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シナリオ詳細

我が戦いよ、祖国まで響け

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シレンツィオ・リトルゼシュテル・バトル
「しれんちお・りとるぜしゅてる・ばとるー!」
 可憐な声がマイクを通じて会場に響きわたる。
 シレンツィオは、リトル・ゼシュテルに敷設されたそのリングの上には、咲花・百合子 (p3p001385)、キドー・ルンペルシュティルツ (p3p000244)、ヤツェク・ブルーフラワー (p3p009093)をはじめとした、八名の勇士が、観客たちの声援を受けながら立っていた。
「はじまりました、しれんちお……リトル・ゼシュテルバトル! 解説とか実況? とか、あとラウンドガールとか! もろもろぜーんぶやってます! マール・ディーネーと!」
「メーア・ディーネーです。よろしくお願いします」
 ぺこり、と解説席で、マール・ディーネーとメーア・ディーネーが頭を下げた。見てみれば、会場にはいろいろな横断幕やらなんやらがかけられていて協賛:派遣会社ルンペルシュティルツとか、アネル婦人会とか、見慣れた名前が躍っている。
「……大事になってねぇ?」
 キドーがそうぼやくのへ、ヤツェクは苦笑した。
「何言ってる。いの一番に賛成したくせに」
「呵々! いや、いや、実に好し!
 吾も開催をもろもろに直談判した買いがあったというもの!」
 と笑うのは百合子である。つまり、このお祭り騒ぎはおおむねこの三人が発端となって巻き起こったことであり、その目的はゼシュテル、鉄帝へのチャリティイベントである。
 つい先ごろまで、鉄帝は冠位魔種による攻撃と、動乱の渦の中にあった。その戦いは苛烈を極め、つい先日、ようやく鉄帝の解放は成ったばかりである。
 となれば、ここより起こるは、復興という名の新たな戦。先立つものは必要である。
 リトル・ゼシュテルは、その立地上からほぼ独立と平和を維持し続けていた。とはいえ、住民たちの祖国への想いは篤い。少しでも、祖国への力となりたいという気持ちはあった――。
「そこで、チャリティイベントというわけであるな。それも、鉄帝式の」
 うんうんと百合子が言う。先ごろもチャリティイベントとして、アネル婦人会や竜宮のディーネー姉妹らがお祭りを行っていたが、これをやってみてはどうか、という提案である。
 その提案はアネル婦人会や竜宮から正式に受諾され、そしてそのイベント運営側として、改めてローレットへ依頼がもたらされることとなる。
 では、単純なイベントの運営手伝いか、と言われれば、それも違った。
「……しかし、百合子の最初の案が普通に通るとはな……」
 ヤツェクが苦笑する。イレギュラーズたちの目の前には、『木人くん27号DX・ゼシュテルの夢、届けます』号の姿があった。ストレートに言えば、古代兵器のゴーレムである。
「というわけで、今回はえきしびしょん? まっち? ええと、つまり特別な試合というわけで!
 みんなは、ゼシュテルを救った英雄である、イレギュラーズの皆の戦いを間近で見られるっていうこと!」
 マールの言葉に、あちこちから声援や黄色い声が上がる。つまり、これはバトル興行である。イレギュラーズたちが、鉄帝の発掘ゴーレムと派手に戦い、観客たちを魅せ、勇気づけ、おひねりをもらってチャリティしよう、というものだ。
「まさかのプロレスだぜ。俺はもうちょっとこう、穏やかなもんをだな……」
「自分の会社で諸々仕事を請け負っておいて何を言う。
 こうなっては、皆一蓮托生だぞ!
 鉄帝を救った英雄の力、ここで皆に見せてやろうではないか!」
 百合子がそういう。
 もともと鉄帝人といえば、脳筋の集団で、それはここ、リトル・ゼシュテルでも同じ。
 また、こういった派手なイベントは当然のごとく集客も多く、元々観光客の多いシレンツィオでは目玉のイベントにもなる。
「ま、そういうことだ。
 ほんとは俺こそ、観客席にいたいところだったんだが……」
「ラジオでのネットワークの力を買ったのだがなぁ。
 まぁ、こういうのはローレットの宿命と思ってあきらめてくれ!」
 百合子が笑う。ヤツェクが肩をすくめた。もちろん、本国までとはいかないまでも、シレンツィオでの無線放送は、ヤツェクの提案で行われているところだ。
「というわけで、さっそくはじめよっか! がんばって、ローレットの皆!」
 マールが(たぶん意味は解っていないが)かんかんとゴングを鳴らす。そうなると、ゴーレムたちが一斉に起動して、イレギュラー渦たちを睥睨した。
「じゃ、派手に行くか」
 キドーが笑い、構える――仲間たちも、それに合わせ、構えをとるのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 今回は、派手なバトル! となります!

