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シナリオ詳細

<帰らずの森>アピアヌスの御託

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――覇竜領域は竜の住まう地である。
 故にこそデザストルは前人未到の地が多い。
 例えかの地に住まう亜竜種であっても、だ。彼らであっても奥に踏み込むは容易でない。
 ……だが奥に進まねばならぬ事情が切羽詰まっていた。

 それが七罪冠位たる一角、ベルゼーの件である。

 『里おじさま』とも慕われていた彼が冠位魔種であったと知れたのだ。亜竜種の多くが知古でもあったが故に……衝撃がフリアノンを中心に走る事となる。かの人物の行方は『フリアノン里長』である珱・琉珂や伴ったイレギュラーズの調査により――『ピュニシオンの森』の奥ではないかと思われている。
 ピュニシオンは竜種も住まうとされる森。
 だからこそ関所が設けられてもいたのだが……守人たちが姿を消していたのだ。
 異常事態。やはりベルゼーが関連しているのか? いずれにせよピュニシオンに歩を進めなければならないと森の調査依頼がイレギュラーズに舞い込む。
 ――そして、時を同じくして。

「ほぅむ。短命の者共がこの地にやってくる……?」

 ピュニシオンの森で『ある存在』が騒ぎを感知していた。
 この森は魔物も多い。『帰らずの森』と言われるだけの危険はあり、この森に立ち寄ろうとする輩など最近そうはいなかったのだが……なんぞや小さき人間共が大勢押しかけんとする気配を感じる。
 ――全くこんな場所に何の用だというのか。
「薄明様がお戻りになられたというのに、より騒がしくなるというのか」
「――何か不服でもあるのか、エチェディ」
「おぉう、これは薄明様。お越しになられていたとは気づきませなんだ」
 刹那。エチェディと呼ばれた存在に言を紡いだのは――クワルバルツ。
 『薄明竜』クワルバルツだ。
 六竜とも、天帝種とも呼ばれる『特別な血脈』にある竜の一匹。人の姿を取る事も出来……その状態であれば褐色肌の女性に見えようか。一方でエチェディは完全に竜としての姿の儘にクワルバルツへと首を垂れる。
 人に成れるのか、成れないのか。まぁそれはさして大きな問題ではない。
 竜には幾つか区分があるものの年齢や個体によって差は大きいのだ。
 天帝だろうが将星だろうが明星だろうが、抗えぬ上下関係や、種として違うだけで絶対的な実力の壁など――存在しない。
「いやはや月日を経るごとにお美しくなられますな。
 先代様の如くでございます。よよよ。このエチェディ、薄明様にお仕えして……
 何千年でしたか? 万でしたっけ?」
「お前は年々ボケが酷くなるな……それでも誇り高き竜種か?」
「よよよ。薄明様が老竜虐めに傾倒される……なんと嘆かわしい……」
「その噓泣きもいい加減やかましい」
 ……が、まぁ。クワルバルツとエチェディの間にはなんぞや上下の様なモノが見受けられる。軽口の一環にも捉えられるが故に、どこまで本気かは分からぬが……ともあれ。
「で。なんだ、人間が来ているのか?」
「そのようですな。薄明様がお連れになられたので?」
「知らん。勝手に対処しておけ」
「ええ無論。薄明様のお手を煩わせる訳にはいきませんからな――
 亜竜共に蹴散らさせまする。ほっほっほ」
「……そう簡単に行くとは限らんがな」
 クワルバルツは言を零す。
 もしも森に来ている者が――練達や深緑の戦いに出てきた人間達……
 イレギュラーズならばそう簡単に事は進むまい、と。
「よぉしよし。メルシオン共よ、来たか。
 人間共を追い払うが良い。うむ。うむ。我は面倒だ。矮小なる短命種など――食う気もせぬ。
 ……はて。最後に飯を食ったのはいつだったか。まぁよいか」
 が。エチェディは斯様なクワルバルツの思惑など知るか知るまいか。
 集った亜竜らに小間使いの様に指示を与え、退屈そうな欠伸を一つ――零すだけであった。


 森に足を踏み入れる。
 貴方達イレギュラーズに託された依頼は、ピュニシオンの森の奥を少しでも調査する事だ。この先にベルゼーがいるにせよ、いないにせよ。まずはピュニシオンの森を知っておかねば、いざと言う時動く事すら出来ぬ。
 どこが危険か。安全地帯は存在するのか。目印になる様な特徴的な場所はあるか。
 何でも良い。調べて情報を収集するのだ――と。
「……ん、待て。空に亜竜が飛んでるな」
 その時、誰かが気付いた。
 空に亜竜の影が見える。飛翔している彼らは、まるで何かを探しているかのようだ。
 ……もしや人間が侵入している事がバレているのだろうか?
 この辺りは亜竜の縄張りなのかもしれない。
 どうするか。進むか引くか、思案を巡らせていれ――ば。
「おい。なんだこの辺り……いきなり木々が失せてるぞ」
「ぽっかりと穴が開いてるみたいだな。
 これじゃあ身の隠しようもない。一体なにがあった地なんだ……?」
 眼前。少し進んだ先に開けた地形があった。
 延々と木々が生い茂る地を進んでいたというのに――いきなり、だ。
 なんだこの地は? まるでここだけ木が剥げているかの如く……クレーターの様な穴が開いている。
 何か、巨大な存在が暴れでもしたのだろうか?
「……そういえばこの森には『竜種』が住まうとされているらしいな」
「おい、まさか。竜が近くにいるとでも――?」
「可能性としては……んっ! しまった、亜竜がこっちに気付いたぞ!」
 と、その時だ。空を飛んでいた亜竜がイレギュラーズに気付いたようである。
 ――急降下接近。鋭き爪を向け、こちらを排さんと来る、か。
 やむを得ない。調査を続行するにせよ引くにせよ倒す必要がありそうだ……!
 戦いの態勢を整える。
 もしや近くに、この戦いを見ている竜がいるかもしれないと――思い巡らせながら。

