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シナリオ詳細

<天牢雪獄>雪泪の旧き契約

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『銀の森』
 ラサと鉄帝の国境沿いに跨がるように存在している銀の森は『幻想のガイドブック』にも掲載される観光地でもある。
 ラサの砂漠地帯から流れ込む温暖な気候と溶けることない万年雪が美しいこの場所は通年、雪化粧が施された魅惑の場所だ。
 この地に棲まうのが『氷の精霊女王』にして『フローズヴィトニル』の欠片であるエリス・マスカレイドであった。
「イレギュラーズちゃんたちが最初に訪れたのは4年も前になるのですね」
 エリス・マスカレイドもその当時は人の形を取っては居なかった。精霊そのものとしての姿を有していたが、旧友である『冬の王』オリオンが銀の森へと訪れた際に自身も真似たのだという。
 彼から学んだ人での在り方。『イレギュラーズちゃん』達との楽しい毎日。エリスにとっては有り得なかったような穏やかな日常だ。
「……わたしに、皆さんの活動を教えて下さい」
 神妙に、エリスはそう呟いた。その傍らにはちょこりと座っている『境界図書館館長』のクレカが居る。
「クレカちゃんは、これから少しお出かけする場所のお手伝いをして貰う為に来て貰いました」
「……私も、余り分かってない。皆の話を聞きたい」

 鉄帝国を襲った未曾有の事件。それは皇帝の座が据え変わった事から始まった。
 この国は世襲制ではなく、力こそを全てとするために王の座も武力で示すこととなる。
 無敗で知られてた前皇帝ヴェルスがあろう事か撃破され行方知らずになったのだ。そうして、現在座に着いたのがバルナバス――『冠位・憤怒』である。

 ――新皇帝のバルナバス・スティージレッドだ。
   諸々はこれからやっていくとして、俺の治世(ルール)は簡単だ。
   この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ。
   強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
   だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
   どうした? 『元々そういう国だろう?』

 それは一言でいうならば『弱肉強食』――弱者の完全なる斬り捨てであった。
 強き者は強きの儘に振舞い。弱者は只の肉と成れ。
 社会インフラの維持など一切考えない。ただただ蹂躙せよ、と……そしてそれを合法とする発布の発令。
 鉄帝国の各地で起った戦禍に立ち向かうべく、各地で派閥が立ち上がった。
 帝国の領内での事件を解決しながらバルナバス打倒の糸口を探すことこそが此度の使命である。
 しかし、イレギュラーズと鉄帝国を襲ったのは大寒波であった。悍ましき冬は全てを白に閉ざしてしまった。
 強烈な冬により不凍の港が凍り付き、氷海での航行に不慣れな海洋王国が対策に追われたのはまた別の話。
 その冬の原因こそ、古に閉ざされた『フローズヴィトニル』と呼ばれた強大な力であり、エリスが生まれた切っ掛けでもある。
「フローズヴィトニルは御伽噺です。冬の狼と呼ばれ、それは『そう呼ばれたからこそその形を取った』と言うべきでしょう。
 嘗て、それはこの地を真白の冬に閉ざしてしまいました。
 だからこそ、その強大なる力を分けたのです。……最も強い封印であった中央の『悪しき魂』は奪われてしまいましたが。
 獲物を狩る為の牙は、敵を切り裂くための爪は、力の端々はイレギュラーズちゃんの元に集まったのが現状ですね」
「……その氷の力は、エリスが支えるの?」
「はい。イレギュラーズちゃん、貴方方が望む形の力にしましょう。槍ならば、槍を。盾ならば、盾を。指輪であるならば、指輪を」
 美しい氷の力が、この世界を護る為に使われるならば。
 エリスは其処まで口にしてから、クレカがローレットから持たされた資料を見詰めた。
「『炎鍛冶の精霊』ミシュコアトルと『月と狩りと獣の女神』ユーディアとも相対するのですね。
 ……各地の精霊達の力を、結ぶことが出来ればバルナバスも打倒できるやも知れません。
 ですが――」
「何か、心配事?」
 クレカは首を傾げた。
 シルヴァンスに加護を与える光の大精霊ユーディアに、バラミタ鉱山に棲まう炎と鍛冶を司った精霊ミシュコアトル。
 そして、天より落ちたセレンディの宝珠。
 各地ではバイル宰相が南部戦線との合流を目指し、保護された難民達が武器を手にし蜂起する準備も行なわれている。

