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シナリオ詳細

<天牢雪獄>革命の象徴だったもの

完了

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オープニング

●太陽が消えた朝
 主よ、私は嘘をついたのでしょうか。
 『聖女』さまになりたいくて、聖女のように振る舞ったのは、私のついた嘘だったのでしょうか。
 あるいは、弱く縮こまり、肩を並べて戦えないことを恥じる私こそが嘘だったのでしょうか。
 いいえ、本当はわかっているのです。
 どちらも嘘なんかじゃなかった。
 私は弱くて。
 けれど憧れて。
 皆を幸せにしたくて。
 けれど足りなくて。
 沢山勉強をして。
 けれど知らなくて。
 どちらも私。私そのものだったのです。
 だから。
「私はいなくなったほうが、良いのです」

 幌のついた馬車が、未だ雪の深い道を進んでいく。
 鉄帝の冬はかつてなく冷たく、法衣の上から毛皮の服を着込んだとて、頬を刺す冷たさに震えそうになる。
 けれど幌馬車の荷台に座り込んで膝を抱えて丸くなるのは、寒さゆえばかりじゃない。
「アミナ……これ以上拠点から離れると今日中に戻るのが難しくなるのではないか?」
 防寒用の布を取り出して肩にかけてくれた司祭ムラトが、心配そうに問いかける。
 かたかたと馬車の車輪が揺れる音と、それゆえの振動が暫し静寂の中に続いた。
 答えを返さないアミナにしびれをきらしたようにムラトがもう一度問いかけようとしたところで、アミナはやっと口をひらく。
「戻るつもりはありません」
 ずきりと人の心を刺すような、あるいは投げ捨てたような言葉は、事実ムラトの心に痛みを走らせる。
「……どういうことだ、アミナ?」
 真意を問うための言葉だが、それはムラトにとっては言わされたにすぎない。
 それまで丸くなりうつむけていたアミナが顔を上げ、真正面を見つめたまま目を大きく見開いた。赤く泣きはらした目からは、未だ涙がこぼれている。
「私はもう、自信がありません。革命派の象徴などと、もう二度と名乗れません。
 スラムに戻って静かに暮らしたいです。私がクラースナヤ・ズヴェズダーに残っていたって、お荷物になるだけなんです。だってそうでしょう。私は聖女アナスタシアや司祭ヴァレーリヤのように戦えない。かといってマカール司祭やダニイール司祭のように政治を行えるほど知性に優れていないし、大司教ヴァルフォロメイ様のようなカリスマだってない。そのくせ酷く不器用で、誰かに言われたことを言われたままやるだけ。そうしてできあがったのが今の現状です。革命派にアラクランを、魔種たちを引き入れてしまったのは私なんです。私がいなければこんなことにならなかったし、私のせいで拠点が同志……いいえブリギットやフギン=ムニンたちに傷つけられることだってなかった。私のせいじゃないですか! もう無理なんですよ! 象徴でいることも、皆さんを笑顔にすることだって!
 もし戻ったってまた同じ事がくり返されるだけです。私はまた無力で、無知で、人に言われるまま動いて騙されて、また酷いことになるんです。もうこれ以上こんな気持ちになりたくないんですよ!」
 決壊した堤防の濁流が如く、アミナは吐き出すように叫んだ。
 アミナとムラトしか乗っていない馬車の幌内に、それはむなしく反響する。
 御者台で馬を操作しているであろうムラトと馴染みの深い旅馬車乗りも、聞こえているだろうに無言を貫いていた。
「アミナ、私は……」
 手を翳し、ムラトはアミナの背をさすろうとした。だがその手は宙空で止まり、そしてまたもむなしく降ろされる。
 彼女を慰める資格などあるだろうか。アラクランが怪しい集団だということは、最初から思っていたことだ。それでも革命のための力が必要だと、生き生きと語るアミナに賛同して見せたのではないか。自分は彼女を止めなかった。アミナが自分のせいだというなら、その彼女を止めなかった彼もまた同じ責を負うべきだ。
「……大丈夫です。分かってますよ。吐き出したくなってしまっただけです。
 それに、前に、言ってくれましたから」
 涙を拭い、アミナは苦笑した。

