PandoraPartyProject

シナリオ詳細

隠恋慕

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●かくれんぼしましょ
 ――人を殺めました。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――あたし以外の人を見て欲しく『なくなってしまった』から殺めました。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――あたしと彼が恋人関係? いいえ、違います。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――彼はあたしのことなんて見てくれませんでした。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――彼には婚約者が居たから、あたしの恋は知られてはいけないと思っていました。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――彼はあたしが好いていたことを知りません。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――この秘された恋は完璧でした。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――あたしはそれで満足だったのです。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――それなのに…………彼がいけないのです。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――彼が、あたしの存在に気付いてしまったから。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――あたしを、視界にいれたから。
 大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでした。
 ――だから、あたし。あたし、箍が外れちゃって。
 ずっとずっと大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでたまらなかったのです。
 ――あたしだけを見て欲しくなってしまったのです。

 あの人が最期まで見つめていたのはあたし。
 あの人の記憶に最期に残ったのはあたし。
 あの人をどうしたか? 勿論、埋めました。
 だって他の人にあの人を見てほしくないのですもの。仕方ないでしょう?

●あなたもおによ
 雨雫が紫陽花の葉で跳ねて歌う季節、梅雨。
「ちょっと特殊な依頼があるのだけれど」
 梅雨真っ只中の豊穣で、劉・雨泽(p3n000218)が首を傾げた。
 最近の豊穣は帳が降り始め、その対応に追われている――のだが、通常の事件や依頼が空気を読んでくれるわけでもない。
 刑部からの依頼でねと前置いて、雨泽が説明していく。
「ある女がある男を殺した。そして、自首をしたんだ」
 事件は既に解決しているのではないか?
 そう聞こえた声に、雨泽が淡く笑む。
 曰く、女は自首をしたが、死体の在処を話していない。
 死体がなければ、女の虚言である可能性も出てくる。
 ただの虚言癖の罪なき民を裁くことは刑部に許されてはいない。
 そこで刑部は女の望みを尋ねた。どうすれば死体の在処を吐くのか、と。
 女は答えた。『他の方は、どうするのでしょう』と。
「依頼人はこの『ある女』になるよ。心の籠もった話を聞きたいのだって」
 何をって?

 ――もし愛する人を殺してしまったら、自分だったらどうするか。

 愛に溢れた、愛ゆえの過ちのお話を。
「ね? こんな依頼、他のところにはなかなか出せないでしょ?」
 だからローレットに持ち込まれたのだと、雨泽はいつも通り笑って言った。

 ――――
 ――

 あたし、恋を隠しましたの。
 あなたは恋をどう隠すのでしょう?
 お聞かせ願えませんか?

 問われた役人は、酷く困惑したという。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 紫陽花シーズンは死体を埋めたくなりますよね?

●シナリオについて
 とある家で、襖越しにひとりずつお話して頂きます。
 誰が話しに来ているかも、あなた方は知りません。
 内容は『もし愛する人を殺してしまったら、自分だったらどうするか』です。死体と寄り添うのか、それともすぐに埋めて離れ離れになってしまうのか。友人に話すのか、自首するのか、永遠に自分だけの思い出としてしまうのか。……そういったことです。
 お話する『愛する人』に関しては、個人名を出してはいけません。「その人は俺の奥さんで……艷やかな黒髪に蝶のかんざしが似合う人なんだ」等は大丈夫です。想像の話なので、今現在愛する人が居なくとも『もし誰かを愛し、そうなった場合』でも大丈夫です。
 依頼人は『殺してしまったらどうするか』を知りたがっていますが、どうして好きなのか、どのように好きなのか……どうして、どのように殺してしまったのか等をお話しても大丈夫です。殺意の無い不慮の事故パターンでも大丈夫です。自分で殺めてしまってさえいれば。

 大丈夫です、全ては想像のお話。
 ですがそんな想像をして、あなたは最後になんと思うのでしょう。

 こういった話ですので、他の人の話を聞かないのがマナーです……が、もし聞こえてしまったとしたら――忘れて下さい。それがきっと双方のためでもあります。
 彼女がその後どうしたかは、最後に描写が入ります。

