PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月眩ターリク>flash back fire

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「こいつら幻想種は月の王国連中にとっても必要な商品だ。絶対ローレットなんぞに渡すなよ。死んでもだぞ」
 ラーガはそう言って、壁際に座り込むようにして並ぶ幻想種たちを指さした。
 アンガラカによって意識をぼんやりとさせた彼女たち。なぜ『幻想種ばかり』なのかは長らく疑問ではあったが、どうやら『博士』の実験に都合がよかったり、これから行われるという『夜の祭祀』という儀式の生贄としても都合が良いという事情があったらしい。
「俺らにとっても月の王国に入りこむための生命線になる。気合い入れて守れよ。商品のなくなった商人なんて誰も見向きもしねーんだからな」
 ラーガが振り返れば、彼の雇った傭兵達がぞろぞろと立ち上がりそれぞれの武器を手に取ってみせる。が、人数はそれほど大量というわけではない。
 彼らの戦力は自分達で無理矢理作り出した晶人や晶獣。そして月の王国から客人として招いた吸血鬼たちだ。
「この騒動を乗り切りゃ俺たちの勝ちだ。つってもローレットの連中が黙ってみてるわけがねえ。
 エーニュの連中をぶつけるにも限度があるし、カーマルーマは既に落とされつつある。そろそろここまでたどり着いてもおかしくねえ」
 防備は固めておけ。ラーガはそう言い切ると、自分の銃を手に取った。
 部下に『死ぬ気で守れ』『死ぬ気で戦え』と命じておいて、自分がするべきはひとつだけなのだ……。


「おいおいおいおい! ラーガのアジトを突き止めたってなぁマジか!」
 虎頭の傭兵、虎爪のマラティーがマガキのメンバーが集まる酒場へとどかどか足音をさせて入ってきた。
 爪の手入れをしていた羊頭女性、羊剣のジャテーフトが迷惑そうに睨む。
「大体の場所がわかっただけ。防備が堅いから全然近づけないわ。ボス(ハウザー)はディルクへの対応と街の混乱の調停で引っ張りだこだし」
「ボスが……調停……?」
 ハウザーが両手を翳し『まあまあ』とか言ってるさまを想像し、猫忍のニランジャナがぼにゃりとした顔をする。
 鶏肉のクスンバが葉巻をくわえた。おめー考えてもみろ。あんだけカリスマのある人が横で吠えてたら大抵のもめ事は冷えるだろ。
「あー」
「まあとにかく、ディルクの不在ってのはくそでかい問題なんだよ。前みたいに引き継ぎしてから出てったわけじゃねえからな」
「だから、私達が働く必要がある」
 ガチャンとリボルバー弾倉のていれを負えたパドラが、ゆっくりと顔をあげた。
 瞳の奥には、復讐の炎が燃えている。
 ラーガ。自分の両親を殺した男。
「急ごう。こっちが居場所を見つけたってことは、あっちもそれに気付いてるはず。早くしないと手遅れになるかもしれない」
「手遅れって?」
 ニランジャナの問いかけに、パドラは少しだけ言いよどんでから、応えた。
「浚われてる幻想種たちが、危ない」

 イレギュラーズたちが酒場へと集められていた。パドラと仲の良かった者や、ジャテーフトらと親交を深めた者を中心にだ。
「これまでの流れは覚えてる? 巷に出回ってた『紅血晶』や『幻想種拉致事件』を追ってた私達はラーガ・カンパニーの尻尾をついに掴んだ。
 一方で同じ事件から『月の王国』っていう吸血鬼集団への繋がりも発見できた。
 古代遺跡カーマルーマから転移陣を経由して、異空間に広がる月の王国へと探索を進めることができたよね。
 紅血晶を使って人やものを変異させる事件や、浚われた多くの幻想種たち。そういうスジの通らない連中を倒してラサの平和を取り戻すのが私達の仕事ってわけ」
 そこまで言い切ると、マラティーやニランジャナたちを一瞥した。こくりと頷く彼ら。
「私達はラーガのアジトの場所を突き止めた。そこには浚われた幻想種たちも保管されていて、彼女たちは順次祭祀場アル=アラクへ送られるみたい」
「使用用途は生贄ってところだな。当然、放っておけばヤバイことになるのは明らかだ」
 祭祀場で行われているのは『夜の祭祀』。吸血鬼によって烙印を押された人々の進行を早める恐るべき儀式だ。
「ラーガのアジトに乗り込んで、まずは幻想種たちを救い出す。そしてアジトを抑える。私達のミッションはそれ、だよ」
 そこまで聞いて、パドラの過去を知るものはこう思ったかもしれない。「ラーガへの復讐はいいの?」と。
 それを察して、パドラはゆっくりと首を振る。
「ラーガを憎んでるのは私だけじゃない。そういう感情をぶつけるのは、倒してから……だよ」

GMコメント

●成功条件:幻想種の救出、アジトの占拠
 ラーガ・カンパニーが月の王国内に作っていた拠点(アジト)を襲撃し、保管されている幻想種たちを救出します。
 ここにはラーガが逃がしておいた戦力に加え月の王国から派遣された吸血鬼も配備されています。
 激しい戦いが予想されるでしょう。