GMコメント

 覇竜調査ですね――よろしくお願いします。

●依頼達成条件
 ピュニシオンの森の調査

●フィールド
 『ピュニシオンの森』という覇竜領域に存在する広大な森です。
 前人未踏の『帰らずの森』とも呼ばれていて、まだまだ未解明な所が多い地です。
 皆さんはピュニシオンの森の奥がどうなっているか調査を依頼されました。
 可能な限り奥がどうなっているのか情報収集してみてください――
 が。なにやら亜竜の襲撃が発生しました。まずは撃退が必要そうですね……!

 ひたすらに木々が生い茂っています、が。一角だけぽっかりと穴が開いているかのように(或いはクレーターの様に)木々が生えていない箇所があります――過去に竜でも暴れたのでしょうか? ともあれ、この開けた場所で戦えば障害物はないので戦いやすそうです。
 あるいは逆に、木々の中に身を隠しながら戦ってもいいかもしれませんね。
 時刻は昼。晴天の中ですので、視界に問題はないでしょう。

●敵戦力
・亜竜メルシオン×20体
 調査付近を飛翔している亜竜の一種です。
 やけにこの付近に数が集まっており、更に人間を見つけると戦意高々に襲い掛かってきます。
 まるで命じられたかのように、皆さんを必死に追い払いたいかのようです……
 空から急降下しつつ爪で切り裂く攻撃を得意とします。【出血】系列のBSを付与する事があります。

 一体だけ他より大きな個体がおり、この個体は通常個体よりもやや能力が上の様です。
 また、この個体だけ猛毒を宿すブレスを吐く事があります。
 【毒系列】【窒息系列】【痺れ系列】に属するBSを幾つかランダムに付与する事がありますので、ご注意ください。

●竜種エチェディ
 竜種の中でも非常に永い時を生きていると言われている竜です。竜としての分類は不明ですが、人型は確認されていません。
 万年以上生きており多くの智慧を宿しているとか……? 真偽は定かではありませんがピュニシオンの森の一角を縄張りにしているのは確かで、それがこの辺りだと言われています……もしかしたら出てくるかもしれません。出てきた場合、敵対的か否かは不明です。

●『薄明竜』クワルバルツ
 『六竜』、あるいは天帝種と呼ばれる竜種の一角です。
 かつては練達の襲撃や、深緑でも姿が見られた個体でもあります――
 ですが今回、OPには出てきましたがシナリオ中には恐らく出てきません。
 エチェディと何か関係がある様です……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

  • <帰らずの森>アピアヌスの御託完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月28日 22時35分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン

