PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<伝承の帳>Holy, Holy, Holy

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Holy, Holy, Holy
 ――神罰執行。滅却創生。
 誰がその言葉を謳ったか。誰がその言葉を掲げたか。
 白き衣を纏う者達は進撃する。自ら達こそが成しえると信じて。

「あら。あら。此処は――ええと、どこだったかしら?
 ああそう。幻想王国でしたね。
 あの貴族の腐敗極まり、下劣であった筈の国」

 だからこそ遂行者メイ・ミディアは現れた。
 自ら達の理想を現とする為に……天義が隣国、幻想王国へと。
 『神の国』を作るのだ。
 天義の一部で生じている遂行者達の特殊領域――それが『神の国』であり、現実世界を参照して造られた地である。基本的には参照元の地に似ているが、あくまでも人造の空間であり現実の領域ではない。
 ――が。遂行者達の目的はこの『神の国』を現実に定着させる事だ。
 つまりは、自分達の国を作ろうしている?
 何故なのか。その仔細は未だ知れぬが……
 しかし果たされれば現実はきっと彼らによって塗りつぶされてしまうだろう。
 いつかきっと。皆が地に足を付けている現こそがまるで、偽りであるかと言われる様に。
「どうしてこんな事になっているのかしら?
 この地はもっともっと血と怨嗟と陰謀に塗れた国だったはずなのに。
 ねぇマスティマ。間違っているわよね、こんな歴史は。
 私達の『導』に――存在していないわ」
 これも聖女ルルの頭がおかしいからかしら? なんて冗談述べながらメイは歩こう。
 自らの世界を。神の国を。侵されざるべき聖域を。
 ――私達こそが正しい。私達の知る歴史のみが正道だ。
 だから、間違っている世界は正さなければならない。
 ねぇ。幻想なんて国は、ろくでもない結末を迎えるのが当然の国なんだから。
 『そうなっていない』現状は正されなければならないのだ。
「さぁ。謳いましょう? 称えましょう? 我らの神と導の為に」
 彼女はせせら笑う。自ら達の『明るく』『正しい』未来に想いを馳せながら。
 指を振るおう。さすれば彼女の人差し指に在りし指輪が輝きて――彼女の尖兵を顕現せしめる。影で作られた天使が。世界を喰らわんとする魔物が。まるで召喚するかの如く現れよう。
 そして命じる。『この地に迷い込んだ』者を滅せと。
 間違った世界など塗りつぶす為に、此処に現れたのだから。
 間違った世界の住人など――誰も認めぬよ。


 『神の国』の領域が広がっている事に勘付いた天義は調査の末、ローレットに依頼を出した――彼らの思惑を止めてくれ、と。『神の国』は特殊な空間であり、侵入経路は限られているが……しかし。
 以前、イレギュラーズ達が攻略していたテセラ・ニバスの帳(異言都市(リンバス・シティ))の内部に存在していた『アリスティーデ大聖堂』より各地へと移動する事が出来たのである。
 これによって彼らの領域へ歩を進みいれる事が可能になった。そして。
「ここが――神の国――」
「わわ、見た目には幻想の街……そのままですね」
 辿り着いた先にて、呟いたのはブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)にメイメイ・ルー(p3p004460)だ。幻想西部の街クオタス。その街を模した『神の国』の光景は――一見すれば現実世界となんら変わりないかのように見える。
 が、違う。
 空気が。気配が。異質だと魂が感じえようか。
 ――いずれにせよこんな地を蔓延らせる訳にはいかない。
 今はまだ現実に『定着』していないが故に問題ないが放っておけば如何な理を齎すか。
 いや……それに何より。
「急ぎましょう。『話』に聞いた通りなら、グズグズしていられないわ……ッ」
 共に至っていたリア・クォーツ(p3p004937)には事態解決を急ぐ理由があった。
 それは……神の国の形成の最中に、巻き込まれた人物がいるからである。神の国は現実世界の上から帳を被せるかのようにして展開されるのだが――ごく稀に、その帳の中に引きずり込まれる者がいる事がある。
 それが三名それぞれがよく知る人物。
 幻想貴族リュシール・フォン・エウラントにシルト・ライヒハート。
 そして――ガブリエル・ロウ・バルツァーレクであった。


