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シナリオ詳細

<果ての迷宮>ダンジョン踏破マラソン大会~決勝編

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●パァン!!
「さあ、合図と共に一斉にスタートラインを切りましたわ特異運命座標! この『果ての迷宮』第30階層の入口にあたる『はじまりの競技場』を飛び出して、第31階層へと続く『明日への回廊』を目指します。
 はたして、幻想王家の秘宝『探索者の鍵』をゴールに突き刺して、保存されたセーブポイント情報を1階層ぶん進めるのは誰か!? 勝利の栄冠は選手のみならず特異運命座標を名代として代理政争を繰り広げる幻想貴族たちの上にも輝きますから、各派閥、必死に選手を応援しておりますわ。

 さて……この第30階層は難所続きで、特に後半の『妖精惑わしの森』『屍殺しの洞』『竜落としの峰』は難易度の高い場所ですわ。本階層のルールは簡単、『制限時間以内に誰かがゴールに辿り着けばクリア』。ですけれど、多数のルート分岐を持つこの階層の攻略は、仲良しこよしで足並みを揃えていては間に合いませんわね。
 そこで今回の攻略は人海戦術。これだけ多数の選手でレースをすれば幸運と実力の双方に恵まれた誰かしらは『明日への回廊』に至るルートを掴み取れるだろうという、雑な割にそこそこ確実な発想ですわね。
 しかも迷宮の側もそれを想定してあったのか、至るところに審判と救助班を兼ねた中継使い魔が出没する始末。実況のわたくしシスター・テレジア(p3n000102)がおります放送席は、多数の使い魔からの映像を映すスクリーンが山ほどございましてまるで管制室のようですわ。ちなみに放送席も貴族の方々のいらっしゃる観覧席も最初から競技場に用意されていた準備万端っぷり。わたくしこの至れり尽くせりに少々ドン引いております……。

 ……っと、ここで最初の脱落者が現れましたわ! 果ての迷宮探索の総隊長、ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)選手、いきなり目の前に立ち塞がる岩壁に穴を掘ろうとして岩が崩落。危うく巻き込まれる寸前で中継使い魔に救助されて無念の失格ですわ! ……はい、彼女に賭けてらした方は残念でしたわ賭け金没収ですわ。
 挑戦はまだ始まったばかり。いつこうして足元を掬われるかは判りませんわ。
 けれども、わたくしは信じております……勝利に向かって進む選手の皆様が、必ずやゴールを掴んでくださると。そして見事勝者を言い当てた応援者の方に、然るべき配当金が……あっ、えっ、ちょっと騎士様がた突然放送席に押し入ってらして何をなさいますの!? わたくし貴族の皆様にこの偉大なる探索行をより楽しんでいただこうと思っただけで、王家の秘宝をダシに賭博の胴元を始めて私腹を肥やすつもりなんて決して……あーれー!?」

GMコメント

 幻想王都メフ・メフィートの中心には、『果ての迷宮』と呼ばれる広大な地下迷宮が存在します。この迷宮を踏破することは、幻想の建国者たる勇者王より連綿と続く、幻想王侯貴族の伝統的義務とされています。
 幻想王家の所有する『探索者の鍵』なる秘宝は、この攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能とするアイテムです。これまでの踏破は29階層。第30階層を攻略してセーブポイントを更新することが、本シナリオの目的となります。

 ペリカ・ロズィーアンらによる事前の調査の結果、第30階層はその性質上、人海戦術によるルート探索が最も効果的だと判断されました。そのため、多数の参加者によるレースという形式となりました。
 本シナリオの参加者8名は、中でも特に実力と幸運に恵まれて『妖精惑わしの森』まで辿り着いた選手たちです。そうでない選手は予選編という名の予約抽選で脱落してしまいました。しかし、ここから先が本番……各難所の攻略ルートを選択し、可能なかぎり早くゴールを目指しましょう!
 所要時間は、選択ルートと、所持するスキルやアイテムによって大きく変わります(希望描写欄にB~D+使いたいスキル等を付記しておくとより良いでしょう)。ノービス冒険道具等もあるとないとで結果を大きく変えるかもしれません。

