PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ハハチカシ、スグニゲロ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●そんな手紙が届いたんだ。

 ――ハハチカシ、スグニゲロ。

「ん?」
 クラブ・ガンビーノの拠点で何故かスナック菓子を持ち込んでごろごろとしていたしにゃこ (p3p008456)の元に一通の手紙が届けられた。
「どうして此処に手紙が届くんだよ」と足先で軽く蹴ったルカ・ガンビーノ (p3p007268)へと「美少女がいるだけで士気があがりませんか? 感謝しても良いんですよ?」としにゃこは自慢げに笑っていたのだった。
「あ」
「は?」
 その手紙の内容にしにゃことルカは顔を見合わせたのであった。


「皆さんお集まり頂きありがとうございます!
 しにゃの手に入れた確かな情報によると今から傭兵部隊がクラブ・ガンビーノに襲撃してきます! 理由はよく解らないです!」
 堂々と宣言するしにゃこの傍では不服そうな顔をして居るルカが立っていた。
 突然、傭兵団『サンセットスイーパーズ』が強襲してくるというのだ。一体何の騒ぎだとクラブ・ガンビーノもざわついている。
 ルカは『サンセットスイーパーズ』の団長を知っていた。それ故に「気にすんな、気にすんな」と団員達に声を掛けたわけだが――
「その……『サンセットスイーパーズ』とは?」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)は悩ましげな表情で問い掛けた。
 ラサの傭兵団『サンセットスイーパーズ』は其れなりに歴史があるそうだ。今は後継者が居らず、今後どうするかなどと噂されているが――どうやら三代目の団長が『娘を鍛え直して団長にする』つもりなのだとも風の便りで聞いた。
「しにゃの母です」
「……は?」
 つまり、鍛え直されるサンセットスイーパーズ次期団長候補、こと、三代目サンセットスイーパーズ団長シーナの一人娘がしにゃこである。
「残念なことにこいつとは小さい頃から知り合いでな……」
「ルカ先輩、知ってます? 幼馴染みって一番少女漫画では恋がデェッ」
 いきなり何処かからボールが投げ込まれた。視聴者からのブーイング――ではなく、フラン・ヴィラネル (p3p006816)の批判である。
「そういう話じゃなくって、どうしてお母さんが強襲してくるの?」
「あ、そっちでしたか」
「幼馴染みの方は、今は! 置いておいて!」
 フランが頬を膨らませ抗議すればルカが肩を竦めた。幼馴染みの立場にあるルカとしにゃこ。ルカはしにゃこの『パワフルすぎてキャラが濃い母親』に詳しいらしい。
「分かりません」
「……待って、お母さんがくるんだよね? それで、分からない?」
「はい」
「……え、と、家庭内でちょっとアレ?」
「あ、しにゃ、家出してるんで」
「……」
 頭が痛くなった越智内 定 (p3p009033)は「ちょっと修羅場?」と小さな声で笹木 花丸 (p3p008689)へと問い掛けた。
 花丸は「どうなんだろうね」とそれはそれは小さな声で囁く。二人で噂話をする希望ヶ浜ペアにしにゃこは「お二人ともー、ちょっとー、しにゃがヒロイン回ですけどー?」と声を掛けた。
「いや、お母さんが何しに来るか分からないと手の打ちようもないんじゃないか?」
「そうそう。そうだよね」
 困った様子で問うた秋月 誠吾 (p3p007127)に花丸はしきりに頷いている。
 花丸の眸は『ホント、何してるの?』と言いたげだ。しにゃこは花丸のそうした視線には慣れっこである。
「……継ぐ気はあるのですか?」
「リュティス?」
「ご主人様。跡継ぎを鍛え直すという話でしたが、ラサの傭兵らしき行動はあまりせず寧ろ練達在住を匂わせております」
 リュティス・ベルンシュタイン (p3p007926)は表情を崩さずにそう言った。
「つまり母親からするとしごき直して傭兵となる道へと引き摺り戻すのでは――」