 ここまでやって来た。
 ここまで、進んで来た。
 ――振り返ってはならない。

「……空を」
「……そら」
 クレカは天を仰いだ。イレギュラーズも気付いて居たことだろう。
 空には太陽が昇っている。だが、太陽と呼ぶべき光の天体は一つだけであるはずだ。
 天にはそれが二つ存在している。月と太陽が仲良く手を取り合ったわけではない。
 それは、あからさまな程に存在し、何ら影響を与えぬ不可思議な天体ショーとして存在感を発揮していた。
「……太陽が、ふたつ?」
「見る物によっては月がふたつ、ともいいたくなるかもしれません。
 この国の空似は、太陽が二つ存在しています。いつからか、気付いた時に其れはそこにありました」
 エリスは空を指差してから神妙に呟く。
 ――けれど、この現象は『皇帝がバルナバスになってから始まった』ものだ、と。
「……あれは、バルナバスの、なにかなの?」
「わかりません。ですから、分かるために調べに行きたいのです。
 銀の森には雪泪と呼ばれる湖が存在しています。知っている方はいるかもしれませんが、湖の中には古代兵器が沈んでいるのです」
 ガイドブックではそれは古代兵器の残骸とされ、一種のオブジェのように親しまれている。
 ただ、クレカだけはそのオブジェを見て「これって、まだ、使えるでしょう」と首を捻ったそうだ。
「クレカちゃんを呼んだのは、この古代兵器を使うためです」
「……ねえ、あれって、アーカーシュにあったものにも、似ているね?」
「はい。恐らくは、空と地が分かたれようとも、人の歴史は、精霊の力はおなじであったからでしょう」
 エリスはさくさくと雪を踏み締めながら『雪泪(みずうみ)』へと向かう。
「イレギュラーズちゃん」
 くるりと振り返ってから指先を振れば、続いていた寒さは何処かへと失せ仄かな温かさが身を包んだ。
「守護の結界です。寒さを感じることも、水に濡れることもありません。少しの間だけですが……。
 それでは、こちらに来て下さい。必ずわたしの後を着いて来て下さいね」
 エリスが一歩、一歩と進む。
 どうやら、彼女が歩いた部分には足場があるようだ。湖の上を歩いて行く精霊女王は『古代兵器』の元へと辿り着いた。

