PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<0と1の裏側>震えるハイドレンジア

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 窓の外では、しとしとと雨が降ったりやんだりを繰り返している。
 紫陽花の葉に、カタツムリがのたりと這っていた。

 陰鬱な梅雨時だが、実は無辜なる混沌の世界各地における不変の現象という訳でもない。
 豊穣あたりの気候には類似しているが、少なくとも練達は三塔の一つである実践の塔――それも外界と隔絶された完全都市の内部とあれば、ある種異様なこだわりとも言える。
 快適な温度と湿度を捨ててまで、広大な屋内にわざわざ過ごしにくい気候を無理矢理再現した挙げ句、屋内の中に更なる屋内を作り上げ、そちらは空調で快適に管理する理由とは如何に。

「実に興味深いが、どんな根拠に基づいて、こんな気候を再現しようと考えたんだろうね」
 首を傾げるマキナ・マーデリックは鉄帝国産まれの鉄騎種であり、今は練達の諜報組織『00機関』、表向きには練達復興公社の職員だ。
「単なるノスタルジーの発露か、あるいは慣れ親しんだ環境の構築による健康への配慮――」
「とんと分かりかねる次第スが、マキナ氏――っと」
 あれこれ思案を始めたマキナだが、こうなると止まらないのは佐藤 美咲(p3p009818)は良く知る通り。それはさておき、要するに彼女は美咲の同僚であり、練達が抱えるスパイだ。
「風流――ということで、良いじゃありませんか」
「あら、粋なことを仰いますのね」
 足を組みコーヒーカップを置いた新田 寛治(p3p005073)に、ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)が微笑んで見せた。彼女は実践の塔における数少ない実働要員であり、現在は天義へ出向している。

 さて一同がここで顔を合わせた理由だが。
「何があったのかな、手伝えることなら手伝うよ!」
 ドーナツを片手に、セララ(p3p000273)が元気よく手をあげた。
「それじゃあ説明をお願い出来る?」
「うん、じゃあ話を始めるね。大スクープだ!」
 こちらの瓦 讀賣は舞文新聞の記者であり、話を促した長月・イナリ(p3p008096)同様に、『杜』と呼ばれる秘密組織とローレットとの橋渡しのような存在だ。もっともイナリはイレギュラーズでもあるが。
 ともあれ、再現性東京202X:希望ヶ浜のカフェ・ローレットにはずいぶん異色な取り合わせが揃った。

 昨今、天義に発生した『神の国』『帳』といった異変、そして『遂行者』なる存在は世間をずいぶんと騒がせており、イレギュラーズもたびたび事態に対応していた。
 幻想や海洋をも狙っていた様子だったが――
「それがどうも、ここ(練達)も標的にしたみたいで」
 普久原・ほむら(p3n000159)がノートPCのモニタを裏返してみせる。
「それでどうも関連があるらしいっていうのがあって」
 ほむらの目配せに頷いたマキナが、表示されたプレゼンソフトのページをめくる。

「『健康と環境の持続可能性を科学するウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社(WCTHS)』の『希望ヶ浜支店』?」

「なっが」

 調べてみれば、健康食品販売、自己啓発セミナー、ストレッチ教室などを運営しているが、どうも信憑性やエビデンスに欠ける疑似科学を主体とした詐欺グループのようであるが。
「たとえばこの健康茶なのですが」
 ディアナがプレゼンソフトのページをめくった。
「ノンカフェインだけど頭すっきりだそうです、けれど脱法的な薬草が使われており依存性があります」
 頭がスッキリして、しかも痩せるという効能が謳われているが、常用すると徐々に不眠や食欲不振、そして激しい離脱症状などに悩まされることになる。人生を破壊するほどの危険な薬物だ。
「それでね、秘密のカルト教団『綜結教会(ジンテジスト教会)』に関わってるらしいんだよ!」
 セミナーなどを開催し、洗脳した市民達をカルト教団へ引き込むという手口だ。
 神の国、詐欺組織、カルト教団――いずれも強烈な点と点だが、繋げる線は果たして。

 練達指導筋が掴んでいる情報では、神の国は遂行者を名乗る天義の魔種達の仕業であるらしい。
 00機関からの情報によれば、それらは全世界へと波及を始めたらしいということ。
 そして最後に杜からは、件のWCTHSやら綜結教会やらが、その遂行者とつながっているというものだった。
 更には、どうやらWCTHSは神の国の混乱に乗じて、人々をセミナーと称して拉致監禁し始めたらしい。
「なるほど、しかし腑に落ちない点もあります」
 たとえば組織の目的が人々の拉致自体にあるならば、なぜのんびりと商売などしていたのか。
 人さらいのほうがよほど手っ取り早い。それもこんなセキュリティの厚い国家でなく、他所を見れば奴隷売買のあるような地域だって存在している。
 では商売側が目的に近いのだとすればどうだろう。
「末端の目的が実際にスローガン通りかはともかく、拉致監禁などという手口は少なくとも商いの観点から不自然ではないでしょうか。リスクだって余りに大きい」
「ええ、新田様、実に不可解です。これは憶測にすぎませんが、仮に末端の店長なりが遂行者の配下となる致命者――つまり人の思念をより集めたような怪物であるとすれば、多少のつじつまは」
 ディアナもまた首を傾げた。
 要するに、そもそも相手が人でないならば、人の理屈など伴わないという推測だ。
 しかしそれならそれで、やはり不思議な点も残る。例えばWCTHSのように、少なくとも一つの組織を成立せしめるほどの知的作業を、怪物や狂人がそうそう行うだろうか。
 狙いは何なのだ。
「敵方にいくつかの組織が存在し、それぞれ一枚岩ではないという可能性もあるね」
 マキナが人差し指を立てた。
「呉越同舟の可能性もあると、いずれにせよ情報は不足しているということですね」
 こちらだっていがみ合いはないにせよ、ローレットに、練達政府筋(ディアナ)、公社(マキナ)に杜と来ているのだ。相手がそうでないとは言い切れない。
「はい、その理解で構いません。我々も情報の全てをきちんとお話しているという状況ではあります」
 可能な限りとか、話せるだけという訳ではなく、分かっている全てがこれだという訳だ。