●禁じられていること
 依頼人のことを知ろうとしてはいけません。
 依頼人の姿を見ようとしてはいけません。
 依頼人へ『お話』以外(意見を求めたり説教するようなこと)をしてはいけません。
 依頼人へあなたの『愛する人』の名前を告げてはいけません。

●依頼人について
 罪を犯した女性。
 あなたたちの前に姿を見せることはなく、ただ話を静かに聞きます。
 あなたの本心の――ドロドロの感情が籠もっていない話は見抜くタイプです。
 納得、満足――どの形かは解りませんが、そうあった時に遺体の隠し場所を刑部に告げ、決められた裁きを受けます。
 女にとって刑を受けて死のうと、口を割らずに独り占めをしようと、どちらでもいいことなのです。だって愛する人はもう、体だけしかこの世には居ないのだから。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。

 それではどうぞ、美き隠恋慕を。

  • 隠恋慕完了
  • どうぞ、あなたの愛する人について語って下さい。
  • GM名壱花
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月14日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
明晴 伊春(p3p010433)
陽の燈のもと

リプレイ

●おにさんこちら
 どうぞと刑部の役人に案内されたのは、十畳程の和室。
 畳の上には質の良い座布団と、湯呑に入った冷たいお茶、茶菓子の大福。
 入ってきた襖を閉めて真っ直ぐに座布団へと向かって腰を下ろせば、一畳程空けて質素な襖があった。
 その奥から僅かな衣擦れの音がして。
 ――依頼人は、あなたの語りが始まるのを待っている。

●家族を亡くした少女の話
「その人の息の根を止めてしまったら。わたしはきっと、暫く夢か現の出来事かすら判別もつけられずにいて、弾かれたように"なんにもなかったフリ"をしていつもの日々を過ごすかもしれないわ」
 今の『陽の燈のもと』明晴 伊春(p3p010433)に好いた人はいない。だからこれは、もしもの話だ。けれど伊春には想像が易い。家族という、愛する存在を喪った過去があるからだ。
「自分の手許に死体を置きながら、見て見ぬフリ。蛆が沸いて、肉が腐って落ちていって、死んだときの恰好で真白の骨だけが残されるまで、そこにあってもそこに無いような――路傍の石のような扱いをするわ」
 ひどく悪臭が立ち込めても、心がその死を受け入れ無くて。
 人の姿じゃなくて白骨だけになって、ようやく「そっか、死んでしまったんだ」と受け入れられる。そこに魂ももう残っては居ないから、感傷も覚えずに。
「その間、わたしは全然悲しくない。死んだ瞬間に愛情も霧散していくような気がする。……わたしは冷淡な奴なんだって自認することで、心が壊れないよう自分自身を誤魔化せるんじゃないかなと思うのよ」
 心が分離して、高いところから事実を見下ろしている感覚に近いのかも知れない。確りと見ることはなく、現実から目を逸らして、時間の経過こそが心を救う。
「残った真白な骨は、どうしようかしら?」
 伊春は顎に指をかけ、少しだけ考えた。
 ほったらかしにしても良い事ないし、風化したら勿体ない。
「骨壺にでも納めて、…………隠すみたいに物置の奥へ追いやるわ」
 その後は余程の事が無い限り、物置の中だ。
「冷たい、かしら? けれど酷いことはもうしているんだもの、こんな冷たさ些末なものよ」
 生きて陽の光を浴びることがないのだから、もう魂がないものに陽の光を浴びせたって仕方がない。
 物置の中、誰からも忘れられた――けれど伊春は覚えているから大丈夫だ。

