PandoraPartyProject

シナリオ詳細

水のうさぎは海を飛ぶ

完了

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――ねえ。
 甘い声が耳朶をくすぐった。
「また、助けてくれないかな」
 そっと手を握られてそう懇願されたら、大抵の人は首を縦に振ることだろう。その人は――ホストクラブ『the play』のオーナー兼ナンバーワンホストたるソーリス・オルトゥスは、それだけ魅力的な人だから。
「ああ」
 手を握られた小麦色の肌の青年が顎を引けば、ソーリスがホッとしたように柳眉を落とし淡い笑みを浮かべる。周囲に彼の客がいたら甘い吐息とともに膝から崩折れていたことだろう。
 しかし、この場に彼の客は居ない。
「待て、アーマデル」
 静止が掛かる。ついでにアーマデル・アル・アマル(p3p008599)の手をソーリスの手から抜き取った冬越 弾正(p3p007105)は、半身をふたりの間に割り込ませた。不躾かもしれないが、仕方がない。ソーリスこと深海の住人は兎角距離が近いのだ。
「アーマデル、要件も聞いていないのにふたつ返事はよくない」
「だが」
 アーマデルはチラリとソーリスに視線を向ける。だが弾正、彼が助けを求めている、と。
 ソーリスは悪い人ではない。非常に善人だ。その彼が困っているのなら、助けを求めているのなら、アーマデルは無条件で力を貸したいと思うのだ。
 しかし、である。
 彼のヘルプに応じて文字通りヘルプに行った――それもバニーボーイだ――記憶もそう古いものではないし、なんだかんだと時折手伝う仲になってしまっている。
 そんな彼が困っている。つまり、バニーボーイとはまた別の案件なのだ。
「とりあえず、話を聞いてみてはどうかな?」
「キミは優しいね」
「あ、うん」
 ソーリスをシレンツィオ・リゾートのローレット支部へと案内した劉・雨泽(p3n000218)が口を挟めば、今度は雨泽の手が握られた。竜宮人、やはり距離感バグってる。

「うさぎ様、が来る?」
 アーマデルの言葉に、ソーリスが微笑む。
「そう。うさぎ様のために貸し切りにするのだけれど、オレたちだけではお相手するのが難しくて」
「ソーリスの自信がないなんて珍しいな」
「いつもはどんな客でも満足させる自信がある、と言っているだろう?」
 そうなんだけれどねと苦笑して、ソーリスが『うさぎ様』の説明をした。
 何でもそのうさぎ様が訪れることは『瑞兆』らしい。訪れることはとても珍しくて、実に120年ぶり。そのため、ソーリスたちでは作法に不安があり、存分にもてなせない可能性がある。
「待て。そのうさぎ様というのは何なんだ?」
「陸の人はうさぎ様を知らない?」
 弾正の言葉にソーリスが目をしばたたかせる。まさか通じていないとは思わなかった様子で。
「神の使いだよ」
「神……?」
「そう、伝わっている」
「歳神に似たものかな」
 なるほどと顎に指をかけた雨泽が、弾正とアーマデルの視線に「まずは干支について説明しようか」と口を開いた。
 今年の干支は卯と言ったりはするが――干支とは、十干と十二支を組み合わせたものであり、卯は十二支の方。「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の十二支と、「甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸」の十干をあわせたものが本来の干支。今年ならば今年は「癸卯(みずのとう)」である。
「『癸』は大地に潤いをもたらす静かで温かな恵みの雨や露を表し、十干の最後。つまり癸は、生命や物事の終わりと始まりを意味しているんだ」
 120年ぶり、とソーリスが口にしたことにも雨泽はピンときているようだ。
 干支は60年で一巡する。豊穣や練達で言われる「還暦」というのはそういう意味だ。
 そしてうさぎ様は120年ぶり。つまり前回は何らかのアクシデントで訪いがなかったが、60年ごとに観測される現象なのだろう。
 詳しいねと微笑んだソーリスが言葉を引き継ぐ。
「言い伝えでは、恵方の店に訪うらしい」
「つまりそれは」
「そう。オレの店が恵方なんだ。
 言い伝えしか残っていなくて、オレも前の接待方法を知らない」
 しかしイレギュラーズたちは竜宮の人たちが知らない知識を沢山持ち得ているから、力を貸してほしい、とのことだった。
 うさぎ様の数は多いから、人数も必要だ。
 おもてなしして満足して貰えば、きっと竜宮は幸運が訪れる。
「そういうことなら」
「いいのか、弾正」
「などと言って、受ける気持ちは変わらないのだろう?」
「ああ」
 ふたりのやり取りに、ソーリスが微笑んで。
 そうして爆弾を落とす。
「では、伝統に則り、『うさみみ巫女』服を用意しよう」
「――何?」
「キミは良い身体をしているから、大きな物がいいよね。
 ああ、アーマデルの分は既に用意してあるから、案じる必要はないよ」
「そうか、助かる」
「……僕はとりあえず人を集めてくるね」
 巻き込まれないようにそそくさと離れようとした雨泽の肩に、ガッシリと弾正の手が置かれる。逃げられない!
「雨泽殿も手伝ってくれるのだろう?」
「そうなのか。雨泽、助かる」
「…………僕は角があるから似合わないと思うなぁ」
「ロップイヤーはどうかな。似合うと思うよ」
 逃 げ ら れ な い !
(……たくさん人を呼ばないと)
 雨泽は固く決意をするのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 リクエストありがとうございます、自由にしました!
 アーマデルさんのためにうさみみ巫女を普及させるお手伝いをします。

