PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性アーカム:七十と七百の歩み

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ドリーム・ウォーク
 練達――探求都市国家アデプトには再現された『旅人の世界』が存在していた。イレギュラーズである君はそのことについて広く浅く、或いは広く深く、知っている事だろう。それでも、総ての事を把握出来ているワケではない。此処は『とある旅人』が憧れと懐かしさで以て造り出した新たなる箱庭――その名を『再現性アーカム』と謂う。
 再現性アーカムには様々な『もの』が組み込まれている。基本はアメリカと呼ばれる『国』がベースだがあらゆる年代、あらゆる土地が含蓄されている。とある者は此処をロンドンと呼び、とある者は此処を東京だと宣うのだ。まさしく混沌が相応しいこの地で新たに発見された区画がある――いや、正確には、夢と現の狭間と称するべきか。
 無数の人々が自らの肉を放置して、ただのアストラルだけで並んでいた。ぼんやりと、意識も目的も玉虫色な人々は一歩、また一歩と、異常なまでに長い、永い段を降っているのか。浅いのか深いのかもワケ知れず、痴れたかの如くにぽつぽつと進んでいく。
 ――気が付けば馬面の獣に跨っていた。
 ――気が付けば天高くへと駆けていた。
 わからない。わかるはずがない。が。
 ――きっと、この先には、見た事も無い美しい光景が広がっているのだ。

●眩暈階段
「……まあ、つまりだね。キミ達を呼んだのは、だ。階段を降った先で『何を視たのか』教えてほしいって程度の依頼さ。別に、命の危険があるだとか、そういう、荒っぽい事じゃあない。なんだって? ボクが依頼人だと胡散臭い? 一般人になんてこと謂うんだ」
 再現性アーカム、プロヴィデンスにお呼ばれしたイレギュラーズは『曖昧なまま』に依頼人である『N』の周囲で坐していた。
「おっと。階段が何処に存在するのか、だったね。夢だよ。正確に謂えば現実と夢の狭間って感じだね。勿論、どんな種族でも眠れるように場は整えておくさ。ボクだってそんなに間抜けじゃない――あ。そうそう。命の危険はないって謂ったけど心の方は知らないね。それと『とある夜妖』のテリトリーでもあるから気を付けてくれ給え」
 ――ボクがとある夜妖の別存在だってのは忘れなよ?

NMコメント

 にゃあらです。
 夢に求めるのは。

●再現性アーカム
 再現性東京を真似したくなった何者かの創った街。
 街ですが、色々なものが組み込まれているようです。
 時代から土地まで滅茶苦茶になっています。
 いよいよ夢にまで侵蝕され始めました。

●目標
 夢の階段の『一番下』に何があるのか確かめる。

●人物
 一般人『N』
 依頼人です。
 あなたは彼女を『とある夜妖』に似ていると感じても良い。

●とある夜妖
 とある夜妖です。
 夢の世界の管理を行っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はLです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる場合があります。
 全て成功判定になります。


夢を見る
 どうやって眠るのか。

【1】眠る
 普通に寝ます。

【2】薬を飲む
 一般人『N』から眠剤を貰えます。
 依存症になるかもしれません。


階段の下
 あなたは何を見ましたか?

【1】過去
 あなたの過去が見えます。
 ただし、何処か歪んでいるようにも思えます。

【2】未来
 あなたの未来が見えます。
 ただし、良いものとは限りません。

【3】とある夜妖との接触
 とある夜妖があなたの前に出現します。
 この夜妖はあなたの事を狂わせようとするでしょう。
 狙われている、もしくは呪われている場合、どうなるかわかりません。

  • 再現性アーカム:七十と七百の歩み完了
  • NM名にゃあら
  • 種別 カジュアル
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月15日 20時40分
  • 章数1章
  • 総採用数15人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神

