PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<伝承の帳>怒りも悲しみも水底に沈んだ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●水没するノウェル
 踝まで浸かりそうな水面を滑るように、その男の靴底が触れた。
 足元には、地面に体の半ばまでを埋めた大型の肉食、否、雑食魚が蠢いている。
 まだらに削り取られた建物、まだらに肉体を失った人々、昏倒する人々。それらは奪われながらも機能を損ねていない。死なず、壊れず。
 そして死ねず、壊れられぬもの。
 血の一滴も流さぬままにそれらは悲鳴を撒き散らし、阿鼻叫喚の喝采は男の足元でぱちゃぱちゃと震えた。
「神の国へと至ってなお、彼等は現世の言葉でしか語れない。彼らは、希望を知っているのでしょうか?」
 男の問いに答えは無い。
 今まさに仮初の水面に呑まれつつある領地の名は「ノウェル」。
 嘗ての領主の名を頂く場所であるが、とある旅人に命を代償にそそのかされ、その家督を失った者達の静かなる墓標だ。それと同時に、ローレット・イレギュラーズによって救済された人々の新たな日々の開拓地。悲鳴が漏れる。苦痛が響く。軋み歪みが耳に響く。
 遅れた時代の者達の断末魔。
 それを聞き届けようとした男――遂行者ヘンデルはしかし、自らに突き立った敵意の視線を受け止め、恭しく頭を下げた。


 天義に現れた『リンバス・シティ』、そして次のリンバス・シティを生み出そうとする『神の国』の度重なる出現は、ローレットと天義上層部にひとつの情報を齎した。「神の国は触媒となる聖遺物の存在ひとつで顕現する」という事実。帳を下すには、単純な手順で済む……そこまでの異常性がいままでにローレットの前に現れた『遂行者』達の手のみでなされたとは考えづらい。……つまりは、より強大な存在が手引きしているということ。
 その事実を前に警戒度を高めた天義・ローレット双方を嘲笑うように、幻想に撒かれていた『触媒』が芽吹き、下された帳がひとつ――今、ここにある『浸食水域』であった。
「見つけましたよ、遂行者ヘンデル。次はお前の番です」
「……まあ、そういうところです。そろそろ顔を見飽きた頃ですが」
 トール=アシェンプテル(p3p010816)はヘンデルの姿を見て、強い敵意を言葉に乗せた。その様子を傍目に見る『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ(p3n000172)は、彼の顔を見飽きたとばかりに肩を竦める。かれこれ、これで3度目。言葉にも重みが出てきたころだ。
「私は他人に興味がありませんが、その感情は理解します。とても、美しい」
 ヘンデルの恍惚とした声に応じるように出現したのは、影の天使達。そして足元を泳ぐ魚たちだ。
「いずれこの地は水底に沈む。そうすれば、ラサとの交易路は途絶はしないまでも遠回りになる……かも、しれませんね。さあ大変だ、この国の豊かな文明と暮らしにちょっとだけ影が落ちてしまう!」
「……ごちゃごちゃと」
 トールの声、そのトーンが落ちる。腹に据えかねる相手とは、この男のようなタイプをいうのだろうと実感が湧いた。

GMコメント

●成功条件(すべて達成で成功)
 ヘンデルの撤退(他の条件を満たせば自動撤退or任意条件で撤退)
 敵勢力の殲滅
 聖遺物の破壊

●失敗条件(いずれか成立)
・成功条件を満たすことなく20ターン経過
・15ターン経過時点でタック・ガーの残数5以上

●遂行者ヘンデル
 腰までの銀髪を束ねた鴉羽根のスカイウェザー(らしき見た目)。男性。
 過去に都市や要人の襲撃に何度か現れましたが、いずれも彼本人が本気で戦闘をこなした様子は確認されていません(足止めされて撤退、ワールドイーターのみ呼び出し撤退などはしています)。
 周囲に『グレイ・ソーン』と呼ばれる術式の刻まれた鉄球が浮遊しており、それぞれ『強力な物理耐性』(赤)『強力な神秘耐性』(青)『高い機動・回避能力』(黒)を有し、それらを常時(毎ターン繰り返し)付与という形でヘンデルを護衛しています。鉄球自体にも個々の特性が付加されているため、闇雲に範囲攻撃を叩き込んでも打開は難しいでしょう。
 一定のダメージを受けると数ターン鉄球が動作停止を起こし、ブレイク後の再付与が滞ります。破壊可否については不明。
 本人の行動は低威力・広範囲系の【スプラッシュ(大)】【必殺】の攻撃による回避の減衰狙い、または治癒系統を広く扱えます。また、前回の戦闘で赤と青のグレイ・ソーンにより【ブレイク】【ダメージ大】の攻撃を使用したと記録があります。他のパターンも存在するかもしれません。