●目的
 うさみみ巫女姿で『うさぎ様』の接待をしましょう

●シナリオについて
 バニーが制服である竜宮城ではうさぎは切って離せぬもの。そしてうさぎ年! 大切な年です!
 うさぎ様は団体客です。竜宮城へ向かっていることが観測されています。
 当日、素晴らしいうさみみ巫女姿で準備バッチリ! なホストクラブ『the play』に訪います。
 それは、水のうさぎでした。否、空気の膜を纏ううさぎでした。安全なのを確認すると、うさぎ様の膜がパチリと割れて消えます。うさぎ様をもふもふ撫でてあげたり抱っこしてあげたりして甘やかしてあげるだけの簡単なお仕事――いえ、これは神事です。大事なことなんです。本当です。

●うさぎ様
 正式名は、シーウィングラビット。
 泳いでいる時は空気の層が体を包み、水泡に擬態しています。移動時は基本的に集団となり、大きなうさぎの形に見えるように泳いで外敵を遠ざけます。
 サイズは、陸地の普通のうさぎサイズです。
 主食は海藻。草食です。
 性格は臆病。ですが、うさ耳があると仲間だと思うので懐きます。

●うさみみ巫女服
 いいですか、これは伝統的な衣装なのです。恥じらう必要はありません。男女問わずに神社の作業服ってwikiにもあります。
 露出度はあなたの好みで。袴等の色も好みで。うさぎが認識できる色は緑と青なので、うさぎ様的には特に意味はありません。
 雨泽は普通の露出度の全くない巫女装束をアレンジして着ていると思います。

●うさぎ様の旅立ち
 うさぎ様は満足すると旅立ちます。次の場所を巡るのでしょう。
 終盤、全員で竜宮の外まで見送ります。
 水泡を纏いふよふよ浮かんでいたうさぎ様たちはひとつに集まり、まるで大きなうさぎのように泳ぎ――跳べないうさぎ様は、海水の中を飛ぶのです。それはとても幻想的で美しく、見たものに今年一年の幸福が訪れると言われています。

●サポート参加
 『もてなし』or『旅立ち』、どちらかに参加できます。イベシナ感覚でどうぞ。
 勿論あなたもうさみみ巫女です。
 同行者さんがいる場合は、お互いに【お相手の名前+ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい等ありましたらどうぞ。
 関係者さんも来る場合はお手伝いしに来ることになるので、うさみみ巫女です。

●NPC
 お声がけがあれば反応いたします。
・ソーリス・オルトゥス
 ご存知! クラブ『the play』のナンバーワンバニーボーイ。
 皆さんのサポートをしたり、柔和な微笑の下でお客様の満足度に目を光らせています。

・劉・雨泽(p3n000218)
 ロップイヤーのうさみみ巫女……神職? な装いです。
 うさぎ様をもふもふしています。もふもふした生き物が好きです。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、うさぎ様を傷つける行為は厳禁です。

 それでは、穏やかなひとときとなりますように。


交流
 基本的には同じ空間で皆でもふもふ(接待)したりしているのですが、イベシナのように誰かとだけ・ひとりっきりの描写等も可能です。(行動は狭まりますが)

【1】ソロ
 俺はうさぎ様とだけ向き合いたいんだ!