●成功条件
 魅せるバトルを行い、興行を成功させる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 鉄帝での戦いがひと段落し、平和が戻ってきたころ。
 リトル・ゼシュテルでも、本国支援のため、チャリティイベントが開かれることとなりました。
 イレギュラーズたちへも、イベント参加の依頼が行われ、精鋭である皆さん八名が派遣されます。
 何の仕事をすることになるのか――とみてみれば、なんとゴーレム相手の、バトル興行のお仕事。
 派手に戦い、派手に魅せ、観客たちを魅了し、おひねりをたくさんもらうのが、皆さんのお仕事です!
 此処はシレンツィオ・フィールドですので、竜宮幣で交換した携行品が効果を発揮します。なので、この場で使って、派手に動きましょう!
 もし持っていないという方でも、ランダムで一つ、装備したものとして判定しますので、ご安心を。
 また、オープニングでは8VS1のような構図ですが、ご希望があれば、1VS1を繰り返すのでも、2VS2のタッグ戦でも、8VS8の大乱戦でも構いません。
 相談の上、プレイングにてどのような形式で戦うのがご記入ください。
 戦闘プレイングも、如何に魅せるか、如何に演出するか、が重要になると思います。派手に戦い、観客たちを魅了しましょう!

●エネミーデータ
 『木人くん27号DX・ゼシュテルの夢、届けます』 ×???
  変な名前ですが、つまり発掘兵器のゴーレムです。
  基本的にタフで、相手の攻撃を受けて、そのうえで圧倒する……というプロレスラーみたいな動きをとります。
  また、設定はある程度可変が聞きますので、プレイングにて、どういうゴーレムと戦うかを指定していただいてもかまいません。例えば、『自分は敵の攻撃を耐えて、重い一撃で反撃するタイプなので、手数の多いスピードファイター系のゴーレムと戦いたい』等。ある程度対応いたします。
  強敵……というわけではありませんので、皆さんの得意な戦法を、しっかりとプレイングに描いていただければ、問題なく勝てる相手です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 我が戦いよ、祖国まで響け完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
※参加確定済み※
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
※参加確定済み※
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
※参加確定済み※