●影の天使『聖歌隊』×5
 影で出来た天使たち。天義に散発的に現れているタイプのいち個体です。両手を組んで祈る姿勢をした天使……のように見えて、口に当たる部分にそれがありません。代わりに発声器官を両掌に持っています。
 常時歌を歌っており、それぞれの位置からレンジ2以内の味方にバフを与えています。また、組んだ手を放し、突き出した先の対象(神超単【万能】)に音響攻撃をしかけてきます。複数個体が同一対象を攻撃した場合、命中回数に比例して重篤な現象が起きる場合があります。一発一発は「そこそこ面倒な単体攻撃」といったところ。
 バラけて飛び回るため一網打尽にしづらく、低空飛行をしているためマーク・ブロックがややしづらいのが厄介。

●ワールドイーター『タック・ガー』×15
 ワールドイーターにしてはやや小さい(成人男性サイズ)、半透明で鋭い牙を持った魚。
 『神の国』内部の建物や地面を片っ端から喰いまくり、外皮から水を生成する。この水により周囲を覆うことにより『神の国』の進行を加速させている模様。
 外見通り牙による物理攻撃や【出血系列】のBSを用いる。また、生存している数とターン数に比例し、戦場効果(後述)に【足止系列】が段階的に付加されていく。性能に関しては難易度相応の雑魚といったところ。決して強敵ではないが、簡単に全滅にもっていけるほどヤワではない。
 全滅すると水嵩が大きく減り、聖遺物の所在が明らかになる。

●神の国・浸食水域
 かつて一人の旅人によって襲撃された北西部『ノウェル領』を置換し、タック・ガーの能力により水没させようとしている。
 既存の領地に池のレイヤーを重ねたような状態になっており、前述の通り状況の進行によって「町の人々と建物が物理的に水没していく」。
 タック・ガーの生存数とターン数に比例してイレギュラーズ側に解除不能の【足止系列】のBSが段階的に付与されていく。低空飛行で回避可能(簡易飛行、それに準ずる技能は「限定的な飛行能力」なのでターン数の限界等に留意)。
 失敗条件は「神の国内部で住民達が溺死するタイムリミット」。
 聖遺物はありふれたスノードームの形をしているが、初期状態だと水没しているため発見は極めて困難だろう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <伝承の帳>怒りも悲しみも水底に沈んだLv:40以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年06月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

サポートNPC一覧(1人)

