シナリオ詳細
<晶惑のアル・イスラー>口無しの華
オープニング
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赤く、紅く、魔性の光を内部に秘めている紅血晶。それは、ほんの少し裏側の世界に足を突っ込んだ若者たちの中では、ある噂と共に出回っていた。
「これを意中の人に砕いて飲ませると、永遠に自分のモノになるらしい」
グラオ・クローネも近いこの時期に、なんともご都合主義で利己的な噂である。人をモノ扱いだなんて、高慢が過ぎる。普通の、正常な思考を持っていたのならばそう思ったに違いない。しかし、実際に紅血晶を見た者からはそんな理性は飛んでしまったのだろう。
「ああ、これを彼女に……」
ある男――ダワーは、先程手に入れたばかりの紅血晶を空に掲げる。グラオ・クローネ当日、月明かりを通しで妖しく光るそれが一瞬点滅するように光った気がした。
ドクンッ――。
「あ、グ、あァア!?」
紅血晶には、もう一つ噂があった。いや、そちらの噂の方がよく囁かれている。
――その宝石を手にした者が、化け物になり果てる。
ダワーも例に漏れず、紅血晶を持った右腕がカマキリのような腕へと変貌していく。埋め込まれた紅血晶が、月明かりにギラリと光った。
それと同時刻。変貌した彼と歳の近い女が、恋人から貰った紅い飲み物を口にした。
「ああ、これで、私は永遠に貴方のモノなのね」
「そうだ。そして、俺も……」
紅い飲み物の中にさらさらとした砂のような紅い結晶を入れ、男も口にして愛を囁きあう。――しかし、
「ぁ、あ、ガァアアア!」
「え……あ、イ、いやだ、イヤダ、イアア、アアアアア!」
べちょ、と何もしていないにもかかわらず、肌が溶けるような感覚。しかし、そこに残っているのは、紅い血ではなく、白い梔子の花弁だった。
「ああ、助けてくれ、助けてくれ……!」
カマキリのようになった腕を振り回し助けを求めるダワー。その悲痛な声を上げながら、ネフェルストの裏路地を歩く。丁度、小さな料理店の前に差し掛かったところだった。バンッと扉が開かれる。
「助け……、ヒィッ!!」
そこから現れたのは、身体の所々が溶けたようなゾンビのような風貌の生き物。つい、腕の鎌を振り上げれば、それは「ギャアア!!」と金切声のような悲鳴を上げながら、白い花弁が舞う。
「あ、あああ……!」
明らかに異常なこの状態に戸惑っているのか、それとも、人型の何かを斬ってしまったことの罪悪感だろうか。ダワーは言葉にならない言葉を上げ、裏路地を走った。
――そんな様子を目撃した少女が一人、彼らから逃げるように走って行った。
●
最近、キナ臭い話をよく聞く。そう思いながらローレットへやって来たイレギュラーズたちの前に、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)がドレスの裾をひらひらと揺らしながらやって来た。
「あら、丁度良いところに来たわね」
プルーがそう言うということは、何か依頼でもあるのだろうか。イレギュラーズの一人が「どうしたんですか?」と彼女に問いかける。
「灰色の王冠が輝くこの夜に、どうも紅い毒花が出回っているみたいなの」
「毒花?」
「ええ。紅血晶という宝石を模した毒花が」
紅血晶という名前は聞いたことがある。ラサの商人を、幻想の貴族たちを、そして民の目を眩ませる程に美しい宝石。それには、キナ臭い噂があったはずだ。
「そう。『宝石を手にした者が化け物になり果てる』そんな毒花。最近は、その宝石を飲んでいる人がゾンビのような姿になっているという報告もあったわ」
どうして、その宝石を飲むなんて考えに至ったのか、全く理解しかねる。だが、プルーの話によると、どうも『意中の人に砕いて飲ませると、永遠に自分のモノになるらしい』という噂も少しではあるが、出回っているらしい。
「ネフェルストに向けて飛翔した巨大な影。その影が現れたのと同時に、紅血晶を持つ者たちの姿が変貌しているみたい。私が聞いた情報だと、この辺りに潜んでいるみたいよ」
そう言ってプルーはネフェルストの地図を取りだすと、店が立ち並ぶ表通りから、いくつか離れた裏通りを指した。
「白い花弁を散らすゾンビのような者たちと、カマキリのような腕を持った……確か、名前はダワーだったかしら」
「そいつらを助ければ良いのか?」
「いえ、倒してほしいの。カマキリ腕のダワーは……まだ完全に飲み込まれていないみたいだから、もしかしたら助けられるかもしれないけれど、流石にゾンビみたいになった人たちは助からないと思うわ」
