シナリオ詳細
水底のメロディー
オープニング
●水に沈む街
幻想はフィッツバルディ領の東部にその街――アレンシェはあった。
透明度が高く美しい湖に隣接する街は、観光名所として栄え多くの観光客で賑わっている。
今年の夏も避暑地として多くの人々が訪れ、湖の側で涼を得たものだったが、夏も終わりを迎え始めたその日、ある異変が起こる。
「な、なんだ――」
「水が溢れているぞ……!」
湖が突如として増水し、街を飲み込もうと水かさを増加させていた。
最初は水たまり程度だったものが、踝下まで増えたかと思えば、いまや膝下まで増えている。
家々は浸水し、街の人々は避難を余儀なくされてしまう。
事態を重く見た領主が騎士を派遣し調査に向かわせたその先で、騎士達は神秘なる生物を目にするのだった。
「あれは……精霊達か?」
三体の水の精霊は人の形をとり、湖の中心で怒りの形相を浮かべていた。
騎士達が湖に近づこうとすれば水の上を滑るように近づいて襲いかかってきたという。
その事を聞いた街の長老は重く口を開いた。
「精霊様がお怒りになられているのか……儂らがなにか不味いことをしたのかもしれん……。
とにかくお怒りを鎮めて頂かねばならぬ」
長老は大事そうに抱えていた荷物から、一枚の譜面を取り出した。
そこに描かれていたのは――
●
「鎮魂曲?」
「ええ、その昔、水の精霊達と人が意思を疎通したと言われる曲だそうよ」
「わあ、なんだか素敵ですね」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)に『星翡翠』ラーシア・フェリル(p3n000012)が手を合わせて微笑んだ。
「まあ事態は素敵とは言ってられない状況だけれどね。
今回やってほしいのは湖に現れた水の精霊にその鎮魂曲を聴かせること。
もし、耳に入らないようなら冷静になるまで精霊を相手どって戦闘ということになるわね」
リリィはそう言うと、アレンシェの観光マップを取り出して指さす。
「現在の水位は地表から五十センチほどになるわ。
湖に近づけば近づくほど深くなるから、ある程度まで近づくだけで良いと思うわ。精霊の方から近づいてくるでしょう」
そうして上手いこと精霊を呼び寄せたら、街に伝わるという鎮魂曲を聴かせるわけだ。
「でも本当にその曲に効果があるのでしょうか?」
ラーシアの疑問はもっともだ。街に伝わると言うだけでその効果が本当にあるのか怪しいところである。
「その辺りはハッキリとは言えないけれど、街の創始者である吟遊詩人が精霊との絆を結んだ曲として代々街の長老に受け継がれてきたものだそうだからね。そこに期待してみるしかないんじゃないかしら」
「そもそもなんで精霊様は怒っているのでしょう? 何か街の人達がしたのでしょうか?」
精霊が怒りに震え街を飲み込むような力を見せている。よっぽどのことだとは思うがその理由がわからなければ、例え鎮めたとしてもまた同じ事が起こるのではないだろうか。
リリィは手にしたメモ帳を眺めながら「推測だけれど」と断って話す。
「――街と湖、人と水の精霊は共存の関係にあったと思うわ。
けれど、観光地として発展した街が、その共存関係を壊してしまったのかもしれないわね。
たとえば――そう、増えすぎる人に、溢れるゴミや騒がしい騒音などね」
発展の代償に、精霊を蔑ろにした結果ということだろうか。
リリィの推測ではあるが、案外的を射ているように思えた。
「それで、曲はどなたが弾くのでしょう? よかったら私が演奏してもよいですけど……」
「そうね、特異運命座標ちゃん達の中で弾ける人がいなければラーシアちゃんにお願いしようかしら。
まあ、そんな難しい曲ではないから、楽器に普段から触れている人ならば大丈夫でしょう」
人と精霊の絆を結んだ鎮魂曲。
どのような曲だろうか。想像するイレギュラーズとラーシアに依頼を頼むと、リリィは席を立つのだった。