 ――革命派の象徴とか、そんなんじゃなくてあたしはアミナとしてずーーーっと接してきただろうが!
 ――何もわかってねーのよお前は! あたしの話を聞け! そしてお前の話をしろ! いい加減にしろこの馬鹿!
 ――もう無理だってみっともなく泣いても叫んでもいいのよ。
 ――対等な友人として全部受け止めてあげるから。その後貴女の尻を蹴り上げて立ち上がらせて、一緒に道を探してあげるから。

 あのときかけられた言葉は、アミナを革命の象徴でも、同志でもなく、ただの一人の女の子として見てくれていた。
 無理なんてしなくていい。そう教えてくれた。
 けれど。

 ――だから、あたし達を友だと認めて。1人で何処かに行かないで。

 その言葉には、応えられません。だってこれから始まるのは、きっと戦争なのだから。
「戦えない私がそばにいても、邪魔になってしまうだけです。私についてきていた兵たちも、アラクランと一緒に革命派を離脱してしまいましたしね。
 私の役目は、終わったんですよ」
 また目尻に涙が浮かんでいる。そんな言葉いいたくなかった。けれど、認めなくちゃいけない。
 背伸びをやめて。象徴をやめて。ひとりの女の子になってしまった自分は。
 もう、彼らと一緒には戦えないのだと。
 ムラトは眉根を寄せ……途端、大きな揺れに見舞われた。

●象徴の終わり
 初めは衝撃であった。
 次いで馬車が横転し、ムラトは咄嗟にアミナをかばうように抱きかかえる。
 荷台のどこかにぶつけたのだろう、額から血が流れ落ちるが、外れた幌から吹き込む雪風に痛みはどこかへ消えていく。
 そしてそれ以上に、周囲の風景が彼の心を冷えさせた。
「革命派のアミナ、だな?」
 腰に剣を差し、軍服の上から鎧を纏った男がよく通る声で言った。
 横転した馬車の車輪はむなしく空転し、投げ出された御者は頭に鉄の矢がささった状態のまま雪の地面を赤くそめるオブジェと化している。
 馬車の周りを遠巻きに囲むのは、大きな革鎧を纏ったギルバディア(狂紅熊)や武装を強化されたヘイトクルーたち。つまりは、天衝種だ。
 そんなモンスターの部隊を率いる軍服の男の胸には、グロース師団の紋章があった。
「グロース師団中佐、ヴォルスだ。冥府についたらこの名を言え、手柄になる」
 地面に膝を突いたまま、ムラトはアミナをかばうように抱き寄せる。
 ヴォルスたちを見るアミナの表情は、確かな怯えがあった。
「『革命の象徴』……か。皮肉なものだな。貴様は象徴どころか、ハリボテとして利用された後にこうして捨てられたわけだ」
「違う。彼女は――」
 ムラトが言葉をかえそうとしたところで、ヴォルスは鞘から抜いた剣で彼を斬り付けた。
 呻きと血しぶきがあがり、ムラトが地面に転がされる。
 血に濡れた剣が、アミナの目にただ、映る。
 ヴォルスは冷酷に言い放った。
「死んで行け、革命の象徴だったものよ。何者にもなれぬまま。せめて苦しまぬよう終わらせてやる」

GMコメント

※このシナリオはラリーシナリオです。仕様についてはマニュアルをご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu13
構成は一章限り。描写人数は未定です。

●状況
 ギュルヴィ(フギン=ムニン)率いるアラクランを革命派に招き入れてしまった責任から、そして戦力になれぬと悟ったが故に、アミナはムラトと共に革命派を離れようとしていました。
 そこへ新皇帝派グロース師団の襲撃がかかります。ムラトの発した救難要請とアミナの不在を察知したイレギュラーズたちはアミナ救出のために動くのでした。

●アミナ
 アラクランによって革命の象徴として担ぎ上げられた彼女は、アラクラン脱退によってその存在意義を失ってしまいました。
 無理をすることも、背伸びをすることも、聖女を夢見ることもやめた等身大の女の子となった彼女にはもう戦う力がありません。
 また、曲がりなりにもアラクランを革命派に引き入れた張本人であるアミナが残っては派閥内に不和をもたらすとも考えているようです。
 彼女はこれ以上の迷惑をかけないために革命派から離れる判断をしようとしています。

