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シナリオ詳細

<伝承の帳>ポイズンアップルグリーン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●吟遊詩人によれば
 ベアトリーチェ・ラ・レーテを、しっているだろうか。かつて宗教国家天義を襲った、世界へ滅びをもたらす根源存在、冠位魔種だ。
 彼女によって天義は壊滅的なダメージを受け、今なお上層部への不満は根強い。
 だが悪い知らせばかりではない。彼女は打倒された。イレギュラーズによって。
 誰もが立ち向かうことなど不可能だと思いこんでいた存在を、イレギュラーズは打ち倒した。歴史が変わった。人類は反撃の狼煙をあげた。
 各地で快進撃が続いた。イレギュラーズは数多の犠牲を払いつつも、冠位魔種を討ち取っていった。或者は己のために、或者は絆のために、或者は無私となり、或者はエゴの限りを尽くして。
 そうしてイレギュラーズは、着々と滅びへ対抗する唯一の手段、絡繰パンドラを集めていった。

 しかし現在、天義国王にして教皇シェアキム・R・V・フェネストの顔は暗い。不吉な神託が降りたのだ。「天義はまやかしに陥った、正しき歴史に修復すべく『使徒』が訪れるであろう」……。
 そして続々と仇敵が姿を表した。奇妙で奇怪な言語を用いるゼノクロシアンと呼ばれる勢力、彼彼女らを率いる『遂行者』。
 彼奴らこそ天義を「正しくする」ために闇より使わされた使徒だ。
 別次元にあるという『遂行者』たちの『神の国』。遂行者らは聖遺物を腐らせ、それを触媒として冠位魔種が『帳』をおろす。『帳』の内側は空間を書き換えられ、さながら『神の国』のごとくになる。その最たる例が天義にあるテセラ・ニバスが書き換えられた、リンバスシティだ。だがそれで満足する彼らではない。
 神の国を再現すべく、遂行者らの暗躍は続いている……。
 遂行者らの脅威に、シェアキムは苦渋の決断を下す。

『純粋なる黒衣』を纏え。正当なる神の地上代行者が命ずる。血化粧もいとわぬ勇者らよ。御身の罪罰穢は『黒衣』によって赦免される。
 黒衣を纏え、我ら、此処に聖戦の意を示さん。

●幻想にて
 妙に生ぬるい風が栗毛の馬の背を撫でていく。ゼノクロシアンに守られた馬車が、人目を避けるように湖へ近づいていく。荷はいくつもの木箱いっぱいに詰め込まれた、青い林檎。ひとつひとつに施された焼印は、星の形。
「退屈だな……」
 星を纏う『銀の瞳の遂行者』アーノルドは、馬車の中、まばたきをした。夜明け前、まだ薄暗いなか、単調な森の景色が眠気を煽る。
「湖へついたら、起こしてくれ」
 手近なゼノクロシアンが何事かわめく。了承の意だろう。アーノルドはうたた寝を始めた。
 とてつもない衝撃が彼彼女らを襲ったのはその時だった。
 敵襲、敵襲。ゼノクロシアンがわめきちらす。アーノルドは積み荷を守るように体を起こした。
「状況」
 一言、静かに告げれば、女のゼノクロシアンが涙を振り絞り叫ぶ。
「襲撃者有り、1名。黒衣の男?」
 さては天義の尖兵かと、アーノルドはあたりをつけて馬車から顔を出した。
 だが、姿を見せたのは物々しい甲冑ではなかった。がっしりとした肉体の、フードで顔を隠した黒衣の男だ。
「おはよう、そして左様ならばお別れしよう、『遂行者』」
「何者だ?」
 アーノルドの問へ、黒衣の男は大げさに胸を開き、体をそらした。
「吾輩の名を問うか。対価はその積み荷で十分だ、人類」
「で、何者なわけ?」
 アーノルドは長剣で肩をトントンと叩きながら再度問うた。黒衣の男はおかしげに笑う。
「アルフス・アノレーである」
「だれ?」
「なに、知らない? けっこうなことだ。吾輩の名を、冥土の土産とするがよい、人類」
「僕は選ばれし遂行者なんだけど……。まあ、いいか」
 アーノルドが馬車を飛び降り、剣をかまえる。場違いな冷気があたりへ漂った。
「アルフスとやら、星へ焦がれながら、七光年の孤独をまえに凍りつけよ」
「それは承服しかねる、人類。吾輩は愛しき黒のために、其の積み荷を貰い受けるつもりでいるのだ。この先の水源へ触媒となる林檎をばら撒き、異界化する企みもここまでよ」
「……どこで情報が漏れたのかな。まあ、いいや。おまえを半殺しにして拷問するから」
 星々の輝きがアーノルドへ集まる。あたりを覆う冷気が厳しくなっていく。周辺だけが極寒。ゼノクロシアンが苦悶の声をあげるが、アーノルドはまったく気にしない。
 アルフスの魔法剣と、アーノルドの銀の剣が切っ先をまじえんとした、その時。
「……?」
「おやおや、これは粋なはからい。喜ばしいこともあるものだ、人類。吾輩も小賢しい真似をする手間が省けたぞ!」