 本シナリオの情報精度はEです。どの選択肢を取るとどれくらいの時間になるのかは最初から決まってはいますが非公開です。
 運ゲーであることと、どの難所のシーンが描写されるかは判らないことを、あらかじめご了承ください。優勝を目指す選択肢より、たとえ脱落シーンを描写されても自分らしくなるような選択肢を選ぶほうがご満足いただけるかと思います。


A.名代について
 果ての迷宮攻略への貢献は、幻想貴族にとって発言力を強化する好機でもあります。皆様がどの派閥の名代としてレースに参加するかをご指定ください。
 誰の名代として参加した特異運命座標が多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントしつづけ、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。選択肢次第で展開等が変わる可能性があります。

【1】フォルデルマン派


【2】レイガルテ派


【3】リーゼロッテ派


【4】ガブリエル派


【5】その他(希望描写欄内で具体的に指定)


B.妖精惑わしの森
 濃密な魔力のために妖精さえもが迷う、という触れ込みの森です。実際、森に入ると不思議な力により必ず迷子にさせられます。森の魔力により上空の飛行もできませんし、自分の位置や方角を知る手段も全て無効化されます。
 迷子から抜け出る方法は主に3つあり、所要時間も異なります(具体的な時間は秘密です)。上手い手段があれば抜け出るまでの時間を大幅に短縮できるでしょう。他にも自由な方法を試してみてもかまいません。

【1】魔力源を探して解除する


【2】喋る動物さんの探しものを手伝う


【3】森ごと破壊して森を脅迫する


【4】その他(希望描写欄内で具体的に指定)


C.屍殺しの洞
 あまりの危険にアンデッドさえ生きては出られない、という触れ込みの洞窟です。
 3つの分岐があり、最初2つのルートは同程度の時間で同じ場所には出ますが危険の種類が異なります。危険を上手く回避する手段が不十分であれば大幅な時間ロスになります。最後のルートは曲がりくねっており機動力が高くても十分に活かせませんが、中程度の時間で安定しています。

【1】罠だらけの道


【2】アンデッド亜竜の住処


【3】かなり長い下り坂


D.竜落としの峰
 乱気流ゆえに竜種すら上空を飛べば墜落する、という触れ込みの山です。その乱気流は、山を覆う無数の巨大な岩の棘により生み出されています。
 3つの選択肢があり、所要時間も異なります(具体的な時間は秘密です)。この難所も手段次第で所要時間が変わるでしょう。

【1】だが敢えて飛ぶ


【2】岩の間をパルクール


【3】山を丸ごと迂回する

  • <果ての迷宮>ダンジョン踏破マラソン大会~決勝編完了
  • GM名るう
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サイズ(p3p000319)
妖精■■として
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
アト・サイン(p3p001394)
観光客
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ

●妖精惑わしの森
 そこは、『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が思ったとおりの場所のようだった。
 鬱蒼とした木々が見渡すかぎり生い茂る森。全容を眺めるため空中に意識を飛ばしても、どこまで行っても――来たばかりの道を辿ったとしても――見えない森の端。
「ふむ。やはり森そのものが幻覚に覆われているわけじゃな」
 だとすればおそらく……脱出の方法は2つ。
「定められた条件を満たすか、元凶を無力化するか、じゃ」
 そしてその『条件』は、足元でじっと見上げてくる動物たちに関わるに違いないのだ。
「ワシはリーゼロッテ様の騎士。ならば騎士の名に恥じぬよう、お前さんたちのことも助けるとしよう!」

「何だって? それは大変だ!」
 子猫が大切な宝物を失くしてしまったと聞いたなら、猫好きとしては放っておけない。すぐさま森の下草の間に分け入って探しものを手伝いはじめた『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の姿に、子猫はほっとした様子でみゃあと鳴いた。
 宝は、小さな花柄のアクセサリー。それを独りで探したら大変だけれど、だったら他の動物たちにもお願いすればいい。
「手掛かりを見つけたら教えてほしいんだ」
 少しずつ動物たちの情報網を構築してゆけば……探しものなんて簡単さ。