●野外戦力
 突入するには野外に展開している晶獣戦力を倒さなければなりません。
 観測されているのは以下の晶獣です。
 それぞれの数は多く、正面から攻め込んで一気に殲滅、突破する必要がありそうです。
 後に残すと厄介なので、しっかり倒しておきましょう。

・シャグラン・プーペ
 紅血晶が、ラサの遺跡に眠っていたゴーレムに反応し、変質して生まれた晶獣です。
 強力な物理近距離攻撃を行い、『渾身』を持つ攻撃を多用してくるため、万全の状態ではかなり強力ですが、徐々に息切れを起こしそうです。
・リール・ランキュヌ
 紅血晶が付近の亡霊と反応し、生まれたアンデッド・モンスターです。
 強力な神秘遠距離攻撃を行ってきます。体力面では脆いため、後衛で味方に守られながらの攻撃を行います。
 『嘆き声』には、『毒』や『狂気』系列のBSを付与する効果もあります。
・サン・ルブトー
 晶獣のうち、特にラサに多く生息する砂狼が変貌したものとなります。
 連携攻撃を来ない、主に牙やつめによる物理属性の攻撃を行います。EXAなどが高めで、手数が多い敵です。

●屋内戦力
 予想されるのはラーガが浚った幻想種たちを素体に無理矢理作り出した晶人と、月の王国から派遣された吸血鬼たちです。
 どれも非常に強力ですが、いくつかの要所に戦力を分散しているため、それぞれを同時に叩く作戦がとれます。(フリーの奴を作ると各個撃破をうけるためしっかり配分しましょう)
 プレイング字数節約のためにタグを用意したので、チームワケには【A】等と表記して戴ければ大丈夫です。

【A】セラスティア(プレヌ・リュンヌ)
 特別に強化され、完成した晶人です。このあと晶人に変えて販売or使用するための幻想種たちの保管庫に配備されています。
 完全に結晶化した身体を鏡のように変化させ、高い防御と反射能力をもちます。
 高い火力をぶつけなくては倒す事は難しいでしょう。

【B】ヴァレクシオン(吸血鬼)
 血をナイフや鎌のように変化させて戦う能力を持った吸血鬼です。
 赤いテーラードスーツを着用しどこかキザな雰囲気をしています。
 全体的に隙が無く、逆にこちらの隙を突くような戦い方を得意としているようです。

【C】イリシオン(吸血鬼)
 蓮の花を頭に飾った少女のような吸血鬼です。元精霊種であったらしく、カナタという幻想種の商人をその恋心から浚おうとしていました。
 こちらの防御を無視するような攻撃や、高すぎる命中精度、こちらの動きを大きく阻害する幻影能力などをもち、非常に手強い相手です。
 以前に一度ローレットと戦っています。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9349

【D】ラーガ
 彼だけはマトモに戦うつもりがないでしょう。倒すというより追い払うための戦いになりそうです。できれば殺せたほうがいいですが、今回の場合戦力不足です。
 また、ラーガのことなので何かしら戦力を隠している可能性もあります。担当する場合は充分に警戒してください。
 以前戦った際は高い防御をもったPCですらぶち抜けるだけの攻撃能力をもち、戦闘面でも優れた動きを見せていました。

●味方NPC
 今回は敵の戦力が多いため、マガキ傭兵団からも人員が割かれています。
・パドラ
 銀の大口径リボルバーを武器とする女性。
 過去にラーガによって両親を目の前で殺された過去をもち、復讐心を胸に抱えている。
・その他マガキの傭兵団
 マラティー(高威力)、ジャテーフト(高命中ダメージ系BS)、ニランジャナ(高反応連鎖行動もち)、クスンバ(バランス型)

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <月眩ターリク>flash back fire完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年05月03日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ

●flash back fire
 『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は目を閉じ、そしてゆっくりと開く。
 泥の瞳に浮かんでいるのは、怒りの炎だ。
「反吐が出るな。弱者を食い物にするとは」
 ギターを背にまわし、手を強く握っては開く。泥と雷の魔術によってクソ野郎共を焼き払う空想をして、パチリと手のひらの上で小さくスパークを起こした。
「幻想種が儀式の生贄にされたとも聞きます。それだけ良い素体だということなのでしょうけれど……」
 『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は頬に刻まれた烙印をそっと撫で、そして内から出でる衝動に熱い吐息を漏らした。
「『浅はかな連中』」
 吐息と共に漏れ出たのは、まるで血のように紅い魔女の言葉である。
 烙印の進行に応じて、この状態が増えつつあるという。
 一方で、そうした事情から遠いところにいたつもりの『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)からは、現状があまりにも混沌としたモノに見えた。
「えっと……ここはたしか『月の王国』なんだよね。古代遺跡から通じる異空間で、そこにラーガ・カンパニーの隠れ家が見つかった。オイラたちの仕事は、そこにいるラーガやその協力員たちを倒す事――じゃなくて、そこに捕らわれてる幻想種たちを助け出すこと、だよね」
「ああ、だな」
 『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)が刀に手をかけ、すらりと刀身を半分ほど抜く。そして勢いよく鞘にガチンとおさめるた。
 彼にとってみれば、幻想種から想像されるのは妻であり、その故郷の人々だ。自分にとっても浅からぬ種族である。
「アジトへ突入するとなれば、相応の戦力をぶつけられるでござろう」
 『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はそう言いながらも、絡繰手甲・妙法鴉羽『宿儺』の安全装置をかちゃりと外し左手側の手甲からブレードを展開させた。
「拙者も巷の誘拐事件で友人達を一度拐かされた身、この所業は捨て置けぬ」
「全員助けて、全員で帰るとしようか!」

