PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<0と1の裏側>グリーンスターライト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●吟遊詩人によれば
 ベアトリーチェ・ラ・レーテを、しっているだろうか。かつて宗教国家天義を襲った、世界へ滅びをもたらす根源存在、冠位魔種だ。
 彼女によって天義は壊滅的なダメージを受け、今なお上層部への不満は根強い。
 だが悪い知らせばかりではない。彼女は打倒された。イレギュラーズによって。
 誰もが立ち向かうことなど不可能だと思いこんでいた存在を、イレギュラーズは打ち倒した。歴史が変わった。人類は反撃の狼煙をあげた。
 各地で快進撃が続いた。イレギュラーズは数多の犠牲を払いつつも、冠位魔種を討ち取っていった。或者は己のために、或者は絆のために、或者は無私となり、或者はエゴの限りを尽くして。
 そうしてイレギュラーズは、着々と滅びへ対抗する唯一の手段、絡繰パンドラを集めていった。

 しかし現在、天義国王にして教皇シェアキム・R・V・フェネストの顔は暗い。不吉な神託が降りたのだ。「天義はまやかしに陥った、正しき歴史に修復すべく『使徒』が訪れるであろう」……。
 そして続々と仇敵が姿を表した。奇妙で奇怪な言語を用いるゼノクロシアンと呼ばれる勢力、彼彼女らを率いる『遂行者』。
 彼奴らこそ天義を「正しくする」ために闇より使わされた使徒だ。
 別次元にあるという『遂行者』たちの『神の国』。遂行者らは聖遺物を腐らせ、それを触媒として冠位魔種が『帳』をおろす。『帳』の内側は空間を書き換えられ、さながら『神の国』のごとくになる。その最たる例が天義にあるテセラ・ニバスが書き換えられた、リンバスシティだ。だがそれで満足する彼らではない。
 神の国を再現すべく、遂行者らの暗躍は続いている……。
 遂行者らの脅威に、シェアキムは苦渋の決断を下す。

『純粋なる黒衣』を纏え。正当なる神の地上代行者が命ずる。血化粧もいとわぬ勇者らよ。御身の罪罰穢は『黒衣』によって赦免される。
 黒衣を纏え、我ら、此処に聖戦の意を示さん。

●そして練達へ
 エリア777。人外ばかりが暮らす練達の一区画だ。こじんまりとしているが、地上と地下の二層に分かれており、地上はビジネス街、地下はホームタウンとなっている。
 そのエリア777にある、病院の診察室で、銀の瞳の青年がうんざりした顔をしていた。
「この傷が完治するには、相当かかりますよ」
 医者はレントゲンを指さしながらそう言った。
「骨がね、ここと、ここ、かなりいってますね。外傷もひどいですし、しばらく激しい運動は控えた方がいいでしょう」
「つまり、すぐ治せない?」
「残念ながら」
 なぁんだ、と青年は短く息を吐いた。
「うわさに聞いた練達も、たいしたところじゃないんだな」
「やろうと思えば、非合法の治療はいくらでもありますが、うちは一応公共機関ですから」
「あ、そう」
 立ち上がらない青年へ、看護師が近づき退室を促す。
「アーノルドさん、次の患者さんがお待ちしてますので……」
 青年は座ったまま片手を上へあげる。星の輝きが収束していく、アーノルドと呼ばれた青年の手には細身の剣があった。目の前で起きた奇跡に、医者と看護師はぽかんとし、その顔のまま最期を迎えた。
 一振り、それだけで看護師と医者を切り裂き、アーノルドはようやく硬い椅子から立ち上がる。
「役立たずは嫌いだよ」
 さて、とアーノルドは包帯まみれの体を見回し、そのうえから上着を着こんだ。遂行者の証を。
「練達まで来ておいて、なにも収穫なしで帰るのは神へ顔向けできないな。置き土産くらいはするべき」
 彼の影が不気味にうねった。泡がはじけるように膨れ上がっては破裂し、そのたびにびちゃびちゃと音がする。アーノルドの体から生まれた……召喚されたワールドイーターたち。ウジ虫程度の大きさでしかなかったものが、みるみるうちに成長し巨大な蟻と蛾に変わる。
 アーノルドは手を伸ばすと、そのおぞましい虫の額へ押し付けた。なにかが焼け付くような不快なにおいが漂い、虫どもへ星の形の焼き印が施される。
 蟻は、さらに大きく力強くなり、蛾は鱗粉をまきちらしはじめた。緑色に汚染された空気が広がっていく。
「パレードでもしておいで。病院中の人間を食い漁れよ。そのあとで僕が帳をおろすからね」
 するどい顎をがちがち言わせながら、軍隊蟻がいく。その上をゆっくりと飛ぶ人ほどもある巨大な蛾。悪夢の行進が始まった。緑色の鱗粉にまかれた入院患者は、苦しみながら意識を失っていく。そこへ大蟻が近づき、刃物のような顎を首筋へあてる。
 しゃくり。
 場違いにさわやかな音が響いた。星型の焼き印が押された林檎を、アーノルドがかじっている。
「飲め、食らえ、ここにいるでくのぼうたちは、今夜諸君の晩餐になるんだ」
 しゃくり。林檎をかじりながら、アーノルドは歩いていく。
 のんびりと歩いていく。