「このこの名前は『ヴェルザンディ』です。
 古代兵器、と呼ばれていますが、嘗ての遺骸。『アーカーシャ』にも似た機能を有していました」

 アーカーシャ。それは境界図書館に存在する時代遡行装置アーカーシャだ。
 其れにも類似した機能、というのは過去の演算が可能だという事だろう。
「ですが、もう旧く使われておりません。これは炉に精霊の力を焼べて稼働するものです。
 わたしの氷の力をお貸しします。使い方を知っている精霊が力を焼べて真価を発揮する物ですから。
 ……ですが、氷は炎と相反する物。本来は、ヴェルザンディの守護者がいましたが、それも旧い存在ですから」
 精霊とて、命は朽ちていくとエリスは唇を震わせた。
「エリス、これをどうするの?」
「……はい、クレカちゃん、それからイレギュラーズちゃん。
 これで『あの太陽が何か』を調べてきてはくれませんか。過去を演算し、そして得難い情報を入手するのです」
 ヴェルザンディにエリスが力を焼べて、過去の演算をする。
 この兵器は過去の追体験にも近い。過去の改変をする事は出来ないが、『過去を覗き見していることは相手に伝わる可能性』がある。
 故に、大きな騒ぎは起こしてはならない。過去の僅かな変化が縺れ、誰かが過去を覗いたことが露見するのだ。
 危険はある。だが、大きなヒントを得ることは出来る筈だ。
「演算して、太陽が産まれた時に向かえばいいんだね?」
「はい。その他にも……もしも、見たい物があればお手伝いはします」
 情報が得られるかは分からないとエリスは目を伏せってからイレギュラーズを見た。
「あの太陽が何であるか。それは、屹度、今後のために大切です。
 ヴェルザンディの機能は利用して下さい。わたしの精霊の力が入っている間は、自由自在です。
 太陽に近付く為の翼、過去から強制的に切り離す為のヴェール、それから……『望遠鏡(ヴェズルフェルニル)』の所在を確かめるレーダーです」
 望遠鏡、とクレカは呟いた。エリスは小さく頷く。
「望遠鏡(ヴェズルフェルニル)は、太陽がなにかを瞬時に判別してくれるはずです。
 このヴェルザンディが起動している最中にしか利用できない遺物のひとつ。コレを探し出し、太陽を観測して下さい」
 望遠鏡(ヴェズルフェルニル)を覗けば、太陽の真なる力を断片的にも把握できるだろう。
 ただし、『其れが何か』の予測が出来ていなくては正しき物は見えやしないだろう。
 出来る限りイレギュラーズも太陽が何か、と言うことを予測立てておく方が望ましいとエリスは言った。
「気をつけて、イレギュラーズちゃんたち。
 みなさまに、美しき氷と、暖かな陽射しの加護がありますように」

 ――エリスは、そっと古代兵器を撫でた。
「ヴェル――ヴェルザンディ。最後のお仕事ですよ。
 ……エイトリ、あなたが残してくれたこの子が、この国を救う切っ掛けになるかもしれません」

GMコメント

●目的
 ・『二つ目の太陽』についての情報収集
 ・ヴェルザンディを利用しての過去の追視を行なう事

●ヴェルザンディ
 雪泪(『<永縁の森>』シリーズに登場)に眠っていた古代兵器です。残骸とされオブジェとして親しまれていました。
 この利用方法は銀の森の精霊女王エリス・マスカレイドが把握しています。
 ヴェルザンディの炉に『操縦方法』を知る精霊の力を焼べている間のみ稼働します。本来は守護者エイトリが居たそうですが、彼は亡くなっているようです。
 エリスの力ですので万全に見ることは出来ません、が、それでも大きなヒントを得られるはずです。

 ・演算し『鉄帝国の過去』に戻ることが出来ます。具体的には太陽が空に見え始めた辺りです
 ・動乱の鉄帝国内で『望遠鏡(ヴェズルフェルニル)』を探して下さい
  望遠鏡(ヴェズルフェルニル)については後述されます
 ・この過去演算は『誰かの過去を覗き見る』形です。
  覗かれた者は演算中に過去に大きなトラブルや変化があった際には覗かれたことを直ぐさまに察知出来るようです。
  (今回で言えばバルナバスやフギン=ムニンの過去を演算していますので、彼等に露見する可能性があります)
  ですので、大きな変化やトラブルは与えないようにしましょう。

●望遠鏡(ヴェズルフェルニル)
 ヴェルザンディの機能の一つ。望遠鏡は『知りたい事を断片的に教えて』くれるものです。
 断片的ですので、使用者が「こうかな?」という予想を立てて利用してあげて下さい。
 下記のような用途で利用できます。前者は『今後の決戦に重要』です。後者は『おまけ』です。

 ・太陽の存在理由(太陽が何らかの影響を及ぼすか/何かの『権能』であるか/危険性は?)
 ・フローズヴィトニルの歴史(封じられたのは何故か/どの様に再封印するか/御伽噺について)
 +バルナバスやフギンについて
 (個人的な事を覗き見ます。ばれるかも知れません。とっても危険。ですが太陽や氷狼について此方でも知れるかもしれません。)

