シナリオ詳細
<鉄と血と>燎原の焔舞<美しき珠の枝>
オープニング
●
何かが空を飛んでいた。
鳥だという選択肢が端からないのは、それが発する駆動音故だろう。
それはスチールグラードへと接近せんとし、その姿はみるみる大きくなった。
「お」
近づくにつれ大きくなるその姿に、心が踊った。
豊穣では見掛けることのない空飛ぶ乗り物。
離れていても解る巨大さ。
あれに燥がぬ男は居ないだろう。
だってあんなものが空を飛んで――。
「でけェ花火になりそうだなァ」
そう、爆ぜたら愉しいに違いないのだから。
ああいった乗り物には操縦者が居ることを、男――焔心とて知っている。
「どんな奴が操ってるんだろうなァ」
ちょっと顔でも拝んで首でも獲ってくるか。
ついでに墜ちてくれれば、派手でいい。
酒を一息に煽った焔心は意気揚々と王城リッテラムから抜け出した。
●
――行って来くるといい。
ただそれだけを言うために、『刑部卿』鹿紫雲・白水(p3n000229)は物部 支佐手(p3p009422)を八扇各省の集う院へと呼び出した。
言伝や文(ふみ)だけで済ませることも可能であるはずなのに、忙しい身で支佐手のためだけに時間を取り直接告げてくるその意味を考えれば、「ご下命頂戴いたしました」と下げる支佐手のこうべも深くなる。
「お話終わった? 寒いところだから風邪引かないようにね」
「雨泽殿は行かんので?」
帰り道、ひょっこりと姿を見せた劉・雨泽(p3n000218)を見て、そういえばこん人風邪を引いとったのと思い出す。豊穣は種類によっては咲き出した桜もあるというのに、鉄帝は未だ雪の中なのだ。
「僕はね、後方支援。大きな作戦だからね」
これでも忙しいんだ、と口にした雨泽はそのまま鉄帝へと支佐手を案内する。
よく知った顔も揃っているから必要なことは皆に聞いてねとすぐにいなくなったことから、本当に忙しいのだろう。
「来るでしょうか」
ルーキス・ファウン(p3p008870)が少し不安げに呟いた。
「来る、とは思うが――」
「来んかったら探せばええだけじゃ」
日向寺 三毒(p3p008777)が静かに告げ、あいつは目立つから探しやすそうだと唯月 清舟(p3p010224)が明るく笑い飛ばす。その中で始終、ごうんごうんと、豊穣の者たちには馴染みのない機械が音を立てている。
イレギュラーズたちは今、『空』に居た。正確には宰相バイル・バイオンの巨大戦艦『グラーフ・アイゼンブルート』の中に居る。
鉄の塊が飛ぶと聞いた時は信じがたかったが、実際に目にして、しかも今その中に自分たちが居て空を飛んでいるのだと言うのだから、不思議な話である。因みに宰相に話をつけて皆を案内するところまで仕事をした雨泽は「僕も乗りたかった!」と悔しがっていた。
「あの方ならば、来るでしょう」
窓から外へと視線を向け、澄恋(p3p009412)が静かに口にする。不安なぞ欠片もない。そう、信じきっている声だ。
だってこんなにも――此処は一等目立っているのだ。
あの男が狙わない訳がない。
澄恋はただ己の勘を信じ切ればいい。
(外れたのならば、追うまでです)
何処までだって追いかけて、その首を獲ると決めているのだから。
「左舷、敵影!」
響く声に艦内がザワつく。
すぐにドォンと痺れるような揺れとともに砲撃が為される――が。
「前方、右舷、敵影!」
王城リッテラムへ迫らんとするグラーフ・アイゼンブルートに大量の天衝種(アンチ・ヘイヴン)――黒天烏(ヘァズ・フィラン)の襲撃があった。
まるで撹乱するかのような動き。
特攻が如く空飛ぶ天衝種たちが引っ切り無しにグラーフ・アイゼンブルートへ向かってくる。
そうして。
――ドォォン。
派手な音が響き、艦体が揺れた。
イレギュラーズたちはすぐに得物を手に駆けていく。
言葉はいらない。”来た”と言う確信だけが胸にあった。
- <鉄と血と>燎原の焔舞<美しき珠の枝>完了
- GM名壱花
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月21日 22時06分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC24人)参加者一覧(10人)
リプレイ
●火急
ドォンと戦艦を揺らす衝撃とともに、『その想い焔が如く』澄恋(p3p009412)と『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)、『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)が司令室を飛び出した。
「馬鹿デケェ空飛ぶ鉄の船たァ、派手な舞台に来ちまったモンだが……だからこそ『来る』んだろうよ、なァ焔心」
「まあ。お話は澄恋から聞いていたけれど、こんなにすぐに会えるだなんて」
「戦艦に直接乗り込んで来るとはね!オヤクソクってヤツが分かってるじゃないか!」
「そういうもの……? ――あっ、皆さん!?」
盲目なれど楽しげな澄恋の気配を『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)は『瞑目の墓守』日向寺 三毒(p3p008777)とともに追い、拳を打ち付けて明るく笑った『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)もそれに続く。
残された『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)と『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)、『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の四名は顔を見合わせる。すぐに飛び出したって仕方がない。情報は力だ。司令室で集められる情報もあるし、得られる協力もある。有事である時こそ、冷静に。そう判断して四名はそのままそこへと残った。後を追いはするが……それはやるべきことをやってから。
イナリは「さて」とコントロールパネルを乗組員と司令官たるバイルを見渡した。
「先に澄恋さんたちが行ってしまいましたが――広い部屋をお貸しください」
外向けの顔で、お願いしたいことが沢山ありますとイナリは微笑んだ。
彼女の要求は多かった。無論、その全ては叶わない。何故ならまず人手が足りない。この場の人員を割くわけにはいかないため、撤去等は自分たちで行うのならば良いとの返答となる。
「やることが多いな」
だが、とアルヴァは思う。やらねばならない。焔心がどんな能力を所持しているかは、これまで彼は呼び声と鬼血の刀を操ることくらいしか見せてはいないが――戦闘中に爆発等があっては事だ。
「して。被害はどの辺りに」
「右舷後方、火災あり!」
オペレーターの声に、問うた支佐手が小さく謝辞を延べる。
四人は急ぎ艦内図を見て広い部屋――玄関口と記された部屋へのルートを確認した。司令室から真っ直ぐ向かうには、被害の発生したポイントから向かうには、どのルートが最短であるか。
(バイルの爺さんがあんだけ楽しそうに出した戦艦を、簡単に墜とさせて堪るかよ!)
