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シナリオ詳細

<月だけが見ている>愛を知れぬ女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 月は妖しく輝き王宮を照らしている。
 欠けることなく差す作り物の月は窓辺からその光を中まで届けていた。
 そこは女王の御所、創り上げられた模造の夜の国、彼の地に立つ吸血鬼達の都たる月の王宮。
「忌々しい……忌々しい……忌々しい!」
『吸血鬼』マリアンネは烈火の如く怒り狂い、腕を振るう。
 怒り任せに振るわれた腕から放たれた魔術が調度品を、壁を粉微塵に粉砕する。
 紛い物の国、紛い物の王宮を維持せしめし『夜の祭祀』は滞り、故に崩れた壁が直ることはない。
「あの、黒豚野郎……あのアクアマリンの娘。
 それに……あの! あの! 私を無視して平気そうなことを言う女!」
 顔を掻きむしるようにして激情をあらわにする彼女の貌は、その人間性を示すが如く醜悪その物に歪んでいる。
 マリアンネはかつてラサにあった魔女であり、犯罪者であった。
 罪なき人々に嫉妬し付け回した挙句に手に掛け、それを諫めた人々さえも手にかけた罪人である。
 原罪の呼び声による狂気にかられたが故の狂気――否。
 彼女はその精神の正気を以てして、愚かなる行いを断行した。
 罪人と呼ぶほかない、非道の女である。
「私を侮辱した連中を丹念に弄くり回して作り上げた晶竜(おもちゃ)……
 あれが無様に壊れるところはあんなにも胸が気持ち良かったというのに!
 あんな連中のせいで、あぁ、不快だわ、不愉快だわ……」
 一通り激情の赴くままに暴れた魔女は、ふと息を吐いた。
「殺してやる。殺してやろう、そうだ、それがいい。そうして、あいつらを使って……ふふふふ」
 狂気に笑って、魔女はふらふらと動き出す。


 月の王国の踏破は概ね成功したと言えた。
 開かれた城門。『烙印』の残り日数を思えば、早期に進み解決をしなくてはならない。
 博士と名乗る男は『烙印の治し方? さあ、死の間際に教えるのではないかな』とはぐらかすばかり。
 あの寒々しい冬に、市場に回った紅血晶はイレギュラーズの尽力のお陰もあり全て回収しきったとファレン・アル・パレストから伝達も入った。
 なれば、最早やることなど一つしかなかろう。
 即ち、王宮を攻略し、紅血晶の『大元』を断つこと。
 そして、吸血鬼と名乗った者達の一斉掃討、つまるところの月の王国掃討作戦である。
「君たちが安らかに眠れるように、マリアンネは私が……私達が必ず倒すから」
 シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は墓標を見下ろし、静かに告げた。
 墓標の下には綺麗な鱗だけが埋められている。
 マリアンネによるストーキングの被害者たち、マリアンネを諫めて殺された人々。
 そういった人々が一緒くたにされて生み出されたキマイラ――晶竜の一部が埋められた墓標だ。
(君達のような被害者をもう出さないためにも……彼女を倒して、月の国も滅ぼしてみせるから)
 そっと目を伏せて、シキは踵を返す。
「あそこに眠った彼らのためにも、必ず、彼女を根の国へお連れしましょう。
 根の国は同じでも、あそこに眠る彼らとマリアンネが同じ場所に落ちるとは思いませんけれど」
 そういうのは冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)だ。
 マリアンネに受けた烙印の影響は『彼』との経験もあって低く抑えられている。
「彼女についてかなりわかりましたし、次こそは必ず……」
 水月・鏡禍(p3p008354)もまた、マリアンネから受けた攻撃を脳裏に振り返りながらそう頷くものだ。


