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シナリオ詳細

<月眩ターリク>アルクトスといと高き御方

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 誰も彼も無能だらけだ。
「ラーガ・カンパニーをアテにしたのが間違いでしたか。所詮は女王陛下の寵愛をうけていない人間ども。彼らに烙印をつけてやればどれほどいいか……」
 ソファに深く腰掛け、足を組む。
 黒いスーツに赤いネクタイをしたその男は、片手に装着した銀のガントレットをそっと撫でた。
 名をアルクトス。星の名を冠する恐るべき吸血鬼である。
 アルクトスは目を閉じ、そして彼の日課を行った。
 彼の日課は、女王陛下について考えること。
 あの傲慢で可憐な振る舞い。
 あの歪んだ美しい思想。
 あの破綻した愛らしい性格。
 なにもかもが素晴らしい。
 これが刻まれた烙印の果てに得た女王への執心であると知っていても、アルクトスはそれを自らの幸福だと考えていた。
 そうだ。あの頃に比べれば、ずっとずっと……。

 アルクトスはラサの商人であった。
 規模は小さいが誠実な仕事ぶりで評価され、仕事の腕にかけては自信があった。
 だがそんな彼が生き方に疑問を覚えたのは妻から別れを告げられた時だった。
 あなたは仕事のことばかり。妻はそう言って家を出て行った。
 家庭は多少荒れたものの、元々マメな性格をしていたせいかすぐに修復され、仕事もさしたる支障はない。
 しかし気付いてしまったのだ。自分には仕事しかないのだと。
 明日の仕事をどう片付けるかばかりに頭をひねり、心を砕く毎日。
 自らが情熱を燃やすもの。人生を捧げたいと思うものがないと。
 そんな彼に、ある日烙印が刻まれた。
 彼の生活を決定的に破壊し、決定的に奪い、決定的に狂わせたそれは――しかし彼に情熱を与えた。
 女王陛下のことを考えるだけで胸が熱くなり、女王陛下のお役に立つために全ての心をさける。
 もう仕事にとらわれる人生は彼にはない。
「女王陛下……次のお役目も、必ずや遂行してみせましょう」


 月の王国に存在する祭祀場アル=アラクでは、『烙印』の進行度を早め、偽命体を作り出すための儀式が行われていた。
 アルクトスもその儀式を命じられ、生贄となる幻想種たちを柱を囲うように縛り固定させていく。
 部下として借り受けた傭兵たちは晶獣よりは器用なものの、アルクトスの完璧主義からは遠く及ばない無能の集まりであった。
 今すぐ全員吸血鬼にしてやればもっとマシな働きをするだろうかと考え、しかし『見込みのない愚か者』を自らと同じ眷属にすることを彼は己の性格上許せなかった。
「早く作業を終わらせなさい。じきに『連中』もここを嗅ぎつける。お前達では、盾にすらなれないでしょうからね」


 『古宮カーマ・ルーマ』のより繋がる、異空間。それこそが、吸血鬼達の本拠地である『月の王国』であった。
 烙印を刻まれその変化の影響を受けているヒィロ=エヒト(p3p002503)。それを間近で見続けることとなった美咲・マクスウェル(p3p005192)。
 二人は元凶となる月の王国を潰すための作戦に今回も参加するつもりのようである。
「それで? 烙印をつけたアルクトスの行方はどうなってるの? あれを倒せば元通りになるかな」
「違うんじゃない? その理屈だと執心する先がアルクトスにならないとおかしいし」
「アハッ――」
 だったら凄く嫌だな、という笑顔をヒィロが浮かべてみせる。
 ラサは今非常に緊張した状態だ。ディルクは今だ姿を消したまま。別部隊は月の王宮への突入を目指して作戦を展開しているという。
 そんな中で、ヒィロたちにできることは多い。
 まずもたらされた情報は、かのアルクトスが『夜の祭祀』なる儀式を行っているということだ。
「『夜の祭祀』とは、烙印の進行を早める儀式だ。そこに付随して『私兵を増やす事』を目的にしているようだな」
 情報屋がメモを読み上げ、ヒィロたちを見た。
「多数の『偽命体(ムーンチャイルド)』も作られていて、その生贄とするためか浚ってきた幻想種たちも複数繋がれている。
 今回のミッションでは儀式の阻止が成功条件になるが、できれば幻想種の救出やアルクトスへの攻撃の狙いたいところだろう。
 といっても、アルクトスはこの儀式を『死んでも』遂行させようとはしないだろうからな。不利となれば逃げるかもしれない。勿論敵地での深追いは禁物だ。そうなったら逃がしてしまえばいい」
 情報屋は手元の情報を纏めると、その資料をヒィロたちイレギュラーズへと手渡した。
「あとは任せた。こんなイカれた儀式、さっさとぶっ壊してくれ」