●死に焦がれる女を食べたい化物の話
 そうだなぁと首を傾げた『ご馳走様でした』恋屍・愛無(p3p007296)は、「僕は他の子と違って人を喰う化物なんだよ」と最初に告げた。嘘か本当かは依頼人が判ずればいいことだ。特に中断の声も上がらないから、愛無はそのまま続けていく。
「だからさ。殺したモノは当然喰うし。それが好きな子だろうが変わらないって話ではあるんだ。それに好きな子のが喰ったときうまいしね」
『食べ物』は、好きな物ほど美味しくて当たり前。相手も愛無の事が好きで食べられたいと思ってくれていれば良いのだが、世の中はなかなかそう巧くいかないものだ。
 ここまでが前置きねと、愛無は大福を指で突っついた。ふくふくとして柔らかくて――人みたいだ。
「僕の好きな子は死に焦がれてるのさ。まぁ、彼女にとっての死は日常に潜む死なんて退屈なモノではなく非日常へ踏み出す様なモノなのだろうけど」
 それは彼女にとって信仰のようなものであるのかもしれない。
「僕は彼女の事が全く理解できないのだけれども。僕は好きな子の事を理解したいと思うのだけど。僕は理解からは程遠いらしい」
 その彼女に言わせれば『死』という気配だけが細い糸のように自身と愛無を繋いでいる。そんな表現をする彼女は、詩的で素敵だ。
「だから、僕は彼女の死になりたいのさ。彼女に幸せになってもらって、彼女が死ぬ前に僕が喰っちまうんだ。きっと、僕が今までに喰った事のない味を彼女なら味あわせてくれると思うんだよ」
 それはどんな味がするのだろうかと考えれば幸せであるかのような気もするが、実際のところその先は何にもないことを愛無は知っている。腹から愛する人が話しかけてくるわけでもないし、ただ愛無の栄養となって、そこでお終い。
「本音を言えば、君にも興味あるんだけどね。僕は喰いたい子の事を知りたいタイプなのだけど――」
 会ってはならぬのなら齧るのも無理かろう。
 爪でブスブスと差したから、大福からははらわたみたいに餡が覗いていた。摘み上げ、上向けて開いた口の中にぽとりと落とし、言葉と一緒に飲み込んだ。ごっくん。
 ――君はどんな味がするのかしら。

●想いに蓋をした女の話
 ――愛する人を手にかけたら。
「結論から言いますと、私はその場で彼の後を追うでしょう」
 間違っているのは、殺してしまった彼ではなく、私だから。
 深く思案した『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)は、静かな声でそう告げた。
「彼は、黒く長い髪と綺麗な黒い羽根、琥珀色の瞳をして。どこまでも真っ直ぐで、純粋で、そして、私にとって大切な人。私が勝手に諦めて、言い訳をして、蓋をした想いを向けるただ一人の人。弟のような、そんな人です」
 陽の光の下で笑う明るい笑みを思い浮かべる。守ってあげたいと思える大切な人。
 恋心に蓋をした。この恋を叶えようとは思わない。けれど。
「……想いが叶うことは諦めています。ですが、彼を愛していないわけではありません」
 今でも彼を目で追ってしまう。切った髪と共に捨てた想いは、今でも正純の中で燻っている。
「だからそんな彼を、私が手にかけたというのであればそれは、きっと私がどこまでも間違ったからでしょう」
 彼という光に耐えられなくなったのか、私の蓋をした想いが決壊してしまったのか、ただ、彼の周りの全てが妬ましくなったのか。
「理由は沢山思いつきます。私という醜い心を持った人間が、彼のような人を殺す理由なんて。――だから私は彼を殺して、そしてその亡骸を見て自己嫌悪をするのでしょう」
 季節はいつだろう。太陽みたいに笑う笑顔が眩しいから、夏だろうか。血の巡りが無くなって白く、そして土色になっていく彼に青褪める。
「一等恐れていた『彼を陰らせる存在』に自身がなってしまったという現実に、私は狂ってしまうでしょう。だって、彼という輝きを守りたかったから想いに蓋をしたのに、彼とその周りを汚したくなかったから諦めたのに。その結果が彼を殺すことになったのなら――」
 ねえ。
 想像するだけで気が狂いそうで、正純は困ったような笑みを浮かべた。
「狂って……そして、死という逃げを選ぶのでしょう」
 次こそは彼と共に、とか、これで彼は私のものだ、とか。そんな都合のいい妄想はなく、ただ己という存在を呪い、死んでいく。誰にも看取られることもなく惨たらしく、懺悔も届かず、後悔だけをひとりで抱えて。
「私は、私がずっと嫌いなんです」
 そんな嫌いな自分が大好きな人を殺めるだなんて、許せない。
「それがきっと、仮にそうなった場合の私の結末です」
 そんな風にはしませんけどねと口にした正純の声は、雨音で消された。