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達と。
 【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 参加者さんとワイワイ。うさぎ様可愛いね。
 NPCは話しかけると反応します。

【4】NPCと交流
 おすすめはしませんが、NPCとすごく交流したい方向け。
 ・【N雨】【Nソ】……あなたの文字数がNPCにもりもり削られます。
 ・【N両方】……あなたの文字数がほぼNPC――……☆
(サポート参加さんは【N両方】は文字数的に難しいです。)

  • 水のうさぎは海を飛ぶ完了
  • GM名壱花
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年03月07日 22時05分
  • 参加人数12/12人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(12人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
カレン・クルーツォ(p3p002272)
夜明けの蝶
建葉・メイメイ(p3p004460)
繋いだ意志
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
冬越 弾正(p3p007105)
終音
※参加確定済み※
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
冬越 アーマデル(p3p008599)
灰想繰切
※参加確定済み※
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
佐倉・望乃(p3p010720)
真っ赤な薔薇を

サポートNPC一覧(1人)

雨泽・シュテル(p3n000218)
君だけの雨音

リプレイ

●ふかふかぴょんぴょん
 シーウィングラビットは海を泳ぐ。
 大きな水泡のうさぎたちは海を泳ぎ、そうして久方ぶりに竜宮へと訪った。
「当店のご利用をありがとございます。心ゆくまで楽しんでいってください」
 人たらしとも称される穏やかな笑みを湛えたソーリス・オルトゥスが礼をして迎え入れた。内心では初めて見るシーウィングラビット――『うさぎ様』に様々な思いを抱いているものの、彼はナンバーワンバニーボーイ。おくびにも出さない。
 伝統に則り、今日のソーリスはうさみみ巫女姿。
 勿論、お手伝いに来てくれたイレギュラーズたちも皆うさみみ巫女姿だ。
(いっそ殺してくれ)
 思わず奥歯を噛み締めてしまった『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)の頭上でも愛らしいうさ耳が揺れている。着慣れた祝部の狩衣は祈祷や祭事の装束であり、巫女服ではない。今日は神職の普段着である方の白衣に袴。史之は浅葱袴で、『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は緋袴だ。
(バニーになることが海洋の国益につながるなら俺は……俺は……)
「しーちゃん、とっても似合っていますよ」
 お揃いですねと微笑む睦月が眩しい。気持ちを切り替えていこう。
「ようこそお越しくださいました、うさぎ様」
「うさぎ様たち、遠くからおつかれさま」
 ぷるると震えて膜をパチンと割ったうさぎ様は鼻をスンスン、まんまるな瞳をパチパチとして睦月を見上げている。今日のホストクラブ『the play』はうさぎ様用の特別モード。テーブル等が撤去され、沢山のクッションの中でくつろげるようになっている。
「だいじょうぶ、俺たちは味方で、何も怖くはないよ」
「ここは安全で、いいところですよ。のんびりなさってください」
 睦月がこちらはふかふかですよとクッションを上向けた掌で勧めれば、うさぎ様はぴょんぴょんと跳ねて移動し、ちょこんとクッションへと座った。
(ここはきっと、応接間のようなところなのですね)
 大切なお客様を歓待する場所。ホストクラブを知らない睦月は、そう認識した。
「やっぱりニンジンとか好きなのかな」
「うさぎと言えばそうですよね?」
 一応持ってきたんだと史之がニンジンを取り出し、うさぎ様へと供えてみる。
「あれ?」
 しかしうさぎ様は無反応だ。
 鼻はふすふすしているが、ただ呼吸をしているだけだろう。
「ニンジン、好きじゃないのかな」
「海には人参生えていませんもんね」
 言われてみれば、そうだ。史之と睦月は同じ方向に首を傾げた。
 そういえばと思い出すのは、うさみみ巫女姿に着替えてから、ソーリスが全員に言った言葉だ。
『うさぎ様の主食は海藻だそうだよ』
 海中の生き物である以上、海にあるものが主食だ。けれどどの海藻が好むかまでは把握されていないため、ソーリスは様々な海藻を用意していた。
 それを思い出した史之は「海藻サラダでいいかな?」と色んな海藻を少しずつ小さくした盛り合わせをうさぎ様に提供する。
「うさぎ様、おいしい?」
 もしゃもしゃ食べるうさぎ様は喜んでいるように見え、史之は眼鏡の奥の瞳を細める。
「しーちゃんのご飯、気に入ったのかな」
 微笑ましげにくすくす笑う睦月の膝の上にも、いつの間にかうさぎ様がくつろいでいる。柔らかな毛並みを無作法の無いように丁寧に撫でてやれば、うっとりと瞳を閉ざしてリラックス。
「なんだか僕もあまえんぼしたくなっちゃった」
「帰ったらゆっくりね」
 夫婦なのだから睦まじく過ごそうと、ふたりは微笑みあうのだった。