- 水底のメロディー完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月15日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●水に沈む街
「こちらが先代より受け継いだ、街の創始者吟遊詩人ハノンが作曲した鎮魂曲の譜面になります」
アレンシェの街に辿り着いたイレギュラーズは、水に沈む街の凄惨な状況を目の当たりにする。
幸いにも長老の住む家は高台の上にあり、いまだ水害に晒されてはいないが、それも時間の問題に思えた。
長老はイレギュラーズの到来を待っており、早速、代々受け継がれてきたという鎮魂曲の譜面を広げて見せた。
「これを弾ける村の方とかはいないのでしょうか?」
『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)が長老に尋ねるが、長老は力なく頭を横に振った。
「そもそもこの曲を知る者が数える程にしかおらんのですじゃ……弾けたのは五年前に亡くなった儂の妻くらいなもんでしたな」
「それは……残念ね」
『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は忘れられていく旋律を思い寂しげに目を細める。
「どうですか? 弾けそうですか?」
「ええ、所々読みにくい場所もあるけれど……なんとかなると思うわ。
そうね――念のため後で一緒に練習してみましょ」
リアは一緒に譜面を眺めていたラーシア・フェリルにそう告げると、大切に譜面を受け取った。
一行は長老にお礼を言って家をでると、街の中心――湖へと向かう。
リアとラーシアは揃って鎮魂曲を奏でる。横笛と弦楽器が奏でる静かで優しい旋律。一行は耳を澄ましその曲を作った吟遊詩人と精霊とのやりとりを想像した。
「――んー、やっぱりちょっと変ね」
「あ、リアさんもそう思いましたか? 後半、音が足らないですよね?」
演奏していた二人が、首を傾げ譜面と睨めっこする。間違っては居ないはずだが――
「それにしても、これはひどいデスねぇ……。
こんなお家には住みたくないデスよ」
『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)が辺りの様子を眺めながら言葉を零す。
街に入ってから目に付くようになったが、水面に浮かぶゴミの量がすごい。観光地ということだったが、それにしてもひどいありさまだ。
「発展と共に忘れられたのみならず……蔑ろにされてしまった、という所でしょうか」
美弥妃とドラマの言葉には精霊に対する同情の色も見えた。それほどまでに、環境を汚染している現状が目に付いた。それは透明度がウリの水だからこそ、ゴミとの対比が色濃く見えてしまったこともあるだろう。
「なるほどねぇ。この状況なら怒り狂うのも頷けるってものだぜ。
まあそれで大洪水とは、中々にロックだけどねぇ」
「元から気性が荒かったということですしー。
何か元からそうなる理由があったのでしょうかー?」
『スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)の言葉に相づちを打つ『特異運命座標』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)。元は大分暴れていた精霊のようだが、どのようにしてこの湖に住み着いたのかは定かではない。
わかっているのはこの場所で吟遊詩人と出会い、その抱えていた怒りを忘れるだけのことが起こったということだけなのだ。
「そろそろ着くわね」
膝下まで来た水を冷たく感じる中、『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)が視線を先に向ける。
開けた道の先、大きく広がる湖が観ることができた。陽の光を反射する湖は何処までも澄んだ水を湛えている。その景観を壊すゴミと荒れ果てた植林達。
