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シナリオ詳細

<黄昏の園>赤竜少年はもう少し試したい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ムラデンの思索
「さて、どうしようかな」
 ふむん、とうなりながら、ヘスペリデスの不格好な『建物』でくつろぐのは、赤髪の少年。
 もちろん、ヘスペリデスにただの『少年』が存在できるはずもなく、つまり彼は『人の姿をとれる竜種』――将星種『レグルス』が一人(あるいは一匹)であるということだ。
 天帝種『バシレウス』たるザビーネ=ザビアボロスに仕える竜である彼は、先ごろから『イレギュラーズたちの力を試し始めた』らしい。というのも、ザビーネ=ザビアボロスは、どうも、一族において立場を危うくしているらしい、とのことであった。
 イレギュラーズたちは、何度か竜を『退ける』ことに成功している。もちろん、様々な理由があっての竜の撤退であるが、それが、ザビアボロスの『先代』に当たる竜には、とても気にいらなかったらしい。
 ムラデンにとっても、気持ちはわからなくはない。竜とは生命の頂点であり、人などに後れを取る、と考えること自体がありえないのだ。例えば、軒先にやってきた羽虫に、人間が追い払われるか? と考えれば、竜の思考も理解できるかもしれない。人間をは虫と例えることに納得がいくかどうかは別として。
 いずれにしても、それはムラデンにとっては大変困ったことであった。双子の妹であるストイシャにとっても、困ったことだろう。二人はザビーネに仕える気はあっても、先代に仕える気は毛頭ないのである。
「おひいさまな~~~! アレで結構ぼーっとしてるからなぁ。
 そもそも、先代に目をつけられてることに気付いて……はいるとしても。
 何か手を打つとも……というか、排斥されるなら仕方なし、と考えているかもしれないし……」
 それは困る。非常に困る。あんな面白い主人はそうそういない。
「となると……やっぱり、何かこう……外れ値(イレギュラー)が必要なんだよね。それが、ヒトになるかって考えるのは、とってもムズムズするけれど……」
 ムラデンは、むぅ、とうなりつつ――しかし、頷いた。
「もう一回くらい、試してみるか」
 と、そう、つぶやいた。

●明星種『アリオス』の雛竜
「やぁやぁ、人間諸君。ヘスペリデスの捜索は進んでるかい?」
 ヘスペリデスでの探索を続けるあなたたちの前に、また突然と姿をあわらしたのは、ムラデン、と名乗る竜種の少年であった。
 ザビーネ=ザビアボロスに仕える竜である彼は、先ごろからこちらにちょっかいをかけてきているようなのだが……。
「そんな君たちにお仕事の依頼だぜ? ほら、『女神の欠片』って奴の確保。もうなれたもんだろ?」
 『花護竜』テロニュクスと『魔種・白堊』が、ベルゼー・グラトニオスの苦しみを少しでも和らげるために……という言葉とともに収集を依頼したアイテムが、女神の欠片だ。それは様々な形をしており、卵であったりとか、花であったりとか、するらしいが。
「今回はね、卵のカラだ。それも、アリオス竜の卵のカラだよ」
 ケタケタと笑うムラデンだが、しかしあなた達は緊張を覚えたかもしれない。アリオス。明星種『アリオス』と呼ばれるそれは、竜種の中では最も地位の低い竜であるとされる。
 知能。力。あるいは身分。様々な理由からこのランクに収まってはいるが、それでも『竜』である。その戦闘能力は低位の魔種などとは比較にもならぬほどであり、『討伐』を考えるならば『非常に困難』、といわれてもおかしくはないようなものだ。
「あ、別に竜を殺してこいとかそういう話じゃないよ。無理無理、キミたちにドラゴンスレイヤーだなんて!」
 けらけらと笑うムラデン。悔しいが、しかしそれは一部事実である。今この場で……となれば、現実的とは到底言えます。
「これから僕が案内する、アリオスの巣の主はスパルタでね。親は子供の時から、外敵を自分で何とかするようにしつける。
 つまり、雛竜だけの巣、ってわけだ。
 これなら、殺せはしないまでも、卵の殻を盗んで生きて帰ってくるくらいのことはできるだろ?」
 つまり、こういうことらしい。
 あなた達イレギュラーズたちは、雛竜のいる巣に侵入し、卵の殻を盗んでくる。雛竜は雛といえど強力な竜であるため、倒すことは考えない。ただ、敵の相手を防ぎ切り――。
「あ、巣にはワイバーンがいるから、そいつらにも気を付けてね。
 雛にとってはエサだけど、君たちにとっては大きな障害だ!」
 ……ワイバーンとも戦いながら、という条件が足された。
「どうだい? やってみるかい?
 ま、別に強制はしないけどね。竜の巣に入り込むなんて、君たちには高度すぎるだろ?」
 挑発するように笑うムラデンに、あなたは笑って、依頼を受諾することを伝えて見せた。
 ついでに、このクソガキ、そろそろ理解(わか)らせてやる、と思ったかもしれないが――ひとまず、今は友好的に行こう。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ムラデンと一緒に、竜の巣に侵入してください!