 彼女にどのような言葉をかけるかは、あなたが決めなければなりません。

●エネミー
 新皇帝派グロース師団の拡張モンスターたちです。既に馬車は包囲され、御者は殺害されています。
 この包囲に突入し、アミナをまずは救い出す必要があるでしょう。

●グループタグ
 誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
 大きなグループの中で更に小グループを作りたい時は【チーム名】【コンビ名】といった具合に二つタグを作って並べて記載ください。
 このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【ナントカチーム】3名

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者(プレイング採用者)全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <天牢雪獄>革命の象徴だったもの完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月23日 22時23分
  • 章数1章
  • 総採用数17人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

 血を流し、痛みに呻くムラトの表情。
 本当なら駆け寄り、抱きかかえたかった。まるで父親のように自分を育ててくれた司祭ムラトの血が、冷たい土に吸われていくさまを黙って見ていたくなんてなかった。
 ああ。拠点を出てしまえば。アラクランを失ってしまえば。革命派を出てしまえば、こんなものだったのか。自分という存在は――。
 振りかざされる剣が、今まさに振り下ろされようとした。
 その時。
 ギンッ――という音と共にヴォルスの手から剣が飛ばされた。
 それが遠くからの狙撃によるものだと気づけたのは、よほど目の良いものだけだろう。
 だが次に続く、『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)の突進は誰の目にも明らかだった。
「行け!」
 叫ぶルナに続き、彼の背に乗っていた『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)と『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はそれぞれ左右へと飛ぶ。転がるように割り込んだのは、ムラトとアミナそれぞれの前だった。
 更に月騎ギアVD2336-ALRに跨がった『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)が滑り込むように包囲陣へと名乗りを上げる。
「ヴァイスドラッヘ! 只今参上! さぁ、私を倒さない限り、手は出させないわよ」
 ケンタウロス型のモンスターが槍を手にレイリーへと襲いかかるが、腕から『ヴァイスドラッヘンフリューゲル』を展開したレイリーはそれを器用に受け流し、更に『ヴァイスドラッヘンホーン』を展開し相手の胸を貫く。
「アミナ殿。貴女は貴女よ!今までの事はもう戻らない。
 でも、生きていれば取り戻せるし、新しい事も出来る。
 だから、貴女は好きな夢を描きなさい。助けてくれる人達と一緒にね」
 レイリーの声は、確かに届いた。
 事実、すくむように動けなかったアミナがよたりとムラトの方へと這うように動き始めたのだ。
 そんな彼女を支えるように肩を貸す茄子子。
(あーあ、やっぱりあの時ちゃんと言ってあげればよかったな。代わってあげようかって……)
 無理をする彼女を、茄子子は特等席で見つめていた。
「私のせい私のせい、と。自分を卑下するのは一番楽でいいですね」
 騙される彼女を、茄子子は特等席で見つめていた。
 この世は醜く、不条理で、愚かな者が搾り取られる。けどそれは、実のところ当たり前のことだ。
「ああ、そうだ。では、今度は私に騙されてみませんか? こう見えて私、人を騙すのは得意なんですよ。ふふ」
 茄子子は唇に手を当てる。
「もう一度やり直しましょう。私が貴方を、再び革命派の象徴にしてあげますよ。素敵でしょう?」
「そんな、けど、私なんて――」
「『なんて』じゃないよ、アミナ」
 イーハトーヴがムラトの傷を治療し、振り返った。
「俺は革命派じゃない。
 俺にとってアミナは、最初からずっとアミナだ。
 守りたいものの為に、見ていて心配になるくらい頑張ってきた女の子だ」
 向けた笑顔はなぜだか泣きそうで、しかしちょっとだけ幸せを知っていた。
「俺もさ、守りたくて、もがいて、足りなくて、その繰り返しで。
 今だって、君の心を助ける方法も判らずにいる。
 でも君の可能性は、命は奪わせないって決めてるんだ。
 君が何者でも、何者でもなくても。
 アミナ、生きて、君の未来を紡いでほしい」
「……だとさ」
 ルナはライフルを手に、周囲のモンスターたちに早速牽制射撃を始めていた。
「てめぇもてめぇだ。逃げるなとは言わねぇ。そいつぁ俺も得意だからな。だが、諦めんな。生き足掻け。女っつーのは、強いもんだ。
 生きたいなら、俺がつれてってやるぜ。さぁ、どうする?」