リプレイ


 亜竜が遠吠えを挙げる。人間共を見つけたと吠え立てているかのようだ――
「げ、見つかった!? マジかよ、さては俺が美味しそうだから……って俺は食材じゃねえ!! 止めろ止めろ、獲物見つけた顔すんな! クソ! 俺ぁ鳥さんだが……只の鳥さんじゃねぇぞ!!」
「もー、ちょっとこの森を調べたいだけなのにっ……
 ええい、とにかくこうなったら仕方ないね、追っ払わないと! カイトさん行こう!」
 故に『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)に『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)は即座に動き出す。空より至る亜竜らの爪をカイトは飛翔しながら躱しつつ――引き摺り下ろさんと立ち回るのだ。同時にリリーもカイトの動きに合わせつつ、射程圏内に入った亜竜を狙い定めよう。
 撃ち落とす。呪いを纏った魔法の弾丸が連中の翼を穿つのだ。
 全く。此処が覇竜領域だというのは分かっているが、これほどの数が群れを成して襲い掛かってくるなど一体全体どういう事か。
「やれやれ。まるで、天然のリングだな。
 ……しかしどこかに作為的な思惑を感じ得る。
 このゴングははたして何者によって鳴らされたものか、な」
「調査をするにしても先ずは此処を乗り切らねばならぬ様だ。
 ――恨みはないが、向かってくるのならば手は抜けんな。許せよ」
 吐息零すは『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)である。隣には『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)もいれば、互いにやはり天を舞う亜竜達を見据えようか。
 森の調査を初めて早々に捕捉されるとはなんとも運が悪い――?
 いや。なんとも『臭う』ものだが、しかし詮索は後かと動き出そう。
 ベネディクトはカイトの動きに引き寄せられ、地上に近付いた個体を中心に名乗り上げるように立ち回る。さすれば汰磨羈は亜竜共の横っ面を弾く様に撃を紡ぐ――
 自らの限界を断ち切る程の出力を齎しながら。
 太極の彼方へ至らんとするのだ。そうして放つは厄狩闘流秘奥。
 破災の一撃。勦牙無極の光。
「ガ、ギィ――ッ!!?」
「ガーハッハッハ! 如何に空を自在に舞う亜竜といえど、無暗に突っ込んできてどうにかなるとでも思ったであるか――? なんぞや、お主らにも何か事情が有りそうであるが、それは此方も同様である。退かないのなら押し通らせてもらうである。関所の守人らが消えている件も調べねばならんのでな――!」
「こちらに攻撃の意思はなくとも、そこに住まう者がそう思ってくれるかは別の話なんだよね……仕方ない。出来る限りの事はしてみようか」
「この地の多くを得る為にも、止められる訳にはいきません。全力を尽くしましょう――」
 更に『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)は天より降り注がせる一撃をもってして亜竜共を強襲せしめようか――乱れた動きがあらば『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)の射撃が穿つ。周囲を俯瞰する様な視点と共に。
 されど流石覇竜領域に住まう者らであるのか、亜竜らも早々には落ちぬ。
 彼らもイレギュラーズへと反撃を仕掛け……故に『オンネリネンの子と共に』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は治癒の術を素早く展開していくものだ。覇竜領域の奥、それは竜種の調査にも繋げる為にも……
 しかし――なるべくなら敵意が無い事を伝えられたらいいのだが。
 向こうも魔物の類。簡単に意思は交えぬかと……ハリエットは吐息を零そう。いきなり攻撃はしたくなかったものだが、彼らより感じ得る闘争の意思は堅そうだ。ただ。練倒も覇竜に生息する者共の知識から推察するのだが――
 やはり何か少しおかしい、と思うもの。
 連中の動きは獲物を見つけた獰猛な魔物の感情とは違うものを感じる。これは……
「やはり、何者かの意思によって、動いていると、みるべきか。さながら、尖兵、だな」
「この群れ、どうにも捕食故の行動には見えぬと思っていたでござるが……『そういう事』なのであろうかな。拙者たちを追い払いたいとするような動きを感じ得る――なんぞやの影がある、と」
 思考するのは『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)に『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)だ。先の練倒と同様に万物を砕く鉄の星を降り注がせるエクスマリアの一撃は実に強力。