そうか……と、イレギュラーズたちの表情が暗くなる。もう手遅れならば仕方がない。せめて、他の人たちを傷つけないように、止めるしかない。
「近くの住人たちには避難して貰ったけど、気を付けてね」
「ええ、勿論」
イレギュラーズたちはプルーの言葉に頷くと、現場へと向かった。
- <晶惑のアル・イスラー>口無しの華完了
- GM名萩野千鳥
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月05日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「ひっ……!? ギャァァァッ! こっち来ないでったら! 来たら泣くことになるわよ――アタシが!」
日光がほとんど届かない路地裏にいる晶人を見るや否や、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は既に涙目になりながら叫んだ。プルーからの依頼だということもあって張り切って参加したのだが、ゾンビのような容貌にジルーシャは始終怯えっぱなしである。
「ほらほら、狙うならオイラを狙え!」
そんなジルーシャから晶人の視線を遮るように、『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が名乗りを上げる。晶人たちはその声を聞くと、チャロロへと方向転換する。
(――それにしても、)
ラサに流れる紅血晶の噂。それは、『宝石を手にした者が化け物になり果てる』といったものだけだった筈だ。
「噂は聞いていたけど、砕いて飲むなんてのははじめて聞いたよ……」
「本当に。ただでさえ紅血晶がばら撒かれてる上に、体から離せないように摂取させる噂まで広がってるなんて……」
呆れたようにチャロロと『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は呟きながら、目の前にいる晶人たちを薙ぎ払う。全くその通りだ、と『星巡る旅の始まり』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)と『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)も頷く。
「永遠に相手を自分のモノにしたい、ですか。その結果、このような姿になって……彼らもゾンビのようになる事を望んだわけではないでしょうに」
「そもそも、人の心がそう簡単に動かせるだなんてどうして思えるんだろう。体内に取り込んで安全かどうか疑わしいものを、好きな人に飲ませようとする神経も分からない」
「同意見です。ですが、ヒトとは感情に左右される存在ですから。愛を利用する。紅血晶を飲ませるには、とても効果的だったことでしょうね」
「そうだね。『好きな人を自分のものにしたい』という想いだけは、分からなくもないかな」
事実、ここにいる晶人はその噂を信じてこのような姿になったのだ。『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)は、祈るように彼らの魂に「どうか、安らかに」と語りかける。その声に返事は無い。ただ、傷つけた身体から白い梔子の花弁が舞い散るのみ。
「グゥウウ……ッ」
「なるべく苦しませたくないのですが……」
「アタシに任せて!」
「先程、叫んでいませんでしたか?」
「怖いけど! すっっっごく怖いけど! でも、放っておけないもの!」
そう言いながら、ジルーシャは広範囲に香りを漂わせ、その香りは晶人たちを包み込む。
「さぁ、足止めはしたわ。今の内に!」
「分かりました。……っ!」
後方からジョシュアが銃を構えたその時、この場にいる筈のない人を見かけた。この辺りに住む住人の避難は済んでいると聞いていたのだが……まだ十歳くらい、だろうか。少女がこの場にいたのだ。
「ハリエットさん! 彼女の保護を!」
「勿論!」
晶人だけに狙いを定めてはいるが、戦いの場では何があるか分からない。ジョシュアは照準を変えることなく、ハリエットに少女を託す。ハリエットはそれに応え、乱入してきた少女に声をかけた。
「お嬢さん、ここは危ないから……」
「っ! ご、ごめんなさい」
申し訳なさそうに少女が謝る。どうにかして、逃げ道を確保して誘導しようとすると、先程のジョシュアの弾から逃れたのだろう。晶人が少女に襲い掛かろうと向かってくる。
「危ない!」
チャロロが叫ぶ。だが、そのハリエットも彼らの動きは見えていた。少女を庇い、晶人の攻撃を弾く。すぐにアクセルは少女に近づき、どこか怪我がないかと声をかけた。首を横に振る少女を見ながら、アクセル自身も彼女に怪我が無いか確認する。
