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シナリオ詳細

<カマルへの道程>王国に迷妄はくすぶる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●エーニュと、王国
「状況を確認すると――」
 そう声を上げたのは、ラーシア・フェリル(p3n000012)だ。ネフェルスト、ローレット支部。先の襲撃によりダメージを受けたこの支部は、今は何とか――完全とは言わないまでも――元の様子を取り戻していた。失ったものは戻らず、その穴埋めに必死なのは情報屋であるラーシアも同じであったが、とにかく、今はあらゆる意味で、支部はあわただしい。
 そんな支部の一角には、先述したラーシア、そしてレナヴィスカの一員であるクエンリィ、ポップルという女性と、あなたたち、イレギュラーズの姿があった。
「まず、エーニュに介入したのはラーガ・カンパニー。おそらく首魁はラーガですね?」
「ラーガは、昨今の、幻想種誘拐事件をザントマンのそれに見立てて、商人連合の商人たちを糾弾していたけど」
 クエンリィが言う。
「ポーズよね。そもそも、ラーガ・カンパニー自体が、胡散臭い悪徳商会だもの」
「詳細は省きますが、相当あくどいことをやっていたようですね」
 ポップルが嘆息した。
「さておき、そんなラーガ・カンパニーの一支部で、転送陣が見つかったようです。
 行先は、例の『古宮カーマルーマ』と呼称される、敵の本拠地」
「となると」
 あなたの隣にいた、イレギュラーズが声を上げる。
「エーニュも、奴らとつながっている、ということか?」
「なんとも言えませんね」
 ラーシアが言った。
「エーニュは……おそらく、ラーガに利用されてる、という構図になると思います。
 ただ、一方的に、彼らが利用されているとは思えません。
 下層の戦闘員たちがどう思っているかはわかりませんが、少なくとも上層部は、この状況を利用している――」
「それを調べるためにも、まずカーマルーマに行きたいのよね」
 クエンリィが言った。
「皆が、これまで捕まえてくれたエーニュの兵士たちや、アストラ、っていう人? その人達から得られた情報で、少なくともカーマルーマの一角に、エーニュの部隊が潜伏しているのはわかっているの」
「じゃあ、今回は、その調査?」
 イレギュラーズの一人が尋ねるのへ、ポップルがうなづいた。
「はい。ですが、現地はまさに敵の懐。加えて、先の事件から、『烙印』と呼称される異常状態に、一部のイレギュラーズがり患しているという情報もあります」
 烙印。現状詳細は不明だが、耐えられぬ吸血衝動と、水晶の涙に華の血を流す病状を齎すという。
「……おそらく、あらゆる意味で危険な任務にあると思います。くれぐれも、無理はなさらぬように――」
 ポップルの言葉に、あなた達はうなづいた――。

 カーマルーマの一角に、そのうらぶれた小屋はあった。中には、複数の人間が生活していた形跡がある。どうやら、何らかの臨時拠点として扱われていたらしい。
 どさり、とその小屋の中で音がした。音の方に視線を映せば、そこには緑色の軍服のようなものを着た幻想種の男が、地に倒れ伏し、苦し気にうめいていた。
「な、何故……同志よ……」
 荒い息をつく、その幻想種の表情はあまりにも白い。まるで、血を抜かれ切ったかのように――。
「なぜ?」
 女性が言った。同様に緑色の軍服を着たその女は、しかし男とは対照的に、はちきれんばかりのエネルギーを得ているように見えた。
「いいえ、私は同志の――幻想種のために、こうすることを選んだの。私たちは、脆く、少ない。
 ならば、強くなればいいと――」
「リッセはそれを許さないぞ……」
「いいえ、偉大なる同志リッセなら、わかってくれるわ」
 女が笑った。
 その唇に、赤い血を滴らせ。
 その姿は、まさに『吸血鬼(ヴァンピーア)』のようである。
「これこそが、私たち幻想種が生き残る道であるのよ」
 狂気の笑みを、女は浮かべた。
「これから、すべてのエーニュへ師たちに烙印を賜るように進言するわ!
 私たちは、より強く、美しくあるべきなのよ!
 エーニュは変わるべきだわ……『吸血鬼(ヴァンピーア)』へと!」
 ――あなたたちが、小屋に踏み入ったのはその刹那。
 吸血鬼の女が、無数のエーニュ兵士たちから血を吸い終えた、その瞬間であった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 深緑のテロリストを追い、敵の本拠地へ。
 しかし、そこにいたのは――。