「その通り!」
「あっ、でた! 妖怪!」
 外から聞こえた声にしにゃこが思わず叫んだ。
「誰が妖怪だ! ボンクラ娘ェ!!!!」
 外から聞こえた声にルカは「あれがサンセットスイーパーズの団長シーナだ」と指差した。
 しにゃこの母親にしては……妙に可愛らしく幼い少女が立っている。着用して居るのも現代的な衣装だ。
 愛らしいコスチュームとは裏腹にやけに屈強な獣種達を連れてクラブ・ガンビーノへと襲撃を仕掛けている。
「ボンクラ、構えな!」
「ひーっ、有無も言わさず来ますよ!? ええい、あの妖怪コスプレババアをどうにかしましょう!」
「このポンコツ! 誰が妖怪コスプレババアだ、表でろ!」
 唐突に始まった親子喧嘩――これは『授業参観』だ。
 家出娘の実力がどの様に進歩したか。わざと負けるつもりのないシーナは見極めるつもりである。
 足を引っ張るほどに未熟か、味方を見捨てて逃げるようならば連れ帰って鍛え直すつもりである。
 さあ、早速、全方位を巻込んだ親子喧嘩を始めようか――!

GMコメント

●成功条件
 シーナちゃんを納得させる

●フィールド情報
 クラブ・ガンビーノです。ルカさんは何故か巻込まれた上に自分の拠点を荒されます。怒って良いと思う。
 入口側からシーナがやってきます。裏口にはしにゃこを逃がさないための伏兵がいます。
 スタンダードな戦いです。シーナちゃんは小細工は嫌いです。

●サンセットスイーパーズ
 ・『餓えた紅蓮』シーナ
 団長です。しにゃこさんのお母さん。若い見た目ですが、年齢はそれなりです。
 性格は傭兵らしくサバサバしており雑で粗野。攻撃的。気性も荒いですが、愛らしい服装を好みます。
 ちなみにお手紙を出したのはしにゃこさんの父のももいろぱるふぇ先生です。
 パワーを生かして戦います。小細工はなく、正面突破を狙います。自身に注目を集めるという戦法をとります。
 しにゃこさんがある程度戦えたか、『しにゃこさんがお眼鏡に適わない』時点で戦闘を終了させます。

 ・団員達 7名
 選りすぐりの団員です。シーナが前線で壁として戦う中、団員達は連携します。
 回復手が2名、後衛からのアタッカーが3名、シーナの補助役でオールラウンダー2名です。
 また、裏口にはこの数には深めない伏兵が存在しています。

 ・ももいろぱるふぇ先生
 こっそりと覗いているしにゃこさんのお父さんです。練達の漫画家さん。
 娘と妻の楽しげな様子に微笑みを浮かべています。笑ってる場合じゃないぞ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ハハチカシ、スグニゲロ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年06月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
越智内 定(p3p009033)
約束

リプレイ


 迫り来る紅影――『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)の運命とは如何に!?

