シナリオ詳細
<鉄と血と>明けを目指して
オープニング
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ひゅうと吹き荒ぶ風が頬を叩きつけ、その冷気ばかりを残してどこかへ去っていく。肺に取り込む空気もまた、刺すように痛い。
「朝が来ればまだマシなんだがな」
「……仕方ないさ。奴らに昼夜は関係ない」
からからと笑う男に肩をすくめ、赤毛の青年――スカルレッドは横合いから襲い来る冬狼の攻撃を紙一重で避ける。すかさずその首に刃を立てれば、狼はキャイン、と鳴きながら空気に溶けた。
春の気配はまだ遠いと嘲笑うかのように、ウェスカー傭兵団へモンスターたちが押し寄せる。賞金首がいるという話をどこかから聞きつけたか、囚人が混ざることもあった。今のところ傭兵団の敵ではない、が。
吐息に白が混じる。寒さが足取りを重くする。先の見えないような夜の帳が包み込んでいる。
一つ一つは鉄帝で特段珍しいものではない。されど長い時間その中に在ったなら、精彩を欠いていくのは必然とも言えよう。そしてそれは時として命をも取りこぼす。
「下がれ!」
武器ごと腕を氷漬けにされた青年がよろける。仲間たちがその体を支え後方へ連れゆくと同時、銀狼の煌めきが精霊へ向けて一直線に駆けた。
キン、と甲高い音を立てて精霊の体にヒビが入り、崩れていく。それは地面に落ちることなく霧散して消えた。
「ミロン、気を抜くなよ」
その傍らに迫る獣の息を止め、スカルレッドはミロン・ウェスカーに背を向ける。その姿を見たミロンはふっと小さく笑った。
「お前がいるんだ、少しくらいはいいだろ」
「――」
背中合わせに武器を構えても、背中越しからの応えはない。強いて言うなら、やや呆れた様子で。こちらの方が年上のはずなんだがなあ、なんて思いながらまた1匹屠る。
「どっちが多く倒せるか勝負しようぜ」
「……今更?」
「今だから、だろ?」
まだ明けまでは遠く。それを思わせる赤の髪が振り返って、やれやれと言いたげに小さく笑った。
「負けるわけにはいかないな」
「おうよ!」
スカルレッドの言葉にミロンがにっと笑う。誰にだって負けるものか。傭兵団の仲間でも、敵でさえも。
逢いたいという言葉に恥じない姿を――ポケットに忍ばせたそれに軽く触れ、ミロンは止めどなく迫り来る敵へと構えた。
●
帝都《スチールグラード》へと攻め込む時が来た。
「皆さん、準備は念入りに! 作戦への参加受付はこちらです!」
ブラウ(p3n000090)も人の姿を取って――そうでなければ、人混みの中では蹴鞠のようになってしまいそうなので――あちこちを駆け回りながらイレギュラーズを案内し、見送っていく。
新皇帝はこのような状況にすら揺らぎを見せておらず、フローズヴィトニルの冬風はいまだ鉄帝に渦巻いて、吹き込まれるだろう春風を寄せ付けない。
向かい風は強く、されど為さねば成らぬのなら他に手段はない。鉄帝の各派閥が戦果を手札として揃え出し、他国の協力も得られた今こそが攻め入るチャンスである。
(先に行った方達は大丈夫でしょうか……)
ブラウは忙しさの中でふと、案内の済んだ依頼書へ視線を向けた。もう出発したイレギュラーズたちは少なくないが、その中でもラド・バウ防衛のための援軍として送った者たちは交戦しているか、戦闘を終えているか。いや、もしかしたら敵がまだ押し寄せて苦戦しているかもしれない。
各派閥の中で、ラド・バウのみは帝都に存在する。敵陣の中へ拠点を構えているために、防衛戦を強いられるのは致し方がない。とはいえ、帝都の中でも中心にあるそこは間違いなく最も危険な場所だ。
ラド・バウは大精霊ミシュコアトルの『炎の楯』によって防御結界が張られているが、全ての攻撃をその防御結界で防ぐには限度がある。故に、闘士や傭兵団が敵を抑える戦地へイレギュラーズが送られたのである。
避難民も、闘士も、傭兵たちも、もちろんイレギュラーズも。誰一人欠けずにすみますように――と、ブラウは思わずにはいられなかった。
- <鉄と血と>明けを目指して完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ミロン・ウェスカー。褐色肌の偉丈夫は、特に貧民層では知られた人物だ。