●成功条件
 『吸血鬼(ヴァンピーア)』、レナル・メイリアの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●状況
 深緑のテロリストたち、エーニュ。彼らはラーガ・カンパニーの関与を受け、ラサに現れたようです。
 引き続き、エーニュの調査を行う皆さん。敵の本拠地であるカーマルーマでの調査の最中、皆さんはエーニュの潜伏していたと思わしき小屋を見つけます。
 踏み入った皆さんの前に現れたのは、血を吸われ、死亡・衰弱したエーニュの兵士たちの姿と、
 エーニュの兵士でありながら、烙印の力で『吸血鬼(ヴァンピーア)』エーニュの構成員、レナル・メイリアでした。
 彼女は吸血鬼となった高揚感から残虐性と吸血衝動を増しており、また、このままエーニュの本拠地に帰還し、エーニュそのものを吸血鬼の集団にしようともくろんでいるようです……。
 このままでは厄介なことになります。止めなければなりません。
 作戦結構エリアは、エーニュのセーフハウス。内部は十分に広く、明るく、戦闘ペナルティなどは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 『吸血鬼(ヴァンピーア)』レナル・メイリア ×1
  もともとはエーニュの構成員である幻想種の女性でした。他の吸血鬼に烙印を刻まれ、吸血鬼化したようです。
  成り立てということもあってか、吸血鬼としては比較的、御しやすい相手です。ですが、決して油断は召されぬよう。
  非常に強力な膂力による物理攻撃、あるいは血液を媒介とした『華』による神秘攻撃を運用します。
  まだ力を制御できていない分、命中能力や、CTなどが低く、ファンブルも高めのようです。
  そのあたりの弱点を増加させるような戦い方をしてやると、有利に立ち回れるかもしれません。

 サン・ラパース ×8
  晶獣の一種類です。猛禽の類が変質したものですが、このシナリオでは吸血鬼の気に当てられた蝙蝠たちが変質したもののようです。
  戦い方は、おおむね他のサン・ラパースと同様です。集団で素早く飛び回り、牙や爪で一撃を与えて『出血』させてきます。
  複数に集られないように、うまく分散して処理したり、あるいはまとめて処理してやるのがいいでしょう。

●同行NPC
 ラーシア・フェリル
 クエンリィ
 ポップル
  ローレットの情報屋であるラーシア、そしてレナヴィスカの一員であるクエンリィとポップルが同行しています。
  いずれも『ほっといても死なない』程度には頑張って戦っています。
  さすがにレナル相手にぶつけるのは厳しいですが、サン・ラパースあたりの相手をさせておくと、うまく敵を間引いてくれるはずです。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <カマルへの道程>王国に迷妄はくすぶる完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