湖の中心には今にも襲ってきそうな――怒鬼の形相を張り付かせた水の精霊が見えた。
「これ以上近づけばすぐに戦闘になるだろうな……準備はいいか?」
武器を抜き放った『翔黒の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が臨戦態勢を取る。他の面々も倣うように武器を手に取る。
「曲を聴かせるにしてもまずは対話ができるようになってからだ、頼んだぞ、エーリカ」
「うん……がんばる」
名前を呼ばれることにももう慣れてきただろうか。『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)が力強く頷いた。
一歩踏み出す。
人の存在を感知した精霊達が、即座に動き出す。
「来るぞ――!」
湖の街アレンシェで、怒りに震える湖の精霊との戦いが始まった――
●言葉を届ける為に
戦いは激流のような激しさをもって続いていた。
中距離より神秘魔法を放つ三体の水の精霊。それに対し、クロバ、美弥妃、ユゥリアリアが至近距離で応戦する。
精霊疎通を行うエーリカの声は未だ届かない。怒りに我を忘れ耳を塞いでいるのだ。
「皆さんがんばってください――!」
ラーシアが簡易な治療魔術でイレギュラーズの傷を癒やす。大きな手助けは出来ないが、この依頼を成功させるために力を尽くしていた。
「まるで癇癪起こした子供のようデスねぇ……!」
激流によって水中の地面に叩きつけられた美弥妃が、立ち上がると同時に反撃の聖光を放つ。続けざまに肉薄擦れば殺傷力の低い術式を起動し叩きつけた。
美弥妃の言うように精霊達は怒りのままに近づく者を狙い、持てる力を全て叩きつけていた。
イレギュラーズの狙い通りといえばそうなのだが、囮として接近戦を演じる三人の負担は大きい。
「なるほどねぇ。
湖周辺のゴミの量は街の比じゃないぜ。これはパンクに暴れてしまうのも頷けるわけだ」
周辺の状態をよく観察していたヴィマラは、その環境の劣悪さを見抜いた。
とはいえ、それで精霊の怒りが収まるわけではない。まずは話を聞かせる為に所謂積極的説得行為に移るしかない。
ロックなビートに乗るようにリズミカルに自らの力を高めるヴィマラが、中距離より氷の鎖を放ち精霊の動きを絡め取る。テンポを乱すヴィマラの攻撃に水の精霊の一体が苛立たしげに身体を不定形に揺らした。
「貴方が抱える想い――私もほどほどに長く生きてる部類だからちょっとだけわかる気がするわ。
だけど、こんなのはだめ……一度冷静になって。人間達には言って聞かせるから」
古くからの親交や約束が忘れ去られたことに起因する怒りや悲しみ。それを知るエスラは精霊達に言葉を投げかけながら、怒りを収めるために敢えて武器を取る。
人の形をとる精霊の依り代、その三体を射程に収めれば、心の底に渦巻く悪意を霧という形に変え、包み込む。
冷静になってほしい。その想いと力は少しずつ精霊の張り詰めた心を溶かしていく。
「来いよ暴れん坊共!! お前らの相手はこのオレだ!!」
クロバが精霊達を敵視を稼ぐ。瞬間向けられる三つの怒りがクロバ目がけて襲いかかる。
その悉くを手にした二対の刀で受け止め、防ぎ切る。自己の体力に不安を覚えれば、気を張り不滅の如く傷を修復する。
「荒ぶれ、そしてその怒りをオレに向けろ!! お前らの怒りは全て喰らいつくしてやる!!!」
言葉通り、そうしてクロバは我武者羅に叩きつけられる怒りを受け止め続けるのだった。
「そちらへは、いかせませんよー」
自身の後ろに控えるリアを狙おうとした精霊を、ユゥリアリアがブロックする。
生み出した氷の鎖によって縛り付け、怒りの矛先を自身へと向けさせると、囮となって注意を引いた。
「落ち着いて下さいー。そうすればきっと私達の言葉が聞こえるはずですー」
囮として敵視を握っている相手だけでなく、他の精霊の依り代にもダメージを与えながら、ユゥリアリアは精霊が落ち着くのを待ち続けていた。