パパス・デ・エンサルーダ(p3n000172)
ポテサラハーモニア

リプレイ


「ヘンデル、貴様はスライムを放った時といい、己が何を為しているのかわかっているのか……?」
「愚問を。『確定未来』の実現のため、私は私にできる最善と、私が望む歓喜を演出しているだけです。無意識に振るう力に意味はない」
 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)の苛立ちの言葉は、以前の司教暗殺未遂に対する不満と今こうして暴挙に出た彼への義憤がないまぜになったものだ。自覚的に悪意を(当人にとっての善意を)ばらまく姿は、碌でもないことがわかる。
「遂行者というのは共通してベラベラよく喋り、自己満足のくだらない夢物語に浸るようですね」
「こそこそと裏で寝言をほざく事しか出来ない輩が正当性の主張とは、いよいよ以って救いようのない」
「大変結構。罵り、貶し、悪口の限りを尽くすばかりで成果を出せない貴族くずれの御仁にそこまで褒めそやされると私としても――そうですね、些か興奮を覚えます。そうは思いませんか、『お嬢さん』」
 『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)と『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の憎しみを隠さぬ皮肉に、しかしヘンデルの表情が揺らぐことはなかった。こと、ウィルドは悪口雑言の限りを尽くし、相手の感情を逆撫でして状況を探る癖がある。それを意趣返しのように罵られれば、当然いい気分ではなかろう。その野望を蹴散らし、成果を上げる以外にない。
「終焉を劇とするのは勝手だが、さて、現に手を伸ばすのは滑稽だ」
「ごめんなさいね……帰ってもらえるかしら?」
「皆さんの吠え面を拝んでからゆるりと去るとしましょうか。それまでは、この神の国を育てねば。劇は真に迫ってこそ。むしろ、真であれ、とすら思いませんか」
「台本の虚を実にするために山を削るのと、何が違う?」
 『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)はヘンデルの、ひいては遂行者達の行いが極めて滑稽に見えた。返ってきた彼の返答を聞いてもなお、くだらない劇作家くずれだとしか思うまい。『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が何の前置きもなく去ることを迫る様子からも、看過し難いと感じていることがありありと伝わってくる。ヘンデルは何人から憎悪を向けられても、心地よいと顔が言っているのだが……。
「貴方がたの信仰心は見上げたものだわ。尊敬に値すると言ってもいい」
「ふうむ。中々いい性格してますねえ全く。魔女的に、親近感は僅かに有りますが……」
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)と『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は、その在り方に思うことこそあれ、ヘンデルの性質の『ごく一部に限り』理解できるところがあった。己が望む未来や求める事実のために周囲の犠牲や白眼視を恐れぬ姿勢は、特筆すべきところなのだろう。
「でもね。――己の信仰のため、無辜の人々に犠牲を強いるそのやり方、どんなに崇高な理想を掲げていたとしても、決して認める訳にはいかないわ」
「自分の頭の中にしか居ないモノを神だなんだとか言うヤツが、あたしは世界で二番目に嫌いなんですよ!」
 だからこそ、決定的に相容れない部分があればその憎悪は増すばかりだ。信仰心を言い訳に人をすり潰すがごとき所業も、偽神を祀る行為も、両者にとっては許せぬものであるようだ。
「神がどうだ、影が落ちるだごちゃごちゃ喧しい奴だなぁ。他人に興味がなければ独り言を垂れ流しても聞いてくれるとでも思ったのか? くっだらねえ話ばっかりしやがって! おれさまは遊んでやれるほど暇でもねえんだよ!」
「一から十まで、あなたの言い分を聞いているほど暇でもないのがローレットです。早々に終わらせたいのですが?」
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)はどうせ倒すべき相手と面倒な問答を繰り返すのが我慢ならない。時間がないなら無いなりに、叩き潰してやりたい。殺意でも敵意でもなく、路傍の石を視界外まで蹴り飛ばしたいのと気持ちは一緒だ。『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)は彼の言葉に首肯する。
「せっかちですねえ。……そういえば、せっかちでなければ貴方がたは間に合わないのでしたか。フフッ」
 ざぶ、と水面が揺らめいた。長々と、この愚物と話している暇はもう無い。