リプレイ

●吸血鬼
「なに、これ……」
 唖然とした様子でそういうのは、レナヴィスカの団員である、クエンリィだ。
 その言葉は、ある程度はイレギュラーズたちも同じくする思いだった。エーニュのアジトがある、という情報から踏み込んでみれば、その小屋の中で繰り広げられていたのは、大量に『血を失い』倒れているエーニュの構成員たちと、そのただなかに立ちすくむ、血まみれの女性だった。
「まぁ、あなた達、ローレットね?」
 そういう、血まみれの女。口元はまるで紅を塗られたかのように真っ赤であり、滴るそれが、まだ『新鮮な』ものであることを否が応でも理解させられていた。
「吸血鬼……!?」
 レナヴィスカのポップルが言う。この段階で、二人はまだ困惑を隠しきれていなかったが、他のイレギュラーズたちはすでに身構え、油断なく状況を確認していた。
「なにしてんだ、アンタ」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が声を上げた。
「そこに転がってるのは、アンタの仲間じゃあねぇのか」
 ぎり、と奥歯を噛みしめるように言う、キドー。吸血鬼の女は、うっすらと笑った。
「ええ、そうよ。
 でも、意見が合わなかったのよね」
「だから血を吸って捨てたのか? 仲間を?」
「もう仲間じゃないわ」
 女が言う。
「はじめまして、ローレット。私の名前はレナル。レナル・メイリア。
 吸血鬼(ヴァンピーア)よ」
 優雅に一礼をして見せるのは、力を得た高揚感と優越感からか。ちっ、とキドーが舌打ちをする。
「随分とのぼせてんじゃあねぇか……。
 利用できるモンはなんでも利用する強欲な奴が好きだが、手段に呑まれて目的を忘れてるようじゃあ駄目だ。
 見ろよ、足元に転がってる連中を。
 仲間だろ? 身内だろ? なのにこれだ。
 何の為に徒党を組んでたんだよ」
「もう仲間ではない、といったわ。彼らは、そうね。理解できなかったの。この素晴らしい力を」
 レナルが言う。
「わからないなら、もう彼らには餌になるしかないじゃない」
「それが君の本心なのかい!?」
 そう声を上げるのは、『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)である。
「なにをしてるんだ……っ!
 レナル・メイリア! 君が守りたかったのはなに?
 仲間の血を吸いつくして手に入れたのが、本物の強さなわけない!」
「いいえ、違うわ!」
 レナルが叫びで言葉を返す。
「これが力よ! お前たちに……ラサの民に、そしてローレットに虐げられてきた私たち幻想種が得るべき力が! これよ!」
「御黙りなさいな、酔っ払いさん。まだまだ真昼間よ」
 『風そよぎ』ゼファー(p3p007625)が、静かに告げた。
「ネーヴェ、周りの人たちは生きてるのかしら?」
「はい、まだ、かろうじて、ですが……!」
 『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)は、周囲に倒れた人々が呼吸をしているかを目視で簡単に確認した。弱弱しいようだが、胸は上下している。まだ、息をしているものは何名かいた。
「ただ、出血が激しい……です。はやく、ちゃんと治療をしてあげないと……!」
「スピード勝負ね。まかせて、得意よ」
 ゼファーが鋭く槍を構える――目配せをする。『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)へ。アレクシアはうなづき、
「周りにいるコウモリみたいなの……サン・ラパースの亜種だね。
 レナル君と乱戦になるのは避けたいな……。
 こっちは私が前に立って抑えるね。レナル君の抑えをお願い」
「おっけー。アレクシアさん、そっちは任せた。あっちはオレが」
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)がそううなづくのへ、アレクシアもうなづいて返した。
「私たちはどうしましょうか?」