 頬杖を付いて凄まじく面倒だと言わんばかりに表情を歪めた『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)はじとりとしにゃこを眺めた。
「オレ、ルカさんのところで飲めそうな酒を教えて貰うつもりで来ただけなんだが?」
 にこにこと笑うしにゃこをぐいぐいと引っ張っているポメ太郎は「しにゃちゃん、怒られる前に謝っておいた方が良いですよ!」と犬ながら利口すぎる嗅覚で『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の怒りを察知していた。
『地獄のダイエットマラソンが始まっちゃいます! ふんふん、何やらしにゃちゃんに似た匂いが二つするような……?』
 そう、二つの匂いがあるのだ、が、どうやらご主人様こと『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は『一つの匂い』に注目しているようだ。ポメ太郎は首を傾げた。
「登場もそこそこに戦いになって終いそうだが……スピード感かな。
 ポメ太郎、まだ遊びたいのは解るが危ないからな、離れて避難しておきなさい。
 大丈夫、心配しなくても散歩にはまたしにゃこが連れて行ってくれるさ。ダイエットマラソンかも知れないが……」
 ベネディクトの言葉の裏にリュティスの冷ややかで見下すような眸があるような気がしてポメ太郎は縮こまったのであった。
「「うーん」」
 二人揃って思わず呻いた『堅牢彩華』笹木 花丸(p3p008689)と『綾敷さんのお友達』越智内 定(p3p009033)。
 ここはクラブ・ガンビーノ。つまりは『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)の店である。外に出て、今から起る事態への対策……というには時間が無い。
「私達も表に出たいのは確かんだけど、これ表に出るまでもなくお店の中で大乱闘コースだよね? ホントしにゃこさん、そういうトコだよ?」
「えっ!? しにゃの所為じゃないですよね!?」
 本当に驚いたような顔をしたしにゃこにルカが嘆息した。確かに、『招かれざる客人』こと、彼女にもよく似た立ち姿の女が此方に何故か進軍してきている。その姿にも、引連れられる人々にもルカは見覚えがあった。何せ、二人は――
「んもーしにゃこさんのおばか! ボンクラ! 幼馴染羨ましい! ポンコツ! やかましピンク!」
 私情を挟んだ『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の言う通りしにゃことルカは幼馴染みだ。
「なんでルカさんのお店で親子喧嘩するのー! 表出ろー!
 ……でもルカさんのお店守る為だし仕方なく一緒に戦ってあげる! これはしにゃこさんの為じゃないからね! もー!」
「喧嘩したくてしてるんじゃないですよ!? あの妖怪コスプレババアが勝手に来たんですからね!
 でも、大丈夫です。皆揃ってならあの妖怪コスプレババアをギャフンと言わせられますよ!
 あっちはハイエナ軍団ですがこっちにはライオンとライオンと欲張リスがいます!」
 胸を張ったしにゃこに『欲張リス』から非難がましい視線が投げ込まれる。ルカは嘆息しながらゆっくりと立ち上がった。
「ま、シーナの姐御には世話になったし、やり合えるのは正直歓迎なんだが……
 俺の店ではやりたくなかったな……ぶっ壊れたモンは姐御としにゃこにツケとくか。折角のパーティーだ。楽しんでいこうぜ」
 シーナ。それがしにゃこの母の名前だ。傭兵団サンセットスイーパーズを率いる女傑。特筆すべきは愛らしい外見と、身に纏う衣服。傭兵という肩書きとのアンバランスさを醸し出す女は勢いの良い発破を掛けた。
「クソ莫迦娘ェ!」
 通る声がぎいんと響き渡る。思わず竦んだのは定だった。余所の母さんが怒っている声を聞くと自分事でもないのに謝りたくなってしまう系男子である。
「……家出にお家騒動、親子喧嘩。僕みたいな部外者が顔を突っ込んで良いのだろうか。スンマセン……。
 いや、でもしにゃこちゃんには何度も助けて貰ってるしなあ。けれど、最後にどうするかはやっぱりしにゃこちゃん次第だから……助けられる部分だけ手伝おう、うん」
 ほんと、スミマセンと肩を竦めた定に気付いたのかシーナは明るい声を上げてから、「少年!」と定を呼んだ。
「ウチのボンクラが世話になってるね。申し訳ないが、付き合ってくれ。……進路決定には必要不可欠ってやつだ! なあ、ルカ!」
 ルカは「ウチの店ではやめろよ」と思わずぼやいてしまったのであった。