●邂逅
 馬車の轍を追ったあなたがたどり着いたのは、アーノルドとアルフスが、まさに対峙しているその瞬間だった。
 いくつもの村の水源となる湖へ『触媒』を入れ、『神の国』の領土としようとしているものがいる。止めてくれ。それが情報屋からの依頼だった。
 あなたはアルフスと名乗る黒衣の男へ視線をやった。剣と魔法の二刀流のようだ。ひとまず敵対の意思はなくみえる。
 そして、あなたはゼノクロシアンを従える『銀の瞳の遂行者』アーノルドを見据えた。こいつが元凶だ。そう断定して間違いない。
 湖まであと2キロ、アーノルドをここで退けねば、人々が乾きに苦しむことになる。
 あなたは、唇を舐めた。

GMコメント

みどりです。
冷気使いのアーノルドくんに、お帰りいただきましょう。

やること
1)『銀の瞳の遂行者』アーノルドの撃退
2)ゼノクロシアン☓15の退治
3)異界化『触媒』ポイズンアップルグリーンの処分

●エネミー
『銀の瞳の遂行者』アーノルド
星の輝きをまとった冷気使いで、神超貫と物至扇、両方の攻撃をしてきます。
ポイズンアップルグリーンが積載された馬車を守るように動きますが、ある程度ダメージを受けると退却するようです。

ゼノクロシアン☓15
異言語で会話し、意思疎通のできない戦士たちです。物近単・移・飛、神至単・防無で攻撃してきます。

●戦場
 湖へ続く、森の中の一本道。道幅12m、奥行50m、開始時彼我距離20m。
 アーノルドの冷気によって、回避命中へー15、反応へー40のペナルティを受けます。アーノルド自身にペナルティはかかりませんが、彼の友軍であるゼノクロシアンは、このペナルティを受けます。

●友軍
アルフス・アノレー
アーマデルさんへ一目惚れかました関係者さんです。剣と魔法の二刀流。
件の林檎を奪い、アーマデルさんを呼び寄せようと画策していたようです。
今回は敵対しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <伝承の帳>ポイズンアップルグリーン完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
観音打 至東(p3p008495)
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
トール=アシェンプテル(p3p010816)
男の矜持

リプレイ


「嫌な予感がするのです」
 まだ朝日昇りきらぬときではあるが、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)に眠気は見られない。睡眠を自在に操る彼女に、早起きなど苦でもない。
「木々に囲まれた指向性の高い戦場。相手も森へ入れば身動きが取りにくくなるはず。この街道で決着をつけようとするわね」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が冷静に場を分析している。
 中空を滑るのは乙女。『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)。
「近づいてきました。私の精霊達がそう言っています。皆様、備えてください」
「この剣戟、仲間割れでもしているのかしら」
 そうならいいんだけどと、むずかしい顔をしている『狐です』長月・イナリ(p3p008096)。
「ふふ、仲違いは望むところ。そうではなくとも、それはそれで……よいというものです」
『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)がゆるやかに目元を緩める。彼女の中、凶暴な血が目覚め始める。
 ハイセンスを凌駕する持ち前の感覚の鋭さで、高まりゆく至東の殺気を感じた『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は、首をすくめた。
(ちょっとこわい……。けど、これからもっとこわいことになるんだ……)
 おおかみの子供は心を立て直した。
「皆さんやる気ですね。私もがんばらせてもらいます」
 もうそこに馬車が見えている。『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)が凛とした声で士気をあげた。周囲の空気が一気に冷えた。ゼノクロシアンが目に入る。彼奴らは一行を見かけるなり、震えながら体制を立て直した。
 黒衣の男が『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)を振り返る。
「よくぞ来た、愛しき黒よ!」
「……アルフス殿か。俺は会いたくなかった」
「そういうな、恋い焦がれる身としては一日千秋よ。人類! 黒の前でみっともない真似はできん! 覚悟しろ!」
「僕は遂行者でね、って聞いてないか。まあいいや」
 アーノルドが目を眇める。
「ぜんぶ殺すし」


