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シナリオ詳細

<ラドンの罪域>人の可能性を!

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ザビアボロスという一族
『ヒトが『ラドネスチタ』の地へと向かったそうだな』
 ピュニシオンの森の奥深く。怨毒の漂うその地にて、『ザビアボロス』はそう声を上げた。
 例えるならば、石造りの神殿とでも言うべき場所。半ば朽ちたそのエリアは、『ザビアボロス』という一族が代々支配する地であり、怨毒みつる地であるがゆえに、その眷属でもなければ、竜ですら立ち入らぬ危険地帯でもある。
 ザビアボロス、とは『一族の名』である。今声を上げた『ザビアボロス』は『先代』に当たり、当主の座を今代、つまり『ザビーネ=ザビアボロス』と名乗る個体に譲ってなお、それを凌駕せんほどの強力な力と威圧感を秘めていた。
『愚かなものだ。ラドネスチタの黒霧は、我らの毒に勝るとも劣らぬ力。ヒトなどがどれだけ集ろうとも無益だというのに』
「おっしゃる通りに――」
 女が頭をたれた。厳密に言うならば、女の姿を撮った竜である。ザビーネ=ザビアボロス。つまり今代のザビアボロスだ。
『よもや貴様、何か手を出そうとは考えてはいまいな』
 ぴしゃり、と先代が言い放つ。ザビーネは静かにうなづいた。
「まさか。我々が手を出さずとも、ラドネスチタの力だけで充分人は阻めるでしょう」
『――やはり。貴様、何か思い違いをしているな』
 わずかに、怒気がこもる。
『阻める、等と遜るな。そも、ヒト如きが竜に挑戦することが不遜である。
 阻める、だと? 我々がヒト如きの動きに『応じる』必要はない。ただそこにあるだけで、ヒトなどは踏みつぶせよう』
「お言葉を」
 ザビーネが深く頭を下げた。
「誤りました。申し訳ございません」
『……まぁ、よい』
 先代が、静かに息を吐いた。
『貴様はまだ若い。ゆえに、竜としての矜持もまだ未熟かもしれぬ。
 だが、竜という存在の意義を忘れらるな。我らこそ、すべての生命の頂点に立つものであるぞ』
「重々に――」
 ザビーネが、深くうなづいた――。

 とは、いうものの、とザビーネは思う。先代の間より去り、その毒の威光がわずかに離れし場所。籐椅子に腰かけながら、ザビーネは嘆息した。
 本当に、大丈夫なのか。
 それは、竜にはあり得ぬ『不安』ないしは『期待』である。竜が、『ヒト』に何らかの可能性を見出すわけがない。その必要はない。竜とはすなわち、『すべてを超越した存在』なのだ。そこに『ヒト』が含まれることももちろんであり、竜にとってヒトとは、歯牙にもかけぬような存在でしかない。
「ですが……アウラスカルトは離反し、事実私たちは二度の『撤退』を余儀なくされた……」
 その言葉を、ほかの竜は認めぬだろう。また、クリスタラードのアルティマも手痛いダメージを負ったと聞く。となれば、『何か、不安のようなもの』を、その若き竜が抱いたとしても不思議ではあるまい。
 とはいえ、これもまだ『竜の傲慢さ』の上に成り立つ不安であった。人間基準で例えるならば、例えば『屋根裏で物音がする。アライグマでも入り込んだかな』といったものである。この場合、人間はアライグマを『対等の脅威』とは認めまい。本気を出せば容易に蹴散らせる、ただ生活圏に入り込んだ害獣にすぎない。ザビーネの『不安』というかそういったものは、人間が『害獣』に抱くものと同等であるといえた。『害虫』から『害獣』にランクアップしたのは喜ぶべきであろうか。なんともいえぬがさておき。
「……いますね? ムラデン」
 ザビーネが静かにそう声を上げるのに、燃えるような赤髪の少年が現れた。
「はいはい、おります、おひいさま」
 調子よさげにそういう少年=ムラデン。とはいえ、彼は見た目通りの『少年』ではない。背の翼やしっぽなどは、『亜竜種』の特徴を有していたが、このような地に亜竜種が入り込めるはずがない。つまり彼もまた『竜種』であり、特に将星種『レグルス』に属する強力な竜であることは明白であった。
「昨今の事情を知っていますか? 『ラドネスチタ』の地へ人が赴いたと」
「あー、無謀ですね。あんな危険なところ、僕でも近寄りませんよ」
「そうですか? いつぞや、あのあたりの果実を献上いただきましたが?」
「そうでしたかね? 忘れました!」
 けらけらと笑う。
「ですから、あんなところに人が入り込んだところで、全滅して終わりでしょう。何かをお考えで?」
「……奴らはしょせん羽虫にすぎませんが」
 ザビーネが言う。
「どうにも、見落としがないか、と」
「おひいさま、それは疲れておられるのでしょう。ヒトの地、練達と深緑、でしたか? あのような場所に遊びに行っては」
 ムラデンが笑った。
「ですが、おひいさまの心配もごもっとも。
 というわけで、不詳ムラデン、害獣駆除に行ってまいります!」
 ぴっ、とムラデンが敬礼をして見せた。そのまま、音もなく姿を消す。
 ザビーネはそれを見ながら、深く嘆息した。