時に弱き者へと襲いくる脅威の救世主として。
時にスラムから羽ばたいた憧れとして。
時にウェスカー傭兵団に属する者たちの目標として。
そんな男がとある人物を探していることは、近しいものであれば知っているだろう。ミロン――本名をミロン・ヴィクトロヴィチ・ウェスカー――そのミドルネームにつけた、敬愛する父。かつてスラムから彼を拾い、育て、行方をくらませた男。
(果たして、どう思われているのか)
『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は義息子のことを思う。どれだけ成長したのだろうか。どれだけ強くなったのだろうか。これまでどんな思いを、してきたのだろうか。
ウェスカー傭兵団が構えているとは言えど、もしかしたらミロンは別の戦場へ出ているかもしれない。もしかしたら同名の別人かもしれない。頭の片隅に浮かんだ疑念は戦闘音で断ち切られ、視界に映った男を一瞬で目に留める。
信じられない。けれど、確かに、其処に在る。
「……ミロン」
「……そうですか、あの方が」
呟きを拾い上げた『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)が視線を同じ方向へ向ける。記憶と同じではないながらも、面立ちは記憶の中のそれに重なっているのだろう。
「はい。私の義息子です」
起こした記憶を肯定すること。家族を認めること。それを他者へ伝えること――これまで為してこなかったことに、ぐるりと自分の中の何かがひどく掻き回されるかんしょくがあって。彼の元へ向かいながらヴィクトールはその感情を奥深くへ封じ込める。
「ならば、格好つけない訳にはいきますまい」
そうでしょう? と未散が歌うように告げる。義息子の前で、無様な格好を晒す訳にはいかないだろう。
「ええ」
故に、ヴィクトールも頷いて。彼の瞳へ――表面的な笑みを浮かべて――映った自身を見た。
「久しぶりです、ミロン」
その目が見開かれる。掻き乱す想いは、ずぅっと奥に封じ込めて。
「私が、私達特異運命座標が、貴方の手伝いをしましょう」
――それくらいしか言えないから、それだけを告げるのだ。
「まずはバトンタッチなのだわー! おねーさんに任せて!」
『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)の溌剌とした声が戦場へ響き、敵の視線をも惹きつける。突き刺さるそれに、しかしガイアドニスは明るく笑って見せた。
「ずーっと、おねーさんだけ見ていて良いのよ!」
その言葉へ応えるように、ずるりと敵の群れが動き出す。そこへきゃらきゃらと笑い声のような音を聞かせながら、霧氷魔が飛んで跳ねて、敵に突き刺さらんと降り注ぐ。
(ラド・バウの防衛、フローズヴィトニルへの対処、それに……ヴィクトールの義息子さん)
気にすることは多いと『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)は思う。それでも目指すは誰一人欠けることのない朝。美しい朝焼けを目指して。
「皆、ここらおれっちが支える! どんどん行ってくれ!」
「それじゃあお言葉に甘えて!」
リックの言葉に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が飛び出す。腕に抱えた小石へ消えることなき神の炎を灯し、光源としてばら撒きながら1体の敵へと肉薄した。
「一旦ここはボク達が受け持つよ! 少し休んで!」
「護るのは元々俺の仕事だ、アンタたちが体勢を立て直す時間稼ぎ程度はできるさ」
『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は焔に並び立ちながら巨斧を掲げる。絶対零度の冰砲撃は幻でさえも凍り付かせ、粉々に粉砕された。
「ふん、数が問題か」
わらわらと寄ってくる冬の精霊にエイヴァンが鼻を鳴らした。これは無理ない程度に――しかし早々に傭兵団の者たちの助力が必要になりそうだ。
そこへ決して止まらない。誰にも止められない収奪のかいなが伸び、新たに群がらんとした狼たちを呪い殺さんと捕らえていく。操るヴィクトールは横をすり抜ける朱の色を見た。
