シナリオ詳細
<月だけが見ている>藪蛇をつつき若葉は萌ゆ
オープニング
●
「――もっと」
それは、赤子のようなものだった。
一度は砕かれ、殺された命――吐いては捨てるが如き所業の、その1つに過ぎぬもの。
「モット、もっともっともっと!」
喘ぐように、それは叫び声をあげる。
月に告げる慟哭のようなそれは、強烈なまでの吸血衝動だった。
樹木のような肉体がすさまじい勢いで放射状に伸びて、未だ残る偽命体を、晶獣を貫いて己の糧にしていく。
それは、あるいは子供が成長の為に大量の食事を必要としているが如き動きであったのかもしれない。
「あは、あは、あはは」
ちっぽけな身体、朽ち果てる寸前の短い命を無理矢理に接ぎ足してそれは声をあげる。
ゆらりぐねり、体幹の感じさせぬ動きで起き上がった偽りの命は、吸血鬼としての形を成しえたばかり。
「そう、です、ね。あの方に、は。おれ、い、を。しないと……」
ぐねりぐねりと、吸血鬼は動き出す。
妖しき絶景に作られた月の王国はひび割れている。
崩れ落ちゆく王宮を目指すそれは、ゆっくりと動き出した。
●
豪奢に華美に彩られた装飾品は最早悪趣味とさえいえる輝きを帯びていた。
満天の望月を背に支えられた月の王国は祭祀の停止に伴いその形を綻ばせつつあった。
喧騒に彩られた王宮の中をイレギュラーズ達は走り抜けていく。
「あら、また会ったわね死血の魔女さん?」
廊下を突き抜け、開け放たれていた部屋の1つへと足を踏み入れれば、そんな声がした。
「吸血鬼。今度こそ貴方の血を奪いつくしに来ましたよ」
くすりと笑む『吸血鬼』メリザンドへ、マリエッタ・エーレイン (p3p010534)は静かに視線を向けた。
「あの偽命体は――いないのか。まぁいい。あんたを倒すのも依頼の内容に入る」
ラダ・ジグリ(p3p000271)は少し周囲を見渡して、冷静に愛銃を構える。
「それって、あの時のドリアードの事かしら? 取り逃したのね……」
メリザンドがその言葉を聞いて不愉快そうに眉を顰める。
「正直、貴方よりもあちらの方が脅威だと思っているのですが」
水月・鏡禍(p3p008354)は静かにれっきとした事実としてそう言えば。
「えぇ、早く終わらせましょう。あのドリアードにこれ以上、あの香りを振りまかせるわけにもいかないわ」
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が重ねれば、露骨にメリザンドの表情が不機嫌そうに歪んだ。
偽命体を『研究の果てに生まれた失敗作、人造生命の成り損ない。命にすらなれなかった失敗作の欠陥品、短命で崩れ落ちる不揃い品』とまで言い放つ女のプライドを逆なでするには十分か。
一触即発――その時だった。
イレギュラーズの眼前、一瞬で側面の壁が吹き飛んだ。
瓦礫と土埃に混じり飛び込んできた何かがメリザンドを串刺しにして反対側の壁に叩きつける。
誰もが目を瞠り、警戒するその最中『それ』はぐねりと体幹を揺らして体を起こす。
「――こんばん、は。メ、リ、ザンーード。……あれ? 死んだ?