 尋ねるラーシアへ、答えたのは『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)である。
「取りこぼしのサン・ラパースの排除を願いたい。
 数には数だ。手伝えるかい?」
「任せてください」
 ラーシア、そしてクエンリィとポップルがうなづく。
「吸血鬼の相手では、烙印を刻まれる可能性がある。
 できれば、三人はレナルには近寄らないでほしい」
 『努々隙無く』アルトゥライネル(p3p008166)がそういうのへ、ラーシアたちが再びうなづいた。
「……くやしいけど、自分の実力は、皆と比べて落ちるってのは実感したから」
 クエンリィが悔し気にそういうのへ、アルトゥライネルがうなづく。
「そうやって、客観的に自分を見られるのも成長だろう。
 さて、マッダラー、彼女たちを頼む」
「了解した」
 作戦は決まった。各々がやるべき役目を、イレギュラーズたちは瞬時に理解し、疎通しあっていた。歴戦の戦士ゆえになせることである。
「オレが出る。そこから一気に」
 風牙がそういうのへ、仲間たちが構え、深く息を吸い込んだ。刹那。止まる。
「いくぞ!」
 その言葉とともに、一気に息を吐き出し、踏み込んだ! レナルは理外の存在となれど、いまだその実力は「なりたて」にすぎない。風牙の反応には追従できまい!
「レナル、っつったか。ここで止めてやるから感謝しろ!」
 風牙は叫びとともに、手にした槍を振るった。その様はまさに烙地彗天! 先端より振るわれた『槍気』とでもいうべき闘気は、まるでその槍の穂先を増大させたかのように膨らみ、コウモリ、そしてレナルを巻き込む!
「これは……ッ!?」
 レナルが悲鳴を上げる――ぎゅい、とコウモリたちが悲鳴を上げた。
「コウモリを抑えるよ! 続いて!」
 飛び出したのは、アレクシアだ!
「さあいらっしゃい!そう簡単にはやられてあげないけれどね!」
 手にした魔法杖を振りかざすと、その先端に赤の魔力花が咲いた。それは瞬く間に周囲に赤の花弁を散らす。赤の魔力がコウモリたちを飲み込み、その花の香で誘引するかのように、コウモリたちを引き付けた。
「マッダラー君!」
「承知だとも」
 威風堂々、立ちはだかる泥人形。いや、泥人形というより、それは巨大な土壁とでもいうべきか。強烈な威圧感とともに踏み込んだマッダラーが、飛び込んできたコウモリの牙を、その腕で受け止めた。
「美味いか? だが食われてやるわけにはいかないな」
 マッダラーは、そのままコウモリをつかみ上げると、地面に叩きつけた。ぎゅうい、と悲鳴を上げたコウモリが再び飛び上がろうとするのを妨害するように、無数の妖精兵団がそのコウモリを無残に踏みつぶした。
「はっ――飛べねぇコウモリはただの――なんだろうな、ネズミか?」
 妖精兵団の主、キドーが鼻で笑ってみせる。
「コウモリは、コウモリなのではないかな?」
 アルトゥライネルが苦笑しつつ、そう告げる。
「別に俺も、コウモリ博士ではないのでどうでもいいことだが」
「違いねぇ。害獣ってのには変わらねぇからな!」
 ギャハハ、と笑いながら、パチン、と指を鳴らすキドー。妖精兵団がごうごうと声を上げてコウモリに殴りかかるのを見ながら、アルトゥライネルが肩をすくめた。
「やれやれ、だ。
 しかし、エーニュ。過激派の幻想種、か……その成れの果てがこれとはな」
 アルトゥライネルが静かにつぶやいた。幻想種の為と謳う彼女の眼に、既に矜持などは見受けられないように、アルトゥライネルには感じられていた。
「どうして、あのように追い詰められて、しまったのでしょうか……?」
 ネーヴェが悲し気にそういった。
「まるで、ほかに、道がないかのように……。
 あの人が、追い詰められてしまったのは――」
 ザントマン事件のせいか。いや、発端はそうであったとしても、もはや彼らは怒りと憎悪の自家中毒に陥っているともいえた。閉じた狭い世界で醸成された怒りと憎悪、絶望は、もはや本人たちでもどうしようもなくなってしまったのかもしれない。
「だと、するならば」
 あまりにも。
 それは悲しい存在に違いない、とネーヴェは思った。