「……ところでソーリス殿」
「何かな」
「このうさみみ巫女衣装なんだか他と違っていないか」
「勿論、キミのための特注だよ」
 オンリーワン。そう言われると『繰切の巫女』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も悪い気はしない。
「……着替え終えた」
「弾正」
 背後に人の気配を感じ、アーマデルが振り返る。少し時間が掛かったな着辛かったか、なんて言葉を発しようとしていたのに――その言葉はごくんと喉の奥へと消えた。
「弾正! それはいけない!」
「似合わなかったか」
「違う。防御力が低すぎる」
「防御力……」
 思わず『残秋』冬越 弾正(p3p007105)の肩をガシィッと掴みにいったアーマデルの背後で、ソーリスがツボに入ったのかめちゃくちゃ笑っている。
 布面積が少ないアーマ出るに対し、弾正の布面積は申し分ない。しかし緋袴に深いスリットが入っており、歩く度にチラッチラッと肌色が覗くのだ。これはいけない。魅了してしまうぞとアーマデルは案じた。
「おれがだんじょうをまもるんだ」
 こうしてアーマデルもとてもやる気を出し、うさぎ様は迎え入れられた。
 守神が兎を捕食する蛇であるために嫌われないかと少し案じていたアーマデルであったが、うさ耳の偽装は優秀だったとアーマデルは密かに胸を撫で下ろす。うさぎ様はアーマデルや弾正の膝でのんびりとくつろぎ、もふもふもブラッシングも気持ちよさげに受け入れている。
「酒を出したほうがいいだろうか」
 神といえば御神酒だろうか。
 弾正はそう考えたが、うさぎ様は興味がない様子だ。
「神へ捧げるのは、やはり舞だろうか」
 海の生き物であるうさぎ様は海の食べ物しか口にしない上に草食だ。海藻を美味しそうにモシャモシャと食べている姿を見た弾正が奉納舞を披露し始めれば、彼の(防御力が低いスリットを)カバーするようにアーマデルも身体をくねらせた。……アーマデルの守神は蛇である。奉納神楽も蛇を模している。
 しかし。うさぎ様は海の生き物だ。きっと彼らの瞳にはリュウグウノツカイのように見えているのだろう。海藻への食欲も落とさず、ふたりの舞をまぁるい瞳で見つめていた。