GMコメント

・成功条件:儀式の阻止
・オプションA:幻想種の救出
・オプションB:アルクトスへ手傷を負わせる

●フィールド
 現場は月の王国内に作られた祭祀場『アル=アラク』です。
 本来のアル=アラクと違わぬ姿で存在しています。屋外であり、月を望む美しい場所です。
 大地には大仰な『血』の魔法陣が描かれ、中央には水晶のようなものが存在しています。
 生贄としてか、幻想種たちが多数その場に捕らわれています。彼女たちはアンガラカを使って眠らされており、救出するにはこの場を占拠するか抱えて逃げるくらいしかないでしょう。

●エネミー
・『偽命体(ムーンチャイルド)』×複数
 妖精郷で戦ったアルベドやキトリニタスと似たような疑似生命体です。一部は人間の形をやや失ったりしていますが、戦闘力はかわらずそれなりです。
 多くは浚ってきた幻想種たちと似たような見た目をしており、素体に使われたことは明らかでしょう。

・アルクトス
 星の名前を冠した吸血鬼です。回避能力が非常に高く、その上で高い基礎戦闘能力を持っています。
 また、こちらの気を引いて連携を乱すような戦い方を好むため、相手のペースに乗せられないことが重要です。(挑発合戦を避けるのがコツです)

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <月眩ターリク>アルクトスといと高き御方完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月02日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
フローラ・フローライト(p3p009875)
輝いてくださいませ、私のお嬢様

リプレイ


 古宮カーマ・ルーマより繋がる異空間、吸血鬼達の本拠地『月の王国』。
 馬車を持ち込んだ『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)たちは、馬にそれを引かせながら祭祀場『アル=アラク』を目指していた。
 他にも多数のチームが同種の作戦に従事しているが、中でもフローラたちが担当しているのは吸血鬼アルクトスの執り行う儀式の阻止だ。
 もし取りこぼせば、仲間達に刻まれた烙印の進行が早まってしまう。
 仮にそうでなかったとしても……。
「『烙印』の進行と、偽命体を作り出す、儀式。そのためにこんな多くの人達を……」
 フローラはそれまでに行われた幻想種の拉致被害についての資料をぎゅっと握りしめた。
 同じ資料を読んでいた『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)がふむと顎に手を当てる。
「やはり今回も眠らされとるようですね」
 これまでと同様、幻想種たちはアンガラカという薬品によって意識を奪われているらしい。逃げろと呼びかけて逃がせないのは厄介だが、それはそれでやりようはあるというもの。
 実際支佐手たちはこうして運搬手段を持ってきたのだから。
「しかし、道中で妨害に遭うやもと思っとりましたが、傭兵の一人もおらんとは……」
「それだけ戦力に自信があるか、それとも人手不足か……だな」
 やれやれだ、と『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は肩をすくめて首を振る。
「それにしても、奴隷にされかけたり儀式の贄にされたり幻想種も大変だな……。
 今回の悪趣味な儀式は他のイレギュラーズのためにも断固阻止、だ!」
「星の名前を冠した吸血鬼…本気でぶちのめしたい所だけど。
 幻想種さん達も死なせたくない…何が何でも、儀式はぶち壊して阻止するよ…!」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)もそれに同意するように言うと、感情封印を己にかけた。
 『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)がその情熱をあとに引き継ぐように言う。
「人を使った儀式なんて絶対にロクな事にならないってのはやっぱり本当の事でして! 滅茶苦茶にしてやるのですよ!」
 『IrisPalette.2ND』という魔砲を撃つことに特化したアンチマテリアルライフルを担ぎ、レバーを握りしめるルシア。
 既に戦闘準備は万端なようで、頭上の『トゥインクルハイロゥ』がくるくると回り始めていた。
 一方準備万端といえば。
「もぅさー! 美咲さんだけのモノに決まってるボクの心に、ゴミみたいなのに捨てられない感情捻じ込まれてさー! どうにかなっちゃいそう!
 このイライラ、アイツらにぶつけちゃっていい? アイツらもあの儀式も全部ぶっ壊しちゃっていい?」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が両目をくわっと見開き天に向かって怒りを露わにしている。
 そな彼女の中で、彼女の意志と誓いを脅かすかのようにある感情が湧き上がり、更に怒りが燃え上がる。
「いいよ。ありがとー! アハッ」
 己の怒りを肯定しいつものように笑うヒィロ。しかしその笑みに含まれた今までと異なる歪さに、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)はほんの僅かに目を細めた。
(ヒィロの烙印を消すには、アルクトスをどうこうしても意味がない。厄介な上に斬っても憂さ晴らし以上にはならないとはねー)
 こうなれば吸血鬼の『大元』を叩くほかない。アルクトスはそのための障害というわけだ。
 であるならば。
「さて(儀式を潰すのが嫌がらせになるし)、しっかり仕事しましょうか」

