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シナリオ詳細

<廃滅の海色>シレンツィオより、裏側の君へ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●urban
 シレンツィオ・リゾート。それは人類の切り拓いた新天地にして楽園である。
 船のタラップを降りれば芸術的な建物が並び、遠くには印象的な建築様式のタワーホテルが並んでいる。
 海洋、鉄帝、豊穣、ラサの四ヶ国がそれぞれ参入することで貿易の中心地となったここは世界で最も金の動く場所とも言われ、いくつもの巨大カジノやセレブ御用達のビーチが集まっている。
 そんな三番街セレニティームーンを中心に、巨大な雇用によって居住区となった二番街サンクチュアリ、実質的な鉄帝領土となった五番街リトルゼシュテル、リヴァイアサンの起こした大断裂など大自然と闘いの傷跡を残す四番街リヴァイアス・グリーン。そしてそんなあれこれの裏側を担当する無番街アウトキャスト。
 シレンツィオ・リゾートはまさに夢の島なのだ。
 そんな島で、ある大事件が起きようとしている。

●シレンツィオ・リゾート、チェイス
「廃滅病の復活!?」
 ありえない! そう叫んでキャピテーヌ・P・ピラータ(p3n000279)は机を思い切り叩いた。叩いたことでじーんと痛んだ手を振って、涙目になりつつも相手を見る。
「本当だよ。天義でその実例が証明されたばかりだからね」
 対するは『黒猫の』ショウ(p3n000005)。ローレットの情報屋である。
 ここは海洋王国のはるか東。シレンツィオリゾート1番街プリモ・フェデリア。行政に関する施設が集まったこのエリアでは今日も平和な日常が管理されていたはずだったが……。
「間違いねえ。天義で発生した『神の国』が帳をおろしゃあリンバスシティができあがる。つまり、ルスト陣営の連中が描いたあるべき世界とやらに強制的に上書きされちまうんだよ」
「あるべき世界、ねえ。ま、アルバニアが倒されなかった歴史を正しいと思ってる限りは、廃滅病も無くなってない世界にしたがるだろうぜ」
「で、しょうね。特に『絶望の青』を攻略して手に入れたシレンツィオ諸島など格好の標的でしょう」
 その場に呼ばれていたのはシレンツィオの荒事を担当してきた男達。
 キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)、十夜 縁(p3p000099)、バルガル・ミフィスト(p3p007978)といった面々である。要するに無番街(アウトキャスト)チームだ。
 キドーとバルガルは実際そのあたりで『警備会社』を営んでいるので当然なのだが、十夜にいたっては「なんで俺が呼ばれるかね」という顔をちょっとしていた。アズマから依頼をうけて来てみればというやつである。
 ひとしきり興奮したキャピテーヌは、フウと息をついて椅子に座り直した。
「……で、その出所は分かっているのだ?」
 相手は救国の英雄たち。無策でここへ集まる連中ではないと、彼女は既に信頼を置いているようだ。
「ええ、まあ……これもまた少々面倒な話なのですが」
 バルガルは帽子を被り直し、やれやれと深い息をつくのだった。

 彼らが説明するにはこうだ。
 シレンツィオに入り込んだルスト陣営の『致命者』たちは複数の『準聖遺物』を持ち込み、それを使ってリンバスシティの再演を行おうと画策しているのだという。
 致命者のグループは三番街中央通り、二番街楽園港付近、無番街空白エリア、四番街記念公園南部にそれぞれ入り込んでいるという。
 彼らを街から探し出し、倒し、準聖遺物を回収しなければならない。
 なかなかに面倒ではあるが、ここは勝手知ったるシレンツィオ。情報集めもそう難しくないだろう。
 よし、とキャピテーヌは依頼書にさらりとサインをしてから立ち上がった。
「ここに再び廃滅病を降らせるわけにはいかないのだ! 皆、頼むのだ!」