「そこでまず練達はWCTHSを一斉摘発するため、ローレットへ依頼したという訳です」
 ディアナがそう延べながら、イレギュラーズを見渡した。
 そして敵を検挙し、情報を集めるということになる。
 いささか力業に過ぎるが、致し方在るまい。
「神の国問題へも、同時対処せねばならないのは面倒なことですが」
 続いて表示された敵戦力の分析結果には、魔物の姿もあった。
「そう、量産型天使!」
 なるほど、讀賣の言葉にイナリの視線が鋭さを増す。
 やはり『狂神』までつながっている可能性が高いということか。

「それでは早速参りましょう、皆様よろしくお願いいたしますわね!」
 颯爽と立ち上がったディアナが一行を振り返り、満面の笑みを浮かべた。


「どうもSNSが炎上しているようですが」
 部下が示したタイムラインにはセンセーショナルな単語が踊っている。
「詐欺に拉致とは何だい。ずいぶん言葉が強いじゃないか」
 希望ヶ浜に点在するWCTHSショップの店長――スピリチュアルコンサルタントという役職を与えられた男――は憤慨した様子で、窓のブラインドをめくりあげた。
「我々は人々の健康と幸福を守り、正しい教えに帰依してもらおうとしてるだけだよね」
 店長が振り返る。
「だいたいやれカルトだなんだと、この国の連中はレッテル貼りばかり」
 その表情に暗い影が落ちた。
 彼は自身の正しさを頑なに信じている。
「故国(天義)と、まるで同じさ、それで教会(うえ)は?」
「ロス支部長からは、セミナーを継続せよとのお達しです」
「そうこなくちゃね」
 組織を率いているのは支部長だが、現在は中央に呼ばれている。
 何か動きでもあるのだろうか。
 いずれにせよ個々のショップが対応せねばならない状況ではあった。

 この世界は狂っている。
 この世界は間違っている。
 この世界は歴史が歪んでいる。

 正さねばならない。
 そして人々を神の国へと導きたもう。
 合一せよ。
 綜結せよ。
 盟約の日は近づけり。

 第一の乙女が花開き、やがて散りゆく。
 第二から第六までを供物に、天使が舞い降りる。
 綜結乙女は生まれ落ち、天使と共に神の身元へ誘われん。

 やがて偉大なる天使長にして光輝の冠たる権能と、我等が異神による究極の統一を。

GMコメント

 pipiです。
 神の国と協調しているらしい、胡散臭い詐欺団体を一斉摘発しましょう。

●目的
 WCTHSショップの摘発。
 拉致された人々の救出。

 とりあえず乗り込んで店長だの魔物だのをぶん殴ればOKです。
 どうせ末端でありトカゲの尻尾でしょうが、手がかりには違いありません。

 人々は割と安全な奥のほうに居ますので、敵を倒せば救出出来ます。

 情報も集められるほうが良いでしょうが、こちらは現状では期待薄です。

●フィールド
 希望ヶ浜の一角にある小さなビルです。
 敵は突入すると問答無用で襲いかかってきますので、片っ端からやっちまいましょう。

●敵
『店長』
 四十歳ほどの、どうにもあやしい男です。
 人間のように見えますが、致命者ではないかと思われます。
 おそらく戦闘能力自体はあるでしょう。

『店員』×数名
 一般人ですが、一定期間の洗脳を受けています。
 戦闘能力は皆無ですが、邪魔なので気絶でもさせておきましょう。

『影の天使』×10
 あまり強くはありませんが、数が多いです。
 影の剣や槍のようなもので攻撃してきます。物理です。

『量産型天使』×10
 つぎはぎだらけのおぞましい怪物です。
 体当たりなどの物理攻撃の他、弓のようなもので神秘攻撃を行います。

『量産型天使(飛行型)』×4
 羽のように広がった無数の腕や手の中心に、巨大な一つ目という異形です。
 EXAが高く、中距離扇の麻痺系BSの魔眼や、攻撃魔術などを駆使します。
 量産型とはいえ、侮れない相手です。

『???』×?
 何者かの気配があります。その1。

『???』×?
 何者かの気配があります。その2。

●被害者
 拉致された一般市民です。
 どこかに連れ去られようとしている最中だったようです。
 憔悴していたり寝ていたりしますが、健康に大きな影響はありません。

●同行NPC
・普久原・ほむら(p3n000159)
 皆さんと同じローレットのイレギュラーズです。
 両面戦闘型アタックヒーラーで、闘技用ステシよりは強いです。

・ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)
 練達の依頼筋であり、普通に味方です。
 練達実践の塔に所属し、天義へも出向している人物です。
 両面戦闘型アタックヒーラー。割と普通に戦えます。

●他NPC
・マキナ・マーデリック
 技術オタクです。
 美咲さんと同じ練達の秘密組織00機関の諜報員です。
 そう書くとなんか怪しいですが、普通に味方ですし、性格は善人です。
 要するに依頼者であり協力者の一人です。