●可能性を剣に
「うーん、すごいところだねぇ」
 ソア(p3p007025)が思わず声を上げた。
 ピュニシオンの森の出口付近。『ラドンの罪域』と呼ばれるエリアは、うっそうと生い茂る木々と、奇妙な黒い霧に覆われた地であった。
 必然、どこか面妖な雰囲気が漂う。そして、そのピリピリとした緊張感は、イレギュラーズたちの心を固く苛むものでもある。
「実際、どこから敵が出てくるかもわからないでありますからね」
 ムサシ・セルブライト(p3p010126)がそういった。その緊張は、前述のとおり、仲間たちも同じくするものである。
「でも、ここを突破して、先に進まないとなんだよね?」
 ソアがそういうのへ、ムサシはうなづいた。
「ええ。『ヘスペリデス』。そこに到達しなければならないのであります」
「へぇ、ヘスペリデスに行きたいんだ。無謀だからやめておけばいいのに――」
 ムサシが声を上げた刹那、仲間たちのものではない、少年のような声が上がった。一斉に、仲間たちは身構える。声は少年のそれであったが、しかしまとう空気は明らかに、ヒトのそれではなかったがゆえに。
「あ、驚かせちゃった? ごめんごめん。急に僕らが出てきたらびっくりするよね。わかるよ」
 ぴょん、と枝より飛び降りてきたのは、赤髪の少年だった。見た目は、亜竜種に近い。だが、彼はそうではないことを、皆は本能的に察していた。
 つまり、彼は竜だ。それも、ヒトの姿をとれる竜。
「将星種『レグルス』――!」
 声を上げるムサシに、少年は「ぴんぽん!」と笑った。
「いかにもいかにも、レグルス・ムラデン。ザビーネおひいさまの心配事を解消するために、害獣退治に参りました!」
「ザビーネ? ザビアボロスの眷属!?」
 ソアが声を上げるのへ、ムラデンはうなづく。
「いかにもいかにも。というわけで、死にたくなかったらしっぽをまいて帰るんだね!
 まさか君たちに、ヒトの可能性、なんてのがあるわけ――ないだろう?」
 ぱちん、とムラデンがその指を鳴らすと、空から五匹の亜竜が舞い降りた。骸骨のような、漆黒の亜竜である――!
「ここで、そうですか、と変えるわけにはいかないのでありますよ……!」
 ムサシが構えるのへ、仲間たちも武器を構えた。
「そうだね。ボクたちの可能性、見せてあげるよ!」
 ソアが不敵に笑う。かくして、罪域の地で、竜との戦いが始まろうとしていた――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ザビアボロスの眷属たちを撃退します。

●排他制限
 こちらのシナリオは、『<ラドンの罪域> 竜の威光を!』と同時に参加することができません。
 予めご確認の上ご参加ください。

●成功条件
 すべてのレプタル=グラノスを撃破し、レグルス・ムラデンを『撃退』する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●状況
 ラドンの罪域。ピュニシオンの森出口付近を、皆さんは探索しています。理由はもちろん、ピュニシオンの森の踏破の為です。
 しかし、ここで竜側からもアプローチがありました。ザビアボロスの眷属を名乗るレグルス・ムラデンという少年が現れたのです。
 少年と言えど、将星種『レグルス』を冠する竜。撃破は無理でしょう。ただ、相手はどうにも『慢心している』竜のようです。予想外の反撃を受ければ撤退する可能性は十分にあります。
 ですので、ここは全力で迎撃し、道をこじ開けてやりましょう。
 作戦決行タイミングは昼。ただ、周囲は薄暗く、黒い霧がかかっています。視界を確保できるようにした方がいいかもしれません。

●エネミーデータ
 亜竜・レプタル=グラノス ×5
  ザビアボロス一族の眷属である亜竜です。一見するとアンデッド竜のようにも見える、骸骨のような外見をしています。
  レプタル=グラノスは後衛を担当する強力な神秘アタッカーになります。
  強烈なポイズン・ブレス、竜言語魔法ほどではありませんが、炎や雷、氷などを絡めた強力な術式を得手としています。
  半面、耐久面は些か脆いです。ムラデンが前衛を張り、その隙に後ろから一斉攻撃を仕掛けてくるという戦法をとります。うまく誘導したり、一気に距離を詰めて、最大火力で一体ずつ倒してやるといいでしょう。