 また、望遠鏡(ヴェズルフェルニル)は万能ではありませんので、あくまでもヒント程度で扱って下さい。

 望遠鏡(ヴェズルフェルニル)の在処については以下。
 ・ヴェルザンディが示してくれます。
 ・帝都内に……
  どうやら『R.O.Oで新皇帝役をした『シャドーレギオン』ビッツがいた玉座の間』にありそうですね。
  ※玉座の間に向かう隠し通路は狭苦しく、天井は低めです。飛行は行えそうにないですね。
  ※R.O.Oではシャドーレギオンや『防衛システム』が居ましたが、今回は天衝種に入れ替わっていそうです。
  ※天衝種を退けながら、望遠鏡を奪取し、太陽は何かなどの情報収集をしましょう。

●戦闘について
 前述『望遠鏡』奪取の際に天衝種相手に戦闘が行なわれる可能性があります。
 また、エリスがある程度は退けてくれますが『ヴェルザンディ』稼働中は、過去の中で『人間のようなもの』が襲ってきます。
 まるで、R.O.Oのシャドーレギオンのように歪んだ願いを抱いた悪い人達です。

『参加PC』や『鉄帝国のNPC』、『新皇帝派』を模した『シャドーレギオン』が現れる可能性もあります。
 歪んだ人格に変貌したシャドーレギオンが人の形を象った靄となり追掛けてくることでしょう。
 シャドーレギオンは『本来の願い』から『歪んだ願い』に変化した所謂闇オチしたIFの姿です。本来の願いに向けてアプローチするか力ずくでぶん殴って打破してあげてください。

●同行NPC
 ・クレカ
  境界図書館の館長。秘宝種の少女。戦う事には不慣れですが、同行します。
  アーカーシャなど古代兵器と相性が良くヴェルザンディが告げる『望遠鏡』の位置を察知して皆さんを誘います。
  また、ある程度の推論は一緒に組み立ててくれます。
  太陽が何かを予測してみましょう。

 ・エリス・マスカレイド
  外で待機しています。皆さんが飛び込んでいったヴェルザンディを護っています。
  また、過去を覗き見ていることが露見した際は直ぐにでも皆さんを『引きずり出す』ようです。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に
 影響を与える事が出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

  • <天牢雪獄>雪泪の旧き契約Lv:40以上、名声:鉄帝50以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月25日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ


 ヴェルザンディを撫でた『境界図書館館長』クレカ(p3n000118)は「みんな、準備はいい?」と問うた。
 境界図書館で時代遡行装置アーカーシャを稼働させる事に成功したクレカだからこそ、この場所でヴェルザンディのコントロールを任されたのだろう。
 まじまじとヴェルザンディを眺めた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は不思議そうに見遣る。
「ヴェルザンディは、アーカーシュの精霊都市文明『レビカナン』若しくは近しい古代文明の遺物でしょうか?
 彼の文明は過去、現在、未来を支配すると謳っていたとか。それがどういう意味なのか首を傾げていましたが……成程、と思いました」
「はい。未来の演算は短期的なものでありましょう。過去の演算は遡行する程度。
 それでも画期的なものであれば、それは役にも立つことがある。わたしでも、イレギュラーズちゃんたちの役に立てるのならば嬉しいことです」
 自身の力をヴェルザンディの炉へ。ただし相性が悪いのだとエリス・マスカレイド(p3n000293)は言う。
「過去の演算、ね。それはそれで面白いことになりそうだ。
 下手を打てば露見する可能性もあるんだろうけどそれはそれ……使える情報は一つでも欲しい、それが断片であろうともだ」
 それでも『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)にとってはエリスは以前からの付き合いだ。彼女が力の断片を炉に焼べる事は即ち命を削ると同義だ。
「……エリスちゃんとは以前からの付き合いだし、あんまり無理はして欲しくないけど」
「いいえ、ルーキスちゃん。あなたの言うとおりです。使える情報は一つでも、欲しいもの」
「……そうだね、まあ、仕方ないね」
 肩を竦めるルーキスは無理はしないで欲しいとエリスの頬を撫でた。その大精霊は人の姿を取れば未だ幼さの残る少女のようだった。
 擽ったそうに眼を細め微笑んだエリスに「フローズヴィトニルについてもちゃんと知れるようにするわね」と『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は力強く言った。
「フローズヴィトニルは精霊だもの。それは私達の同胞であるってこと。
 勿論、エリスにとっては……その『おとうさん』になるんでしょう? エリスはフローズヴィトニルのかけらだから」
「はい。わたしはフローズヴィトニルの良き魂が割れ砕けたその一番に大きな欠片です。
 だからこそ、悪しき魂の欠片の制御ならば、この命を賭けてなせるという自信があります」
 胸を張ったエリスに「それじゃあ意味が無いわ」とオデットは首を振った。フローズヴィトニルがどの様な存在なのか、それを紐解けばエリスにも良き未来が待ち受けていると考えずには居られないからだ。
「準備、できた。制御できそう」
 クレカへと頷いたのは『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)であった。「それじゃあ、エリス君。お願いできるかい?」と声を掛けたマリアにエリスは頷く。
「イレギュラーズちゃんたちの無事を願っています」
 柔らかな声音に穏やかな笑みを浮かべるエリスへと『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は「必ず、何かを得てくるよ」と穏やかに微笑んだ。
 話している最中でも、空は不可思議な天体ショウを続けて居る。
 二つの太陽の一方は、近付けば肌をも焦がしそうな程に違和感と焦燥を感じさせる。じりじりと天より地を焼く光のようにその存在だけがやけに意識にこびり付いた。
「ああ、いやだわ。二つ目の太陽……何の影響もないから、すっかり忘れる所だったのに。此処まで来たら気になって仕方が無いじゃない!
 自然に生まれたものじゃないのなら――『このまま何も起こらない』なんてこと、あるはずがないのにね。
 だからこそ、エリスちゃんには少しだけ負担を掛けるわ。大丈夫よ。直ぐに戻ってくるから」
『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はにっこりと微笑んだ。ふわふわとした雪色の髪を揺らす精霊女王の頭を撫でて、幼い少女を宥めるように声を掛ける。
「行ってくるわね、エリスちゃん。アタシたちに任せておいて頂戴な」