「話を聞いて貰う為にも……出し惜しみはしません!」
水を跳ねさせながらドラマが移動する。そうして複数体を射程に収めると手にした魔導書を広げ魔力を流し込む。
「これで大人しくなって下さい――!」
再現されるはかつて混沌に存在したと言われる猛き暴威の一端。書が謳うその暴虐の一撃が精霊の依り代を構成する水を弾き飛ばしていった。
戦いは一進一退の攻防が続き、双方に相応の被害をもたらしていた。
精霊に対し囮として前衛で戦っていた、美弥妃、ユゥリアリアは多くの怒りに満ちた攻撃を受け止め、パンドラの輝きを放ちながら今なお戦い続けていた。
逐次、敵視を稼ぎ複数の攻撃を一身に受け止めたクロバはパンドラによる一時的な回復後もその役目を全うし続け、ついに膝を折り倒れた。しかしこのクロバの活躍によって他のメンバーは戦線を維持し続け、精霊の怒りに染まった心を落ち着かせる多くの一打を与えることができた。
――怒りに狂う精霊は、対峙する者達の力に触れ、自身を滅ぼしかねない力に恐怖し、同時にそうしない目の前の者達に興味を持った。
「――! 声が、聞こえる――」
エーリカが、言葉を零す。
精霊疎通を試みていた、エーリカの長い耳にようやく声が聞こえ始めた。
「お願い――聞かせて、あなたたちの声」
精霊が放つ殺意が霧散していく。
対話が始まった――
●水底のメロディー
「わたしたち、あやまりにきたの――」
それは精霊の領域を侵してしまったこと。そして精霊を蔑ろにしてしまった街の人々の懺悔の言葉。
精霊は静かにその言葉を聞き入れ、言葉を返す。
それは言葉というよりかは感情の奔流。その想いの流れをよく聞き理解し、エーリカが言葉を零す。
「そう……環境の汚染、それに増えすぎた人の流入……忘れられた貴方のこと。
うん、かなしかったよね。ごめんね」
それは推測できていたことだが、同時にこの街に根付く問題の核心だ。
吟遊詩人のハノンが精霊との共存を叶える為に作り上げた街アレンシェ。長い年月がその創始者の想いを風化させ、もう一人の街の創始者である精霊をも消し去ろうとした。
やり場のない嘆きと悲しみは、いつしか忘れていた怒りを思い出させたのだ。
精霊は言う――もうハノンはいない――と。
その言葉に、エーリカは首を横に振る。
「――みんなにまた、歌を届けたいの。
だから、お願い――」
精霊は耳を貸してくれている。エーリカはこの時しかないと、手を差し伸べた。
それを合図に、リアが銀の指輪に力を籠める。魔力が白糸のように伸び、青白く光るヴァイオリンを顕現させた。
「あの人の想いをもう一度あなた達に届ける。聴いて」
一息。
目を閉じたリアが静謐の空気を吸い込むと、右腕に力を籠めて弦を響かせた。
それは、透明度の高いアレンシェの湖を彷彿とさせる静かで、そして泣きじゃくる子供をあやすような優しい母のぬくもりか。
リアの奏でる旋律が湖に響くと同時――精霊の纏う雰囲気が徐々に軟化していくのがわかる。この音を、このメロディーを待ち続けていたかのように。
「lalala――」
ユゥリアリアがヴァイオリンの旋律に合わせ即興で歌声を響かせる。即興でありながら見事に調和した歌声と弦楽の合奏が湖に響いていく。
「あっ――!」
ラーシアが尖った耳をぴくりと動かし声をあげた。
湖の中心から波紋が広がり、どこからか音が響く。
「湖の中から聞こえる?」
それは、練習でリアとラーシアが疑問を浮かべた後半のフレーズ。
音が足りないその場所を、湖の底から響く音が埋めていく。
それは――それこそが吟遊詩人ハノンの残した鎮魂曲。水底より響くメロディーに他ならなかった。
「……良い曲だな」
苦手な水に浸かっていた身体を起こしたクロバが武器を仕舞い一言零す。
「精霊と対話どころかデュエットとはねぇ。ははっ、ハノンって奴は中々にロックじゃないか」
「優しくて穏やかで、素敵な曲デスねぇ……」
「水底が奏でるメロディー……ね。