 シーナは意気揚々と正面突破でやってくる。彼女の戦い方をルカもしにゃこもよく理解していた。前線に彼女が飛び込んできて、暴れ回る。
 団員達はそんな団長を盾に後方から支援と言い切れぬ弾幕を張って敵を圧倒するのだ。サンセットスイーパーズの『紅風』が通った後に残るのは塵一つとて許さない。そんな話を思い出せば心も躍る。
 リュティスと定に引き続き、店内の保護を行なうべく気を配っていたフランはふう、と額の汗を拭った。
「これでルカさんのお店は安泰だよね、まさかテーブル盾にしたりする人はいないもんね……ァ? しにゃこさん?」
 何故か、テーブルを盾にして身を隠していたしにゃこが愛用の可愛らしいパラソルを『刳り抜いた穴』から突き出していた。
「ふふん。このテーブルもしにゃの盾になれて喜んでます! ルカ先輩の物だけど。
 そして弾は潤沢にリュティスさんが補充してくれます! 全力で行けます! あの鬼メイドがしにゃの為に……やはり友情の力は偉大ですね!」
 リュティスの肩をぱんと叩いて、警告でもしているかのような冷めた視線を贈ってきたのは屹度気のせいではない。本来ならば、しにゃこを放置して帰りたかったリュティスだが、ルカの店を見捨てる訳にはいかなかった。
(……まあ、この親にしてこの子あり、とも思いましたが根は真面目な話なのでしょう。進路決定と言うからには――)
 不真面目そうに笑っているしにゃこを見詰めてからその肩をぎりぎりと握ったリュティスはそっと手を下ろした。「痛い痛い、何するんですかこの鬼メイド!」と叫ぶ声は聞こえないふりをした。
「ああっ! んもーばかー! 傷なんて全部治してあげるから店の物バリアー厳禁!」
 大騒ぎをしているしにゃこを見ながら花丸は息を吐いた。どうやらこの進路決定の場には『他の友人達』の存在も含まれているらしい。此処で見捨てれば人望がないとでも言われてさっさと連れ帰られてしまうのか――まあ、それはそれで……。
「これでも一応は友達だからね! 止めさせて貰うよっ!」
 性根の部分だけは鍛え直して貰えば良いのにと呟いた声はシーナの耳に入ったか。花丸を面白そうな顔をして見詰めている。
「しにゃこさん! あとで思いっきり耳を引っ張るから覚えておいてよね! このままだらだら戦っててもお店の中が大惨事だよ、さっさと行こう!」
「ああ、後であのボンクラ娘に何したって良い! 全力で! おいで!」
 シーナが大地を蹴った。その跳躍を見上げ――ちか、と視線に太陽の光がちらついた。店の外から、一気に攻め入るために入ってくるシーナの目眩ましか。最初から『外に居る自分の存在』を示していたのはこの小細工のためだったか。
 だが――「ハイハイ! この場をとりあえず何とかすりゃいいんだろ? しにゃこ。後で何か奢ってくれよな?」と軽口を叩いた誠吾がシーナと共に攻め入らんとした団員の一人の前へと滑り込んだ。
(……いや、マジ、早く外に出たい。此処に居る全員の火力半端ないんだが? 酒瓶が不安なんだが……せめて、高い酒だけでも……)
 酒を楽しみたかった誠吾、しにゃこの奢りで利き酒をすると言う事で心を決めて、店内へとなだれ込んできたサンセットスイーパーズを受け止める。
 陽の光に目を眩まされたがそれだけで崩れる訳もない。花丸が「うっ」と呻けば定は直ぐさまにカバーに入った。
 突如として始まった戦闘。誠吾は店内に勢い良く飛び込んできたシーナを見て思わず目を剥いた。