 景色が変化する。異様に歪んだ周辺空間は風に揺らいだカーテンのように、ひらひらと揺らいではその形を取り戻す。
 僅かな浮遊感を感じてから、地に足を着けた『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は周囲を見回した。ヴェルザンディを操縦するクレカが「王宮の方……?」と首を傾げる。
「ここは帝都……。むぅ、時刻を遡ったと言えど見慣れた光景で余りその実感が湧かぬが……」
 これがまたとない好機である事を咲耶は翌々気付いて居た。勝利のためには必ずしやここで情報を得ておかねばならないのだ。
「まずは『望遠鏡』の確保をして見せよう」
 頷いたのは『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)であった。今回はあくまでも演算によって過去に戻れるだけだと誰もが理解している。
 例え介入したとしても現実に影響がある訳ではないと分かって居る。此処での介入は過去を変化させる訳ではなく、あくまでも見るだけなのだ。
(……それこそが鉄帝国の未来に繋がっていくとするならば、目的を果たすことに全力を注ぐしかない――)
 下手に干渉すると覗いている事が露見する可能性が上がるのだ。過去は変わらないが、現実に戻った際に危険が及ぶ可能性がある。
「クレカ、『望遠鏡』の元への案内を頼む」
「うん、任せて欲しい。知りたいことが、あるんだよね?」
 首を傾げたクレカに『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)は望遠鏡が存在しているという帝都の人混みを分けて進みながら頷いた。
「……帝政派でもフローズヴィトニルの話題は出ている。
 彼の存在とは意思の疎通が可能なのか。戦闘は避けれるのか。此処で情報が手にはれば良いのだが――」
「そうね。それに、『太陽』の事も気に掛かる。
 ふたつめの太陽が何の意味も無いとは考えにくいわよね。災いの予兆か、それとも……。
 それを調べる為に過去へ……気を引き締めて臨みましょう」
 穏やかに微笑んだ『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)はそっと天を眺める。二つの太陽。当たり前のように存在しているそれが『二つに分れた』事、其れこそが今回の本題だ。
「……弱肉強食だなんて、人の律じゃないわ。だからこそ、抗わなければならないのよ」
 呟いてからファミリアーの鳥を指先から飛び立たせた。騒ぎにならぬよう、人目を避けて進むことに決めたセレナはクレカの指示を受けて鉄帝国の帝都に存在している王宮へと足を向けていた。
 と、言えども『現状は太陽が昇り始めた時』だ。大きな騒動を起こさぬように、動くと言えども鉄帝国内は動乱の最中だ。
 慌ただしい鉄帝国は内乱の真っ只中である。ファミリアーとソラスを配置して広域俯瞰での位置確認を欠かさずに進むことに決めて居たルーキスは「人が居ない路地がある」とクレカに声を掛けた。
「……ん、そっちに行こう」
 こくりと頷くクレカは遠巻きに一般人を襲う者の姿を見た。不安そうにルーキスを眺めるが彼女は首を振るだけだ。
「はいストップ、これは所詮演算結果だ。弄ってもどうにもならないさ。
 ……これは『過去視』だ。クレカちゃん。必要な犠牲ってやつさ。私達にとっては見慣れてしまったことだからね」
 ルーキスに肩を掴まれたクレカの唇がはくはくと動いた。随分と人間らしい表情をするようになった秘宝種は不安そうに見上げるだけだ。
「……ごめんなさいね、クレカちゃん」
 ジルーシャは首を振った。過去に起った理不尽、其れ等は悲劇そのものであるが既に終ったことなのだ。
「……今のアタシたちにできるのは、忘れないよう目に焼きつけて、記憶として持って帰ることだけ。
 これ以上の悲劇を起こさないために、アタシ達は真実を探求しなくてはならないのだから」
 ジルーシャがクレカの背を押した。ゲオルグは「避けられる戦闘や障害は避けなくてはならない」と静かな声音で告げた。
「……ッ、辛い、ね」
 目を伏せたヨゾラは足早に進む。眼を、耳を、鼻を。その全てを利用して周辺警戒を続けて居た。索敵の対象は『敵』だけではない。民草さえも、今回ばかりは障害になり得るのだ。
「クレカ、真っ直ぐ進むわよ」
「……我慢、だね」
 オデットは頷いた。足早に進むセレナは魔女帽を被り直してから息を吐く。フローズヴィトニルの影響を受ける帝都は寒々しい。
『過去視』であるからだろうか、それ程に寒さを肌で感じずに済むのは良いことではあるが――避けた路地を覗き込めば寒さに身を寄せ合いひもじい思いをしている難民の姿があった。
「……遣る瀬ないわね」
「本当に」
 セレナの呟きにヨゾラは頷いた。見て見ぬ振りをするしかないのだ。今何かしたって、現実世界に戻れば彼等は死んでいるかも知れない。コレはあくまでも過去の演算結果であり追体験だ。此処で『何かしらの干渉』を起こせば過去との齟齬が産まれ辻褄が合わなくなり『望遠鏡』で覗き込んだ相手に全てが露見するかもしれないのだから。
「さて……あの太陽は何なのか。ある神話では日食は狼が太陽を喰らうらしい。
 フローズヴィトニルではなく、その子らしいが。何にせよ面倒な物ではあるのだろう」
 もしも、仮にそれがフローズヴィトニルに関係あるならば、エリスにも影響が及ぶのだろうかと考えてから愛無は首を振った。
 まだ、天に飾られた太陽を眺めることが出来る。しっかりと目視すればそれは太陽と呼ぶべきであるかは分からなかった。だが、何となく違和感を感じたのはサイズだ。
(……本物の太陽に干渉している――訳ではないのだろうが『過去』は小さいのだな)
 それこそが何かのヒントになるのだろうかと考えてから、愛無は王宮の隠し通路へと足早に向かった。
 何も見ない振りをしなくてはいけない。其れがどれ程に苦しくとも。終ってしまった話に救いなどはないからだ。
 リースリットは「行きましょう」とセレナを促してから精霊達に本当に安全な道であるかを確かめながら進んだ。ただ、其れだけだった。指先に火を灯し過ごしている民達は、現実世界ではどうなっているだろうか――?