リプレイ

●チャリティ・バトル!
 シレンツィオはリトル・ゼシュテル。その広場に設けられた特設リングは、それを囲うように多くの観客、観光客たちでひしめき合っている。
 なにせ、これより行われるのは、イレギュラーズたちによるスペシャルバトル。業を魅せ、技を見せる、まさにドリームマッチであるからだ。
 近くには参加イレギュラーズたちの名前が大きく記されていて、それは以下の八名である。
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
 『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)
 『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)
 『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
 『最後のナンバー』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
 いずれもその名だけで観客(ファン)を呼び集められるようなメンバーである。それが八名ともなれば、今日の予定をキャンセルしてでも観戦したい、というものたちが現れるのもまた必然。
 そういった理由から、リトル・ゼシュテルでもかなりの動員がかかり、必然、それは金が動くということになる。
「これだけもうけりゃモトはとれたなぁ」
 キドーがケケ、と笑う。会場では多くの出店やらが並んでいて、彼らからは出店料を頂くことになっている。もちろん、その出店料は、そのまま祖国、鉄帝の復興に利用されるわけだ。これはチャリティイベントであるから、キドーが儲けたわけではないが(依頼料が支払われるのは別として)、目論見通りに事が動くのは、それはもちろん楽しい。
「ふぅむ……やはり『興行』とは一定の出入りが見込めるものなのだなぁ」
 百合子が唸った。鉄帝本国でもラド・バウがあるわけだが、今回はラド・バウのそれよりもいささか「興行」に依った催しである。口さがない言い方をすれば『見世物』であり、それは美少女である百合子としては、本来認められぬ、邪道、であったかもしれないが。
「吾とて、暮らしている土地のことを思えば難しいことも考えるもの。こういった『興行』も、リトル・ゼシュテルの目玉にしてもよいかもしれないなぁ」
「んー、やっぱり、皆がかっこよく戦ってるの見るの、すごい、って思うからね!」
 にこにこと、マールが百合子に言った。
「ヤツェクさんが言ったみたいに、ラジオで実況? とかしてみたら、もっといろんな人に人気出るんじゃないかな?」
「そのためには、的確に戦いを実況できる、実況者が必要になるわけだ」
 ヤツェクがウインク一つ。その先には、やれやれ、と肩をすくめてみせるE-Aの姿があった。
「信じられない。仮にも高性能宇宙艦の中央を務めたことのある私に、プロレスの実況だと?」
 じろり、とヤツェクへと視線を送る。
「腐っても鯛とは言うが、実際に鯛を腐らせようとする人類を私は初めて観測したぞ。しっかりと記録にとどめておこう」
「そう言うな。もちろん、実況だけじゃないさ。ライト、音響、ディーネー姉妹やアネル婦人会だけでは大変だろう。そのあたりの制御もまかせたい。
 頼むぞ、照明係」
 ふ、と笑ってみせるヤツェクへ、E-Aはわかりやすく不満げな顔をした。
「何たる屈辱だ。憤死する人間の気持ちが分かった」
「アンタを信用してるって意味なんだがなぁ」
 くく、とヤツェクが笑う。E-Aは不満げな顔を崩さなかったが、しかしそこにはなんとも、信頼関係が築かれているのだろう。
「さて、そろそろ打ち合わせを始めようか?」
 モカが、ぱん、と手を叩いて、声を上げた。
「えーと、相手になる木人くん27号DX・ゼ……木人でいいか。
 とにかく、木人の性能とかは、調整できるんだよね?」
「はい。能力傾向……? というやつですか? 例えば、速度を上げるカスタマイズとか、耐久力を上げるカスタマイズとか、ですね」
 メーアがそういうのへ、モカがうなづいた。
「なら、各々好きな相手に調整可能だな」
「得意な相手……自分は暗殺向きなのですが」
 バルガルが頭を抱えた。
「暗殺……されてくれる木人とか……」
「それは違うタイプの興行になりそうだが……」
 マカライトが苦笑する。
「ですが、暗器使いというのも人気が出ると思いますよ!」
 迅が言う。
「まぁ、暗器使いが真正面から、という矛盾点も理解はできます。
 ですが、これもお祭り。
 むしろ魅せる方向で行きましょう!」
「そうでごぜーますねぇ」
 エマがくっくっと笑った。
「それに、バルガル様は誰かとタッグを組めばよろしいかと。
 後衛、というわけでもごぜーませんが、そうすれば、暗器使いの本領も発揮できましょう」
「そうだな。となると、何名かは二人組を作るか?」
 マカライトの言葉に、キドーが肩をすくめる。
「それ陰キャが泣いちゃう奴だぜ。ま、俺は何でも構わねーよ。
 ってか、お前ら、俺がめちゃくちゃ乗り気みたいに言ってくれるけどよ、そりゃこれはビジネスだから。優良一般企業として知名度やイメージは重要だからよ。あくまで会社第一。決してパ……特定個人に対する極個人的な執着によるものでは」
「おや、ではわっちは咲花様と組ませてもらいましょうかね?」
「うむ! よかろう! 吾は誰でもベストコンディションを発揮できるからな!」
 エマの言葉に百合子が笑い、
「ふむ、じゃあ、おれはモカと組ませてもらおうか」
「いいとも。こちらからもお願いしたいところだ」
 ヤツェクの誘いに、モカが微笑する。
「俺はソロを担当しよう。迅はどうする?」
「僕もソロを希望します! 久しぶりに、後顧の憂いなく、思いっきり体を動かせそうですね」
 マカライトの言葉に、迅が、ばしっ、と手を打ち付ける。
「……ってオイ! ちゃんと聞け!」
 キドーが、がーっと唸る中、皆が笑ってみせた。
「で、なんだ。俺がバルガルと組めばいいのか?」
「ええ、お願いします。相性もよさそうですからね?」
 バルガルがいつもの笑みを浮かべるのへ、キドーが笑った。
「頼むぜ。俺はちっと、ものもらい、ができちまってな」
「そう言えば、キドーさん、眼帯付けてるね?」
 マールが小首をかしげた。
「大丈夫? 目薬あるよ?」
「竜宮のまじないのお薬ですから、効き目はあるかと思いますが」
 メーアが尋ねるのへ、キドーは頭を振った。
「いいや、こいつは――ま、俺が何とかしないといけないやつだからな」
 それから、不敵に笑ってみせるのだった。