「伯爵、エウラント夫人、お怪我はありませんね?」
「ええ、私達はなんとか……それよりも」
「シルトさん、貴方の方が――怪我を負われているではありませんか」
「はは。なに、本来は騎士たる身ですから。
 この程度の傷は負傷の内にもなりません。ご心配なく」
 幻想西部の街クオタス――を模した神の国。
 その中央付近にある貴族邸宅の中に、幾人かの姿があった。
 先述したリュシールにシルト、そしてガブリエルである。
 三名がいる理由は――元々この街で遊楽伯爵主催のパーティが行われていた事に起因する。主催であるガブリエルは当然として、派閥は異なるが縁のあったリュシールに加え、バルツァーレク派に属するライヒハート家も出席しており……まぁ厳密には家督を継いでいるシルトの弟が本来来る筈だったのだが、急病によりやむなく兄のシルトが参加し……そして『神の国』の形成に偶然巻き込まれてしまったのである。
 此処にいるのは三名だけ。当然護衛はいない。
 異常事態を感じ取り、すぐさまこの地を離れんとした――が、しかし。この地の形成に関わった遂行者メイの放った『影の天使』に追撃されシルトが多少負傷してしまっている。
 シルトは本来騎士なのだがパーティ参加の身であるが故にこそ、普段の武具を身に着けていなかった状態だ。流石に無手の状態では迫りくる敵に対抗しうる事は出来ず――なんとか辛うじて逃げ出して身を隠すのが精々。
「……しかし困りましたね。なんとか振り切りました、が」
「まだ周囲にはいそうですね」
「あらあらうふふ。これって所謂、ぴんちってものなのかしら」
「遠まわしには――ええと――そういうかもしれませんね」
 彼らがいるのは屋敷の書斎。近くでは先程の影の天使が徘徊している気配を感じる。
 迂闊には動けない。今度見つかれば逃げきれないだろう。
 ――が。しかし、彼らは希望を捨てたりなどしていない。リュシールは危機の中にあっても変わらぬ微笑みを携えており、その笑みを見ればなんとも緊張がほどけてしまいそうだが、これも彼女の対応の一つか。
 身が縮こまったとて動きが鈍くなるだけでどうしようもないのだ。それよりも。
「さて……些か不格好ですが、武器になりそうなものがありますよ」
「暖炉の火かき棒ですか。無手よりは良さそうですね」
「はい。まぁ、時間を稼げるかも分かりませんが、大人しく死ぬわけにもいきません」
 伯爵がシルトにも手渡したのは近場にあった火かき棒だ。
 先端は金属になっており振るう事ぐらいは出来るだろう。
 勿論これで敵を薙ぎ払えるなどとは思っていない。ただ、そう。
「ええ――そう。私は死ぬわけにはいかないのです」
「俺……いえ、私もです。精々、足掻いてみるとしましょうか」
「あらあら、お若い人達の情熱はいいものね」
 伯爵もシルトも、座して死すを良しとはせぬ。
 約束があるのだから。こんな所では死ねぬと――
 瞼の裏に『大切な者』の姿が、映ったのだから。

GMコメント

●依頼達成条件
・『触媒(核)』の破壊。
・味方NPCの救出。

 両方を達成してください。

●フィールド
 幻想に出現した『神の国』と呼ばれる領域です。
 神の国とは現在天義で暗躍している魔種勢力による特殊な領域であり、放っておくと現実世界に侵食し――彼らの国が現実に顕現してしまう、と推測されています。今回の舞台となるのは、幻想の街クオタスを基に作られた場所の様です。

 敵戦力はクオタス中央にある屋敷の中に存在しています。
 どうやら巻き込まれた伯爵らを抹殺せんと動いているようです――
 屋敷内に無関係な一般人などはいません。存分に動く事は出来るでしょう。

●『触媒(核)』
 触媒、或いは核と称される『神の国』を維持するモノの一つです。
 此処にあるのは『旗』の形をしたモノで、なにやら槍の様な紋様が刻まれています。
 破壊すれば『神の国』の定着率を下げる事が出来るでしょう。

 ただしこの触媒は後述する『守護者』が背に背負っています。
 更になにがしかの加護で守られているのか、やや硬いです。
 一撃で壊すのは難しいでしょう。

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●敵戦力
●『遂行者』メイ・ミディア
 この場における敵戦力を統括している人物です。
 白き衣を身に纏った『遂行者』の一人であり、魔種である様に窺えます。詳細な戦闘能力の類は不明ですが、彼女が身に着けている『指輪』から大きな魔力が感じ取られており、恐らく配下召喚型の魔術師タイプなのではないかと思われます。
 ガブリエルたちを探しながら屋敷を悠々と歩いています。

●『影の天使』×15体
 なにやら『影』が何らかの形を取っている魔物の一種の様です。
 此処にいるのは人型。まるで騎士か兵士に見えます……が、意思疎通は不可能です。
 前衛型。盾と剣を宿しており、先陣を務めんとするでしょう。
 ガブリエルとシルトを探して抹殺せんとしているようです。

●ワールドイーター×2体
 人間大サイズの大きさを持つ『結晶体』の様な個体であり、数は少ないですが『影の天使』と比べると非常に強力な戦闘力を宿しています。攻撃手段としては、まるで砲台であるかのように激しい射撃行為を行ってきます。反面、機動力や反応はそこまで高くないようです。
 攻撃力、範囲攻撃に優れており攻撃が命中すると【出血系列】【不吉系列】に属するBSを1つ~2つランダムに付与する事があります。

●守護者デメウス×1体
 メイが召喚・使役する存在であり巨大な騎士鎧型の存在です。
 背中にこの地を維持する触媒たる『旗』を常に背負っています。
 能力としては防御系統に優れており常にメイの傍に控えています。彼女に届く攻撃全てを防がんとする行動を見せるようです。反面、だからなのかメイの傍を離れる行動をする様子は今の所見られません。
 また、敵を3体までブロック出来る性能もある様です。

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●味方NPC(救出対象)
●ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
 『遊楽伯爵』と呼ばれる、幻想三大貴族の一人です。クオタスの街で開かれていたパーティに招かれていたのですが……神の国の形成に巻き込まれてしまいました。現在は異常事態を感じ取り、屋敷内部の書斎に隠れ潜んでいる様です。救出してあげてください!