「怪我は……うん、ないね。逃げ遅れたのかな? ここを真っ直ぐ行ったら表に出られるはずだよ」
「あ、ありがとうございます。でも、」
その続きの言葉は分からない。どうしたの? と尋ねても、はぐらかされてしまう。
「ううん、なんでもないの。ごめんなさい。――ありがとう」
少女は礼を言うと、アクセルの言う通り真っ直ぐ走り去った。
「……?」
「今、何か……」
走り去った少女から、何かが香った。そんな気がしたジルーシャとジョシュアは咄嗟に振り向いたが、彼女の姿はもうどこにもなかった。
仲間たちが晶人たちの相手をしている最中、晶人たちの集団からほんの少しだけ離れた場所に、彼――ダワーはいた。未だ錯乱状態らしいダワーは、晶人たちの相手をしているイレギュラーズたちを見てヤケになったのだろうか。鎌のようになった両腕を振り回しながら、彼らの元へと乱入しようとしていた。振り回すその右腕の手のひらだったであろう鎌の先に、血のように紅い宝石がきらりと光る。
「あれか。ラサで話題の紅血晶。その輝き……いただくぜ!」
晶人たちと戦っている仲間の元へと向かう前に、『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)はまるで怪盗のようにカードをダワー足元へと投げると、それは地面に突き刺さった。どこから投げられたのかと周りを見回すダワーの頭上から、彼の目の前へと華麗に着地を決めた。
「全く、『砕いて飲ませると、永遠に自分のモノになる』? 男ならそんなもんに頼らず当たって砕けろ!!」
「ううう、うるさい! うるさい!!」
乱雑に鎌を振る。そんな適当な攻撃はサンディには当たらない。攻撃をあしらいながら、サンディは様子を観察する。報告で聞いていたのと然程変わらない容姿。変化しているのは両腕のみ。――どうやら、先にこちらに来て正解だったようだ。
(錯乱状態だが、意識はまだはっきりしている……それなら!)
サンディはすっと息を吸い込むと、思い切り叫ぶようにダワーへと言い放った。
「ダワー! 聞こえるか!! お前はまだ飲まれていない……お前はまだ! 負けちゃいないんだ!」
「で、でも、腕が……化け物が……俺も、俺も化け物に……っ!」
「大丈夫だ! 助かりたきゃ、ソイツに抗え!! 俺が何とかする!!」
「――っ、」
ダワーは攻撃の手を緩める。その隙に、ダワーの背後から近づいてきていた『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が、紅血晶がある彼の右腕を斬り落とした。これ以上、時間をかけてしまえば、結晶化を進行させるかもしれない。そのため、原因である紅血晶を真っ先に切り離したのだ。
「ぐ、ぁあっ!」
ダワーはヴェルグリーズの方へと振り返った。そこには、ダワーの悲痛な叫びに表情を暗くしたヴェルグリーズが立っていた。そんな彼は、躊躇いながらもダワーに告げた。
「結晶化した部分は元には戻らない、辛いことだけれどね……」
「そん、な……」
痛みのせいで上がる息と熱。ダワーはそれに耐えながら、その場に崩れ落ちる。
「でも、命あってこそだと俺は思う。救える命は救いたい」
「俺は……俺はただ、彼女に、振り向いて欲しかった、だけなのに……っ」
ぼろぼろと零れる涙に混じるのは、後悔だろうか。ヴェルグリーズは改めて、自身の得物を強く握った。
「キミに恨みはないけれど、キミの命を救うためだ」
「すまない、すまない……」
「きっと、この先キミは不便な生活を強いられる。けれど、それはもう取り戻せない。
……今後について考える時は是非頼ってほしい。俺にも多少の伝手くらいはあるからね」
これが現在取り得る最善策。優しい声色でダワーに伝えれば、彼は大人しく左腕を差し出した。その差し出された片腕を、少痛みが少なくなるように斬り落とした。
●
サンディがアクセルに声をかけ、アクセルはダワーの治療に当たる。斬り落とされた両腕は元に戻らないが、少なくとも痛みや斬られた後の処置くらいならできる。処置を済ませると、アクセルは晶人たちとの戦いに戻って行った。サンディの言葉に、両腕の痛みに、完全に正気を取り戻したダワーは、一人、戦線の邪魔にならない場所へと避難した。
「はぁ……」
噂と一緒に己に渡された紅血晶。まさか、自分がこんなことになるなんて。妙な噂を信じた代償がこれか、と溜息を吐く。ふと、ダワーの脳裏に紅血晶を譲ってくれた少女の姿が過ぎる。
(そういえば、あの子はどうしてアレを俺に渡せたんだ?)