 直後には咲耶も跳躍し、ベネディクトやカイトの動きに引き寄せられている亜竜共に刃を突き立てようか。尤も、妙な気配を感じていればこそ咲耶の一撃には殺意の意思はない……なるべく穏便に事を済まさんとするのだ。
 まだまだピュニシオンの森は調査しなければならぬ故に。
「――ま。邪魔する連中は地面に叩き落として生体調査してやるわ!
 ふふふ。後々で解剖されたくなければ今の内に退く事ね――!」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)も往こうか。あぁ彼女の心は躍っている――なにせ只でさえ人の歩みが無い覇竜領域の、更に前人未到と呼ばれる地へと赴けるのだから! ボイジャーの様に、スピリットの様に。かつて未知という大山に挑んだ先人の様に。
 未知を暴き、既知として開拓していく。
 その邪魔は誰にもさせない――!
 イナリは自らに戦いの加護を齎しながら亜竜へと挑むものだ。高速移動と共に繰り出す一撃は彼らを穿たんと幾重にも紡がれる。まぁ、生態調査してやろうかとは言っても――彼女の内に殺意はない。逃げるなら追わない心算である――
 さてさて森を進んだ先より出でるは何か。
 未知の領域。知らぬ世界を見る為にも、前へ進ませてもらうとしようか!


 イレギュラーズ達と亜竜の交戦は瞬く間に激しさを増していく。
 亜竜達は空より速度と共に一気に降下し牙と共に襲来し。
 対するイレギュラーズはその動きを見切らんとしつつ迎撃するのだから――
「さて。命を取らぬ様にするのは何とも気を遣うものだが……
 無闇な殺害行為のせいで関係が悪化、なんて事は避けたいものな」
 前往くは汰磨羈だ。亜竜メルシオンらが引き続き襲い掛かってくるが――彼女の巧みな跳躍は亜竜共に姿を捉えさせぬ。天より俯瞰する様な視点と、優れし三感を常に働かせ周囲全域の敵味方の位置を確認しながら、彼女は絶好の地へと突き進もう。
 ――そうして放つ一撃一閃は正に敵を薙ぐが如く。
 特に見据えるは、メルシオンの長と思わしき大型個体である。
 撃ち貫く。毒の吐息を零してくる、あ奴めは潰しておかねばならぬ……故に全霊だ。されど彼女だけが宿す神威の如き妖刀があらば――生かすも殺すも自由自在。
 その力をもってして亜竜らの命を救ってみせよう。無為に命は奪わぬ、と。
「全く! リリーは上手く手加減なんて出来ないからね……!
 あんまりしつこいと責任は持てないからねー! えいっ!!」
「リリー、こっちだ! ――さぁどうしたよ亜竜共!
 ほら俺を止めねえとどんどん状況が悪くなるぜ?
 俺を捕まえれるもんなら捕まえてみな! 覇竜ご自慢の亜竜さんの足でな!」
 とは言え。流石に汰磨羈のような妖刀を宿した者ばかりではない――リリーは不殺の意思を尊重こそするが……正直に言うと無理である! 自らが宿す力の性質的に加減は中々効かぬのだ。最後の最後まで抵抗する様であれば打ち倒す他ない、と。
 リリーを追って来る亜竜達へと堕天の輝きをくれてやろう。
 纏めて穿つ。状況に合わせて彼女は戦いの加護を切り替えながら、臨機応変にも動いていようか……さすれば彼女が危険でないか常に気を配っているカイトが超速で至り、リリーの身を抱きながら駆けるものだ。
 彼の、至高とも言える超速度……並大抵の者では捉えられない。
 挑発の様な言も繰り返しながら敵の注意を引き。更に彼は味方へと加護を注がせよう。
 ――群れる猛禽へと至らせるが如く。
 鬱陶しいって? 上等だ、敵にそう思われるなら本望極まる――!
「ギィィィィ――ッ!!」
「むぅ。敵の焦りが激しくなったであるな――むむむ、吾輩のインテリジェンスが導き出すに、連中の心中にあるは『焦り』の感情。恐らくは此方を『襲え』と命じた者に叱り飛ばされるのを恐れているのであろう。はたして強力な亜竜か、それとも……」
「竜種――と言った所か? あの亜竜達の怯えの根源は……
 少なくとも彼らがこちらに向かってくるのは闘争本能だけではないのだろうな」
 メルシオンが甲高い金切り声を発すれば……再び練倒は推察するものだ。魔の知識より、彼らの声の質が何に属しているか、と。同時、木を盾にしつつ陰より放つは光。敵のみを薙ぐ光は不殺の意思をやはり内包しているようだ――その光に次いでベネディクトも素早く戦場を駆け抜けよう。
 彼は引き続き大立ち回り。敵の狙いを引き付け全体の被害を軽減せんとするのである。
 そして――当初より抱いていた疑惑があればこそ投擲の一閃を紡ごう。
 膂力を込め、宙を砕く様に。その輝きは亜竜らの目を惹いて――
 直後。ベネディクトが作り出した撃による亜竜らの隙を突いて咲耶が跳躍。