●成功条件
 『竜の卵の欠片』を確保し、竜の巣から離脱する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●状況
 相変わらず人類を舐めている少年竜、ムラデンが、皆さんに接触してきました。
 なんでも、また『女神の欠片』の情報だそうです。今回は、レグルス竜の巣にある、卵の欠片がそうなのだとか――。
 とはいえ、ただ行ってとってくる、というわけにはいきません。相手は雛竜とは言え、レグルス――竜です。まともに戦って勝てる相手の訳がありません。
 ついでに、巣にはワイバーンの類も発生しており、この相手もしなければならないわけです。
 雛竜の攻撃を受けながら、ワイバーンを倒し、卵の欠片を回収して撤退する。かなりハードですが、これを突破できないようでは、ムラデンに、人の力を理解(わか)らせることなどは不可能でしょう。
 作戦開始時刻は昼。作戦エリアは、竜の巣、になります。でっかい鳥の巣、を想像してください。今回登場するレグルスは、たまたまそういう生体の竜の一種なのです。
 あちこちは大木で織られた籠のようになっていますが、人間換算で見れば、巨大な樹木の山でしかありません。
 身を隠せるような場所もありますし、うまく気配を消せば、諸々やり過ごせる……かもしれません。
 巣自体は、半径200mほどのものとします。卵の欠片は中央部にあり、雛竜もそこに存在します。
 皆さんは、巣の端っこから侵入し、中央に向かう形になるでしょう。

●エネミーデータ
 雛竜 ×1
  レグルスの雛竜です。生後一週間にも満たないですが、体長は5mほどのサイズです。眼もろくに空いておりませんが、周囲を感知する鋭敏な近くを持ち合わせています。つまり、こっちのことは容易に悟られます。
  鳥っぽい外見をした竜です。基本的には、くちばしや、爪などによる攻撃、羽ばたきによる風圧などでの攻撃を行ってきます。出血系列や足止系列のBSに注意を。
  すべてのパラメータが高水準の怪物みたいなやつです。竜なので。基本的に倒せませんし、仮にまかり間違って倒してしまった場合、親竜が飛んできます。そうなったら、よくて全滅、悪くて人死に。ですので、攻撃を耐える役や、引っ張って逃げ回る役など、囮をしっかり用意してやった方がいいでしょう。

 巣付きのワーム ×???
  ヘスペリデス近郊に住む、蛇のような亜竜です。巣の辺りに潜んで、雛竜のおこぼれを食べたりしていますが、雛竜にはよく食べられています。自然の摂理。
  毒系列をもたらす牙での攻撃や、足止系列を付与するしめつけなどの攻撃を行います。雛にとってはエサですが、皆さんにとってはしっかりと戦うべき『エネミー』です。
  戦闘を回避することもできますが、倒して死体を放置することで、雛竜がそっちに注意を向ける可能性があります。僅かなターンですが、意識を向けさせられるのは幸運です。さっさと卵の欠片を見つけて、逃げ出しましょう。