●幻想種
「さっきは酔っ払いって言ったけど、よく見たら玩具片手にはしゃぐ子供みたいね?
 何かと御堅い子が多い幻想種だからこそかしら?
 解放感でテンション振り切れちゃってるじゃない」
 そういってみせるゼファー、振り下ろされた槍の一撃を、レナルはしかしその細い片腕で受け止めて見せた。ゼファーとて、非力というわけではない。だが、それでもその一撃を受け止めてなお、余裕を見せるだけの膂力がレナルにはあった。
「解放、ね。そうね、私たちはずっと、抑圧されてきたのよ!」
 唱えるのは『お題目』である。振り払われた槍の方に重心を任せて、ゼファーはふわりと体を浮かせて見せた。間髪入れず、虚空をレナルの腕が薙ぐ。
「外からの圧力、異種族、そして悪意……そういうものから、この力は解放してくれる!」
「どうかしら、ね!」
 ゼファーは、ふ、と息を吐きながら、後方へと跳躍して見せた。追うように薙がれるレナルの腕は、一撃必殺の膂力を秘めていた。
「エーニュってのは仲間を大事に想う組織だと思ってたんだがな。宗旨替えか?
 幻想種から、吸血鬼に!」
 風牙がそういって、ゼファーと入れ替わる様に槍による一撃を加えた。レナルは足を止めつつその一撃を寸でのところで回避して見せると、その右手を強く握った。
「幻想種の未来のために、私たちは自らを捨てても力を必要としているのだから!」
 ぐちぐち、とその爪が、手のひらに食い込む。じわり、と傷口から染み出すのは、血液ではなくて無数の花弁のように見えた。
 ばっ、とレナルがその手を振り払う。手のひらから流れる花弁は、無数のナイフの様に、しかし神秘的な威力を含ませて風牙を叩く!
「いっつ……!」
 肌を切り裂く痛みを感じながら、わずかに視線を動かす。肌を裂いて流れるのは、赤い血だった。
「オレはアンタたちの仲間になる気はないぜ?」
 反撃とばかりに振り払う槍が、荒らしの様に吹き荒れる花弁を切り裂く。一方、次なる攻撃の手に出たのは、シキだ。
「ゼファー、風牙、お待たせ、まだいけるかい?」
「問題なし、よ」
 シキの言葉にゼファーは答え、そして風牙がうなづく。
「あの子、戦闘訓練はしていたみたいけど、まだヨチヨチ歩きね。
 でも、吸血鬼化したからでしょう、私たちに充分渡り合える」
「厄介だね……でも、それ以上に、悲しいよ」
 シキがそう答えた。
「手伝って。エーニュの兵士たちには近づけさせない……血を吸われたら、何があるかわからないし、これ以上血を吸われたら、確実に」
「命はないな。オッケーだ。振り払う」
 風牙がうなづいた――シキは守護者の刃を構えながら、一気に踏み込む!
「烙印で吸血鬼になって随分”綺麗”になったみたいじゃん……!
 血に塗れ、血を啜るその姿が美しいだなんて、私は絶対認めないけどね!」
 位置取りを気にしながら放たれた一撃を、レナルはその腕で受け止めた。果たして本能的に魔術的な障壁でも張ったのか、刃がその肉をえぐることはない。だが、シキはあざけるように笑ってみせた。挑発。
「本来の目的も忘れて、ただ欲望を正当化するだけ……! そんなのが、幻想種の未来を語ってる!」
 再び振り払った斬撃――レナルは衝撃を殺しきれず、痛みに顔をしかめる。
「何を……! 深緑をめちゃくちゃにしたローレットが! 何を!」
「被害者ぶらないでよ!」
 相手の言い訳をぴしゃりと叩ききる様に、シキが叫んだ。レナルが怒りに顔をゆがませる。
 一方で、コウモリたちとの戦いもすでに佳境を迎えていた
「問題ない、ね! このペースなら!」
 アレクシアが再び、誘因の赤い花を咲かせた。その魔性に、結晶のコウモリたちは抗うことはできない。まるで花の蜜に蝶が誘われるがごとく――とは優雅に過ぎる表現だが、それほどにあらがえぬ魔力が、赤の花から零れ落ちる。
 コウモリがアレクシアに襲い掛かるのを、マッダラーが再び体を張って受け止めた。ぎゃう、とかみつくそれを、朱の旗の柄で殴りつけ、叩きとおした。ぎゅ、と悲鳴を上げたコウモリが砕けて散る。
「統率がとれていれば厄介だったのだろうがな。
 吸血鬼、どうやら相当、頭に血が上っているようだ」
 まるで動きも単調――とばかりにマッダラーが言う。実際にそうだろう。敵の統率などは、イレギュラーズたちの戦術により無効化されているに等しい。
「キドー殿、とどめを」
「任せな。馬鹿どもの目ぇ、覚まさせてやるよ」
 ぱちん、と指を鳴らせば、再びの妖精兵団がコウモリたちを文字通りに蹂躙した。踏みつけ、食らいつき、切り裂き、突き刺す。そのあとには、もはや砕け散った水晶の残骸のみが躍る。
「再就職がしたけりゃ言ってくれよ。ワイルドハントにゃ口利きしてやるからよ。
 さて、アレクシア、マッダラー、まだ動けるか?」
「問題なし!」
 アレクシアが笑う。
「むしろここからが本番、だね。倒れてる兵士の人も心配だから、すぐにレナル君を何とかしないと!」
「三人は、このまま後方での援護を頼む」