GMコメント

 このシナリオは探索パートとチェイスパートに分かれます。
 それぞれちょっとずつ違いがあるので向いてる所に参加したり特技のある者を散らしたりしてみましょう。

●探索パート
 シレンツィオ内に入り込んだ致命者を探し出します。
 人相までは割れているので、情報をあつめて歩き回るだけでも情報収集は可能です。
 また、無番街で雇われているスタッフたちやキャピテーヌの命令を受けた警備兵たちが情報収集に協力してくれているため、聞き込みや見回りの効率は非常に高くなっています。
※今回、シレンツィオ内で独自の情報ルートを持っていてよいものとします。持っていなくてもキャピテーヌのネットワークを利用できるものとします。

●チェイスパート
 それぞれの街で見つけ出した致命者を追いかけるパートです。
 致命者が『影の天使』を呼び出して抵抗したり、準聖遺物をもって逃げたりするのでそれを追いかけ捕まえましょう。
 街によって追いかけ方が異なってくるので、得意なメンバーを配置しておきましょう。
※今回はシレンツィオを舞台としているため、『竜宮幣』を変換した携行品を使用できるものとします。

●街の違い
・無番街アウトキャスト
 荒くれ者たちの巣窟にして楽園の裏側。
 過去を捨てたような連中ばかりが集まっており、その中でも最近失墜したマフィアの縄張りに侵食する形で致命者が入り込んでいるようです。
 実はこの土地では致命者を見つけ出すのは結構簡単です。なぜなら無番街の住人達のネットワークをフル活用できるため、新参者はすぐ分かるからです。
 なので、速攻で見つけ出してチェイスバトルに移行することができます。
 見つかった致命者は大量の影の天使を呼び出して抵抗する他、雑然とした無番街の街の中を走って逃げ出します。細道や障害物だらけの場所を駆け抜けることになるでしょう。

・二番街サンクチュアリ
 市場が大量に並ぶ楽園港に致命者が入り込んでいます。
 ここには観光客も多いためすぐに見つけ出すことはできませんが、しっかりと見て回ればおそらく致命者を発見することができるでしょう。
 発見された致命者は船を使った脱出を試みます。
 楽園湾(サンクチュアリ・ベイ)を舞台とした船によるチェイスバトルが展開されるはずです。
 そうなったときのために船を借りることも可能です。自前のものがあればそれを利用してください。

・三番街セレニティムーン
 豪華なカジノやホテルが並ぶセレニティムーンでの探索は困難を極めますが、警備兵が最も多い地域でもあるので彼らのネットワークを借りれば致命者を発見することは難しくありません。
 見つかった致命者は魔導バイクや自動車を用いて道路を走って逃げようとするでしょう。
 こちらもバイクなどを使ったチェイスバトルに発展すると思われます。
 そうなったときのためにスチームバイクや馬を借りることも可能です。自前のものがあればそれを利用してください。

・四番街リヴァイアスグリーン
 自然豊かな四番街。記念公園に観光客に紛れて致命者が入り込んでいます。
 警備兵たちのネットワークを借りて探し出しましょう。
 発見された致命者たちは山間部へと逃げ込もうとするでしょう。
 影の天使も呼び出すはずなので、木々の多い森林地帯を舞台にした直接的なバトルが発生するはずです。ここではチェイスがあまり発生せず、直接戦闘が主となります。そのかわりやや強力な敵が出現するでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <廃滅の海色>シレンツィオより、裏側の君へ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ


 一番街、フェデリアハウス会議室。
 机に叩きつけたせいでちょっぴり赤くなったキャピテーヌの手をさすり、『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はえへへーと笑いかけた。
「きゃっぴーちゃん、お薬要りますか?」
「大丈夫なのだ。ありがとうルシア。それより……」
 わかってる、とばかりに頷いて見せるルシア。
「シレンツィオに入り込んだ致命者たちはきっちりおしおきしておくのですよ!」
 任せてください! とルシアは自分の胸を叩いてみせる。
「実際問題、地の利はこちらにあるからな」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が足を組んでそう言った。
 金も多く動き人の出入りも激しいシレンツィオだが、それでも馴染みの顔はある。観光客の動線もある。見慣れた者からすれば、『特殊な事情をもった人間』を見つけ出すことは実はそう難しくないのである。
「ということで、私は二番街の希望港を担当させて貰う。あの辺りには馴染みの取引相手も多いからな」
 顔が利くんだと腕組みをするモカに、『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)はほえーという顔をした。
「すごいんだねえ、自分で事業をやっちゃうなんて。あ、そうだビラ作ってもらえないかな、ビラ。指名手配犯! みたいな」
 咲良が手を振ると、キャピテーヌがこくりと頷いて手元のメモにさらさらと指示を書いた。
「急いで用意させるのだ。他に必要なものは?」
「四番街の森に逃げ込まれると厄介だ。観光客を守るためにも包囲網を作っておいてくれるかい」
 続けて言ったのは『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)だ。
「強力な敵が現れたら対処しきれないぞ?」
「戦わせるためじゃあない。兵士がいるぞとアピールするだけで相手の動きは制限できるもんでね」
 十夜からすれば道路にスパイクを立てておくようなものだ。牽制程度の効果は期待できるだろうということである。
「後はまあ……ちょいと貸しを作ることになるかもしれないが、『コネ』を使うかね」
「『奴』の顔が使えんならそっちは心配ねえだろ」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)がワケを知った顔で頷く。この島にやってきたばかりの頃はアロハシャツのがに股歩きだったゴブリンが、今じゃ上質なコートを着て名刺ケースをポケットに入れている。金が動いたことで変わった人物の一人だ。そして、シレンツィオの裏側でどんな人間関係が動いているか知っている人物の一人でもある。
「じゃ、俺は無番街の連中を焚き付けとくぜ。あそこはルールが通じねえからな」
 ルール、あるいは法律の通じない人間は口約束がモノをいう。法が自分を守ってくれないのだから、直接自分を守ってくれる人との約束を重視するのだ。実際、キドーはそういった機微に長けていた。
 そしてそれは、『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)もまた同じである。
「では、自分も『顔役』としての仕事をしておきますかね……。派手なたき付けはキドーさんにお任せしますよ」
 バルガルの特技は地道に足で歩くことだ。立場こそ持ったものの、政治だ演説だというのはやはりガラじゃないのである。
「せいぜい、この街のバニーガールを守るとしましょう」
「それ以外も守ってほしいんだが」
 冗談に冗談で返す『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)。
「ってことは、いまフリーなのは三番街か。直接的なコネはないから、キャピテーヌの所の兵を使わせて貰うね」
「勿論なのだ! 協力するのだ!」
 ばっと手を上げて見せるキャピテーヌ。ヴェルグリーズは頷き、そして小さく微笑んだ。
「この街には俺も思い出が多くてね、それを易々と壊されるわけにはいかないかな。
 廃滅病については記録でしか知らないけれどそれでも恐ろしいものなのはわかる。
 致命者の思い通りにはさせない、阻止させてもらうよ」
 だな、と小さく呟く『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)。彼女も三番街を担当するつもりだ。直接迎えるように自前の馬(というかパカダクラ)も用意してある。
(やーれやれ。奴さんがた、触れてはいけないものに触れやがったな。この国は、海は穢させねぇ。この海を今でも見ているあの子の為にもな!)
 ギラリと目を光らせるミーナ。彼女が立ち上がるのと同時に、仲間達もそれぞれが立ち上がった。
「それじゃ、健闘を祈る」