「どう、鏡禍?」
「よ、よくお似合いです……!」
 ミニスカ丈の緑袴に、白衣はへそ上。袴と同じ緑色のうさ耳をいじりながら問いかけた『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)に、『鏡地獄の』水月・鏡禍(p3p008354)は思わず手を組んだ。ああ、来て良かった。ルチアが可愛ければ、自分の姿なんてなんのその!
 対する鏡禍もミニ丈の青袴、そしてうさ耳も青。ルチアに「竜宮は陸とは違って露出度が高いのが普通で……」と説明した手前、一緒にミニ丈なのだ。短パンやミニスカだと思えば然程抵抗もない。
「この巫女服……さすがに布の面積少なくないかしら」
 信仰する神ではないから解らないけれど、他の神はこういったものを好むの?
 周囲のイレギュラーズたちの装いチェックも忘れない。露出が全然ない人もいれば、肩も出している人も居て、様々だ。
「大丈夫です。とても可愛いですよルチアさん!」
「可愛いって言うのなら鏡禍もこっちの服にすれば良かったのではなくて?」
「あっ、ルチアさん! うさぎ様がこちらにもいらっしゃいましたよ!」
 誤魔化した。解りやすい誤魔化しだが、ルチアはのってあげる。
「本当ね。跳ねているわ」
「うさぎ様、うさぎ様。抱っこしていいですか……?」
 差し出された鏡禍の掌をうさぎ様はスンスンと匂いをかき、ぴょんっとまた一歩近寄った。これはお許しが出たということだろうと判断し、恐る恐る抱き上げれば――柔らかな毛の感触に何とも言えない衝撃が脊髄を駆けていった。
「わぁ、ふわふわしてます。気持ちいいですか、うさぎ様」
 頭から背中を撫でると、まんまるな目が細められる。こんなおもてなしなら、毎日だってしたい。
「ルチアさんも撫でてあげてください」
「そうね、私ももてなさなくちゃね」
 手を乗せれば柔らかな毛の感触に、ルチアは瞳を瞬かせる。この世界に来てからは初めて触ったかもしれないことに気付いたのだ。
「ルチアさんも抱っことかしてあげましょうよ、ほらほら」
「抱っこ? 構わないけれど」
 促されて腕に抱けば、小さな命が腕の中にあることに少しの不安と、やわらかさに愛おしさを感じた。
(かわいいなぁ)
 普段はどちらかというとクールとも言える(と言うよりも鏡禍が勝手にあわあわしている)ルチアの穏やかな姿に、鏡禍はずっと眺めていたいような気持ちになる。
「ちょっと、鏡禍」
「へ?」
「服」
「え。……って、そんなところに海藻入ってませんよぉぉぉ」
 こういうハプニングはルチアさんにお願いします! という鏡禍の願いをうさぎ様は聞き入れてくれないようだ。

 ぴょんっと立ったうさ耳が揺れている。
 歩く度に揺れていて、それがまた可愛いなと思ってしまうのは惚れた弱みだからだろうか。
 ちらりと向けた視線は、互いに。『雪の花嫁』佐倉・望乃(p3p010720)と『雪の花婿』フーガ・リリオ(p3p010595)の視線は交わって――フーガの方が先に逸らした。
「……なー、望乃?」
「はい?」
「おいらを見るより、今はうさぎ様をもてなそうぜ?」
「そ、そうでしたね!」
 でも、だって。仕方ない。
(フーガのうさぎさんのお耳、とても可愛らしいのですもの)
 うさ耳だけじゃない。衣装だってそうだ。いつもとは違う和風の、そして彼のたくましい腕や足が見えている衣装。目を奪われない訳がないと望乃は頬を抑えた。
(いけないいけない、お仕事です)
 まずはどうしようかと考えて。
 歓迎と言えば踊りだと思い至る。
 短い袴をひらりとさせ、ぴょんと跳ねるうさぎ様への踊りの奉納。
 望乃が踊りだせばすぐに楽器を手にしたフーガが奏でた。
「うさぎ様、マッサージは如何でしょう?」
 踊りが一段落したら膝に乗ってもらって、優しく撫でたり、もみもみ、もみ。
 うさぎ様の柔らかな感触は、同時に望乃をも癒やしてくれる。
 もっこりとした首下も、もふもふなお腹周りも堪らない。
「フーガもお疲れでしたら、マッサージしましょうか?」
「え」
 ちょっとだけ、間があった。
 だってそれって望乃がめいっぱい触ってくれるってことでしょう?
「……おいらもちょっと、揉まれたいです」
 フーガの口から、やけに真剣な声がこぼれ落ちたのだった。