 包囲は強力。味方は僅か。
 アミナは、そんな僅かな味方が黄金よりもきらめいて見えた。
 アラクランにいた沢山の『同志』は、自分にどんな顔を向けただろうか。
 象徴となるのです。さあこの銃を。今こそ立ち上がるのです。弱者の盾となるのです。
 正しいことを、正しく、沢山、いつも。
 それはいつしかアミナをアミナでなくしていた。
 けれど今目の前にいる彼女たちは『アミナ』を見ていた。一人の、女の子を。

成否

成功


第1章 第2節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
冬越 弾正(p3p007105)
終音
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート

 言葉に出来ず、ただ伸ばしたアミナの手を掴む。
 それを引き離さんと、巨大な両手斧を握ったヒグマめいたモンスター、EXギルバディアが襲いかかる。
 鎧で守られたその体を傷つけることは難しく、そして斧によって寸断されるのは握った手どころではない。
 だがそんな恐るべきモンスターの目の前に。はるか天空から一人の男が現れた。
 『残秋』冬越 弾正(p3p007105)。彼は拳を地面に叩きつけ片膝を突くような姿勢で着地すると、泥をはねその顔をあげる。
「……めっ、ちゃくちゃ痛え! 何も直接落とすことねえだろ!」
 そのまま上を見上げると、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)と『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)がゆっくりと降下してくる。
「いや急げっていうからよ」
「二人で上まで運ぶのはそれなりにホネだったぞ」
 ジュートは己の翼を、ベルナルドは水彩画で描いたようなカラフルな幻翼を広げている。
「言いたいことがあるんだろ? 時間稼ぐから、言っちまいな」
 ジュートがニッと笑って銃を構え、EXギルバディアへ撃ちまくる。
 弾正は泥を拭うと、アミナへと振り返った。
「俺は礼を言いに来た。君がアラクランを革命派に引き入れていてくれたから、俺はギュルヴィ殿と遊んだり話したりして、彼を少しでも知る事が出来た。
 魔種は倒さねばならぬ相手だ。だが……殺し合うだけでは辛すぎる。
 俺はギュルヴィ殿を倒し、魔種の苦しみから救いたい! そう決意する勇気をくれたのは、間違いなくアミナ殿だ!!」
 言うべきことは言ったとばかりに、弾正がギルバディアへと挑みかかる。ベルナルドは『じゃあ手短に』と絵筆をとった。
「聖女を諦めたんだって? そりゃあいい。天義の聖女と腐れ縁の俺からしてみりゃ、ロクなもんじゃねぇ。たったひとつの失敗が何だってんだ。俺のグループはほぼオッサン。みんな人生しくじりまくりだ! けど案外生きてるぜ。生きてると、ラッキーなこともあるもんだ」
 弾正もベルナルドも、それぞれの視点から地獄を見ていた。ある意味で温かく、そしてくそったれな地獄を。
「苦しみから救う……そうですね。私は、最初は、そのつもりだった筈でした……」
 泥のついた手を見下ろし、アミナが苦笑した。