「グドルフ、パパス、ウィルド、お前達は地上にいて大丈夫なのか?!」
 ワイバーンを乗りこなしつつ魚達を探す沙耶は、他の面々が空に逃れてなお地上に残った3名に問をなげかける。段階的に不利になっていく水中での行動は、やがて雁字搦めにされる可能性が高い。こと守りやフォローに回るなら、位置取りは重要だからだ。
「あ? ああ、水遊びなんざ付き合ってやる義理もないがね──ま、仕方ねえ。たまにはノセられてやるかよ」
 グドルフは足元を蹴り上げ、こともなげに進んでいく。水中で足を取られた程度、彼には大した問題ではないようだ。
「私だって、この程度――、……チッ、少しくらい動けない程度、何ほどのことでもありませんよ」
「私は治療ができれば、多少動けなくとも困りません。自分の身は、自分で守ります」
 他方、対策を取っていなかったウィルドが明らかに動きが鈍く、そしてタック・ガーとの距離も空いた状況……という悪条件。軽々に倒される男ではないだろうが、この状況から脱する手もまた薄いようだ。パパスはもとより、固定治療砲台のような立場に甘んじる覚悟から動じない。
「闇雲に戦って、時間切れなんてのは御免なのよね。本気でやらせてもらうわ」
「ヘンデルが目の前にいるからって目的を見誤るほど感情的だとは思われたくありませんからね!」
 ルチアは前方に迫る魚の群れを視界に捉えた。ともすれば、彼女が手を下す前に魚に先手を打たれる危険性は十二分にあった。が、魚より早くトールが輝剣を振るって一撃を見舞い、数体を前後不覚の状態に陥れる。ルチアを照準していた数体は互いを食み合い、狙いが乱れる。すかさず放たれたルチアの一撃は、常の彼女を見る者なら目を瞠るほどの決意と威力を秘めていた。
「おれらが手ェかけるくらいなら、自分達から沈んでくれた方が楽ってモンだ。そうだよなぁ野郎ども!」
「まったくだ! 最悪、狙いだけなら私が引き受ける! 自滅すれば最上、万が一飛び火しても構わないくらいの考えでいい!」
 グドルフは得物を叩きつけ、視界に入った魚を適当に巻き込んだ天使ごと吹き飛ばす。多少頑丈であろうが、守りを無視すれば意味がない。攻撃力が高いなら、同士討ちでもさせればいい。考え方としては単純明快ながら、着実にその精神を支配できるかが最大の鍵である。天使たちのリカバーを先手を打って潰す。沙耶が2体ほどを魚ごと引き受け、一体はグドルフにより前後不覚。2体で状況全てをひっくり返せるほど、優秀とは思えない。
「神を信仰するのは好き好きだけど、こんなものをばら撒いて大上段に構えているのは理解できないわねぇ」
「1匹でも残せば大惨事です、全員きっちり料理してやりますよ」
 ヴァイスが連続して叩き込んだ攻勢により、魚たちはその殆どが前後不覚に陥っていた。敵味方構わずに襲いかかるのであれば、イレギュラーズが離れれば自滅するのみ。ルトヴィリアはそれに駄目押しで呪術を重ね、数体に致命的な悪意を振りまいていく。すべてを一手で倒し切ることは不可能、だが次、その次へと手を重ねることはいくらでも可能だ。
「〇〇×――っ、面倒な手合を充てがってきましたね、こちらはこちらで」
「貴様、愉快な面構えだ。私と戯れないか、数多のアトラクションを用意した……全力で楽しむが好い」
「楽しむなら、貴女がたの吠え面で楽しませていただきますよ」
 ここまで、手数が足りないなりに順当にワールドイーターの処理に手を回せた要因のひとつにヘンデルの足止め、という事実がある。
 天使たちは己の意志と判断で動く為取り立てて指示は不要であるが、彼の異言によってより精密さを増す。ヘンデル自身が妨害に走れば、状況は加速度的に悪化する。そういう場において、ロジャーズが前に出てきた、この事実こそが重いのだ。攻撃と状態異常『に罹ること』を度外視し、守りに徹した彼女は軽々には倒されない。そも、通常の手段で傷がつかないのだ。
 天使2体は辛うじて狙いから逃れたが、ヘンデルはそうも行かない。接近戦を挑まれた以上、煽られた以上は、正面切って対処せねばならない。
「ふむ、ふむ…………成程、徹底して私を足止めにかかると。大変結構」
「貴様は笑みで隠しているが、難しい顔をしているな。状況に不満が?」
 ヘンデルは周囲を観察し、グレイ・ソーンによる攻勢が硬い感触で返ってきた事実を理解。ロジャーズが並の手段で倒せぬと悟った。作り物の笑みは、いささか不安定な歪みを見せる。彼は隠せていると思っているが、宛ら百面相であるとロジャーズは感じた。
「まさか、私の聖歌隊は、未だ潰えず。タック・ガーを善く処理しているようだが、未だ半数……残り100秒、否、それ以下でしょうか? 悠長なものだと思い」
 彼はその時、多少の動揺を塗りつぶして余りある優越の笑みを浮かべていた。