 ――何故、拙者達を襲う? もしや追い払いたい訳があるのでござるか?

 彼女はそう、声をかけてみるものだ。
 亜竜は動物というよりも魔物の類であるが故にこそ意思を交わすのは容易ではない。されど彼らの魂を呼ぶような『導き』の一端があれば無為とまではいかぬ――亜竜より感じ得る感情の色ぐらいは悟れようか。
 彼らはどこか怯えている。
 やはり推測通りの事態があるのか――と想ったその時、亜竜は背に至った咲耶を振り落とさんと体を回転させる。咄嗟に鱗を掴みて彼女は振り落とされぬ様に五指に力を込めなが、ら。
「くっ――やはり、こうも素早く飛ばれると厄介でござるな。
 しかし落とせぬ訳ではない! 無力化させてもらうでござるよ――御免ッ!」
 撃を放つものだ。確殺自負の殺人剣の心得を宿した一撃をもってして。
 まだ体力に余裕のありそうな個体だと見据えれば全力たる攻勢を仕掛けよう。無益な殺生は好まぬ故に彼女も『殺さず』の意思を宿して努力はするが――しかし。此方も急ぐ身。
「手違いで死んでも恨まれませぬな? 厭うのならば力を抜く事を薦めるでござる!」
「まだどこからか数が増えないとは限らないしね――速攻で倒させてもらうのだわ!」
「ああ、敵も必死の、ようだ。時間が掛かれば、互いの傷も、深くなるだろう。
 その前に、なんとしても、戦いの流れを、掴んでおかねば、な」
 更にイナリも追撃する。咲耶が狙いし個体へと、奇襲する様に。
 亜竜の背面へ彼女も瞬間的に移動するのだ――
 そうして狙う。頭部を、或いは翼の付け根を……如何に亜竜であろうとも生物学的な急所は左程変わるまい。頭部へと痛打を叩き込み脳を揺らして、鱗の狭間を穿てば他よりも痛みを通しやすかろう、と。直後にはエクスマリアの的確なる号令が響き渡りて、皆の活力を満たさんとする――不殺の意思を抱き進む者達の一助となろう。
 ――されば亜竜も度重なる痛みに声を荒げるものだ。
 飛翔速度が低下し、地上へとなだれ込む――故。イナリは地への衝突前に脱出しようか。
 落下の衝撃に巻き込まれぬ様に。さぁ後何体いるのか。
「私たちはこの森がどんなものかを調査しに来た。ここに生きる者……動植物に危害を加えたり、建造物を壊したりする気はない。調査させて貰えないかな。もしも退いてもらえるのなら……争うよりもきっと、仲良くなれると思うのだけど」
 同時。今だ空舞う個体へとハリエットは言を紡ぐ。
 彼女は射手だ。本来であれば隠れ潜み、一撃を繰り出すが常――
 しかし今は『見つけてください』と言わんばかりにその身を晒す。
 だってそうしないと、言葉だってきっと。
 届かないから。
「私たちは侵略しに来たんじゃないんだ。戦いをやめてほしい」
「――ガァ、ァ――ッ!」
「何度でも言うよ。何度でも伝えるよ。私達は、敵じゃないんだ」
 射手が届けるのは銃弾だけではないんだ。
 ……どうしても襲い掛かってくるというのなら、残念だけど。
 それでも伝え続けよう。この手は引き金を絞り上げるだけの手じゃないんだから。
 ――一体だけ存在する、やや大型の個体が毒の吐息を撒き散らす。
 イレギュラーズ達を追い払わんとするかの如く。
 だが戦況は……イレギュラーズ側が優勢に進みつつあった。
 亜竜らの反撃もイレギュラーズに少なくない傷を与えているものの、ココロが周囲に満たす治癒もあれば、とても戦線を崩壊させるほどの威は無いのである。その上、カイトやベネディクトと言った実力者達が自らに被害を引き寄せんとしつつ一方でリリーや練倒、咲耶の攻勢。ハリエットの針の穴を通すが如き狙撃。そして汰磨羈の不殺たる一撃が襲い掛かって来れば――手が付けられない。
「オラァどうしたどうしたぁ! そんなチンタラした動きで鳥さんを捕まえられるつもりかよ! 欠伸が出そうだぜ――ちったぁハンデをくれてやろうか? ぎゃうぎゃぅぴぃぴぃ――おっとっと、流石に冗談だよ冗談!」
「この調子ですね……! 慎重に進めていきましょう、もう少しです……!」
「亜竜達を、不殺するのはいいが、しかし、こちらが無理をして倒れては、本末転倒だからな。調査を成功させるのが、優先だ――穴一つ開かせぬ様に、注意しよう。隙があれば、一気に押し込まれないとも、限らない」
 飛翔するカイトは亜竜らの攻撃に合わせてカウンター気味の一撃を叩き込んでやろうか。積極的に攻勢を受け止めていれば流石の彼も段々と疲弊してくるものだが……しかし追い込まれれば追い込まれる程、むしろ彼の魂は燃え上がるもの。
 しかし幾度も対峙すれば、やはりこの亜竜達の群れ方はおかしいと思うものだ。
 なにか、目的の下に集っている様な感覚を感じ得る。
 社会的? 秩序だった? そういう感覚が――どこかに。
 そしてココロの視線は――カイトが戦っている大型のメルシオンへと注がれている。奴の一撃や毒の吐息がどこに撒き散らされるか……しかと見定めてから治癒を満たしているのだ。時に大きな傷を負った者があらば、炎の――まるで不死鳥が如き権能をもってして――傷を癒し奉ろう。更にはその安定を万全にすべくエクスマリアも度々にサポートに入る。
 彼女もまた治癒の力を振るう事は出来るのだから。
 全体を活かすためにこそ、一人残さず健在であらねば――と。
 ……やがて亜竜らの数が徐々に減り始める。
 不殺の撃が多かったが故にこそ地に落ちる程度ではある、が。イレギュラーズより多かったはずの彼らは、いつのまにか数を下回っていた。ここまで来れば後は最早時間の問題である。
 それでも亜竜達の攻勢は止まぬ。
「どうして……どうしてまだ攻めてくるの?」
「――チィ! 私達は無闇な殺生を好まぬ! 必要な調査を終えたら素直に帰るつもりだ! 故に、この亜竜達を退かせてくれないか! 聞こえているのではないか――この地の主よ!」
 困惑するハリエット。勝敗が見え始めているというのに、何故……
 故にこそ汰磨羈が声を張り上げるように告げるものだ。
 恐らくは。こ奴らを寄こした存在へと。
 見ているのだろう? 聞いているのだろう?
 なんぞや。ずっと妙な気配は――感じていたのだから――
 同時。メルシオンの中で最も強く、最も巨大で在った個体が遂に落ちる。
 空舞う力なく地へと緩やかに――しかし。
「――ッ! これ、は。来るわよ! 皆、注意するのだわ!!」
 刹那。周囲へと警告の声を荒げたのはイナリである。
 彼女は使役している使い魔の小鳥を三匹、空へと投じていた。
 周囲の状況を常に探らせるために。散らせて観測飛行させていたのである――が。
 その一角に感知しえた。
 巨大なる影を。飛翔する存在を。

「――やれやれ。使えぬ輩共よのぉ」

 刹那。生き残った亜竜達が消えた。
 否。過った影に『喰い尽くされ』たのである。
 先程の大型のメルシオンも地に落ちる前に影に呑まれた。
 悲鳴を挙げる暇すら許されぬ。神にすら祈る時間など知らぬ。
 それは。
「……竜」
 覇竜領域に住まう――大いなる存在だ。
 先程の、メルシオンの大型個体は人間のサイズを超えていた、が。
 更に超える巨体の持ち主……『竜種』が其処へと至ったのである。

「我が名はエチェディ。短命なる者共よ、何用をもってこの地に踏み込むか。
 死に急ぐことはなかろうて。今すぐ踵を返すなら見逃してやろうぞ、ほっほっほ」

 ――口端に亜竜らを喰らった血を張り付けつつ。
 エチェディと名乗ったその竜は――イレギュラーズ達を見下ろしていた。
 或いは、見下す様に……だろうか。


 絶句。ハリエットの心には、動揺の波紋が少なからず広がっていた。
 ――ずっと説得を試みていた。亜竜達の命を奪う事は無いと。
 直前まで彼女は引き続き声を掛けていた、のに。