「で? アレがしにゃこのかーちゃ……若くね? いや実年齢はそこそこなんだろうけどこれ以上言うと俺消されるな」
「ババアですよ、あれ!」
「しにゃこちゃん! お母さんにババアなんて言っちゃダメ!」
 もごもごと口を動かした誠吾の言葉を繋げるように揶揄うしにゃこ。窘めた定の様子を見ていたシーナがくつくつと笑う。ああ、だからこそ『しにゃこの友人込み』で此処に飛び込んできたのかとルカは承知した。
「こうやって肩を並べるのも久しぶりだな。行こうぜ相棒! クラブガンビーノの団長として、格好悪いところ見せる訳には行かねえからな!」
「最近はこう言った機会も余りなかったからな。久々に二人で暴れてやるとしようか!」
 正直なことを言えば、思う存分に何も気にする事も無く暴れ回る機会に恵まれたことで心が躍っているのだ。ルカもベネディクトも何も気にする事は無く、後方へと突撃していく。シーナを引き寄せる花丸に、前線をそれ以上は進ませない定と誠吾。
 ならば――狙う相手は継続戦闘の要だ。分かり易い程の布陣であるのもイレギュラーズとしにゃこの連携を見る為なのだろう。
(つくづく、子供思いの親御さんだな)
 そんな事をぼんやりと考えながらベネディクトは槍を慣れた仕草で構える。続くルカは片手で易々と持ち上げた両手剣で力一杯、傭兵へと叩き降ろした。
「クラブ・ガンビーノとサンセットスイーパーズの戦いならどっちに転んだかわからねえが……。
 あいにく今日は団以外の助っ人が粒ぞろいでな。悪いが蹂躙させて貰うぜ!」
「サンセットスイーパーズも『参観日』モード! 負ける訳にはいかないんでね!」
 今なんて言ったと言い掛けたルカの唇が吊り上がる。幼少期から見てきた傭兵達の動きは理解しているようでしきれていない――ああ、なんと楽しい戦いか。
「流石に易くは崩せんか。さすがは歴戦の傭兵なだけはある……だが!」
 ベネディクトは自身達の戦い方をサンセットスイーパーズは未だ読み取れていないことを理解していた。彼らの様に決まった戦術をとり統率を行なう事で連携を強固にする傭兵達の戦い方も一理ある。だが、イレギュラーズはその場その場で戦術を変え、方途を尽くし戦ってきたのだ。
 ベネディクトの眸がぎらりと光った。ルカが作り出す敵の隙を縫うように、穿つ、獣の如き一撃。
「うわあ」
 思わず呟いたしにゃこ。回復手、後衛火力、そして前線へとシーナ以外で継続戦闘を崩すために段階を踏むセオリーを真面目に覚えたのはイレギュラーズになってからだった。自らの経験もその躯の中で息づいているのだ。
「選手交代、此処からはしにゃこさんシールドだーっ! ……じゃなくて、反撃開始だよっ!」
 拳を振り上げた花丸に定は「あ、待って」と声を掛ける。
「調度品とかも凝ってそうだし……触りたくねえ~……
 アッ! アァ~~~!!! 意図的に盾にしちゃったら壊れ、壊……しにゃこちゃあ~~~~ん!!!?」
「え?」
 ぱちくりと瞬くしにゃこに定は「サンセットスイーパーズの団員の皆さんはこの親子喧嘩、正直どう思って戦ってるんですか?」とこっそり問うた。
 正直、結構被害がありそうだが其処の所はどうなのかと問えば、彼等は「楽しいよ」と囁いた。
 ――団長、あれだけ嬉しそうなんだからさ、跡継ぎなんて勝手に決まるし偶には良いよね、との事だ。
 心優しい団員達に見守られた親子喧嘩も佳境に迫る。