・瓦 讀賣
 こちらも普通に味方です。
 イナリさんと同じく『杜』の関係者で、ローレットの情報屋でもあります。
 杜というのは、狂神というヤバい敵を追っている組織です。
 要するに依頼者であり協力者の一人です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <0と1の裏側>震えるハイドレンジア完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月09日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

サポートNPC一覧(2人)

普久原・ほむら(p3n000159)
ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)
聖頌姫

リプレイ


 雑居ビルの間は、ちょうど両手を広げた程度だけ空いている。路地裏とすら呼べない通路には赤い三角コーンが二つあり、『きけん立入禁止』のテープが繋いでいた。
 きけんの文字は、なぜか平仮名。最低限どんな人でも――子供にも伝わるようにという意図だろう。そんなところもまた、ひどくこの平穏を愛する街『希望ヶ浜』らしいと思える。
 建屋の壁からぶら下がり振動しているエアコンの室外機から、ぽたぽたと水が垂れている。
 それを避けるように『堕ちた死神』天之空・ミーナ(p3p005003)は、奥の錆びた非常階段を目指した。
(神の国と詐欺集団、ねぇ)
 足元のチラシは水気でぐずぐずになっており、WCTHSショップという文字が躍っていた。
 カルト宗教が運営し、健康をうたうフロント企業の名だ。
(どこの世界も金と宗教は切っても切れない縁ってことかな……)
 続く『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)も、はたと思う。
 振り返れば『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が不思議そうな表情を返したから、何でもないと言うように首を横に振った。

 一行は雑居ビルの合間にある、錆びた非常階段をのぼり始めた。
 室外機の湿気った風から、埃っぽいにおいがする。
 各階の踊り場には、屋外用の灰皿が肩身狭そうに立っていた。
 靴音を立てないよう、けれど軋む音は室外機の振動が隠してくれている。
 万事――『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は安堵する――計算済みだ。
(胡散臭い会社な上に監禁までしたらもう終わりよね)
 この街は『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)にとって、それほど興味を惹くような場所ではない。けれどあの浮遊島で培ったよしみというものは確かにあり、美咲が居るなら手伝いがてらに暴れることは、やぶさかではなかった。
 それに――オデットが風精へと微笑んだ。
「驚かせてごめんなさいね」
 こんな所にも親しみの湧く隣人はいるものだ。

 この日、一行は先程のチラシにあったWCTHSなる組織の一斉摘発に動いていた。
 こちらのチームはダイナミックエントリー、要するに奇襲を軸に行動するチームだった。
 眉をひそめたまま黙って付いてくる普久原・ほむら(p3n000159)や、美咲の同僚であるマキナ・マーデリックも同行している。
 もう一つのチームはビルの正面側に居り、例えば『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はスーツ姿でスマートフォンに視線を落としていた。
 WCTHS、確か――
(健康と環境のなんちゃら……えっと、希望ヶ浜支店!)
 やたらと長い名前だなと『堅牢彩華』笹木 花丸(p3p008689)は思うが、ともかく。
(こんな身近にまで彼らの手が入り込んでるとは思わなったよ)
 情報では組織は背後に重大な繋がりがあるとされている。
 そんな時だった。
 重いマンホールが揺れ、水が溢れてくる。
「この先のゲリラ豪雨の影響で水が出ています! 危険ですので離れて下さい!」
 ヘルメットと作業服の男達が、慌ただしい様子で避難を呼びかけ始めた。
 周囲には安全柵が立てられ、人々が駆け足に去って行く。
「わー」
 そんな様子に紛れて『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)と『魔法騎士』セララ(p3p000273)も正面のビル下へ慌てて移動する。傘を開いた寛治の近くに、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)もやってきて、ほどなくにわか雨が降り始めた。
 練達はセフィロト、実践の塔内における徹底的な管理都市内においてゲリラ豪雨も何もあろうはずない。けれどこの街の人々は、そんな『人工的な自然現象』を、被る迷惑諸共大切にしているらしかった。

 街行く人々が、一行の他に居なくなる。
 作業服の男達――練達復興公社の人員がこうして人払いを済ませたら、突入の準備だ。
 多くの人は知らないが、ここではもう少し後に『ガス爆発』が発生することになっている。
 きっとSNSには根も葉もない噂が流れ、エンターテイメントとして消化されるのだ。
 全て世は事もなし。人々の興味は、すぐに別のニュースへ塗り替えられるのだろう。
 だが、実際にそう出来るかは、一行の行動成否にかかっている。

 ――そんな頃。
「うん、ありがとう」
 狭い非常階段上で、オデットがイナリのファミリアから合図を受け取った。
 頷く美咲の合図で、突入組は一斉に足元を蹴る。
 身体がふわりと浮かび上がり、硬質なロープに引かれ――迫るガラス窓が破れた。
 オフィスに飛び込んだ一行はフロアに着地し、リガーベルトの留め具を外す。
「君達の思い通りにはならないよ。ここで壊滅したまえ!」
 マリアが構え、職員達が慌てた様子で立ち上がる。
「な、なんだお前等は! け、警察、警察を呼ぶぞ!」
「どうぞご勝手に、呼んだって来やしませんわよ」
 まるで悪役のような台詞を吐いたヴァレーリヤが続ける。
「罪状は割れておりますもの!」
 男達が舌打ちする。
 そして愛と平和に満ちる規律正しいこの街で、あろうはずのない拳銃を抜き放った。