 魚達が前後不覚になろうとも、狙いによっては細かく移動を繰り返す。それはつまり、初期位置から離れていくということで。
 翻って、身動きが困難な者はどんどんと戦場から切り離されることを意味する。
 全力で食らいつき、最大射程の治療を繰り返すパパスはまだ、気休めになっているが……息が上がっている以上、長期戦は難しいか。
「聖歌隊が、治療を……っ、邪魔、です……!」
 パパスが肩で息をし、喘ぐ先では聖歌隊の一体が復調の歌を奏で、魚達を同士討ちから解放し、或いは天使達の連携を取り戻そうと躍起になる。それでもかなりの数を殲滅できているが、時間経過による水面の上昇は避けられない。
「すこし大人しくしていてちょうだい?」
「?_|’!」
 ヴァイスが天使を邪魔しようと魔光を叩き込むが、天使はほぼ同時に音響波を打ち込んでくる。連携が崩れたか、受けたのは一発だが……視界が暗転する。四方から噛みつかれた感触。
 大丈夫、痛みは薄い。まだ戦える……これが続かない限りは。
「クソみてえな歌を囲んで叩き込むか、ばらまくつもりだったんだろ。勘違いすんなよ──聖歌てのは本来はカミサマに聞かせるモンだぜ」
 グドルフは天使めがけ強烈な一撃を叩き込む。まともに入った――だが、天使の両手が彼を照準した。両目を塞ぐように。死角を悟らせぬように。
 自分を狙うなら狙い通り、多少効くとも耐えきれる。なにより、状態異常などという甘えは彼に通用するものか。
 不敵な笑みを浮かべたグドルフの胴を、針と化した音響が叩く。耐えられる……一度ならずとも……!
「グドルフ、ヴァイス! ……くそっ、魚を倒すのが最優先だ!」
「ええ、この状況をなんとしても打開し、魚を全部叩き潰ス……!」
「天使もどきも倒さないと、聖遺物が壊せない……何とも!」
 沙耶は仲間を案じるが、彼らに気を取られ意識が漫ろになることを最も嫌った。トールとルトヴィリアもそれに倣い、魚に重点的に狙いを定める。攻勢に出た数、動きを制限された数、異常を治療した数……あわせれば、傷は治療できていないと断言できる。なら、殺せる。
 間に合う。間に合え。百五十秒を与えられ、倒しきれぬと嘆くなどあってはならぬ。
 斯くして――百四十秒を数えた時点で、ワールドイーター、タック・ガーは殲滅されるに至る。代償は、ヴァイスとルチアが満身創痍に追い込まれた状態であること。そして。
「貴様はこの守りを貫いてくると踏んだ。そうでなくとも、二の手三の手は封じた筈だが」
「以前、似た手を使った愉快なお嬢さんを拝見しましたよ。彼女も大概でしたが、貴女は『とびきり』だ。私がそれを使うと踏んだのでしょう?」
 「だったらより重い代価を払わせますよ」。
 そう告げたヘンデルの身から、あろうことか――グレイ・ソーンによる三重防御が消失した。そしてそれらは、ロジャーズを取り囲む。
「『三惨呪仇』(トリ・カー・ナーン)」
 三方向から連続して、光弾がロジャーズを貫く。痛みはない。付与術式が無効化している。破壊目的ではない?
 だが、見る間に魔力が削られていくのがわかる。異常が重ねられる。…………呪いが首筋に食らいつく。
「ほう、呪術の類か! 少々強力だったがだがこの程度」
「ええ、付与が切れさえしなければ……耐えられたでしょうね。時間切れです」
 異常を重ね、魔力を削り、呪い殺す蛇のような手管だった。ロジャーズの防壁を潰さずに、削ろうとした。それだけでは倒せまい。
 ――ロジャーズの付与術式が途切れ、再展開を阻まれさえしなければ。


「贋い物の天使よ、主の裁きを受けなさい」
「嬢ちゃん、無理し過ぎじゃねえか……!」
「だとしても、私が、私も倒します」
 ルチアは、震える足を踏ん張り攻勢術式に神経を回す。グドルフですら躊躇う傷を負って、それでも仲間の治癒と敵への攻撃に全神経を回す決意は、成程一線級のそれを感じさせた。だが、それも限界がある。
「魚が消えて水が引けた以上、総戦力で戦える訳ね。もう、天使を逃がす気はないわ」
「最後の一秒まで神経を張り詰めろ! 絶対に逃がすな!」
「贋物の天使を暴れさせ、さぞかし気分がいいでしょう……ふざけるんじゃない、ヘンデル!」
 同じく傷が多いであろうヴァイスもまた、残された魔力と血を総動員して立ち上がる。さいわい、パパスの治療で気休め程度には間が持とうか。
 そうでなくとも、一同の傷は決して浅くない。沙耶は絶えず周囲に声を張り上げ、精神的支柱たろうとした。その負担が、今肉体にフィードバックを起こしつつもある。
 何より天使が、手負いで総力戦を挑むには難敵だった。トールの乾坤一擲の斬撃が天使を切り払うが、まだ、2体。その先には、聖遺物が。
「存在もしない偽神を祀る天使なんて、あたしは大嫌いなんで! こいつらあたしが叩き潰すんで、はやく聖遺物を!」
 誰かの手が聖遺物に伸びた。あと少しのところまで。
 だが、それは流れ弾めいて飛んできた光弾に貫かれ、縫い留められる。
 ほんの10センチ伸ばせば届くのに、光に縫われた手が抜けない。
 視界の端では、薄笑いを醜く苛立ちに変えつつあるヘンデルの姿があった。……次の瞬間、一同の視界は水の中へと包まれ。
 そして彼らは、神の国・ノウェルからはじき出された。そして二度と、入ることは叶わなかった。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)[重傷]
白き寓話
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し
結月 沙耶(p3p009126)[重傷]
少女融解
トール=アシェンプテル(p3p010816)[重傷]
ココロズ・プリンス
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)[重傷]
瀉血する灼血の魔女

あとがき

 役割とフィールド効果との相性が悪い場合、という意味で非常に適切な結果になったと思います。
 しかしながら、ヘンデルが苦虫噛み潰した顔してるので痛み分けということでしょうか。
 
 Tips:ヘンデル使用スキル「『三惨呪仇』(トリ・カー・ナーン)」詳細判明。以後常時、情報開示対象。

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