シナリオ詳細
<月眩ターリク>誰が為に苦しみ、誰が為に笑うのか
オープニング
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砂漠に輝くは満天を描く巨大なる月。
それそのものが作り物であるかの如く、望月の欠けたるはない。
妖しく輝く空の月は、常に極限の球体を描いていた。
それこそが砂漠の国が鏡写しに作り出されし異空間――月の王国。
紅血晶事件より始まった一連の騒動はこの地に至り、元凶たる『吸血鬼』たちの女王を討たんと『月の王宮』を目指すことになろうか。
背中に月の王宮を背負い、月下に嗤う声があった。
「ねえ、痛いかしら、苦しいかしら? そうでしょうね、そうでしょうとも」
くすくすと女が笑う。
視線の先、女を見下ろしながら唸り声をあげるのは、1体の竜――否、竜を模した『晶竜』なる存在の1体。
「ねえ、痛い? 痛いわね?」
そう、と女が首から少し下、腕と腕の間辺りに触れる。
そこに輝くは大小2つの血色の結晶――触れられた刹那、晶竜が絶叫を響かせる。
罅の入った片方はイレギュラーズによる致命傷の痕跡。
それを割っているように突き立つは死に体で逃れた先で追加で埋められた必要のない結晶だ。
「大丈夫よ、苦しみに啼きなさい、怒りに鳴きなさい、絶望に哭きなさい」
女は――マリアンネは、月のような妖しい光に満ちた金色の瞳を見開いて笑う。
――その竜は、かつて人であった。
――その竜は、かつて女だった。
――その竜は、かつて赤子だった。
――その竜は、かつて、母親だった。
そうして――
「ねえ、苦しいわね?」
――その竜は、かつて、男であった。父親であった。
誰かを愛し、慈しみ、大切に育てようと願う一人の男と、女と、育まれつつあった命だった。
「赦すつもりはないの。苦しみなさい、苦しみなさい。
私の愛を否定し、拒絶し、自分達だけで命を育もうだなんて――そんなことは、赦さないわ」
狂乱、ただそれに染め上げられた女の瞳が晶竜を見据えて笑う。
「ねぇ、これが何か、分かるかしら?」
それは小さな球体だった。
答えることの出来ぬ晶竜へと笑みを刻むままに、マリアンネは笑む。
「これはね、王宮へ至るための鍵。きっと、彼らはこれを傷つけたくて仕方ないでしょう。
そうしないと、陛下の御前に至ることさえできぬのだから」
くすくす、くすくすとマリアンネは笑い続け――突き立つ紅血晶を引っこ抜いて、開いたばかりの穴へ『それ』を埋め込んだ。
「あぁ、そうだ。片手がないと不便よね」
にこりと笑うマリアンネに、晶竜が怯んだ様子を見せる。
笑むままに、マリアンネは晶竜の失われた片腕へと引っこ抜いた紅血晶を埋めこんだ。
再び、晶竜の絶望の絶叫が砂漠を劈いた。
●
「ハンナ、さっきの話は本当?」
ある晶竜を追っていたシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は『夜の導き』という傭兵団の本部にいた。
「本当に、あの子の正体が分かったの?」
「……正体というべきなのかも定かではありませんが」
「どういうこと?」
「その前に、彼女――マリアンネの正体から説明しましょう。
実際に遭遇して、人相を見て理解しました。
彼女はかつてラサにいたある罪人です。
何の罪のない一家へ『自分の愛を否定し、拒絶した』とストーキングを繰り返した。
挙句の果て、ソレを諫めた友人や知人、多くの人をその手にかけた殺人鬼……」
「捕まらなかったの?」
「捕まりました。調べた所、どうやら輸送の隙を衝いて逃亡したようですね。
あの女が執着した晶竜、という事ですから……きっと」
「……その時の被害者、ってこと?」
シキが言えば、こくりとハンナが頷いた。
「実際、件の一家が消息を絶っていることも判明しました」
「つくづく、不快な人ですね」
そう言ったのは冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)である。
首筋に刻まれた烙印はその女から受けたもの――挑発に挑発した結果に受けたものだ。