「……あれ噛み合わせておいて、弱ったところを纏めてぶちのめすのじゃダメかな」
「ゼノクロシアンはどうするおつもりです?」
 からかいを含んだ至東の笑みに、アーマデルは「ダメか……」とつぶやいた。至東は気にもとめずゼノクロシアンへ体を向ける。
「ひと、ふた、み……あらら、敵方は数えて両手の指に余りますね。では、とりあえず近場の貴方を」
 斬! 空気が切り裂かれる。次の瞬間、そのゼノクロシアンは袈裟懸けに切り裂かれていた。
「次はその近くの貴方を」
 懴! 首が飛ぶ。明るくなってきた空へ、血みどろのショウをくりひろげながら。
「次はその近くの貴方を」
 惨! 臓物を吹き散らかして、ゼノクロシアンが倒れる。彼女は、息を切らしてすらいない。
「……ひとひらに、三度殺して、余り無し……。観音打至東、ここで存分に散らかしましょう」
 またたくまに三人を葬り去った彼女は、美しい刃を己へ引き寄せる。その刀身へ写った至東は、たしかに、笑っていた。
 アーノルドへ対するアルフスの攻撃が激しくなっていく。
「なんだか面白いことになってますね。ええと、どちらが遂行者でしょうか? はい、遂行者の人手を挙げてー?」
 アーノルドが舌打ちをしてフルールを見やった。
「あ、そっちですか。わかりました、覚えましたよ。私はフルールです。覚えても覚えなくても良いですが、私はあなたの名前を覚えたいので教えてくださると嬉しいのですが?」
「うるさいな、コイツを片付けたらおまえを殺してやるから待ってろよ」
「ずいぶんなご挨拶ですこと。けれどそれはこちらも同じ。それでは早速。馬車に積んである荷物を渡して貰いましょうか。滅茶苦茶にして処分させていただきますので」
「!」
 アーノルドの攻勢が弱くなった。あきらかに馬車を意識している。
「れいの『触媒』がつまれているばしゃに……ひと? Uhhn、なかがわるそうにみえるから遂行者じゃなさそうだけど、みかた……なのかなぁ?」
 判断がつかず警戒するリュコス。けれどもリュコスはそこで尻込みをするような臆病者ではなかった。
 小さな、しなやかな体躯でもって、敵の中へ果敢に突撃する。
「退路は任せて。1対多の基本は、囲まれない、1:1状態を作る、囲んで棒で殴る、よ」
 イーリンがするりとリュコスの援護へ入る。リュコスは彼女を信じて遠吠えをした。切なく、胸かき乱されるような長嘯が森へひびく。その声で心ささくれたゼノクロシアンが、リュコスの周りへたかる。
「ぼくは、だいじょう、ぶ……! きずついても、ぼくは、ぼくは……だから、ばしゃを、おねがい!」
「貴方がそこまで言うのなら」
 イーリンが飛び出た。馬車までいまだ距離がある。
 立ちふさがるアーノルドは、アルフスの相手をしながらも余裕があるようだ。
「アーノルドだっけ。重要な物品を移送する時は複数台の移動手段を用意し、偽も混ぜ、かつ隊列が止まらないようにする。基本よ。講義はこれで一旦おしまい。じゃあ次は実践と行きましょうか。やるわよ?」
「……めんどうだなあ、まあいいや、まとめてこいよ」
 振り下ろされる剣。剣圧と冷気が空間を切り裂く。
「すごい技ね、正面から食らったら危なかったかも。で? その攻撃をはずしてるのはだーれ?」
 尻尾を膨らませたまま、奇跡的に攻撃を避けてのけたイナリがアーノルドへ向けて術式を展開する。
「寒いわ……身体機能に影響が出ている。けど、私のクリティカル能力には影響が無さそうね。これなら、なんとかなるわね!」
 運命を逆転させた彼女はうそぶいた。
「稲荷神の『御神渡り』、いまの私の力では再現しきれない。だから練習台になってね、よろしく!」
 地を蹴り飛び上がったイナリがゼノクロシアンへ向けて急接近する。宙でくるりと身をひねると同時に、尻尾から無数の針が射出される。
「起動せよ、Genetic Instinct - Rehabilitation Operation System」