●バトル・スタート!
「では――実況と解説を担当させていただこう、E-Aだ」
 E-Aがマイクに声を通すのへ、観客席から歓声が巻き起こる。客席では、マールとメーアがラウンドガールよろしく走り回っていた。ちなみに、衣装には"Stella Bianca"などのスポンサー、ロゴなどが張り付けられている。
「お待ちかねの貴君らの歓声の上げる先が用意できた。存分に見、存分に叫ぶといい。
 ――選手入場だ」
 E-Aの言葉に押されるように、最初に飛び込んできたのは、マカライトだ。猟犬ティンダロスとともに入場したマカライトは、リングに上がると、わずかに息を吸い込んだ。
 目の前には、木人が存在し、今まさにその起動がなされた瞬間だった。
「さて……どう動くかな」
 マカライトが、ゆっくと刃を構える。敵木人は3~4mほどのサイズだ。腕はかなり『ゴツ』く、一撃が強烈なタイプを設定している。
「敵は一撃型。とはいえ、知ってるのはそこまでなんだよな。
 装甲なんかはあえてお任せにしてある。なんでも知ってるだけじゃあ、つまらないだろう?」
 マカライトのつぶやきは、マイクによって周囲に拾われている。不敵なその言葉に、周囲の観客たちが歓声を上げた。
「まずは様子見だ」
 マカライトが駆ける――合わせたように、木人はその腕を振り上げた。ワン・テンポ・遅い。マカライトが掻き消えた次の瞬間に、ようやく木人の一撃が着弾! づだんっ、と強烈な衝撃音が、あたりに響いた。思わず身構える観客の姿もある。それほどの一撃だ。
「当たらなければ、だ」
 マカライトが攻撃の隙をつき、妖刀の一撃を打ち込む! 斬――だが、甲高い音とともに、刃は木人の装甲を撫でるだけだ。
「なるほど、そこそこ硬い」
 マカライトがつぶやきつつ、態勢を変える。無理やり飛び込んだ刹那、再び強烈な一撃が振り下ろされた。
「見事な動きだ」
 E-Aが実況を開始する。