湧き上がる吸血衝動は未だ弱く、まだ身体に変調もないが、ちらりと見やるシキの姿が自分の将来を暗示する。
自分よりも先に烙印を受けた彼女の方が当然のように変化は顕著なのだから。
「本当に、不快ですが……彼女のいる場所が分かる気がします」
「ならば、次の作戦、睦月さんの向かう先で彼女と会えるかもしれません」
そうハンナが結ぶ。
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『古宮カーマ・ルーマ』のより繋がる異空間。
それこそが、吸血鬼達の本拠地である『月の王国』であった。
刻まれた烙印は遠巻きに存在する『月の王宮』へ至る道を導き出した。
当然の如く存在する障害は張り巡らされた防護魔法。
「――そういうことだから、この子を壊さないと、進めないわよ」
吸血鬼は晶竜に埋まる紅血晶に存在する球体を示して嫣然と、悪辣な笑みを浮かべていた。
- <月眩ターリク>誰が為に苦しみ、誰が為に笑うのか完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月02日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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龍を思わす巨体が王宮を隠すようにそこにあった。
それを見上げ、『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は愛刀を握る手に力が籠る。
「助け方がわからなくてごめん、余計に苦しませちゃってごめん。
わがままで傷つけてしまってごめん」
その身を侵す烙印、流れ落ちる1粒の涙が紅玉に変じて零れて行く。
(もう、君が苦しまないように。ここで終わらせるんだ)
「ギャァァルゥァァ!!」
気持ちを入れなおし、シキは晶竜を見上げた。
如何なる感情か、咆哮を上げたそれは、やはり泣いているように見えた。
「シキ、あの晶竜がそうなの?」
そんなシキへと『特異運命座標』エルス・ティーネ(p3p007325)は声をかける。
「ならシキの好きに動いて、私はあなたのサポートに動く! エルス姉さんにお任せなさい!」
紅と金色に移り変わった始祖種の吸血鬼は頷くシキにそう激励の言葉を残して、視線を一度だけマリアンネへ向けた。
(今回の事件は不幸な被害者が特に多過ぎる……
嘘を吹き込まれて晶竜や吸血鬼に成り果てた者も居たけれどやっぱり報われないわ。
せめて……撃破する事で少しでも救いになれていたならいいかしら、ね)
普段よりもダウナーな雰囲気を魅せるのは、この自体への責任感や被害者への憐憫か、妖しく輝く欠けることのない不自然な月の影響か。
マリアンネが怯えたような畏れたような仕草で身を竦ませたことなど、愁いを帯びるように目を伏せたエルスには見えていなかった。
「はぁぁ、辛気臭い空気だねぇ。
苦しそうなドラゴンにスカしたねーちゃん、聞きたくもないような関係でしょうな。
どうせコイツは使い捨てだろ? 同情でもかけたら儲けものって所かね」
ため息交じりに、しかし的確な状況把握をしてみせた『おチビの理解者』ヨハン=レーム(p3p001117)に吸血鬼は悪辣な笑みのままに「バレちゃった?」と呟いた。
「無辜の民をこねくり回すたぁ性根が悪いねぇ」
駆動泉鎧に身を包んだ『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の言葉にマリアンネが「それは誉め言葉かしら?」と艶のある笑みを浮かべて言う。
「また会いましたね、マリアンネ。
貴女の気配は遠くからでもわかります。運命は貴女と僕の流転をお望みのようですよ」
そう緩やかに言うのは『神郷探偵事務所 幽世探偵』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)である。
「前回はすてきなプレゼントを、どうもありがとうございました。
この程度で屈する僕だとでも思いましたか?