●リュシール・フォン・エウラント
 幻想貴族エウラント家の夫人です。
 幻想貴族の中では比較的善人と言える人物の一人です。派閥としては王党派(フォルデルマン派)なのですが、いろんな所に付き合いがあるからかパーティに出席していました。それが仇となるとは……
 しかし絶望する事なく生きる道を模索しています。救出してあげてください!

●シルト・ライヒハート
 バルツァーレク派の貴族、ライヒハート男爵家の長男たる人物です。長男ですが家督を継いでいるのは弟……なのですが、その弟が急病の為やむなくパーティに参加した所を伯爵同様に巻き込まれてしまいました。
 本人は騎士たる身であり戦闘能力もある、のですが。パーティ参加に際して剣を預けてしまっていた為、辛うじて『影の天使』から逃れるのが精一杯だったようです。救出してあげてください!
 なお、何か武器があれば本人も戦えると思われます。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <伝承の帳>Holy, Holy, Holy完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年06月06日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
倉庫マン(p3p009901)
与え続ける

サポートNPC一覧(1人)

ガブリエル・ロウ・バルツァーレク(p3n000077)
遊楽伯爵

リプレイ


 駆け抜ける。屋敷の中を只管に――
 急がなければならない、危機はすぐそこだ。
 時計の針が進むごとに死が迫っている――しかし。
「まさか幻想の、それも貴族の中の貴族みたいなのを救う側になるとはなぁ」
 『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は『やれやれ』とばかりに吐息零すものだ。かつてはスラムに住まっていた己が、幻想貴族の救出依頼を受ける事になるなど……あぁ『かつて』から思い起こせば、こんな現在想像も出来なかった頃だろう。
 ――でもまぁ、どいつもこいつも死なれたら1000倍面倒なのが目に見えている!
「仕方ねえなぁ! もうっ!! 急ぐぞ!!」
「はやくバルツァーレク伯爵を助け出さないと!
 くっ、伯爵を狙うなんて、不届き者もいたものね……!!」
「大丈夫、絶対まだ間に合うよ! 早く助け出してあげようね、リアちゃん!」
 故にサンディは心の奥底から本心の声を吐き出しつつ――同時に救出対象である伯爵を追い求めているのは『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)だったか。傍には『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の姿もあり、誰も彼もが急いでいる。
 ――どこだろうか。どこに、伯爵の音色が流れているだろうか。
 伯爵は決して諦めてなどいない筈だと、リアは救いを求める感情も探知せんとしようか。焔も同様の術を巡らせつつ……更に使役した小動物を用いて別箇所の捜索も担当してもらう。
「お願いね。人間さんを見つけたら、すぐ教えて!」
 鼠型の個体が、イレギュラーズが進む方角とは違う方向へ駆けていく。
 とにかく捜索の範囲を広げるのが重要だと――
「奥さま……どうかご無事でありますよう、に。必ず、お傍に参ります、めぇ……!」
「シルトの奴め……前も厄介事に巻き込まれた事があったが、つくづく運が悪いというか……そういう星の下にでも生まれたのか?」
 更に『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)や『猛る麗風』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)も思い巡らせながら捜索していこうか。此処に巻き込まれているのは伯爵だけではない……それぞれの親しい者も巻き込まれているのだから。
 メイメイも鼠型の個体を二匹使役。屋敷内をくまなく探す様に伝えれば『ちゅ~!』と敬礼っぽいものを一つして鼠たちが走っていこうか。奥さま……リュシール・フォン・エウラントの姿さえ掴むことが最優先、と。
 一方でブレンダはシルトの匂いをよく知っている――インベルに協力を。
「よし、頼んだぞ。シルトだ。シルトを探すんだ、いいな?」
「わふ!」
 インベルは離れる前にブレンダの足元に寄って体を擦り寄せようか。
 だがそれも数秒程度の事。次の瞬間にはシルトを探さんと屋敷を駆ける――
「さて。色男さんはどこにいる事かね、会った事は無かったんだがどうやら運の無い野郎みたいだな――いや無事にどこかに隠れ潜むことが出来てるんだったら、不幸中の幸い男っても言えるのか?」
「いずれにしても急がないとね……バルツァーレク氏が巻き込まれてるなんて、これは想像以上に重大な事態だ。必ず救い出さなければ」
 続け様には『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)が集団の前に出でるものだ。不意打ちが行われないか最前線で警戒する為、である。もしも不測の事態で戦闘になりそうな場合でも、彼が奇襲を潰す。
 であれば『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は更にファミリアーの使い魔を使役して、メイメイや焔らが飛ばした方向とは更に別へと向かわせようか。
 それだけではない。イズマは微かな音の反響も捉えんと耳を澄ませつつ、更に壁先に救出対象がいないかと透視の力も行使しよう。人間が隠れているとすれば開けた場所ではない筈……遮蔽物が多い部屋にいるのではと当たりを付けて。
「天義のみならず幻想にまで……何て奴等だ! 世界も全部塗りつぶす気なのか……!?」
「皆さま、此方の方が大通路かと……人探しならば進みやすい此方へと参りましょう!」
 そして『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は伯爵の声が零れていないかと優れた感覚を巡らせようか。駄目押しにファミリアーも用いて、捜索範囲を広げていけ、ば。皆々の『足』へと加護を齎すのは『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)である。
 彼の齎す加護があれば皆の歩みが明らかに一段階上昇しているのだ。また、空から眺めうる様な広い視点も持っていれば、微かな手がかりも倉庫マンは逃さんとする。イズマと同じく透視の力も瞳に宿せば文字通りに、だ。
「……それにしても、まさか幻想三大貴族の一人を巻き込むなんて、ね」
 刹那。言を紡いだのは――『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)か。
 サクラはサンディ同様に、敵意を感知する術を行使している。もしも敵がこちらを認識すれば……殺意と共に襲来する筈だ。近くに敵がいる目印になるだろう、と。更には優れた聴覚をもってして人間の足音や声――つまりは救出対象――がいないかも探していれば、かなり広範囲の情報を得ている、か。
 しかし同時に考えているのは『遂行者』達の事もである。
 彼らの行いが天義を超え、幻想にまで至っているとは……
 元々幻想は敵国だ。近年では激しい動きこそないものの、歴史的には戦争をした事だってある――だけど、そんな事はきっと関係ないのだ!
「そこに苦しむ人がいるのなら……私は見捨てないよ!」
 天義の騎士は、善なる者の味方。私は何処に属する誰であろうと――助けてみせる!