●四番街リヴァイアスグリーン
 観光客向けのボードの空きスペースへぺたぺたとビラを貼り付ける。
 四方をきちんとピンでとめ、最後に透明なカバーボードをはめこめば完成だ。
 あらためて傾いていないかを確かめてから、咲良はうんと頷いた。
「こうやって情報提供を呼びかけたら、発見も早まるよね!」
「かもな」
 対して十夜はどこか剣呑な雰囲気だ。
「『神の国』とやらがどんなモンかは知らねぇが、『海神』のいるこの海洋に喧嘩を売ったのが運の尽きだってことを教えてやらねぇとな」
 十夜は十夜なりに『例の彼』にちょっとばかし借りを作って四番街に人員を割かせていた。
 キャピテーヌの兵は治安維持目的もあっていかにも兵隊ですよという格好をしているが、かの人員たちは無番街から派遣された私服の人間たちだ。兵が目立っている分、まるで私服警官や万引きGメンのごとく観光客に紛れ込むことが出来る。
「私達は見て回らなくて良いの? 聞き込みとかしたり」
「それも悪かぁねえが……」
 十夜は続きを言おうとしてぴたりと止まった。視線をジグザグに走らせている。
 なんだろうと小首をかしげた咲良だが、理由はすぐに分かった。彼女にもテレパス通信が入ったのだ。
『見つけました。時計の下。青いコートの男性です』
「――いた!」
 咲良は走り出した。彼女は見た目通りの健脚だ。相手がこちらの動きに気付いて逃げ出すも、人混みを器用にかき分け追跡する。
 このまま人混みのなかをもごもごしていてくれればこちらの勝ちなのだが、流石に相手はそこまで愚かではなかったらしい。すぐに道から外れて森の中へと逃げ込んでいく。
 ……が、それはこちらの望むところ。
「さあて、本領発揮といくかね」
 十夜がやれやれといった様子で踏み出すと、凄まじいスピードで走り出した。

 スピード型の咲良とそれほどではないにしろ素早い十夜。二人の追跡をたとえ森の中といえど振り切ることは難しい。
 青いコートの男は立ち止まると、懐から薄い木の板のようなものを取り出した。
 そこに赤く刻まれているのは……おそらく聖痕というやつだろう。
「おっと、こいつはヤバいな」
 十夜は相手に掴みかかるのを一旦やめ、飛び出そうとする咲良を自らの後ろに庇う。
 それが良かったのだろう。男の板が赤黒く輝き、中から巨大なトカゲめいたモンスターが召喚されたのである。
 ワールドイーターか影の天使か、カテゴリーなどこの際どうでもいい。巨大な腕による振り払いが、十夜がスッと翳した刀にぶつかりそのまま十夜を払いのけてしまった。
 吹き飛ばされ、樹幹に激突する十夜。
「うわ! 縁くん!?」
「追い詰めたつもりだろうが、誘い込まれたにすぎんのだよ。貴様等は――ここで死ね!」
 青いコートの男はそう言うと懐から無骨なナイフを取り出した。刀身にバチバチと紫電のようなものが走っている。魔法の武器だろう。
 対する咲良は突っ込んでくる相手のナイフによる突きを、跳躍と宙返りによって回避。相手の背後に回り込むと鋭いパンチを繰り出した。
 が、その拳が先ほどの巨大トカゲに阻まれる。
 大きな腕が割り込み、パンチを止めたのだ。
「痛っ――」
 腕を掴まれ顔をしかめる咲良。
 が、それで絶望したというわけでは、実はない。
 青いコートの男がトドメだとばかりにナイフを構えたそのすぐ後ろで、いつの間にか回り込んでいた十夜が刀を抜いていたのだ。
「リゾート地を消しちまおうとは、お前さん方の言う『あるべき世界』ってのは随分と退屈そうだねぇ。引っ越した方がいいんじゃねぇかい?」
 軽口を叩く余裕を見せながら、男を切り裂く十夜。
 その勢いのままトカゲの腕を切り落とし、自由になった咲良は鋭いキックをトカゲの顔面へと叩き込んだのだった。