●プロ花嫁を称する女の話
 愛する人と聞いて、『ましろのひと』澄恋(p3p009412)はまっさきに『旦那様』を思い浮かべた。
 澄恋がたくさんの愛を注いで作り上げている至高の存在であり、そんな彼の側にプロ花嫁として居ることが澄恋のアイデンティティでもあった。
「でも……少し前から旦那様に取り込みたくないと思う人もできまして。わたしは『花嫁』として旦那様のいる身……これって、浮気なのでしょうか」
 明るいトーンが落ち、悩ましげになる。
「隣にいたいのはどちらもそうなのですれど、他人に混ぜたくないと言いますか……一種の独占欲なのかもしれません、そのままが良いと思えてしまったのですよね。でも人間って、己の元から去らない保証はないでしょう?」
 きっと誰かが聞いていたら前半の部分で首を傾げていただろう。だが、依頼人は真面目に聞いてくれているらしい。微かな衣擦れの音のみが返ってきた。
「しかもその人割と無茶しがちで、酷い怪我を負うこともしばしばあるのです」
 心配をしてしまう。
 離れていったら、知らないところで傷ついていたら、どうしよう。
「けれど殺めてしまえばそんな心配もありません」
 亡骸を食べてしまえば己が血肉となり、魂さえも喰らってしまえば、澄恋がいつか死ぬ時までずっと一緒だ。
「彼の魂を抱えたまま自刃したら、心中になるのでしょうか?」
 ああでも待ってと澄恋は考える。食らった魂は栄養になって消えてしまうから、彼は先に輪廻の輪に加わってしまうのでは? なれば、もっと確実に繋ぎ止める方法が必要かも?
「……でも同時に、彼の生涯を奪ってしまうなんてとんでもない、健やかに幸せであってほしいとも心から思っておりますし、何より殺してしまうと殺される夢が叶わなくなってしまうのですよね……」
 悩ましいですとため息が溢れてしまう。
 人の気持ちは複雑で解らない。
 彼はこの気持ちをどう思うのだろう?
 こんなにも自分のことが分からないのに、相手のことだって解るはずもなくて、あ~もう! と澄恋は両手の拳をブンと振った。
 愛されるって、難しい。

●遠い星に手が届かなかった少女の話
 ――こんにちは、今日も雨だね。
 此処に来る前に紫陽花を叩く雨を見た『叶わぬ想い』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は、まず挨拶から入った。
「あたしは、フ――ううん、ただの一人の女の子」
 座布団へ、慣れないけれど正座をして、背筋を正す。
「あたしの大好きな人は、太陽みたいで、けれど一番星みたいな人。見上げれば眩しくて、けれど手が届かない人。……好きだ、なんて思ってなかったんだ。あたしはその気持ちを知らなくて、知ったと同時に決してその想いが届かない――」
 もし殺めてしまうとしたらきっと、そのタイミングだ。
 本当に『魔が差した』という言葉が合うくらい衝動的で、動かなくなった身体を「え?」と不思議なものを見るように見て、慌てる。
「息がないか確認して、あれ? ってなって、殺してしまったことに後悔して」
 状況を想像する。愛しい人が転がっている姿。慌てて後悔する自分。
「……嘘、きっと後悔なんてしない」
 想像上のフランは、困ったような、安堵の笑みを浮かべていた。
「安心すると思う。ああ、これでこの人の恋は叶わないんだって」
 恋が叶わない、あたしといっしょ。
「あたしの想いが届かないなら、その人の想いが叶うように、って思っているのは紛れもない事実で、優しい人を困らせたくないから想いなんて死ぬまで隠して、その人の想いが叶うようにって支えて、あたしよりずっと先に死んでしまうもの、幸せだった、っておじいちゃんになった姿を見届けたかった」
 フランの口からは想いが波のように溢れてくる。
 けれど、過去形だ。
「でも、ほんとは困らせたいよ」
 好きですって伝えたら、きっとあの人は困っただろう。スマートな優しい言葉を探してくれただろう。その優しさに、付け込みたかった。けれどそうすると、フランはずるい女の子になってしまうのだ。好きだからこそ、友人としてでも側に痛いからこそ、できなかった。
 だから――想像のフランは。
「この先誰も見ないように、奪ったんだ」
 この人の恋を、この人を思う他の人からも。
 奪って、終わりにして、全部自分のものにする。
「でも、あたしの好きな人にはいつでも綺麗でいてほしいから、綺麗にするんだ」
 血がついていたら綺麗にして、ただ眠っているみたいなあなたをぎゅって抱きしめて、土の中に隠してしまうのだ。
「あたしね、長命種なの。だから大好きな花の種も植えて、あの人から育つ芽吹きも、花が咲くのも、枯れるのも、次の種が芽吹くのも――ずぅっと見て居られる」
 ここに眠っていることはふたりだけの秘密。
「ずっとずっと、あたしだけの花になって、生きていてほしいんだ」
 ……あーあ。こんな気持ち、気付きたくなかったよ。