 時計の針が進む。刻一刻と時間が経過する中――屋敷内の探索は凄まじい勢いで進んでいた。多数のファミリアーによる捜索が大きな意味を持っていたと言えようか。あらゆる部屋を確認し、伯爵たちがいるであろう場所を割り込んでいく。
 ――が、当然というべきか此処に『敵』もいるのであれ、ば。
「影の天使の姿が見える。今相手をしてる場合じゃない、か。やり過ごそう」
「あぁ。なるべくなら避けるしかねぇな――とにかく今は伯爵を見つけるのが優先だ」
 救出対象である伯爵たちより先に敵の位置を見つける事もあろうか。
 特に彼方は隠れ潜む、などと言う事をしていないのだ。必然的に見つけやすさでは影の天使や遂行者の方が先に見使えるもの……故にファミリアー越しに連中の姿を見据えたイズマは時間稼ぎとして動く幻影を放つものだ。既に探索済みの方へと駆け抜けさせる。
 同時にサンディは敵の気配を感じ取れば、気配を押し殺しつつ進まんとする。
 足音を殺し、此方の存在を気取らせぬ様にするのだ。

「んん……何かいる? イレギュラーズ達が入ってきたのかしら」

 されど向こうも、イレギュラーズ達が放ったファミリアーの気配に勘付くものだ。多くの数があちらこちらに展開されているからこそ捜索の手も広がっていたが……故に敵にも気付かれやすくなろうか。
 自らを監視せんとするファミリアーがいれば――殺しておく。
 魔力の撃を放ちて薙いでおくのだ。ふふッ侵入者、か。
「狩りの獲物が増えただけね。さぁ――鼠の主のネズミは何処にいるのかしら?」
 メイは命ずる。影の天使に、侵入者も殺せ、と。
 間違った人間など存在している価値もないのだから――!
「連中の動きが大胆になってきてやがるな……?
 万が一の時はミーが足止めするが、伯爵の位置は掴めそうかい?」
「うん、多分もうちょっと……! あ、いたよッ! この先の書斎だ!!」
「参りましょう、私ならば壁を抜けられます! さぁ――此方へ!」
 されば周囲に視線を巡らせながら警戒していた貴道が確認の言を紡げ、ば。
 焔のファミリアーが遂に見つけた。隠れている伯爵やシルト、リシュールを……!
 やはりあらゆる技能を用いて探索に力を入れていたのが功を奏したのだ。もしも捜索の力が弱ければ、敵が先に発見していたか……或いは敵との遭遇が同時であったかもしれない。彼らの尽力こそが身を結んだのである。
 通路を駆け抜ける。倉庫マンが自らに宿りし祝福を行使すれば、更にショートカット出来ようか。影の天使達が到着する――その前に。
「……ガブリエル様! ご無事ですか!!」
「――これは、リアさん!? それにイレギュラーズの皆さんも……どうして此処に」
「無論救助の為に――伯爵、エウラント夫人助けに参りました」
「あらあらまぁまぁ。やっぱり最後の最後まであきらめるものではありませんね」
 書斎へと跳び込んだ。さすれば真っ先にリアは伯爵の下へと向かおうか――続けてブレンダも伯爵とリュシール夫人に挨拶をした上で……
「シルト、無事だったか」
「ブレンダ――あぁ、助けに来てくれるって信じてたよ。
 ――って、わっ! インベル、お前も来たのか!」
「わふわふ!!」
 シルトの方へと視線を向けようか、と直後には捜索していたインベルがシルトの胸元へと突進。無事を喜ぶ様に尻尾を振ってはしゃいでいる――ただ、シルトがブレンダを見ればその表情は……はは。お小言確定の顔をしている。
「剣を貸してやるからシルトも働け。敵の気配は近い――来るぞ」
「ああ。剣さえあれば大丈夫だ。不甲斐ない動きは見せないよ」
 ともあれ今は危機脱出の為に動こう、と。ブレンダはシルトに剣を投げ渡す。
「奥さま」
 そして。親しき者と再会したのは……リアやブレンダだけではない。
 メイメイも、だ。彼女は書斎に入ればリュシールの下へ駆けつけて……
「……よかった……ご無事です、ね。お迎えにあがりました、よ……さあ、帰りましょう」
「ええ――ありがとう。帰りましょうか、私達の家へ」
 手を伸ばす。あぁ、優しい奥様。本当に……本当に無事でよかった……
 思わず安堵の息を零すものだ。もしも怪我をしていたら、もしももう会えなかったら、なんて。そんな不安考えるだけで胸が締め付けられて、心臓が張り切れそうだったから。でも、もう安心だ。奥様の手を取り――