「シンプルな強襲作戦です。手早く行きましょう」
 寛治の言葉に一行が頷く。
 地上の空挺からの二正面攻撃。
(……さて、鬼が出るか仏が出るか)
 正面は半ばシャッターが下ろされ、ショップフロアに人影はない。
 ガラスの自動ドアは開いたままになっており、やはりどこか様子はおかしかった。
 だが辺りの人払いは済んでおり、関係者以外の誰に見とがめられる心配もなかろう。
「それでは、作戦開始です」
「ええ、ではそのように」
 ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)が艶やかに微笑む。
 一階正面玄関から突入したチームが壁に背に、一度様子をうかがう。
 問題ない。一行は得物を構え、ハンドサインと共に一気に駆けだした。
「うふふふふ、家宅捜索だわね。塵一つ、指紋一つ逃さない。情報は力よ!」
 イナリは間取りも施工図も、不動産や施工会社から入手してある。周辺の状況も全て把握済みだ。
(世界全域で騒ぎを起こす勢いなのですよ……ほんとに困った人たちなのです)
 メイが胸中にぼやいた通り、ここは単なる詐欺グループの根城ではない。
 背後にはカルト宗教が蠢いており、あの手この手で信仰を強要しているらしい。

 ――信仰の道は誰にでも平等に開かれている。
   けれど、それは他者に強制すべきではない。
   ですよね? ねーさま。

 つい大好きなあの人を――想う
 だが地元当局ではなく彼女達が出動したのには理由があった。
「えとえと。妙ちくりんなセミナーをつぶして、連れてこられた人を救出なのです!」
 どうもこの怪しい詐欺集団が、突如人々の拉致を始めたらしいのだ。
 更には背後のカルト宗教は、世界中を騒がせている一つの事件にもつながっているらしい。
 ――神の国。
 天義を中心に世界各地で魔種勢力が暗躍を始めており、『帳』なる異常な空間を作り出していた。
「彼らが何を考えているのかさっぱりわからないですが」
 メイが覚悟を決める。
「わからないからこそ情報収集だいじ、なのです!」
 敵の最終的な目的は、未だに不明。
 だがロクな事であろうはずがない。
 ギルド・ローレットは人々から依頼を受けて行動するという立場から、どうしても事件の後手に回ることが多い。これは冒険者ギルドとしては致し方ないことではあるが、イレギュラーズとして考えたなら、こうした魔種絡みの事件については先回りしたいという気持ちは大きくなる。
 それになにより『知ってしまった』からには、放ってはおけない。
 ここは末端ではあろうが、けれど自身等がクラス場所で好き勝手させる訳にはいかないのだ。
「こんな時こそ花丸ちゃんにマルっとお任せ、だよっ!」
 一行はショップから従業員用の出入り口へ侵入した。
 そして廊下を渡り、曲がり角にさしかかる。
 おかしなことに未だ人影はない。
 従業員の休憩室、トイレ、いずれも誰も居ない。
 花丸は休憩室の給湯設備で、開封されたインスタントコーヒーが新しいと感じた。
 給湯器の中には水が残って居る。乾いてはいない。
 マグカップにせよ、やはり毎日使用されているであろう形跡はある。
 現状はまだ、特段の手がかりは掴めていない。
 だから一行は奥へと歩みを進めた。

「ちょっとまって!」
 セララが片手で一行を制止させる。
 壁にはレーザーセンサーが仕掛けられており、なんらかの機構が作動する仕組みになっているようだ。
「こことそこと、あとそっちとそこにあるから、ええと。ここならひっかからないかな」
 花丸が指差し、一行が頷く。
「まさかとは思うけど、サイコロステーキにはなりたくないし。警報だって厄介だものね」
 ひらひらと手をふったイナリに同意し、一行はあやとりひものように張り巡らされたセンサーをくぐり抜けて、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた部屋へと突入した。
「なるほど、そう来る訳ね」
 コンクリート打ちっぱなしのフロアで対面したのは、イナリにとって因縁の怪物――量産型天使と呼称される敵性集団であった。天使達はそのまま奥の廊下へ後退をはじめる。
「制圧しましょう」
「うん、花丸ちゃんにお任せだよ!」
 寛治に頷いた花丸が一気にかけ出した。
 花丸へ怪物共が殺到を始める。
 現代社会とはまるで不釣り合いな大鎌が、唸りを上げて花丸の首を狙い――身を屈めた花丸は鎌に空を切らせると、全身の力で拳を突き上げた。怪物の一体が吹き飛び、壁に叩き付けられる。
 続く一体へ後ろ回し蹴りを見舞い、宙空で姿勢を崩した怪物へ寛治が拳銃のトリガーを引いた。
 四十五口径の弾丸が怪物を貫き、コンクリート床へ落ちる。
「狭いわね、こんな閉所は苦手だわ。ショットガンでもあればいいのに」
 肉薄する天使に、イナリが炎を吹きかける。
「目的が分かればいいんだけどね」
 怪物を聖剣の一閃で切り捨てたセララが呟いた。
 なぜ拉致・誘拐などを行ったのか。
 SNSが炎上していた理由は何か。
 あるいは知名度向上であるのか。
 背を合わせ、やはり奇怪な怪物を切り捨てたイナリもまた思う。
「とにかく調べるしかなさそうね」
「そうだね」
 階段は二つ。片方は地下へ、片方は上へ。
「それではわたくしが見張っておきますわね」
 まずはディアナを残し地下へ続く階段へ。
 先にあったのは単なる倉庫であり、嘘っぱちの健康食品らしきものが所狭しと並んでいるダンボールに詰め込まれていた。人の気配は感じられない。
 だとすれば答えは――
 さきほど怪物に守られていた階段をメイが見つめた。
 ――きっとあの先にある。