「お揃い、だね」
「そう、ですね……ぴょん」
 雨泽も『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)も露出には抵抗があるから、普通の丈の巫女衣装。耳が二種類になると気にしたメイメイに、雨泽も横髪に隠れた耳を見せて皆そうだよと小さく笑った。
「ふたりとも可愛いわ」
「カレンも可愛いよ」
「ふふ、知っているわ」
『夜明けの蝶』カレン・クルーツォ(p3p002272)も勿論お揃いのうさみみ巫女だ。可愛らしくうさ耳にもリボンを結んでいるところを雨泽が褒めれば「雨泽さんもつけましょう?」とリボンを勧められた。
「僕は垂れ耳だから落ちてしまうかも。髪の方でいい?」
 それがダメなら手首でも。君の好きなところに結んでいい。
 皆で可愛くなったのなら、うさぎ様をお迎えする準備はばっちり!
「いらっしゃい、ませ……ぴょん!」
「こんにちは、うさぎ様」
 ぴょんぴょん跳ねるうさぎ様を笑顔で迎え入れて、ご挨拶。先程からメイメイの語尾に『ぴょん』がついているのは彼女なりのうさぎ様への気遣いなのだろう。『めぇ』と鳴かないように気をつけている姿を雨泽は微笑ましく思った。
「うさぎ様、こちらへどうぞ」
 うさぎ様が撫でてほしいと思っていることを察したメイメイがクッションに座って膝を示せば、鼻をスンスンとさせたうさぎ様からは『抱っこして欲しい』の気持ちが伝わって思わず破顔してしまう。勿論丁寧に抱き上げ、膝へと載せた。
「うさぎさまは、素晴らしいです。ふふー」
「ふふ、可愛いわね、うさぎ様」
 カレンの膝の上でも、うさぎ様は撫でられてくつろぎモード。
「お腹はすいていらっしゃいませんか?」
「海藻を持ってくるね」
 ふすふす鼻を鳴らして何かを探す仕草に気付いたメイメイが声を掛け、好物だと聞いて言う海藻を雨泽がカウンターへ取りに行く。
「人参ではなく、海藻なのね」
 小さな頃にうさぎを飼っていたカレンは四葉のクローバーを探して持ってきたけれど……無駄になっちゃったかしらと首を傾げた。されどカレンはすぐに思いつく。うさぎ様も可愛くなってしまえばいいのよ!
 リボンにクローバーを結わえて、それをうさぎ様の首に結ぶ。
「お揃いが増えたわね」
「めぇ、皆様とっても可愛いです」
 あっ、めぇって言っちゃった! とメイメイが口を抑え、くすくす笑い合う笑顔だってお揃いだ。

「うさみこさん、どうかな。楽しめている?」
「うん、ヨゾラ。わたし、とても楽しい……!」
 良かったと微笑んだ『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は星空兎巫女の腕の中のうさぎ様をひと撫で。ひくひくと鼻を蠢かせたうさぎ様は気持ちよさそうで、それを見つめる星空兎巫女は幸せそうで、ヨゾラも嬉しくなる。
 猫好きだけれど、ヨゾラはうさぎも――ふわふわしたものが好きだ。
 勿論、友人たちも大好きで、沢山の友人たちに笑顔が灯る瞬間は特別に好き。
 竜宮が初めてな星空兎巫女を誘うのは少し勇気がいったが、是非彼女を連れてこなくちゃ! と思ったのだから仕方がない。……例え、うさみみ巫女服を着ようとも。
 けれども星空兎巫女がお揃い嬉しいと言ってくれたから、伊達眼鏡の向こうの瞳は笑みの形になった。それにうさぎ様も喜んでくれるしね。問題ない!
「ふふ。うさぎ様、海藻いっぱい食べてくれる」
「旅をしている方ですし、お腹が空いているのかも?」
「あ、そうかもしれないね!」
 どうやらうさぎ様は柔らかめの海藻を好むようだ。ヨゾラが差し出すと小さな口でもしゃもしゃと食べるのが何とも可愛らしい。
「わたしは元の世界で神様だったから、少し親近感、あるかも」
「この世界にもうさぎの神様がいるなら、猫の神様もいるのかな」
 うさぎ様を幸せそうに撫でる星空兎巫女は「きっといるよ」と笑う。
 居ないと思うよりは居るって思ったほうが楽しいでしょう、と。