 卵の欠片 ×1
  卵の欠片は巨大です。持ち運べるサイズにまで攻撃して砕かなければなりません……。もちろん、手のひらサイズくらいに砕いても、女神の欠片としての力は失われません。砕いたうちの一つが、女神の欠片となります。
  耐久力は高めですが、特に動いたり攻撃したりはしないので、さっさと最大攻撃をぶち込んで破壊してしまうのがいいでしょう。

●味方(?)NPC
 レグルス・ムラデン
  赤毛のドラゴンの少年。今回も物見遊山で皆さんに同行します。
  もちろん味方ではないので、皆さんを助けてくれたりしませんし、皆さんが頑張ってるのを見てけらけら笑っているタイプです。
  頑張って、人間の力を理解(わか)らせてやってください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <黄昏の園>赤竜少年はもう少し試したい完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年06月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

リプレイ

●思惑
「ムラデンとはこれで、都合四回目の遭遇か」
 と、『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はそうつぶやいて見せる。レグルス・ムラデン。強大な力を持つ竜族が一人である彼は、何度かローレット・イレギュラーズと遭遇し、時に交戦、時に依頼者という形でぶつかり合っている。
 わけなのだが。
「竜とはいえ、あっちも露骨に舐めて来てるのは流石にどうかと思うが……ってか今回は特に顕著だったな。
 まるで急かしてる様な煽り方の気がするが……」
 つぶやく。確かに、上位種から見れば、人間などは歯牙にもかけぬ存在か、からかいがいのある小動物といったものだろうか。だが、確かに、なるほど、随分と煽る――というか、挑発、しているようにも感じられる。
「こちらの力を試している、というのは感じられたが。向こうにも何か異変が起きているのだろうか?」
「向こうからしてみれば、私たちの力などを借りたいとは思わんだろうが……」
 ふむ、とうなって見せるのは、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だ。竜と人間の実力差ははっきりしている。力を合わせて立ち向かおう、等という心がけは向こうにはあるまい。
「何らかの利用価値がある、と思われているのならば、今は充分だといえるだろう。そして御主の言う通り、竜側にも何か異変が起きようとしているのかもしれん」
 それは、竜だけでは立ち向かえぬ何かか――ムラデンとストイシャという存在にのみ限定していうならば、おそらくはザビーネ=ザビアボロスに関する問題だろう。まさか『主を殺してくれ』などとは言わぬだろうから――。
「……先代、とやらが気になるな。ムラデンの発言や、他の情報から察するに、随分と人間に対して排他的のようであるが」
「なんにしても、ムラデンさんのお仕事頑張らないとね」
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)が、うんうんとうなづいた。結局の所、今は実利を兼ねて、この仕事を成功させるのが唯一とれる手であるといえる。相手がこちらを見定めているのだとするのならば、その思惑に乗ってやるのもまた一手だ。
「またボクたちにお仕事? ふふーん、ムラデンさんも可愛いところあるのね!」
 そういってみせるソアに、ムラデンは「むぅ?」と声を上げた。
「可愛い……? どういうこと?」
「だって、それなりに『信用してる』ってことじゃないの?」
 にこりと笑ってみせるソアに、ムラデンは「うげぇ」と露骨な顔をして見せた。
「それは思い上がりだよ。僕は――面倒ごとを押し付けてるだけだぜ?」
「それが、信用してくれてるってことじゃないのかな?」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)がほほ笑んだ。
「初めまして、ヨゾラだよー。卵の欠片回収、はりきって行くからね!」
 ムラデンはひらひらと手を振りながら、
「君たち前向き過ぎない? まぁ、別にいいけど。僕としては――」
 そういって、一瞬、言葉を選んだ様子を見せた。
「……まぁ、仕事をしてくれればそれでいいよ」
「はは、試そうと思ってくれてるだけで十分嬉しいよ。
 程よい難易度で良いじゃないか。やってみせるさ」
 そういって笑ってみせるのは、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だ。ムラデンが、再び、む、と口を尖らせた。