 将星種『レグルス』・ムラデン ×1
  人の可能性を探る用に現れたレグルス級ドラゴンです。見た目は幼い少年で、元気いっぱいで生意気な少年……といった感じですが、その見た目に反するほどの強烈な力を持っていることは、皆さんにも分っているはずです。。
  何せ純粋な『竜』ですので、『撃破は無理』です。特に、強力な亜竜とセットですので、今回は『追い払う』ことを考えてください。
  どうも、こちらを探っている様子を見せているため、ある程度力を見せてやれば撤退する可能性があります。
  タイプとしては、前衛アタッカーになります。攻撃を自分に引き寄せ、レプタル=グラノスの援護攻撃を受けつつ暴れまわる。そういったイメージです。
  ザビアボロスの眷属ですが、あんまりからめ手は使ってきません。代わりに、炎をメインとした格闘術や、自己バフの竜言語魔法などを使います。属する場所を間違えたのでは? と思わせるほどに前衛キャラです。
  弱点としては、HPはやや少なめなところ。そして、『渾身』に依存しているため、息切れをすると少々脆いところでしょうか。HPが減れば撤退しますので、速やかに最大火力で倒してやるといいかもしれません。ヒトの可能性を見せてやってください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <ラドンの罪域>人の可能性を!完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月25日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