「そうはいかないわね。全員纏めて死んでもらいましょうか」

 しかしその時、極大なる殺意が全員に降り注いだ。
 ――遂行者だ。真っ先に飛び出してきたのは遂行者に忠実な影の天使達。
 刃が襲い掛からんとしてくる――故、それらを迎撃せしめたのは。
「させないよ。私達が来た以上、貴方の目論見は潰れたと思ってほしいね!」
「あちこちで暴れるだけに飽き足らず、ガブリエル伯爵たちも狙うなんて罪が重いよ、本当に!」
 サクラやヨゾラだ。伯爵たちを無事に保護出来たが為、次は遂行者だと……それぞれ優れた感覚で周囲を注意していたが故に、即座に気付けた。向こうから出向いてくれるのであれば探す手間が省けたと思おうか。
「あら。あら。流石に簡単にはいかないわね――ふふ、でもいいわ。じっくり殺すから」
「HAHA! なんだ狙ってた獲物を見つけてもう勝ったつもりかい?
 ――甘いな。獲物はお前の方だぜ? ミー達が狩る側だ。
 死にたくなけりゃさっさと帰った方が利口だぜ?」
「奥さま達を、狙った事……決して、許しません、よ……!」
 然らば遂行者は依然として余裕の微笑みを見せようか。
 傍にはワールドイーターや守護者を始めとした戦力があるが故に。
 ――しかしその余裕は勘違いだと思い知らせてやる。
 貴道が五指を握りしめ拳を作り。メイメイもまた魔力を収束させる。
 伯爵やシルト、リシュールを護る為にも……!
「行くよッ――! ボク達の力を見せてやる!!」
 紡ぐ。焔は、炎の加護を槍へと纏わせながら、敵陣へと。
 全てを貫く一閃が――開戦の号砲代わりであった。