「イリシオンさん……」
 自らの膝に手を伸ばし、『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は息をついた。
「思い出しているのですね。あの吸血鬼のことを」
 『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)もまた、胸元に手を添える。
 彼女たちの手を添えた場所には、それぞれ吸血鬼の烙印があった。
 妙見子が烙印をつけられたのは、忘れもしない幻の湖畔。幻影を操る吸血鬼イリシオンとの戦いの中だった。
 恋心に翻弄され、吸血鬼を自らの最後のチャンスだと言った彼女。愛しい人を浚い、今度こそずっと一緒にいられると涙ながらに叫んだ彼女はいま、月の王国へと逃げ延びている。
「再び、剣を握るのですね、イリシオンさんは」
「確実にしとめましょう、ここで。彼女の恋を終わらせるのです」
 そうだ。終わらせてあげなくちゃいけない。
 本来叶わなかった恋が、呪いに変わってしまったのだから。

 炎の記憶がある。
 隠れて見えた両親の最後の姿が焼き付いている。
 おぼろげな記憶の中で、父にトドメをさす男の姿が。
 それが今では、実像を帯び始めていた。
 ラーガこそが自らの両親の敵だと知らされてから、夢に見るのはラーガがあの黄金の銃で父の腹を撃ち抜く姿に変わっていた。
「――っ」
 目が覚めれば、目尻から涙が流れていた。
「パドラ、大丈夫?」
 『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)がそんなパドラの顔を覗き込んでいる。
「なんだかうなされてたみたいだけど」
「大丈夫。夢見が悪かっただけ」
 目尻をぬぐって、防止を被り直すパドラ。
 仮眠でみる夢にしては酷いものだが、今から戦うのがあのラーガとなれば仕方のないことなのかもしれない。
「ねえ、パドラ」
 シキはパドラの手をとり、呼びかけた。
「今回の依頼内容は幻想種たちの救出、だよね。パドラはラーガとの決着を付けたいだろうとは思うんだけど……今は救出を優先して欲しいんだ」
「分かってる、大丈夫だよ」
「強いな、パドラさんは……」
 『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)が呟くと、パドラは『そんなんじゃないよ』と頬を赤らめて目をそらした。
「ラーガは必ず殴ってみせます。だから……」
「うん。お願い」
 翳した鏡禍の手をぎゅっと握り、パドラは頷いた。
「…………」
 そんな様子を、『氷の狼』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)は黙って見つめている。
(あの男を殺したくて仕方ないだろうに。本来であればラーガは殺させてやりたいところだが、まだその時じゃない)
 だがその時が来れば、自分は全力で助けよう。その時の為に…今はここを強奪し、幻想種達の救助に専念しよう。
 リーディアは決意を新たに、ライフルのセーフティーを解除した。