「こーーんにちはーー! ちょっとお話、聞かせて頂いてもよろしくて?」
「んだコラ」
「このチャカ見えねえのか、オモチャじゃねえんだぞコラ」
「まあ、なんてはしたないのかしら!」
「なんだてめえ等! やっちまえ!」
 ヴァレーリヤが小首を傾げると、罵声が返ってきた。
「平和的な交渉を望む淑女に対して、いきなり暴力に訴えるだなんて!」
 拳銃の発砲を合図に、激突が始まった――訳だが。
「……どっせーい……」
 ささやき声で――なおかつ入念に手加減して――メイスを振るったヴァレーリヤが、十名ほど居た男達のうち、最後の一人を気絶させた。
「せ、正当防衛ですわ!?」
「ずぶの素人だね、これは。いや軍事教練などを受けていないという意味でね」
 別の男の腕を捻り上げているマキナは組織の頭脳班であり戦闘能力はさほど高くはないが、それでもこんなものだった。歯ごたえがなさすぎる。
 一般市民を暴力で震え上がらせることは出来るだろうが、歴戦を誇る一行の敵ではない。
「この人達、なんかやくざっぽいですね」
 ほむらがぼそりとこぼす。
「末端は所詮末端て訳か。ま、命までは取らねえから安心しとけよ」
 ミーナが手際よく縛り上げていく。
 先ほどまで威勢が良かった反社会性力の構成員とおぼしき男達は、皆うな垂れている。
 大方『正しい歴史』とやらに世界を変えた後、君臨しようとでも考えている馬鹿な手合いだろう。
 いや。それならばそれでも、まだ良い方か。
 この程度の連中が何かを知らされているとも思えない。
「悪いことは……うん、しているのよね」
 腕を組んだオデットが一瞥すると、どうみても反社会性力の男の一人が震え上がった。
 なんだか失礼な反応をされているようにも思えてくる。
 それにこの程度の相手では暴れがいもない。
「な、なんだお前等は……」
「世の中、知らないほうがいいこともあるんスよ」
 美咲がうそぶく。
 後は掃除屋がどうにかしてくれるだろう。

 ともかく先を急がねばならない。
 一行が階段を降りると、そこはオフィスフロアだった。
 先程の物音を聞いたからか、どこか様子がおかしい。人の気配はあるが、妙に静かだ。
「混沌警察だ! 手を上げろ! なんてね!」
 一度言ってみたかった台詞と共に、マリアが一歩踏み込んだ。
「だったら、こうですわ!」
 拳銃が一斉に囲むと同時に、ヴァレーリヤが金属デスクをメイスで下からはたいた。
 けたたましい音と共に跳ね上がり垂直に立ったデスクへ、銃弾の雨が注ぐ。
「机立ったぞ!」
「に、人間じゃねえ!?」
「由緒正しき鉄騎種ですわ!」
 机の上に飛び乗ったヴァレーリヤが聖句を紡ぐと、メイスが炎を纏う。
「たいした事はなさそうだけど、ヴァリューシャ、美咲君、数は多そうだから気をつけてね!」
「らじゃっスよ」
 イレギュラーズは一気呵成に攻め込んだ。
 こうして二度目の制圧劇も瞬く間の内に幕を下ろした。
 何年も前であればこれほどスムーズではなかったかもしれないが、もはや流れ作業である。
「同じだな、こいつらも何もわかっちゃいないらしい」
 ミーナが両手を腰に当てた。
 一行は男達の手足を結束バンドで縛り上げ、引きちぎったぞうきんを猿ぐつわに噛ませる。
「事前情報では量産型天使が居るって話でしたが」
「そうなると、フロア自体が分けられている可能性、とか」
「あり得るね、とにかく下に行ってみようか」
 美咲にオデットが答え、マキナが結んだ。

 下階へ降りた一行は、はたと気付く。
「さっきイナリ君が教えてくれた間取りと、何だか違わないかい?」
「ええ、狭く感じますわね」
 ここは無人の会議室などがある階層だが、事前情報と構成が違っている。
「ビンゴみたいスよ」
 ペン先で壁を突いていた美咲が振り返る。
 なるほどたしかに、そこだけ音が違う。
「少し調べて見るわね」
 オデットが友人にささやきかけると、なるほど風の通り道がある。
「そこが薄くなってて、こっちの壁の上のほうが幻影みたい。ほら」
 手をいれると、するりと通った。
「なるほどなるほど、魔術と来たね」
 マキナがうなる。
「非常口って所かな」
 幻影の奥ヘ入り込んだ一行は、再び慎重に、けれど素早く階段を降りる。
 踊り場には扉があり、そして――