 その頃『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は木の枝から枝を、ひょいひょいと跳び回っていた。
(探しものは、風船……っスか)
 昔から運動神経はいい。もちろん、動体視力も自信はアリだ。
「もっとゆっくりじゃなくて平気なの……?」
 落とし主のウサギが心配そうな声を上げたが、片腕で任せろのポーズを作ってさらに跳ぶ。
「ほら、あの枝に引っかかってるのじゃないっスか?」
「そうなの……! その速さでどうやって見つけたの!?」
 そして最後の跳躍と同時に、くるりと空中で1回転しながら、枝から風船を抜き取った。
「もう失くしちゃダメっスよ」
 爽やかスポーツマンの笑顔は、出現した出口から差し込む光で輝いていた。

 ……ところで。
「どうして私は動物たちに囲まれているんだ?」
 森にかかる魔力を探そうと思っていたはずなのに、『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)が動物たちのお願いを聞く羽目になっていたのは何故だろう……? きっと元堕天使の彼女から溢れ出すぎるカリスマが、動物たちに頼めば何とかしてくれそうな印象を与えたのだろうが。
「まあ、闇雲に探し回るよりは手っ取り早く済みそうではあるか」
 何故だか逆に動物たちに探しものを助けてもらっている形にはなるが、目的さえ果たせるのならどちらだっていいさ。元堕天使なだけでなく元暗殺者のミーナは、目的のためには手段を選ばないのだよ。
 だからまともに戦略を立てて魔力源を探そうという挑戦者は、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)だけになってしまった。
「なるほど、高い木に登っても、森の端が見えたりはしないのか」
 けれども……出口そのものは判らなくとも、人々を惑わす元凶の場所だったらどうか? 見えるはずだ。何故ならそれは森の内部にあるはずだから。
 そしてそれはきっとあの一番高い木だろうと、サイズは直感的に当たりをつけた。そういった木は古びた魔力を蓄えており、それを森の隅々まで届かせられる。森全体に魔術をかけるにあたって、条件としてはこれ以上ない……それが判ったからといって、方向感覚が狂う中で迷わず目的地に辿り着けるかはまた別だけど。
 では……もしも方向感覚が一切狂わなければ?
「こういうのは僕の十八番だからね」
 ひょいひょいと出口のあるだろう方角に向かおうとして――『観光客』アト・サイン(p3p001394)は気づいてしまった。
「……今、空間がループしたな?」

 突然跳躍した方向感覚から逆算すれば、ループを生む魔術の元凶を探すのは難しくない。こういうのは大抵ループ箇所の近くにあるか、あるいはループを生む空間の中央にあるものだ――そして、今回のように全周を覆いたいケースでは後者。もちろん、中にはその観念を逆手に取った例外があるのはアトとて十分に承知だが、彼はこの階層がそこまで悪辣ではない“中級観光客向け”だと看破している。
 ならば、あとはその中心へと向かうだけだった。サイズも見つけたあの木の根元へ。常人ならそれすら困難な道のりだっただろうけれど、たとえ空間が歪んでも方向感覚を喪わないアトなら話は別だ。迷わず木々の間をすり抜けてゆくアト。そして……その後方には『罪の形を手に入れた』佐藤 美咲(p3p009818)の姿。
(ダンジョンany%RTAと言えば、サイン氏と相場が決まっているものでス)
 だったらめんどくさい“観光”は軒並み彼に任せて、自分はその後をストーキングすればいい。
(そしてどこかで出し抜……もとい別れれば、得意なところだけで勝負できるわけス)
 そうすれば優勝の栄冠は、美咲の上にこそ輝く……のだと、思っていたのだが。

 パァン!