怒りに染まっていた精霊がこんな音をだせるようになるなんて――」
「見事という他ありませんね」
ヴィマラや美弥妃ももう戦う必要はないだろうと、武器をしまい旋律に耳を傾け、エスラとドラマも感心しながら耳を澄ましていた。
その場にいる全員が、その曲を穏やかな気持ちで聴き続けていた。
――そうして、ゆったりとした優しい旋律は最後の一音を響かせ終わりを告げた。
「とても穏やかな旋律……もう大丈夫ね」
精霊の感情をクオリアによって読み取るリアがヴァイオリンを仕舞いながら微笑んだ。
曲が終わったのを合図に、エーリカが対話を再開する。
街の人々が精霊のことを忘れてしまわないように、その為に精霊の想いを伝えると。
「……やくそく。
必ず届けるから。だから、まずは――」
エーリカ、そしてイレギュラーズの意思を汲み取った精霊は穏やかな表情へと移ろって、静かに湖面に沈んで行った。
同時に、水位が下がり始める。
「一段落といったところね。それじゃ、あとは――」
精霊と和解し水に沈んだ街を救ったイレギュラーズだが、自発的にこの街の為に動くことを決めていた。
その為に、まずは長老の待つ家へと戻ることにするのだった。
●伝え残すこと
「鎮魂祭……ですか?」
精霊とのやりとりを伝えたイレギュラーズは街の長老含む関係者を含めた場で、精霊を忘れないために鎮魂祭として定期的に行うことを提案した。
「そう。
人と精霊の絆を大切にして忘れないためのお祭り。
何かをやめるより、新しい何かを初めて悪いとこを無くせればとても良いんじゃない?」
リアからの提案は、観光地として栄えていながらイベント事のないアレンシェにしてみれば願ったり叶ったりの提案だ。目先の利益を追求する商人達も悪い提案ではないと乗り気になった。
「祠とか石碑とかを設置することやー、
鎮魂曲を歌にして街の皆が歌える環境も必要かと思いますわー」
「それに忘れてはいけないのは掃除です。
とにかく環境を整備することから始めましょう」
ユゥリアリアやドラマも必要なことを提案する。それは街と精霊、どちら側にも立たないイレギュラーズだから言えることだ。
「精霊達と共存していた頃の通りとはいかないかもだけれど、それでも、これからあの子達と上手くやっていけるよう、出来ることはまだあると思うの。
今回の出来事を忘れてはだめよ」
「その、……水の恵みを、精霊に『ありがとう』をつたえるおまつりを、してほしいなって
わ、わたしたち、いっぱいお手伝いするから……!」
エスラとエーリカの言葉に長老達は一つ頷いて、
「そうですな……同じような失敗をしては街の創始者であるハノン様にも申し訳が立たない。
一つ一つ、共存の為にできることをやっていこうとしましょう」
そうして、街が動き出した。
街に住まう人々はその提案を理解し、納得し、率先して参加するようになった。中には『精霊なんて突然暴れ出す災害』だと言うような者(とくに商人に多かった)もいたが、鎮魂祭がイベントとして利益をだすことをしれば、しぶしぶ従うようになっていった。
そうして人と精霊が共存する為の一歩を踏み始めていた。
「みんなでやればどんな事だろうと楽しいデスよぉ。
ほら、一緒に歌うデスよぉ」
湖周辺の掃除を手伝う美弥妃は、鎮魂曲に歌詞を付けて、掃除に精をだす大人や子供達と一緒に歌い上げる。
「ナイスな歌声に響く水底のメロディーね。
思い切り喧嘩した後にこうして笑い合いながら歌い合えるなんて、最高だよねー」
響く旋律に耳を傾けながら、ヴィマラは楽しげに笑った。その笑いにユゥリアリアも微笑んで、
「ええー、本当ですねー。
いつまでも、歌い続けて欲しいと思いますー」
と、目を細めた。
「譜面の複製はも広めるためには必要ですね。
お手伝いします。お任せ下さい」
ドラマがハノンの残した譜面に触れながら力強く胸を叩いた。
この譜面が街に広まれば、きっとこの湖の街は優しい旋律の響く素敵な街になるに違いなかった。