リプレイ

●赤のレグルス
 見た目通りならば。それは幼き少年にすぎない。
 焔のような赤の髪と、それに準ずる赤の鱗。翼としっぽは、まるで亜竜種のそれのようであるが、しかしこの姿は彼の竜が気まぐれにとった姿にすぎない。
 竜――そうだ、彼の少年のは、竜だ。将星種『レグルス』。ヒトの姿をとれる、上位の竜。いわば、その小さな体に、竜の力を凝縮した存在であるといえる。
「さぁさぁ、どうするかな?」
 にっこり、と少年――レグルス・ムラデンは笑う。
 その眼は、確かにこちらに興味を抱いているように見えた。だが、それは対等なものへの興味ではない。悪い例え方をするならば、吊るしたバナナの前にいるサルに棒を与えて、これで取れるかな? と笑いなら見ているような。
「……すこしばかり委縮した例えを思いついてしまったわね」
 そう、独り言ちる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。とはいえ、目の前の怪物が、生物としてワンランク上にいる存在なのは間違いない。それが、何か生物として本能的な畏怖を感じたが故の、たとえだったか。
「ま、謙虚な感想、ってことで飲み込みましょう」
 苦笑する。
「ヒトの可能性、ね。実際の所、私も気になってるのよ。
 あるのか、無いのか。あるいは、もがき、前へと進もうとする――そうね、勇気みたいなものが、それをもたらすのか。
 どう思う?」
 たずねるイーリンへ、ムラデンは笑った。
「いやぁ、無いよねぇ」
 にっこりと、無邪気に。
「例えば――うーん。足下にいたありんこに、『私たちやる気があります!』って言われて、あなた達ってそれを信じるタイプ?」
 挑発――いや、本心であるのだろう。それほどまでに、彼らの認識とは、超越種、なのである。
 傲慢であるともいえたが、しかしその傲慢さを享受するだけの資格は持っているともいえる。
 怪物なのだ。彼らは。
「だとしても、でありますよ」
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が、声を上げた。
「自分たちの可能性を、無いなんて言わせない。自分たちがアリ? 結構。
 なら、そのアリのプライド、見せてやるであります」
「正直、昔の妙見子でしたら、その言葉、頷いたかもしれません。
 かつての世界では、すべてを傾かせ、破壊する。そういうものでしたから」
 『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)の言葉に、ムラデンは、「へぇ」と声を上げた。
「異界のかみさまってやつだね。旅人さんだ。
 だったら、解るんじゃないかな。こういうの」
「ええ、ええ、確かに。
 ですが、ようやく同じ目線になれたから……神と人が共に歩む、その選択肢を取ることができたのです。
 私も人の可能性というものに、賭けてみたくなった……いいえ。
 人の可能性を後押しできる……人と共に歩む神になりたいと願ったのです!」
「ふむふむ? なるほど? 同じ目線か。それは考えたこともなかった」
 にこにこと笑う、ムラデン。『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が、その赤き眼を真っすぐにぶつけた。
「種族の差も力の差も解ってるが、それでも諦めないから手繰り寄せられるんだよ。貴方達が見ようともしない可能性をね。
 目を逸らすくせに俺達の可能性を見た気になってるなら、改めて示すまで!
 ザビアボロスさんは視野を広げたようだが、貴方はどうだ?」
「それってどっちの……ああ、おひいさまの方だよね。先代様と遭遇したのだったら、間違いなく生きては帰していないだろうし」
 ムラデンが頷く。
「おひいさまは――ほら、生態系の移り変わりを見ていました、とか言って10年くらい一か所で観察したりしてる方だから。研究熱心だよね。
 そう、おひいさまは研究熱心なんだよ。……ほんとは、死神なんてやるタイプじゃないんだけどな」
 ま、それはさておき、とムラデンは手を叩いた。
「その、皆の頑張りっていうの? 見せてくれるなら、僕としてもお土産話にはなるっていうか。
 こういうときなんて言うのかな……楽しませてくれよ、かなぁ?」
「そうかい。ザビアボロスの側近がわざわざそういってくれるとは、光栄だな」
 『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が、喜びを隠そうともせずに、そう、笑ってみせる。
「竜と戦って、認めさせる。ガキの頃からの夢だった。
 ま、こんなに次から次へと戦うことになるとは思わなかったが、それはそれ。
 夢だけで生きていけるほどガキでもねぇが、諦められるほどオトナでもねぇ。
 ましてや、楽しませてくれよ、なんて言われたらな」
 普段は片手で振るう刃を、今は両手で握っていた。渾身、全身全霊、その合図だ。
「楽しませてやるよ――ムラデン。ザビアボロスへの土産話も、たっぷりと持たせてやる」
「俺個人としては、人の可能性とやらに興味はない」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が続ける。
「やれることを出来る限りしぶとくやって、次に繋げられる様足掻くだけなもんでな。
 それを可能性だとかなんだとか呼ぶならば、好きにすればいいさ。
 俺は傭兵。ただ、今日も問題なく生き延びる。そういうものだ」