 激突する。イレギュラーズ達と、遂行者の配下が。
 幸いなのはやはり救助対象をいち早く見つけることが出来たことだろう――伯爵らの前に出て守る事が出来ている。勿論それでも伯爵たちに致死の一撃が降り注がぬ様に護る必要はありそうだが。
「バルツァーレク様、貴方には指一本触れさせないのでご安心を。敵は討ち果たします」
「リアさん――どうかご無理なさらずに」
「無論です。私は此処で死んだりなどしません……ですので私達を信じて、落ち着いていてください」
 故にリアは伯爵の護衛に回るものだ。彼をいつでも庇える位置を意識しながら――同時に影の天使へと攻撃を仕掛けようか。敵対者を串刺しにする術式を展開し、最前線へ援護の一手を紡いでいく。
「シルト、エウラント夫人を頼むぞ。怪我は――大丈夫だな?」
「ああこの程度なんてことはない。近付いてくる奴は任せてくれ」
 更にブレンダもシルトに声を掛けながら前へ往こうか。
 シルトも幾つか負傷は見られる、が。治癒する程の負傷ではなさそうだ。ならばと敵を引き付ける方に彼女は赴く――名乗り上げるように敵の注意を引くのである。いつもと違い剣は一本しかない、が。
「さぁ来い……! 私には誓いがあるのだ。貴様ら如きに討たれてなどやらんッ!!」
 彼女の、左手に在る指輪が――心の奥底より力を沸き立たせよう。
 死ねない。死ねるものか。この指輪に免じてさっさと迎えにきてやったのだから。
 だから――共に帰るのだ。私達の、家へ!
 そしてシルト自身も剣を振るって戦おう。彼は普段騎士であるが為か、確かなる力を宿している……まともな武器さえあれば天使程度であれば十分戦えるのだ。それに――
(俺も働かないと、ね。大事な大事な婚約者様に怪我をさせるわけにはいかないし)
 自分が負傷しながら何を、とやや苦笑しながら。
 しかし直後には眼前に鋭い目を向けて――天使を斬ろうか。
「奥さまは、必ずお守り申し上げます……!」
「メイメイちゃん――貴方も無事で、お願いね?」
「はい……!!」
 次いでメイメイもリシュールに言葉を掛けながら動きを見せる。
 目指すのは……『核』だ。それさえ破壊すれば、陣を維持できない敵は退くだろう。
「あの旗が、そうなのです、ね? 大きいですが、なんとしてでも……!」
「狙えるか? ま、狙えなかったとしても――道は切り拓いてやるさ!」
 故にメイメイは護衛者が背負う『旗』を狙わんとする。
 巨大なる騎士鎧の存在であれば射線は後ろに回るのが一番なのだが……まだ敵の数が多い以上、そう簡単にはいかないか。故にメイメイはまず遂行者諸共巻き込む一撃を叩き込むものだ。熱砂の嵐が敵陣へと襲い掛かり――さすれば予測通り守護者は遂行者を庇わんとする動きを見せる。
 直後、更に敵を狙わんとするのは貴道だ。
 自らに戦いの、そして動きの最適化を果たさんとする加護を齎しながら打撃を打ち込もう。されどそれは一撃にして一撃に非ず。浸透する無数の打撃が影の天使へと放たれれば、幾重にも内部で反響し――衝撃が炸裂。
「全部腕尽くで捩じ伏せてやるぜ。次にくたばりたいのは、どいつだい?」
「あら。なんて怖い技。うふふふふ」
「貴方がここの『遂行者』だね。……聖女ルル達とは違って魔種みたいだけど」
 続いてサクラも『核』の破壊を狙うべく動いていた。尤も、やはり直に核を狙うのはまだ難しく……だからこそ遂行者たるメイの方を優先。彼女を狙い、核を背負う守護者に隙を作らせるのだ。
 斬撃一閃。されば狙い通り守護者デメウスが庇おうか。堅き鎧でその一撃を阻んで。
「んん――貴方はロウライトの血族ね? こんな所まで来るだなんて」
「私を知ってるの?」
「勿論。天義の有力な騎士家はマークしてるもの。
 貴女のお友達も。貴女のお家も、ね。お爺様はその内殺すわ。多分マスティマか誰かが」
「――あの人はそう簡単に討たれるような人じゃない、よッ!」
 連撃の構え。歩みを止めず斬撃を繰り返す――
 どれだけ堅い身であろうとも砕けぬモノなどないのだから。
 押す。押し続ける。敵が流れを掴まんとする前に、こちらが趨勢を握るのだ。
 だが、影の天使側の攻勢もやはり弱くはない。
 数の多さ。そして何より展開しているワールドイーターの射撃がイレギュラーズ達の身を削るのである。かの砲台が如き存在からは幾重にも渡って魔力による射撃の雨が降り注ごうか――
「くっ、だけど……好きにはさせないよ!
 三人を助ける、誰も倒れさせない……その為に来た!
 誰も害させたりなんか――するもんか!!」
 故にヨゾラは跳び込んだ。煌めく星空の様な泥を顕現させ、敵の後方を薙ぎ払いつつ――続けざまには神秘の力を収束させ、極撃を叩き込むのである。星の光が、邪な天使を祓わんと包み込む様に。
 それは伯爵たちを守る為でもある。かの攻撃は広範囲に降り注いでおり、ともすれば伯爵らに届かんとする程だからだ。近くには剣を手にしたシルトもいる為、一撃で危機に陥る程ではない、が。
「オラ、こっちだ! 来なよ――俺一人仕留められねぇのか? たかが知れてるな!」
「さぁ、ここは任せて先に行って! 大丈夫、ボク達――強いよッ!」
 だからこそサンディは跳躍する。敵の意識の狭間を突くようにしながら放るのは――全身から湧き上げた『風』だ。ソレは片手の掌の上に球状に凝縮されたモノであり、全霊をもって投擲すれば、ただの風とは言えぬ威力を敵へと叩きつけようか。
 伯爵ら救助対象護衛の為、他の敵を寄せ付けぬ為に――!