 イナリの動きがさらに洗練される。そのまま身をひねり、一回転すると、彼女はアルフスの前へと。限界まで低くした姿勢で着地の圧を殺す。
「どうもどうも、おはよう? 私はイナリ、長月・イナリ。よろしくね、アルフス?」
 ウインクをしてみせた彼女へアルフスがにやりと口元を歪める。
「美しい。人類、貴様もまた愛でる対象へ加えてやろう」
「余計なことをするな」
 空からアーマデルが降ってきた。
 やや回り込みながら飛行で行動していた彼が、アルフスの元へたどりついたのだ。
「おお、愛しき黒よ! 我もとへ来てくれるとは行幸というもの!」
「いちいちわざとらしいな、貴殿は」
 アーマデルはアルフスと馬車の車線を、その薄く肉づく肢体で、遮ってのけた。その立ち位置は完璧で、アルフスをして「すばらしい」と言わしめる。
「まったくもう! 『月英』の書架守としては、木々が傷つくかもしれない状況は許せないのですよ」
 ドラマを中心に、広がる淡い緑の光。保護結界の青、オルド。クロニクルの黄色。ふたつの優しさが場に満ち、すべてを染め上げる。その輝きの真ん中に立ち、ドラマは叫ぶ。
「ただでさえ今の幻想国は何かと慌ただしいのに、次々と問題ごとを持ち込んできますね! 多くの地域が侵食されつつある中で今ならまだ、止められるのかも知れない。急ぎ、対応してのけましょう!」
 戦いの鼓動が高ぶる。凍りつきかけたゼノクロシアンをして、彼女へと殺到せしめるほどに。そこへ輝きが差し込んだ。朝日かとドラマは思ったが、朝日よりも美しく、やわらかい。
「『AUROA』起動アクセプト!」
 高い声音で、トールがプリンセス・シンデレラを掲げていた。
「天義だけでは飽き足らず幻想にまで悪意の根を伸ばしてくるとは……! これ以上好き勝手させない為にも、混乱の種はここで摘ませてもらいます!」
 ゼノクロシアンが動きを止め、まぶしげに目元を遮る。彼らの動きが止まり、馬車への射線がぽっかりと開ける。
「夜明け前の空にはオーロラがよく映えますね?」
 トールはしてやったりと微笑んだ。輝剣がさらに光を増していく。
「ま、待て!」
 アーノルドが焦った声を上げた。トールは鋭い視線で彼をなぐ。
「持ち帰ろうにも量の多さが仇になりましたね! このまま触媒を諦めれば命までは奪いません!」
「はあ? ふざけるなよ。それは神の使者として賜ったものなんだし?」
「くっ!」
 吹き付ける寒風は異域のブリザードのごとし。
(マギ・ペンタグラムの障壁が凍りついている……! これ以上戦闘が長引くとまずい!)
 トールはどうにか七色に輝く機関を立て直し、次の攻撃に備える。同時に、馬車の車輪を狙い、輝剣を叩きつけた。莫大な光輝がはじけ、七色が視界を舞う。
「輝刃斬城閃!」
 砕かれた車輪。その破片がトールの頬へうっすらと傷を作る。もう一振り。巨大なオーロラが馬車の手綱を切断する。驚き、おそれ、逃げ出す馬たち。
「少々可愛そうなことをしましたが、命を奪うことになるよりは、ね?」
 トールの言葉に、フルールもうなずく。
「講義2、敵の有利を奪え。この場合数と重要物品ね。貴方、ちゃんとどっちも確保してる?」
 アーノルド側へ寄ったイーリンが、注意力を奪うべく言葉をかける。
「ふん、まさかここまでやるとは。イレギュラーズの戦いというものを間近で初めて見せてもらったけど。……やるね」
「あら、褒めてくれるの? 分をわきまえている子は好きよ?」
「絢爛たれ、イーリン。御身の幸いはどこにある?」
「……司書と呼んでちょうだい」
 短く吐き捨てたイーリンは、アーノルドをにらみつける。どこから漏れた? 己の真名が。
「次の講義、聞きたいかしら?」
 イーリンの周りへ騎兵隊の幻が浮かび上がる。今にも突進せんとするそれを片手だけで押し止め、イーリンはアーノルドをねめつけた。