●眩しい光に恋した少女の話
 一般的に、依頼人の行動は間違っている。
 人は正しくあらねばならない。
 そうと解ってはいるのに、共感してしまった『共に歩む道』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は重いため息を吐いた。解ってしまうことが、嫌なのだ。いつだって正しい『彼』の側に居るためには正しくありたいのに。
「差別蔓延る豊穣でも、八百万の貴族でありながら獄人にも輝く笑顔を見せてくれた彼に、私は恋をしました」
 琥珀の煌めき、光という言葉が似合う、その人に。
 けれどそんな彼だからこそ、他の人だって同じ想いを抱く。
「私の想いを何度伝えても全然届かなくて……なのに他の子と彼は親密になって、
私と彼の関係を超えて……私がなれない関係になっていく。何時、誰が彼と結ばれてしまうか怖くて、怖くて……」
 耐えられなくなった時に、朝顔は殺してしまうのだ。
 泣いて後悔をして、同時に『誰とも結ばれずにいてくれた』と安堵する。
 貴族の家にある以上、必ず誰かと結ばれるのは必然だ。それは義務であるため、恋愛を許してくれている家の方が優しい。
 自分以外の誰かと結ばれると解っていて、けれども諦めきれない。彼はいつだって優しいから、まだ自分にも可能性があるって、思ってしまう。
「殺したら、お腹の中に彼を入れるんです。私の一部になるのも望んではいるのですが、唯、彼が私という檻に入って居ると感じられることが私にとって幸せな事だから」
 自分という檻に閉じ込めてしまえば、安心だ。
 誰も彼を感じず、彼も誰も感じない。
 誰も彼に恋をしないし、彼も誰とも結ばれない。
 何者からもずっと守れるし、ずっと一緒にいられる。
「大事なことを言い忘れていました」
 朝顔は小さく笑った。その先の先を想像して。
「殺す前に、私は彼を犯します」
 だって女にはその機能があるんだから。
「絶対に、確実に、お腹の中に愛する人との結晶を作るんです。きっとその子は、彼そっくりになる気がするんです」
 自分には似ないで欲しいと願うように、彼似の男の子が生まれると信じ切っている声が室内に響いた。
「彼と同じ名前にして、彼になるように育てるんです」
 そうしたらきっと、今度こそ。
「私を一番に愛してくれる彼に」
 一度で授かるとは限らない?
 男の子が生まれるとは限らない?
 いいえ、いいえ。そう、なります。
 ――そうじゃなきゃ、この恋は余りに救いがなさすぎる。