艦内図を頭に叩き込むとすぐにアルヴァが駆けていき、咲耶もそれに続く。
「案内はわしが行いましょう」
「お願いするわ!」
すぐに澄恋等を追いかけると告げた支佐手は一礼を忘れることなく退室し、「私達が出たら障壁閉鎖を!」と言い残したイナリも駆けていった。
巨大戦艦『グラーフ・アイゼンブルート』艦内には多くのイレギュラーズたちが居た。司令室以外の部屋を有事の際のために巡回し、警備に当たっていたのだ。空飛ぶ目立つ巨大な戦艦が迎撃可能とは言え、そこへ敵方が『何もしない訳がない』からだ。
最短となる通路を選んだ支佐手は先に出たルーキス等に追いつき、作戦を伝えた。通路では被害が多く出る点。敵の数は会敵するまでは解らないが、戦艦のことを懸念する必要のない敵は動けても狭い通路ではイレギュラーズが動けない点。その点から大きな部屋へと誘導し、そこで戦り合う旨を。
「交渉はキミたちに任せるよ!」
オレは苦手とイグナートが笑った。けれども強敵に出会える予感に、彼の瞳は爛々と輝いている。元拳闘士の血が騒いでいるのだ。
「あの方のことはわたしが一番わかります」
焔心とはたくさん『お見合い』しましたので。
真っ直ぐに前だけを見つめた澄恋が告げるのを見て、わしじゃと殴り合いの誘いしかできんぞと首を傾げた清舟だが――他の皆の考えた誘いは殆どがそうであったし、この場において焔心が望むのは『其れ』であろう。
通路を駆けるイレギュラーズたちの前方が騒がしくなってきている。
――戦闘音だ。
知人や友人、そして詳しい事情を知らないが戦艦を守りに来ているイレギュラーズたちへと助力を求めながら通路を駆け抜けてきたが、当然右舷後方に居たイレギュラーズたちは既に会敵している。
「人魂……人の魂って訳ではないんだろうけどね、ぶん殴らせてもらうよ!」
夜空の星あかりを集めたように発光したヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が人魂のようなものを殴った。
「練達の格闘ゲームじゃねえんだからさ……戦艦に乗り込んで素手で落とすとかそういうのはやめてくんねえかな……」
「――嫌だなぁ、お客様。いやお客様ですらないか。『チケットをお持ちでないのだから』」
進ませじと前へオリーブ・ローレル(p3p004352)が出て、その後ろからサンディ・カルタ(p3p000438)とカイト(p3p007128)が人魂のような天衝種(アンチ・ヘイヴン)――フューリアスを引き寄せている。辺りへの被害が少ないように見えるのは、接敵したニル(p3p009185)とヨゾラが保護結界を張ったからだろう。
その姿に加勢に飛び込もうとしたしたルーキスが、澄恋が、目を見開いた。
ふわふわと浮かぶ人魂の、その向こう。
大柄の男が通路に居るイレギュラーズたちの姿をニヤニヤと笑っている。
「すまねェな。そいつ等は『ぺっと』ってやつでなァ」
「――焔心!」
ルーキスが叫んだ。
「もう、遅いですよ」
澄恋が可愛らしく頬を膨らませた。
通路は狭く、人も敵も多い。挨拶代わりの一撃は叩き込めない。
「お? おー……」
知った顔に気がついた焔心が気安く片手を上げて口を開きかけ、言葉を紡ごうとしたけれど『やめた』。名前、なんだっけ? の顔だ。聞いたかもしれないし、聞いていないかもしれない。どの道覚えるつもりのない、散る命だ。それに感傷も覚えなければ、名も覚えない。覚えたところで記憶領域の無駄というもの。
「よォ、白い玩具に青い玩具。元気にしてたかァ?」
その間も接敵しているイレギュラーズは戦っているし、焔心自身も必要があれば大振りの太刀を振るっている。しかし彼には焦る様子も緊張感もなく、ただ愉悦のみが金の瞳に映っていた。
「よぉよぉ、また会ったのぉ焔心」
「会ったかァ?」
「会った! 酒に誘われたぞ、儂!」
「あァー……男の顔を覚える趣味はねェんだわ、俺様」
喉奥でくつくつ嗤われた清舟は確かに儂もと納得しかけたが、「おんしも何か言うたれ!」と支佐手の背を叩く。
「……何故此処へ、と言った解りきったことは聞きません」
「なら、通してくれねェ?」