 人類モノマネヘタクソ選手権を開催してみては如何なのか、と、手足頭の無い泥濘が煽ってきた。二つ返事で飲み込んだシャーラッシュ=ホーの臓腑、果たして滑り落ちたのは死んでいるものか、生きているものか。一般人? 今、一般人と謂いましたか? いや、まさか、そんな莫迦げた科白なんぞ『ある』ワケがない。こんなにも反吐が出るのは死骸を奪われた時くらいだ。私の耳には一般人と聞こえたのですが、お前がですか? まったく耳の中までイアイア刻まなかった所為だ。もぎ取られたに違いないのだよ。冗談は顔だけにして欲しいのですが、それとも、寝言は寝てから謂ってください――おや、これは失礼。お前には貌がありませんでしたね――何かしら大切なものがブチリと切れた、最早、眠る必要もなく墜ちていく事だろう。そう謂えばあの夢見人は元気でしょうかね。アレを相手に帰る事が出来たのです。ああ、やはりですか、招待状は破いた筈ですよ、お前……。
 階段を降る事なく両足ついて、はらはらと塵芥を祓えばご都合主義な尖塔の一番上。獣と人の狭間でどっかりと威張るアレのなんとも『ツマラナイ』登場か。そうですね、此処も、あの森みたいに燃やしましょう。だばだばとうたうガソリンの最中、アレがびちびちと跳梁した――はやく帰ってくれ! ボク等は今日忙しいんだ。
 それでは帰りましょうか。
 如何やら「化身が違う様子ですし」、ええ。
 八大地獄で赦しておきましょう。

成否

成功


第1章 第2節

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師

 宴に必要なのは死霊秘法だ。
 ウルタールが苦虫を噛み潰す。
 喰らい尽くした改行無しがひどく胸を焼いてくる、焦げ付いた表現方法に脳がやられて、度し難いほどの面構えを残してくれた。暮れるような思いを埋めたのはおそらく、嗚呼、誤って『死んでいる』と考えられたヒトサマ程度だ。ああ、先日、奇妙な森を『燃やした』んだけど。臓腑に鉛が、ぬめりが溜まっているような、不快感――そうだ。握りしめて包まろう。抱きしめて、落ちてしまおう。かつん、かつん、と、聞いた事のない、金属片の転げるような響き――真っ赤な目玉の獣に絡み取られて、どたばたと、階段をくだる。
 緑だった。あの、憤慨の森のような緑の中心で、くされた炎のようなものに囲まれていた。何者かが笛を吹き、ダムダムを滅茶苦茶に叩く瞬間、奥の方から『アレ』は貌を晒した。玉虫色のヴェールを纏うサマの嫌がらせじみた登場の仕方――デ、アンタ、どこのどちらサン? 生憎、大地クンの魂と器は俺様のモンなのヨ。可能性と称される粘土の一部を紙粘土に引っ付けるような所業だ。少なくとモ、俺が在る内は、ナ……。
 哄笑――嘲笑――申し訳ない。キミ達が『変わっていて』遊びたくなったんだ。だって、ほら、癒着と謂うには、ひどいツギハギぬいぐるみだと思わないか……? アンタに謂われたクねぇヨ。ハード・カバーが図書館で自由にしているなんてオカシナ話だ――仕方がない。禁書の棚に戻っているよ。

成否

成功


第1章 第3節

シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士

 森だ――先日の深い、深い、黑よりも黯な、憤慨へと到る階段ではなかった筈だ。ぐるり、シューヴェルトが双眸をやると、其処には集っている鼠どもが在った。がりがり、がりがり、何かしらの骨を齧っている。刹那の内に理解してしまった己は、嗚呼、まったく鋭利さにやられていた。此処は森だ。ただの森ではない。自殺者の森だ――おそらく鼠はハルピュイアの真似事なのだろう。嗚呼、鬱陶しい。断罪を免れた者が背を伸ばしているとは……。
 確かに僕は誓ったのだろう。彼か、彼女か、玉虫色な存在に「守ってみせる」とこぼしたのだ。だが、それも今日までだ。人に対して、善に対して、全に対しての『マイナス』そのものだと嘲笑うならば――僕は、生まれてから今までの僕を、抑え込んでいられるほど、お人好しではない。お互いに、マトモではないな。
 ――この嘘吐きめ。お人好しだと書いてあるではないか!
 繰り返す、繰り返す、夢に出てきた存在の名前を、阿呆みたいに、白痴めいて、反芻する。名前で君を固定したなら、さて、こわさも半減と謂うところだ。ハハン、さては正体不明を、鵺を、ボク等を殺す為に準備してきたんだな……? 打ち負かしてやろう。そして、僕が君の業を背負ってやろう。これは大きく出たね、わかったよ、馬面くらいは貸してやるさ。
 ――其処で意識が戻ってくる。
 お目覚めだね、如何だい、目当てのものは見つかった?
 見つけたとも。僕は見つけたんだ。