 そう。もしこの竜に可能性を見せるのだとしたら、今この場で生き残ってやることだった。
 強力な亜竜が5。そして、竜種が1。常識的に考えれば、これは死の遭遇で間違いがなかった。
 死ぬ。決して、生き残れる可能性など存在しない、絶対的な死。それは、ネズミがライオンの群れに囲まれると同義。
 だが、その状況下において、もしもネズミがライオンに一矢報いることができるのであれば――。
 それはすなわち、人の可能性たると言えようか。
「……まったく、ヒトの可能性、なんてのがあるわけ――ない?
 生まれついてのスペックに胡坐をかきすぎて脳みそ筋肉じゃないかなこの駄蜥蜴。
 ボク達がこの地に立っている……それ自体が可能性を示し続けてきた証左だろうに……」
 『灼極光』ラムダ・アイリス(p3p008609)がそういってみせる。頂上たる怪物。竜へとむけて。
「やれやれだね? 見えない認められないのなら魅せてあげようか……駄・蜥・蜴?」
 わかりやすい挑発ではあり、それに竜が乗ってくるとは思えない。まぁ、これは宣戦布告のようなものだった。やっつけてやるぜ、という意思表示だ。それが、子供の遠吠えのようなものに受け取られていたのだとしても。
「なるほど、なるほど!」
 けたけたとムラデンが笑う。
「うん、うん。その意気やよし――っていうのかな? じゃあ、見せてもらおうかな――君たちが、どこまでやれるかを」
 竜は構えない。構えとは、対応するということだ。竜は対応しない。当然のことだ。目の前の矮小なる生命相手に、身構えるなどということを、竜は決してしない。
「……確かに、強いわね。相対するだけでもわかる……肌がピリピリするくらいの、畏怖」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が、身構えながらそう言った。プレッシャー、とでも言うべきか。恐るべき相手と相対した……いや、相手、とするのも生ぬるい。目の前にいるのは、絶対的な捕食者――加えて、その捕食者は、こちらを食らおうとしているわけでもなく、ただ弄ぶことが可能であるという、本能的な恐怖ともいえるか。
「しかし、わかっていても外見と実力は一致しないものねぇ。
 ……ヒトの可能性、なんていうけれど。そもそもこの世界には無数の可能性があるのだから、それを示すくらいは頑張りたいものねぇ」
 ヴァイスが言った。ヒトの……いや、可能性の具現が、イレギュラーズともいえる。ならばそれを示す義務と覚悟が、自分たちには必要なはずだった。ほかのだれでもなく、自分たちが見せなければならないのだ。可能性を。どんな困難にも打ち勝てるという可能性を! 世界を救えるのだという可能性を!
「多くは言わないよ。ボクは強い、トラだから。竜だって、やっつけちゃうくらいに」
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)はそういった。それだけでいい。可能性とか、そういうのを語るようなのは自分らしくない。
 自分は、強い生き物だ。それは、竜が相手だって、変わらないはずだ。
 ボクの爪はすべてを裂く。ボクの足はすべてを踏みつける。これまではそうだった。これからも変わらない。
「見せてあげる。ボクたちの、強さを! 改めて!」
 ぐうる、とソアは唸った。『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)もまた、『深紅の月』をその手に構え、
「絶対・完全なんてない。例外のない法則はない。
 人が……ローレットの皆が今までどれだけ強大な力に抗ってきたか。
 私達の力が小さな螳螂の斧だとしても、それで竜をよろめかせる事が出来るって事を見せてあげる!」
 そう、宣言する。宣言だ。必ず、一本取ってやるという、宣言。
 勝てない、だろう。倒すことはできないだろう。だが、退けてやる。この場を、人間の足で、踏破して見せる。そのためなら、竜すら退けて見せよう、という、宣言。ヒトの可能性を見せつけて見せようという、それは生きる意志を持つ者の意地に間違いない!
「じゃあ、始めようか」
 ぱん、とムラデンが手を叩いた。それを合図に、後方に控える5匹の亜竜は、ぶすり、と毒のと息を吐いて見せた。
「このものの名はレプタル=グラノス。
 魔法とかブレスに特化した遠距離の亜竜で、ザビアボロスの一族の使役する眷属の中でも、結構強い方だよ」
 ムラデンは、楽しげに笑ってみせた。
「で、僕は前に出るほう。僕が前に出て戦って、グラノスたちが後方から攻撃。
 人でいう所の、戦術、っていうんだろう? 真似してみたんだ」
「オーソドックスな奴ね」
 イーリンが笑う。
「教えてくれたのは、サービスのつもり?」
「半分はそう。もう半分は、遊びのつもり」
「驕りとかそういうのじゃないんでしょうねぇ、私も昔はそうでしたからわかりますとも」
 妙見子が苦笑する。
「ですが――今は、使える情報は何でも使いましょう。さ、イーリン様、いつものやつを」
 そういうのへ、イーリンが一瞬、目を丸くして、こほん、と咳払い。
「……求められると気持ち悪いわね。ま、いいわ。始めましょう。
 『神がそれを望まれる』」
「ならば、私がその証明を果たしましょう、なんたって妙見子ちゃん神様なので!」
 思いはいずれにあれど。
 その言葉を合図に、戦いは始まった。
 一瞬先のこともわからない。
 まるで何も想像も予測もできない、死地のただ中へ。
 突入する!