●愛する夫のいる女の話
 独り占めしたのだと聞いて、『かみさまの仔』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は素直に羨ましいと思ってしまった。
「僕の夫さんはいつも本心を隠してばかりの、うそつきで臆病で照れ屋でかっこつけで、献身的……。そんな人です」
 最愛の夫のことを夫さんと呼びますねと前置いてから、彼を心に思い描いた。睦月を守るために刀を握る、凛々しい姿を。
「夫さんは僕のためと称して依頼へ出稼ぎの日々。僕はそれを見送るだけ。家事だっていつもは夫さんがしてくれます。僕はうまくできないので見ているだけ。夫さんはそれでいいといいます。僕は妻である前に、夫さんの主(あるじ)なのだから、それでいいのだと」
 膝の上でぎゅっと拳が握られた。
「なにもかも夫さんがやってくれます。僕たちの関係はいびつで不平等で、幸福です。そばへいるだけでうれしいのに、こんなに尽くしてくれて、なにもかもをしてもらって。僕はとてつもなく甘やかされていて」
 言葉を区切る。唇を噛む。
 けれどそこにあるのは悲哀ではなくて。
「――幸福です」
 もっとしっかりしなくてはと、妻として夫を支えねばと、沢山思うのに。けれど彼が甘やかしてくれるのは確固たる愛の証。
「最近諸事情で供血して貰わねばならない身体になったのですが、夫さんがくれます。……それがまた、僕は幸せなのです。あの白い首へ歯を立てる瞬間、僕はたとえようもなく幸福です」
 ぷつっと肌に牙が刺さる感触、溢れ出す命の赤、どれも睦月には甘美だ。
「彼の血を吸い尽くす前に、夫さんはきっとこう言います」
 ――ねえ、食べてくれる?
   俺を殺して、食べるんだ。食べ方は任せるよ。
 血だけでなくその身までも、彼は睦月に捧げてくれる。
「僕は夫さんの遺言通りにします。にく汁、ステーキ、ハンバーグ、ウインナー、刺身、炭火焼、サンドイッチ、カレーライスの甘口、羊羹……ジュース……ジュースジュースジュース」
 睦月が思いつく限りあげた料理名の殆どを、依頼人は知らないだろう。
「そのためには……料理を、がんばらないと。もっともっとうまくならなきゃ、食べつくすために、髪の毛一本だって無駄にはしない」
 髪は消化できないからどうしましょうと悩まし気な声をあげる睦月はまだ、サンドイッチすらろくに作れない。
「愚かだと笑いますか?」
 応えはない。
「でもこれがきっと僕にできる精一杯の愛の形です」
 睦月は愛おしげに胸に手を当て、うっそりと微笑んだ。

●息子を愛する男の話
「俺が愛する人はうちの長男だ」
 正座には向かぬ足故に、胡座を組んで座した『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はそう切り出した。俺のが外つ国の獣人であること、そして息子は血の繋がらぬ養子であることを告げ、ひと呼吸分間を空ける。
「血は繋がってない養子とはいえ、同性で年の差もあるからずっと心に秘めているが――一目惚れをした」
 初めて顔を合わせた時は、頭の天辺から雷に撃たれたようだった。
 生まれた時から成熟した肉体だった旧型生物兵器と違って成長できる幼い生物兵器だったあの子を。
 肉を、強い遺伝子を喰らって進化しなければいけないという生物兵器として設定された本能を。
「獣性を恋や愛と勘違いして、理解できた頃には本当の愛があの子から遠ざかる事を拒んでいた」
 けれど今でも時折、あの子の肉を求める獣がウェールの中で囁くのだ。
 たった一人の父に裏切られた時の表情を、一度も聞いたことのない悲鳴、成人男性故に硬くも甘党だからか甘い血肉を、楽しみたくはないか――と。
「長く楽しみたいが、人としての俺が耐えられないだろう」
 襖の向こうの女には見えないが、ウェールは己の鋭い爪を見る。
「致命傷をこの牙と爪で与えて、二度と味わえない甘露を味わい尽くす」
 ずっと覚えていたい。
「骨はしゃぶり尽くしてから噛み砕いて飲み込んで、冷たくなった毛皮はマフラー、尻尾はキーホルダーにする」
 ずっと忘れない。
「頭付きの毛皮の敷物もいいが、親が子を足蹴にするのはいけないからな」
 食べて纏って、ひとつになって、永遠にともに。
「そうやって人を辞めるつもり……だった」
 過去形は『そう』ならなかったという証。
 依頼人の意を汲むのならば、ここでやめるのが筋だ。この先は依頼人の求めている話からは逸脱している。けれど静止の声は入らなかったから、そのまま続けた。
 その後ウェールは色々あって洗脳され、悪事を続けた結果、愛する息子に腹を刺された。
「最期に聞いたあの子の『さよなら』は――」
 記憶が呼び起こされ、ぐっと息を飲む。
 最後の涙声は言葉に出来ないほどの悲哀が溢れていた。
「あのさよならは、俺と世界宛の別れの言葉だっただろう」
 死神の鎌が魂を切り離す気配を感じた後――ウェールはこの世界に居た。
 義父を殺し、その眼の前で義父が消えたあの子は、どうしただろう。
「俺は旅人だ」
 逢うことも叶わなければ、生死を確かめる術もない。
「もしもあの子が俺のせいで後追いをしていたら、立派な墓を作ってやる」
 墓掃除をしながら謝って、隠してた愛を、獣性を吐いて、あの子の心の傷を自ら広げる。
「俺はあの子があの世からいなくなるまで生き続ける」