 儀式による形の維持が困難になった影響で、華やかなりし月下の王宮は崩れつつある。
 イレギュラーズはその中を駆け抜けていた。
「あははははは! 死んでしまえ、黒豚野郎!」
 そんな絶叫を聞いたゴリョウ・クートン(p3p002081)は咄嗟に盾を構えた。
 刹那、暗がりの影から放たれた数多の魔弾を大盾で捌ききれば、その先には見覚えのある女。
「ぶはははっ、誰かと思えば、そのぽっと出の黒豚に全部かっさらわれた『吸血鬼』じゃねえか!」
 大笑してみせたゴリョウは、目ざとくマリアンネの後方から聞こえた音に警戒する。
「――シキ、睦月。これでいいかい?」
「うん、ありがとうゴリョウ」
 月光に照らされながら、シキはゴリョウの影から姿を見せ。
「こうも吸血鬼ばかりの気配がしては特定するのも難しいですからね」
 同じように睦月も姿を見せるものだ。
 激情を露わにしていたマリアンネならば、ゴリョウの姿を見れば突っ込んでくると読んだ3人の策だった。
「アクアマリンの娘と、私を無碍にする忌々しい小娘!
 それに、私に不快な景色を見せてくれた手鏡野郎まで……ちょうどいいわ、あんたらも消し飛ばしてやる!
 この、女王陛下のお膝元でねえ!」
 そう叫ぶマリアンネは前回までの理性は感じられない。
 王宮にいるが故の物か、或いは腐り切った性根の本性か。
「寧ろこちらこそ、確実に撃破させてもらいます」
 静かに告げる鏡禍へマリアンネが歯ぎしりしたかと思えば、にやりと醜悪に笑む。
 その後ろから陶磁器の鳴る音がする。
 姿を見せた9体の怪物は細工めいた人型のナニカだった。
 中でも月光に水晶の瞳を輝かせる個体からは高い魔力を感じさせる。
「これはこれは、随分と細工めいた怪物を飼っているようですね」
 姿を見せた何かを見やり、不快感を覗かせる声でハンナが笑う。
「身体が陶磁器めいた怪物みたいだね」
 その姿を見て、イルザがくるりと槍を構える。
「あの一番面倒くさそうな個体はこっちで預かるよ。取り巻きの小型とマリアンネは頼めるかな?
 まぁ、皆が手伝ってくれた方が早めに潰せるだろうし、手伝ってくれるならそっちの方がうれしいけど!」
 そう言った2人が静かに獲物を構えた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】『吸血鬼(ヴァンピーア)』マリアンネの撃破

●フィールドデータ
 月の王国に存在する王宮です。
 何処をとっても非常に美しく、絵画の世界を思わせます。
 帰属意識なのか、非常に強く女王に焦がれる他、烙印による影響が色濃く出てくるようです。

●フィールド特殊効果
 月の王宮内部では『烙印』による影響を色濃く受けやすくなります。
 烙印の付与日数が残80以下である場合は『女王へと思い焦がれ、彼女にどうしようもなく本能的に惹かれる』感覚を味わいます。
 烙印の付与日数が残60以下である場合は『10%の確率で自分を通常攻撃する。この時の命中度は必ずクリーンヒットとなり、防御技術判定は行わない』状態となります。

●エネミーデータ
・『吸血鬼(ヴァンピーア)』マリアンネ
 紅色の髪に月のような妖しい金色の瞳をした妙齢の女。
 身体を覆うローブ風の衣装を纏っています。
 烙印の位置はへその下あたり。

 風貌からラサで嫉妬に狂い、何の罪もない一家をストーキングし、
 ソレを諫めた多くの人々を手にかけた狂気の人であると判明しました。
 どうやらそれらも『原罪の呼び声』の影響ではなく正気のままに引き起こした事件だったとのこと。

 魔種にも似た非常に強力な力を有します。後衛。
 多種多様なBSと範囲攻撃を駆使する魔導師タイプ。

【火炎】系列、【痺れ】系列、【出血】系列、【HP吸収】、【AP吸収】、【乱れ】系列などを用います。
 また、ごく一部のスキルには【疫病】属性のものがあります。
 一方、近接手段が単体スキルしかありません。