 いまだ明けぬ空。しらじらと。
 もう陽はそこまで来ている。アーノルドの動きは的確で、かつ変幻自在だった。かの動きによって、身にまとった付与が破壊される。
「くっ、こいつブレイクしてくるっ!」
 イナリは歯ぎしりした。極限まで高めた己のまとう稲荷神の寿ぎが、たやすく叩き割られる。
「この程度で止まってたまるもんか! 私にだって意地ってもんがある!」
 攻撃を重ねるイナリ。空気を裂き、跳弾がアーノルドを襲う。彼は顔をしかめたにとどまった。
「やはり刃を交えないとわからないことがあるようね。これは補講決定かしら?」
 イーリンは余裕をもったまま場を支えていた。彼女の存在がこの場の支柱だ。しろがねの狐に酷寒からくる冷気を払わせながら、彼女は一言。
「呪われよ」
 ゼノクロシアンの足元が泥沼へ変わる。スライム状に伸び上がった泥が、ゼノクロシアンたちを冒していく。
「ちっ、余計なことを」
「アーノルド、貴方も補講決定ね。ここで命を終わらせて、あの世で講義を受けてみる?」
「やだよ」
 短く答えると、アーノルドはイーリンへ狙いを定めた。その意識の隙間へするすると至東が入りこむ。地をなめるような剣閃がアーノルドを襲った。
「おっと」
「あら、かわされてしまいましたか? 残念ですこと」
 狙ったのは脚、ふともも。叩き切れば戦力が格段に落ちる。フットワークの軽いアーノルドだからこそ、その攻撃は有効だろう。だが敵もさる者。用意に狙わせてはくれない。それも馬車を守りながらなのだ。フルールはすこしだけ、アーノルドを見直した。
(敵ながらすてきですこと、その力、その技量、この冷気はいただけないけれど)
 こんな寒気のする空間でこそ、焔の乙女は燃え上がる。女王が降臨する。
「ねえ、アーノルドおにーさん。遂行者って色々いますが、結局のところどういった存在なんです? 死者からの復活? それとも生者から変化した存在なんです? 歴史はあまり詳しくないので、何が間違っているかはわからないのですが」
 乙女はゆるやかに髪をかきあげた。絹糸のような髪がゆるやかに垂れ落ちる。精霊達の輝きを受けて、それはゆらりときらめいた。
「もし私が遂行者になりたいって言ったら教えてくれるのかしら?」
「いーんじゃない? 不勉強のままで。そこの司書風に言うなら『講義』ってところだけど、僕はそんなのめんどうだからパスだし、キミだって講義を受ける腹づもりじゃないんだろ?」
「そこまでご存知なら、次の私の一手もおわかりですよね?」
「まあね!」
 アーノルドが剣を振り下ろした。フルールの焔、アーノルドの冷気、まっこうからぶつかりあったそれが消滅し、爆風が戦場を覆う。それを受けたリュコスは一瞬だけ目を閉じ、すぐに気力を振り絞り瞳を開く。
「みんながいきるための水場をうばう……そんなひどいこと、ぜったいにさせないんだよ。ここできみごととめてみせる!」
「……ほんと、ナマイキだよね、君ら」
 アーノルドは使い物にならなくなった馬車を目の端にとらえ、くしゃりと顔を歪める。おもちゃを諦めろと言われた子供のように。
「ゼノクロシアンもほとんど倒してしまいましたよ、どうします? アーノルドさん?」
 ドラマの挑発に、アーノルドはさらに顔を歪めた。憤怒の色が濃い。だだをこねているかのようだと、ドラマは感じた。戦況は敵側にとって、絶望的に不利。にもかかわらず、アーノルドは触媒へ執着している。
(ポイズンアップルグリーン、そんなに大切なものなのです? この遂行者にとっては)
 アーノルドはドラマへ向けて冷気を振るった。
「やられるばかりでは、ありませんよ!?」
 生じる。影から。無数の刃が。増えていく増えていく、魚の群れのように。ドラマは深く息を吸い、ためていた力を一気に開放した。
「ぐっ!」
 アーノルドの動きが鈍る。封殺されたのだ。
「好機ですよ皆様!」
「そうですわね。好機、まさに」
「あだあああああああっ!」
 触手が蠢き、アーノルドの悲鳴が響いた。
「ちょ、君ね! こういうことする!? ざっけんなよ!?」
「あらあら、地が出ているご様子ですね、アーノルドおにーさん? おしりの快感に目覚めるまで、何度でもくらわせてあげましょうか?」
 触手の先端を弄びながら、フルールは淫靡に笑う。
「みんなの作ってくれたチャンス、逃しはしない!」
 弾かれたようにトールが前へ出る。極大のオーロラとなった剣を手に。
「私たちは諦めたりしない。だから負けない。アーノルドさん、あなたの命運もここまでです!」
 振り下ろされる。オーロラ。胸高鳴るほどに輝いて。アーノルドの影を、馬車ごとまっぷたつにした。