●アジトへと
「まずはおまえらか! まとめてかかってこい!」
 古代遺跡めいたアジトの正面通路。そこを塞ぐように現れたのは複数体のゴーレム。シャグラン・プーペであった。
 シャグラン・プーペはチャロロの放つ気迫に引き寄せられるかのように突進し、広げた手のひらで掴みかかる。
 勢いよく飛び込むことで掴み係を回避し、地面を前転するチャロロ。
 手のひらからのパルス反動によって振り向きざまに繰り出された裏拳がヒットするも、それは素早く起き上がったチャロロの剣によって受け止められる。
 ダメージは吸収しきれるものではなかったが――。
「今のうちだ!」
「お任せ下さい」
 妙見子は舞うように空中に手で円を描くと、青白く燃える炎によって方陣が形勢される。
「堅い装甲。であれば――」
 急接近をしかけ、方陣を直接叩きつけるように掌底を放つ妙見子。
 更に前進に炎のラインを廻らせると、強烈な後ろ回し蹴りをコンボで叩き込んだ。
 ゴーレムの巨躯を破壊しきるほどではなかったが、その身体に走る炎がバチバチとスパークを起こしてシャグラン・プーペの動きを一時的に停止させる。
 がくりと膝を突いたところへ、チャロロの剣が突き刺さった。
「皆を助けるために、おまえたちは邪魔なんだ! そこをどけ!」
 チャロロの剣――『機煌宝剣・二式』から炎が燃え上がり、ゴーレムの内部構造を破壊する。
 ぐらりと傾いたシャグラン・プーペから、二人は大きく飛び退いた。
 転倒し、バラバラに砕けるシャグラン・プーペ。残ったシャグラン・プーペたちも手のひらを広げ砲撃の構えをとるが、構えたチャロロと妙見子に隙は無い。
「待って、続きは私達がやるよ」
「力を温存してください」
「そういうこと。休んで暇を持て余すのも嫌だしね」
 そんな二人の前に躍り出たのはシキ、鏡禍、パドラの三人だった。
 ガコンという音と共にシャグラン・プーペの両腕が折れ、中から熱光線が放たれる。
 と同時に、鏡禍は妖力によって生み出した大きな鏡を生成した。
 光線が鏡の中へと吸い込まれていき、消える。
 シャグラン・プーペはその事実に少なからず動揺を見せたようだ。
 その隙をついて、鏡禍は取り出した手鏡から薄紫色の妖気を放射。妖気を浴びたシャグラン・プーペが狂ったように鏡禍へ殴りかかるようになればもはやこちらのものである。
「シキさん、パドラさん!」
 呼びかけには無言で応じ、シキとパドラは両サイドへと回り込む。パドラはあえて至近距離まで銃を寄せ、厚い装甲を無理矢理ブチ抜くようにして拳銃で連射。
 流石に装甲がもたなくなったらしくぐらついてきた所に、シキはガンブレードのトリガーをひいて装填していた魔術を発動させた。バチッと紫電が刀身を走り、シキは魔術によってもたらされた切断能力を用いて大上段からシャグラン・プーペに斬りかかった。
 咄嗟に腕を翳して防御をするシャグラン・プーペだが、もうこの間合いに入った時点でシキの勝ちだ。ガギギという耳障りな音と共に腕を切断すると、その勢いのままシキは剣を足元まで一気に振り下ろした。
 装甲を切断され、シャグラン・プーペがくぐもったような声を発しながらその場に崩れ落ちた。
「このままシャグラン・プーペを対応するよ。『そっち』はお願い」
 パドラが視線で示した先。無数に並ぶ石の棺がごとりと音をたてた。
 棺の蓋が内側から外され、リール・ランキュヌが姿を見せる。つまりは紅血晶と反応した亡霊である。
 シャグラン・プーペに前衛を任せ、亡霊たるリール・ランキュヌたちに狂気のうめき声を上げさせるという戦術だ。
「なるほど、面倒な配置だ……こちらが少数であったなら、な」
 リーディアは即座にライフルの狙いをリール・ランキュヌにつけ、発砲。それも頭、胸、腹に一発ずつ的確に打ち込むという器用さでだ。
「『氷の狼の遠吠えを聞くがいい』」
 涼やかに呟くと、部屋の側面方向から奇襲するように現れたリール・ランキュヌたちへ90度のピボットターンをかけて照準、発砲、発砲、――発砲。
 まるで精密な機械のように動くそのさまに、リール・ランキュヌが付け入る隙はどうやらないらしい。
「ヒュー、やるねえ」
 鶏肉のクスンバが口笛をふくと、取り出した二丁拳銃で撃ちまくる。
「とはいえ、ここに全力を出し切るとこの後が大変だ。力を貸してもらうぞ」
「言われなくともな! おめぇら、イレギュラーズを先へ行かせるんだ!」
 虎頭のマラティーが吠えると腕に装備したクローがバチバチとスパークした。
 山羊頭のジャテーフトがライフルを構え、猫頭のニランジャナが飛び出す。完璧に連携されたその動きによって、敵が出てきて即座に撃滅するという状態を作り出していた。
「にしてもキリが無いわね」
「ここ、敵の、アジト。敵、多いの、当たり前」
「ということは、出番のようでござるな」
 咲耶が絡繰手甲を操作しガツンと両拳を合わせる。すると手甲から半透明な盾が展開しファイティングポーズをとるような姿勢でそれを前面にかまえた。
 増えすぎたリール・ランキュヌがうめき声を咆哮のように発しぶつけてくるも、咲耶はそのダメージを盾によって全てキャンセル。そのまま一気にニランジャナの連携をつかって接近すると、青紫の軌跡を描きながら跳び蹴りを繰り出した。
 つま先に仕込まれた刃が魔力をもち、リール・ランキュヌを斜めに切り裂いて行く。
 そのまま踊るように周囲のリール・ランキュヌを次々に蹴り(斬り)殺していく咲耶。
 最後にはファイティングポーズをとりながら片膝をあげるというどこかムエタイチックなフォームで止まり、周囲のリール・ランキュヌたちは小さく呻きながら消えていった。
 フウ、とその姿勢で息をつく咲耶。
「終わりですか?」
「いや、まだでござるよ」
 先へ。と言いながら走り出す咲耶。通路は長く、そして複雑に入り組んでいる。
 曲がり角から突然リール・ランキュヌが飛び出し掴みかかるなどザラで、扉をあけると並んだリール・ランキュヌに一斉攻撃を食らうなどもまたザラである。
 いくつ目かの扉を蹴り開けたところで咲耶が防御姿勢。リール・ランキュヌの砲撃を受けきると、その後ろからマリエッタがナイフを手に翳した。
 攻撃のためのナイフ、ではない。刃は彼女の腕に当てられ、勢いよく引かれる。
「死してなお吸血鬼の奴隷だなんてね。今楽にしてあげるわ」
 妖艶な吐息と共に囁くと、吹き上がる血に魔術を込めた。
 空中でパキパキとナイフめいた形となって成形されていく血液。それらが次々にリール・ランキュヌへと飛んでいき、額や胸へと突き刺さったのである。
 ひときわ強力なリール・ランキュヌが石の棺を吹き飛ばしながら飛び出し叫ぶが、それでも構わずマリエッタは翳した手でパチンをフィンガースナップを鳴らす。
 今度は血が集まり槍の形状をとると、リール・ランキュヌへと発射された。
 鳴り物入りで現れたにもかかわらず、槍の直撃をくらったリール・ランキュヌはそのまま壁際まで吹き飛ばされ、蝶の標本のごとく釘付けにされたのだった。
「おやすみなさい」