 ゴリョウさん、シキさん、睦月さんを優先的に狙おうとする傾向があります。

・『偽命体』ドールヴァンピーア×8
 姿形は人間種を思わせる一方、月光を反射する身体は陶磁器めいています。
 また、身体のどこかに烙印の花が咲いています。
 自我はなく、知性の類も感じられません。
 人型をした獣という方がそれらしいかもしれません。

 物理戦闘能力に長け、反応や防技、EXAが高め。
 主に【出血】系列、【痺れ】系列、【致命】のBSを用いる他、
【スプラッシュ】や【邪道】属性の攻撃を持ちます。

・『ドールヴァンピーア』ガラテイア×1
 象牙細工めいた人間種を思わせるドールヴァンピーアです。
 他のドールヴァンピーアよりも高密度の魔力を帯びており、他の個体とは比べ物にならない力を持ちます。
 ほっといても友軍が何とかしてはくれます。
 友軍をマリアンネや他のドールヴァンピーアとの戦いにも参加させたい場合、
 イレギュラーズが手を割いても良いかもしれません。

 基本スペックはドールヴァンピーアと同じですが、HP、AP、物攻、命中が強化されています。

●友軍データ
・『夜の導き』ハンナ・アイベンシュッツ
 ラサに属す傭兵団『夜の導き』の団長、眼鏡を付けた人間種の青年です。
 理性的で穏やかな性格ですが、仕事とあれば多少の強引さも辞さない人物。
 イレギュラーズに大変好意的です。

 何もなければ基本的にガラテイア戦に集中します。
 ガラテイア戦を任せきる場合、ガラテイア撃退後はスタミナ(AP)切れを起こす可能性が高いです。

 戦闘スタイルは神秘系のテクニカルアタッカー。
 瞬付与のバフを乗せて一撃を叩き込むタイプ。

 今回はクェーサーアナライズを持ち込みます。

・『壊穿の黒鎗』イルザ
 鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。青みがかった黒髪をした人間種の女性です。
 朗らかで快活、さっぱりとした性格、イレギュラーズに大変好意的です。
 穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るいます。
 距離を問わぬ神秘パワーアタッカーです。

 何もなければ基本的にガラテイア戦に集中します。
 ガラテイア戦を任せきる場合、ガラテイア撃退後はスタミナ(AP)切れを起こす可能性が高いです。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <月だけが見ている>愛を知れぬ女完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年05月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