「ド派手に馬車を襲いやがって。そりゃ山賊の専売特許だぜ。こりゃライセンス料を貰わねえといけねえや。対価は──てめえらの命でいいぜ!」
「――HA! 象徴、偶像に集るのはヒトサマの勝手だが、貴様等。
 随分と愉快で痛快な虐めっ仔じみた面構えよ。何……? ヒトサマではなく怪物を放った? ならば貴様等、獲物を違えているのだよ。実に美味そうなクリームだと思わないか?」
 ギルバディアとの戦いに乱入した『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)と『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)。
 最初の三人だけでもかなりの戦力だったが、この二人は特に強烈だ。
 オラボナはなんということもない様子でギルバディアの前に立ち塞がると、その斧の攻撃を真正面から受けてみせる。常人を何度か殺せる程度のダメージを与えたはずなのに、オラボナはかすり傷をおった程度の様子もみせない。
 圧倒的体力。絶望的防御力。名状しがたき耐性群。外宇宙の神がもたらした冗談のように、オラボナは立ち塞がり続けるのだ。
「革命だ何だか知らねえがよ。たかがガキのやらかしひとつ──そのケツも拭いてやれねえ組織が革命なんざ起こせるかよ。離散しちまった方が余程良いぜ」
 一方でグドルフはその斧でギルバディアの鎧をかち割った。
「てめえを止めねえ周囲が悪ィ。だが疑わなかったてめえも悪ィ。
 てワケだ、生きて帰って、謝りまくって、タップリ叱られるこったな!」
 ニッと悪い笑みを浮かべ、振り向き泥まみれのアミナにびしっと指をさした。
 罪は犯した。時は戻らない。失望もうけたろう。だがそれがどうした。生きているんだぞ、おまえは。
 そこへ駆けつけた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が、『メロディア・コンダクター』をヒュンと振って風切り音を美しいメロディへと変化させる。
「成長途上なのは解ってて、でも貴女と出会えたから貴女が良いんだよ。
 皆は優しいから……逆に、ちょっと無理にでも貴女を立たせようとするかもな。
 俺は一旦引いて休むのも良いと思う。けどさ――」
 イズマは音楽の力を身に纏い、七色音符の重なった拳をギルバディアへ叩きつけた。
「無理には引き止めないが、貴女は今の縁を全部投げ捨てて後悔しないと誓えるか?
 きっかけが何であろうと、なりたい姿を願って積み上げた努力は嘘だったか?」
 衝撃が走り、鎧のへこんだギルバディアが吹き飛んでいく
「俺達の戦いを見ててくれ。
 そしてそこに自分が居なくて後悔しないか、よく考えてほしい。
 この国の良くない所に、アミナさんと共に立ち向かえる日を待ってるよ」

成否

成功


第1章 第3節

リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士

 逃げたいなら逃がしてくれると言ってくれた。
 もう一度象徴にしてくれるとも言ってくれた。
 何もしなくても守ってやるとも言ってくれた。
 ただ一人の友達で居てくれると言ってくれた。
 可能性は、無限にあった。
 アミナはまるで、育ちきった大樹の枝のごとく広がった道の分岐点にいる気分だった。
 それまで切り株のように閉ざされた、何も出来ない『無能で貧弱な自分』という影を見下ろしていたつもりだったのに。ただ顔をあげただけで、こんなにも。
 アラクランが革命派にいたことにも、良いことはあったと言ってくれた。
 聖女を諦めたのも、それはそれでいい選択だと言ってくれた。
 自分のやらかしなど所詮やらかしにすぎないと言ってくれた。
 未熟な、聖女にも象徴にもなれない自分にも出会えてよかったと言ってくれた。
 得たものは、無限にあった。
 まるで砂浜から眺める海の水平線のように、無限に連なる出来事が自分の過去に広がっている。
 いいこと、わるいこと。いいこと、わるいこと。
 高く上がった波ばかりを見つめて悪いことしかない人生だと思い込んでいた。けれどたださざ波に耳を傾けるだけで、こんなにも。
 過去も、未来も。
 こんなにも無限だ。