 Rapid Origin Online――通称を『R.O.O』と呼ばれたそれは練達三塔主の『Project:IDEA』の産物である。
 練達の悲願たる元世界への帰還が為に『混沌の世界法則』を研究すべく作られた仮想環境はエラーを起こして暴走し『ネクスト』と呼ばれる混沌のニアリーイコールの空間が出来上がったのだ。
 ゲーム仕掛けであったR.O.Oで鉄帝国『であった』もの、鋼鉄(スチーラー)にて行なわれたイベント『鋼鉄内乱フルメタル・バトルロア』でもヴェルス帝は暗殺されていた。
「その時の再現みたいなんだね?」
 王宮に存在する秘密通路を抜けて、玉座近くに存在している『望遠鏡』を手に入れる。それが目的と言えどもあの日の事を思い出さずには居られまい。
 例えば、マリアなどは実際にそのクエストには参加していた。ただし、R.O.Oでは全く関係の無いビッツ・ビネガーが新皇帝役に名を連ねることにはなって居たのだが。
「あーるおーおー……まるで、歪な未来の観測機みたい、だね?」
「……ふうん、クレカでもそう思うんだ」
「うん。最近、境界の観測も行なってみてるから……歪なんだ。有り得るかも知れない未来の断片、だけだから」
 ヴェルザンディのように、アーカーシャのように、『有』った過去を改めて投影し直すと言うわけでもない。
 可能性の欠片を観測して精度が低いままに体現しているのがR.O.Oが『混沌』への研究に利用された箱庭の真意という事なのだろうかとオデットはぼんやりと考えた。
 もしも――もしも、だ。そこまでエリスに無理はさせられないが『フローズヴィトニルが産まれた時』に遡る事が出来れば其れ等の真意も識る事ができたのだろうか。
「……歩きながらちょっとだけ推測を話しても良い?」
 ひょこりと顔を覗かせるオデットへとクレカは頷いた。だが、其れより先に対処せねばならないことは目の前にあるようだ。
「嫌ね」
 セレナは囁いてから祈願結界を展開させる。希望の流れ星がその指先で瞬いた。星屑の装飾を煌めかせた娘は己こそ此処に居ると告げる様に真っ直ぐに眼前の影を見詰める。
 それはR.O.Oでも敵になった歪な存在。シャドーレギオンだ。
「シャドーレギオン、わたし達の影……ええ、とても嫌な存在だけれど。
 ――この国もまた、困難に対して戦い抗っている。
 このまま氷に閉ざされ、或いは暴力に蹂躙されて滅ぶなんて許せる訳が無い。
 この国を、皆を助けるためにも歩みは止められないわ。そう、わたしは祈りと願いを胸に抱いて――守る為に戦うのだから!」
 朗々と宣言したセレナの掌の上には幻月が揺らいでいる。狂気と終末を齎す凶兆の気配。
 恐怖や憎悪と言った負の感情の発露がセレナによる全てへの拒絶。明るい未来を求めるように安寧なる夜を護る為、魔女は前線へと走り出す。
 クレカは戦闘が増えてであろう。ゲオルグはなるべく護ってやらねばならないと後方に彼女を控えさせ、雪月花の刃に堕天の輝きを帯びさせた。
「クレカさん、気をつけてね。……そういえば、クレカさんは何処まで知ってるの?」
 ヨゾラの問い掛けにクレカは首を振る。境界図書館に居る彼女は『アーカーシュ』と『アーカーシャ』の奇妙な関係性を知り、此度の古代兵器の操作役に選ばれただけであるらしい。