貴女ごときのちゃらけた贈り物で、折れていては冬宮の名折れです」
静かな声色で告げた言葉に、マリアンネが眉を顰める。
「つまらないわね。前に会った時と雰囲気が少し変わったかしら?」
「冬宮は戦勝を司る祭神を崇める一族。
最後は勝利に決まっています。ええ、僕の……僕たちの勝利です」
「ちっ、ムカつくわね!」
静かな睦月の言葉にマリアンネが舌打ちと共に多数の魔法陣を展開させていく。
「執着心のなれの果てとは、貴女のことでしょうね。
多くの人を手に掛け、その彼らを尚もまだ手元に置いて、支配している」
損な吸血鬼へと静かに視線を向けるのは『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)である。、
(その支配を断ち切って、一刻も早く彼らを楽にしてあげたいですね……ボクには、それしか出来ませんから)
(あぁ、なんででしょうね、彼女の狂気がわかる気がするんです。
愛と嫉妬に狂った女のなれの果ては僕もよく知ってますから……でも)
吸血鬼を見た『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)はぼんやりとそんな感想を抱く。
妖怪として長い時をかけて様々な人間を見てきた。
目の前の吸血鬼のような人間もまた、沢山見てきた。
それでも――
「それは残していいものじゃない、縛っていいものでもないんですよ」
手鏡をくるりと回しながら真っすぐに視線を向ける。
「あれをやっつけるよ、みんな死んだら駄目だからね」
晶竜の姿を見上げ、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)はゆらりと尻尾を揺らす。
そのまま傭兵達へと指示を出していけば、彼らもそれに素直に応じてくれた。
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「さぁ来な! ぶん殴るべき理不尽は目の前にいるぜ!」
ゴリョウは晶竜目掛けて高らかに告げると共に、金眸を晶竜へとそそぐものだ。
妖しく輝いても見える金銀蓮花の炯眼に見据えられた晶竜が雄叫びをあげる。
「どんな攻撃だって、感情だってこのデカい腹で真っ向から受け止めてやらぁ!」
自分の腹を叩いて見せ、ゴリョウは自分に向けられる感情を受け止めながら視線すら向けず吸血鬼へ声をかける。
「どうだい、吸血鬼。
危害を加え恨まれるべきなのは自分なのに、ポッと出の同じ金の瞳をした豚にそれらの感情を横から掻っ攫われるわけだ。
こんだけやっておきながら『自分』を見てもらえないってのは、どんな気分だい?」
「それは私への侮辱かしら? そう受け取ってもいいのよね……!」
憎悪が真っすぐにゴリョウを見る。
「シキ、平気?」
エルスは封印術式を撃ち込む傍らにシキへ黎明の激情を付与していく。
反撃の一閃は掠り傷、気にするほどではない。
「うん……大丈夫だよ」
そういう彼女の声が心なしかそうではなさそうにも思えて、エルスはゆっくりと笑む。
「平気ならそれはそれでいいけれど……
でも大丈夫じゃないならダメって言ってもいいの。
私が傍で支えるわ、だから思いっきり救ってあげて?」
背中を押すように後ろに立ってそう言えば、それを受けたシキが愛刀を握る手に力が籠るのを見た。
(ここで倒さなければならないのなら、最後まで私のわがままでケリをつけたい。
それがお詫びになるかは、わからないけれど……)
シキはまっすぐに晶竜に視線を向けたまま、愛刀を振り抜いた。
鮮やかに描かれた一閃は戦場を駆け抜け、傷だらけの身体に致命傷を刻む。
それに対する反撃の一閃がシキに打ち出される。
苦痛のままに暴れんとした晶竜が、起動した術式によってその身動きを止められた刹那、チェレンチィは飛翔する。