……うん。貴女の血、思ったより、不味いですね」
髪に咲き誇る花は烙印の色、青々とした若葉の目。
樹木のような手足をしたそれは、ある意味で自らの生みの親とでもいうべき者を容易く串刺しにして首をかしげていた。
●
「取り逃がした以上、依頼は終わってない。それでいいな、ノエル?」
銃の手入れをしていたラダは最後にスコープを覗いてから顔を上げる。
「もちろん、それでいいよ」
灰色めいた幻想種の青年は薄っすらとした笑みを浮かべて静かに肯定する。
「逃げられたなら追うだけ。今度こそ彼女の血を奪いつくしましょう」
マリエッタは静かに血の槍を振るう吸血鬼の事を思い起こしていた。
「メリザンドよりも、僕はあのドリアードの事が気にかかりますね」
「そうね、香術師として、あの香りを広げさせるわけにはいかないわ」
鏡禍の言葉に頷いたのはジルーシャである。
「そうだね……師匠の種は事実上、あれと同化したんだと思う」
そう頷いたノエルはしばらくの間、考え事を始めた。
「……ラダ、君に言ったあの言葉、訂正した方が良いかもしれない」
そう言って、ノエルは顔を上げた。
「一応、理由を聞いておこうか」
「師匠の遺物は、現時点では多分、ただのドーピングぐらいの効果しかない。
あれは分かりやすく言うと改竄魔術の一種なんだ。
1枚の絵の上に別の絵を描いた紙を張りつけるイメージだと思ってくれてもいい。
だから、異空間の塊の月の王国ではほぼ何の意味もない。ドーピングとしてしか使えない。
……でも、あのドリアードに、偽命体に埋められたまま同化して……『馴染んだら』――」
「どうなるの、それ」
ジルーシャは声を震わせながら問うた。
声をかけて、自分がじとりと嫌な感覚を覚えていることに気付いた。
「最悪の場合、偽命体の持つ短命っていう欠点を一時的に無視できるかもしれない。
正確に言うのなら、『崩れ落ちて行く身体を崩れてないと身体に錯覚させる』って方が正しいだろうけど」
「あのドリアードは生まれたばかりの吸血鬼でしたね。
そうなると、あの個体の成長期はこれから、ということになるのかもしれません」
黙って聞いていたマリエッタが言えば。
「あれが、これ以上強くなる可能性があるというわけですか」
鏡禍はあの時の交戦を振り返りながら自身の抱いた懸念が確かであることを確信する。
「恐らく、吸血鬼メリザンドの実力は頭打ちしてると思います。
これから成長するであろうドリアードの方が遥かに危険……でしょうか」
――その推測が正しいことを、イレギュラーズ達は戦場での出会いがしらに思い知ることになった。
- <月だけが見ている>藪蛇をつつき若葉は萌ゆ完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月25日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「あ、あ、ぁ――はは、」
ぐねりと体幹ごと跳ね上がるように起き上がり、ドリアードが笑った――ような気がした。
「――ッ……どうやらノエルの推測が当たっちゃったみたいね!」
精霊の竪琴を構えた『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は思わず息を呑んだ。
(メリザンドは自業自得だと思うけれど、あの子――ドリアードにこれ以上力を与えさせたら、取り返しのつかないことになるわ)
ゆらゆらと動きながらも明らかな変質を見せたドリアードは、間違いなく外に出すわけにはいかない部類のものだ。
「今度は逃がさないわよ! 血の香りも、人を狂わせる香りも、アタシたちには必要ないもの!」
「あはっ、はははっ。血の香り、人を狂わせる香り。美味しい、美味しい獲物、たくさん、来る」
ゆらゆらと笑うドリアードは捕食本能を明確に見せる。
「これは――想像よりずっと成長が早い」
うねうねと動く背中の腕なのか触手なのか分からない部分を見て『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は小さく口に漏らす。
(生物の限られた月の王国でコレなら、砂漠とは言えラサに出てこられたらどこまで成長するのか)
「ノエル、付与できるだけ喰らわせてやってくれ!」
「もちろんだよ」
頷いたノエルが魔力を高める気配を感じながら、ラダは銃を構えた。