成否

成功


第1章 第4節

リリーベル・リボングラッセ(p3p010887)
おくすり
ルエル・ベスティオ(p3p010888)
虚飾の徒花

 星が怯えていた。
 蛆虫、ドール二人の来訪を。
 ――欠片も残さず冒涜とした、不安定な胃酸の数々。
 ――ねえ、リリーベル。

 黄金色の丸薬を目と口の狭間に近づけて魅せた、総てが引っ張られる感覚に陥る最中、オマエ、リリーベルは如何様な朦朧に襲われたのか。こてり、可愛らしく、ゆるやかに、阿片に呑まれるような相貌で、溢れんばかりの段々へと導かれた――果たして、ふわふわになった彼女を観察していたのは混沌だったのか獣だったのか、度し難い、名付けられない想いに晒されて地獄の門が解かれる。これは本当に奈落への誘拐だったのかい? ねばつくような嘔気は、成程、刺激し尽くされた臓物の仕業だったのだ。今度はキミの番だね、と、ぬくぬくした羽毛が囁いてくる。知っている、知っている事さ、ご臨終と唱えられた数々の球体は、卵は、細胞諸共に絶滅していく――ごっこ遊びがヘタクソな奴め、そんな罵声を耳にしながらオマエ、ルエルも身投げした……。
 段の大きさは一歩一歩進む度に混迷として往った、愈々、足元を掬われそうに、救われそうに成った頃、それは七十一段目か。ふわりと、ぐるんと、整っていた視界が眩々とし、次の瞬間には暗黒へと縛されていた。いや、違う。これは……わたしは神様に星を育てる使命をもらった天使で……杖を振ろうと腕を振ろうと、思考で満たそうと、何回やっても上手くいかなくてー……。ブラック・ホールとホワイト・ホールに挟まれてピンク色のいいにおいを吸われていく。いかなくて? やり直せばいいから、星を……? ええ。潰して。あの、騒々しい集り具合は人間と称された生物だ、あ、もう人じゃないや。それから、それから……わたしは――ジュースみたいに加工して、がんばれって誰かに渡す。
 巨大なストローを用意して、ツッコミ、あふれそうなジュースを咽喉へと流していく。潤いに満たされた獣は、嗚呼、胸元を汚してしまった。あれは私ちゃんが喰い尽くしたリリの星の方々かしら? 改めて、ハッキリとした意識で眺めても、今更、罪悪感もクソもない。しかし、彼等もひどく愚かなものだった。まるで世界は混沌だと嘆くようにして、己の在り方を正義だと主張する犬――愛おしさが増していきますわね。ぐぅ、ひしゃげた蟾蜍の如くに嗤った腹、腸、無間……ああ、またお腹が空いてきてしまいますわ、ねぇ、ねぇ……。
 昔の話に、過去の副産物に、傾倒するオマエ等の輪郭は、チョコレートめいて映るのだった。足りない、足りないと、お互いの時に縋るサマは人にとっての迷惑千万か……。口移しした結果が最下とは本当に揃った夜が大好きなのだな。
 お互いの首に輪をかけて、されど、勢いよく千切れるカッコウになった。塵芥に妬まれ、恨まれ、睨まれたとしても、あらゆる事柄はエネルギーでしかない。