GMコメント

みどりです。アーノルドくん、けっこう深い傷を負っていたようです。
今回はダンジョンアタックでハクスラです。

やること
1)全ワールドイーターの撃滅
2)入院患者を守る

失敗条件
1)入院患者の半数が死亡する

●戦場
夜の総合病院
 300床ものベッド数を自慢にしている7階建てのビルです。一階は受付と診察室。二階は手術室、倉庫、看護師控室。三階から先が入院患者の寝室です。
 夜です。消灯しているため視界にペナルティがかかりますが、電源は生きているので、明かりをつけることが可能です。
 廊下や部屋の大きさは標準的な病院のそれです。射線には注意してください。
 また、後述するワールドイーターによって、PCは解除できない「麻痺」状態に陥ります。BS無効でのみ、無効化できます。

●エネミー
 数は多いですが、病院中にちらばっているため、4~5体程度の群れとなって会敵します。つまり、ダンジョンアタックしながらの連戦になります。

ワールドイーター・軍隊蟻×40
 軍隊のように組織立った動きをする2m程度の大蟻です。基本的にこいつにくわれて、入院患者は死亡します。

ワールドイーター・巨大蛾×20
 廊下や部屋の天井付近を飛行している蛾です。解除できない「麻痺」をもたらす鱗粉で空気を汚します。

【銀の瞳の遂行者】アーノルド
 どこかで高みの見物をしています。
 今回はすなおに退くようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <0と1の裏側>グリーンスターライト完了
  • アーノルドくんのおはなし
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
トール=アシェンプテル(p3p010816)
男の矜持

リプレイ


「どどどどどうしよ、いやいやいやだいじょうぶだいじょうぶ、気合気合気合! 気合でなんとかなる、なんとかする!」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はパニくっていた。
「ちょっと忙しくて練習メニューを普段と変えちゃって! だから、その、ごめん、ウルズ! 作戦通りに動けない!」
「あっはっは、そういうこともあるっすよ! ドンマイ、イーリン先輩! あとでビールおごってくださいっす!」
「ごめんねー! ごめんってー!」
 平謝りするイーリンに、『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)がからから笑う。
「やァ戦場じゃなにが起こるか分からない。だから楽しいのさァ、それに久しぶりに、司書の只人らしさがみれて我(アタシ)はうれしいよ」
 にんまりと笑う『闇之雲』武器商人(p3p001107)。
「たしかにこういうときはびっくりしちゃいますよね。誰だってそうです。気にしないでください。今回のオーダーは、まず私たちが無事でいること、そこにつきますから、おちついて、深呼吸深呼吸」
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)も言い添える。
 さっきから笑いをこらえているのは、『老兵の咆哮』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)だ。
「いや、いいものを見せてもらった。終わったらみんなでのもうぜ。こういうことは酒で洗い流すに限る。司書はミルクがいいか?」
「からかわないでー!」
「ふふ、イーリンおねーさんのぶんも、私ががんばらないと。さしずめ今日の私は守護神というところでしょうか」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)のまなざしがとろりとたゆたう。
「時間がない。作戦変更といこう。Bチームは俺と弾正、俺は不調(BS)を無効化できるし、弾正も麻痺に強い。問題なく行動ができる」
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の言葉に、『アーマデルを右に』冬越 弾正(p3p007105)もうなずいた。
「それでいこう。司書とウルズはCチームに入ってくれ。頼めるか?」
「もちろんっす!」
「うう、ごめんねー……」
「「気にするな」」
 アーマデルと弾正の声がハモった。