 突如鳴り響いた銃声が森を揺るがした。威力は……銃声の距離と大きさから察するに、4発もあればほぼ確実に美咲を仕留めるくらいか。
 だがそれですら『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)にとって、ただの抜き撃ちの牽制だった。ついでに剣でばっさりと、手近な木の幹を一刀両断!
「悪ぃが、俺は堪え性がなくてなぁ」
 誰へともなく響くの声は、森そのものへの恫喝とも言えた。
「森が俺をここから出さないつもりなら、手当たり次第に出口を作っちまうかもなぁ?」

 ……。
 かくしてバクルドの傍らに、不意に出口が現れる。
 妖精惑わしの森区間RTA記録(Glitched)の栄冠が、彼に輝いた瞬間であった。

●屍殺しの洞
 ……が、さしものバクルドも、罠までは脅せるわけないのよね。
 まあ裏技が使えないのなら、普通に正攻法でゆけば十分なんだけど。
「おお、見える、見えるぜ。この壁の向こうにどんな罠があるのか、とかな」
 罠の存在が厄介なのは、それがどこにあるのか判らないからだ。だが、判ってしまえばどうということはない。もちろん世の中、「見えてたけど避けられませんでした!」というのもあるのだろうが、少なくともバクルドにかぎっては、長年の放浪で培った対処法がある。

 そして……少しばかり時間軸は前後するが、それはヨゾラやミーナも同じこと。
「妖精惑わしの森で猫と存分に触れ合った僕は、今なら何でもできるような気がする」
 岩壁を叩いた反響音を聞くだけで、ヨゾラはどこに仕掛けが埋め込まれているかが判る。もしも簡単には見つからないような仕掛けがあったとしても、向こうからほのかに漂ってくる死臭――特異運命座標たちの直前に挑戦者がいたわけではないのだからヒントを兼ねた演出だろう――を敏感に察知して、慎重に足を進めることができる。
 ミーナに至ってはするりと壁を抜け、解除方法か発動させない方法を見つけないと圧死必須な吊り天井の罠の部屋でさえ、しれっと何事もなかったかのように通り過ぎていった……えっ、どうやったんだって? そりゃあ今こそ一般人Bだけど、元堕天使にして元暗殺者にして元死神が、これくらいできなきゃ嘘でしょう?

 とはいえ……見えて、対処法も判ったからといって、常にその対処法を実現できるとはかぎらないのがダンジョンの恐ろしいところだ。
 左右に並ぶ槍衾。隠れる場所もスイッチもなく、通るには光学センサーを遮断せぬよう進むしかない。迂回路は確かにあるのだが……隠し扉の先の様子を察するに、時間のロスは否めまい。
「さしもの私も、透明化は無理だな」
 ミーナですら突破を諦めた通路。……を、なんか平然と通ったアトとかいうやつがいるらしい。
「道具というものは常に用意しておくものさ」
 唐突にアトの荷物から、平然と組み立て式の鏡が現れた。鏡は、曲がり角の先の確認に良し、作業中の手元に光を当てるのに良し。そして今は……光学センサーを騙し、そこに誰もいないよう装うのに良し。
 アトほど熟練の“観光客”の手にかかったら、何でもない道具がダンジョン踏破のための能力に代わるのさ。

「しかし、ワシのような戦士でも攻略できるように作られているとは、案外この洞窟も良心的なのかもしれんのう」
 罠への対処ができずとも、敵との戦いで代用できるとはありがたい。
「見ておいでですかリーゼロッテ様! このオウェード、貴女のため腐亜竜に打ち勝ってみせましょうぞ!」
 中継を見ているだろうアーベントロート派の伝令役が、仕えるべき主に勇姿を伝えてくれると信じ! 今……オウェードは、アンデッド亜竜の首にその斧を突き立てる!
 ……が、腐亜竜もタダでは斃れなかった。まるで何かへの憎悪をぶつけるがごとく、毒の吐息を騎士へと向ける。
 彼は酷く憤っていた。
 だって……折角あからさまに「倒したら進めますよー」って感じに扉の前に陣取っていたのに、それを平然とスルーする美咲とかいう女を少し前に見送ったばかりだったんだもの。

「これ……本当に戦う必要ありまス?」
 空ろになった眼窩でこちらを睨みつけてくる腐亜竜を前に、美咲はド正論な言葉を吐いた。だって、とっとと扉をこじ開ければ十分じゃない?
 もちろん、扉がボスを倒さなければ開かないタイプじゃないことに賭ける必要はある……だけど賭けを恐れて安全策を取りたいのなら、最初からサイズや葵のように下り坂を選択している――とはいえ、敵の隙を見つけて突き進み、本当に賭けに勝ち、どうにか鍵のない扉の向こうに転がりこむのに成功した時には、流石にぶわっと冷や汗が出たけれど。