●無番街アウトキャスト
「正しい歴史なんて、俺らにもあるわな。
 分かるだろ?俺らは、無番街(ここ)にいる連中は間違ってばかりだ。行動や言葉、信じる相手、そもそもの産まれとか。
 間違えたり、そもそも正解が分かってても選ぶ事すら出来なくて行くとこまで行った。
 それでもどうにか割り切って今ここで何とかやってる。
 なのに、連中は自分らだけインチキ使って巻き戻そうとしていやがる。正しさを俺らに押し付けてきやがる。
 こんな不公平許せねえよな?
 なんとかしてえよなあ!?」
 燃えるドラム感の前で声高に訴えるのはキドーだ。彼の声に、無番街に蔓延るゴロツキどもは耳を貸した。なぜなら、キドーもまた『ゴロツキども』の一人であったからだ。偉い貴族様よりも、金持ち社長様よりも、彼の言葉こそが心に染みる。
「頼りになりますねえ」
 バルガルはニヤリと笑い、そして演説によってやる気を出したゴロツキたちが無番街のあちこちへ散っていくのを見ていた。
 情報はすぐに集まるだろうとみていた。なにせここは法に守られないアウトキャスト。情報と信用が命綱になる場所だ。
 ほどなくして足の速い子供がボードを転がし走ってくる。
「キドーさん、早速ですよ」
 バルガルが手を翳すと、キドーはニヤリと笑って懐のナイフにてをかけた。

「くそ! バレんのが早すぎる!」
 無番街のごちゃごちゃとした細い通り道を灰色のジャケットを羽織ったひげ面の男が走って行く。ひげ面男に名前はない。名前も知られず、大航海の冒険を夢見てこの海で死んだ何者かを元に作られた致命者であったためだ。が、彼の目的は名に反して明確だ。持ち込んだ聖痕アイテムを使いこの地に神の国を作り上げ、そして帳によって上書きしてしまおうという計画に文字通り命を賭けているのだ。
 そんな計画が、いま二人の存在によって脅かされている。
「ハッハー! 逃げ切れると思うなよォ!?」
 ごちゃごちゃとした無番街のトタン屋根をフリーランニングの要領で駆け抜けていくキドー。ひげ面男も中々の見こなしだが、キドーを振り切ることができない。
 苦し紛れに放った影の天使は、対抗して放たれた邪霊によって抑えられてしまう始末。
「けどまだ差は縮まってねえ、このまま逃げ切れば――」
 とひげ面男がにやりと笑おうとした、その時。
 ヌッと曲がり角から手が飛び出した。
 それまで全く気配を感じなかった場所からの奇襲に、思わず襟首を掴まれるひげ面男。
「はい、ご苦労様です」
 掴まれたのはどうやら襟首だけではなかったらしい。
 バルガルによってひげ面男は襟首を、そして伸びた鎖によって足首を絡め取られ、物の見事にその場に組み伏せられてしまった。
「さあて、アジトに戻って尋問でも……おや?」
 バルガルが拘束具を取り出そうとしたその矢先、ひげ面男は『聖なる夢のために!』と叫んでたちまち灰へと変わってしまったのだった。
「口封じ機能付きとはまた厄介な」
「チッ、拷問のチャンスだと思ったのによ」
 おいついてきたキドーが舌打ちをするが、その表情にはまだ余裕がある。なぜなら、この街を守るという目的は達成できたからだ。
 後のことは、後に考えればよい。

●三番街セレニティムーン
「私から逃げられると思うなよ、馬鹿共が!」
 公道をパカダクラで爆走するミーナ。その背景には高級ホテルのタワーが並び、前方はバイクにのった致命者がこちらを振り返り舌打ちしている。赤いライダースーツの女性で、彼女もまたこの海で命を落とした誰かのコピーであるらしい。
 彼女を見つけたのは日頃からこの辺りの警備を厳しくしていた兵たちだ。カジノまわりは金がとにかく莫大に動くためにおかしな連中も出てきやすい。見回りも密にしなくては色々な事件を放置することになってしまうのだ。
「全く、街のヤバさに助けられるとはな。けど――そんなギラついた街を滅ぼそうって考えだけは、放置できねえ!」
「それは同感、だね」
 ヴェルグリーズがタイニーワイバーンに騎乗した状態で並走する。飛行してはいるものの、地面すれすれを走るように飛ぶスピード重視のフォームだ。
 相手との差は、縮まるようで縮まらない。
「仕掛けるべき、かな」