●たくさんの愛を知る少女の話
「私の愛する人は複数いるの」
 少し悩んでから、『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)はそう告げた。
 可愛い番。夕暮れの橙色、深海の紺碧色。その全てと融け合いたい狂ったあの子。
 唯一無二の銀の月。寂しがりやの魔法使いの父様。
 私達に愛され(呪われ)て、在り方を損なった可愛い猫ちゃん。
 どの人のこともルミエールは愛している。
「この手で殺したとしても、私は信じられなくて、きっと呆然としてしまうでしょうね」
 実感のない声を吐いて、少女は髪を揺らした。
「だって、みんな私より強いのだもの。私の様な無力な魔女に命を奪われる程弱くないのよ。だから、殺してしまったことを忘れて、暫く一緒に暮らすんだと思うわ」
 動かないのは、眠っているせい。
 いつになったら起きるのかしら。お寝坊さん。
 けれどルミエールは、彼等が死んでしまったことにとっくに気付いている。
 だって死体が腐ってしまわない様に保存の魔術をかけるのだから。
「だから待つのに飽きたなら、一緒に死のうとするのでしょうね」
 小さく笑ったルミエールは「けれど私は我が儘なのよ」と続けた。
「さっきも言ったけれど、愛する人が沢山いるの。どの愛も諦められなくて捨てられないから、死ぬ前にみんな殺してしまうわ」
 愛する人の、そのまた愛する人まで、みぃんな。
「そうすれば誰も寂しくないわ。……替えのきかない大切な人を殺してしまったなら、あと何人殺そうと同じよね?」
 ルミエールは童話でも歌いながら、ダンスのステップを踏むように殺して回るだろう。
「その間に最初の誰かが目を覚ましてくれるかもしれないわ?」
 手伝ってくれるのか、止めるのか。それはわからない。
 けれどもう一度その眸に少女を映して動いてくれるのは嬉しいことだ。
「私、我が儘なの」
 視線も愛情も、全部ほしい。
 吐息もこれからの生も、愛した人の全てが欲しい。
「誰かに殺される前に私が殺して、奪われる前に私が奪って、そうすれば全て私のもの。でも、何故かしら。それだけじゃ足りない気がするの」
 殺してしまったら残るのは沢山の死体。綺麗に着せ替えて寝かせてあげるのも素敵だけれど、ルミールが自死をしたら……その後は? その全ての死体はどうなるの?
「……本当に全部欲しいなら、食べなくちゃ駄目よね」
 愛しているのなら、欠片も残さず食べないと。
 それこそがルミエールの愛なのだから。