 何もかもわからなくなったら、俺くんが……。
 わたしはちゃんと見ているし、見てくれているなら、大丈夫。

成否

成功


第1章 第5節

ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
温もりと約束

 固形物が殆ど残っていたんだ、と、横たわった儘に吐き散らかしたヴァレーニエ、真っ赤、果肉か果汁の所為かは解せないが、まるで甘酸っぱさの欠片も知れない苦は広がっていた。眠りへの誘いはまったくひどいもので、この有り様を如何すれば良いのかジョシュアには判別し難かった。最早、コントロール出来ない己の身体、いいや、魂だけに成っているのか。インスタントに幽体離脱をさせるとは、夜妖が出鱈目な事を謂う。段々に到着したオマエは底へ底へと降っていく。降った矢先に現れたのは視たくもない同胞だった。
 雪だ。つめたい雪が積もっている。齢13だった己の頭の中身がどのようなモノかは予想の通りだ。此処にずっといたい。追い出されるなんて、そんなのは嫌だ。本心なのかも判らずに、一生懸命、他の誰かさんの命令を聞いていく。これで、僕も皆様のお仲間になれますか。なれますよね、ええ、ありがとうございます――今日は栄養剤を作ってくれないか。バケツいっぱいに頼むよ。おかしい、こんな記憶はなかった筈だ。あった気もする。僕に任せて、やっておくから……。
 どぷん、オマエの血液がいっぱいにふるえている。腸詰めにでも使うのかと白銀が嘲ってきた。可笑しいのだ、如何してこんな、雪の日に、太陽が出ていないと謂うのに、そもそも、あの頃の僕は贈物を揮っていたのか。
 空を見ようとしたところで意識が遠退いた。
 ――オマエほどの害獣を、私は視た事がない。

成否

成功


第1章 第6節

ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜

 不在証明――悪魔と揃えば、愉快な水掛け論が出来そうではないか。
 現実とは奇妙な代物で在る。物語、つまりは幻想と違って、思い通りとは成らないのだ。アドリブが大得意な神様、上位存在とやらも現実サマには翻弄されてしまう。つまりだね、ボク等もキミ等も、今のところは健全なキャラクターってワケさ。渡されたおくすりを口腔へと放り込む。ヤケに苦々しいな、そう、譬えるならば、クソみたいな人生を送ってきた、ヨソサマの魂の如くに――頭蓋骨から脳漿が飛び出るなんて、どんな感覚だっての。おい、そこの君だ、オマエだ。よくもまあ早々に正規ルートから外れてくれたね。知らない貌を知っていると思うのは燃やしたからか? 夜妖様も本当、スサマジク暇なご様子だ。わざわざ悪魔を召喚したんだ……わざとだろ? あんな如何にも燃やしてくれって這えてきた面白いモノを無視するなんて、ああ、そんな非情なことをオレは出来ない。このロクでもない蠅の王が! オマエの為に用意してやったのだぞ、この、糞の溜まりを……。
 お互いが存在を証明しただけのことだ。成程、これではまさしく糞のカーペット。ペッカートの足元でウジウジと騒がしいワームが誘っている。そうかい、爽快か。弱い者を踏み躙って遊ぶサマは、夜妖と性質が似通っている――で? 同族嫌悪サマはいったいオレに何をしてぇんだ? おまじないさ、シャレオツ元イモータル……。
 反吐が出る、そのままの意味。

成否

成功


第1章 第7節

問夜・蜜葉(p3p008210)
乱れ裂く退魔の刃

 再現性アーカムには幾つかの噂が蔓延っていた、今回はそのうちのひとつを紹介しよう。背徳、悪徳、それも、暴力的なものに、色っぽいものに憑かれた者の末路だ。彼、もしくは彼女は溺れに々れ、挙句、頭を失くしたのだと謂う――ま、そんな悪夢を聞かされたら誰だって眠れなくなるよね。半ば無理矢理掴まされた錠剤を問夜・蜜葉は飲み下した。その刹那から落ちていく意識、まるで身体から魂が抜けて往くような心地の良さで有った――ええと。確か、私は薬を飲んでから、そして……ここはどこ? 随分と大きな果実だね、と、輪郭が滅裂なマウスに揶揄われた。もう、なんてこと謂うんだ。まったく、夢の世界の獣性は人間様への気遣いがなっていない――自称神様に誘われて山羊のレア・ステーキを貪る。
 真っ黒い山羊の肉なんて初めての経験だった。ソースに使われていたのはおそらく、空飛ぶ馬面の群れの卵に違いない。咽喉を、臓腑を、蠢きながらめぐる沙汰の名状し難い満足感。如何だい、君の為に用意したのさ。おいしいよ、身体の芯からあたたまるね。じゅるり、留まる事を知らない食欲が涎となって……いや。これは食欲ではない。悪いものだ、悪いものを取り込みたいと精神が餓えている、渇いている……!
 オマエはひどく冷静な状態に陥っていた。
 目と鼻の先で黄金に輝いている君を、ちゃんと悦ばせたら、きっと、ふたつめの球体のように狂う事が出来るのだ。
 ――私は三月うさぎ。