 後方をマガキの傭兵達に任せ、マッダラーは博物館めいた建物の中を走る。
 左右のガラス張りの棚には無数のナイフや剣が飾られ、どれも結構な値打ちを感じさせる。
 扉を蹴破って外へ出ると、アジトのある建物はすぐそこだ。
 しかしそれを阻むようにサン・ルブトーの群れが姿を見せた。
 グルルとうなりをあげこちらを牽制するようににらみ付けてくる姿に、マッダラーはゆっくりと構えた。
 手のひらを開くようにして片手を翳す。
「味わってみるかい、泥の味を」
 呟くが早いかサン・ルブトーの一体が飛びかかってくる。
 マッダラーに一匹が食らいついた次の瞬間。連携し次々と食らいつきマッダラーを噛み殺そうと喉にその牙を突き立てる――が、その全てはマッダラーの狙い通りであった。
 彼の手のひらがべたりとサン・ルブトーの喉に当てられ、その瞬間に硬化した泥の槍がサン・ルブトーの顔面を貫いて反対側から飛び出した。
「いいヘイトコントロールだ、マッダラー!」
 下段から切り上げるようなフォームで刀を振るう零。
 見ようによってはゴルフスイングのようなその一撃によってサン・ルブトーの首が飛ぶ。
 彼は所謂『三桁番台』と呼ばれる古参のローレット・イレギュラーズである。EXF戦法を何度も経験し、そのコツも知っている。要は『味方ごとやれ』のパターンを熟知しているのだ。
 故にサン・ルブトーめがけ次々と流れるように刀を振るい、時にはマッダラーの腕事切り裂いてサン・ルブトーを両断していく。
「味方を巻き込むのはここまでにしとくか。気分もよくないしな」
「泥人形を斬ることに心を痛める必要はない」
 マッダラーが立ち上がり、とれた腕を拾いあげてくっつけ直す。多少のダメージは自己再生できるのが彼の強みである。もっといえば、ダメージを多く受けていたほうが攻撃に勢いが乗るので助かるくらいだ。
「そんなこと言ってる間に、おかわりが来たぜ」
 振り返ると左右からサン・ルブトーの群れがそれぞれ駆け寄ってくる。
 合流されると厄介だ。右を零が、そして左側をトールが担当することにした。
 二人は背を合わせ、そんな二人をかばえるようにマッダラーが構える。
「輝剣――『プリンセス・シンデレラ』!」
 トールは柄だけの剣を取り出すと、力を込めて振り抜いた。
「そこは、私の間合いです!」
 駆け寄り今にもとびかかろうとするサン・ルブトーの集団。対して、燃え上がる炎のごとく伸びたオーロラ状の刀身が右から左になぎ払うように放たれた。
 数体のサン・ルブトーがまとめて切り裂かれ、ずるりと地面に転がる。なんとか致命傷をさけたサン・ルブトーも怒りに目をギラつかせトールへと飛びかかる。
 喉元を狙って牙をむき出しにしたその突撃はしかし、鋭く繰り出した突きによって阻まれる。
 通常の剣では考えられない3mの長さまで延長されたオーロラ刀身がサン・ルブトーを貫いたのである。
 フウと息をつくトール。一息ついてから、仲間達へと呼びかける。
「外のモンスターは殲滅しました。合流してください!」
 そして、ついにイレギュラーズたちはラーガのアジト屋内へと突入するのであった。