 もっとも、その“安全策”に本当に時間短縮の余地がないのかと問われれば、サイズは十分にあると答えただろうが。
「無数の石筍で入り組んだ道。時には体を擦らなければならないくらいに狭い隙間……か。これじゃ、確かに“機動力は”十分には活かせないだろうね」

 じゃあ、EXAは?
 ……1ターンに複数回、慎重に進むことになりますね。

 森で迷ったぶんを取り戻すかのように、サイズはすいすいと石筍の間をすり抜けていった。けれどもその途中で気づいたものは……内側の岩壁のところどころに、新しい布の欠片が付着していることだ。
 答えを先に言ってしまうとすれば、それは葵の服の断片だった。サッカーのドリブルで培った体重移動術。さしもの元エースも平らなグラウンド上でのそれと足元の覚束ない洞窟内では勝手が違うと見えて、自分で満足のゆく速度にはならなかったし、幾度も体はぶつけてしまった。
 ……けれども、ぶつけたのは全て内側だ。積極的に攻め続けたスポーツマンの証明だ。だったら、激しいラフプレーを受けたと思っておけばいい。傷を恥じる必要なんてない――。

 ――結果として葵は距離という大幅なハンディキャップを負いながらも、この区間を、美咲に次ぐ速度で駆け抜けるのだ。

●竜落としの峰
 かくして特異運命座標らは、妖精惑わしの森以降は一人たりとも欠けることなく最後の難所へと辿り着いたのだ。
 彼らの側からは見えないが、観覧席も盛り上がっている。立場上はオウェードを応援しながらも恋のライバルとしては複雑な、リーゼロッテ親衛隊はもちろんのこと。サイズを推すテレーゼ・フォン・ブラウベルクの側近たち。派閥としては同じながらも派閥内のあれこれがあるらしく互いに牽制し合う、それぞれ葵・ヨゾラ・バクルド・アト・ミーナを応援するフォルデルマン派貴族たち。それを冷ややかに横目で眺めているのは、美咲を支持するレイガルテ派の貴族であろう……。

 閑話休題。ほぼ同時、真っ先に竜落としの峰に辿り着いたのは、それぞれチート的解法で大幅な時短を達成させた美咲とバクルドだ。両者とも、ここへ来て迂回なんていう時間の浪費はしない。美咲は口笛を吹いて飛竜のバーベを招き寄せ、見物人たちの間にどよめきを生む。
「『竜落とし』の異名を持つ場所に、よもや亜竜で挑むとは!」
「おやおや、フィッツバルディ派さんは名代の人選を間違えましたなぁ?」
 そんなことを言ったらここまで誰も残らなかったガブリエル派の立つ瀬がないのだが、そんな貴族たちの間の牽制し合いなどお構いなしに、美咲はバーベに跨がり空に舞う。
 突風が吹く。バーベが堕ちる。だが、その堕ちるまでの僅かな時間にも、バーベは確実に前進を遂げている……あとは、中継使い魔にバーベが捕まり強制リタイアにさせられる前に、自分だけでも前方に跳ぶ!
 一方……その様子をひとつの岩の上から見送るのがバクルドだ。もしも彼が山全体を俯瞰して定めたルートを、美咲に先行されたら負ける。そのはずが……口元には何故だか不敵さが浮かぶ!
 直後、彼の姿はふと掻き消えた。そして、現れたのは岩の反対側だ。
「いくらルートが同じでも、この芸当はできないだろう。馬鹿正直に上り下りするのと、一体どちらが早いかねぇ?」
 もっとも彼とて楽観はしない。何故ならすぐ後ろには、どんな手を隠しているか判らない観光客が迫っているからだ。そして……その後方にはさらに別口も!