「ばかですね、わたし……あなたがあんなに言ってくれたのに。あのときに気付けば良かった」
 額をなで、笑顔を作るアミナ。目尻に浮かぶ涙は、『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)に頭突きをされた時を思い出してのことか、それとも胸の痛みを思い出してか。
 星鍵をさげ、アミナを守るように戦っていたリアがくるりと体ごと振り返る。
「たしかに、貴女はただ普通の人だった。
 だけど、貴女は苦しむ人々を救いたいと心から願ったのでしょう?
 アミナはね、最初から聖女だったのよ。
 勇気を振り絞って立ち上がった、その瞬間から」
「そうです。けれど、それは聖女を名乗るだけのヒトにすぎない。けれどけれど、あなたは『それでいい』と言う」
「そうよ。疲れたなら休めばいい。
 間違ったならやり直せばいい。
 だけど、抱いた願いを諦めないで」
 背後へ迫るギルバディアを星の瞬きで切り払い、リアは再び振り向いた。
「アミナは怒りによる革命ではなく、希望による救済をきっと成し遂げる。
 だって、あたしの誇れる友達のヘッポコ聖女様なんだから!
 アミナと、アミナの願いはあたしが守り抜く。
 だから、貴女の手で鉄帝国に希望の火を灯すのよ。革命の象徴なんて名前、似合わないから捨ててやれ!」
「ははっ!」
 似合わないから捨ててやれ。
 今となっては、なんだそんなこと。簡単じゃないか。
 誰もアミナに求めない。誰もアミナに強制しない。
 好き勝手にしていいなら、大好きだったことをしよう。
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が胸を切り裂かれたギルバディアの横っ面に、その鋼の拳を思い切り叩きつけた。
 小柄な体躯から繰り出される衝撃は至近距離のショットガンに相当し、当然ギルバディアは顔面をはぎとられつつも吹き飛んでいく。
 空中で余ったエネルギーをもてあましながらくるくると回転したエッダが、裾を広げて着地した。
「アミナ、貴様は未だ戦っている。己を蝕む不条理に抗うものだ。
 故に、この私エーデルガルト・フロールリジが貴様の死を拒絶しよう」
 見ろ――と歯噛みしてこちらを睨むヴォルス中佐をゆびさした。
「盤上は常に敵のものだ。理不尽の極みだ。だが、その盤は闘いの道だ。
 辛いだろう。苦しいだろう。闘っているのだから。
 今背を向ければ、待っているのは豚の一生だ。
 用意された餌。用意された寝床。生も死も誰かの都合で左右され、抗う事も叶わない」
 そこへ、魔法の砲撃とカードナイフが飛び、モンスターの集団へと襲いかかる。
 カードナイフには、怪盗リンネのシグナルマークが描かれていた。
 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)と『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)が立ち塞がる。
「……ブリギットにアミナを頼むと言われた……その信頼を裏切るわけにはいかない。
 結月沙耶――いや!『怪盗リンネ』!アミナというお宝を頂きに参上した!」
 これもまた、アミナが繋いだ縁のひとつだ。
「アミナ! 思いつめる必要はない!
 アラクランを引き入れたのは確かにアミナかもしれない……けど! イレギュラーズ――私達という最高の戦力を引き入れたのもアミナだ!
 それに革命派の今の隆盛はアミナがいるからだ、今アミナが消えたらそれこそ革命派に不和がおこる!
 過去はどうあれアミナの存在は革命派に必要だ……違うか?」
「アミナがマリオンさん達と同じだけ戦えたり、ヴァルフォロメイ達と同じだけ政治力やカリスマがあったら。
 きっと打算的な人達しか、着いて来なかったと思うよ?
 だってアミナがそんな凄い人だと、皆、今のアミナと同じ気持ちになっちゃうから。
 自分みたいな何の力もない者が、あんな凄いアミナと一緒に居ても何の役にも立たないって」
 卑下するのは簡単だ。戦わない理由を、人はいつも心の中に作ってしまう。
 だるい。つらい。よわい。こわい。いつしかぼうっと突っ立って、誰かがなんとかしてくれるのを待っている。ヒーローの登場を待っている。
 アミナは少なくとも、そうしなかった人間だった。
「普通の女の子が革命の為に、先頭に立って自分に出来る事を必死に頑張ってる。
 その姿に皆、革命の夢を見て、自分達でも何か出来るのかもって、アミナに着いてきた。
 聖夜にアミナに問いかけた言葉。思い出してくれたらマリオンさんは嬉しいな」

成否

成功


第1章 第4節

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

 昔を思い出しますわね。
 アミナが来て何度目の冬だったかしら。
 寒くて雪の深い、身寄りのない子が亡くなった夜。
 急に居なくなった貴女を慌てて皆で探していたら、朝になってようやく馬車で見つかった。
 亡くなった子を夜通し抱いてあげていたの。
 せめて最後くらいは寂しくないようにって。