「……君たちぃ、なんか調子乗ってない?」
 そういって肩をすくめてみせる。
「今回の仕事は、雛とはいっても竜の巣への突入だからね。なめてかかって死んでも知らないよ」
「だからこそ、やる気が起きるってものさ」
 イズマは、意に介した様子もなくそう言う。一方で、『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)が声を上げた。
「これ後で不法侵入で怒られたりしませんかねぇ……。
 そこは何かあったらムラデンさんに責任取って欲しいものですけど」
 そう、些か不安げに言うのへ、ムラデンはけらけらと笑った。
「子を殺したりしなければ大丈夫さ。まぁ、無理だろうけど。
 ここのアリオス竜は、言ったと思うけどスパルタでね。ある程度の問題なら、自力で解決して見せろ――っていうタイプだ。
 だから、むしろ君たちが雛にやられないかの方が不安だけど」
「ふふ。ムラデンちゃん、お顔だけはかわいいわねぇ。
 ね、たみこちゃん。可愛い坊やね。ほんっと」
 にこにこと含みを持たせつつ、『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)がそういうのへ、
「でしょぉぉぉおおお!?」
 と、『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)が声を上げて、それからこほん、と咳払い。
「いえいえ、クソガ……い、いえ……かわいい坊やのお願いですからね、叶えられそうなら叶えてあげたいんですよ? ね? メリーノ様?」
「上位存在(笑)じゃん。相変わらず重そうだね」
「そういうふうに認知するな~~~~~!!! あと重いって言ったの許してないですからね~~~~~!?!?」
 ぎゃあ、と妙見子がわめく。ムラデンがけらけらと笑った。リアクションが面白いらしく、ムラデンにとってはお気に入りといえばお気に入りである。小動物的な意味合いで。
「さて、そんなわけで巣の近くなわけだど?」
 ムラデンが言う。前方には、まさに鳥の巣をスケールアップしたような構造物がある。木の枝、どころか大樹を引き抜き、編み上げたような籠。それが、ここに存在するアリオス竜の巣である。
「……確かに、成竜の姿はないようだが」
 マカライトが言った。
「……気配は感じる。こちらを見ている。恐るべき、それを」
「スパルタとは言うものの、やはり子は惜しいらしい」
 汰磨羈が続いた。二人の言う気配を、他の仲間たちも感じ取っていただろう。見られている。明らかに。それは、亜竜などというレベルではない、超越的な存在よりの視線だ。親竜が見張っている。積極的に手は出さないだろうが、なるほど、子に被害が大きく及べば、おそらくすぐさま飛んでくるだろう。そうなれば、こちらの壊滅は目に見えている――。
「おじけづいたかな、たぬきは」
「ふん。この程度で泣きを見るようなら、こんな依頼にははなから参加していない」
 にぃ、と汰磨羈は笑うと、
「見せてやるとするか。私が、できる、ねこで、あることを!」
 いささかの私情も含ませながら、戦いへの意気込みを口にする。
「ワームタイプの亜竜も注意しないとね」
 イズマが言う。
「もちろん、雛竜にも」
「うーん、ワームは雛竜の餌みたいなものなんだよね?」
 ソアが声を上げた。
「なら、それを餌にしてあげれば、雛竜は静かになるのかな?」
「じゃあ、基本的には、ワームをやっつけて、それで雛の子にあげる感じで」
 ヨゾラが言う。
「どうかな? もちろん、最初は雛竜を相手にする必要があるけど……」
「そうですね。それに、巣の中央に向かうまでは、ワームたちに見つからないようにした方がいいですよね」
 鏡禍が頷いた。
「僕たちの目的は、あくまで女神の欠片、ですから。
 女神の欠片は、巣の中央、卵の欠片……これは間違いなんですよね?」
 そう、鏡禍がムラデンへ尋ねるのへ、
「それは本当だよ。ただ、卵の欠片を持ち帰られるように、小さく破砕する必要があるよね?」
 ムラデンが答える。
「ということは、少し巣の中心に長居しないといけないわねぇ」
 メリーノがうなづいた。
「欠片を砕くのは、得意なメンバーにお願いして、一気に。
 残りのメンバーは、ワームを倒しつつ、雛ちゃんの相手……かしら?」
「そうなるかと」
 むむむ、と妙見子が頷く。
「というわけで、ひとまず行ってみましょうか。クソ……ムラデンさんもやきもきしているところでしょうし?」
「別にクソガキって呼んでもいいよ。猫がどう鳴いてても上位存在(笑)は気にしないだろ?」
 からかうように言うので、妙見子は「ぐぬぬ」って言った。

