がハッとした表情をして、そして……目を細めた。
「また、あなたが助けてくれたのですね」


「めんどくせえことに巻き込みやがって。折紙衆てのも役に立ちゃしねえ」
 これは後日談ではない。神羅が助け出されてすぐあとの話である。
「ちったあ鍛えろ。そんで、二度とこんな無様な仕事を持ってくるなよ」
「なんだと!?」
 反発しそうになる霄の頭をはたいて、錺が深く頭をさげた。
「お前の言うとおり。この度は世話になった。また、助けられてしまったな」
 神羅(カミラ)の帰る場所。天義。その国から来たという、遂行者たち。
 彼らの狙いは、『世界』なのだという。
「さあ、帰ろうぜ」
 抱いた殺意を隠したまま、グドルフは笑った。『悪党みたい』に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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