「だが、敵の装甲は分厚い――宇宙戦艦のそれほどとは言わないが、だがただの斬撃では表皮を削ることしかできまい。
 さて、一方こちら――キドー&バルガルのペアだ」
 会場にはいくつものリングが設置されていて、イレギュラーズたちは同時に戦いを繰り広げていた。こちらでは、バルガルの駆るバイクの強烈エンジン音が響いている。
「ハッハッハー!! 右側は頼むぜ、バルガル!」
 キドーが叫び、その手に巨大なククリを構えて疾走する。相対するのは、鈍重なタイプの木人だ。攻撃面と防御面は高性能だが、速度や抵抗力は低く設定されている。これは、キドーの速度、バルガルの『暗器』を存分に発揮できる相手であるといえるだろう。
 キドーがククリを木人に叩きつける。木人は当然のように、反応はできない。キドーの斬撃が木人に接触した瞬間!
「ここは広場でなぁ、そこにでっけぇ噴水があるんだ。確認した。だから、こいつが映える!」
 ぶわぁ、と近くにあった噴水から水の邪妖精たちが這い上がる。一見すれば見目麗しいが、しかしそれは邪悪そのもの。その美しき手から放たれたむすうの水弾は、なぶる様に木人を打ち据えた! 木人が反射的にそうするように、その手を振るう。右側からの攻撃に、キドーは僅かに反応が遅れた。
「おっと!」
 慌てて飛びずさるが、かすった衝撃にキドーの体が宙に舞う。バルガルは慌てずキドーの着地点に移動すると、それを受け止めて見せた。
「油断大敵ですね?」
「俺だけが活躍したんじゃ面白くねぇ。見せ場を残してやったのさ」
 キドーが笑う。バルガルも笑んだ。
「では、その契機、無駄にするわけにはいきませんね」
 いうや、その姿がバイクの上から掻き消えた。キドーが慌ててハンドルを握るのを残したまま、バルガルは一足飛びで木人の振るった腕、その陰に入り込んだ。
「巨体・大ぶり・すべて自分にとっては格好の標的ですよ」
 その手を振るえば鎖刃が木人の関節に突き刺さる。強烈な、暗殺の一撃、それが、木人の片手を鋭く切り裂いていた。その鮮やかな手際に、あちこちから歓声が上がる。

 二人がからめ手のコンビであれば、一方こちらは突撃の勇、とでも言うべきなのが迅であろうか。迅のリングでは、まさに同じ方向性の設定をした木人と、迅の真正面からのぶつかり合いが演じられていた。
「もちろん、ただぶつかり合うだけでは面白くはないでしょう」
 静かにつぶやく。ここで求められているのは、ただ泥臭い殴り合いではないいっそ見世物にでもするかのような、華麗な『健闘』である。
「ならば――こうする!」
 迅の拳が、木人の拳と交差する。クロスカウンターの形。だが、強力な体力を持った木人は、迅の一撃に倒れることはない。むしろ、強烈な一撃を食らったのは迅のようにも見えた。僅かに、足を引きずる。飛びずさるが、追撃の一撃を、木人は加えて見せた。衝撃が、迅の体を吹き飛ばす。ざぁ、とリングの上を滑り、しかし迅は片手をあげて見せた。
「問題ありません。ここから逆転をして見せましょう!」
 不敵に笑い――これも演出である。あえて追い込まれる。あえて敵の強さを見せる。そこから這い上がるドラマこそが、観客を沸かせる。
「真剣勝負では通じませんが、しかしこれも『真剣』であることに変わりはありません。
 全力全開、やらせてもらいます!」
 狼のごとく吠え、迅は観客たちの期待を背負いながら、木人へと突撃する! 歓声が、その一撃を飾る様に、大きく巻き起こった。