支佐手が――イレギュラーズの誰もが首を縦に振る事はないと知りながらも尋ねるのは、余興にすぎない。横に振ろうとも、倒して通ればいいだけだと思っていることなど隠すこともなく。
「ええでしょう。ただし、司令室の近くまでの道案内ならば」
しかし、支佐手の言葉は違った。
茶化した反応を取らず、笑みの形に上がった口元は変わらぬが、瞳が続きを促した。条件があるのだろう、気分がいいから聞いてやる、と。
「なに、大した対価は要りません。案内した先の部屋でわしらと戦って頂けりゃ、それで十分」
「へェ?」
「小難しい事ァ無い。大将首が欲しけりゃ、まずオレ等と遊んでけってェ話だ」
「私たちと遊ぶのは如何? 損はさせないわ」
「セッカク盛り上がれそうなケンカなのにやりづらい場所じゃ楽しさも半減だよ! お互いに遠慮なくやれる場所でやろうぜ!」
支佐手の言葉を三毒と小夜とイグナートが引き継ぎ、焔心の金が初めて三人の顔をぐうるり一瞥した。血の気が多そうな者が多いことはいいことだ。
「どうですかの? おんしは、大将首を取りたい。わしらは、戦艦に被害が出んようにしたい。悪い取引ではないと思いますが」
「ま、いいぜェ。俺様好みの美女も居るとなりゃァ、つれねェ事なぞ言えねェなァ」
そうだなァと少しだけ悩むような間を置いて、笑い。
それから血色の刀を大きく振るって周囲のイレギュラーズたちを吹き飛ばし。
「優しい優しい俺様は付いて行ってやるがよォ、彼奴等は知らねェぞ?」
空いた通路を悠々と歩き、支佐手を見下ろしそう告げた。それでいいと支佐手が顎を引くと、焔心を警戒し続けていた他のイレギュラーズたちへとフューリアスたちが襲いかかる。
「此処は任せてください」
それを吹き飛ばされた身体を起こしたオリーブが引き寄せる。
「姐さんもあいつだけ見ていたいだろ」
「獅門様」
「ここは引き受けるんで行った行った」
「そうです。此処はニルたちにお任せを」
「大丈夫です。死なないのは得意ですから」
幻夢桜・獅門(p3p009000)もサルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)もフューリアスの始末は任せろと前へと出た。
「イレギュラーズの人海戦術を侮ったら痛い目を見るって思い知らせてあげるよ」
「魔種の方は任せたぜ」
「一回言ってみたかったのよね。『此処は任せて先に行きなさい』って!」
刻見 雲雀(p3p010272)がフューリアスたちの上に死兆星を輝かせ、朔(p3p009861)は止めが刺せるフューリアスは居ないかと『白い死神』を構えた。前に出てくれている者がいるからこそ、後方からでも支援ができる。
耐えるのは得意じゃないのと秦・鈴花(p3p010358)が口にすれば、お任せをと耐えるのこそ得意なサルヴェナーズが口にする。イレギュラーズたちは協力することに慣れている者が多い。各自が動きやすいようにタッグを組み、またはソロでフューリアスを引き付け、焔心とともに去る者たちを見送った。
「……良き戦いを。頑張ってなー」
●熾火
楽しいことが好きだった。
否、楽しいことを嫌いな人間の方が少なく、俺もその一人だった。
楽しいことをしたいと願った。
幸せになりたい、楽をしたい、『普通』に生きられたら。
そう願う鬼人種なぞごまんといる。それこそ塵芥のように。
望みを胸に抱いて手を伸ばしても、天から吊るされた一本の蜘蛛の糸に触れられるのは一握りの人間だけだ。その人間が触れたら最後、我先に餓鬼共が寄って集って、糸はプツリと途切れて真っ逆さま。望みを抱いただけ性質が悪い。一度掴んだ希望と圧し掛かる絶望でそいつは勝手にお終いだ。
そうはなりたくはないと願った。
しかし、それすらなかったらどうすればいい?
声が聞こえて強さを得、愉しいと思えることができるようになった。
金と熱と狂気の狂乱。
血と焔と悲鳴の狂宴。
肚の底で怒りの焔を燻らせ続ければ、永遠にそれは続いていく。
壊れてしまえと願った。あんな国。
ぶっ壊してやると思った。こんな世界。
犬ころみたいな連中は阻止しにくるだろうが、それでいい。
独りきりでは宴にならない。酒宴も狂宴も騒がしいくらいで丁度いい。
なァ? こんな狂った世界で生きていたって苦しいだけだろ?