●迷宮には必ず道がある
 屋内への突入に際して戦力を分散する必要があった。
 その初めに存在したのが、無理矢理に作り出された晶人(プレヌ・リュンヌ)、セラスティアである。
「俺と咲耶でここに残る。あとは全員先へ行け」
 石の棺を見つけたところで、マッダラーが身構えてそう言った。
 開く棺から現れたのはこれまで戦ってきた晶獣とは比べものにならないほどのプレッシャーを放つ、美しい人型の結晶。両目にあたる部分がばきりと音をたてて開き、真っ赤な光が線になって放たれる。
「!?」
 マッダラーは咄嗟に仲間をかばうように前へ出ると光線を受け止めた。
「早く! ここで足止めを食えば吸血鬼たちが集まってくるぞ! 連携されればこちらが負ける! そうでなくても捕まってる幻想種たちに何をされるかわからない!」
「承知。ここは任されたでござるよ」
 咲耶は絡繰手甲の両腕からブレードを展開させるとセラスティアへと斬りかかった。
 結晶でできた両腕から伸びたブレードがその両方を受け止め、ギィンという奇妙な金属音のあとに咲耶の目にもとまらぬ連撃とセラスティアの連撃が大量の火花を作りながらぶつかり合う。
「付き合うわ。二人だけじゃ荷が重そう」
 ジャテーフトがライフルを構え、クスンバがなら俺もと二丁拳銃を突きつける。
 彼らの援護射撃を受けながら、咲耶は攻め方を変えることにした。
「高い防御力と反射神経。生半可な攻撃では傷を付けられない。なら……一発一発のために隙を作って」
 ギャッと地面を蹴って飛び出すセラスティアに反応し、マッダラーが至近距離で掴みかかる。ジャテーフトとクスンバの援護射撃が火花を散らし、そうした三人によって僅かな隙が生まれた。咲耶がセラスティアの背後へと回り込んだのである。
「そこ――!」
 絡繰手甲から伸びたブレードがセラスティアの背から伸びた棘のような結晶を切り落とす。

「情報じゃこの先にいるのはヴァレクシオンとイリシオン。どちらもヤベエ吸血鬼だ。二手に分かれて押さえ込まなきゃならねえ」
 マラティーの言葉にニランジャナが頷き、それぞれ二手に分かれようとする。が、
「まって、オイラも行くよ! 吸血鬼相手に一人じゃ流石に勝てない!」
 チャロロがマラティーの後に続き、マリエッタもそれに伴う。
「三人居れば、最悪勝てずとも足止めにはなるかと」
 恐ろしいのはどこかが落とされて各個撃破されることだ。最悪そこさえ防げれば今回の作戦は成功できる目があるのである。
「ったく、了解だ。パドラたちを先に行かせてやろうぜ!」
 マラティーが扉を蹴破り、チャロロが剣を、マリエッタが血でできた鎌をそれぞれ構える。
「おおっと、3対1か? 手加減してくれよ、こまっちゃうなあホント」
 両手を挙げてこたえたのは部屋の中央に立つ一人の男。赤いテーラードスーツに丸眼鏡型のサングラス。キザな雰囲気を放つ彼こそ、情報にあった吸血鬼のヴァレクシオンだ。
 彼は何も持っていない手を顔の位置まであげると、口元だけでにこりと笑ってぱたぱた手を振った。
「ほら見て。俺は手ぶらで一人。そっちは三人で完全武装。ちょっとは手加減しようって気にならない?」
「冗談でしょう」
 マリエッタが失笑すると、その瞬間に部屋の周囲からばしゃんと一斉に血が吹き上がった。人間一人分の血とは思えない。それが『誰から』とったものなのかを想像して、部屋の隅でぐったりと壁により掛かる幻想種の女達に目が行った。彼女たちは顔を青くし、腕からはだくだくと血を流してる。
「テメェ!」
「この人達の血を奪って使ったのか!」
 許せない! と吠えるマラティーとチャロロ。真っ先に飛びかかったマラティーだが、四方八方から襲いかかる血の槍が彼の腕や脚を貫き首へと血の鞭が巻き付いていく。
「ぐが!?」
「マラティー!」
 チャロロは素早く剣を振り血の槍や鞭を切り落とすと、彼らをかばうように前に出た。
「おっと勇敢」
 チャロロに血の槍を集中させようとした、その時。
 マリエッタが豪快にヴァレクシオンへと斬りかかった。
 血の壁を作り出し防御するヴァレクシオン。ガギンと壁を半分まで切り裂いて微笑むマリエッタ。
「あら、戦い方は同類かもしれませんね?」
「ご同業? 違えっぽいが……そのうち一緒になるだろ。仲良くしない?」
 頬の烙印を指さしで示すヴァレクシオンに、マリエッタはお断りですと微笑み返す。
「烙印。私にも刻まれたこれは、肉体よりも、もっと内側。精霊達のような、魂とでもいうような、精神的な部分に強く関与する可能性がある。違いますか?」
「確かめたければ俺たちの儀式を手伝うのはどう? 進行しきれば理解もできるはずだよ」
「それもお断りします」
 マリエッタから血の鎖が飛び出し、ヴァレクシオンからも同じように血の鎖が飛び出す。
 それらは編み上がり大蛇を形作り、互いを喰らいあい相殺する。
 が、相殺できていたのはそこまでだ。
 割り込んだチャロロが機煌重盾によるシールドバッシュでヴァレクシオンへと突進をしかける。
 咄嗟にそれを防ごうと全ての攻撃を集中させるヴァレクシオンだが、チャロロの頑強さを貫くことはしかしできなかったようだ。
「こいつ、堅っ!」
 なんとか一発の槍がチャロロの盾を削り彼のボディに突き刺さるも、それで成したのは『チャロロを止める』というただ一点のみ。
 マリエッタとマラティーの斬撃が、ヴァレクシオンをついには切り裂いたのだった。