「わぁ、どこも大盛況だねぇ~」
 と、百合子の方の上で、マールがのんきにそういった。抱えているのは、大きな手持ち看板。このリングでのファイターの名が刻まれていて、それはつまり百合子とエマの名である。
「うむ! これはやはり、興行的な戦闘というものの可能性を感じさせるな!」
 呵々と笑ってみせる百合子に、エマはくっくっと笑った。
「戦いというものは、古来よりエンターテイメント的な側面もありんすからねぇ」
「お二人はこれからですよね。お気をつけて」
 メーアがそういうのへ、百合子とエマは頷いて見せた。
 さて、百合子(+マール)とエマがリングに上がってみれば、そこには他のリングの木人達よりは、小さめのそれが見えた。からめ手を得意とするタイプの設定のものになっている。
「吾はあーいうの結構苦手であるからなぁ」
「百合子さんならできるよ! ファイト!」
 マールが楽し気にそういって、片手をあげて、百合子の肩から飛び降りた。それから、ニコッと笑ってみせる。ただ聞き流せば気休めのようなそれは、マールは『本気でできると信じている』のが、百合子にもわかった。
「うむ! 実況解説、まかせる!」
 ばし、と拳を打ち付ける
「では、ファイトー!」
 メーアが声を上げた瞬間に、木人たちが動いた。振るうのは腕――ではない。死角から打ち込まれる、暗器だ!
「早速からめ手でごぜーますか!」
 エマが飛びずさる。敵は露骨に、エマに対しての攻撃を優先しているようであった。ち、と舌打ち。
「まぁ、そうでありんし。わっちの方が柔い――が、それは容易に斃れるものとは違うと知りなんせ」
 エマがその両手を掲げる。体に刻まれた魔術回路が淡く光り輝いた。
「アンジュ・デシュ――その名のままに」
 堕天の輝き。その手から放たれた術式が、木人たちをからめとり、堕天の呪へと落とす!
「さて、できる、と信頼されたのだ。恥ずかしいところは見せられまい!」
 にぃ、と笑った百合子がその拳を構えながらつっこむ。さながら、ボクサーの突撃の様。
 体を小さくまとめ、被弾面積を最小に、自身の体を砲弾に見立て、つっこむ!
「まずは、挨拶――!」
 殴りつける――一撃! がおうん、と強烈な音を立てて、木人の体がひしゃげた。が、まだ斃れない! 木人は背中から鞭のような暗器を放つと、死角から百合子にたたきつける!
「ぬうっ!」
 それは、呪力を湛えた一撃だ。体に、様々な悪しき呪いが駆け巡るのを理解する。百合子がわずかに飛びずさり、
「やはり、気持ちの悪い感触であるな!」
 だが不敵に笑ってみせた!
「回復は?」
 エマの言葉に、
「まだ不要」
 百合子が笑う。
「吾らの進撃は、ここからよ」
「承知でありんす」
 エマもにっこりと笑ってみせた。観客たちの歓声が、自分たちの戦いが正しいのだということの証左のように感じられて、心地よかった。

 さて、モカとヤツェク、美しい踊り子と謎の仮面マリアッチのコンビのリングへと視線を移してみよう。まさに戦場のバラのごとく美しく舞う踊り子と、その戦いを盛り上げるべく演奏マリアッチのギターは、強烈なエンターテイメント性を観客たちに叩きつける。
「さて、そろそろフィニッシュと行こうか?」
 モカが笑うのへ、ヤツェクは、じゃん、とギターを強くかき鳴らして見せた。
「そうするか。
 さてお客様、名残惜しいが、演者もそろそろお疲れの様子。
 此処で最大最高のダンスを以って、お別れと行こうか」
 ヤツェクがあえて大仰にそういい、激しい曲調のBGMをかき鳴らした。その情熱的な音色に合わせて、踊り子は剣舞、いや、拳舞を舞う。
 鞭のようにしなやかな、蹴りの一撃が、木人の腹を貫いた。がしゃん、と音を立てて、木人が体勢を崩す――じゃん、と曲調が一層激しくなる。それに合わせて、蹴撃はさらに、流星のごとく踊りだす!
「では、諸君――これで演奏も『終止(フィーネ)』だ」
 ヤツェクがそうつぶやくや、手にした光線銃を構えた。しゃっ、と鋭い音共に、レーザー・ビームが放たれる。木人の、心臓部を狙った一撃が、寸分たがわずそこへ突き刺さった。どさん、と木人が斃れた瞬間に、ヤツェクはギターを一度、ざん、とかき鳴らした。モカが、高らかにその足を掲げ、ダンスの終わりを告げる。一種運の緊迫の沈黙ののちに、瞬く間に歓声が響き渡った。