 それが刹那の間に奪われた。

 本当に、一瞬の事だった。亜竜達が喰われ、その命を散らしている……
「むぅ。間違いないであるな……これこそが亜竜共の動きの根源にあった竜であろう……! この地は、関所があり通る事も叶わなかったが……やはり竜種が住まうというのは真であったか……!」
「竜種……出て来るかも、とは思っていたけれど、本当に出て来るなんてね……! でも、敵意はあんまり感じない……? ううん、油断しちゃダメだよね、いつ気が変わるとも分かんないし……!」
「……竜の他に敵影は見えませんね。囲まれる様な状況ではなさそうですが」
 斯様な行いを目の当たりにしてか練倒やリリーの警戒心は最大限に高まるものだ。
 亜竜メルシオンとの戦闘による疲弊――重体になるような深い負傷は今の所ないが、しかしここから竜種と戦う様な事になれば無事で済むとは限らない。幸いと言うべきか、即座に攻撃を仕掛けてこない所や、声色の性質からリリーはエチェディの様子を窺っていた。
 恐らく敵意はない、逃げの一手を打つ必要はまだなさそうだ。ココロの張り巡らさせている敵意を感知しうる術にも一切の反応は無い――そして。木々に跳躍し周囲を眺めた彼女の視界に、エチェディ以外の亜竜の影も映らないのだ。
 囲まれる気配が無ければ、最悪、一目散に退散すれば生きては帰れるだろう。
 だが練倒の推察通りエチェディこそが亜竜達をけしかけてきた者の筈。
 どういう事だ? こちらに亜竜を派遣しながら敵意を感じないなど――
「――俺達はイレギュラーズ。このピュニシオンの森の調査に足を運んで来た。
 そちらの住処を荒らすつもりはない。どうか話だけでも聞いてはもらえないか」
「ああ、住処を荒らしてしまったことは、謝罪する。すまない。
 この森に、冠位魔種ベルゼーという男が来ていない、か。知っているなら教えて欲しい」
「然り。勝手にこの領域を騒がせてしまい誠に申し訳ござらぬ。出来るだけ迷惑はかけぬ様にするので申し訳ないのでござるが暫く協力を願えぬでござろうか? こちらの件が済めば、早々に退散するでござる。重々、其方に迷惑はかけぬが故に……」
 瞬間。意を決して言の葉を紡いだのはベネディクトとエクスマリア、咲耶だ。
 警戒は解かない。いついかなる瞬間に眼前の存在の気が変わると知れぬのだ。
 ベネディクトは優れた三感を全力で働かせつつ――彼は一時たりとも竜より目を離さぬ。もしも戦闘になるのならば素直に退くしかないと心の内に留めながら。
「ベルゼーと呼ばれる者の足跡を探すついでに、未開な事が多いこの森を調べていたんだ」
「ほうベルゼー。ベルゼーとな。なるほど薄明様ではなくベルゼーか……」
「知っているのか?」
「ほっほっほ。竜王などと呼ばれておるあ奴の事を知らぬ者などおるまい。
 我もベルゼーの事は知っておる。うむうむ、懐かしい名の響きよの……
 ――だがそれがどうしたのだ。見つけてどうするのだ、短命なる者よ」
「それは……俺、というよりも。一人の少女の為だ」
「かの者を、琉珂殿に――会わせてやりたいのでござる」
 せめて里長に会わせてやりたいと、ベネディクトに咲耶は考えている。
 ……もしもその後に戦う未来しか待っていないのだとしても。
 納得も。理解もせぬ儘に。流れだけで相まみえるなどと言う未来は――迎えたくないのだ。
「縄張りに入る前に声を掛けなかったのは、此方の落ち度だ。その点については謝罪させてくれ――しかし私達は、どうしてもベルゼーの足跡を追わねばならぬ。条件付きでも構わぬから、協力して貰えると助かるのだが……」
「そうか、なんぞや事情がありそうであるの。しかし我には関係のない事よ。琉珂なる者も、ベルゼーとの関係もな。去るがよい。死に急ぐことはなかろうて。今すぐ踵を返すなら見逃してやろうぞ、ほっほっほ……んっ? コレさっき言うたような言わんかった様な……はて?」
「ベルゼーとは親しいのか? 彼を護っているつもりならば、我々とて別に即座に危害をなど……」
「護る? 面白い事をいう――ベルゼーがお主ら程度に負ける可能性などあるまいよ」
 続けて汰磨羈もエチェディへと言を紡ごうか。
 特に、奴にベルゼーの名を投じて反応を見ておきたい――冠位七罪とどれだけの関係があるか、ないか。小さな切欠でもよいと……エチェディの様子を優れた感覚と共に見据えるのだ。
 さすればエチェディからは時折懐かしむ感情の色が見え隠れしていようか。
 ここ最近は会っていないのだろうか? 無関係ではなさそうだ……同時にエチェディそのものの姿もまじまじと見据えてみれば、なんとなし『老竜』であるような印象も受ける。
 例えば六竜やジャバーウォックの様に隆々とした覇気が見られないのだ。
 巨体でこそあれど、どこか痩せているようにも見える――
 更にやや言動の端々に呆けている様子が見られるのは演技か、真か。
 ……だがそれでも竜は竜。
 内面からは人を圧倒しうる圧を感じ得るか。
「無償とは、言わない。何かしらの代価が必要なら、整えよう。望みは、ないのか?」
 故にエクスマリアは彼に望みがなにかと問いを投げかけ。
「ほう。望み、望みか――我も長き時を生きた。酸いも甘いも満ちた。