「『空を飛ぶ』と聞いて上空を飛ぶとばかり思うのは、きっと渡り鳥や竜しか知らないだけさ」
 サイズにとっての『空を飛ぶ』とは『妖精の飛び方』だ。木々を見下ろすような爽快さはないけれど、常に木々の芽吹きとともにあるような飛行。
 この場合……つまりは『パルクール補助』だ。岩から岩へと跳び移る時、足りない飛距離を補うような飛行。これならば危険は何もない……突風が辺りに吹きすさぶ時は、岩から手を離さなければいいだけだから。
「素早く移動できることだけが速く進むことだと思ったら、大間違いだよ」
 ヨゾラ思うに、こういう何をしても疲労の貯まる難所で最も重要なことは、いかに途中でスタミナ切れにしないかだ。どれだけ先に進んでも、ゴール手前で立ち止まってしまったら後から追い越されてしまう。その点、ヨゾラの肉体は疲れとは無縁だ……そして何よりも大切なことに、彼自身、ゴールの先に広がる第31階層の光景に胸を膨らませている。興味が、早くこちらに行こうと囁いてくれる。たとえ途中で止まれと言われても、ヨゾラの足は決して止まらない。まるでウサギを追いかけつづけるカメのように。
 さらに、高らかに響いた馬のいななき。それは『雷雲』と名付けられたオウェードの相棒のものだ。
「あまり連れてやれんで悪いのう。それもこれもローレットの依頼というものが、お前さんを連れるのに向くとは限らんせいじゃ。お前さんに無理をさせるわけにもゆかんからな」
 すると主人の愛情が伝わったのだろう、雷雲は再び大きくいなないた。そして……力強く、大地を蹴る。敢えて急がば回れの覚悟を決めて命運を自分に任せてくれた、主人の期待に応えるために!

 もっとも……『急がば回れ』という言葉が意味を持つのは、それが『近道が困難である』という前提に基づくものであるわけだ。ミーナのようにこの岩山がそもそも難所でも何でもない場合、当然、近道こそが最も早い。
「邪魔な岩はすり抜けて、谷は飛んでやればいいのだろう?」
 元暗殺者で元堕天使の元死神の選んだルートとは、いわば、バクルドとサイズのいいとこ取りだった。加えて岩の間で突風に見舞われた時には、ひらりとアクロバティックな姿勢制御を見せる。風が止むの待ち? そんな必要はないですね。ルート策定? 直線ルートで十分ですね。
 フィールド全体を把握するのも、岩の間を跳躍するのも、突然の風に煽られて空中で姿勢を整えるのも得意な葵であっても、これには流石に勝てそうになかった。
(屍殺しの洞では後続を引き離せたとは思ったんだけどな)
 思わぬ逆境に闘志が燃える。けれども彼が追うべき相手は、バクルド・美咲・ミーナだけでなくアトもいる。時折行灯を掲げて煙で風を読み、風に乗って安全に跳躍距離を稼ぐアト。風任せのぶん多少のロスがないとは言わないが、それでもこれまでのリードを無に帰すほどの不利益じゃない。

 バクルドもアトの追撃に気づいて、岩を抜ける速度を上げた。通常ならば選べない道を選べる分だけ、ルートの利だけならバクルドにもある。
 そうなると、不利になるのはバーベを失った美咲だ……美咲は後に述懐す。
「完走した感想スか? 奴らと比べたらガバチャートだったスね。しかもクソ痛いんでもう走りたくないス」
 バクルドが、続いてアトとミーナが美咲の前に出る。優勝候補は3人に絞られた。はたして、誰が勝利するのか――……。

●攻略完了!
「勝者は……バクルド・アルティア・ホルスウィング!!!」

 シスター・テレジアに代わって放送席に入った騎士の絶叫が響くと同時、階層の仕掛けが作動して全員が『明日への回廊』へと転移した。
 だがバクルドが勝ったという表現は、必ずしも正確ではないだろう。何故なら今回の作戦は『人海戦術』――ゴールするたった1人を生むため戦った、全員が勝者であるとも言えるのだ。

 観戦していただけのフォルデルマン派の貴族の手によって、厳かに『探索者の鍵』の記録が更新された。
 次は、第31階層。はたしてどんな光景が広がっているのやら?

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 そう――この勝利は皆で分かち合うためのものなのだッッ!!

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