あの紅血晶を見ていると、持っていなければならない気がしたのだ。腕がおかしくなっている最中ですら、どうしても手放せなかった。そんな代物を、彼女は平気で渡してきたのだ。彼女は手放せたのだ。
ぐるぐると考えていると、軽い足音が一人分聞こえてきた。今の自分の姿を見せると驚かせてしまう……そう思い、ダワーは物陰に隠れた。
「うーん、もうちょっと数を増やせれば良かったんだけどなー」
聞き覚えのある高い声。その声は、つい最近聞いたものだ。ダワーはその声のする方を覗き見た。そこにいたのは、十歳くらいの少女。ダワーに紅晶石を譲ってくれた少女。確認すると、すぐに隠れて少女の声に耳を傾ける。
「でも、イレギュラーズがどんな感じか分かったし、いっか!」
ふんふん、と鼻歌を歌いながら、どこから取り出したのか日傘をさしてどこかへと去って行った。
(……あれは、もしかして吸血鬼?)
吸血鬼とは、紅血晶を売ったり渡したりしていると噂の人たちのことだ。皆が「血色で美しい宝石だ」と言うので、そう呼ばれるようになった。もし、本当にそうだというのなら――。
「伝えなくちゃ」
「――何を?」
目の前には、少女が。
●
「さて、残りはアイツらだけだな」
「そうだね。こちらはもはや救えない。きちんと引導を渡してあげよう」
サンディとヴェルグリーズは他の仲間たちと合流した。もう既に半数は動かなくなっている。
「バラバラに動いてるせいで、二人で引き付けてもなかなか大変で、ね!」
チャロロが拳を振るいながら、晶人たちを引き付けている。同じように引き付け役を買って出ているグリーフも、「そうですね」と頷いた。
「ここまでバラバラに動かれるとは……各個撃破に切り替えましょう」
「残ってるやつらも、だいぶダメージ入ってるはずだ。俺が足止めしておく。後は任せた」
晶人たちは石やらナイフやら、手元にある物を投げ始める。意思がほとんどないのにも関わらず、まるでやけになったような状態だ。
今まで複数の晶人を狙っていたジョシュアだが、方針を変え、一人ずつ狙いを定める。サンディは晶人が投げてきた石やらナイフやらを拾うと、そのまま投げ返した。サンディとヴェルグリーズも合流した今、こちらの方が数の上では有利である。決着をつけるなら、今がチャンスだろう。
「回復はオイラに任せて、遠慮なくやっちゃって!」
「ありがとう、アクセル殿」
ヴェルグリーズは前に出ると、一体を袈裟斬りする。ぶわっ、と白い花弁が吹き出し、舞う。
「なんで、こっちにいっぱい来るのよ! ハリエット、後は任せるわよ!」
「うん。本当は『こうなる前』に助けたかったけど……」
引き付けきれなかった二体がジルーシャに迫るも、ジルーシャは香術を駆使して追い詰め、ハリエットがとどめを刺す。撃ち抜かれた身体から、細かな白い花弁が吹き出し、舞う。
「私のことは気にせず、どうぞ今の内に」
「オッケー! これで最後だよ!」
始終、可能な限り晶人を引き付けていたチャロロとグリーフも、最後の一体をギリギリまでグリーフが引き付け、チャロロが一撃を喰らわせる。最後の一撃で、溶けた皮膚は割け、白い花弁が吹き出し、舞う。
辺り一面が白い梔子の花弁だらけになった時、立ち上がっている晶人は一体もいなかった。代わりに、地面に横たわるのは、喋ることを許されない死体。
「……噂に踊らされたとはいえ、こんな最期を迎える理由なんて誰にもなかったはずだ」
「そうですね。せめて晶人となった人たちに祈りを」
ヴェルグリーズの言葉に続くように、ジョシュアは胸に手をあてて目を瞑る。彼に続くように、他のイレギュラーズも黙祷を捧げる。静かなその空間に、「あ、」と声を漏らしたのはサンディだった。
「ダワーを迎えにいかねえと」
「それなら、俺も一緒に行こう」