「……最悪」
 地面へ散らばるポイズンアップルグリーン。そのひとつをとりあげ、血まみれのアーノルドがかぶりつく。ちょうど、星のあるあたりを。
 しゃくりと、心地いい音が響いた。
「ほんと最悪だよ、君ら。次はこうはいかないからな?」
 青りんごをかじるたびに、アーノルドの傷が癒えていくのがわかる。同時に、冷気がすさまじくなっていく。
「また会おうか。許さないから、そこのおとこおんなと、焔の乙女」
 ましろな霧がアーノルドを覆い隠した。最後のひとくちを飲み込むと同時に、霧が晴れる。そこにアーノルドの姿はなかった。
「逃げられましたか……」
 戦場から冷気が抜けていく。トールはAURORAを解除し、輝剣を収めた。至東によって切り裂かれたゼノクロシアンの死体だけが、惨劇の後として残っている。
「アルフス殿、まだやるか?」
「とんでもない、ここで皆を相手取るのはさすがの吾輩も御免被る」
 その理由はただたんにアーマデルの前で格好悪いところを見せたくない、という見栄からだろう。イナリはそう感じた。
 アーマデルが足元に転がってきた林檎を手に取る。
「それを食するのはやめておけ、愛しき黒よ」
「……こんな林檎に俺が釣られるわけがないだろう。この際だ、アルフス殿、知っていることを洗いざらい喋れ」
「黒が口づけをしてくれるなら、考えなくもない」
 アーマデルが眉を寄せる。それを見たアルフスは楽しげに笑い声を立てた。役に立たないなとさっさと見切りをつけ、アーマデルは思考する。
「アーノルドが食べて回復していたくらいだ。ポイズンとついているが毒そのものではない。気になるとすればこの……」
 星形の焼印。
「うわっ、なにこの禍々しさ。アーマデルさん、こんなものさっさと焼却しちゃったほうがいいわ」
 イナリの声を聞きつつ、トールは心配そうにちらばった青りんごを集めていた。
「集めて燃やしますか?」
「それがいいと考える」
 アーマデルが深くうなずく。馬車の残骸の中から、際限なく転がりだす青りんごを、リュコスも一生懸命拾っている。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……箱のかずは8こ。りんごは……いっぱい」
(ちょっとおいしそう。でも……たべたらどうなるんだろう……やっぱりこわいな)
 逃げた馬車馬を連れて、至東が戻ってきた。
「ひとつは持って帰りたいと考えたけれど、イナリをして禍々しいと言わしめる触媒、か。すなおに処分したほうが良さそうね」
 イーリンは残念そう。だがドラマは青りんごの山へ火をかけることに賛成しているようだ。
「この数、湖を含めた広範囲へ『帳』をおろすつもりだったのでしょうね。わざわざ危険なモノを残す必要はありませんから、悪用されないように全て燃やし尽くしましょう」
「ええ」
 フルールが青りんごの山の前へ進み出る。彼女に付き従う精霊達が、炎の中へ触媒をのみこんでいく。
「古来より邪なるものは炎で浄化と相場が決まっています。それにしても……ふふ、アーノルドおにーさんにとっては、忘れられない一日になったでしょうね」
 明るい空へ昇っていく一筋の煙。

成否

成功

MVP

トール=アシェンプテル(p3p010816)
男の矜持

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

アーノルドくんの今後にご期待ください。
MVPは馬車の無力化へ直接貢献したあなたへ。

またのご利用をお待ちしています。

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