楽しんで愉しんで――そうして、俺とともに死ね。
●火光
多くのイレギュラーズたちは焔心から距離を取って移動した。先日のバイル宰相が乗る列車を狙った際のことを、遭遇したイグナートと三毒、ルーキス、澄恋の四名が焔心と逢う前の道中で仲間たちに伝えたからだ。
しかし、焔心の『呼び声』は範囲が広い。長い廊下の端から端くらいは。故に危険と判じた者は先行、乃至はある程度耐性のある者が10秒ごとに体力が減っていくことも承知で案内する他無い。離れれば興醒めし、彼は破壊の限りを尽くしながら司令室へと突き進むだろうから。
「焔心殿、下手な動きはなさらぬよう」
道中、支佐手が目を光らせていたことも効いたのだろう。小さく「お前は俺様の母親か」とぼやいたのを、支佐手は聞かないふりをした。――情け無用な相手だ。人らしい姿など、知りたくはない。彼が魔種に堕ちた理由に想像がつくからこそ、剣を鈍らせたくは無かった。精霊種が、或いは己が、その理由を作ったのだろうから。
「お待ちしていたでござるよ」
グラーフ・アイゼンブルートの玄関――と呼べるものは、大きな戦艦だ、いくつもあるだろう。そのひとつたる物資運搬等を行うハッチへと辿り着けば、アルヴァ等とともに急ぎ可燃物等の片付けに当たっていた咲耶が沢山のイレギュラーズたちとともに焔心を待ち構えていた。
「……歓迎の出迎えが多く無ェか?」
「派手好きな方だと澄恋さんから伺っているわ」
イナリが一歩前へ出てそう告げれば、感情を封じた涼やかな表情の侭焔心の側から小夜が離れていく。知った気配――すずな(p3p005307)に気付いたから。
「さ、小夜さん」
この人が小夜さんの興味を、なんて焔心に複雑な気持ちと視線を送っていたすずなは小夜に近付かれ――そして耳元へとそっと唇を寄せられ、飛び上がる。苛々が吹き飛んでしまうくらいの衝撃と、そして落とされた『お願い』に「え?」と声を震わせた。
「よぉ。この船、あんま壊さねぇでくんねぇかな?」
なんて頼んだって聞いてはくれないだろうけれど。百も承知で、アルヴァはそう言って不敵に笑う。
保護結界は三毒と補い合って張ってある。けれど焔心は破壊する気で来ているから、被害が大きく出そうな場合はアルヴァが自身の身を差し出しグラーフ・アイゼンブルートをかばう気でいる。
この戦艦はバイル宰相の集大成。長年費やして作られており――言わば彼の夢が詰まっている。『航空猟兵』であるアルヴァは、その気持ちを此処に居る誰よりも知っていた。
「聞けねェなァ。俺様はぶっ壊しに来たンだからよォ」
「ぶっ壊させやしねぇよ。船も世界も、仲間もだ」
それなら、と焔心が嗤った。
お前が守ればいい、と。
無論、アルヴァは端からそのつもりだ。
吹き飛ばされたって引っ付いて、邪魔だと思われるくらいに妨害してやる。
焔心に接敵する人が多すぎては得物が振れなくなったり巻き込まれたりするため、入れ代わり立ち代わり接する必要がある。ただでさえ『よく響く声』もあると来た。焔心の姿だけしか見えなくなって近寄ってしまう仲間たちをかばうことも留意する。
(俺の身ひとつで護ることができるなら本望、壊れる覚悟はできている)
戦いの始まりは、ジェック・アーロン(p3p004755)の撃鉄の音で。
「さぁ、今の内だ」
そう言い残したジェックには、もうひとつ役目がある。イナリからお願いされたのだ、通路へと出て部屋の外側から障壁を下ろすことを。
「おォ?」
目論見通り、10秒間の行動阻害に成功した。その隙を逃さず、咲耶やルーキスを始めとした幾人ものイレギュラーズたちが互いの行動の妨げにならない範囲で飛び出した。
幾つかを躱し、幾つかを受け、焔心の血が散った。
その殆どが彼の巨大な太刀へと吸い込まれたが――宙に散ったばかりの血液が、イレギュラーズたちを遠ざけるように爆ぜた。
「血が!?」
「爆ぜた、のか?」
「おォ、そう言えば見せてなかったなァ」
使い勝手が良いのだと嗤えば、イレギュラーズたちが床に零した血が、すぐ側に居るアルヴァに付着した血が、爆ぜた。爪で己の指の腹を傷つけてパチンと指を鳴らせば、バチッと爆ぜて小さな炎が灯った。熱量も操れるし、他者の血でも構わない。『流れ出た』――つまり体外に出た血液ならば、布に染み込んでいてもいい。
これはギフトではなく、焔心の魔種としての能力だ。
「血をなァ、こう垂らして」
爆薬を用意したところに血を垂らしておくだけでいい。これで料亭にも火を付けたのだと、あの日あの場に居た者たちの心を男にしては極めて柔らかな声音で丁寧に逆撫でにする。
「それで、ドカン! だ」
「この前はお遊び程度だったけれど今回はどの程度本気なのかな? イノチを落とすまでヤル気はあるかい!」
「お前はどうなんだ?」
ハハッと笑ったイグナートは「モチロン!」の声とともに拳を叩きつけた。
丁寧に教えてくれるということは、今日はどちらかの命が喪われるまで戦う気でいるからだろう。バイル宰相か、己の命か、だ。邪魔をするイレギュラーズたちは、勿論鏖殺だ。
「時間が惜しい! 死合おうぜ!」
愉しいケンカをしようと約束しただろ?
腰を落としたイグナートが、竜撃の一手を突き出してくる。
「時間が惜しい! 死合おうぜ!」
愉しいケンカをしようと約束しただろ?