●A
『たすけてくれ! 蟻が! 蟻が! うああああっ!』
『だれかー! だれかいませんか、だれかー! たすけっ、ぎゃっ!』
 ナース室へ避難した、いや、正確には閉じ込められた医療従事者たちが蒼白な顔のまま鳴り響くナースコールの前で立ち尽くしている。若いナースが看護師帽を投げ捨てた。
「こんなものっ! なにが白衣の天使よ! いいわ、もう私だけでも患者を助けに行く!」
「外は危険よ、イレッタ」
 婦長らしき年配のナースが、イレッタと呼ばれた若い女の肩を掴む。
「まだここに立てこもっているほうが、生存の可能性はある」
「患者の悲鳴を聞きながら? 今こうしている瞬間も殺されていくのに!?」
 婦長へつめよるイレッタは涙声だ。婦長もまた目を真っ赤にしていた。涙をこらえているのだ。
「誰も助からないよりは、一人でも助かる方がいい」
「無理よ! 一生この日のことを覚えてるわ私! 我が身可愛さに、何一つできなかったと!」
「イレッタ……」
 ゴン。
 ドアが叩かれた。人々の顔に緊張が走る。まさか、蟻か? それとも、蛾か? 聞こえてきたのは、野太い声だった。
「イレギュラーズだ! 開けてくれ!」
 動揺が白衣の人々を襲った。はたして信じていいものか。男の声とともに、あの蟻が、蛾が、この部屋へ押し入っては来ないだろうか。イレッタも固唾をのんでいる。婦長がおそるおそる医師の顔色をうかがおうと顔をあげ、その影に気づいた。
「怖がることはない。アレは我(アタシ)の仲間さ」
 いつのまにそこへ立っていたのか。そのモノはゆうるりと入り口へ近づいていく。一同は悲鳴を上げることもできなかった。そのモノの存在はあまりに自然で、おだやかで、それでいて有無を言わせないふしぎな雰囲気があった。扉近くで立ち止まったそのモノは両手を大きく広げた。ガラガラガラッ。大小様々な銃火器が袖から滑り落ちる。とてもそこに収まっていたとは思えない量だ。
「これを使ってしのぐといい。あァ、我(アタシ)かい? 武器商人とでもお呼び」
 そう言うと、武器商人は扉を開け放った。
「ホルスウィングの旦那、あとは頼んだよ」
「礼をいっておくぜ、武器商人」
 扉の向こうに立っていたのは、びしょぬれになった大柄なオールドワンだった。灰色のざんばら髪の下から、向こう傷のある顔がのぞいている。スプリンクラーが水をばらまいており、空気中の毒々しい鱗粉は洗い流されていた。それが彼による機転だと、一同はすぐに理解した。
「患者を救えるのは、今も前も変わらずお前さんらだ、ならいつも通りだ。できるな?」
 医師が、婦長が、イレッタがうなずいた。誰もが手に銃を持っており、弾倉を身に帯びている。
「いま仲間が下の階からクリアリングしつつ昇ってきてる。お前さんらは患者を率いて、彼らとの合流を目指してくれ」
「あ、あなたは?」
 イレッタの硬い声に、バグルドはにっと笑ってみせた。
「患者を助けに行くだけだ。名簿あるなら貸しな、ちょっくら行ってくる」
 彼女から受け取った地図と名簿を手に、バグルドはスプリンクラーの豪雨の中へ飛び出していった。誰かが呟いた。神よ……。
「いいえ」
 イレッタは銃を握りしめた。
「祈るのはまだ早い。指示通り、できることをしましょ」
 その声を背中に受けながら、バグルドと武器商人はひた走る。大蟻がよってくる。うぞうぞと。濡れて地面へ落ちた蛾の頭部を踏み潰し、バグルドは吠える。
「武器商人、患者の方は任せたぞ。俺は前出て殲滅してくる」
「キミがそれを望むなら、我(アタシ)はそれに応えよう」
 武器商人がするりと部屋へ入りこむ。中から二匹の大蟻が蹴飛ばされたように飛び出てきた。
「ヒヒ、動けないのをいいことに蹂躙かい。虫のくせに、いい趣味してるぜ」
 一転、武器商人はやさしい笑みを患者へ向ける。
「怖かったろう。もう大丈夫。立てるね?」
 患者たちは泣きはらした顔をぬぐい、強い目を武器商人へ向けた。
(あァ、いとおしい顔だ。生へしがみつこうとする顔だ。かわいいねぇ。そんなだから我(アタシ)は、つい手を貸しちまうのさァ)
「ホルスウィングの旦那」
「まかせろ」
 バグルドが大蟻を仕留めている。磁力衝撃の音に、患者たちは首をすくめ、そしてその手腕に惚れ惚れした。
「多少でかいだけの蟻がどうした、アダマンアントに比べりゃ何もかもが惰弱だ」
 またも襲いくる大蟻をいなし、バグルドは磁力を操る。義肢への負担もかえりみず、放出されるベクトルが蟻の頭部を破壊し、腹を潰していく。
「突進するしか能がないでくのぼうどもが。俺たちにゃお前さんらへくれてやる慈悲は一片たりともねぇ」
 吹き飛ぶ蟻の脚、ちぎれた筋肉、硬い殻、そのどれもがスプリンクラーの急流に流されていく。