●巣の中心で卵をくれと叫ぶ
 さて、意外にも、というべきだろうか。道中はすんなりと進むことができた。そこは歴戦の勇者たちというべきか。ファミリア―などによる先行偵察はもちろん、ワームたちも、わざわざアリオス竜の雛に見つかるような愚は避けたい――という思惑の一致でもあった。必然、戦闘というべき戦闘は、巣の中心に近づいてからになったわけだが――。
「いますね。あれがアリオス竜の雛かぁ……」
 感心、あるいは怖れ、そういったものを半々に抱きながら、鏡禍が言う。一行の眼の先には、一匹の小さな竜がいた。小さいといっても、人間の背丈などは優に超えるサイズである。それでも、「子竜なのだろう」と思わせるのは、まん丸な目や、小さな羽など、見たところで「子供である」と分かりやすく見えたからかもしれない。
「かわいい……だけじゃないんだよね、あの子」
 ヨゾラが言う。確かに可愛らしさはあったが、今うかつに目の前に跳び出せば、玩具か餌かにされてしまうだろう。相手は竜だ。良くも悪くもスケールが違う。
「雛とはいえ、確かに感じる、この緊張は」
 妙見子が声を上げる。
「確かに竜ということなのでしょうね……」
 ムラデンと相対したときの、あの圧倒的な性能差を思い出す。相手はレグルスではなく、下位のアリオス竜になるわけだが、それでも、竜に違いはない。
「たみちゃん、大丈夫かしら?」
 メリーノが尋ねた。
「……たみこちゃんにも、お願いする作戦だから」
 心配げに言うメリーノに、妙見子は笑ってみせた。
「問題ありませんとも! あのクソガキにまた上位存在(笑)とか言われたら業腹ですからね!」
 ちらり、と巣の外縁を見てみれば、ムラデンが退屈そうにこちらを眺めているのが見える。
「なら、予定通りと行こう」
 汰磨羈が言った。
「マカライト、鏡禍。まずは二人でワームどもをつってほしい。
 妙見子とイズマ、二人は雛竜の抑えだが、無理はするな。なるべく早く『餌』を用意して、足を止める。
 ソアとメリーノ、は遊撃チームだが、特にワームの早期撃破を狙ってほしい。二人が頑張れば、それだけ妙見子とイズマの負担が減らせる。
 私とヨゾラは、速やかに卵の中から女神の欠片を発見して、破砕、回収。
 これで行くぞ!」
「おっけー! 任せて!」
 ソアがにっこりと笑い、イズマがうなづく。
「竜の抑えだ。ドラゴンスレイヤーとはいかないまでも、きっと充分に誉れなことだからね」
「善は急げだ。行こう鏡禍」
 マカライトが、ティンダロスに乗り込み、跳び出した。
「はい! 皆さん、ご武運を!」
 鏡禍が声を上げ、それに続く。果たして巣上に飛び出してみれば、なるほど、蛇のような外見の亜竜、ワームの姿が見える。
「引き付ける! 手伝ってくれ!」
「お任せください!」
 マカライトの言葉に、鏡禍が頷いた。マカライトと鏡禍は、その身の内にたぎる炎を、具現化させるように念じる。発現した焔は、ワームを巻き込むように飲み込んだ。シャァ、と鋭い声を上げて、ワームたちが二人へと迫る! 一方、その動きを確認したのだろう、雛竜の眼がピコピコと動いた。
「あっちも動く! 止めに入ろう!」
「いいですとも~!」
 続いて飛び出したのは、イズマと妙見子のコンビだ。イズマが、その細剣を指揮棒のごとく鋭く振るった。剣戟の音色が、まるで楽器の奏でるそれのごとく変化する。同時に、剣戟は剣閃となり、雛竜の鱗に浅い傷をつけた。
 蚊に刺されたような、という比喩があるが、竜にとっては、初撃などまさにその程度のダメージだろう。とはいえ、雛竜の注意をひくことには成功している。あとは、仲間たちを信じて、耐えるのみだ。
「さ、ここからが大変だ。雛とはいえ相手は竜。僕らは伝説に立ち会ってるわけだけど――」
「伝説というのならば、私も元の世界では伝説っていうか神でしたから! まけませんとも!」