腰を落としたイグナートが、竜撃の一手を突き出してくる。
「面白そうな物体なんだから私の観測が終わってから壊して欲しいわね」
「壊すのはいいのか?」
剣を抜いてイグナートともに接近したイナリに対し、焔心が問うた。
「ええ」
「いやいやいや、ダメでしょ!」
「だって気になるじゃない?」
「俺様も気になるなァ。鉄の塊が飛んでるんだぜ?」
「そうよね?」
「いやいやいやいや……」
イナリとイグナート、対する焔心。双方の間ではぬるい会話の合間にも火花が散っている。じゃあどういう理屈で飛んでいるのか説明しろと言われればイグナートには答えられないため、イナリと焔心の結論は「分解が手っ取り早い」となった。ただしイナリは観測が終わってからで、焔心は今すぐ力任せに、だ。
「私の防御は厚いですが、さて、お前に貫けるでしょうか」
「そうだなァ、数発は持ってくれそうだ」
星穹(p3p008330)が前に立つのならば、焔心は払えばいいだけだ。後退をしてから攻撃をしても、動かず扇状に吹き飛ばしても、ぴたりと張り付く者たちを外すことが出来る。硬い者はサンドバッグには良いが、敢えて狙う必要もない――が、敢えて大きく振った太刀でアルヴァともども吹き飛ばすことにした。戦いを好むこの男は、長く壊れずに『遊び』に付き合ってくれる者を好むのだ。3割に抑えられる星穹でもその一撃は重く、彼の焔に惹かれる者が多い訳だと小さく笑った。
燎原に踊る戦火は止められない。その火に誘惑されたひとも止められない。
「私とも遊んで頂戴な」
刀を手に踊るように飛び込む小夜も。
「待ち焦がれましたよ」
他の人ばかりを相手にするものだから、妬いてしまいました。
命ごと燃やしそうな勢いで危うく見える澄恋も。
「確かにお前は強い。……が、まだ本気じゃ無いだろう? 内に秘めたその『憤怒』、全てぶつけてみろ。己の中に想いを抱えたまま終わるなんて、つまらないだろう?」
それはきっとルーキスも、なのだろう。悪魔に魂を喰らわせても、この戦いの続きを望んでいる。
「魔種との戦闘は経験値がいっぱい溜まるから素敵だわ!」
イナリの瞳孔が開いている。興奮状態を隠すこと無くGINROシステムによって野生本能を高めた状態で、殺人剣を振るった。
「貴方をぶち殺した後はホルマリン漬けにして構成物質の一片まで解析してあげるわよ!」
「おいおい、熱烈すぎねェか?」
先刻はなかなか話が通じる奴だなどと思ったが、矢張り解り合えそうにない。急所への集中狙いの返礼に、イナリの腹を切り裂いた。
「弱き者を虐げ、人を煽り踊らせる事がそんなに面白いでござるか」
「あァ、面白ェ。こうやって遊び相手も増えるし、よッ!」
「……くっ」
大きく腕の皮膚が割けるが、咲耶は引かない。
「魔種の癖に己の内の怒りから眼をそらし享楽に耽るお主こそ真の半端者でござる」
「ハハッ、その言葉は冠位様にでもくれてやンな」
焔心の怒りの向け先は豊穣という国だった。あの国を崩すこと。しかし今は冠位の呼びかけに応じ、世界へと変じている。目を逸らしてはいない。目的に享楽が添っているのだ。
本心を騙らず嘘ばかりを吐くが、偽りに真実も混ぜて吐く男だ。故に『俺様の事を知らないくせに』等といった言葉が焔心から溢れることはない。ただニヤニヤとした笑みで嗤う。その瞳の奥が常に怒りに揺れていることを隠すために。
「――ッ」
深く薙ぎ払われ、出血が多い。咲耶は瞬時の判断で後方へと跳んで焔心から離れ、体勢を立て直す。
「ちまちまやんのは好みじゃねェ……だろ?」
咲耶が退けば、すぐに三毒がそこに収まる。黒い凶悪なあぎとを持って攻撃すれば、「わかってンなァ」と焔心が楽しげに嗤った。
近づけば、やはり。頭の中がざわりと泡立つ。
怒れと、その憎しみをぶつけろと、声がする。
けれどもう、三毒はその怒りを持って誰かを殺めたいとは思わない。久しぶりに覚えた腹の底から湧いてくる怒りに懐かしみすら感じながら、深く息を吐いて己が心を鎮めた。
怒りというものは、感情の爆発だ。噴火に近い。その状態を保ち続けるのはなかなかに難しく、凪の時があろうともそれでも未だに怒りを忘れられずにいるということはそれだけの火種があったのだろう。
「誰かを傷付けずに居られる世界をアイツの墓前に供えてやるまでは……オマエにゃ負けねェよ」
憤怒と、それを体現する焔心には。
止めてやることこそが、終わらせてやることこそが魔種に堕ちた者への救いにもなると信じ、三毒は己の体力が持つ限り焔心の前に立ち続けた。
「なぁ焔心。お前は『豊穣』を恨んでいるか?」
刃を重ねての至近距離。睨みを利かせ合いながら――けれども溢れるルーキスの声は静か。焔心の瞳の奥に、当たり前だと炎が揺れた気がした。
ルーキスの種族は違うが、育ての親は鬼人種だ。生まれも豊穣で、この国での鬼人種の扱いも知っている……つもりだ。本当の意味で知ることは当事者にしか解らないことだが、ルーキスがその背を見続けていた人は常に前を向いていた。
「……豊穣はこれから変わる。いや、必ず変えてみせる。その為ならば、俺はこの先どんな尽力をも惜しまない」
生真面目な声に、ハ、と短く焔心が嗤う。
興味ねェなァと紡がれる言葉とともに刀が弾かれて。
けれど、それでも。ルーキスは言葉と刃をともに重ねた。
「お前の抱いた想いと、その傷を。決して無駄にはしないと約束しよう」
これはルーキスの、勝手な約束。
焔心が望んでいなくても関係ない。自分がそうしたいから、自分がそうありたいから、そう勝手に約すのだ。そしてルーキスは、きっとその約束を曲げはしないだろう。
「支佐! 物部の男衆として恥じぬ働きをして参れ!」