「おかえりなさい、オディール」
 オデットの元へ、仔氷狼が尻尾をふって駆け寄る。
 寛治達は怪物を引き連れた店長とおぼしき男へ、拳銃を向けたまま追っていたが、二手に分かれていた一行は殺風景なフロアで晴れて再会することになった。
「一応何者かを聞くけど」
「わ、わた、わたた、わたしはスピリチュアル、コンサルタント、です」
 店長の胡乱な返答に花丸が眉をひそめる。
 ターゲットであることには間違いないが。
「さて、これで挟み撃ちとなった格好ですが」
「あ、あ……」
 敵の退路は――閉じられたままの金属扉ひとつを除いて――断った格好になる。
 分散というリスクも伴う作戦ではあったが、結果として逃げ道を封じることが出来た。
「さてどうする? ……あまり深入りすると、蛇が出るっていうけどね」
「私としては、もう少し歯ごたえを感じたい所ですね」
 振り返るミーナに寛治が答えた。
「ですので、その奥にいらっしゃる方。もうお帰りだなんてつれないと思いますが」
 気配へ向けて呼びかける。
 おそらく奥には囚われた人々が居るのだろうが、それ以上に拭えぬ違和感があった。
「ご挨拶ぐらいはさせていただけませんか?」
 何者かの気配を拝まずに帰るほど、寛治は欲のない人間ではないと自覚している。
 すると、金属扉が開いた。
「見つかっちゃいましたねえ」
 肌がひりつくような微かな気配――滅びのアークか。
 一同に緊張が走る。だが魔種にしてはずいぶん穏やかな気配だ。
(やっぱり、『上位の存在』が居るって訳ね)
 現われたのは、白い外套を纏った美しい少女だった。
 ダブルボタンの可愛らしい服を押し上げる胸元の下をベルト様のコルセットで閉め、短いスカートの下から覗く内ももには、独特の紋章が刻まれている。
 ――遂行者か。
「これはこれは、やはりご挨拶に伺って正解でした。それでもうお一方は?」
「……」
 続いて姿を見せたのは、聖職者風の装束を纏った少年のように見える男だ。
「……ロス・キュープラ」
 イナリが呟く。
「あれ? 僕のこと知ってるんだ。さっすがローレット、それともその耳――『杜』かな?」
「ご想像にお任せするわ、知った知らないの茶番に付き合う暇も義理もないけどね」
「だよねえ、まあいいさ」
 どうせ、ある程度は互いに情報は割れている。
「なにはともあれ、それほどお美しいのであれば、是非『本体』にもお目にかかりたかったものですね」
「あー、目敏いんだ。かなり精巧だと思うけど」
 だが違うものは違うのだ。
 これは『魔種ではない』。纏うものはあくまで滅びのアークの残滓に過ぎないのだろう。
 おそらく端末や使い魔のような何かだ。
「おっと申し遅れました。私は新田 寛治と申しますが、お名前を伺っても?」
「テレサ=レジア・ローザリア。テレサと呼んで」
 名乗り、尋ねた寛治の言葉に女が笑う。
「端末でも使い魔でもなんでも良いですが、テレサとやら。とっ捕まえてひんむいてやりませんこと?」
 ディアナがとんでもないことを言い出した。
「わたくし、かなりの興味がございましてよ」
「……」
「そういうのは、まあ、なんだ。後でやんな」
 ほむらが慌てた様子で視線をおよがせ、ミーナは溜息一つ。
「こんなものでよければ、いくらでもどうぞ」
 微笑んだテレサの美しい顔が突如崩れ、天使と呼ばれる怪物へと変貌した。
「そんなじゃ要りませんわ!」
 ディアナが露骨に顔をしかめると同時に、ロスもまた天使へと変貌する。