「ガキの頃からアンタには世話になってるからな。どの程度やれるようになったか見せてやるよ!」
「楽しみにしてるよ、ルカ!」
 シーナにルカは唇を吊り上げた。周辺の敵を食い止めて「今は邪魔立てなしです」と囁いたリュティスも何か思うところがあるのだろうか。
「俺あんまり長い時間もたないからな? 回復頼むぜ。あと倒れたら後は頼むな!」
「分かってるよ! でも、頑張ろうね!」
 気合いでばちこーんと背中を叩かれた誠吾が「ウッ」と思わず呻いた。フランは真剣そのもの、その理由を誠吾も理解している。
 この戦いの結果次第ではしにゃこは実家に連れ戻される。ルカがこっそりとぼやいていた。どれだけ彼女が成長したのかをみださめに来たのだ、と。
 ベネディクトやルカの背中を丁寧に押してから「ばーか!」と言いながらしにゃこの背を叩いた事を思い出す。
 扱いの差を感じると拗ねていたしにゃこが居なくなる――?
「しにゃこさんのおかーさん!
 確かにしにゃこさんはやかましいしずズル賢いしたまにウザいし鍛え直した方がいいとは思うけど!
 でも、しにゃこさんはあたしが雑に――んと、なんかすごい気楽に話せて! 大事なお友達で! だからその……連れてっちゃやだー!」
 心の底から、フランは叫んだ。そんな風に思って居るなんて、としにゃこはゆっくりと前へと歩み出した。
「かましてこいよ、しにゃこ」
 巫山戯た言動はよく見た。日常の文句だってある、だが、彼女がそう振る舞っていても――やるときは遣る奴なのだ。
「お母さんッ!」
 ちゃんと呼び掛けたのは久方振りだった。ママと呼ぶのは気恥ずかしい、クソババアとは呼ぶタイミングではない。
 背を押されてシーナの前に立ったしにゃこはぎゅ、と拳を固める。母の眸がしにゃこを見て居る。
 此処で間違えれば、連れ戻される。しにゃこの唇が僅かに震えた。見守るフランも『喧嘩友達』の動向を眺めて居るだけだ。
「傭兵なんてとか言いましたけど、その仕事でしにゃを育ててくれた事も解っています!
 イレギュラーズのお仕事で大人の苦労も少しは理解したつもりです!」
「なら、分かってんだろ、『跡取り娘』ッ!」
 シーナの声にしにゃこは唇を噛み締めた。分かって居る。サンセットスイーパーズを継ぐだけの経験も、心得も手にしている。幼馴染みのルカのように団を率いる事だってきっと。――けれど。
「でも! ポメ太郎の散歩もしなきゃいけないし! 練達の友達とはまだ遊び足りないですし!
 最近できた超親友の金ピカ竜にしてあげたい事もあります! それに!」
 沢山の経験をして、世界を見てきたからこそ。ただの傭兵ではなく『イレギュラーズ』になったからこそ。
「この子の為にも……してあげられる事が私自身、まだ掴みきれてないんです! だから帰れません!
 今回は逃げません! 殴られてもへこたれません! これが私の覚悟です!」
 Bellの刺繍が小さく刻まれた蒼い鳥のポーチだった。親友だと告げれば彼女は「Cちゃんの生きる理由になるとかやばくね?」と揶揄い笑うだろうか。
 けれど、『生きていたかっただろう彼女』の生きる続きを紡ぐのが親友の役割だと、しにゃこは認識してる。
「しにゃこ!」
「これが、私の覚悟だから――!」
 受け止めてくれと叩き込もうとした拳を。
 シーナは呆気なく受け止めてから「母さんを殴るなよ、莫迦娘」と困ったように笑ってから抱き締めた。