●竜と戦う
「ムサシ、先に行きなさい! あなたの速度なら肉薄できるはず!」
 イーリンが叫ぶのへ、ムサシはうなづいた。レーザー・ブレードをその片手に、一気に突撃する!
「行くぞ、レグルス・ムラデン!」
「へぇ、なるほど、素早いね! じゃあ、それに合わせてみようか!」
 ムサシが切り込むのを、ムラデンは構えもせずに迎え撃つ! その手を振り払うと、強烈な炎が巻き起こり、ムサシのブレードを受けてめて見せたのだ!
「炎は僕の手足――ザビアボロスの眷属だけど、僕は炎竜よりでね!」
 よっ、と軽い調子で、ムラデンはその足を振るった。子供がボールをけるようなそれは、しかしムサシの腹部をとらえ、強烈な一撃をもたらす!
「ぐっ……!」
 コンバットスーツ越しに受ける、強烈な衝撃! 渾身の一撃が、ムサシの意識を刈り取らんと猛威を振るう!
「ま、だぁっ!!」
 激痛をこらえながら、刃を振るう――ムラデンは、苦も無く後転すると、その刃をよけて見せた。
「残念、こっちだよ!」
 からかうように言うそれは、子ねことじゃれる子供のようでもある。問題は、その子供の一挙手一投足は『子猫』の死に直結するところであるのだが。
「ごめん、耐えてムサシ!」
 イーリンが叫ぶ。つま弾くは銀狐の祈り。白く輝く銀の狐が、ムサシの肩に止まり、その傷をいやすようにコンと鳴いた。
「無論、まだまだであります!」
「私も参ります!」
 妙見子が巨大な鉄扇を構える。ムラデンは、ふぅん、と興味深げに笑った。
「面白いね! それが君たちの『爪』かな?」
「ええ、そして『牙』でありましょうとも!」
 妙見子が鉄扇を振るう。ばん! と響く強烈な音は、空間を、空気を、風を叩いた音である。それほどの衝撃を、しかしムラデンは涼しい顔で片手で受け止めて見せた。
「いいね。でも、竜の鱗には通らない」
「で、しょうね!」
 妙見子が苦笑する。殺すつもりで放った一撃だったが、やはりその喉元にはまだまだ届かないらしい。だが、そこまでは織り込み済み。こちらは独りで戦っているわけではない!
「こっちだ、ムラデン!」
 イズマが、夜空色の細剣を振るう。指揮棒のように――戦場を支配し、指揮する。その楽器を鳴らすのは、今。そのまなざしは、こちらに向けよと。
「遊んでみるかい――レグルス!」
「今度は君かな!」
 おどけるようにムラデンは笑い、飛び込んだ。まったくスマートな、自然な動作。戦うそれではなく、まさに無警戒に子供が飛び込んだような、そのような所作。
「まずはおためし!」
 ムラデンは、その拳に炎をまとわせ、殴りかかった。奇しくも、青と赤。二つの色がぶつかり合う。だが、強烈な竜の炎は、流麗たるイズマの蒼をおも、焼きつくさんと襲い掛かった。拳をよけても、それに付随する炎が、イズマの体をしたたかに焼いていた。
「くっ……これはそう長くは耐えられそうにないね……!」
 弱音というより、事実である。弱気になる必要はないが、しかし事実は厳然と受け止めなければならない。ムラデンは、おそらく本気ではあるまい――が、それでもなお、この場において、余裕でこちらを全滅させるほどの力は持っているだろう。
 そもそも、亜竜の眷属を引き連れたレグルスを撃破にまで持っていくことは、無謀よりの事態である。となれば、ここは竜が『まだこちらをせん滅するつもりではない』ことを念頭に、『追い返す』ことを狙うしかなかった。それは即座にイレギュラーズたち全員が理解したこの作戦の勝利条件であったし、唯一生き残り、かつ敵にこちらの存在をアピールできる『芽』でもある。
 イレギュラーズたちの作戦は、6名でムラデンを抑え、残る4名で速やかに亜竜を撃破する、である。作戦自体は間違っていまい。とりうる手としては、そのくらいしかないだろうか。
「けれど……やっぱり、竜というのは」
 さすがのヴァイスも、その美しい顔をわずかでも動揺させずにはいられまい。放つ必中のはずの一撃も、しかしムラデンは涼しい顔で、こちらの意図を理解したように受け止めて見せる。
「常識の外にいるものね……!」
 ヴァイスが、再びピンポイントの一撃を唱えた。顕現した庭園のは絶対不可侵のそれであったはずだが、しかし竜は必中の一撃をたやすくよけ、こちらに瞬く間に肉薄して見せる。
「理解できたかな――絶対的な違い、ってやつ!」
 ムラデンが、その拳で、ヴァイスを殴りつけた。子供の拳から放たれたとは思えない、強烈な激痛が、ヴァイスの体を駆け巡るのが理解できる。これでおそらく、渾身のそれではあるまい。ヴァイスは、その痛みをこらえつつ、距離をとるべく後退。
「さぁて、お次は誰かな?」
 まだ、ムラデンは遊んでいる様子であった。ヴァイスは、す、と息を吸い込み、吐きながら、庭園結界を再構築する。
「たぶん――全員でかかって、一太刀。加えられるかどうか、よ」
 ヴァイスの言葉に、イズマが頷いた。
「となると、向こうが戻ってくるまで耐え続けないと、か」
「できれば、そのうちに追い返したいところだけど」
 ラムダが苦笑する。
「……なかなか、骨が折れる相手みたいだね」
「しんどいわねぇ……っと、今日はヒーローのサイドキックだったわ。弱気は厳禁よ」
 イーリンが笑ってみせるのへ、ムサシはうなづいた。
「ええ、頼むでありますよ、相棒。
 それに、皆さんも。この場で、自分たちの力を――可能性を、見せつけてやりましょう」
 ムサシの言葉に、仲間たちはうなづく。妙見子も笑ってみせた。
「強大な敵に、力を合わせて立ち向かう――みたいなシチュ、ええ、好きですよ」
 その、力を合わせる方に自分が入ることになるとは思わなかったが――いや、それも心地よいものだ。胸中でそうつぶやきつつ。
「まいりましょう! 一世一代の、大バトル!」
 6人は果敢に向かっていく。ムラデンは、楽し気に――お礼とばかりに、『身構えて見せた』。
「じゃあ、ちょっと速度を上げようか」
 竜が笑う。