「来るよ! まとめてマルっとお相手だ!」
 花丸が警告と共に、一歩踏み込んだ。
「それじゃ制圧させてもらいまス」
 天使達が殺到し――だがイレギュラーズのほうが速かった。
 美咲の合図を皮切りに、一行は猛攻を開始する。
「ぴゃーっと行きます!」
 メイが術式を紡ぎ、自身の守備と同時に神気を放つ。
 天使――と呼ぶのも烏滸がましい怪物達が灼かれ、絶叫をあげた。
「大丈夫、思いっきりやって。このままいいようにされるなんて、気にくわないもの」
 既に建物へ保護結界を展開したオデットもまた攻勢術式を紡ぎ始めた。
 その一撃に天使の一体が灼かれ、瞬く間に蒸発する。
 イナリもまた手のひらに浮かび上がる狐火を軽く吹き、怪物が一気に燃え上がる。
「それにしても本当に、色々とつながっているものね」
 事態の関連組織を指折り数えれば、きりがなさそうだ。
「こっちはまとめてなぎ払う、そっちは頼んだぜ」
 僅かに腰を落としたミーナが、顕現した大鎌を振るい、怪物の鎌と打ち合った。
「――軽いな」
 そのまま一気に斬り裂く。
 天使の大鎌が花丸に迫り――だが花丸はその刃をあえて腕に受けた。
 守護術式が明滅し、花丸には傷一つない。
 続く魔術の炎に包まれるが、それすらも無力。
「こんなのへっちゃら、さあ、今のうちだよ!」
「合点承知の助ですわ! どっせぇぇぇぇーーい!」
 ヴァレーリヤは聖句を紡ぎ、燃え上がったメイスを一気に振り抜いた。
 壁に叩き付けられた化け物が絶叫をあげながら消滅する。
 店長が首を傾げたまま迫ってくる。
「……強敵、と。踏んで構いませんよね」
 寛治の弾丸は狙い違わず店長の額を撃ち抜くが、飛び散るはずの赤は存在しなかった。
 額にぽっかりと黒い小さな穴を覗かせたまま、店長が両手を前へ突き出す。
 まるで死霊のようではないか。
 すると突如店長の十本の指が伸び、鞭のようにしなりはじめた。
「――っ!」
 速い。
「こういうのは、花丸ちゃんにマルっとお任せだよ!」
 だが鉄すら容易に切り裂くほどの鋭い十連の斬撃は、花丸の身体に傷一つ負わせることが出来ない。
「マリィ!」
「了解! ヴァリューシャ! このまま挟み撃ちだね!」
 天使を粉砕しながら踏み込んだヴァレーリヤは、マリアと共に致命者とおぼしき店長を囲む。
「ええい、もう! こうゴチャゴチャしていると、戦いにくいですわね! これでも喰らいなさい!」
 メイスの一撃で天使の一体が吹き飛んだ。
「とらぁ君!」
「とらぁ」
「この人達を安全な場所へ移動させておくれ! もう伸びてるからバスターしちゃ駄目だよ?」
「とらぁ……」
 そしてマリアはとらぁ君を、先程の鉄扉の向こうへ送り出した。
 一抹の不安が残るような残らないような気がしないこともないが、きっと大丈夫だろう。たぶん。
「き、ききき。きみた、たたちは、平和を愛さないのかね、健康を大切にしないのかね」
 無表情なままの店長がおかしなことを言いだした。
 怯えているような声音ではない。
 なにか壊れた再生機のようだった。
「やっぱり、この店長君は何かおかしいね」
 それに――
「天使というには、あまりにおぞましくないかい」
 マリアの指摘通り、天使はつぎはぎだらけの姿をしており、どこかキメラめいている。
「うんやっぱり。宗教的な美的感覚の違いってならいいんだけど、どう見ても邪悪だよね」
 交戦開始から四十秒ほどで、一行は怪物の半数以上を撃破していた。
 残るは数体、うち二体は先程端末だったもの。そして店長だ。
 その時だった。
 端末天使がくすりと笑い、店長へ大鎌を振り上げる。
「横から獲物を掻っ攫うだなんて、マナー違反でしてよ!」
 だがヴァレーリヤは即座にメイスで弾き飛ばし、大鎌が空を斬る。
「美咲、そっち!!」
「すみませんヴァレ氏、今度奢る!」
 美咲が足払いをかけ、店長が転倒する。
 再び鞭のようにしなる右手の指先を、花丸が一気に掴んだ。
 左手側が花丸の腹部を貫こうとするが、未だ纏う防御術式に阻まれる。
 店長が身もだえする隙に、花丸は両手を完全に押さえ込んだ。
「殺そうとしたってことは、『こっち側』には引き出す情報があるってことじゃない?」
 ロスの端末を斬り捨てたイナリが笑う。
 どうせこちらは先方にとって、接続を切断すれば終わりだろう。
 情報として持ち帰っても良いが、考えるのは後でいい。瓦 讀賣にでも手配しておこう。
「ならこれ以上、邪魔される前に、ね」
「そういう事なら、お構いなくやるぜ」
 ミーナはテレサの端末へ斬撃を放ち、残るは店長――致命者だ。
「人ではない、が。だからこそ余計なことを口走ってくれる可能性はありまスね」
 美咲も頷く。


 ――それから程なく。
 敵の攻略と無力化に成功した一行は、店長を取り囲んでいた。
 無論得物を構えたまま、いつでも対処出来るようにしている。
 店長は平然とした表情を崩さないままだ。
「こちらの商品はビタミンを豊富に含んでおりまして、美容効果も高く――」
 いくらか対話を試みてみたが、普段の業務内容についてはすらすらと受け答え出来るようだ。
 人間と比べても違和感を殆ど感じない。
 日常会話もそれらしい。
 だがそれ以外の応答となると、途端におかしくなる。
 部下達はどうだろうか。
 尋問してみると店員達の多くは単なる反社会性力のしのぎだった。唯一、副店長の女性は教会との繋がりを知っているようだったが、それ以外の情報は持っていなかった。
 店長からもたらされる情報の多くは支離滅裂に思え、なおかつあまりに断片的なものだった。
 それでもつなぎ合わせれば一つの推論が成り立つ。
 おそらくこの長ったらしい名前の組織はロスが資金集めのためにでっち上げたものらしい。
 そして教会の信者獲得にもいくらか役立っているようだった。
 閉じ込められていた人達は、どうやらどこかへ輸送される計画があったらしい。
 場所については店長自身は知らされていないようで、回答はなかった。
 いずれにせよ店長は怪物であり、以上の情報をもって処分を余儀なくされた。
 もっともこれ以上は何も聞き出せまい。所詮はこれも末端だ。

「もう大丈夫よ」
「手当しますね」
 オデットとメイが優しく語りかける。
 救出された人は放心状態で、意識朦朧としていた。
 聞けば「健康茶を飲んだ」とか、そんな話をぽつぽつとこぼしている。
 少しだけ生活に余裕があり、けれど寄る年波に不安を覚える人々が、ハマってしまっていたようだ。
 オカルトなんて言葉は耳にしなくなって久しく、四半世紀は過ぎようとしている。
 花丸やセララなど、産まれても居ない。けれどこうして姿を変えて人々の生活を蝕んでいるのか。
 人々はなんらかの薬物的な依存性もあったと思える。
 ひとまずすりむくなどの怪我をした人には優しく治療を施し、後は現在も薬物の影響があるようで、二人は即座に治療の手配を行った。
 後は澄原病院なり、こちらの事情を分かってくれる相手がどうにかしてくれるだろう。
 彼等の信仰について考えると、メイの心はちくりと痛む。洗脳の結果など信仰ではないのだから。
 ふと、マリアがほむらとディアナの様子をうかがう。
 この世界に召喚され、最愛の人と離ればなれになったディアナ。
 そして元の世界でなにやら啓示を受け取り、ディアナの事を知らず知らず小説か何かにしたほむら。
 ディアナの最愛の人はほむらと容姿が酷似しており――
 なんとも微妙な関係だが、特に何かあるということはないようで少し安心する。
「ヴァリューシャ!? とらぁ君!?」
 向こうではとらぁ君が、拳銃を撃ってきた見張り役のヤクザにジャイアントスイングを決めている。
 男の頭が回ってくるたびに、ヴァレーリヤがハリセンでひっぱたいていた。
 まあ、悪いことしたなら仕方ない。銃撃ってきたし。
「皆お疲れ様。ヴァリューシャも美咲君も怪我はないかい? とらぁ君も頑張ったね! ありがとう!」
「マリィもお疲れ様ですわ!」
「とらぁ」
 爽やかにハイタッチ。
 目をぐるぐるまわして泡を吹いているヤクザは、まあいいか。銃撃ってきたし!