●B
「弾正」
「わかっているアーマデル」
 恋人たちはうなずきをかわした。以心伝心。それほどに二人の仲は育ちつつある。
 ふたりはまず避難誘導灯を目指した。鱗粉は薄くなっているが、まだまだ濃い。
「上階から来ているな」
「うむ。アーマデル、迎え撃つか」
「そうしよう。患者にはここを通ってもらわねばならない」
 アーマデルは不安そうな顔をしている老医師の霊へ向かい、問題ないとハンドサインを送った。まかせろ、とも。
「より多くの患者を避難させる。そのためにも敵は倒さねばならない」
 大蟻が近づいてくる。蛾が天上へ陣取っていた。鱗粉が濃くなる。
「道雪サン。だいじょうぶか?」
「ああ」
 言うなり道雪は、窓ガラスを雷切の柄で叩き割った。エリア777の月に照らされて、ガラス片が妙に美しくきらめく。
「これで、たしょうは鱗粉も楽になるだろう」
「やれやれ、武官というのは無骨でよろしくない」
「イシュミルだったね? 君とは豊穣であった仲だ。喧嘩はしたくない」
「心遣い、いたみいるよ。道雪サン?」
 弾正の言葉を真似たイシュミルは、いったん後ろへ下がった。弾正はシャイニーランプを振り上げた。キラキラと輝くそれの光が強くなり、非常階段の踊り場だけがまるで昼間のように明るい。
「ここは練達。ならば聞けよ! 俺は冬越弾正、サウンドクリエーターにして、イーゼラー教徒《Nine of Swords》!」
 虫にとって不快な音波を平蜘蛛から放ち、弾正は突撃していく。地形的に若干の不利はあるものの、それでおくれをとる弾正とアーマデルではない。
「はあっ!」
 簡易飛行で大きく跳躍した弾正が、天上の蛾へ竜牙双斬。手刀がねじこまれ、蛾は爆砕した。返り血を浴びた弾正は、すさまじいまでの気迫で嫌悪感を消し去り、蛾の死体を蟻へ叩きつける。そのまま大蟻の上へ背中から落ち、ごろごろと転がり落ちて蟻特有のフェロモンを身にまとう。
「巻き込んですまない、アーマデル。怖い事も君となら耐えられる筈だから……」
「ここまできて水臭いことを言うな、弾正」
 蛇巫女の後悔は、その名のとおり、鋭く、苦い。蛇の牙のように、そこからしみだす毒液のように。
「俺は、弾正といっしょなら、地の果てだって! ついていくぞ!」
 勢いそのままに、デッドリースカイで空を舞う。踏み台にされた大蟻の殻が割れ、不気味な色の体液がほとばしる。アーマデルによって、断末魔をあげることなく事切れた虫の死骸。それが降り積もっていく。道雪がそれをバラして窓から捨て、そのあいだにイシュミルが避難誘導をする。弾正とアーマデルはかたっぱしから病室を回り、麻痺が抜けつつある患者を抱え、先導して外へと誘う。的確にして速い。事前に防火シャッターや扉で、使わないルートを閉鎖していたのも効いた。アーマデルは救助袋や滑り台を設置し、イシュミルへ後を頼んで次々と患者を助け出していく。