「――休まなくて良いのですか」
「問題ない」
端的に、それ以上の言葉は残さず。スカルレッドは的確に敵を屠っていく。ヴィクトールは彼のことを巻き込まないよう注意しながら、八岐大蛇を顕現させた。
「さて、今宵限りではありますが――ふたりの間を邪魔する全ては、ぼくが防ぎましょう」
心此処に在らずな親と、その親を見てから動きのぎこちなくなった義子息への小さなお節介。前線へ降り立った未散へ視線が突き刺さる。
「どうぞ、ぼくは此の通り元気ですので。傭兵団の皆様には少しお休み頂きますけれど」
だからと言って、そう簡単には倒しませんとも。その言葉を裏付けるかのように、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の飛ばした式苻が、敵を一掃せんとその効力を発揮する。
(そして、ふたりの背中を押す位、良いですよね)
それがお節介というものなのだから。未散はちらりとヴィクトールを、それからミロンを見て、視線を戻した。相手に逃れられないように、邪魔されないように。一挙一動見逃せない。
「そっち逃げるぞ!」
「わかったのだわ!」
戦場の流れを見極めるリックの声にガイアドニスが素早く対応する。敵の種類も動きもばらばらだが、何一つとしてラド・バウへ通すわけにはいかない。次々と指示を飛ばすリックにガイアドニスや未散、エイヴァンといった引き付け役が動き、そこへ殲滅の手が伸びる。
それからモンスターたちの波が引いたのは暫しの時間が経ったあとであった。まだ夜も更けたばかりの時間で油断はできないが、それでも皆が小さく息を突いたのは言うまでもない。
だが、それは必ずしも小さな休憩の時間ばかりとはならないのだ。
「だいぶ瓦礫が多いんだな……」
リックを始めとしてバリケードを作成するためのポイントを探し、そのサポートを受けて錬がバリケードをあらゆる技能を用いて作製にかかる。
(時間は長い。となれば、行動を封じるには限界がある)
目的は敵の誘導となるような障害物。同時に、奇襲しやすいようなスペースが確保できれば上々だろう。休憩するグループへの休憩所も作りたいところだが――鉄帝の厳しい寒さと、いつモンスターたちが来るともしれない時間の制限。満足いく出来まではいかないかもしれないが、出来る限りを目指すしかない。
(なるほど、拠点防衛とはこう動くのか)
その動きなどを見ながら『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は周囲に罠を準備する。生憎とかつての世界では攻めるばかりで、護る側としては経験が薄い。しかし目に見える攻勢ばかりが戦いの全てではないのだということも知っている。
「これでよし、と」
罠がある場所へ簡単な目印をつけ、モカは立ち上がる。そして視界に映る面々へ、ハイテレパスで敵の襲来を告げた。
まだ、夜は長い。
●
「怪我をしている人はこっちね!」
ガイアドニスの声に傭兵団の面々が集う。とはいえ、彼らも鉄帝人ならではと言うべきか、頑強な体で怪我も層酷いものではない。ガイアドニスの医療知識や技術で応急手当はなんとかなりそうだ。
その光景を一瞥し、戦場に戻ろうと踵を返したミロンの前へ、ヴィクトールが立つ。
「ミロン」
ヴィクトールの視線に、言葉に、彼の目が数度瞬いて。それから、嗚呼、と吐息のような声が漏れた。
「……謝って済むことでは、ないのかもしれません」
それでも謝るばかりの手紙を書かずにはいられなかった。この想いが届いて欲しいと願ってやまなかった。
「それでも、謝らせてください。貴方を置いて行ってしまって、済まなかったと」
そして。
「あとで落ち着いたら、話をしましょう。……貴方が、それを許してくれるのであれば」
話したいことがある。言わなければいけないことがある。聞いて欲しいことが、沢山、沢山、きっと一夜なんて足りないくらいにあるのだ。
ミロンは瞑目して、ほどなくしてから瞼を上げる。そして勿論、と小さく頷いた。
自分の目の前から疾走する前、父が苦しんでいることに薄々気付き始めていた。その父が戻ってきてくれたのだ。
(その苦しみも、悲しみも、今度こそ側で支えられるだろうか)