 マリエッタたちがヴァレクシオンとの決着をつけつつある頃。
 マッダラーはセラスティアと互いを『破壊』しあっていた。
 泥のようにみるみる破壊されるマッダラーの身体。しかしその身体はすぐに再生し、セラスティアは困惑する様子を見せている。
(俺の戦法にまだ気付いていない? いや、時間の問題だな。ほら見ろ、戦い方を変え始めた)
 マッダラーはセラスティアが腕を剣のように変え、そこに紅い光を宿したことに気付いた。この光は自分を殺し得ると確信したマッダラーは全力で防御にかかる。というより――。
「!?」
「終わらない悪夢は、泥人形が終わらせる。涙を流すことすらできないなら、お前さんの痛みを全て俺が受け止めよう」
 マッダラーの腹を貫いた剣は確かに彼を殺し――かけた。しかしそこまでだ。マッダラーはその腕を押さえ込み、鋭く『咲耶』と叫ぶ。
「承知!」
 マッダラーが押さえつけているその間に、咲耶の手甲は鎖鎌モードへ変形。クスンバたちの援護射撃をうけながら放たれたそれはセラスティアの腕や身体にぐるぐると巻き付き、ついでにマッダラーと離れられないようにしてしまった。
「お主もまた被害者でござろうが本人の意志なき体にもはや未練はあるまい。その呪われた体から魂を解放して差し上げる」
 咲耶が急速に鎖を絡繰のリールで巻き取りながら接近。ブレードがセラスティアの首を切り落とす。
 そして、棺の裏にぐったりと眠った幻想種たちの姿を発見しほっと息をついたのだった。
「晶人と化した者は残念でござるがまだ救える命があって良かった。あの様な思いは二度とごめんでござる」

 ラーガを追い詰めつつあるその手前の部屋では、吸血鬼イリシオンが待ち構えていた。
「初めましてだなイリシオン。俺は零……まぁ出会ってそうそうだがぶっ倒しに来たぜ」
「ごきげんよう、レディ。私も君を殺しに来た狼だ。よろしくね」
 零は剣を抜き、リーディアはライフルを構える。
 対するイリシオンは黙ったまま周囲に幻影を展開した。
「私はこんなところで終わりたくないの……カナタくんを取り戻さなくちゃ……」
 一瞬にして周囲の風景が広く澄んだ湖畔にかわった。
 空に浮かぶ満月が水面に映り、虫の鳴き声がどこかから聞こえてくる。中央に突如咲いた巨大な蓮の花が開き、中からイリシオンが姿を見せる。
「これは……」
「惑わされないで。幻影だよ」
「ああ、わかってる……ここまでマジに使ってくる敵はそうそういないけどな」
 イリシオンは幻影の剣を手に取り、斬りかかる。素早く前に出て湖畔ギリギリのところで剣を翳し受け流そう――とした零の眼前でイリシオンはかき消え、透明な刃が彼の腹を切り裂いた。
「ぐお!?」
 ももわずよろめき転倒する。転倒した場所は湖面の上だった。感触は石の床。見た目は湖面。混乱しそうになる頭をすぐに切り替え、零は用意していたアクアヴィタエを使って状態を立て直した。
「『目』に頼ってちゃ殺される。なら――」
 零は目を瞑り、刀をゆっくりと正眼に構えた。
 僅かに動く気配がある。においだ。おとだ。あるいは彼がこの世界で培ってきた直感だ。
 くるりと反転した零は振り込んだ剣でイリシオンの幻影の剣をしっかりと受け止めて見せた。
「『見えた』ぜ」
「――ッ」
 そしておきる一瞬の火花。リーディアはそれを見逃さない。
 ピボットターンと腰のひねりで素早く狙いをつけるとイリシオンがいるであろう場所へ向けて即座に発砲した。
 いや、一発限りの発砲ではない。反動を無理矢理筋力で殺すと、連射によってイリシオンを吹き飛ばす。
 そして足元に落としておいたアタッシャケースを脚で蹴って弾を跳ね上げさせると、それをキャッチして高速リロード。
「君には悪いが、殺させて貰う。そういう約束だったんだ」
 リーディアの更なる連射が透明な存在に命中し、イリシオンの幻影がついには解ける。ガシャンと窓を破壊して野外へ飛び出すイリシオンが、地面を転がった。
 追撃をしかけようとするリーディアだが、しかし油断することはない。飛び出していったイリシオンを無策に追いかけるほど、敵の狡猾さを甘くみてなどいないのだ。
「二人とも、ここは私達が」
「相手の手の内は知っています。任せてください」
 そう言って飛び出したのは妙見子とトールだった。
「哀れな湖の乙女よ、私たちのような人ならざるものがこの世界の人々に恋をするのが間違っているのです。それでも諦められない気持ちは痛いほどわかります、私もそうですから」
 窓から外へと飛び出し、妙見子はイリシオンへと注意を向ける。
 起き上がったイリシオンは泥のついた頬を拭ってこちらを睨んでいた。
「あなたには分からない。チャンスを貰った人の気持ちが。ううん、教えてあげようとしたのに、抗ったの」
「このことですか……」
 妙見子は自らの胸に手を当てた。櫻模様の美しい烙印は、確かに彼女を変異させつつある。トールの膝に刻まれた烙印もそうだ。
「あなたは利用されたのです。人に害をもたらす者になってしまった――お前に人を想う資格なんてないんですよ!」
 妙見子が叫ぶ――と同時に、トールが斬りかかる。幻影の刃を延長させ切り払うイリシオンだが、切り裂かれたトールは大量の薔薇の花びらになって散ってしまった。
「これは――!」
 自分の使った手だ。まさか。そうイリシオンが気付いた時にはもう遅い。
 ざくりとイリシオンの背後から伸びたオーロラの剣が、彼女の腹を貫いた。蓮の花びらが血の代わりに散り、イリシオンが憎々しげに振り返る。
「貴女はその恋心を月の女王に利用されているだけだ! 心に巣食う欲と思惑で膨れ上がった幻影を貴女自身の力で振り払えないのなら――貴女の真心と尊厳、カナタさんへの純真な想いを護る為。吸血鬼イリシオンはここで討つ!!」
「違う! 女王様は分かってくれる!」
 素早く剣を引き抜き飛び退いたトール。イリシオンの幻影の剣とトールのオーロラの剣が再びぶつかり合い幻影の花火をいくつも咲かせる。
 だが、今回はトールの方に分があった。零やリーディアが与えていたダメージが蓄積し、更には妙見子のくれたバフ効果と幻影への支援も相まってイリシオンの優位に立っていたのだ。
 それは打ち合いの末の一撃が証明した。
「――ッ」
 パキンと幻影の剣が破壊され、イリシオンの首筋に激しい傷が走る。
 はらはらと舞い散る蓮の花びら。イリシオンはそれを抑え。
「カナタ……くん……」
 崩れてゆく。