リプレイ


 金属音が廊下に鋭く響いている。不気味な音は不快感を煽らせた。
「これは弔い戦、というやつだな。
 まあ勝手な縁を結んだだけだから、これはただのわがまま。
 もう少しだけ付き合ってくれる? エルス姉さん、リアも」
 愛刀を抜いたまま『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は少しだけ視線を後ろに見やる。
 激情に揺れる『吸血鬼』マリアンネは、それだけでも相当なストレスだろう。
「えぇ、しっかりと支えてあげるから、全力で暴れてきなさい!」
「シキ、ちゃんと自分が果たすべきをやり遂げなさい。私はここで貴女の背中を押すわ」
「ありがとう、2人とも」
 細剣を握る『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)と金の瞳を向けた『デザート・プリンセス』エルス・ティーネ(p3p007325)の叱咤にシキはそれだけ言って前を向きなおす。
「これオメェさんと違って生まれつきじゃないけどイケてるだろ?
 あ、いや悪い! オメェさんの濁った瞳とじゃ格が違ったか!」
 挑発のため、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は高らかに笑う。
「お、おちょくりやがって、クソ豚がぁ!」
 分かりやすい激情の声と共にマリアンネが掌をゴリョウに向ければ、幾重もの魔法陣が浮かび上がる。
「……罪人、か。ウワサ程度なら聞いた覚えがあるが。それがこれほどまでに堕ちているとはな」
 ラサの傭兵でもある『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)はその姿に小さく感想を漏らす。
「……まぁ、どうでもいい。ラサの傭兵として、イレギュラーズの一員として。私はお前を殺す。その為に来た」
「は、殺す……あはははは! やってみなさいよ!」
 ミサイルポッドを開放させ、照準を合わせるルクトへと魔女は嗤っている。
(ここが月の…く…体が……心が……思うがままにならない……いいえ、しっかりしなくては)
 心の奥から湧き上がる衝動と、焦がれるような感覚を振り払うように『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は深呼吸する。
「……マリアンネ、嫉妬に狂った哀れな貴女を、根の国へ導きましょう。荒神の祭具であった身なれば、迷える魂を導くはこの身の務め」
 真っすぐに魔女を見れば、睦月を見たマリアンネが眉をひそめた。
「大変お怒りで妖怪としては気分がいいですね……本当に、ここまで歪むと同情のしようもないです」
 静かに『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は言葉を乗せる。
「同情? あぁ、不快、不快だわ! 殺してやる……殺してやる……」
 血走るマリアンネの表情は明らかな殺意。
 手鏡を口元に寄せ、鏡禍は表情を敢えて隠してみせた。
 見えないが故に、狂った吸血鬼はそれを嘲笑に感じ取っただろうか。
「暫くぶりの再会だが…あの頃よりも随分と余裕が無くなっている様子だな?
 むしろ、こちらが本性といったところか。最早『次』は無い。この場で決着を付けさせてもらうぞ!」
 双刀を抜き放つ『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)の言葉に、マリアンネが応じるように睨む。


 動き始めた戦場。
「雑魚は早々に片付けるわよ。
 吸血鬼の苦しみも悪意のある吸血鬼もこの刃で滅ぼしてあげるんだから!」
 視線の先にシキを認めつつ、エルスは圧倒的な反応速度で動き出す。
 その手にいつの間にかあった煌醒の大鎌を振り払い、撃ち込んだ斬撃は連続して振り抜かれ、2体の偽命体の動きを封じ込める。
「この技は戦場に咲く花を刈り取るためのもの。その烙印、全て散らしてやろう」
 静かに据えられた視線、無我の境地に至りルーキスは双刀を振るう。
 至るは戦場に咲き乱れる数多の花を悉く刈り取るための一閃。
 踏み込むと同時に走る乱撃は陶磁器めいた肉体に触れて鋭い金属音を奏でた。
 鋭く、美しき軌跡を描く斬撃の軌跡は陶磁器の破片めいた金属質な花弁を戦場に散らせていく。
「誰かに植え付けられた衝動なんて、自分のモノにしてたまるか!」
 視線を向けた先はドールヴァンピーアの中でもひときわ大きな1体。
 細剣を宙に刻み、斬り裂かれた空間がその個体を圧搾する。
「片手間でごめんなさい? 援護はするからこっちもちゃちゃっと片付けちゃいましょ!」
「ありがとう! だってさ、団長!」
「ええ、心強いですね……!」
 からりと笑ったイルザが言うのと同時、ハンナが棒をガラテイアに打ち込むのが見えた。
 それを横目に、リアは英雄幻奏を奏でる。
 第六楽章の優しき音色は先を行く仲間達へと再び立ち上がる為の力を与えるだろう。
 動き出したイレギュラーズに紛れるように、2体の偽命体が動いた。
 獣めいた速度で飛び込んできた2体は腕をドリルのように高速回転させながら刺突を撃ち込んでくる。
(さて、状況の把握は忘れずに……)
 鏡禍は俯瞰するイメージで周囲の視野を取りながら、手鏡の陶磁器めいた偽命体たちへと向けた。
 戦場に立ち込める薄紫色の妖気は偽命体の方へと揺蕩っていく。
 既に行動を開始していた2体を除く偽命体の意識が妖気に絡め取られたように鏡禍を見た。
 そのままそいつらは地面を削るような独特の動きで一斉に鏡禍目掛けた突撃を開始する。
「ぶはははッ!」
 怒涛の如く浴びせかけられた魔術を全て捌ききってみせたゴリョウは高らかに笑ってみせる。
 不敵な笑みと共に金銀蓮花の炯眼はマリアンネの身体を絡みつくように睨む。
 堂に入った演技で笑ってみせれば、ただでさえゴリョウを睨むマリアンネの意識を集中させるには充分だ。
(まぁ、舐めた口はきくが、オメェさんの能力までナメる気はねぇぜ、俺ぁ!)
 迫らんとする吸血鬼へと意識を向けて、ゴリョウは火焔盾を構える。
「怖れるものなど何もない。それは、僕たちだけではなく、貴女もです。マリアンネ」
 式符から召喚した黒蛇を嗾ける睦月は真っすぐに視線を合わせたままにそう告げる。
「怖れる? 私が、何を恐れるっていうの!」
 金切声に近い色でそう叫んだ魔女へ、睦月は真っすぐに視線を合わせ続ける。
(ゴリョウが抑えてくれている間に数を減らさなきゃな)
 シキは戦場に飛び込んで愛刀を振るう。
 ガンブレードと瑞刀を全霊で振り抜く乱撃は美しき軌跡を描く。
 金属音に混じる微かな火花と陶磁器の破片めいた花弁が攻撃の意味を教えてくれる。
「――あいさつ代わりだ、遠慮なく貰っていけ。」
 ルクトはそこを狙い澄ますようにしてミサイルポッドから砲撃を撃ち込んでいく。
 放物線を描き、有り得ざる方向から炸裂する多段のミサイルは避けえぬ砲撃。
 内側に仕込まれた毒性が炸裂と同時に霧散し、マリアンネの身体へと吸い込まれていく。