 戦いは激化する。

 一方で、5匹の亜竜との戦いも、激化の一途をたどっていた。もとより、この五匹の亜竜の目的は『ムラデンの援護』に当たる。ムラデンがそれをあてにしてるかは別として、ムラデンの遊戯である『戦術』において、彼らをその目的通りに動かさないでおくことには、実際のところ成功していた。そのため、ムラデンを抑えるチームはムラデンとの戦いに注力できていた――ここまではよい。
 轟。強烈な、毒のブレスが吹き荒れる。マカライトは、皮膚を焼くその痛みをこらえつつ、しかし最短距離を突っ込んだ。ブレスのダメージはあれど、しかし毒はマカライトには効かない。
「叩き落とすぞ――!」
 ティンダロスとともに飛ぶ。その手に現れる、三つの鎖。それは黒竜の顎を編み上げ、亜竜の骸骨のような体へとかみついた。ばぎり、と鎖の牙が亜竜の骨を食らい砕く。ぎああ、と悲鳴を上げた亜竜に、飛び込んだのはソアだ!
「任せて!」
 振るうは爪。鋭き、爪。自慢の武器を叩きつければ、亜竜の生命もその爪によって刈り取れる!
 ソアの一撃が、亜竜のうち一匹を絶命させた。ぎ、と断末魔を上げた亜竜が、地に落下する。ずん、と落ちたその影を駆け抜けて、ルカは両手にした大剣とともに跳躍!
「前座はさっさと引っ込んじまいな!」
 飛行していた亜竜の背中、背骨を叩き折る勢いで、大剣を叩きつけた! 亜竜は悲鳴をあげつつ、その身をよじる。怒りに震える瞳が、ルカをにらみつけた。
「悪いが、お前に睨まれたところで、あのムラデンって奴の足下にも及ばねぇよ」
 にぃ、と笑いながら、再びその大剣を叩きつけた。耐え切れず、亜竜が力を失い、地面に叩きつけられる。最後の抵抗とばかりに吐き出した毒のブレスを、ルビーは受け止める形でその大鎌を振るいつつ、
「二匹目!」
 と、その首を断裂せしめた。断末魔を残すことなく、二体目の亜竜がその命を散らす。
「わぁ、すごいね。良いペースじゃない?」
 イレギュラーズたちの猛攻を受けつつ、ムラデンはこちらに視線をやるほどの余裕を残しているようだった。
「よそ見するなよ、駄蜥蜴!」
 襲い掛かるラムダの斬撃を、ムラデンはその細腕で受け止めて見せた。魔術か、あるいはそういう性質なのか。まるで硬い盾のように、ムラデンの腕がラムダの刃を受け止める。
「おっと、今のはいいところ――」
「足を動かさせないであります!」
 ムサシが突撃、レーザーブレードでの斬撃を見舞う! ムラデンはそれもやすやすと受け止めつつ、
「じゃあ、せいぜい頑張りたまえよ~?」
 ひらり、と跳躍して距離をとるムラデン。むぅ、とソアがほほを膨らませた。
「余裕ぶってて!」
「実際余裕なんだろうぜ」
 ルカが油断なくあたりを見ながら、言った。亜竜からの援護は、前述したとおりに、イレギュラーズの動きによって止められている。にもかかわらず、ムラデンは六名のイレギュラーズを相手に、余裕の攻防を見せていた。
「……一進一退か。まずいな」
「調子よく、とはいかないでも、進んでるってことじゃないの?」
 ルビーが尋ねるのへ、答えたのはマカライトだ。
「普通の相手ならそれでいい。何れ向こうも息切れするのがわかるからな。
 だが、相手ははるかに格上だ。それを相手に悠長に戦っていたら、こちらが先に息切れするのは目に見えている」
「うう、確かに。ボクも狩りをするときは一気にやるからね……!」
 むむむ、とソアが言う。結局の所、『対等』では、あらゆる面で人間を凌駕する竜に分があるのだ。ほんの一時でも、一瞬でも、『上回る』ことができないのであれば、やがて息切れが見えてくる。
 となれば、全力でムラデンの相手をするべきであるが――こちらの四人は、亜竜の相手に追われていた。無論、イレギュラーズたちはいずれも一騎当千の強者であったが、しかし相手はそれをさらに凌駕する、常識の外れ値である。
「……撤退を考えておけ」
 ルカがそういうのへ、マカライトがうなづいた。傭兵である二人は、この戦いの趨勢というものを、どこか本能的に理解していた。となれば、彼らの目の前には、最低限の損害で命を拾うことを考えなければならない可能性もまた、現実的な選択肢として目の前に現れていた。
「……竜か……」
 ルビーがつぶやいた。
「遠いなぁ……!」
 あきらめたわけではないが、ルビーたちは戦士であるがゆえに、あらゆる可能性を想定しなければならない。その中に、撤退の選択肢が、現実的に表れてきたというだけだ。その『撤退』の二文字が、彼のローレット・イレギュラー渦たちの頭をかすめたこと自体が、竜という存在が異常なるものであることの証左でもあった。
「でも、最後まであきらめないよ。
 ボクの爪は、竜に届くんだから」
 ソアの言葉に、ルカもうなづいた。
「当たり前だ。やるぞ。最後までな」
 うなづく。構える。残る亜竜は、3。