 妙見子が身構える。しかし、決死の覚悟で立ちはだかる勇者たちにそそがれたのは、奇妙なおもちゃを見つけた完全上位種の好奇の眼であった。
「あんまり時間をかけてられないね!」
 ソアが叫ぶ。マカライトと鏡禍が誘引したワームたち、その数は、現在3である。時間をかけていられない。それは、無駄に時間をかけることで増援としてのワームが登場する可能性をさし、同時に雛竜を相手にする二人の限界点を察しての言葉でもあった。
「メリーノさん! だしおしみなし! 一気に行こう!」
「ええ、まかせてぇ?」
 くすり、と笑い、メリーノがゆっくりと大太刀を構える。ふっ、と息吐き、走るは剣閃。空間を裂くが如き一筋。それは目の前にいた、三匹のワームを、一気に切り裂いた! シャアァ、と舌を鳴らすワームが、そのしっぽを鞭のように叩きつける。狙う一撃は、しかし鏡禍の薄紫の霧が受け止めた。
「……! さすがに、領域の奥にいる亜竜……!」
 走る衝撃。攻撃力は高いらしい。おこぼれ狙いのワームとはいえ、人から見れば十分な脅威といえるだろう。鏡禍は打ち払われたしっぽを再度きりで受け止めながら、
「攻撃は僕たちで引き受けます!」
 叫ぶ。マカライトは馬上ならぬ猟犬上で妖刀を振りぬきながら、
「もちろん、俺達も攻撃に移るが。メインアタッカーはお前たちだと思ってくれ」
 そう、声を上げる。今回の作戦において、役割は明確だ。各々役割を十全にこなせれば、難しいと言えど、クリアできない任務ではないはずだ!
「そう言われちゃうと、やる気が出てくるわねぇ」
 メリーノが再び、大太刀を薙ぎ払った。三匹のワームが、シャア、と悲鳴を上げる。斬撃を受けたワームのうち一体を指して、
「あの子が一番、弱ってるわぁ!」
 叫んだ。
「りょうかいっ!」
 飛び込んだのは、ソアだ。飛び込み、抱き着くように、ワームのを締め上げる!
「これで、いっぴき!」
 ぎゅ、と肺と肋骨を締め上げる! ぎゅえと、悲鳴を上げたワームが、酸欠で白目をむいた。
「不殺でおとどけだよ!」
 そのまま、ソアはワームを持ち上げると、雛竜の方へと放り投げた。
「ボクはグルメ、違いのわかる虎なのよ」
 生餌の方がいいだろう、という判断なわけだが、少なくともぴくぴくと動くワームが、雛竜の注意をひいたのは間違いないらしい。それまでイズマと妙見子に向けていた視線を、雛竜はごちそうが来たとばかりにワームに向けて、走りだした。口を大きく開けて、ワームをばくばくとついばむ。
「……! スケールが凄いな……!」
 あきれたようにイズマが言う。だが、のんびりもしていられまい。この食事のペースなら、数十秒後には食べつくしてしまうだろう。
「ご飯の方! 次々お願いします! その間は、こちらもお手伝いしますので~!」
 妙見子が叫ぶのへ、皆がうなづく。
 さて、その一方。巣の中心で、汰磨羈とヨゾラが、卵の欠片をひっくり返していた。女神の欠片はすぐに見つかったが、これを運搬できるサイズまで砕くのが骨という状況だ。
「カチ割りRTAだな。速攻で砕く!」
 汰磨羈の妖刀が、卵の殻を切り裂く――が、それはまだ、表皮に線を入れた程度に過ぎない!
「ええい、鉄ででもできているのか!? いや、斬鉄くらいなら私でもできるが、それ以上に硬いぞ!?」
「さすが竜種、卵も固い……全力で砕く! 星の破撃!」
 ヨゾラが叫び、殴りつけるように、凝縮した魔力を叩きつける。がりり、と表面が削れるが、まだ内部までは浸透していないようだ。
「くぅ……! まずいね。早く戻らないと、皆が……!」
「とにかく叩き続けるしかあるまい! 重ねて穿つぞ、ヨゾラ!」
 汰磨羈が妖刀を、構え、鋭く呼気を吐きだす。一閃――いや、付きだ。一点集中。この場合は、麺より点での破砕を優先とする!
「この一点に集中を!」
 汰磨羈が叫び、
「これで、砕けろーっ!」
 再びの、ヨゾラの凝縮された魔力が、卵の殻に叩き込まれた――!