 更に焔も核を狙う一撃をもってして引き付けようか。幾度も攻勢を重ねていれば、デメウスとて隙が出来てこよう……なにより敵に圧を掛ける事が、彼らがより遠くまで避難できる時を稼ぐのだ。これ以上は進ませぬ、と。
「頑張るわね。弱く、消え去るべき者の為に」
「この世に無駄な命などありませぬ。少なくとも傲慢なる者の手には、かからせませんよ!」
「お前達遂行者は『芸術』すらいらないというつもりか?
 ――現在は無数の過去の積み重ねでできている。それを塗り替えるなど認めない。
 あらゆる価値を認めないお前達こそ……無価値だと知れ!」
 その動き全てを支援するのが倉庫マンである。彼は己にあらゆる撃を遮断する障壁を張りつつ、味方へと治癒の風を紡いでいた。更には応急処置ガジェットを顕現させ、あらゆる負の加護を祓わんともしようか。
 そしてそれらを受け取ればイズマは並み居る天使を、堕天の輝きをもってして呪おうか。
 伯爵達の命は奪わせない――神の国を許さない!
「後出しで世界を語るお前達の方が間違いだろう!」
「いいえ。私達こそが正しい。私達以外の歴史は紛い物……それが真実」
「……あるべき世界の姿、は、あなた達だけで作られるものではないのです、よ」
「いいえ。――私達だけが、世界を作る権利がある」
 刹那。デメウスに守られながら遂行者メイは魔力を振るう。
 同時に紡いでいる言の葉は……全てが傲慢。
 イズマの言も。メイメイの言も。全て全て否定する。
 お前達は間違っている。私達だけが正しいと。
 それ以外――論じる必要もないかの如く。
「さぁそれじゃあもうちょっと『攻めて』みましょうか」
「ッ――! 召喚、だね……やっぱりこういう手が使えるか……!」
 刹那。サクラは見た――遂行者の周囲で影の天使が増えたことを。
 見た限り能力は今まで相対したのとそう変わらなさそうだ、が。
 それでも数を増やせるというのは脅威だ。一体どこまで増援を齎せるのか。
 無論、増えたのなら斬るのみだ。増えるよりも減らす方が早ければ――問題ない!
「伯爵、もっと背後の方へ……う、くっ……!?」
 と、その時。治癒と攻勢、両方を果たし奮戦していたリアの頭が軋んだ。
 ――彼女に宿るクオリアの効果だ。こんな瀬戸際で……!
 それは本当に微か、一瞬だけの痛みであったが。しかし激戦の最中には例え一秒であろうが停止するのは――危険だ。遂行者メイの力により増えた影の天使の剣が、その隙を狙いて……
「――え」
 が。その剣はリアに届かなかった。
 伯爵が剣を片手に、リアへと向かう天使へと切りつけたからだ。
 ……無論、それは大したダメージではない。戦士でも騎士でもないガブリエルの一撃など。
 だが。リアに出来た一瞬の隙を埋めた出来事だった。
「守られてばかりでは」
 ――恰好がつきませんから。
 微笑む伯爵。その伯爵に、天使の剣が迫る――
「ぁ、あ、あああ――させませんッ!!」
 故にリアは至る頭の軋みを無視して跳躍した。
 爆発するかの様な感情。護る筈が守られるなんて、良い訳がないと!
 蹴撃一閃。天使を討ち祓い、更に串刺しの術式を紡いで追い打つ――!
「わわ、伯爵もリアちゃんも大丈夫!?」
「ガブリエル様! なんて無茶を……!」
 であれば直後。焔も駆けつけ敵を炎で焼き払おうか。
 ――ああもう、何が『怪我がなくて良かった』ですか伯爵。
 大人しくしておいてくださいね……これからは!
「私もこれ以降――さっきみたいな姿は、見せませんから!」
「うんうん、リアちゃんは元気であってこそ――だよね!」
 往く。ああ一刻も早く敵を撃滅するのが最速の解決法なのだから!
 焔は遂行者メイを狙いて一撃紡ぐ――さすればデメウスがやはり庇う、か。
 ……だが段々余裕が零れてきている気がする。旗まで気を配っている力が無さそうだ。
(もう少し……もう少しで行けそう……!)
 可能であればメイ自身の指輪も狙いたい、が……
 まずは核が優先かと――焔は駆け抜けて。
「敵は問答無用感が凄いな。ま、お前らの目的がどこにあろうが――好きにはさせねぇよ」
 が。どうでも良い事だとサンディは刃を振るう。見えぬ風の刃を。あぁ――
 リアも、いや多分、他の皆も夢見る未来がある。
 ……この場で『目指す未来を持たない』のはオレ位だ。
 だから――夢を見る皆の手助けになるように、動こう。
「くたばりな。お前らは誰も追わせねぇ」
 影の天使を仕留める。伯爵らは追わせないと――幾体でも止めてみせよう。
 ……そうしていれば徐々に戦いの趨勢が決まっていく。
 影の天使は数を徐々に減らし、守護者デメウスも幾度も遂行者を庇っているからか直撃が多く――その身をすり減らしているのだ。砲台の様に攻撃してくるワールドイーターは健在であり、イレギュラーズ達に度重なる攻撃を仕掛けてきている、が。
 今回の目的は敵全てを倒し切る事ではない。
 伯爵達を救出し、守護者の背負う核を破壊さえすればいいのだ。故に。
「そろそろぶち壊して通らせて貰うぜ、HAHAHA! ――らぁッ!!」
「貴様等の思惑なんて……全部ぶん殴ってぶち壊してやる!」
 貴道はメイに攻撃を加え続ける。暴風が如き嵐の乱打が、庇う守護者の身を更に傷つけ。
 星空を宿すヨゾラの一撃もワールドイーターや影の天使、そして守護者を薙ごうか。
「我々に傷を与えれば優位になる、と思っているなら大間違いです……!」
「めぇ……! この辺りで、お帰り、願うのです……!」
 反撃の一手をワールドイーターが紡いでくる、が。倉庫マンはあえてその一撃を受けて味方の傷を減らそう。彼には受けた傷を返す棘の加護もあるのだ――ダメージを与えれば与える程に、敵の痛みも増える。