昔は見上げるしかできなかったけれど。父に守って貰うばかりだったけれど。ここで共に戦い、語り合えたなら――。
「ここを抜けられたらラド・バウが危ないからね! 皆で帰るためにも、絶対通さないよ!」
苛烈な炎がグルゥイグダロスを取り巻いていく。世界をも滅ぼしかねなかった妖異へ振るわれた炎、それを模した力が鉄帝を守るためにと振るわれる。対抗すべく魔力を練る冬の精霊へ向け、錬の式符が鋭く飛んだ。
「っ、取りこぼしたか」
「任せろ」
精霊とともにいたラタヴィカが逃れ、機動力のままにイレギュラーズの元へと飛び込んでくる。半身ずらして直撃を避けたモカは、手数を武器にラタヴィカを攻め、翻弄した。
「皆、まだまだ余裕だぜー!」
リックの力強い声が戦線復帰した傭兵団員ともども士気を上げて支える。どこまで持ちこたえられるかは敵の攻めてくるスピードにもかかっているが、そう易々と通すつもりは毛頭ない。
「スカルレッドくん!」
赤髪の青年へと幻の爪が届く前に、焔の速力が幻をかき消していく。振り返ったスカルレッドは微かな疲弊を顔に滲ませていた。
「大丈夫? そろそろ後方で休んで、落ち着いたらまた加勢してくれると嬉しいな!」
「もう少し……いや、そうしよう」
首を振りかけた彼は、しかし小さく息をついた。疲弊を重ねて、有事が起こった際に態勢が崩れるのだと彼は知っている。
(でも、ボクたちも全くの無傷じゃない)
リックの支援があるとはいえ、戦い続ければ疲弊する。精彩を欠く。傷が増え、体が重くなる。気をつけなければと焔は気を引き締めながら、再び前線へと駆けた。
ガイアドニスの行っていた応急手当を休憩に入るエイヴァンが引き継ぎ、イレギュラーズたちだけではない傭兵団たちのケアも行う。
「倒れちゃ元も子もないんだ、無理はしてくれるなよ」
そう言い含めるも、鉄帝人は屈強な身体を持っているが故に、他国の者より無茶をしがちなのかもしれない。手当の際にはそう思わせる古傷などがいくつか散見された。
「終わったら私が料理を作るから宴会をしよう。そこまで頑張るぞ!」
「いいねぇ!」
「酒も忘れてくれるなよ!」
モカはその言葉ににっと笑って、仲間が相手取っている狼向けて1発の鉛を放つ。命中したことを確認し、適度に休憩しながら援護射撃を撃った。
休憩ばかりをしていられない。余裕があるのならば、少しでも前で戦う仲間たちの力になれるように。
「さあさ、皆さま御立会。此れより先誰一人とて欠ける事は許しません」
とん、と軽く地を蹴って。未散は新たに来たるモンスターへと肉薄していく。そうして今にも屠られそうな傭兵団員からヘイトを自身へ向けると、その男へ一瞥をくれた。
「ぼくは葬儀屋ではありますが、死に急ぐ者を看取る為に来た心算ではございませんから。さあ、行ってください」
戦えないほど疲弊しているならば後方へ。戦う気力を取り戻した者は此の背中を見よ。そう言わんがばかりに、焔の炎が焼いたグルゥイグダロスを終焉へと誘う傷を刻み込む。しかしてグルゥイグダロスはそれに抗うが如く身をよじり、あらぬ方向へと走り出した。
「行かせない!」
焔が速力任せに攻撃を叩きつける。あともう少しか。タイミングよく瓦礫が崩落するも、グルゥイグダロスはその破片を跳ねのけて咆哮を上げた。
「ミロン!」
「ああ!」
力強い跳躍と共に、ミロンの得物が深く敵へと突き刺さる。ヴィクトールは動きの止まった一瞬を突いて、竜撃を力の限り叩きこんだ。
どう、と倒れる巨体が辺りの建物を揺らし、どこかでガラガラと瓦礫の崩れた音がする。モカはそれを聞きながら、罠が崩れてしまったかと苦笑いを浮かべた。
今まで到来した中ではグルゥイグダロスが危険の最たるものであっただろう。しかして、最期の咆哮が呼び寄せたものをガイアドニスがいち早く察知する。
「モンスターが来ているみたい。それも随分と……」
モカの表情も険しく。2人を中心に情報を共有させながら、錬の作った死角より奇襲攻撃を仕掛けていく。随分と夜が長く感じるが、あともう少しだろうか。それともまだまだ夜は明けないか。
「上も来ているわね! おねーさん行ってくるわ!」
ラタヴィカの存在を察知したガイアドニスは、防衛を越えられる前にと力強く飛んでいく。寒空の下、亡霊のような光とこんにちは。さあ、地上で一緒に遊びましょう?