●C
 焔の乙女が高く跳ねる。白鳥のように優雅に、美しく。その軌跡から火の粉が舞い散り、仲間の体へ吸い込まれていく。
「範囲麻痺付与をあなたが持っていてくれて、助かったわ」
「お気になさらず」
 フルールはイーリンへ微笑み返した。やっさしーいやつを。
「うっ、その顔。まだ擦るつもり?」
「いーえ、悪戯していい局面と相手は心得ております。私にも良心というものがあるのですから」
 そういうフルールは、とてもそんな風には見えない。ただ単に今は興が乗らないだけなのだろう。当然だ。眼の前に醜悪な大蟻と蛾がはびこっているのだから。フルールは炎を捏ね上げて白いネズミを創り出した。しっぽの先で火が燃えている、そういうのを。
「おいきなさい、私のかけら。生存者の確認を頼みます」
 じうと鳴いたネズミは小さな脚をフル回転させて走り出した。そのネズミを蟻の大顎が襲う。
「させない」
 イーリンが動いた。戦旗を逆手持ちにし、長い持ち手を大顎へ挟み込み、大蟻の動きを阻止する。その隙にネズミは走り抜けていった。イーリンは戦旗を引き抜き、くるりと持ち直した。美しい旗がひるがえり、つかのま、陰惨な空気を追い払った。
「Drマギア!」
「なにかね」
「突破次第、中央制御室を任せる!」
「いじくりまわしていいのかい?」
「多少はね。院内の情報を教えてくれる?」
「いいだろう。やってあげよう」
「できる仲間を持って幸せだわ! 全員助けるわよ!」
「らしくなってきたっすね、大先輩!」
 頭を持ち上げ、ガチガチと大顎を鳴らして威嚇する大蟻へ、ウルズが肉薄する。リノリウムの床を蹴る勢いにのって、イーリンを守るように前へ踏み込むと同時に、高く飛び上がった。
「これがあたしの名乗り口上っす!」
 飛び蹴りが炸裂する。首がもげた大蟻が、よたよたと動き回る。まわりの敵がウルズへ怒りの目を向けた。紅く輝く数多の目に見つめられてなお、ウルズは余裕の表情だ。利き手を突きつけ、手首をひねって挑発、「カモン」のジェスチャー。
「ミンチになりたいやつからお願いするっす。最近の練達じゃ、昆虫食ってのが流行ってるらしいっすね。アンタらをひき肉にして、業者に売り飛ばしてやるっすよ」
 いくつもの大顎が迫りくる。ウルズは猛獣の笑みのまま軸足を中心に高速回転。ダブルラリアットの要領で握り込んだ拳を次々と打ち付ける。
「うらあっ!」
 割れていく、壊れていく、天井にまで血しぶきが飛び散る。ウルズは攻撃の手を休めない。完全に破壊された大蟻が床のうえ、屍を晒している。