膝を着いた支佐手の背を、神倉 五十琴姫(p3p009466)の小さな手が支えた。
素早く回り込んだ五十琴姫は彼の両肩を掴んで上向かせると、額のチャクラへ女神の口付けを落とす。
「……行ってくる」
「うむ! 行って参れ!」
無事に終えて、春を迎えよう。三輪の桜は今も昔も変わらず美しい。
(宮様、わしは――)
そん桜の中で、もう一度あなたの笑顔が見たいのです。
「焔心、殿!」
もう、司令室へと向かう扉を背にしなくとも良いだろう。火明の剣を抜き、剣へと呪詛返しの巫術を施しながら支佐手は地を蹴った。仲間たちの間を縫って近寄る姿、蛇が如く。
近寄らねば、剣を混じえねば、焔心が言葉を返さないと知っているから――。
「おう、熱くなれたか?」
蛇と呼ぶには狡猾すぎず、やはり刑部の狗かと焔心が嗤う。
小波立つ言葉は受け流し、キィンと高い音響かせ剣を交えた。
「何故、あのような真似を。おんし程の実力がありゃ、火を放たんでも良かった筈じゃろう!?」
確かな怒りが湧いていた。三日月が如き金が、憎いと思った。
炎の赫が脳裏に浮かび、罪なき人々の悲鳴が鼓膜の奥で木霊する。
「ア? そりゃァ、『愉しいから』だろ?」
祭りには賑わう人々の声が必要だ。イレギュラーズたちを招いて祭りをしたのだ。イレギュラーズたちの、ために。
「焔――ッ」
「何を飲まれとるんじゃ!」
視界を怒りで赤く染めた支佐手の首根っこをむんずと掴み、引く者が居た。焔心からの呼び声を受けぬようにと距離を取って居た清舟だ。
正直な話、清舟は魔種を前にして「死にとうない」と思った。生きたい、まだまだやりたいことがある、許されるのなら逃げたい。――けれど、逃げれば『あの日』と同じなのだ。『逃してもらった』あの日と。
できるだけ遠くで立ち回るはずだった。けれど、そうも言ってはいられない。
男には、前へ出なければならない時がある。
無茶を承知で、無謀を承知で、膝が震えようとも――今が、その時なのだ。
「カカカッ! 付き合ってくれや焔心、一世一代の大博打じゃあ!」
この三連撃が仲間に続けばそれでいい。
腕が失われようと、脚が失われようと、それでも――。
「――ぐえ!」
「おんしも莫迦をしますの」
正気に戻った支佐手が、お返しと言わんばかり清舟の襟首を掴んで後ろへ放る。
「此処に居る奴、全員そうだろう?」
立ち上がって体勢を整え直したアルヴァが支佐手をかばい、違いないと返して支佐手は引いた。
「猫の手、貸します。みゃー」
そんな支佐手と入れ替わるように、アルヴァの頭上で光輪が輝いた。祝音・猫乃見・来探(p3p009413)の癒やしが、次へと繋ぐ分の体力を与えてくれた。祝音もウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)も佐藤 美咲(p3p009818)もアイラ・ディアグレイス(p3p006523)も、前に出て戦う全員を全力で支えている。彼等が居なかったら今頃もっと多くの者が膝を地につけていたことだろう。
「さあもう一踏張だ。頑張ってね、皆」
「くっそ忙しいっス……! けど、膝をつくにはまだはやいっスよ」
「さあ皆さん! 立ち上がって!」
「仕切り直しって奴だ、張り切って行ってこい!!」
本当は自ら焔心を殴りに行きたい気持ちを抑えた松元 聖霊(p3p008208)は、清舟の背をバシンと叩いて「痛ぇ!」と悲鳴を上げさせた。それだけ大きな声で叫ぶ力があるのなら、大丈夫そうだ。
「清舟くん、合わせて行きましょ?」
アーリア・スピリッツ(p3p004400)に間近で微笑まれ、清舟がヒュッと息を呑みそうになったが、何とか耐えた。ここで格好いい背中を見せれば、きっと好感度が鰻登り間違いなし!
「行き場を失った怒りは留まることを知らぬ。お主をここで逃がせば何れその毒牙は拙者の友にも届く事もあろう。その前にここでお主を止める! 二度とその怒りを振り撒けぬ様に!」
忍びは感情を揺らされるなどあっては末代までの恥。
感情を封じたはずだが恒よりも饒舌になってしまった事に気付き、咲耶は口を閉ざした。想いは全て、得物に乗せれば良い。
刻と刃とを重ねる度に、確実に焔心の動きは鈍くなってきている。けれども本心から楽しさを覚えているのだろう。笑みとともに吐き出される息に熱を帯びていようとも、常に殺す気で立ち回っていた。
そろそろこの旅も終着点。誰もがそう、感じていた。焔心も、彼をずっと追っていたイレギュラーズたちも、そしてそんなイレギュラーズたちに仲間として手を貸さんとするイレギュラーズたちも。クロバ・フユツキ(p3p000145)もそのひとり。これが剣聖を超える為に磨いてきた剣、如何なる壁を斬り裂く終の断ち!
「……さぁ、これで俺の仕事は終わりだ。あとは任せたぜ小夜、澄恋。思い切り叩き込んでやるといい、その殺意(おもい)を!」
支援を受け、イレギュラーズたちは幾度も焔心へと立ち向かう。
膝をついても、倒れても、この先に焔心を行かせる訳にはいかないのだから――!
「すずな!」
「はい、小夜さん!」
すずなが壁際へと駆け、小夜が焔心に詰め寄る。
常人が焔心に近寄れば、怒りを胸に抱くだろう。
だが。
(私の怒りの因は時に流されてなくなってしまった)
けれども小夜はその時に求めた力を捨てられない。
振るう由が無くなろうとも剣を捨てられない、人でなしだ。
強き者に出会えるのが好きだ。鉄(くろがね)同士がぶつかり合う感触、戦り合う相手との呼吸を合わせる刻、緊張感――。
(澄恋をこれだけ熱くさせるのだもの。あなたも”そう”なのでしょう?)