 それぞれの理由でやる気を出す一行。『闇之雲』武器商人(p3p001107)はそんな中でぽつりと小声で呟いた。
「仕事のことばかりだった男、か」
 おそらくは誰もが無視したであろうこと。アルクトスの背景についてだ。
「番、家族、眷属、所有物のいるモノとしては身につまされる話だ。
 まァ、今までの人生を振り返って、大事にしたいモノが真に得られたと思えるならそれはそれで幸福かもしれんね」
 けれど武器商人はそこまでで考えを止め、皆にあわせて切り替えた。
「儀式場が見えてきたよ」
 こちらから儀式場が目視できる一方、向こうからもこちらが見えているのだろう。
 ムーンチャイルドたちが武器を取り戦闘態勢に入っているのがわかった。
 さあ始めようか。武器商人がそう言葉にするまでもなく、戦いの火蓋は切って落とされる。


 儀式場は小高い場所にあり。長い階段が間にはあった。
 そんな中を、ヒィロは真っ先に走り出す。
「ホラホラ、早くボクを捕まえないと儀式もお前達もぶっ壊しちゃうよー!」
 ムーンチャイルドたちが放つ魔術砲撃がホーミングしながら迫る中を、華麗なジグザグ機動で回避し最後の一発を盾で受けるヒィロ。
 ルシアはその頭上を翼を広げて豪速で飛ぶと、速攻でライフルを発砲した。
 魔術砲撃に特化したライフルといってもほかのことができないわけでは勿論ない。ルシアの放った魔術弾は流星の如き軌道を描いてムーンチャイルドたちの間に着弾、激しい雷撃を周囲へとまき散らす。
 が、どうやら相手も相手でこちらの戦力は想定済みであったらしい。
 全身鎧を纏った幻想種風のムーンチャイルドが手をかざすと、鎧の一部がビット化して分離、横に大きく広い盾へと変化し再結合した。
 雷撃を自身で受け、背後の二人をかばう。その後ろから杖をライフルのように構え砲撃を始めるムーンチャイルドたち。特にモノクルを装備したムーンチャイルドは操作したモノクルから魔方陣を展開し、特殊な魔術砲撃を発射してくる。
 それはヒィロの翳した盾をすり抜ける形で、ヒィロの精神へ直接打撃を与えてきた。
「防御無視型の魔術! やっぱりヒィロさんの襲来は予想していたのですよ!」
「だから何!」
 ヒィロはそれでも笑顔で突っ込んでいけるほど肝の据わった女である。
 というより、『意識されていた』ほうがヒィロとしては戦いやすいのだ。
 その間に錬が儀式場を観察。柱に繋がれた幻想種たちやその回りに血で描かれた魔方陣から、いくつかのポイントとなる儀式道具を予想した。
「星の名前……うむ、吸血鬼には全く惹かれないな。儀式の詳細だけ後で糧にしてやろう!」
 錬は『式符・陰陽鏡』を発動。大盾のムーンチャイルドめがけて虚像の鏡像から溢れる暗黒の雫をぶちまけた。
 仲間をかばうという都合上どうしても喰らってしまう。そして、そういう相手を封殺することに錬は優れていた。
 そしてもう一つ。
「中央の柱と水晶だ。魔方陣は物理的に傷つけても意味が無い。大量の血で上書きでもしないことにはな」
「だったら――」
 美咲が加速。ヒィロの素早さに息を合わせ儀式場へと一番乗りで飛び込むと、中央に置かれた水晶めがけて包丁を放った。