「おお、まさに無敵のコンビというわけですね!」
 ぱちぱちと拍手しながら、迅が声を上げる。一足先にフィニッシュを勝ち取った迅は、こうして観客席で賑やかし役をやっているわけだ。
「しかし、こうして皆さんの戦いを見るというのも勉強になりますね。それに、とても楽しい。
 なるほど、これは血沸き肉躍る、というものです!」
 うんうんとうなづく迅に、観客たちも同意するように声を上げた。
「そうだろう? やっぱこういうのは楽しくなくちゃな!」
 その言葉に、迅は、ふ、と笑って、頷いて見せた。
「そうですね。それが、平和、というものなのでしょう!」

 バルガルとキドーのコンビも、今まさに戦いの終結を観ようとしていた。
「バルガル、俺が足を止める。心臓を狙えよ!」
 キドーが叫ぶのへ、バルガルはうなづいた。
「心臓――木人の心臓ってどこですかね。ま、弱点っぽいところを狙いますが!」
 キドーがククリを構えて突撃する。バルガルが、鎖刃を構え、キドーの後を追った。キドーがパチン、と指を鳴らすと、再び噴水から水の邪妖精たちが現れ、水弾を撃ち放つ。その水弾が木人の体を貫いた瞬間、キドーのククリが木人の足を切り裂いた。
 木人とて、足を斬られては歩けまい。木人の動きが鈍ったのを確認する間もなく、既にバルガルは動いていた。鎖刃がぴたりと、木人のからくりの心臓部を貫く。
「これでおしまいとしましょうか」
 くっ、と鎖を引っ張り、刃を引き抜いた刹那、木人が、ず、と倒れ伏した。
「キドーさんと、バルガルさんの、勝利です……!」
 メーアが、ぱちぱちと手を叩きながら勝利のコールを上げてくれる。バルガルは不器用に、メーアにウインクして見せるのであった。

 その一方、マカライトのリングにて歓声が上がる。敵への攻撃を行い、その隙をついてティンダロスへと騎乗したマカライトが、武器を携えて突撃を敢行したのだ!
「仕上げだぞ。ティンダロス」
 人馬一体……とするのは不適切な文字か。だが、たとえは伝わってくれるだろう。いずれにせよ、一匹の獣となった主従は、その突撃のまま、『門』を開く。現れた巨大な拳が、木人をしたたかに殴りつけ――!
「おわりだ」
 その言葉とともに、爆散するがごとく粉々に砕け散る! 同時に、大きな歓声が上がった。マカライトの見事な戦いへの称賛の声だ!

「ふむ――これで終わり、であるな」
 百合子も、他方のリングを眺めながら言う。いささか傷ついてはいたが、百合子+エマのチームも、無事に木人の討伐に成功していた。
「随分と盛り上がったようでごぜーます。
 どうでしょう? ハイタッチなど」
 そういってみせるエマに、百合子は笑った。
「好いぞ――ほれ!」
 ばちん、とエマと百合子の手が合わさって、大きな音を立てた。それから、観客席から大きな、大きな拍手と歓声が響いた。
 それは、復興を続ける鉄帝本国に、勇気とともに伝わるような、そんな音だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 きっと、この戦いは、誰もを勇気づけた事でしょう――!

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