「ふふ、澄恋にすっかり中てられてしまったわね、私も楽しませていただける?」
仇花は燃え盛るが如く華やかに、焔が如く尽きるまで。
小夜の太刀筋は、息を呑むほどに美しかった。焔心の鮮血が牡丹が如く咲き、爆ぜる。
「言ったでしょう? ”損はさせない”と」
「ハッ、お前には端から期待しかしてねェ、よ!」
――身を焦がし焔花と成りし仇花は、美しきまま散らすまで。
酷い火傷を負った小夜が衝撃で吹き飛ばされた――が、それも全て『織り込み済み』。すずなはすぐに小夜の元へ駆けつけたい気持ちを抑え、壁にある大きなレバーを下ろした。
――ゴウ。
ハッチが開いて、外の風が艦内に入り込む。その風は、人浚いの風だ。
その場に居た全ての生物の意識は風へと向けられ、外に飛ばされないように踏み留まる必要があった。焔心とて、そうだ。
「……つかまえた」
小夜の背後に隠れるように接近し、吹き飛ばされる彼女を身を低くして避け、たった一度のこの隙のためだけに行動した。当然爆発の余波には当たったが、すみれ(p3p009752)の後押しで成し遂げられた。
澄恋の足が、床から離れた。
手は真っ直ぐに焔心へ。
澄恋のがら空きの胴へ焔心の刀が深く刺さるが――構わない。
零れ出た血は鬼血爪となり焔心へと深く刺さり、刀と爪、繋がりあったまま、ふたりの身体は風に拐われ、グラーフ・アイゼンブルートの外へと放り出された。
花嫁の象徴たる白い打ち掛けはない。澄恋の決意に勘付いた聖霊が澄恋の足が床から離れたタイミングで引いたから、くれてやった。するりと、蛹が羽化するように彼の腕に置いてきた。
今、この時は――花嫁でなくていい。澄恋の思う幸せの象徴でなくていい。
「わたしは澄恋」
互いに鮮血をゴポリと吐いた。
「あなたと同じ姓なき人。そして――今日、あなたを討つひとりの鬼です」
あなたを満たすのはこのわたし。
澄恋は端から、誰にも焔心の首級をあげる気なんてなかった。
力も技も身も心も、その視線すらも、全て全て向けてほしかった。
それが叶わないと知っていても――すべて。
(――つれない人)
けれども焔心が最期に記憶するのは澄恋の名で、澄恋の姿。
それだけで、十分だ。
奇跡は願わない。
(派手好きのあなたに似合いのもの、ちゃんと用意をしてあります)
火も亦涼し、花と散る――。
「……ハハッ」
菊か牡丹か――花火かな。
焔心が笑った。溢れた血は人の身より軽く、宙に浮かび上がる。
爆ぜさせるのだろうと察しても、澄恋は彼に穿った腕を引く気はなかった。
「澄恋、花の名か。いい名だなァ」
血が、爆ぜる。澄恋の頭部で。同時に澄恋は火花を散らした。
ふたつの爆ぜる音も血も混ざり合い、白と赤が熔け合っていくようだった。
痛みはもう感じていないし、互いに言葉も発せない。
けれども焔心が「絶景だなァ」と口にしたような気がして、澄恋は力なく微笑んだ。
彼も、己が空で散ることになるとは、きっと思ってもいなかっただろう。
豊穣に居ては至れない高い高い天上で、九皐に居た『鶴』は死に逝くのだ。
――来世でも……地獄でも、仲良くしましょうね。
輪郭も何もかもが消え逝く。それを見届け、熱に焼かれた目を閉ざす。
焔心の身体は『花火』と化してしまったが、焔血が頭部で爆ぜた故に澄恋の身体は焼けきらず、落ちていく。吐息をか細く零すだけのこの身は、地面に打ち付けられて散るのだろう。
(ごめんなさい。わたし、莫迦だから)
莫迦娘と詰る優しいひとの姿を思い浮かべた。優しいひとたちはみな、澄恋の行いを怒るだろう。
だが、良いのだ。己が命を投げ売ってでも、ここで彼奴を倒すと決めていたのだから。
これは死への片道切符で、心中。そして独断と我が侭。共犯者には、心から感謝している。
意識が遠のいていく。
空の蒼と同じ字を持つ少年の笑顔が脳裏に浮かび、涙が一滴血に混ざった。
けれど、悔いはない。仲間たちには我が侭を沢山させてもらったし、全ての気掛かりを無くすために遺書も書いてきた。
花の響きを持つ者らしく、堕ちること無く最期は咲って。
落ちて。
墜ちて
散って。
――逝く。
「澄恋君!」
雷光が駆けた。
誰よりも早く、疾く速く。そこに赤はなく、銀の軌跡が描かれて。
銀を宿したマリア・レイシス(p3p006685)が空気を焼いた軌跡を描いて駆け抜けた。
触れずとも伝わる電流をそのままにしては澄恋もただでは済まない。手が届きそうな距離で出力を抑え、落ち行く澄恋の腕を掴んだ。掴み、抱え上げ、微かな呼吸を確認し、それから天を仰ぐ。グラーフ・アイゼンブルートのハッチからは色彩豊かに幾つもの髪がたなびいているのが見えた。皆、落ちそうなハッチのギリギリで澄恋を案じている。
それらに大きく手を振って無事を示すと、マリアは意識のない――『右角を欠いた』澄恋を抱えてグラーフ・アイゼンブルートへと帰艦するのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ひえ……イレギュラーズたちいっぱい来た……
【飛行】がある方が一名のみだったため、サポさんから。
また匿名希望さんも描写はされておりませんが、助力に感謝を。
フューリアスを全てサポさんが引き受けてくれたため、参加者さんたちは全力で焔心に立ち向かえました。回復がほぼ無い前のめりパーティであったため吃驚しましたが、きっと焔心はその方が好むと思ってのことでしょう、ね。
澄恋さんを回収してハッチを閉め、消火活動。事後の炎への配慮が良かったです。被害は【極少ない】状態となっています。