 マッダラーがラーシアたちにそう告げるのを、三人は頷いて返した。
 さて、コウモリ対策チームが向かってみれば、対吸血鬼戦も激闘を繰り広げているようだった。
「幻想種の未来の邪魔をするな!」
 吠え猛り、レナルがその手を振るう。華(血)しぶきのナイフが、ダイヤモンドダストの様に世界を赤に切りつける。アルトゥライネルがそれを受け止めながら、叫んだ。
「自分達が永遠になることがエーニュの本懐か?」
 その腕に、血がにじむ。まだ変わってはいない。
「――自ら檻の中にこもり、変化のない世を望むか。
 それはカロンと何が違うというのだ。
 ましてや、それを吸血鬼の力で成そうなど、本末転倒もいいところだ!」
 故郷を捨てた身と言えど、同胞が壊れてしまうのをただ見ているだけにはなれない。だが、そのアルトゥライネルの言葉も、吸血鬼としてのぼせ上った頭には、届かないのだろう。
「深緑は、幻想種の手によってのみ運営されるべきなのよ!
 そのために力が必要なのよ……そのための力が、これであるべきだわ!」
「あなたは、力におぼれている、だけです……!」
 ネーヴェが叫んだ。
「それは、危険な力なのに……今あなたは、血の匂いに酔っているだけ!」
 ネーヴェの言葉は、図星を突いたものだといえよう。だからこそ、レナルの逆鱗に、それは触れた。
「ふざけるな……ふざけるな! 誰のせいで、こうなったと……!」
 それも言い訳、押しつけにすぎない。だが、雄たけびを上げてレナルはネーヴェに突撃する――鋭い、爪による、斬撃。それが、空間を走り、ネーヴェは激痛を覚悟する――。
 だが、痛みは来なかった。
 立ちはだかっていたのは、ゼファーだった。
 ゼファーの右腕に、鋭く走る、爪の傷跡。
 その後から、ゆっくりと、『花弁が零れ落ちていた――』。
「なるほど、こういう気分なのね」
 ゼファーが言った。
「でも、貴女みたいにはしゃぐ気にはならないわ。
 強い力を持つのは大いに結構。
 ですけど、力に飲まれて主体が自己から力に取って変わられちゃってるんじゃあね?
 其れじゃあ、何もかも全部台無しなのよ」
 ゼファーは、に、と笑って、その手にした槍を振り払った。レナルがそれを直撃し、吹っ飛ばされる! ゼファーが強烈なのどの渇きを覚えて、片膝をつく。
「ゼファー!」
 風牙が叫ぶのへ、ゼファーは制した。
「あっちを止めるのが先!」
「わかった!」
 ぜいぜいと喘ぐゼファーにわずかに視線を残し、風牙は駆けた。
「アレクシアさん、止めてくれ!」
「任せて!
 同じ幻想種としては少し心苦しくはあるけれど……魔女の術から、そう簡単には逃れられるとは思わないでね!」
 かざされる魔術杖。同時に、再びの赤の花弁。それが、レナルの意識を縫い留める――。
「いけぇっ!」
 風牙が、その槍を振り下ろした。斬撃が、レナルの体を薙いだ――だが、吸血鬼の生命力が、わずかにその生を現実につなぎとめた――。
「私は……じゃあ、私は、何のために……!?」
 激痛が、レナルの体を走る。それがわずかに、彼女を正気に戻したのかもしれない。
 だが、もう遅い。
 変貌してしまえば、助かるすべはない。
「残念だけど――」
 シキが言った。
「さよならだよ」
 振るう。その刃が、黒き獣の姿をとった。
 がぶり、と、レナルの喉笛をかみちぎる。黒の怪物。
 その喉から、無数の水晶の花びらが、飛び散った。いっそ美しくも思えた。
 が、と呼気を漏らして、レナルが倒れ伏した。その刹那、まるで、最初から水晶が人の形をとっていたかのように、その体は見る見るうちに紅い水晶の塊となった。それが、床に叩きつけられるや、澄んだ音を立てて砕け散った。
「力を得て奪う側になれると思ったんだろうが、お前は相変わらず奪われる側だ。
 綺麗な花びらと水晶で誤魔化されてるんだろが、実際はそんなキラキラしちゃあいない。
 お前は温かい血と涙を奪われたんだ。その上、吸血衝動で共食いなんてしちまって、それで俺達が来て――後には何も残らねぇ。
 寄生虫に操られて、鳥に食われるカタツムリと何が違うんだ?
 こんな無様晒して悔しくねえのか? ……大馬鹿野郎」
 キドーが、もう存在しない彼女に、そう呟いた。
「ゼファー様、大丈夫ですか……?」
 ネーヴェが尋ねるのへ、ゼファーは笑ってみせた。
「……ええ、ダイジョブ。それより、生存者を救出しましょ」
 その言葉に、皆はうなづき、返すだけであった――。

成否

成功

MVP

マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この後、若干名の生存者は応急手当をされ、一命をとりとめたようです――。

※ゼファー(p3p007625)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。

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