ダワーは二人と面識がある。知らない人よりも、自分たちが迎えに行った方が良いだろうと判断したのだ。
「オイラはちょっと調べものがしたいな。皆、同じ花弁だったのがちょっと気になるだよね」
「私もこの白い花弁を回収したいですね。アンガラカといいましたか。誘拐に用いられているあれは、白い粉でしたから」
「そのアンガラカの材料かもしれないわね。もしかしたら、解毒剤になるかもしれないけれど」
「そうでないにしろ、持ち帰って調べたいのは確かだね」
「そうだね。何かの参考になるかもしれないし」
アクセルは晶人となった彼らの遺留品を、グリーフとジルーシャとハリエットとチャロロの四人は花弁を調べたいらしい。
「でしたら、僕もお二人についていっても良いでしょうか? ダワー様の様子も気になりますし……」
「ああ、構わない」
ジョシュアの言葉にサンディとヴェルグリーズは頷くと、三人は足早に彼の元へと向かった。
「――ダワー!」
ダワーの元へと到着した三人が見たのは、ぐったりとした様子のダワーの姿だった。まだ辛うじて息はあるようだ。しかし、血溜りが広がっている。
「どうしたんだ!?」
「まだ息はある。早く回復をして、」
「逃げ――、吸血鬼、が、」
「……えっ?」
「こんにちは、お兄さん」
子供の声。その声に三人は振り返る。その姿にジョシュアは見覚えがあった。晶人たちの戦いの最中に現れた少女だ。彼女はまだ息のあるダワーの側にしゃがみこむと話を続けた。
「可哀想なダワーお兄ちゃん。紅血晶をさっさと飲めば、好きな人と一緒に死ねたのにね」
「……もしかして、先程、晶人たちのところへやって来たのは」
「どうなってるのかなー? って思って。うん、さっきは助けてくれてありがとう」
少女は振り向いて、にっこりと笑う。しかし、その目は笑ってない。
「本当はこのお兄ちゃんも『口無し』にしてあげたかったんだけど、もうばれちゃったからいいや」
「アンタは一体、」
「私? 私はガーデニア。それじゃあ、またね」
「待て!」
ヴェルグリーズが剣を少女に振り下ろす。しかし、彼女はどこからともなく取りだした日傘で、それを受け流す。「やぁだ。待たない」とくすくす笑いながら、日傘を開くとそのまま細い路地へと入り込み、どこかへと去って行った。その場に残されたのは、あの晶人たちが舞わせていた白い花弁の香り。
「ヴェルグリーズ様、サンディ様。とりあえず、ダワー様の治療をしましょう」
「そうだな。折角、助かった命だ。ここで無駄にはしたくない」
「……そうだね」
三人はまだ息のあるダワーを担いで、急いで仲間たちの元へと戻って行った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
晶人たちは倒され、ダワーの命は確かに助かりました。
ご参加頂き、ありがとうございました!
GMコメント
初めまして、こんにちは、こんばんは。萩野千鳥です。
早速ですが簡単に説明致します。
●目的
・ゾンビのような風貌になった晶人を倒す
・ダワーを倒すor救出
●地形
狭くて薄暗い裏路地です。
住人は避難済みではあります。
●敵等
『晶獣・ダワー』
両腕がカマキリの鎌のようになっています。まだ部分的な変化ではありますが、油断はできません。
錯乱状態のため、敵味方関係なく両腕の鎌で襲ってきます。
『晶人』×10
どこからともなく集まった、ゾンビのような風貌の人だったモノです。斬ると、クチナシの白い花弁が舞います。
無作為に殴る、蹴る、ナイフで斬る、近くにある石を投げる等、してきます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
以上です。どうぞ宜しくお願いします!
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