 戦場には夥しい量の花弁が舞っている。
 それはドールヴァンピーアの、マリアンネの、睦月やシキ、リアの流した血が変質したもの。
「これでどうです?」
 鏡禍は妖気を束ねて戦場を一閃する。
 妖気は薄紫の斬撃そのものとなって物理的な傷をドールヴァンピーアへと刻み付ける。
 翻って撃ち込まれる刺突や斬撃は妖気そのものとなった鏡禍の身体を貫くことはない。
「人というよりも象牙細工に近いなら、こちらの方が良いかもしれませんね」
 ルーキスは愛刀を構えなおす。
 踏み込むと同時に閃くは師より授かりし砕の刀技。
 鬼の力を宿した斬撃は花弁を散らすが如く壮烈にドールヴァンピーアを穿つ。
 連撃は激しく、苛烈に削り落としていく。
「本当、面倒なものねこれ……!
 ここに来てから、血の香りを嗅ぐと頭がクラクラしてくるわ」
 そう眉を顰めるリアは自らの指を強く噛む。
 ずきりとした痛みで香りから意識を振り払い、そのまま星鍵を掲げ持つ。
 淡い輝きを帯びた銀の細剣から玲瓏の魔力が溢れ出す。
 月光すらも塗り潰さん温かな光に導かれるように、受ける魔女の術が吹き飛んだ。
「動きが鈍くなってきたようだな……限界か?」
 そう告げるルクトは再びミサイルポッドから砲撃を放つ。
 完全な無音の元、想定外の咆哮から降り注ぐミサイルは変幻にして邪道。
 しかしてその真価は内蔵された呪詛である。
「貴方も私を侮辱したわね……?」
 苛立ちを露わにマリアンネがぎらぎらとした瞳を向けてくる。
「この程度で俺らが鈍る訳ねぇだろ! くぐった修羅場の数が違うわ!」
 夥しい呪いを秘めた魔力の塊を叩き込まれながら、ゴリョウは啖呵を切る。
 それと同時、火焔盾『炎蕪焚』は蒸気口から黒い高温のスチームを放出する。
 至近距離で受けたマリアンネが悲鳴をあげて熱を逃がさんと手を振るい出す。
 血の匂いが鼻につく。烙印の刻まれた身体はどうしようもなくそれに興味を持たされる。
 シキは愛刀を握る手に力が籠るのを感じていた。
(それでも戦うんだ。これは私の願いでもあるし、何よりエルス姉さんが背中を押してくれたから。
 姉さんも大変なのに……私の背中を押してくれた……やっぱり姉さんは優しいね)
 思いに押されるように、シキは刀を振り抜いた。
(他人ばかりを気にしてる彼女……どうかあの子にも祝福があればいいのにと願うのに。
 神様はいつだって意地悪ばかりするから困りものよ)
 エルスはその剣がドールヴァンピーアを削り落とすのを見据え、既にマリアンネめがけて駆け抜けていた。
 その手に握る鎌が抱くは赤い闘気。
 満月に照らされた真祖の姿に一層と馴染む闘気と共に振り抜かれた斬撃は美しい軌跡を描いてマリアンネへと痛撃の斬撃を刻む。