「ねえアミナ。貴女は自分が役立たずだと思っているかも知れないけれど、その優しさに救われた人も沢山いますのよ。
 スラムに行くのが貴女の幸せなら何も言わないけれど、それが『迷惑をかけないため』であれば考え直してもらえないかしら」
 ヴァレーリヤのかける言葉は、隣人のそれだった。
 共に名も刻まれぬ墓に祈り、共に遊び、共に語らい。昔に比べれば、随分それができる仲間も減ってしまった。
 アラクランを引き入れたことで賑やかになったけれど……思えばそれは、『残されて失って』しまったことへの埋め合わせだったのかもしれない。
「アミナがいないと、寂しいですわ」
 ヴァレーリヤはそうとだけ言って、言葉通りに笑った。
 世界は思い通りにいかないことばかりだ。けれど『思い通りにいかなかったね』と言い合える相手がいれば、それも案外悪くない。
「アミナ先輩。
 私やイレギュラーズの皆は貴方を、革命を信じてきた。
 貴方は旗印を掲げなくてはならない。
 キツイですよね。
 でも、そうで無かったら、貴方を信じて死んでいった人々の犠牲は何だったんですか?」
 閃光のように走り、ヴォルスをそのグレートメイスで殴り飛ばす『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)。
「退け。革命を邪魔する力主義者共。選ばせてやる。この場で凍え野垂れ死ぬか、無様に挑み散るか!」
 ブランシュは吠えるようにヴォルスたちへ威圧すると、アミナを守るように立った。
 アミナの周りには、もうこんなにも多くの人がいる。
 埋め合わせるというのなら、充分過ぎると思えるくらいに。
 『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)が同じくそばに立って、アミナの冷たい手をとった。彼の手が血に汚れているのは、ムラトの傷を治療した後だからだろう。
「探したよ、アミナ君。
 逃げてしまえば君は全てを忘れ安穏と暮らせるのかな。
 数多の屍を前に救いたいと思ってしまった時から、そして両手を血で染めた時から、我々は理想に囚われたとばかり考えていた」
 ルブラットはその仮面の下で、確かに微笑んだように思えた。
 『君の弱さなぞ随分前から知ってたよ』
 そんな言葉の裏に、しかし確かな敬意があった。
「君の願いの全てが真似事ではなかったろう。冗談みたいな理想を語る君は、本気だった!
 危険を顧みず私を助けてくれた時も。だから他でもない君が夢見る先に、私も希望を見てしまって……!」
 仮面にそっと触れたルブラットは、やはりどこか寂しそうだ。
「今まで流れた血を忘れられるなら、好きにし給え。
 だが、少しでも未練があるのなら。私は君と共に戦い続けたいよ……」
 そのためならこの手をずっと引いていくから。
 ルブラットはアミナの手を、もう一度強く握った。

成否

成功


第1章 第5節

 未だ雪荒ぶ鉄帝の大地。今日とて血は流るる。

 海洋からの支援物資を受け、鉄帝国内における反抗の機運は更に高まり続けている。
 中でも多く民衆からの支持を集めていたのは、革命派に新たに組織されつつある人民グループであった。
 それは王を討ち国を破壊せんとする革命とも、体制を乱し己が利益を貪らんとするテロリズムとも異なる。
 人民が人民であるために、これ以上奪われないために、自分とその家族のために戦うことを決めたものたちの軍である。
 彼らは新皇帝派の武器倉庫から奪い取った大量の銃を布のローブの下に隠し、黙々とこの吹雪く大地を歩いている。
 未だ掲げぬ。
 未だ撃たぬ。
 これは他者を脅かすための暴力ではありえないのだから。
 ボロ布の下から銃を取り出すときがあるのだとしたら。
 家族を守る、その一瞬のため。
 つまりは。