 そうしている内にメイメイは神翼の力を宿した一撃にて一気に守護者への道を開く。
 遂に見えてきたのだ。旗を直接狙える道筋が――ッ!
 爽やかな薫り立つ風を祈りて顕現させれば、それは味方の活力と成り……故に。
「見えたッ――! 悪なる敵を討ち滅すッ……! 輝け禍斬!!」
「旗はもらうぞ、正しきは今の俺達の世界だ! お前達が引き下がれ!」
 サクラが刹那の隙を突きデメウスの背後を取った。
 狙うは無論、核たる旗である。跳躍と共に飛び移り、そしてイズマも鉤爪つきロープを巧みに使いて射線を確保。収束させる魔力を指先に集め放てば――
 デメウスの鎧ごと、旗を撃滅した。
 亀裂が走りデメウスの身が崩れ始める。同時に旗そのものも力を失い始めて……
「あら。中々やるわね、ふぅん……ここで最後までやりあってもいいけれ、ど――」
 であれば刹那。遂行者メイは戦況を一瞥するものだ。
 守護者は限界。影の天使はすり減り……しかしまだワールドイーターはいる。
 魔種たる力をもってして疲弊しているイレギュラーズと戦う、という手もあるにはある。影の天使ぐらいであれば『更なる増援』をこの指輪から作り出す事も可能ではある、が。
「――ま。アレは結構疲れるしねぇ。
 今回は退きましょうか。ふふ、まだまだこれからなんですもの……私達の目的は」
 遂行者メイはワールドイーターだけを残し、後方へ跳躍した。
 逃げるつもりだ。ワールドイーターを残したのは余力があったため殿を……と言うよりも移動は不得手である為に連れて逃げるのは不可能としたためか。イレギュラーズ側も弾幕を浴びせてくるワールドイーターを打ち倒すのが先とし――遂行者の姿は消える。
 ……戦力の中枢たる存在が消えた事によって戦いは決した。
 ワールドイーターの射撃の雨に多少の被害は出たものの、それでも。
 リアや倉庫マンを中心とした治癒術の行使者がいる事により、大規模な損害は抑えられた。
「ふぅ! これで全部、かな? 念のため敵が残ってないか周りを見てみるね!」
「そうだな。万が一がある……伯爵達は暫く此処にいてくれ」
「呼び声は受けたりしてないね? 大丈夫だね?」
 然らば焔に貴道は周辺の安全を確認する為に警戒を行ってみようか。
 ヨゾラは救助対象の三人が狂気の影響を受けていないか念のため確認し……
「――ご無事でなによりでしたバルツァーレク伯爵」
 と、その時。伯爵の傍に至ったのは……リアであった。
 ですが……勘違いしないでくださいよ。
「急いで貴方の元に駆けつけたのは、貴方が幻想にとって重要な方だからです。それに、貴方にはこれからもっとカッコよ……げふんッ! しゃんとしてもらわないと困るのですから」
 ……そう! 立場! これは、そう! 貴方の立場的に!
 平民のあたしの立場から見て! そう在ってもらわないと困るのです!
 そうでなければバルツァーレク派の未来も色々と……!!
「ふふ。そうですね――私も、もっと恰好を付けねばなりません。
 ……それはそうと、なのですが。リアさん。
 この事件はもう、天義だけの一件と言えそうにはありませんね」
「――はい」
「ですのでお願いが……いえ。ローレットへの依頼があります」
 刹那。伯爵は珍しく、断言した。
 依頼だと。普段『お願い』と言った形で相手に判断を委ねる所もある伯爵が。
 頼んだのだ――この事件の根源の解決を。
 ……遂行者。あんな連中の好き勝手にさせる訳にはいかぬのだ。
 百歩譲って事件が天義国内の範疇で収まっているのであれば、ガブリエルとして静観していた事だろう。国内ですら先のアーベントロートの件を始めとして幾つもの事件が起こっているのだ……国外にまで手を伸ばす余裕などどこにもありはしない。
 だが。故意か偶然かガブリエル自身が襲われた。
 ガブリエルが襲われなかったとしても、連中は幻想国内に手を伸ばしてきたのは事実。
 ――放っておけば連中はいつかまた幻想で暗躍するかもしれない。
 であれば他人事でもなんでもないのだ。
「貴方に、危険な地へ赴いて頂きたいと言うのは実に心苦しい事です、が」
「いいえ。お任せください――ガブリエル様」
 貴女に成して頂きたいと言ってくれるなら。
 応えましょう。貴方の望みであるのなら。
 ……瞬間。リアの身を伯爵の腕が包む。
 どうか無事であってほしいという――祈りを込めて。
「やれやれ……それにしてもケーキの前に敵を斬るハメになるとはな」
「ああ、俺もビックリだ。天使を何体か斬ってしまった。これはまた上書きしないとね」
「とびっきりのケーキで、な」
 そして。神の国自体に亀裂が入り元の世界へ戻らんとしつつある中。
 ブレンダとシルトは隣り合いながら――語り掛けていた。
 ……外に出られるようになればさっさとこんな場所からおさらばだ。
 そして記憶は上書きしよう。
 ケーキ。そう、ケーキが必要なのだと。

 正しい歴史など知らない。欲しい未来の為に――今宵は勝利したのだから。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)[重傷]
【星空の友達】/不完全な願望器
炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 伯爵、エウラント夫人、シルトは皆さんのご活躍により救われました――
 天義の事件はどこまで広がりを見せるのでしょうね……

 なにはともあれ、ありがとうございました。

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