●人に恋をした妖怪の話
「僕の愛する人、彼女は夕日のようにきれいな赤い髪と澄んだ青い瞳をしていて本当に綺麗なんですよ」
 惚気けられるのが嬉しいのか、『君の盾』水月・鏡禍(p3p008354)の声は弾んでいた。何故なら鏡禍には『大好きだから殺す』という行動が理解できてしまうから。
「心がとても強くて、僕みたいなのも引っ張ってくれる人で、意志の強さには根負けさせられることもありますけど、そんなところにも惹かれて愛しく思うんです」
 差し伸べられる手に、何度救われたことか。
 向けられる眸に、何度愛おしいと思ったことか。
 けれどそのどれもを彼女がしてくれなくなったら――?
「きっとその時に僕は彼女を手に掛けるのでしょうね。だってずっと愛するって誓ったんですよ? 証の指輪も着けてくれたんですよ? 人の心は虚ろうって知ってますけど、許せるわけないじゃないですか」
 鏡禍は妖怪だから変わらない。永遠に愛し続ける。
 最期の最期まで見てほしいから首を絞めて、歪む表情も慈しみ、零れ落ちる涙を舐め取って、その感情を食べて、食べて、食べきって、命を奪うのだ。
「愛する人のぬくもりが消えていくのはやっぱりつらいです」
 殺した後は悲しくて泣くだろう。けれど涙が枯れたら、彼女を食べる。
「血の一滴も残しません。彼女の血はきっとどんな飲み物より喉を潤して、彼女の肉は今まで食べてきたどんな感情よりも美味でしょう。何より食べたら彼女はずっと僕と一緒なんです。血肉となって僕とずっとあり続けるんですよ、幸せでしょう?」
 骨と髪はどうしても食べられないから、常に持ち歩けるようにして。そうして彼女が死んでからもずっとずぅっと一緒に居るのだ。
 ふうと息を吐いた鏡禍はお茶を頂くことにした。想像した彼女の『味』と比べると、随分と渋い。彼女はもっと甘くて、瑞々しくて、一生記憶に残るような――。
「あ。いけない。想像をしすぎてしまいました。……困ったなぁ、帰ったらどんな顔で彼女に会えばいいのやらですよ」
 小さく笑った鏡禍は話を終えてその場を後にする。
(この恋が実らなかったらいつか僕も依頼人と同じことをしたかもしれない、ですね)
 実ったから大丈夫、なんて言えない。まだこの先があるのだ。
 鏡禍は裏切られた時のことを考えたけれど、ふたりの別れは寿命差という形でいずれ訪れるだろう。
 その時は――。

●とある女の話
 ――人を殺めました。
 そう出頭したあたしは、どうやら刑部では困った扱いとなったようでした。
 けれどそのお陰であたしは我が侭が許され、沢山のお話を聞かせて頂けました。どのお話も大変興味深く……そうですね、あたしもそうすればよかったと思いましたわ。
 これからあたし、お役人さん方と『彼』を掘り起こしにいくのです。
 同行すること、それがあたしからの最後の条件。

 あたし、人を殺めました。
 愛する人を殺めました。――ずうっとずっと、ずっと前に。
 行方不明になっていた██家の嫡子の方。覚えていらっしゃいますか? ……そう、彼です。
 あたし、計画的にやったのです。どこの土ならどれくらいで骨になるのかを調べたんです。夏場なら外においておけば一週間くらいですが……ほら、臭うでしょう? 美しくなくなる彼は見たくなかったから。でも普通の場所だと何年もかかってしまう。なので、助けてくれる虫を用意して――
 それから、紫陽花の植え替えをしました。彼ったらあたしに見られたくて花の色を変えるんですよ。可愛い人でしょう?
 ……あら。独り占めしていたのにどうして、ですか? あたしはもう彼を充分愛でました。あとは最後に『新しい彼』を見たくて……ああ、見て。ほら、彼が掘り起こされました。言ったとおりでしたでしょう?

 この国では殺人は、軽くて斬首と決まっております。
 あたしは彼の新しい姿にまた恋に落ち、そうして死ぬのです。
 ――あまり間が空いてはいけないのです。彼の輪廻を追えないでしょう?
 だからあたし、自首をいたしました。
 さあどうぞ、裁いてくださいな。

 ――――
 ――

 後日、京の瓦版に、殺人を犯した女が斬首されたと載るだろう。
 ただ、それだけだ。
 そんな事件がと民たちは思うだけで、すぐに忘れ去られるのだ。

成否

成功

MVP

星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束

状態異常

なし

あとがき

食べる派閥が多かったですね。もぐもぐ。
MVPは依頼人が決めました。

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