「前回の成長にも驚きましたけどしばらく間が空いた後でこれとは……メリザンドも愚かですね、せめて自分で制御するなり扱いを変えれば強い味方だったでしょうに」
そう呟いたのは『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)である。
串刺しになったメリザンドはとても返答の類が出来るような状態ではない。
(自分が生み出してしまったものに負ける、自業自得というやつですか)
薄紫の霧を纏い、鏡禍は視線をドリアードに向ける。
「メリザンド……ずいぶん、あっけない物でしたね。
自業自得と言えば、それまでですが……貴女だって生きる一つの命であったことに変わりはない」
美しき白髪の下、美しき金色の瞳は静かに吸血鬼を見据えている。
血を鎌に変える『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はその瞳をメリザンドに向けていた。
聞こえているのかいないのかさえ判然としない吸血鬼は縫い付けられたまま動かない。
「実験によって生み出された存在なので親近感があったデスガ、改造と一から生み出された存在では在り方が違う様デスネ」
呪剣・穿爪を抜いた『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)は静かにその視線をドリアードに向けていた。
似て非なるドリアードはゆらゆらと揺れるばかり。
「うっ……く……急に烙印の影響が強くなってきたね……」
身体を支えるようにヴィリディフローラを握り締めた『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は意識的に呼吸を深くしている。
「大丈夫……ではありませんわよね、やっぱり。
アレクシア、この状態の貴女に敵の引き付けをお願いするのは心苦しいけれど、やって頂けますこと?」
その様子を見た『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が声をかければ、アレクシアは明らかな体調の悪さを隠して薄く笑う。
「それでも、ラサを荒らさせるわけにも、博士の研究を成就させるわけにもいかないんだ!」
「……分かりましたわ」
ヴァレーリヤはメイスを握り、再びドリアードの方を見やる。
(少々厄介そうな相手だね……烙印の影響もあるアレクシアくんたちに無理をさせすぎるわけにもいかないから、ボクが全力で前衛を支えていこう)
ぷるるんとした姿のまま『頂点捕食者』ロロン・ラプス(p3p007992)は素早く思考する。
「ノエル、後ろへ回り込むぞ!」
さっとナイフを抜いたラダは一気に駆ける。
背中に飛び掛かるようにして突っ込み、ナイフを振り抜いた。
極限の確殺自負。天運を見るラダの瞳が見出した連撃は樹皮の如き肉体を削っていく。
それを横目にマリエッタは壁際へと駆け抜ける。
辿り着いたのは壁に縫い付けられた吸血鬼。
「ねぇ、メリザンド。貴方は問いましたよね
死血の魔女は何を求めて、何をするために鮮血を振るうのかと。
魔女の心はわかりません。けれど私は、私が私である為に鮮血を振るう。
誰かを助けるのも、殺すのも、奪うのも……全部、私という存在がそのままであり続ける為に」
答えは、ない――そもそも、期待をしているわけでもなかった。
踏み込むと同時、マリエッタは血鎌を振るう。
メリザンドを串し刺す斬撃は鮮やかな色を放ち紡がれる。
「あぁぁぁ!!!!」
それはたしかな痛撃だったか、あるいは補給線を破壊されるのを拒もうとしたか。
ドリアードが絶叫と共にうねうねとした樹木の針を一斉に打ち出した。
「浮気者はモテませんわよ。貴方の相手は、私達でしょう?」
ヴァレーリヤはそれだけ言うと、聖句を詠う。
メイスが吹き上げる紅蓮の炎は打ち出されている部分を焼き払うように戦場を翔ける。
炎が濁流の如く戦場を呑みこめば、ドリアードが悲鳴をあげた。
(前回、花を攻められることを嫌っていたようですし……)
鏡禍は妖力の衣を可視化させ、一気に攻めかかる。
妖気が形を変え長剣のような姿を取れば、それを振り抜いた。
尾を引く閃光の如き妖気の軌跡が霧を生む。
それは鮮やかなれど性質の悪い斬撃の連鎖の後に紡ぐ破竜の一閃。