成否

成功


第1章 第8節

トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

 異物が混入したように世界そのものが縮こまる。
 絶滅してしまったベッドのぐるりに、如何してかひとり横たわっていた。傍らに有った依頼人もいつしか、影形と失せており、咀嚼出来ない儘にトール=アシェンプテルは弄される。ぬちょりとこびりついた物の名称は眠気と謂って、ただ、青々とした脳の芯まで埋めていく。かつん……かつん……何秒か、何分か、何時間か経った後、ようやく精神だけで降っていた。そろそろ最下層だろうか、そんなボンヤリとした思考がハッキリと『道』を認める……。
 とある少年が僕を見た。お姉ちゃん、あそこにオウムさんがいるよ。とある少年は私に語り掛けていた。とある女の人が僕を見た。またしても、私とだけしか遊んでくれない。そう、私には友達が沢山いるけど、僕にとっては、みんな、みんな、無関係な人なんだ。夢物語に憧れて剣皇ごっこを楽しんでみる、総てが、全てが大嘘だ。格好いいものが手を振って「助けにきたよ、お姫様」、と、嘲笑う……行き着く先に僕の居場所はあるのかな。
 空席のブランコが番を探していた。
 揺れないでくれ、僕は男だ。
 大掛かりな廻り舞台だった。自分がふたりに『わかれる』なんて、滅多に味わえない幻想だ。キラキラと輝く世界がぐるぐると、僕か私を中心にして回っている。止まって、止まって、何度も何度も、僕は歯車に縋っていた。今一度、立っていた。
 ――私が微笑している。
 私が、私が、私だけが……。

成否

成功


第1章 第9節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 ※※※※黙示録の冊数を忘れたのが原因だった。
 ――彼が首を抱えているなんて、メリー・ユールを想起させる。
 痛みを感じていないのか、突き刺された腸が悦んでいるのか、何方が肝なのだとしても、現実、アルコールと眠剤の相性の良さについては語るべくもない。じくじくと浸透して、振盪していくかのようなドンペリが愈々、己の高級さを、品の無さを自覚していく。いや、自覚を失くして終うと描写した方が宜しいだろうか。噛み付くかの如くにジャーキー、ジャンキーは塩だけでも十分だと、潮だけが好いのだと喚いてくれていた。いやはや、大事な妻さんにゃちょっと教えられない味だ。此処でまさかの逆回りする時計、目玉が前後ろに引っ付いているとは驚きじゃあないか……。
 ドクター・ストップの意味を理解出来ないほど、かみさまに近寄ってはいない。どうしてなのでしょうか、と、問い掛けたところで何処かのボゥボゥは耳を貸してくれない、つまり、今でも、これからも、わからないものはわからないのだ。ええ、それでも、きっと、僕の身を案じてくれてのことなのでしょう。羊羹の脆弱性を思い返しながらの甘受性、おそらく、オマエの感受性の豊かさを観ての忠告だろう。あ、錠剤が落ちていますね。これは二日酔いに効果的なお薬でしょうか。しーちゃん、僕の夫さん、史之はいずこ……?
 脂っこい、油っこい炒飯がねっちょりしていた。得意な料理だとは聞いていたが、さては、余計なモノまでぶち撒けてしまったな……?
 段々と落ちていくサマの、なんとも、俺らしい展開ではないか。雑に塗布された軟膏の臭いを拭いつつ辿り着いた先には夜妖サマ。やあやあ、大人気じゃないか。頭を垂れずに転がして憎まれ口とやらを掌から漏らす。誰がっておまえだよ、おまえの話さ。誰も彼もが接触したがってる。酸いも甘いも混ぜ込んじまった様子だね、おともだちが増えて楽しいだろ――まったくオマエと謂う奴は! 確かに、悪徳とやらがお似合いなんだろうよ。
 ――夢の中、出てきたのはだあれ?
 ――籠の中の鳥は、ああ、本当に汚いものが大好きな蠅だった!
 ――うしろのしょうめんなぁに。
 とっくに睦月は終いだって咀嚼していて虚の道化っぷりと謳うワケか、また凄まじく遠方へと出掛けたのだな。なあ、オマエ、酩酊していない所以を伝授してやろうか……? わざわざ説明しなくたって俺は知っているさ。まだ、脳が再構築されていないんだろ……。そいつは結構! 盃に注がれた知性とやらを二人して跳ね退けるのかい……! 最初の人類ごっこもお上手なものだ、始末に負えない。
 ――しーちゃん、そっちはだめ。戻ってきて。
 ――カンちゃん、背が伸びたね。どんな睦月もかわいいよ。
 夫婦水入らずで楽しむが最善、まあ、なんだ、こんな夜妖に構ってる暇があったら、バニーなカッコウでイチャイチャするのが素晴らしい……。
 末永く延焼しろ、憤慨が嫉妬に変わるまで。