 左程の願いなどありはせんよ。ただただ後は平穏を望むのみ。
 故にお主らが帰るのが一番なのだがの。ほっほっほ。
 だが、そう、強いて言うならば……若く芳醇なる実が食べたいものだ」
「――実?」
「然り。豊かに実りしモノは、魂に潤いを与えてくれるのだ――
 若さとは良いものだ。迸る活力を喰らえば、我が身も潤うが如き快楽を得られる。
 我が永き時を生きれるのも若き実を喰らっているが故よ、多分の」
 ほっほっほ。軽く語るエチェディ。『実』とははたして何のことか。
 この森に特別な果実でもあるのだろうか?
 いや、なにか特別な『含み』がある様な気がする……
 そのままの意味で捉えるのは危険だ。もしかすれば――
「むっ? あぁ、お主らの命になど興味はないぞ。
 瞬きをすれば腐る果実があったとして、お主らは価値を感じるか?
 我から見ればお主らの豊潤さなど刹那の間にしかないのだからな」
「ほっ。さっきの亜竜と同じで鳥さんの俺狙われるかと思ったが、そうじゃなさそうだな。
 ……しかし随分と長命みてぇだな。水竜さまの事、知ってたりとかすんのか?」
「水竜であると? ほほう……なんぞや、とても懐かしいモノな気がするの。
 遥か彼方の匂いを――持っておるな?」
 と。その時だ――次いだのはカイトか。その手にはかつて出逢った竜……水竜様の鱗がある。さすればエチェディは微かに鼻を動かす仕草を見せようか。どうにも、本人の言も正しければ相当な長生きのご様子。かつて水竜と出会っていた事がある可能性もあるか――?
 分からぬ。だが、覇竜領域には多くの竜が住めばこそ。
 長寿の竜の中にはそういう個体がいる可能性もあるかもしれぬ。
 ……無論、やや呆けた様子のあるエチェディの思考が正常であれば、だが。
「うーむ、この香り。海の匂いが付いておるわ。滅海竜を思い出すのぉ」
「――へぇ。滅海竜、知ってるのか?」
「長寿の竜なら知っておろうて。ほっほっほ。かくいう我も……んっ? 会った事があるような無いような、名前だけの様なそうでないような……思い出せんのぉ。いかんいかん、近頃はとんとあやふやなものよ」
 カイトは語らいながらも慎重に、立ち回りを定めるものだ。
 弱肉強食の世界である海の民にとっては力とは偉大であり絶対である。
 故にカイトは自身が強くなりたがるし――強者側に立とうとする。
 ……絶対的な智と力の象徴でもある水竜様に対してある種の信仰があるのはそういう事だ。眼前のエチェディの実力は未だ知れぬが――しかし、野生動物の勘にも近い気配の嗅覚が、カイトの歩みを弁えさせるように慎重となるものだ。
 竜種だけは、格が違うのだから。
 そして何より分かっている。竜は基本として人間に――友好的では無い。
 別に過度に、必ず敵対的と言う訳でもないが。彼らにとって多種族など同列ではないのだ。
 だからイレギュラーズの調査の提案にも乗らぬ。
 なぜ竜が蟻のいう事を聞かねばならぬのか――? といわんばかりだ。
 例えば人が蟻を同列と見るだろうか? 竜にとって人とは有象無象。
 稀に例外もあり得るが、しかし少なくともエチェディは例外側ではなさそうだ。
 カイトの知る……水竜様のような存在ではない。ただ――幸か不幸か。イレギュラーズが不用意に攻撃を仕掛けなければ、エチェディも迎撃する様子はなさそうだ。今この瞬間に関しては、だが。
「と。なんぞ語らいすぎたの。ええと、何をしたいんじゃったか……
 おぉそうじゃった。今すぐ帰るのなら見逃してやろうぞ。
 さっきからその辺りをうろちょろと飛ばしておる小鳥共も含めての」
「おっと。気付いてたのね、流石と言うべきかしら――?」
 刹那。エチェディが再びイレギュラーズ達を見据えようか。次いで指摘するは先程から一部のイレギュラーズが探索にと飛ばしているファミリアーの使い魔達の事……特に複数匹使役しているイナリはエチェディの様子を窺いつつ周辺の情報収集に努めていた。
 ピュニシオンの森の地形観測。温度を知覚し、他に竜や亜竜などの生体反応がないか。
 それから他に特別に隠匿されたモノがないかなど――こっそりと探りを入れていたのだ。後は狐仲間を招集する事が出来ればよかったのだが……ここは覇竜領域。特級の危険地帯であり、一個人だけでは中々に行動し辛い地であったが故にそれは難しかった。
 故に仲間たるイレギュラーズと共に至ったイナリだけでなんとか調査に尽力する。
 それは知恵ある生物の本能。そしてイナリの存在意義なのだから。
 調査可能限界点まで。この森の遥か彼方には何かないかと。
 しかし見えぬ。広大だ。
 どこまでこの森は続いているのか。無限ではあるまい。
 きっと果てか、なんぞや中央となりうる場所は在る筈だが……
「うう、もうちょっと探りたかったのに……!
 気付くなんて竜は勘もいいのかな……? あとちょっとだけ、探らせて……!」
「実が好物と言う事ですが、しかし世の中には沢山食物がありますよ――あっ。騎兵隊饅頭食べますか? 紫芋餡八個入ですよ……! お師匠様印の自慢品です……!」
「ほっほ。斯様に小さきモノなど、喰らった感触すらせぬわ」