「いい? この曲は優しく精霊に語りかけるように弾くのがポイントよ。
ゆっくり、一音ずつ、丁寧にね――って、こら! 悪戯するんじゃないわよ!」
子供達に鎮魂曲を教え込むのはリアだ。
街の悪ガキ達の悪戯にも負けず、親切丁寧に教えていく。
こうして教わった子供達が、日常で口遊むようになれば――それは鎮魂曲が日常の生活の一部になったことの証明だ。
その子供達が大人になれば――きっと次の世代に伝わっていく。伝えてくれると信じている。
悪ガキ達を追い回しながら、リアは満足げに微笑んだ。
「湖とっても綺麗になったように思えます」
ラーシアが泉の周囲を見渡しながら言葉を零した。
「うん……精霊も喜んでいる。
これなら――きっと上手くいくと思うよ」
エーリカのその言葉にエスラは頷いて、大きく伸びをした。
「一段落ね。
後はきっとこの街の人達がどうにかするでしょう。もう同じ間違いは起こさない……はずよ」
「ああ、そうだな――」
乗り気でない住人達に話を付けてきたクロバが荷物を抱えて言葉を残した。
「ま、オレがやれるのはここまでだ。
精々今度は死神に魂持っていかれないよう用心するんだなと」
先に帰る、と手を挙げ去って行くクロバ。
「……行っちゃった」
「私達もそろそろ行くとしましょう。
きっとリアさんなんかは言わないといつまでも教えてそうだしね」
「ふふ、そうですね。それでは行くとしましょうか」
そう言ってエスラとエーリカ、そしてラーシアは街の人々の手伝いを行っている仲間の元へと歩み出した。
ふいに街に響く鎮魂の旋律。
弾けば返すように波紋が広がった。
人と精霊の確かな絆のメロディーは、いつまでも鳴り止むことはないのだった――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
依頼成功となりました。詳細はリプレイをご確認ください。
後々のことを考え祭を提案するというのは大変素晴らしかったです。
正直そこだけで大成功にしたい気もしましたが……おしかったですね。
MVPは早い段階で祭の提案を相談でだしたリアさんに贈ります。演奏もかっこよかったですしね。
また相談を頑張っておりプレイングでも自身の役割をしっかりこなしていたエーリカさんには称号を贈ります。
依頼お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
湖に沈みゆく街
水底で奏でられるメロディーはどのようなものでしょうか。
●依頼達成条件
水の精霊三体との対話
■失敗条件
水の精霊三体の討伐(二体まではセーフです)
●情報確度
情報確度はAです。
想定外の事態は起こりません。
●水の精霊について
三体いますが、意思は一つです。
元々気性の荒い精霊でしたが、アレンシェの街を作った吟遊詩人の鎮魂曲によって、その性格を落ち着いたものへと変化させていました。
ですが、長い時間が経ち元の性格へと戻った精霊は、強い怒りとともにその力を振るい始めました。
怒りの余り我を忘れているので、多少弱らせて落ち着かせる必要があるかもしれません。
戦闘力は高く、油断できない相手です。
中距離神秘攻撃をメインとし、列や範囲の効果を持ちます。
高EXFで、結構しぶといです。
●同行NPC
ラーシア・フェリルが同行します。
戦闘は得意ではありませんが、趣味で横笛が吹けるみたいです。
演奏はそんなに上手くないです。
イレギュラーズに演奏できる人が居る場合は、邪魔にならないように支援します。
●戦闘地域
湖の街アレンシュになります。
時刻は十六時。
湖側の遮蔽物のない場所となります。
膝上くらいまで水が溢れているため、若干行動しづらいです。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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