 マリアンネとの戦いは激しさを増していた。
 花弁に変じているせいで分かりにくいが、もうそろそろ活動限界でおかしくない量の血液が戦場に散っている。
「どいつもこいつも……人を侮辱して……」
 大きく開かれた腹部を守るようにしながら、マリアンネが忌々し気に睨んでくる。
「因果応報だ。今まで手にかけてきた人々の痛みと苦しみを、その身を以て知るがいい!
 応じるようにルーキスは真っすぐに愛刀を構える。
 静かに、強かに、真っすぐマリアンネを見つめる瞳には溢れる闘志が迫力となって見える。
「烙印? 重傷? そんなものでこの意思を砕くことは出来ない。困難を糧とし、この刃でお前を討つ!」
 そう宣言すると同時、ルーキスは走る。
「お前という花を刈り取ろう、全力で!」
 始まるは双剣の連撃。
 栄光を穿ち、砕を撃つ神速の斬撃。
 瞬く間に花弁が戦場に溢れだす。
「私が支えるわ! 全力で暴れなさい!」
 それはシキへの激励であり、仲間達全てへのリアが放つ激励だった。
 鮮血の乙女はガラテイアをいよいよと破砕して、奏でる慈愛のカルマートがゴリョウへと優しい音色を紡ぐ。
「……これで終わりだ。遺骸は……しっかりと焼いてやるさ」
 ルクトは指輪に魔力を通す。
 召喚術が呼び起こすは炎を纏う巨大なオルカ。
「いけ」
 短く指示を下した刹那、炎を纏ったそれは戦場を突っ切ってマリアンネへと駆け抜ける。
 酷くゆったりとして見えて、壮絶な速度を発揮したそいつがマリアンネに大きく食らいついた。
 鏡禍は妖気を束ねて1本の剣を構築する。
 実体を持たぬ故に揺らめく妖気の剣は神威を思わす断罪の剣。
 肉薄すると共に振り抜かれた斬撃は鮮やかな薄紫の閃光を引いてマリアンネへと痛撃を撃ち込んだ。
「それで、誰か一人でも消し飛ばせましたか? 何一つ望み通りに行かなくて可哀想ですね」
「……どうして? どうして、上手くいかないの? あぁ、そうよ。どいつもこいつもそう。
 私の愛を拒絶した奴らも、私の愛を間違ってるって、止めろとかほざいた命知らずの馬鹿どもも!
 極めつけはアンタ達よ! どうして、どうして何もうまく――あぁぁぁ!!」
 鏡禍に詰められ半狂乱になったマリアンネは半歩ほど後ずさる。
「さあ、何故でしょうね。根の国の主の思し召しかもしれませんが、わかりません。
 ただたしかに僕は、死ねないのですよ」
 変わって答えたのは睦月である。
 その精神性を証明するように、睦月は不可視の魔弾を、或いは神通力を打つ。
「おっと、どこにも行かせねぇぜ」
 ゴリョウはその体格を押しつけるぐらいの勢いでマリアンネへと肉薄する。
 極まるほどに高く整えられた堅牢さを前に、マリアンネの動きは大幅に阻害されている。
 それでも幾つかの攻撃がゴリョウの駆動泉鎧に傷をつけている。
 逆に言えば傷がついているだけでしかないのだ。
「料理をしたら洗いモンや後片付けまでやるもんだぜ」
「逃がさないよ。君が背負うべき罪は山ほどあるんだから!」
 追撃、シキはそこへと飛び込んでいた。
 ガンブレードに籠められた魔力は獲物を喰らう瞬間を待っている。
 一閃と咆哮に似た衝撃の刹那、黒き顎は魔女を呑みこんだ。