 彼女の見た『切断線』にそって描かれた一閃が水晶をビキリと破壊し、更には急いで県を抜刀使用としていた左右のムーンチャイルドたちも纏めて切り裂いた。
「いいぞ。その調子だ」
 錬が更なる術をかけるため術符を抜くその一方、美咲はムーンチャイルドと至近距離での打ち合いに発展する。
 抜刀したシャムシールによる連続斬撃を逆手に握った包丁の背で受ける美咲。
 刀剣としての硬度は相手が上回っているはずなのに、どういうわけか上手に斬撃をいなせていた。
 そこへヨゾラが飛び込み『星空の泥』を発動。
 混沌に揺蕩う根源的な力を煌めく星空のような泥に変え、広域対象の運命を漆黒に塗り替える魔術である。
 これはヨゾラがケイオスタイドを自分流に変えた技であり、別名『星海・星空の海』。
「――飲み込め、泥よ。混沌揺蕩う星空の海よ」
 放たれた魔術によってムーンチャイルドの手から剣がぽろりと落ちる。そのことにハッとしたのもつかの間、フローラがタロットカードの一枚を引き抜いた。
 塔の大アルカナを示す絵柄がグリーンに輝き、フローラは込められた魔術を発動させる。
 すると頭上に突如生まれた暗雲から雷撃が走り、ムーンチャイルドへと直撃。その周囲でフォローにあたっていたヒーラーらしきムーンチャイルドが激しくノックバックする。
「チッ――」
 舌打ちが聞こえた。アルクトスのものだ。
 アルクトスは得意の錯覚を利用すると錬の胸を派手に切り裂いた。
 が、それは一瞬のことである。フローラが素早く引き抜いた力のカードが発動し、獅子を手懐ける乙女の幻影が錬の傷口を優しく治癒し始める。
「おお、助かった! けどアルクトスをフリーにはできないな。フォロー頼む!」
「任せてください」
 フローラが抜いた悪魔のカードが弾丸へと変わり、アルクトスへと放たれる。
 ガントレットで弾丸を弾こうとするアルクトスだが、そこへ支佐手が襲いかかった。
「随分と大事な儀式のようで。
 勿体ないもんです。これだけの準備を整えられるだけの費用と手間が、小汚い吸血鬼風情のために費やされたとは。犬にでも食わせてやった方がマシでしたの」
「侮辱を――!」
 片手を使い几帳面そうに眼鏡をかけると、アルクトスは支佐手めがけガントレットの指を伸ばす。
「そこ」
 その手は知っている。支佐手は素早く『深淵の鏡』を取り出すと瞬時に延ばされた相手の爪を受け流した。そして『火明の剣』を突き出すように構え、『三輪の大蛇の天変地災』を発動させる。雷神の一種である蛇神を召喚する巫術である。
 剣から飛び出した雷を纏った蛇神がアルクトスへと食らいつき、それを振り払って支佐手を押しのけようとしたアルクトスに、トンッと武器商人が手をかけた。まるで意趣返しのように彼の肩に手を置いたのである。
「烙印を頂いてもいない分際で、この私に触れるなッ!」
 怒りを露わに爪による斬撃を放つアルクトス。
 が、武器商人は攻撃をまともに食らったにもかかわらず平然と立っていた。
 武器商人が『その手のもの』だと早くも察したアルクトスだが、手札を一枚使わされた過去は覆らない。
 ギリッと歯を食いしばり、武器商人と支佐手をにらみ付ける。
「そこを退け、俗物ども」
「その相談には乗れないねぇ」
「退かしてご覧なさい」