いつか竜さえも穿たんとする斬撃は真っすぐにドリアードの花を穿たんと斬り開かれた。
「アンタのことは、可哀想だと思うわ。
それでも……調香師としても、香術師としても、負けるわけにはいかないの――アタシの作った香り、じっくり味わって頂戴な」
竪琴を奏でるジルーシャは真っすぐにドリアードを見上げる。
響いた音色と香りが精霊を呼び、ジルーシャへと複数の加護を与える。
「永久機関としての腕の見せ場ってところだね」
ロロンは自らの内部、星の名代として内包する全権能を掌握するとドリアードの前へ。
混沌と一体化するが如き感覚を覚えながら、ロロンは術式を発動する。
強烈な支援術式は仲間達の魔力を充実させていく。
「止めてみせるよ!」
宣言と共にアレクシアはヴィリディフローラを向けた。
濃紫の釣鐘の花を象った魔法陣から放たれた魔力の花弁は真っすぐにドリアードに撃ち込まれていく。
「あう、あうあうあう!」
魅せた幻覚は果たしてなんだったのか。
ゆらりとドリアードの視線がアレクシアを見た。
●
「ま――魔女、さ……ぁ――?」
ずるりと壁から落ちたメリザンドは顔を上げてマリエッタを見た――気がする。
「私は言いましたよね。貴方の血の全てを奪ってあげると……果たしましょう、それを。そして――」
マリエッタは草臥れた吸血鬼の手に己のそれを重ね微笑んだ。
「死血の魔女が貴方の血で、せめてもの復讐、果たしてあげますよ――これならドリアードへ……血を奪われるだけにはならないでしょう?」
どこか魅惑的な声色で語り、目を瞠る吸血鬼から全ての血を吸い上げる。
酷く穏やかに、柔らかな笑みを浮かべて。
「きれいな花だけど、それを咲かせるのにどれほどの命を犠牲にしたかを思えば……これ以上花開かせるわけにはいかないよ!!」
啖呵を切ってみせたアレクシアは花の魔術を二重に重ねて障壁を展開し、敵への備えを万全とする。
「君達は、メリザンドより、美味しそう」
笑ったように見えたドリアードが首を横たえ、一斉にその鋭利な根っこのような器官を振るう。
床を貫き柱を僅かに罅いれるそれはアレクシアを中心としながらも周囲を巻き込んで暴れまわる。
貫かれた部位から花弁がひらひらと落ちて行く。
「前より大分大きくなったみたいデスガそれだけ成長するのにどれ程食べたでしょうネ。
吸血鬼の吸血衝動と合わせればもっと大変になりそうデス」
前に出たアオゾラは樹木状のうねうねとした触手のような何かを弾き、愛剣を振り下ろした。
斬撃はドリアードを刹那の悪夢へと呑みこみ、生じた隙を撃つようにアオゾラは斬撃を開く。
「行きましょうラダ、仕掛け時でございますわっ!」
ヴァレーリヤはその様子を見つつ飛び込んでいく。
炎を纏ったメイスを強く握りしめ、その全体重を乗せるままに大きく振り抜いた。
単純なただの突撃、だからこそその攻撃は自然めいた恐ろしさを携える。
「もう一発、喰らって行きなさい!」
打ち据えた一撃にドリアードが揺らめくや、そこにヴァレーリヤは追撃のメイスを振り抜いた。
力任せに押し込む追撃の殴打は文字通りドリアードへと突き刺さる。
「捕食されるわけにもいかない!」
伸びて来た根っこ目掛け、ラダは思いっきり銃床を振り下ろす。
出鱈目に見える殴打の痕跡はラダを獲物として貫かんとするその部位に強烈な仕置きを打ち据える。
迎撃というにはあまりにも確実な死を望みすぎている打撃は捕食を諦めさせるには十分すぎる。
「もうそろそろガス欠になってもらいたいのですが」
そう呟く鏡禍は妖気を束ねていく。
やがて剣の形に幾重も重なった妖気は薄紫の剣を象り。
そのまま一気に踏み込んで振り抜いた。
性質の悪さを体現するが如き斬撃のまま、鏡禍は次の一手を打つべく刀を構えなおす。
振り下ろすは最優の攻勢防御、神威の斬撃。
「中々激しいみたいだね」
戦況は激しい。
ロロンは自らの身体の一部を取り出すようにして、水を射出する。
放たれたそれに触れた友軍はそれが自分の傷を癒す天使の宝冠であることを始めて知る。
優しい光と水に包まれた身体から疲労と傷が癒されていく。
「アンタの香りがこれ以上人を苦しませないように……」
ジルーシャは竪琴の演奏を続けている。
齎されるのは思考を奪い、熱を帯びる甘く深みのある香り。
それは精霊たちに導かれるようにしてドリアードの頭部に開く烙印の花へと触れた。
3度にわたって齎される炎はドリアードに痛撃を叩き込む。