きっと全てが終わった頃に澄恋さんは目覚めて、お医者さんやお友達、沢山の背中を押してくれた人たちにこれでもかってくらい怒られることでしょう。
澄恋さんへのご褒美は描写で出してあります。
ですのでMVPは、皆が戦いやすくするために誘う言葉を選んで投げかけてくれた方へ。
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
黒天烏で来た。by焔心
●成功条件
『焔心』撃破
●シナリオについて
宰相バイル・バイオンの切り札にして集大成の戦艦に魔種が軽い気持ちで乗り込んできました。狙うは勿論指揮官、大将首。司令室到達前に阻止する必要があります。
何処かの通路に風穴を開けて現れた焔心は司令室へと(勘で適当に必要なら破壊して道を作って)向かってきますので、あなた方はそちらへ向かいます。最初に接する場所は何処かの通路となるかと思います。『フューリアス』を伴っており、イレギュラーズに気付くとそれらは通路に広がります。
焔心は回れ右をするような性格ではないため、こっちかなと思った方角へずんずん進みます。イレギュラーズたちが駆けつけてきた方が中枢部となるため、蹴散らしていくつもりです。が、面倒さが勝ると自分で道を作って進みます。宰相の首の方が魅力的だからです。
戦艦が沈まぬように被害を抑え、撃破してください。
●フィールド:巨大戦艦『グラーフ・アイゼンブルート』内部
宰相バイル・バイオンの虎の子、巨大戦艦。
通路は一人なら武器が振るえますが、イレギュラーズが並んだ場合は互いに邪魔し合うことになって難しいでしょう。し、焔心は自身が動き難ければ破壊して場所の確保をします。
大立ち回りをするのならば、広い部屋への誘導が必要になります。上手な誘い文句があれば「いいぜェ」と着いてきてくれます。優しいおじさんですね。
通路以外での戦闘を希望する際は相談の上、どういう部屋か、プレイングに説得力を持たせてください。魔種相手ですのでおすすめはしませんが……大部屋でなくとも、小部屋で数名ごとの戦闘でも大丈夫です。遊び相手が居なくなる前に次の部屋へ誘えば着いてきてくれます。その際は各部屋スポット的なリプレイとなるでしょう。
保護結界に関しては、破壊する意思のある焔心の攻撃には効きませんが、皆さんの攻撃からは戦艦を守ってくれることでしょう。
●敵
・『九皐会』焔心(p3n000304)
<美しき珠の枝>で出てきている憤怒の魔種。
ここが一番楽しそうだからやってきました。豊穣を出た後、冠位魔種の目的に賛同半分、面白さ半分で居ます。世界がぶっ壊れるのならそれでいい派。血湧き肉躍る死合いを望んでいます。
今回はフルパワーできます。超火力のパワー型。BS解除の手段も有しております。また、全ての攻撃に【必殺】がついています。
憤怒の魔種である彼の怒りは常に向けられている先があるため、皆さんへ向けられません。(ヘイト操作はかなり難しいです)
対話が可能ですが、近くに寄ると我を忘れて彼を殴りたくてたまらなくなるかもしれません。焔心はそんな皆さんをニヨニヨするのが大好きです。
また、<美しき珠の枝>を読んでおくと詳しくなれますが……それとは別に表には出ていない分のリプレイで気配遮断を見抜いております。奇襲は難しいでしょう。
<能力:『焔血』>
流れ出ている血液を瞬時に沸騰させ、爆ぜさせることができます。
自身だけでなく他者の血でも可能だが、相手の『生存』と『距離』の条件が発生します。(体の中の血液は範疇外です)
<原罪の呼び声>
焔心を中心とした半径20m以内の人は毎ターン開始時に【怒り】、怒り状態の人には【紅焔】or【退化】判定が生じます。この判定はターンが進むごとに強烈になり、BSに掛かりやすくなります。このBSは無効化されません。
・フューリアス 10体
周囲に満ちる激しい怒りが人魂のような形となった天衝種(アンチ・ヘイヴン)。
怒り任せの衝撃波のような神秘中~超距離攻撃してきます。単体と範囲があり、【乱れ】系、【痺れ】系のBSを伴います。
●サポート
【支援】or【焔心】を選べます。
どちらもグラーフ・アイゼンブルートへの被害を減らすことに繋がります。
・支援…「俺に任せて先にいけ」
対フューリアス。1体を受け持つ事ができます。
支援が多いと参加者が焔心に集中できますし、戦艦への被害が減ります。
・焔心…「あいつの顔を拝みに来た」
焔心戦に『少しだけ』手を貸せます。
状況に合わせたスキルや行動一回分程度ですが、参加者のサポートが出来ます。
いずれの際も、シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●EXプレイング
開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●重要な備考(※運営注)
グラーフ・アイゼンブルート進撃中の出来事になります。
本シナリオの判定結果により、かの艦のバイタルや状況に変化が生じる可能性があります。
具体的には『<鉄と血と>Rising Black Sun』の戦況に影響を与えますので頑張って下さい。
望みも想いも全て、プレイングに籠めてください。
それらは全て判定の先にあります。
それではイレギュラーズの皆様、楽しく死合いましょう!
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