 戦いは終わった。
 崩れ落ちた吸血鬼は、もう動くことはない。
「次があったらその時は、歪むことなくちゃんと愛して愛されるといいですね」
 鏡禍は倒れた女を見下ろして静かに声に漏らす。
 同情など無い――それは間違いなく、ないけれど。
「貴女の決着は付けられたかしら?」
 エルスはシキへと声をかけた。
「彼女の狂気で犠牲になった人たちの無念……少しは晴らせたかな」
 シキが小さく呟いたのを聞き、エルスは「きっとね」と呟き。
「さて…今度は私の戦いを終わらせないと、ね」
 そのままそう答えた。
 リアはそんなシキにそっと近づき――
「え、なになに。どうしたの!? なんで触るの!?」
 初めに脇腹、そこから身体のあちこちに触れて、手に触れる感覚を確かめる。
「……ねえ、シキ。博士を倒してラサを開放したら、一度お話しましょう。
 貴女に聞きたい事が、色々あるの……」
「えー、お話? お話、は」
(これはきっと避けては通れない。
 あたしは貴女を……美しい音色の貴女を、守りたいから……)
「……うん。いつでもいいよ。
 他でもない君の頼みだからね。だからそんな不安そうな顔しないで、ね?」
 驚きつつはぐらかす様に言ったシキはリアの表情に気付いて静かに頷いた。
(私。…私は愛してる、と言う言葉を使っても愛されてる実感がなかった。
 だって私はそういうものだと思ってたもの。
 だから吐露したところで全部無意味だと思っていた。
 でも…今の私なら、何か…っ、あの方に、会いたい…)
 その様子をどこか暖かく、羨ましそうに見つめていたエルスは、自分を抱き寄せるように片手でもう片方の手を取った。
「悲劇の被害者は祷を捧げられるが、吸血鬼は何も残せずただ朽ちるか。哀れだねぇ」
 ゴリョウはマリアンネを暫し見つめて軽く息を吐いた。
 その横を睦月は静かに通り過ぎてマリアンネの隣に座り込む。
 そのまま眠る彼女の頬を撫で、髪を梳いて整える。
「ねえマリアンネ、貴女は解放された。僕は貴女のこと、けして忘れませんよ。
 貴女を看取るために。そのために僕は、ここまで来たのですから」
 最後にそっとその額に口付けを送り、ゆっくりと笑む。
(……マリアンネ、つらかったでしょう。苦しかったでしょう。
 すべては終わり、根の国で暮らしなさい。死は終わりではなく新たな始まりです)
 根の国への旅路に着いた魔女を思い、丁寧に髪を払ってやってから、そぅと睦月は立ち上がる。
「……この戦いが終わったら、貴女のお墓を作ってあげましょう」
 最後にそれだけ残して、睦月は緩やかに顔を上げた。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド

状態異常

ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
ディバイン・シールド
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)[重傷]
秋縛
鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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