雷光の爆ぜる音と共に飛び出したままに、晶竜の懐へと飛び込んでいく。
「痛々しいですね……」
チェレンチィが思わずそう呟くぐらい陣を埋め込まれたそこは痛々しい。
飛び込むままに打ち込んだ雷霆の如き一撃に晶竜が悲鳴にも似た雄叫びをあげた。
刹那、反射的に打ち出された棘がチェレンチィを打つ。
「苦しそうね、直ぐ楽にしてあげる」
本能を解放して駆け抜けたソアは小さく呟いた、
連撃を受ける晶竜の苦悶に満ちた唸り声は、それゆえの物ともそれ以外とも取れる。
晶竜の後背、しっぽの揺らめく方面より迫り、自慢の爪を以って斬り裂いた。
竜をも穿つ美しき軌跡を描く斬撃が晶竜の身体を大きく崩す。
それと同時、その全身に生えた棘がソアの身体に傷を生む。
「全然へーき、痛いけど痛くない!」
心配するような気配を感じ取って、先にソアが言えば、傭兵達からのヒールは行われない。
「貴女にとっての『最悪』を映し出して見せましょう」
そうマリアンネへと静かに告げた鏡禍は術式を行使する。
マリアンネの眼前に姿を見せたのは一枚の鏡、そこに映る光景は果たして、如何なるものか。
それがどんなものなのかはともかく、逆鱗に触れるには十分な内容だった。
ギラリとした悪意が鏡禍へと注がれた。
「どいつも、こいつも、私を、侮辱するのね。いいわ、乗ってあげる!」
そう吼えるや、マリアンネが一気に鏡禍へと肉薄する。
リンゴの香水を纏い元々高めの抵抗力を更に上げてた鏡禍へと多数の魔術が叩きつけられる。
燃え盛るような炎と打ち据えるような雷霆が鏡禍を打つ。
睦月はマリアンネに向けて闇色の月を輝かせる。
他者へと不運を押し付ける月が生む帳は吸血鬼も逃れることなどない。
「まさか、簡単に同じ手段を使うはずもありません」
前回押し付けた封印術へと対策が取られていると踏んでの策はどうやらうまく当たったらしい。
「晶竜任せで手を抜いてくれるなら良かったけど、そうでもないみたいだね」
ヨハンはマリアンネへと視線を向けていた。
手を抜くつもりが無いのか、あるいはイレギュラーズの挙動が手を抜かせないでいるのか。
少なくとも、出鱈目に魔術を撃ち込む吸血鬼の攻撃は、それ故にかかなり甘い。
(炎に雷、陰気な疫病まで漂わせて……まぁ、吸血鬼だし血を奪うのは当然か)
冷静に分析するその眼は『次』の準備を進めていた。
晶竜が唸り声をあげ、槍のような腕を振り上げ、めちゃくちゃに刺突を打ち出してくる。
それをうまく退避したチェレンチィは逆に晶竜の腕へと取り付いた。
「そこですね」
槍のような腕のつなぎ目は結晶によって外部がコーティングされていた。
雷光を纏うままに、チェレンチィは斬撃を撃ち込んでいく。
●
「鬱陶しいのよ、鏡使い!」
激情と共にマリアンネがその手に濃密な魔力を纏う。
炸裂する術式が鏡禍の身体を撃ち抜いたかと思えば、身体からどっと力が抜けていく。
(体力や気力が持っていかれ……)
少しばかり膝をつきつつも、鏡禍は手鏡を魔力で剣のようにして斬撃を振り抜いた。
(他にどんな搦手を使うのか、この身で見せてもらいましょう)
胸の内に目的を秘め、鏡禍は真っすぐにマリアンネを見据える。
「貴女の悪夢は、どんなものなのでしょうね。見せていただけますか?」
睦月は動揺を見せたマリアンネへと術式を行使する。
姿を見せた幻覚は、ごくごく平和な家族が楽しそうにどこかへと歩いていく光景だった。
「やめろ、やめろやめろやめろぉぉぉ!! 私を無視して、私を侮辱して、幸せに暮らすなんて!!」
マリアンネが激情を露わに叫んでいる。
「なるほど、それが貴女の最悪だったんですね」
鏡禍は発狂にも近い劇場を一身に受けながらそう呟くものである。
自らの妖力を体内で循環させれば、薄紫色の霧が砂漠に立ち込め始めた。