成否

成功


第1章 第10節

ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜

 一歩。
 この一歩こそが、俺を俺とする為の、唯一の術なのだ。
 名も無き都市の最下で己の棲家を認める。
 愉しみを求めて、悦びを欲して、自ら、狂気の沙汰へと飛び込むサマのなんと謂う愚かな事か。均された道を拒絶し、導そのものを否定する貌の、嗚呼、歪んでいる輪郭のグロテスクな事か。傲慢に溺れた悪魔サマは最早、ペッカート・D・パッツィーアは愈々、楽園とやらへの門に到達する。そうとも、階段を降りた先には鮮明な、ハキハキとした『未来』が在った。アカシック・レコードが、副王サマの玉虫色が晴れていくなんて、こんなにも嬉しい事はない――世界の問題は全て解決している、英雄サマの出番は死んでいた。
 眩んでいる、オマエだけが暗んでいる。
 少年が風船を追い掛けていた。少女がぬいぐるみを抱えていた。青年が僥倖を口に含み、彼方の妊婦は安寧へと横たわっている。まったく平穏な光景だ。嗚呼、まさか、この中に――いじめっ子精神が這入って良いとでも? 俺は入れない。俺のようなものは赦されない。それでも、踏み出してしまったのは天使の目玉の仕業なのか――奈落、タルタロス……。
 呑まれていく、堕ちていく、在り来たりな虚れの内側、刹那に覚えた反吐へ感謝を注いだ。そうだ、俺には、あんな光景こそが地獄なのだ。俺には全き、闇黒の方が似合っている。いよう、同族嫌悪、糞の溜まりは気に入ったかい?
 黙れよクソッタレ、二度と出遭ってやるものか。

成否

成功


第1章 第11節

ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

 混沌世界に根差したセカンド・ライフの謳歌。
 記憶を掘る。
 ……猿轡。
 野生を失くしたヤクのミルクを味わうかの如くに、天然な、青々とした茫を睥睨していく。くるみ割り人形を彷彿とさせる機械的な挙動は、成程、まさしくデウス・エクス・マキナからの豊穣か。ルトヴィリア・シュルフツは不満げな貌を隠して横たわる、嗚呼、これでは物語に出てくる山のよろめきではないか。いある うなる うが なぐる――まったく流暢な事だと管理者は後に語る――いや、まさか、魔羅の猛々しさに呼ばれた云々とは思われたくない。段々から転がり落ちた結果が虚のザマだ、殆ど生で喰われている。
 黒山羊よ、黒山羊よ、千匹の仔を随えた、悍ましくも遥か黒き森の祖父よ。また、素晴らしいほどの体液を散らかして往ってくれたのだな。重ねて、ユッグゴトフの頭部の明滅を報せてくれたのだな。鳴き声が脳髄に浸透して心からのジュースだ、振盪よろしく鉄の味までぼやけてくる……我等は魔女也。貴様の血を、肉を、在り方を……信仰し、奪うものなりや。この冒涜的な異端者め、己の導を無碍にして上も下も掻っ攫うと謂うのか。その命の尽きるサマを、その供物を――夢見るままに待ちいたり。
 過去は如何足掻いても過去だ、乳房に集って啜る、醜い姿を隠す術などない。
 逆流したところでこぼしてはならない、偶蹄目……偶蹄類……。
 ……ああ、変な夢だった。
 熱く、熱く、紅蓮地獄が身に在った。