「へえ? ここまで来たのはお前らだけか? いいのかねェ~? 他の連中、死んでるかもしれねえぜ?」
 扉を蹴破り銃を突きつけたパドラ。その左右から飛び出すように構えるシキと鏡禍。
 対する形でラーガは黄金の銃を抜き、にやりと笑って見せた。
 が、その笑顔もすぐに曇った。
「チッ、鏡野郎がいやがる」
 鏡禍の存在に舌打ちしたのである。前回ラーガの攻撃を防ぎきれなかったと鏡禍自身は思っていたが、ラーガからすれば殺したつもりがピンピンしていた恐るべき相手なのである。今鏡禍たちが防御に徹して時間稼ぎをしてしまえば、じり貧で自分の立場が危うくなる。
 ラーガは瞬時にそこまで考え――。
「ラーガ、君はしばらく私たちと遊んでもらうよ!」
「馬鹿野郎が! 誰がテメェらと遊んでやるかよ!」
 きびすを返して即時逃げ出したのである。
 パドラとシキ、そして鏡禍の間で視線が交わされる。今回ラーガを倒す必要はない。が、『自由にさせる』のは厄介だ。別の戦場に割り込んで各個撃破を狙われればそれこそ目が当てられない。
「追うよ!」
「わかった!」
 窓を突き破り外へと飛び出したラーガを追いかける形でシキと鏡禍が野外へと飛び出す。
 が、それを迎え撃つようにスタンバイしていた狼型の晶獣がシキへと食らいつく。
「させません!」
 飛びかかった晶獣はしかし、鏡禍のはった結界によって阻まれる。
 即座に連携したシキがガンブレードを起動。刀身をバチバチと紫電が走り、晶獣を一太刀で両断してしまう。
「もう君の捕まえた幻想種たちは救出されて、他の吸血鬼たちは倒される。
 凌いでいるうちに、仲間の足音が聞こえてくる――ほら。もう逃げたほうがいいんじゃない?」
「チッ――!」
 大きく舌打ちをしたラーガは晶獣たちだけを残し、その場から逃げ出していく。
 そんな中で、パドラは銃のリロードをしながら振り返った。
「シキ、鏡禍。頼みがあるの。私にこのままラーガを追わせて。もうじきハウザーも合流するはず。うまくすれば捕まえられるかも。
 二人は仲間と合流して彼女たちを――」
 その言葉と共に建物のそばを指さすパドラ。シキと鏡禍が見ると、そこには捕らわれたとおぼしき幻想種たちがぐったりとした様子で座り込んでいた。そばに置いてあるのは紅血晶。放置しておけば彼女たちがモンスターになってしまうかもしれない。運び出すにも人手がいるだろう。
「わかった。けど気をつけて」
 シキが拳をつくって突き出すと、パドラはそれにコツンと合わせてから頷いた。
「大丈夫。仇討ちのためだからって無茶はしないよ」

成否

成功

MVP

トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

状態異常

なし

あとがき

 ラーガのアジトにて捕らえられていた幻想種たちを解放し、イシリオンたち吸血鬼を撃破または退散させました。
 そしてついにラーガへと迫るパドラ。この続きはTOPにて公開されます。

PAGETOPPAGEBOTTOM