●決着
「よいしょ、っと」
 涼しい顔で、ムラデンは妙見子を地面へと叩きつけた。「ぐっ……!」と短い呻きを上げた妙見子の体に強烈な衝撃が走る。
「ですが! 追い詰められてからが妙見子ちゃんの本領発揮!」
「で、ありますッ!」
 激痛に耐えながら、妙見子が、ムサシが、その刃を振るう。焔の剣。破滅の魔剣。振るわれる二振りの刃を、ムラデンは炎を現出させて、受け止めて見せた。
「盾の魔法みたいなやつも、一応使えるんだ。妹(ストイシャ)ほどじゃないけど」
「ぐ、うううっ!!」
「く、ああああっ!」
 全力を込めて振り下ろしたはずの刃が届かない。反対に、盾の生み出す強烈な熱波が、妙見子とムサシを焼くようでもあった。
「わからないな……だってほら、猫は人間にかなうなんて思わないだろう?
 いや、思ってるのかもしれないけど、それはほら、猫だからさ。
 僕は人間なんて、『そんなもの』だと思ってるけれど、竜以外の生き物の中では、言語も使えるし文明もある。
 そこそこ頭がいいんだ。そこは認めるよ。
 そのうえで――わかるでしょ? 絶対的な上位者がいるって」
 ムラデンが、その両手を振り下ろした。ずだん、と強烈な衝撃が、妙見子とムサシを地に這いつくばらせた。
「あきらめればいいじゃない。これは、かなり『甘い水』だと思うんだけどなぁ。
 絶対に、勝てないやつがいる。だから、仕方ない。
 例えば、『人間は水に浸かると溺れる』。当然でしょ? だから、『仕方ない』って諦められるよね?
 なんで竜相手だとそれをしないのか――な?」
 セリフの隙をついて飛び込んできたラムダを、しかしムラデンは刹那に視線を移すと、その拳で迎撃した。
「気づいてた……!?」
「まぁ、ね。良い隠密だよ。でも竜には届かない」
 拳で殴りつける。ラムダの体が、地面に叩きつけられて跳ねた。強烈な打撃であることが、それだけでもわかる。
「君たちは竜を傲慢というかもしれないけど、僕にしてみれば、それは人間の方だ。
 だって、上位種に勝てる、なんて思いあがっているんだ。それがこのざま。
 ……おひいさまから話を聞いて、ちょっとは期待してたんだぜ? シェームの『希望』さん?」
 少しだけがっかりした様子で、ムサシを見やる。
「くそ……!」
 動かなければ、と、イズマは体を震わせた。だが、激痛が、その指先を動かすことすら許してくれなかった。
 何度もムラデンの前に立ちはだかり、その一撃を受けた。振るった刃も、ムラデンに届いたこともあった。それは事実だ。
 だが……追い払うまでに、届かない。あまりにも遠い、距離。竜という、強大な敵の、喉元まで。
「動け……動けよ……!」
 イズマが悔しげにうめいた。体の限界などはとっくに超えていた。死に片足を突っ込んでいるのだ。
「……ここまでとはね……!」
 さすがのイーリンも、歯噛みをして見せる。ムラデンは消耗をしている。それはわかる。だが、そのうえで、まだまだこの場にいる全員を相手にできるだろう……それが理解していたがゆえに、イーリンもまた、撤退を現実的に思考し始めていた。
「貴方にしてみれば、やっぱり羽虫の掃除なんてちょろいものだったかしら?」
「んー……こうはいうけど、ちょっとは手ごたえがあったよ。君の指揮もなかなか」
「あら、だったら羽虫の名前くらい、覚えっていってくれない?」
「それは、今度かな?」
 くすくすと、ムラデンが笑う――同時、傷を負いながらも、今だ血気盛んなルカが、ムラデンへと切りかかる!
「こっちだ、レグルス・ムラデン!」
 ルカが、その大剣を叩き落とした。ムラデンが、ぴょん、と飛びずさる。その一撃が大地をえぐるが、ムラデンは小首をかしげた。
「すごい、グラノスたちをやったのか――でも、だいぶ疲労しているみたいだね。少し荷が重かったかな?」
「いいや、これくらいの重さでちょうどいい!
 ソア、援護を頼む! 少しだけ時間を稼ぐ!」
「任せて!」
 ソアが飛び込んだ。その爪を、ムラデンに振るう――ムラデンは、その爪を、華奢な指で受け止めてみせた。
「あ、君が『ボク』ってやつだね?」
「ソア! ボクは、ソアって、名前!」
 ソアが、手首をひねる様に、ムラデンの拘束を解いた。続いて、その足で鋭いけりを放つ。ムラデンはそれをまともに受けて見せると、ぴょん、と衝撃を殺すように後ろにとんで見せた。
「わぁ、おひいさまの印象に残るだけはある! かわいいね?」
「もう、ばかにして!」
 ぷん、と怒るソア。一方で、ルカが再度とびかかる。
「なら、俺の名前を憶えていきな。ルカ・ガンビーノをな!」
 振るわれる黒犬の斬撃。ムラデンが楽しげにそれを受け止める最中、一方で、ルビーとマカライトは、倒れた仲間たちの救助を行っていた。
「大丈夫? このまま撤退するよ」
 ルビーが言うのへ、妙見子がうめいた。
「……ごめんなさい」
「大丈夫。皆少しだけ、力及ばなかったんだ。
 それより、帰ろう。生きて帰れば、またチャレンジできる。でしょ?」
「ヴァイス、まだ動けるか? 倒れたやつらを支えてやってほしい」
 マカライトがそういうのへ、ヴァイスが頷いた。
「ええ……くやしいけど、今は」
 倒れた仲間たちを支えながら、ヴァイスはうなづいた。
「おっと、お友達はお帰りだよ?」
 ムラデンがおどけるようにそういうのへ、ルカは頷いてみせた。
「そうだな。悪いが、今日の所はこれで解散だ」
「次は、ぜったいに、一本取るんだから!」
 ソアが、べーっ、と舌を出した。そのまま、後方へと跳躍、仲間たちへと合流する。
「退くわ、今は。
 でも、次は」
 イーリンがそう呟きながら、殿を務めて撤退していく。
 ムラデンは楽し気に、
「またのお越しを~」
 一礼をして見せる。

 ……竜の力。それあまりにも高く。
 我らの手、未だ届かず――。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色
ムサシ・セルブライト(p3p010126)[重傷]
宇宙の保安官
水天宮 妙見子(p3p010644)[重傷]
ともに最期まで

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 竜は強力でしたが――。
 無事に生きて戻ってこれたことも、また強さの証明であるはずです。

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