成否

成功


第1章 第12節

シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

 此処、アーカムと呼ばれる街は美しかった。
 睡眠不足を治す方法はただのひとつ、つまり、オマエにとっての大切を枕と見做すのが好ましい。生ハム原木を頭部に押し当てて、ぐっちょりとした脂と香りを楽しみ、味わう。混沌とした世界でのはじまりの贈り物――意識していたのか、意識を無くしていたのか、気が付けば僕は戦場のど真ん中に在った――誰と誰が戦争をしている? 何と何が闘争をしている? 疑問は刹那の内に解消された、消化された。ああ、どうやら接触出来たか。それにしても貌無しの護謨質に跨る猫と屍の数々、カオスに墜とされてはたまらない、か。
 別に、僕は争うつもりなんて欠片もないんだ。正直、君が神様でも夜妖でも、僕にとっては些細な問題なんだよ。ただ……この再現性アーカムで何が起きているのか聞きに来た。ぐるり、黄金色の衣を纏った『それ』が宇宙を晒す。この街はね、イレギュラーズ、この、正気の沙汰ではない状況こそが神意なのさ。プロヴィデンスなのさ――なら、余り干渉してくれるなよ。視るだけなら構わないが、表に出てくるなら……。響く哄笑、爛れる嘲笑。解・憂炎だったね、救いようがないのが唯一の救いなのさ、彼等にとっては!
「僕らは友好的な関係でありたい物だろ……?」
 帰りの馬面はよろこんで用意させてもらったよ。
 さあ、乗った乗った、お土産の卵も忘れないでよね……。
 おそろしく跨り難い鳥獣に誘われて闇黒へと沈んでいく。

成否

成功


第1章 第13節

トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて

 アルコール・ランプを点したのは忌々しいほどの笑みだった、無数の墓石に囲まれて、おやすみなさいを聞くサマは、嗚呼、トキノエにとってのノック・ノックなのだろう。最早、回数を忘れて、シナプスを失くして久しく、包まった赤子のような安堵感に疑問をおぼえる。ひどい皮肉ではないか、みにくい幼子ではないか、桃の色をした顔面に泥溜まりをくわえる。一段また一段と降っていくのに所以など在らず、しれた精神の儘にやまいだれを隠す……。
 あの、やわらかな表情を晒したのは誰だったのか、うすらボンヤリとした脳髄が本格的にぬくもりを欲している。もしや、彼女は、俺の母親ではないのだろうか。そのお隣で破顔しているのは、あれは、もしや、俺か? 俺なのか? 一生味わう事がない、生涯、思い返す事がない酩酊感に襲われる。こんな吐き気を俺は知らない。こんな頭痛を俺は知らない。浮かび上がりそうで、沈んでいく、昏々とした夢の世界の糞尿……いっそ俺の目を潰してくれよ神とやら、夜妖とやら、混沌とやら……目と鼻と口と耳を描いた罰だ、苦しめ、もっと、苦しむのだ。宿主の死骸から現れた蛆サマの尺取り、くわばらくわばら……。
 吐いた。我慢出来ずに、耐えられずに、身体の内側、臓腑に重なった、遅延性を吐いた。同時に、母の顔がドロリと溶けていく。気の所為だ。俺の頭の中が勘違いして、汚物と暈なった程度なのだ。ブヨブヨとした化粧を剥ぎ取る。
 ――熱病だ。

成否

成功


第1章 第14節

 上へ、上へ、階段を往く君達は、果たして何を見て、何を理解したのか。正気なのか狂気なのかも曖昧な中、混沌の囁きを耳にした――我が名は――なれば。脳内に残った、滓のようなザワメキにかるい朦朧をおぼえる。兎も角、これにて依頼は達成された。夢物語の一幕に精神だけを落として――。

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