「ぐぅぅ……ま、まだ、まだ死にたく――」
ぐっと顔を上げたドリアードの猛攻が戦場へと降り注ぐ。
「ノエル、大丈夫か? 無理はするな、何かあったらユニスに申し訳が立たないからな」
「ありがとう、大丈夫。下がろう」
ラダはそう問いかけつつ後退すればそれに従ってノエルも又下がってくる。
「なりふり構わないようになってきたな……」
弾丸を叩き込みながら言えば、ノエルも頷いているのが見えた。
「その分、アイツも弱ってきてるってことだと思う」
「なら、畳みかけるしかありませんわね!」
メイスを構えなおしたヴァレーリヤは再び吶喊していく。
炎を避けるようなドリアードの動きはヴァレーリヤの脅威を悟っているからだろう。
●
戦いは続いていた。
圧倒的な手数と高火力を背景に押し立てるドリアードの猛攻撃は凄まじいものがあった。
パンドラの輝きが光り、痛撃に疲弊する者も多い。
「死なない、死にたくない、死にたくなぁぁあぁああ!!!」
激情上げたドリアードの手足が、背中の樹木の枝が暴発でもするように出鱈目に戦場を穿つ。
夥しい数の風穴が開き、戦場に花弁が散らばっていく。
「この程度の苦しみに……負けるもんか! ヒーローはいつだって屈しはしないものなのだから!」
自身へと言い聞かせるように、振り絞るアレクシアは、前を向いて術式を展開する――しかし。
展開された術式がぐにゃりと曲解して暴発を引き起こす。
「――アレクシア! 頑張ってくれて有難う、落ち着くまで休んでおいて下さいまし!」
ヴァレーリヤは彼女を支柱の2つの影へと連れていくと、翻ってメイスを構える。
「これ以上、暴れて貰ってはこまりますわね!」
推進力の加わった鉄騎の猛進は留まることなど知らぬ。
さながら紅蓮の猛牛を思わせる炎を伴い、ヴァレーリヤの一撃はドリアードへと突き刺さる。
「もう少し、もう少しなんだ……お願い!」
アレクシアは再び魔力を籠める。
ヴィリディフローラより放たれた小さな花弁が火花の如くドリアード目掛けて駆け抜けていく。
(どれかひとつでいい、攻撃のついでに撃ち落とせれば!)
愛銃を構えながらラダは樹木の根から退避するようにして後方へと跳ぶ。
ラダのいる背中側は安全というわけでもない。
背中から伸びる樹木の根は時折全周を撃つ槍のようにラダをも狙っていた。
「――お前自身に非はないが、この国と一緒に沈んでくれ!」
ノエルが続いてくるのを視野に収めつつ、ラダは既に引き金を弾いていた。
放たれた銃弾は頭部に生える花を撃ち落とすべくその暴威を叩き込む。
「がぁぁぁあああ!!」
背後からの強襲にドリアードが吼える。
そこへマリエッタは走り抜けた。
「行きましょうかメリザンド」
真新しい鮮血をナイフに変えてマリエッタはそれを投擲する。
鋭く走ったナイフはドリアードの腹部へと突き立ち、内側から炸裂する。
そのまま一歩前へ。
跳びこむようにして肉薄した魔女は突き立つナイフを引き抜いてそのまま鎌へ変えて振り下ろす。
「ぁぁぁ!!!」
叫ぶ声は未だに敵が元気な証拠でもあるだろう。
傷だらけのドリアードへと更なる追撃を試みるのは鏡禍だ。
「これ以上成長される前に、しっかりと仕留めさせてもらいます」
そう告げて、その手に薄紫色の剣を抱く。
それはそれまでの妖力よりも多重に注ぎ込まれた一本。
穿つ斬撃は確殺を見定めたままに振り抜かれる。
対物秘奥たる剣閃は鮮やかに閃いた。
美しき薄紫の軌跡を得た斬撃はドリアードの頭部に生えた烙印の花が完全に髪ごとばさりと斬り落とされた。
「追い込みだね、まかせて」
そこへつけたロロンは肉薄すると、ドリアードを包み込むように身体を圧し掛からせる。
とぷんと呑み込まれたドリアードが呼吸でもできないのか藻掻く中、ロロンは魔力を増幅させていく。
己が裡で加速増幅させた魔力は、惑星1つ分の質量を帯びる大爆発。
下手なものを木っ端みじんにしかねぬ暴力的な一撃を浴びせられたドリアードは放り出され、ふらふらとたたらを踏んだ。
「……さようなら」
ジルーシャの奏でた竪琴はさながら鎮魂歌の如き優しい音色であった。
ボロボロのドリアードを焼き尽くし、眠りへと誘う優しい音色。
放たれた香術は再び断末魔と思しき声をあげた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