 アルクトスのブロックがおよそ五人がかりで進む中――。
「捕まってる幻想種を救出した方が確実に儀式は止められるのです。なので! 助けるのですよー!」
 ルシアは柱に繋がれてぐったりとしている幻想種の高速縄をナイフで切ると、幻想種の身体を抱え階段を駆け下りるように飛行し始めた。
 目指すのは、フローラやヨゾラたちが持ち込んだ馬車である。
「貴様、その生贄共を置いていけ!」
 それを咎めようとアルクトスが爪を伸ばしてルシアを攻撃しようとした――が。
 ガキンと美咲の包丁がそれを撃ち弾いた。
「見えるはずでも避けにくい技……学びにはなったよ」
 アルクトスの『手の内』はもう知れている。トリックのわかった手品ほど容易くやぶれるものはないのだ。
 美咲は『今のうちに』とヒィロに呼びかけ、ヒィロは幻想種を二人纏めて担ぎ上げるとパワフルに馬車へと運び始めた。
「目の前で生贄連れ去られるってどんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち?」
「調子に乗るなよ俗物が! 女王陛下の恩寵すらも受けられぬ分際で――!」
 怒声をあげるアルクトス。だがヒィロはクスクスと笑いながら挑発を続けるのだった。
「もういい」
 アルクトスは眼鏡に手を当てると、ガントレットをした手をかざした。
「いずれ女王陛下の駒となるのですから、貴様等を生かしておこうと思いましたが……やめだ。ここで殺す! 無様に死ね!」
 大きく踏み込んでくるアルクトス。支佐手が今度もとばかりに受け流そうとするが、アルクトスのパワーに対して大きく押しのけられた。というより、防御しきった筈の攻撃によって支佐手が吹き飛ばされたのである。
 柱に激突し転がる支佐手。
「奇術師が力業に頼るとは」
「プライドを捨てたかな?」
 武器商人が横に並び支佐手を立たせると、今度は一転、攻撃に打って出た。
 支佐手が丹塗りの小刀を投擲し、それをがしりとガントレットでキャッチしたアルクトスを中心に深紅の沼が出現する。
(普段なら怒ってぶん殴るけど…特に何も感じない、今回はそれでいい)
 そこへヨゾラが飛び込み、『悪鬼貫く流れ星』を発動させた。
 ヨゾラがとある因縁ある吸血鬼への対処手段を模索し改変したというこの技は、輝き煌めく魔弾が射出される光景は流れ星のようにアルクトスへと襲いかかる。
「星は煌めき、悪鬼を貫き、貴様の運を削るだろう…ここが貴様の運の尽きだ」
 無感情に呟くヨゾラの『砲撃』を防御するアルクトス。そこへ武器商人がおそるいべき一撃を放った。
 『"我らの災禍に祝祭を"』とショウされるそれは、流星の如く世界を灼く蒼き槍の一射である。
 それまで防戦一方であった武器商人から放たれた強烈な砲撃に、今度こそアルクトスは押され始める。
「深追いする必要はない。ある程度ダメージを与えたら退くぞ!」
 錬は己のもつ五行の式符を全て抜くと、その全てを一度に発動させた。
 木火土金水からなる五行の力が螺旋を描いてひとつに集まると、防御姿勢のアルクトスへと突き刺さるようにぶつかっていく。
「今更こんなものを持ち出したところで――」
 ギリッと歯を食いしばるアルクトス。だが、その瞬間にフローラの放った太陽のカードがアルクトスへと突き刺さり激しい熱によって燃え上がった。
「ぐ――ああああ!?」
 溜まりに溜まったBSが呪殺のトリガーによって激しいダメージとしてアルクトスを燃やしたのである。
 フローラはちらりと魔方陣を見下ろし、そして錬へと問いかける。
「この魔方陣は大量の血によって上書きされるのでしたよね」
「ああ、他の所は知らないが、少なくともこいつはそうだ」
「なら――」
 フローラは腰から小ぶりなナイフを引き抜くと、それを自らの腕に押し当てた。
「まさか……やめろ!」
「情熱を燃やし、人生を捧げたいと思えるもの。
 とても強い憧れがあったとして、それのために自分以外の誰かを捧げるのは……綺麗ではない、と思うのです」
 叫ぶアルクトスを無視し、フローラは勢いよく腕にナイフを走らせる。吹き上がる血が魔方陣へと降り注ぎ、儀式に必要な術式を洗い流すように消していく。
 その瞬間、アルクトスの目にカッと炎が灯った。
 身体がびきびきとひび割れることを厭わず、フローラの首へと掴みかかる。
「貴様は――貴様だけは!」
 が、そんなアルクトスの腕めがけ放たれるヒィロと美咲の斬撃。
 吹き上がる血を嫌がるようにアルクトスが飛び退き、フローラはアルクトスから引き離された。
「無茶しやがる……行くぞ!」
 馬車に飛び乗った錬はフローラの回収を確認すると、その馬車を走らせ撤退をはかったのだった。

 遠ざかる馬車。腕を押さえたアルクトスはギリギリと歯を食いしばり、唇の端からは血が滲む。怒りの余りに震えた指が、ゆっくりと彼の眼鏡へと伸びた。
「女王陛下……お許しください……。奴らは必ず……必ず、この手で殺して見せますから……!」

成否

成功

MVP

天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

●運営による追記
※フローラ・フローライト(p3p009875)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。

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