「私たちも参りましょう。至高のシンデレラ」
「シャルール」
「私もイレギュラーズ……生命という何よりも尊く、美しい輝きを守るためならドレスが煤けて穢れるくらい厭いませんわ」
 そこまで覚悟して彼女はこの場へやってきているのだ。いつもは競う仲だが、今この場においては、誰よりも頼りになる。
「首謀者はバッドエンドがご希望のようですが、生憎それはシンデレラには無縁の言葉……さぁ私達の手でハッピーエンドに塗り替えて差し上げましょう!」
「ええ、シャルール、背中は任せました。いきます、AURORA起動、アクセプト!」
 抜き放った柄だけの剣に七色の光が灯る。
「私たちの前進は、誰にも止められません!」
 巨大な光の剣を、トールは一気に振り下ろした。まっぷたつになる蛾、そして大蟻。七色の光が走り抜ける、その様子は外からも、廊下を進むオーロラとして見えていただろう。
「突破!」
 トールが輝剣で邪魔な死体を横薙ぎにした後、走り出した。トールの後に続き、イレギュラーズが疾駆する。
 協力者たちはそれぞれにちらばり、定位置につく。フルールの創ったネズミが鳴き声をあげた。通り過ぎんばかりの勢いだったウルズが、急ブレーキをかける。
「オッケーっすわ、まかせなさい! はいはいみなさーん! ちょーっと早い起床時間っすよー!」
 ベッドの布団を跳ね上げながら、部屋の奥まで急行。そこでターンし、一瞬で歩ける者と歩けない者を見抜くと、介護が必要な患者をかつぎあげる。
「出てきてもいいわ! 看護師も医者も、患者を救うのを諦めるんじゃないわよ!」
 声を上げて呼ばわるはイーリン。Drマギアからの情報を元に、必要ない通路を塞いでいく。立てこもっていた職員たちが、ぞくぞくと飛び出してきた。
 トールはシャルールとともに、医師や看護師を連れて集中治療室へ入りこむ。清潔な移動式ベッドのストッパーをはずしていく。職員たちに治療へ当たらせると同時に、機器へ問題ないことを確認する。鎧戸を落とし、シャッターで部屋を守る。いつでも逃げられる準備と、可能な限り最適な治療を受けられる態勢とを整える。
 進む進む、イレギュラーズが夜の病院を制圧していく。確実に、顕著に、荒々しく、細心の注意を持って。
「司書」
「なに、Drマギア?」
「君が言っていたあの興味深いのが監視カメラに映っていてね」
「どこ!?」
 まあそう急ぎ給うな、急いては事を仕損じる、とDrはマイクの向こうで軽口を叩く。
「屋上にいる」