 今日はおもてなしをいっぱいがんばります。
 きゅっと拳を握って眉をきりりと上げてみせた『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)も、皆と一緒のうさみみ巫女姿。白衣は雨泽と同じようにきっちり着ているけれど、袴は普段の半ズボン丈だ。袴は初めてだと言ったら、動きやすさで勧められたのだ。
「ニルはうさ耳も似合うんだね」
「雨泽様もとってもかわいいです」
「ありがとう。あ、ココアも?」
「そうなんです」
 気付いてくれましたかとニルは嬉しそうに笑った。普段は装いの違う雨泽ともココアとも、今日はお揃い。皆いっしょにうさぎさん。
 来店したうさぎ様はとっても自由で可愛くて、ご挨拶して見つめていたらいつの間にか膝に乗っていた。撫でていいのかとソワソワしていたら雨泽が櫛を手渡してきて、ニルは力加減に気をつけて優しく毛並みを整えた。
 うさぎ様はふかふかであったかくて、何だか嬉しくなる。
「うさぎ様、幸せそうだね」
 うさぎ様はニコニコしないけれど、雨泽がそう言うのならそうなのだろう。ニルのおもてなしで幸せになってくれて嬉しいけれど、ふわふわと嬉しさを貰っているからニルがおもてなしされてる? なんて思ってしまう。
「うさぎ様は何を食べますか?」
「うさぎ様の『おいしい』は海藻だよ」
 これなんて食べやすそうと薦めてくれた雨泽にありがとうを言ってうさぎ様の口元へと運べば、早速もりもり海藻が減っていく。早くいっぱい食べるのも『おいしい』の証だ。
 ニルの手から一生懸命食べてくれて、ニルの心はぽかぽかになる。
「雨泽様も海藻はお好きですか?」
「うーん。僕はお肉の方が好き」
 あ、でも。と口にした雨泽が海苔は知ってる? と問うた。
「おにぎりに巻いてある黒いの。あれも海藻だけど、あれは好きだよ」
 海苔の佃煮も昆布の佃煮も。
 ニルは海藻も調理をすると更に『おいしい』になるのかなと思うのだった。
「あれ、祝音は緋色なんだ?」
「そうだよ、みゃー……じゃない、うさー」
 渡されたのが緋色の袴だったからそのまま不思議に思うこともなく着用した『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は、覗き込んだ雨泽にうさーと鳴いた。今日はうさぎだからうさーと鳴くならしいけれど、間違えた時はご愛嬌。
 雨泽は浅葱色で、祝音は緋色。袴の色は違うけれど、耳と尾は白の白兎だ。そういえばファントムナイトの時もお揃いだったねと雨泽が笑った。
 うさぎ様は暖かくて柔らかくて、抱っこして撫でているだけで幸せな気持ちになれる。
 目を細めるうさぎ様を撫でながら、祝音は首をかしげた。
「劉さんも……うさぎ様、好き?」
「一等は猫だけれど、暖かくて柔らかな生き物は好きだよ」
「一緒……うさー」
 毛のさわり心地が良ければ良いほうが良いと珍しく言葉を選ぶように口にした雨泽に、祝音は嬉しげに笑った。
 祝音よりも身体の大きな雨泽の膝には二羽のうさぎ様が既に乗っているのに、もう一羽乗ろうとしてきたから抱き上げた。
「祝音」
「うさー?」
「海藻、食べさせてあげて」
 抱き上げ、向けられたうさぎ様の口。
 そこへそっと海藻を運べば、もしゃもしゃと食べてくれる姿がまた可愛らしい。