「――アミナ!」

 誰が最初にそう叫んだのだろうか。何人もの声が重なったようにも聞こえた。
 横転した馬車と、それを囲む新皇帝派の率いる天衝種たち。
 中心にはアミナがたち、それを守るようにローレットのイレギュラーズたちが戦っていた。
 彼らの力は強力で、モンスターの集団を追い払うに充分である。
 それでも来たのは、示すためだ。
 イレギュラーズの誰かが言った。
 『逃げてもいい』
 イレギュラーズの誰かが言った。
 『戦うなら付き合うよ』
 イレギュラーズの誰かが言った。
 『もう一度騙してあげる』
 イレギュラーズの誰かが言った。
 『ダサい称号なんか捨ててしまえ』
 イレギュラーズの誰かが言った。
 『友達として側にいる』
 イレギュラーズの誰かが言った。
 『この手をずっと引いていく』
 イレギュラーズたちの想いは確かに広がり、それは今、土地を追われ革命派へと逃れていた難民たちにも浸透しつつあった。
 粗末な食事。冷たい住居。狭い箱に寄せ集まって吹雪に耐える日々。
 つらかった。寒かった。ひもじかった。それは確かだ。
 だけど彼女は笑顔だった。日々薄くなっていく麦粥にしかし反比例するようにちょこまかと働きまわり、なんとかしよう、できるんだと信じて疑わなかった。
 そんな彼女が泣きはらして逃げ出したから?
 救えないのは当然だと後ろ指をさすか?
 否。
 だってもう、彼女は。
「アミナ、君はもう俺たちの家族だ。殆ど水の味しかしない粥を一緒に食った家族じゃないか」
 ボロいローブの下から、ひげ面の男がアサルトライフルを取り出す。
 そのウッドストックには、ナイフで削ったらしい十字のシンボルマークが刻まれている。
 人々がみなライフルを取り出し、同じように刻まれたシンボルを晒し銃口を全て天に向けた。
「俺たちは戦うよ。今から、ここで、始めるんだ。決めるんだ。俺たちは戦う!」
 一斉に一発ずつ撃った銃声は、まるで天を轟かす神の咆哮に思えた。
 冬の神様だって、これを聞いたら驚くさ。
 泣きはらし、目のしたを赤くしたアミナへ、その一つが差し出された。
 十字のシンボルが刻まれた小銃は、けれどアミナに『受け取れ』なんて言わない。
 自由だ。
 何になったっていい。
 だって一度全部失ったから。失敗したから。
 無限だ。
 どう受け取ったっていい。良いことも悪いことも、全部あったあとだから。
 君はどうしたい?
 そう問われたアミナは――。

 自分はどうしようもないやつだと思っていた。実際そうだったし、そうなった。
 例えば自分ができるのは、墜ちた瓦礫をひろったり、助けを求めているひとがここにいますよと声を張ったりすることだけ。
 仕入れる麦を増やしたり、喧嘩する人々をなだめたり、沢山の組織に協力をとりつけたり、武器をいっぱい手に入れたり、悪い軍人たちをなぎ払ったり、モンスターに燃やされる村を守ったり、そんなことはできやしない。
 それがイヤだった。聖女さまになりたかった。
 空を白く煙り歩く大聖堂の輝きに憧れた。弱き人に寄り添って戦う姿に憧れた。
 ああなれたらいいのにな。昔の私なんて吹き飛んじゃうくらい、素敵だな。
 けれどそうはなれないのだと、現実が教えた。
 だから逃げた。弱音を吐き散らして、泣きわめいて困らせた。
 けどどうだろう?
 私が本当にしたかったのは。ほしかったのは。なりたかったのは誰だったろう。
 私は誰かになろうとして、自分を捨ててしまってやしなかったかな。
 人は肉体の器に従って魂が形を作るというけれど、この小さな体で、大きな何かになろうとしたんじゃないかな。
「私は……あなたの、あなたの友達になりたい。家族になりたい。仲間になりたい。できるかな?」
 問いかけているようで、けれどもう答えはでていた。
 皆が、答えてくれたあとだったから。
 アミナはシンボルマークをそっと撫でてから銃を手に取った。
 空に向けて、一発だけ撃つ。

「私はアミナ。ただのアミナ! 『人民軍』のアミナです!
 革命のなり損ない。聖女の失敗作。逃げ出した象徴。なんとでも呼ぶがいい。その全てを笑い飛ばす準備がある!」
 このあとのことなど。モンスターとの勝敗など、もはや語る必要があるだろうか?
 吹雪く曇天の空の下、心の中には青い空が晴れ渡っていたのだから。
「私達は、戦います!」

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