●アーノルド
 各階を見事に制圧してのけたイレギュラーズは、屋上へ向かった。バグルドが扉を蹴り飛ばした。硬い金属の板が吹き飛び、イレギュラーズの到着を告げる。
 広々としたコンクリートの砂漠で、その青年は背を向けたまま、青い林檎をかじりながら夜景を眺めていた。音に気づいていながら、彼は振り向こうとはしなかった。
「アーノルドおにーさん」
「焔の乙女か」
 ようやく、青年は銀の瞳を見せた。
「まさか病院に来ているとは。もしかして、治そうとしました? 神に選ばれた遂行者のくせに?」
「神の国の福利厚生はマジクソ1000%なんだよ」
「自腹?」
「自腹だけど何か?」
「保険証も持ってなさそうですよね。10割負担ですね」
「うるさいよ、君」
 フルールはうっとりと微笑んだ。
「あの蟻といい、蛾といい、アーノルドおにーさんの体から出てきたんです? ばっちぃですね。ツガイのおねーさんが言ってました。ばっちぃのは……」
 フルールの全身を炎が包んだ。
「滅(めっ)って」
 炎の鳥がアーノルドを襲う。アーノルドは避けずに銀の剣で一閃した。分かたれた鳥が火の粉になって消えていく。
「剣技だけはお見事ですね」
「ありがとうとでも返すべき?」
 冷気が収束していく。ウルズがわざとらしく肩をすくめた。
「アンタがアーノルドっすか。諸悪の根源、虫の親玉、きしょくわるいっすね」
「どうとでも言えばいいよ。君らが悪さするから、僕らの計画はなかなか進まないでいる」
「悪さしてんのはアンタらっしょ。『帳』とかいうものをおろして、各地を混乱におとしいれてると聞いたっす」
 ウルズはするどい視線でアーノルドを貫いた。青年は不機嫌そうなまま林檎をかじる。
「人殺しを責められる程、俺は聖人ではないが」
 弾正がアーマデルと共に得物をかまえた。
「命はな、重いんだ」
 深い声には、哀惜と覚悟がにじんでいる。
「誰かの一生を奪う責任。それは決して軽んじてはならぬ物。紙屑の様に他者の命を刈り取る遂行者を、許さない!」
「あ、そう。暑苦しいのは嫌いだよ」
 さらなる冷気がアーマデルの肌を撫でた。
(屋外だと言うのに、氷室のようだ……。手負いのくせに、どこからこれだけの力を。それともこれが、やつの言う神の権能とやらか?)
 アーマデルは冷静に場を分析する。
「弟子が医者でね、患者を死なせたら、面目立たないわ。理由はそれで充分」
 イーリンが戦旗で夜風を捕まえる。
「……林檎坊ややっと会えたわね。必ず落とし前をつけさせる。神がそれを望まれる」
「その神とやらは、君へどんな恩寵をくれたの?」
「叩けよさらば開かれん。恩寵は勝ち取るものよ。あなたみたいに口を開けて待っているだけの輩には一生わからないわ」
「そうともさ、司書。キミのその覚悟こそを、神は望まれる」
 武器商人はゆったりと歩を進めた。長い裾がコンクリートの上をすっていく、しゃらしゃらとした音が耳に心地良い。
「アーノルドの旦那、ことを構える気なら、我(アタシ)たちも容赦しないよ」
「ぶっちゃけ、そうしたい気分だよ。僕のしもべたちが全員倒されちゃうなんてさ。魔物を殺して平気なの?」
「我(アタシ)へ敵対しようってのが、そもそも間違いなんだよ」
 銀糸の下、武器商人の美しい目元が弧を描く。
「罪のない無力な一般人まで嬉々と巻き込むとは、シンデレラの名を冠する者として、いいえ、ひとりの人間として、許せません」
「だって全部上書きされちゃうんだもん。気にするだけ無駄だよ、おとこおんな。踏み出す時に靴跡の砂利のことを考える?」
「……いよいよ救いがありませんね。貴方達が辿り着く先は理想郷ではなく、地の獄です」
 警戒を強めるトールの隣で、バグルドは両の拳を打ち合わせた。濁った重い音がする。
(神がどうだのとか毛ほどの興味もねぇ。そもそも天義の中でのいざこざなら目にも止めんかったが。外に向いてあまつさえ好き勝手に荒らしていくなら話は別だ)
 眉をひそめたくなるほどの惨状を見た。ゆえに、バグルドは一言に留めた。
「クソガキの悪戯にしちゃおいたがすぎるな」
 アーノルドは芯だけになった林檎をバグルドへ向けて放り投げた。バグルドがそれをはたき落とす。屋上を覆う冷気がさらに濃くなり、霧までともないはじめる。
「イレギュラーズ、か。あーあ、ほんと、君らが来るといいとこなしだよ。『帳』をおろすひまもないときた」
 神に懺悔しなきゃ。
 銀の瞳の青年の唇がそう動くと、突風が吹き荒れた。目を閉じた次の瞬間、アーノルドの姿はかき消えた。
「じゃ、どこかで」
 そんなセリフだけが、皆の耳へ届いた。

成否

成功

MVP

フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

被害は最低限に抑えられ、入院患者は無事助け出されました。がんばりましたね!
MVPはPTの守護神だったあなたへ。

またのご利用をお待ちしています。

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