そのまま循環する妖力は鏡禍の中へと還り、数多受けた傷を修復していく。
「こちらも貴方を超えて『月の王宮』に辿り着かなくてはなりません。
なるべく苦しませぬようにします、許してくださいね」
チェレンチィは獲物の剣身に雷光を纏い、一気に剣を払っていく。
雷撃を帯びる無数の斬撃は壮絶な輝きと共に炸裂する。
雄叫びをあげる晶竜が少しだけ後退する。
「ここだー!」
目に見えて弱体化が進む晶竜へと跳び込んだソアは、そのまま掌底を撃ち込んだ。
それはこれ以上苦しませぬためにこその全力。
鋭利な爪が血晶周辺をずたずたに斬り裂いていく。
「本当は助けたかった。でもそんな私のわがままで、君達を余計に苦しめてしまったんだよね」
晶竜の懐へと飛び込んだシキは視線をあげた。
首から少し下、腕と腕の間辺りにある紅血晶はかつてシキが一撃を入れた時の痕跡がありありと見える。
「グゥアァァ!!」
嘗ての恐怖か、晶竜が咆哮を上げてシキへと腕を振るう。
「この一撃で終わらせよう。
痛みも苦しみも悔しさも、私が全部持っていくから。背負っていくから。
こんどこそ粉々に砕いて、かけらだって残さないから――」
握りしめた愛刀が鮮やかな光を湛えていた。
全霊の一閃、依然と同じような、硬い物を削るような手応え、再びシキを包み込む夥しい量の花弁。
絶望と痛みと、ほんの少しの安堵のような何かを感じさせる雄叫びが戦場に響き渡る。
「大丈夫、ワタシも着いてるわ」
エルスは再びシキの背を押すように、声をかけて斬撃を描く。
「ありがとう、――止まるな、私!」
その声を受けてシキは自らを叱咤するように声をあげた。
――パキン、と。あまりにもあっさりとした音を立て、水晶が砕け散った。
(……あの子も。あの子も……こんなふうに慕ってくれていたら…ふふ、なんて。
たらればなんて言うべきではないわね?)
エルスは肩で息をしながらも体を起こすシキを見ながら、視線をあげた。
最奥で待つ、『あの子』を思い起こして。
「あーらら。死んじゃった? いい気味ね、私を拒絶したのだから」
砂塵を巻き上げ倒れた晶竜に、マリアンネが笑う。
たった1人になったというのに、余裕とばかりに笑う吸血鬼に、ヨハンは魔術を撃ち込んだ。
「この数相手に高貴なお姫様気取ってんだ、何かあるんだろ? 高い防御性能……吸血鬼ならではの肉体か、魔力が」
汚れた光が戦場を迸り、鮮やかに『救済』の光をもってマリアンネを呑みこんだ。
刹那、マリアンネが一気に苦しみ始める。
「この晶竜を見た時からキメてたんだ。お前は僕が裁くってな!」
驚愕と苦悶に歪むその表情を見据え、ヨハンが言えば、おどろおどろしい声色で吸血鬼が唸りながらも後退していく。
●
「沢山の技を見せていただきありがとうございます。
次会った時の参考にさせてもらいましょう」
改めて鏡禍もそう挑発すれば、そちらをマリアンネが睨む。
「ぶはははッ! 悪いが烙印すら許す気はねぇぞ、俺ぁ!
最後っ屁すら相手にされない理不尽はどうだ?」
ゴリョウが敢えて侮蔑の色を魅せて笑えば、マリアンネの目が今度は忌々し気にゴリョウを見やる。
「黒豚野郎、次会ったら殺す、絶対に殺してやる! 私を侮辱することがどういうコトか分からせてやるわ!」
激情を魅せる吸血鬼に、ゴリョウはそれすらも笑い飛ばす。
(これでちったぁご家族の無念も晴れるだろうよ!)
憐憫に変えた色で晶竜を見たゴリョウが胸に秘めた思いは口に出す気はなかった。
「今回は残念ながら貴女が立ち去るのを見守ることしかできないようですが、ただ無為に過ごす日々が長引いただけです」
睦月は舌打ちしつつ間合いを広げたマリアンネへとそう告げるものだ。
「マリアンネ。根の国の主は、貴女のお越しを待っておられますよ」
「――はっ、それはこっちの台詞よ。
次会う時は、あんたを地獄へ叩き落としてやるわ!