●うさぎ様は海へと帰る
 うさぎ様はとても満足を覚えてくれた。
 来たときよりも瞳がキラキラと輝き、ふかふかの毛皮もツヤツヤ。
 うーんっと伸びをした時にぴるぴる震える尾だって、きっと元気が溢れてる。
「ああ……もう、行ってしまうのです、ね」
 うさぎ様との別れは名残惜しいけれど、それでもそれが満たされた証だと解るからこそメイメイの心も穏やかだ。
 うさぎ様の一体が来た時同様に水泡をその身に纏うと他の個体も一斉に水泡を纏い始め、ソーリスの案内で竜宮の外へと向かう。
 一羽のうさぎ様がぴょんと跳ねる。
 重力を感じさせないその動きは、跳ねるというよりもふわりと浮かんだようだった。
「またのお越しをお待ちしております」
 ソーリスが耳を揺らしてこうべを垂れ、イレギュラーズたちもそれに倣う。
 身を正した時にはうさぎ様たちは海水の中でふかりぷかりと浮かんでいる。
 鼻先を――先頭を務めるのは、どうやらカレンがクローバー付きのリボンを結んであげたうさぎ様のようだ。真っ直ぐに前を見つめ、『大きなうさぎ』が旅立っていく。
「……大きなふわふわうさぎ様だ……!」
「大きくても可愛いね」
 声を跳ねさせた祝音は、雨泽の言葉にうんと頷いて、キラキラな瞳でうさぎ様を見つめた。
 60年もかけてまた竜宮へと戻ってくるうさぎ様は、きっと祝音も知らない海を知っているのだろう。
 その度はきっとすごくて……とても素敵だと祝音は想った。
「またね、うさぎ様。……うさー」
「……お元気で」
 次の訪れは、あったとして60年後。その時に会える確証はないから、メイメイはしっかりとこの光景を目と胸に焼き付ける。
(次にお会いできるのは、60年後になるのかしら……)
 その頃には望乃もフーガも、立派なおじいちゃんとおばあちゃんだ。
(その時も、また)
 こうしてこの景色を一緒に見られますようにと願いを胸に。
 星空兎巫女もヨゾラの隣で旅立つうさぎ様を見上げていた。ヨゾラが今日星空兎巫女を誘ったのは、彼女にこの光景を見せたかったからだ。
「ありがとう、ヨゾラ」
 それを悟ったのだろう。星空兎巫女は瞳を輝かせ、そう口にした。
 ずっとこの光景を覚えていようと、瞳はうさぎ様たちから離さない。
(60年後も120年後も、うさぎ様が来られるように僕らも頑張らないと!)
 ヨゾラは海を飛ぶうさぎ様を見つめ、決意を新たにした。
 うさぎ様の旅路は、きっと簡単なものではないはずだ。
 ああやって大きな姿に見えるように擬態するけれど、広い海の中でうさぎ様はとても小さい。
「さようなら、うさぎさん」
 カレンには『あったかもしれない』が見えるだけで、『あるかもしれない』を知ることは叶わない。けれど、信じている。うさぎ様のこの旅路の先に、幸せがあることを。
 鏡禍は旅立っていくうさぎ様を真っ直ぐに見上げるルチアの横顔をこっそりと伺った。
「綺麗ね」
 ルチアの青い瞳はキラキラと輝いていて、とても綺麗だ。
 そうですねと小さく口にして、心の中で一等綺麗なのはルチアだと鏡禍は想う。どうか彼女に幸福が訪れ続けますように。
(今年こそ、アーマデルの心にかけられた縛めを解いてみせる)
(今年こそは……ちゃんとヒトになる)
 アーマデルや守りたいもののために強くなりたいと願う弾正。
 弾正の思いを知っているからこそ、そうありたいと願うアーマデル。
 ふたりの願いは違うようで、同じだ。
 うさぎ様の姿が小さくなっていく。
 その姿が見えなくなるまで見つめながら、弾正とアーマデルは想った。今年こそは必ず、と。

 うさぎ様、うさぎ様。
 どうかこの願いを遠くに御わす神へと届けておくれ。
 うさぎ様は跳ねた形のまま海を飛ぶ。
 まるで任せてと言わんばかりに。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

うさぎ様の旅路と、みなさんの一年。
そして竜宮の一年が幸せなものでありますように、うさー。

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