「いっやァァ、しにゃの活躍のお陰で無事クラブ・ガンビーノの平和は守られましたね! お祝いにご飯食べにいきましょうか!」
 ふうと汗を拭ったしにゃこに花丸は「そうだね、お疲れ様会をしようね! しにゃこさんの奢りでっ!」と微笑んだ。
 折角のクラブガンビーノだ。会場は此処にあるとうずうずとしている誠吾に定は頷いた。成人したからには様々な酒を楽しみたいと考えるのは当たり前のことである。
 全員を回復し、手当を行って居たフランは「あ、こらー!」と一同を振り返る。
「まずはお片付けでしょ! せーごさんもジョーさんも働いてね! 花丸さんも残業だよ!」
「……ええ。食事は注文しました」
 せっせとフランと共に被害総額を確認していたリュティスは領収書をそっとしにゃこへと差し出した。ラム肉の料理やブルーチーズナンが気になるのだと料理のレパートリーの観点で各種、遠慮無く注文したらしい。残業という言葉に苦しむホワイト花丸は胸を押さえていたのは屹度気のせいだ。
「え、しにゃが奢るんですか! 可愛いしにゃに奢るんじゃなく!? お願いですから、高校生のお財布に優しい具合でお願いします!
 頑張ったのに! これじゃあ扱いがいつもと一緒じゃないですかぁ! あんまりです! 甘やかしてくださいよぉー!」
「何を仰いますか。ローレットで仕事をすればお小遣いは無制限のような物です。頑張る理由が増えてよかったですね」
 さらりと『これからもローレットに居るのだろう』と告げてくれるリュティスにしにゃこの頬が緩んだ。支払いは一纏めにするのだと認識してからルカは「おい、テメェら!」と団員達に声を掛ける。最高の酒とリュティスが注文した料理に含め最高の料理を持ってこいと指示をしているようである。
 掃除を終え、料理が運ばれてくる様子を眺めながら誠吾は新鮮だと瞬いた。定も余り慣れていないラサの料理に目を丸くしている。
「腹減ったから肉とかくいてー。ラサ料理ってなんだ? 酒も良いのあるかな?」
「ビールは飲んでみたんですけど、あまり合わなくて。ラサの方だと蒸留酒とかで良いのないですかね」
「ジョー、セーゴ。ウイスキーはどうだ? ガバガバ飲むんじゃなくて香りを楽しみながらチビチビやりゃあ良い。
 フランには口当たりの良いワインなんかが良いんじゃねえか。……あんま、勢い良く煽るなよ?」
 ルカに酒を勧められている様子を眺めながら花丸は唇を尖らせる。成人すると酒をたしなめるともいうが――
「お酒ってそんなに美味しいモノなのかな?
 まっ、今回はしにゃこさんのお金で美味しいモノ食べられるし気にしても仕方ないよね。私だって後1年の辛抱だしっ!
 ……あ、これ美味しい。 すいませーんっ! この料理追加でお願いします、支払いは勿論しにゃこさん払いでっ!」
「ええー!?」
「ワインってあんまり飲んだことないかもだったけど美味しくてふわーってしてえへへ、なんかたのしー! ぽめたろーものむ??」
「あっ、ちょ、欲張リスしすぎですよ!?」
 慌てるしにゃこを眺めてフランと花丸が楽しげに笑っている。眺めるリュティスの視線も柔らかだ。
「しにゃこもまぁまぁやるようになっただろ?」
 シーナの隣にどかりと腰を下ろしたルカはこっそりと「あんな感じだけど支払いは――」と口を開きかけて膝をばしんと叩かれたことに気付いた。
「坊主もいっちょ前の大人になったな」
 ルカは『母親』というのはこう言う物なのかとシーナを見て笑う。可愛らしく見慣れた絵柄の紙封筒には「ルカくんへ♪」と愛らしい文字が躍っている。
 勿論、シーナのものではなく――
「先生、見てるだけか?」
 ひょっこりと顔を出したのはポメ太郎に『わんわん(どうも! 初めまして! 僕、ポメ太郎です! こんな所で隠れて何をしてるんですか?)』されていた『ももいろぱるふぇ』先生だった。
「ぱぱですよ、マイエンジェルしにゃこちゃん! 逢いたかった! 今日も可愛いね!」
 にんまりと微笑んだももいろぱるふぇは娘に飛び付きかけたが丁寧に皆へと挨拶をした。自身がももいろぱるふぇという名前で漫画化をしていることなどを告げればその代表作に花丸と定は見覚えがある。
「あっ、ひよのさんが前に読んでた気がする」
「あ、僕も見たことある。サイン貰えますか? なじみさんが単行本持ってたんだ。自慢できるぜ……!」
 勿論だとさらさらと何故か持ち込んでいた代表作『らぶりー魔法少女しぃちゃん』にサインを行なうももいろぱるふぇ先生。
 嬉しそうに笑った彼の傍で尾を揺らしていたポメ太郎はぐいぐいとしにゃこを引っ張った。
「もうこうなったら遠慮しないです! しにゃも食いまくってやります! ポメ太郎も食べなさい! もう、なんですか!?」
 終ったのならば散歩ですよ、はよはよ、と急かすポメ太郎に「今はご飯ではー!?」としにゃこは叫ぶ。
「本当に、お前らといると退屈する暇もねえな」
 くつくつと喉を鳴らして笑ったルカとグラスを打ち合わせてからベネディクトは「そうだな」と眼を細めて笑った。
 当たり前の平穏を眺めて居るだけでそう思えるのだ。酒は飲んでも飲まれるなとシーナがフランに水を渡して甲斐甲斐しく世話をしている様子を身ながら、ベネディクトは穏やかさが戻った日常を味わうようにグラスを傾けた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 マイエンジェルしにゃこちゃん……パパも見て居たよ……。

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