 同時。リリーも樹の陰に潜みながらファミリアーを飛ばしていたものであった。未知の領域を調べ尽くさんと、周囲の解析を試みていたのだが……エチェディに気付かれるとは。天におまじないを祈りつつ、もう少しだけと使い魔をもっと遠くへ――
 その時間を稼ぐ為にもココロは饅頭で気を引かんとしようか。
 が、元々のサイズ差が顕著だ。これでは霞と一緒とエチェディは言おうか……んっ。人間サイズになれば話は別の筈だが、もしかすればエチェディは人間には成れぬ類か……? と、その時。
「……どうしてもダメなの? どうして? 私達に敵意はない」
「知らぬ知らぬ。お主は、家の中に虫が入り込んでおったらどうする?
 ――叩くか外へ逃がそうとするじゃろ? そういう事と心得よ」
「さっきの亜竜達も、そうなの?」
「うん、亜竜達? ――おぉさっき喰ろうたモノか?
 まぁそうよの。アレも番犬のような使い道があったから置いておいただけよ」
 そしてハリエットが言を放つ。
 相手の領域を侵すような真似はしたくない。故に、交渉したい心算だったが……
 どうにもエチェディとは絶対的な認識の差があるようだ。
 エチェディにとってイレギュラーズは家に入り込んだ虫に過ぎぬと。
 交渉などというモノをされる事自体が想定外――
 話し合いの余地はなさそうだ。しかし。
(里長の為にも、せめて何か取っ掛かりだけでも掴みたい所だが)
 ベネディクトは高速に思考を巡らせる。エチェディと交渉は出来ぬまでも、なにかないか。
 しかし不用意な言葉はエチェディを刺激しない――とも言い切れない。好奇心が猫を殺す、などという事になるのは本意でもなければ……どうする? 何を紡ぐ? せめて情報を。たった一言だけでもいい。
 一番美味しい食べ物は何か聞いてみるか――?
 だがそれは彼の本能が不思議と警告を鳴らしていた。
 ソレを聞いたら何か『まずい』気がするのだ。
 ――と。その、刹那。
「然らば、歓迎されぬ身であれば……一度出直させてもらうでござる。しかし我々も出来れば森へと踏み入りたい所――無礼にならぬ様に挨拶にうかがいたいのでござる。この森の竜のまとめ役はどなたでござろうか」
 咲耶が言を、エチェディへと向けようか。
 この森に纏め役がいるのなら誰かと――さすれば。
「森の纏め役? さてのぅ、強いて言えばベルゼーがそうとも言えるでないかの。まぁ恐らくあ奴は今ヘス…………」
「んっ? 今、なんと」
「喋りすぎた」
 刹那。エチェディの瞳に――闘争の意志が宿る。
 呆けた口調が度々出ており、人間を格下には見れど、一応は温和であった雰囲気が。
 一変した。
「――撤退しましょう!」
「リリー、来い! 多分まずいぞ!!」
「うん――! カイトさん、向こうの方には動物もいないよ! あっちに逃げれば大丈夫なはず!」
 ココロが張っていた敵意感知の結界が、まるで雷撃が飛んだが如く急速に反応する。
 故に彼女は声を張り上げた。皆で逃げるように、と。
 直後には正に神速の勢いをもってしてカイトが飛翔する。木の影に気配を押し殺しつつ隠れ、周囲を窺っていたリリーを連れて……彼女だけは必ず守るのだとカイトは強い信念を抱きながら。
「ほっほ。抗うのか、人間よ。竜を恐れるならば正しき事よ」
「ああ、供物として、命や身柄を、代償には、出来ないから、な」
 エチェディが呼吸を。胸を膨らませ、何かを吐かんとする動きを見せれば。
 撤退せんとするエクスマリアが――紡ぐものだ。
「しかし、これで諦めるとは、限らないがな」
 人の意思が止まるとは限らぬ、と。
 直後。エチェディが吐息を零す――
 先の、亜竜メルシオンのブレスとは威力が一切合切異なる一撃。
 それは木々を薙ぎ、数多を吹き飛ばしてみせよう。
「くっ――! 皆伏せろ! 木々を盾にするのだ、直撃だけは避けろ――!」
「――これが、竜の力ですか」
 汰磨羈にココロは見た。暴風をも超えるエチェディの吐息を。
 そして木々が剥がれて地平になる光景を――ああ。
 この大きくぽっかりと開けた場所。
 大空のさらに上にある真っ暗な空を玄天と呼ぶと教わりましたが、そこから大きな物が落ちてくればこんな穴が空くかもしれないと思っていた、が。出来るのだ。エチェディは、ソレと同等の如くが。
 彼らが持つ戦闘力は、時として地平など軽く変じさせる。
 一体誰ぞと争って出来た跡かは知れぬが。
 その一端を見る事が出来たことはきっと『得た』ものであると――彼女は思考を巡らせていた。

成否

成功

MVP

如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 エチェディの干渉により撤退こそしましたが、彼と話している間にも探り続けた事によりピュニシオンの森の一角の調査は行えております。しかしエチェディが遠ざけんとする、ピュニシオンの森の奥にあるのははたして……
 ちなみに亜竜との戦闘自体はかなり優勢に戦えておりました。お見事だったかと思います。
 ありがとうございました。

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