「それで、来たけど何をすればいいの?」
 讀賣がイナリに尋ねてきた。
「依頼よ。この辺のものを全部まるっと持ち帰って頂戴な」
「えー!? 高くつくよ!?」
「どうせ稲荷神様から代金を渡されてるんでしょ?」
「そうだけど」
「遺留品、指紋、毛髪。近所の人達にビルに出入りしていた人の目撃情報、月単位の水道メーターや電気使用量の情報など、片っ端から情報を集めて杜に伝えておいてね」
「え」
「給料分働きなさい♪」
「うええええええ!?」
 とにかく一粒でも良い。
 情報という情報は全て持ち帰るのだ。
 ともあれこれにて一件落着だ。
 WCTHSはこれを切っ掛けに多くの構成員が逮捕され、組織は潰えるが、それはまた後日のお話となる。
 いずれにせよ綜結教会なる組織をあぶり出し、遂行者の尻尾を掴んだことは確かだ。
「いや、な」
 ミーナは思案する。
 敵が堂々と名乗りを上げたのは気になるが。
 とはいえ少なくとも彼女のギフトに捉える事が出来たのは僥倖だ。
 そして――

「それじゃこっちも調べものといこうかね、お仕事お仕事」
 いそいそと調査を始めたマキナの後ろ姿を、美咲は見送った。
(マキナ、本格的に就職したんだね)
 確かに非正規戦をやる『お役所』と考えれば、家族を養うには悪くないとも思える。
 ディアナにせよ、愛するレティの事は分からないが、少なくとも自身の仕事と向き合っている。
(……別れ際に偉そうなこと言ってた頃が懐かしいなぁ)
 自身だけが、半端者のままだと感じた。
 ローレットにも、00機関にも成りきれない。
 最近は『佐藤美咲』というインスタントキャリアすら制御出来なくなってきた。
(佐藤美咲とは、■■■とは、『私』とは……)
「どうしましたの?」
 ふいにディアナが顔を覗き込んでくるものだから、思わず後ずさった――ふりをする。
 かろうじて、出来ている。今は――
「……ああ、失礼。ディアナ氏のウエストの事考えてました」
「嬉しい奇遇ですわ! 私も美咲様の可愛らしい『お、し、り』気になってましてよ!」
「ちょ、レティ氏は!?」
「つまみ食いは浮気ではございませんの。でーすーのーでー」
 美咲は一瞬ほむらへ視線を送ったが、目そらしやがったぞ、あいつ。
「わたくし出向先の天義では歩く不正義なんて呼ばれておりまして、鬱憤がたまっておりますの」

「ちょっといいかな?」
「な、なんかすいません、いや自分とは関係ないことですけど、あの人は」
 ふいに話しかけてきたマキナに、ほむらが慌てたように返す。
「いや、そうじゃなくてだね。なんていうのかな」
 マキナがこめかみに指を当てて言葉を選ぶ。
「『事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである』とは、君たちの世界の言葉だったか」
「あー、ニーチェ。中二の教科書ですもんね」
「君たちの世界ではジュニアハイスクールで哲学をやるのかい」
「あーいや、ええと、ちょっと違うんですけど」
「こほん、ともかくだ」
 マキナが耳打ちする。
「ジオルドと話して知ったのだけど、美咲はあれで自分というものに悩んでいるらしい」
「……」
「普久原、時々肉体とチグハグな動きを見せる君はどうなんだい?」
「いやあまあ、旅人で、色々あって」」
「……ま。良かったらだが。一緒に悩んでやってくれ」
「は、はい」

「ねえディアナちゃん」
「どうしましたの、可愛い勇者様?」
「ディアナちゃんは普段は何をして遊んだりするの?」
 連絡先も交換したのだし、折角だからセララは聞いてみた。
「普段、ですか?」
「うん、趣味とか」
「そうですわね……にょた……に、人間観察を少々」
 人間の、観察。
 それは面白いのだろうか。
「あ、あと、今度一緒に遊びに行こうよ!」
「ウェヘッ! も、もちろん構いませんわよ」
「……」
 なんか一瞬だけディアナがものすごい魔物じみた笑いをした気がしたが。気のせいかな。
「で、でっでででは、水着で、海の日など!」
 ディアナの鼻息が荒いが、なぜ。気のせいかな。
「もちろん! 約束だよ!」
「ええ、喜んで。ぜひ皆さんもお誘いして」
 水着と聞いては黙っていない。
 そんな男が居た。

「その案件、私にお任せいただけませんか?」

成否

成功

MVP

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。
 事態の背後には、予想通り遂行者が居たようです。

 MVPはとっさの機転を利かせた方へ。

 それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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