 戦闘は始まった。といっても、両者高速で走りながらだ。致命者は鞄から片手だけで木の板のようなモノを取り出すと、刻まれた聖痕を見せ付けるように翳す。すると、魔方陣が現れそこから影の天使が召喚された。
 ヴェルグリーズが鞘(夢弦静鞘)を手に掴む。『神々廻剱・写し』の柄を握りしめ、そして――相手が召喚した影の天使を一太刀の元に両断した。
「なっ――!」
 驚きの表情を見せたのは致命者のほうだ。足止め程度にはなるかと召喚した存在が瞬殺されるなど思っても見なかったのである。
 ならばと数を用意して召喚するが、ミーナはそれを見越していた。パカダクラに足だけでしっかりと跨がり、『死神の大鎌』を両手で掴む。
「もう一度言うぜ。私から逃げられると思うな!」
 瞬間、ミーナを壮絶な光が覆った。光は鎌へと集まり、複数に分裂した鎌の刃が取り囲もうと一斉に襲いかかる影の天使たちを切り裂いてしまう。あまりにも素早く、そして広範囲にばらまかれた破壊の力は影の天使を足止めにすらさせてくれない。
 やがてミーナとヴェルグリーズはバイクに跨がる致命者の左右を挟むように追いつき、それぞれの剣と鎌を同時に叩きつけた。
 バイクからはね飛び、回転しながら地面へと叩きつけられる致命者。バイクのほうは横滑りしながら火花を散らし、カーブする道路の端へとぶつかって止まった。

●二番街サンクチュアリ
「確保でして!」
 ルシアはびゅんと高高度をとると、そこから鋭い角度でカーブすると目的の致命者へむけて体当たりをしかけた。
 相手に馬乗りになり、至近距離から『IrisPalette.2ND』ライフルを叩きつける。
 あっちこっちへ飛び回って聞き込みをしまくっていたルシアの頑張りのかいがあったというものだ。
 勿論発見に至ったのはルシアの頑張りもさることながら、モカが持ち前の顔の広さで露店じゅうに情報提供を求めたためでもある。
 モカやルシアはシレンツィオにとって『静寂の青』をもたらした英雄であり、モカに至ってはそこで事業を展開する有名人だ。
 モカの店だからという理由だけで取引をする人間もいるほどである。
 そんな彼女たちが声を大にすれば、顔も背格好もわかった人物を見つけ出すなど容易だったのである。
「ルシアちゃん、モカちゃん! 残りの連中が逃げるぞ! 船が出る!」
 そう声をかけてきたのは希望湾で働く漁師の男だ。
「それはまずいのですよ!」
 再びバッと空に飛び上がるルシア。だがそこはモカが手配しただけのことはある。
「船を出す準備はできている。乗れ!」
 モカが『出張店舗船ステラビアンカII号』の操縦桿を握って叫んだ。
「ナイスアシストでして!」
 人の頭の上すれすれを高速で飛ぶことで船へと飛び移るルシア。
 相手の船との距離はかなり開いてしまってはいるが……。
「ふふふ、ステラビアンカII号の非常用ジェットエンジンを起動するときが来たな!」
 モカが赤いレバーを引くと、船の後部がぱかりと開きアフターバーナーをふかして超加速し始めた。
 きっとこのあとエンジンがいかれることだろう。あとで修理に出さねばなと内心で苦笑しつつ。モカは船を相手の船へと思い切り激突させる。
 相手はこれでよろめいたことだろう。ルシアはそこで急発進。速度を凄まじく加速させ、船の真上をとる。
「ここから船を使って海上でー、なんて。そんな悠長に追いかけっこなんてさせないのでして!!!」
 トゥインクルハイロゥが回転を始め、癒式魔砲がぶっ放される。当然のなりゆきと言うべきか、船に乗っていた致命者たちはマトモにくらって塵と化したのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――こうして、シレンツィオの平和はまた一つ守られた。

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