そうして地へ誘導されたラタヴィカ諸々、未散が抑えながら苛烈な一撃を加える。追い風のように焔の炎が渦巻くが、冬狼が横合いから飛び出してその牙を剥いた。
「大丈夫だ、落ち着いて片付けていこう!」
錬がすかさず声を駆け、ヴィクトールが冬狼を仕留める。そこへリックの賦活の力が飛んできて、仲間たちを癒した。
「気力満タンなのに勿体ないだろ?」
にっと笑ってみせるリック。モカとエイヴァンが揃って遮蔽物に身を隠し、新たに迫りくる冬の精霊たちを奇襲で押しとどめる。
「もう少しで朝だ! 耐え忍ぶぞ!」
エイヴァンの言葉に傭兵団員たちが応と声をあげ、攻めていく。見れば、水平線は少しずつ白み始めている。日が登るのも遠くない。
「ならば、ええ。此処で突破される訳にはいきません」
そうでしょう? そう視線を向けられたミロンとヴィクトールが頷く。ガイアドニスは敵を抑える未散の前にひらりと降り立った、
「ピンチに颯爽と登場! なのだわ!」
ガイアドニスに庇われる間に、リックのミリアドハーモニクスが強烈に未散の体力を戻していく。傷ばかりは残れど、戦うには十分だ。エイヴァンもまた自身を回復させながら敵へ一撃を叩き込む。そこへ遠距離から攻撃していたはずのモカが素早く肉薄し、残像が見えるほどのスピードで蹴突攻撃を繰り返す。
「……へえ」
その攻撃を見て、スカルレッドは面白いとでも言いたげに片眉を上げた。そして負けられないとでも言いたげに敵へと仕掛けていく。
「これが最後の大波であることを祈りたいですね」
疲弊を感じながら、ヴィクトールは敵の一体を屠る。背中にとんと当たったのはミロンのそれだ。
「全くだ」
彼の声も少し疲れが滲んでいるか。けれどそれよりも、仲間への心配をうかがわせる色だった。
だから、ヴィクトールは大丈夫ですよと声をかける。
「貴方の家族を、誰一人として奪わせません」
自分が行方を眩ませている間、彼を大切にしてくれた人たちなのだから。
「あ、明るくなってきた。灯りはもういらないかな」
「ええ、そうね。でも暖を取れるのはありがたいわ!」
顔を上げた焔にガイアドニスは言う。鉄帝の寒さはひとしおで、こんな寒空の下でも暖が取れるのならと皆が神炎の元へ集まっている。そうだねと頷いた焔は炎の消えた小石へ再び炎を灯した。
(今は使わなくても、そのうちまた使えるわね)
ガイアドニスは瓦礫をせっせと集め、死角となるような場所を作っていく。その傍ら、武具のメンテナンスをするのは錬だ。周囲にちゃんとした設備はないものの、多少であればこの場でも処置できる。
しばしして、完全に敵の気配が消えたことをモカが確認し、仲間たちへ伝達する。既に日は登りきり、弱い日差しが夜を超えた一同を照らしていた。
「終わりましたか」
ふう、と小さく息をついたヴィクトールは、未散の姿を目に留める。こちらに向かって来ているようだ。否、正確にはヴィクトールの傍らにいるミロンを見て向かって来ているようだ。
「ミロンさま、ですよね?」
「ああ。あんたは?」
頷いたミロンが首を傾げる。さもありなん、彼と彼女の間に面識はない。そんな彼へ向けて未散はふうわりと小さく笑ってみせた。
「只の、ええ、此の人の隣人です。此の人が手紙を出した方がどんな方なのか、一目見て見たかったのです」
手紙、とミロンの唇が動く。それからすぐに彼ははっとした表情になった。
「その様子だと、届いたようですね。不格好な紙飛行機が」
それならば何よりだ。想いは届いただろう。あとは彼らが言葉を交わしていけば良い。
「皆、戻ろう! ラド・バウの様子も見に行かなきゃ!」
焔がイレギュラーズたちを呼びに来る。そう、まだ戦いは各地で続いているのだ。完全に気を抜くにはまだ早い。
鉄帝が平穏を享受できる時は――きっと、イレギュラーズたちが、鉄帝の者たちが全力を尽くした先にあるのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事に誰も欠けることなく、朝を迎えることができました。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