大変お待たせして申し訳ございません。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
これも一種の飼い犬に手を噛まれるという奴でしょうか。
●オーダー
【1】『吸血鬼』サン・ドリアードの撃破
●フィールドデータ
月の王宮内部の内部にある一室。
非常に華美な装飾ですが、場を一時していた『夜の祭祀』に綻びが生まれたことに加え、
ドリアードの突入時に吹き飛ばされた壁は風穴のように開いています。
フィールドとしては広い長方形の空間です。
支柱のようなものがいくつかありますが、
あまり遮蔽として多用しすぎるとドリアードの攻撃で粉砕される可能性があります。
最悪、天井が落ちてきかねません。ご注意を。
●フィールド特殊効果
月の王宮内部では『烙印』による影響を色濃く受けやすくなります。
烙印の付与日数が残80以下である場合は『女王へと思い焦がれ、彼女にどうしようもなく本能的に惹かれる』感覚を味わいます。
烙印の付与日数が残60以下である場合は『10%の確率で自分を通常攻撃する。この時の命中度は必ずクリーンヒットとなり、防御技術判定は行わない』状態となります。
●エネミーデータ
・『吸血鬼』サン・ドリアード
元偽命体の吸血鬼です。魔種相応のスペックを持ちます。
心臓部には一度はボロボロに砕けた魔種の研究成果が埋め込まれています。
外殻が剥がれ落ちて中身だけがドリアードと一体化したという表現の方が正しいでしょう。
幾つかの花が咲き誇る緑髪、青々とした若葉のような瞳を持つ女性を思わせる顔立ち、
加えて中心の女性的な肉体はそのままです。
樹木のような腕の数が4本に代わり、また背中からも樹木の根っこのような物が8本生えています。
これらの樹木の腕を槍やドリル、広範囲に伸ばすことでの弾丸の代用を行ないます。
また、髪に咲き誇る花は甘い香りがしています。
吸血鬼達の大きな目的は『ラサを乗っ取る』事です。
その為にイレギュラーズを援軍の来ない月の王国内部に引き込み烙印で仲間にし、
その戦力を持ってラサを牛耳ようと目論んでいたようです。
とはいえ、ある意味で生まれたばかりの子供に近いこの個体にそこまでの目的意識はないでしょう。
寧ろ生じた生の為に成長しようという欲望の方が優先されている向きがあります。
急激な成長の影には数多の偽命体や晶獣らの犠牲が感じられます。
ここで取り逃すととんでもない災害となって現実世界に這い出るでしょう。
非常に豊富なHPとAPを有し、各攻撃力やEXF、EXA、命中、反応が高い値で整えられています。
その一方で防技や抵抗、回避の値はそれほどではありません。
樹木の根っこのような部分を用いる攻撃は【スプラッシュ】、【貫通】属性が多く範囲攻撃も多彩です。
【出血】系列、【乱れ】系列、【凍結】系列、【致命】のBSが付与される可能性があります。
その他、【HP吸収】、【AP吸収】の効果を持ちます。
また、緑髪の花には【怒り付与】、【魅了】のBSを与える効果があります。
パッシヴに【※吸血捕食】、【毒無効】を持ちます。
※吸血捕食:後述特殊スキルです。
・『吸血鬼』メリザンド
金髪紅眼の女性を思わせる月の王国の吸血鬼でした。
乱入してきたドリアードに横殴り気味に串刺しにされて壁に縫い付けられてます。
ほぼ絶命状態です。今ならまだ彼女にいたいことがあれば聞こえはするでしょう。
また、串刺しにされているメリザンドは今やドリアードのHP、APの供給タンクと化しています。
メリザンドが串刺しのままである場合、
10ターンの間、ドリアードは特殊なパッシヴスキル【吸血捕食】を有します。
【吸血捕食】
メリザンドがドリアードに串刺しにされている間、ドリアードは【再生】、【充填】を持つ。
●友軍データ
・ノエル
蛇使いの魔術師です。
黒髪灰眼の男性幻想種で、ユニスとは幼馴染。
5年ほど前に誘拐されあと、最近になってイレギュラーズに救い出された青年。
神秘デバフアタッカー。
【毒】系列、【出血】系列、【痺れ】、【麻痺】などを用います。
皆さんに比べるとやや見劣りするスペックではあります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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