「欠片ゲット! 撤退するよ!」
 ヨゾラの声が響く。仲間たちが視線を送れば、こわきに石板のような殻を抱える、ヨゾラと、しんがりを務める汰磨羈の姿が見えた。
「よし、撤退するぞ! 妙見子、弾幕を張れ! とにかく、雛竜の眼をくらませるんだ!」
「承知! メリーノ様! 最後のワームもぶん投げちゃってください!」
 妙見子がそういうのへ、メリーノはうなづいた。
「はーい! ソアちゃん、いっせーの!」
「せっ!」
 二人がワームを放り投げる。雛竜の視線が、ワームの方へと向いた。
「よし、今のうちに、みんな、逃げよう!」
 イズマが叫ぶ。しんがりを務めるように、仲間たちが撤退を開始するのを確認する。
「ルートはすでに確認しています! 最短で抜けられるはずです!」
 鏡禍が叫ぶのへ、マカライトがうなづいた。
「助かる! 先導を頼む! 動けないものはいないか? 万が一があったら言ってくれ!」
 ティンダロスとともに進む、マカライト。ワームを食べつくした雛がこちらの様子に気付くが、如何に竜とは言え、充分の距離をとったイレギュラーズたちをに追いつくことはできないだろう……。

「おお、ちゃんとやってきたんだ。すごいね」
 こちらに向かってくるイレギュラーズたちを見やりながら、ムラデンは独り言ちた。
「うん……使えそうだ」
 そういって、にこりと笑う。
 おそらく、時間がない。ムラデンにとっても、ザビーネにとっても。
 それは、彼の中の運命が、異なる方向に動いた瞬間でもあった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様は、無事にムラデンのオーダーを完遂。
 またちょっと好感度が上がりました。

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