私を侮辱する連中なんて、全員!」
「君を逃がす、そんなこと許すわけないだろう。
今日が難しくても、いつか、君の首に私が刃を突きつけてやるから、首を洗って待ってなよ」
愛刀を振り抜いたシキの視線は真っすぐにマリアンネを見据えている。
「あはは、あはははは! それは愉しみね。
ええ、せいぜい足掻きなさい!」
血走った眼で笑ったマリアンネが月の王宮へと消えていく。
「前に進みましょう……きっとこの先はもっと厳しくなるだろうけれど、
こんな事をしでかしたあの子に会う為にも……」
満月がその身を打つ感覚を押し殺すようにして、エルスは真っすぐに月の王宮に視線を向ける。
「でも、その前に。欠片でもいいからお家に帰してあげたいよね」
暫しそちらを見ていたソアは、気を取り直すようにしてそう呟いた。
砂漠に倒れた晶竜を見やり、ソアは首をかしげる。
巨体をそのまま持っていくわけにもいくまい。
紅血晶を持って帰るのも違うだろう、そうなると
「うーん……鱗の一部、とかがいいかも?」
月に見下ろされた戦場で、ソアは遺留物を探し始めた。
それはやがて傭兵や他の面々も加わり、肉体の中でも比較的綺麗な鱗が月の王国を抜けて、ラサへと改葬されることになる。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速始めましょう。
●オーダー
【1】晶竜の撃破
【2】『吸血鬼(ヴァンピーア)』マリアンネの撃退
●フィールドデータ
月の王国に存在する『月の王宮』の門前です。
戦場自体はただっぴろい砂漠ですが、
向かい合う先にはいままで遥かな遠くへ見えていた砂漠の王宮があります。
●エネミーデータ
・『吸血鬼(ヴァンピーア)』マリアンネ
紅色の髪に月のような妖しい金色の瞳をした妙齢の女。
身体を覆うローブ風の衣装を纏っています。
烙印の位置はへその下あたり。
風貌からラサで嫉妬に狂い、何の罪もない一家をストーキングし、
ソレを諫めた多くの人々を手にかけた狂気の人であると判明しました。
どうやらそれらも『原罪の呼び声』の影響ではなく正気のままに引き起こした事件だったとのこと。
魔種にも似た非常に強力な力を有します。後衛。
多種多様なBSと範囲攻撃を駆使する魔導師タイプ。
晶竜が撃破されれば撤退するでしょう。
とはいえ、放っておけばこちらを殺しに来ることも目に見えています。
・『斬裂疑竜』スラッシャー・キレスアッライル×1
全長4~5mの晶竜です。実力は魔種相応です。
首から少し下、腕と腕の間辺りに紅血晶が埋まっています。
以前の戦いで中ほどまで罅が入っておりひびの入った部分に球体の何かが埋め込まれています。
どうやら、付近の防護魔法の陣のようです。
基本は竜種を思わせる姿をしていますが、全身のところどころから棘のような水晶が生えています。
2本の前脚は片方がモグラやアリクイ、ナマケモノを彷彿とする長い鉤爪を持ちます。
もう片方は紅血晶の輝きを放ち、円錐状の槍のようになっています。
また、尻尾も両刃の槍を思わせる鋭さがあります。
非常に苦しそうであり、辛そうでもあります。
ラサで暮らしていたとある一家や、ある女の嫉妬を諫めた者達の成れの果て。
不条理に重ね合わされ、人ならざる何かにされた怪物です。
●友軍データ
・『夜の導き』ハンナ・アイベンシュッツ
ラサに属す傭兵団『夜の導き』の団長、眼鏡を付けた人間種の青年です。
理性的で穏やかな性格ですが、仕事とあれば多少の強引さも辞さない人物。
イレギュラーズに大変好意的です。
戦闘スタイルは神秘系のテクニカルアタッカー。
瞬付与のバフを乗せて一撃を叩き込むタイプ。
・『壊穿の黒鎗』イルザ
鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。青みがかった黒髪をした人間種の女性。
つい最近まで鉄帝にいましたが、<晶惑のアル・イスラー>の頃に第二の故郷ラサのピンチということで帰還しました。
穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るいます。
距離を問わぬ神秘パワーアタッカーです。
・傭兵団『夜の導き』×10(魔:4、剣:3、銃:3)
ハンナを長とするイルザも属すラサの傭兵団です。
全員が人間種で構成されています。
魔術師型
命中、防技、抵抗へのバフをかけてくれるほか、ヒーラータイプがいます
剣士型
近接アタッカーとして前衛で戦ってくれます。
【出血】系列を与える可能性があります。
銃兵型
遠距離アタッカーです。
【火炎】系列のBSを与える可能性があります。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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