該当エリアを明け方まで防衛すること
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。嘘はありませんが、不明点等があります。
●フィールド
帝都スチールグラード内、ラド・バウより程よく距離の離れた広場。また、その周辺がフィールドです。
あたりの建物はことごとく破壊され、瓦礫が足元を悪くさせています。また、時間が夜間のため暗いです。友軍が多少のカンテラを持っていたり、暗視能力を持っています。
瓦礫をうまく使えば敵を遠回りさせることや、一定時間身動きを取れなくすることができるでしょう。
●エネミー
いずれも数は不明。断続的にある程度の群れとなってやってきます。
・冬の精霊
『フローズヴィトニル』と呼ばれる悪しき獣の作り出した幻。大きな氷の破片を思わせる姿をしており、中〜遠距離から神秘攻撃をしてきます。攻撃力高め。たまに【溜1】の攻撃を放ってきます。
彼らはラド・バウへ向かっていますが、中には帝都の外へ向かおうとする個体も見受けられます。
地面から若干浮遊していますが、飛行はしません。
・冬狼
『フローズヴィトニル』と呼ばれる悪しき獣の作り出した幻。雪のような毛色の狼です。反応が高く、牙や爪で襲いかかってきます。【氷結】【麻痺】に注意してください。
彼らは放置すればラド・バウの結界を壊しに向かいます。
・ラタヴィカ
天衝種(アンチ・ヘイヴン)の一種。流れ星のように光の尾を引く、亡霊のような怪物です。
俊敏性や機動力に優れており、戦場を縦横無尽に飛行します。高威力の物超貫移で体当たりをする他、怒りを誘発する神秘範囲攻撃を行います。
冬の精霊とセットで出没するようです。
・グルゥイグダロス
天衝種(アンチ・ヘイヴン)の一種。巨大な狼のような姿の怪物です。フローズヴィトニルが作り出したわけではないので、幻ではありません。
大きな体に反して、俊敏にして獰猛。その爪や牙をマトモに受ければ【出血】は免れないでしょう。突進を受けると【飛】の効果を受けます。
また、咆哮によって周囲の対象を識別で【ブレイク】【復讐XX付与】し、追加でエネミーを寄せ付ける場合があります。
●友軍
・ミロン・ウェスカー
黒い肌色を持つ獣種の偉丈夫。本名は『ミロン・ヴィクトロヴィチ・ウェスカー』。ウェスカー傭兵団の団長です。
スラムで育ち、かつてヴィクトールさんに拾われ、父と呼んでいました。父に逢いたいと思っています。
大物の武器を扱い、近〜中距離レンジを得意とします。率先して前へ出ていくタイプです。
攻撃力が高く、やや動き出しが遅め。【必殺】付きの技を持っています。
・スカルレッド
赤髪でひょろりとした人間種の青年。ラド・バウの闘士であり、ウェスカー傭兵団のメンバーでもあります。
小型〜中型の武器を扱うことが得意なため、必然的に至〜中距離レンジでの戦い方となります。武器がなくなれば素手でも戦いますが、合流時は短剣を携えています。
反応と回避力を活かした短期戦を得意としています。1撃が重いと言うよりは手数で一掃するタイプです。
・ウェスカー傭兵団員×10
ミロンに付き従うウェスカー傭兵団の団員。スラム出身の者ばかりです。
それぞれ武防具を身につけているため、一般的な鉄帝人より多少強いでしょう。しかし戦い続けていることで疲労やダメージの蓄積が見られます。
イレギュラーズの指示には基本的に従ってくれます。
●ご挨拶
愁です。
ラド・バウを守るため、ウェスカー傭兵団が防衛しています。参戦して敵を食い止めましょう!
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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