「シャドーレギオンを相手にしながら、推測、聞かせて欲しい」
「そうしましょう。フローズヴィトニルのことなのだけれど、封じられたのは本人がの損宝じゃ亡いかって思うのよね。
 封じられてるにしてもエリスたちが言うような凶悪さを欠片から感じないから。
 本当に悪しき存在なら封印を解くことを願うんじゃないかしら。
 ……それを感じないのが、そしてエリスみたいな欠片が封じられず精霊になっているのが、意志を持って悪しき力とそれ以外を分断してるような気がするのよ」
 オデットの言葉にリースリットも頷いた。何せ、精霊女王エリス・マスカレイドがあれだけ落ち着いた存在なのだ。
「精霊女王を見るに、フローズヴィトニルが元から悪性だったとは思い難いのです。
 そして規模的に、まるで真性怪異。……人の信仰は精霊を、神を定義し、狂わせ得る。
 例えば文明が滅びる原因となったなら、御伽噺として悪い内容が伝わるのも自然な流れです。
 ……もしや、フローズヴィトニルはレビカナン時代から存在する精霊なのではないでしょうか?」
 レビカナン時代。その旧き時代をヴェルザンディは覗き見ることは出来るだろう。だが、この稼働には精霊の炎――即ち、精霊の命を炉に焼べなくてはならない。
 自己犠牲の塊であるエリスにそれ以上命を削らせるわけには行かないだろう。ならばそれ以上は推測するしかない。
 セレナは確かに、と小さく頷いた。フローズヴィトニルとは何か、それは即ち鉄帝国では語られる御伽噺である。
「フローズヴィトニルが大寒波に意味を付けられて産まれた存在なら、本来は善悪の無い存在のはずよね?
 あの太陽はそれを滅びの存在へ変質させるもの。
 悪しき魂の封印と贄となる太陽が合わさって、太陽を呑み喰らい冬へと閉ざす狼が誕生する……
『フローズヴィトニル』が『太陽』を喰らう事で、鉄帝は永遠の冬に閉ざされる……それがわたしの推測なの」
「ええ。私も同じ事を思ってる。個人的にフローズヴィトニルの成り立ちは御伽噺が先なのかなって思ったのよね
 御伽噺があって、偶然に強い寒波が来た、人々は連想したはずよ『これはフローズヴィトニルのせい』って。
 ……それが精霊として形と力を得てしまったんじゃないかしらって。
 銀の森でオリオンが言ってたみたいに、概念の存在が肉体を得たような。
 ただ力の強大さと個人の思考は違ったのかもしれないって――そうじゃなきゃエリスなんて生まれないと思うのよね」
 あれだけ善性の塊であるエリスがいるのだから。其れに賭けていたいのだと笑ったオデットにセレナも頷いた。
 その言葉を聞いてからリースリットは悩ましげに「……そうですね」と呟いた。
 いや、御伽噺より先にそれは存在したのかもしれない。だが、『狼の遠吠え』とも称された吹雪がその精霊の在り方に大いに影響を及ぼした。
(真性怪異のよう――だとは例えましたが、あれこそが大精霊とイコール出来る存在だと考えるべき。
 大精霊フローズヴィトニルは、正しく人の言葉によって在り方を歪められた異質なる存在であるのかもしれませんね……)
 リースリットは嘆息してから隠し通路の最期の扉の前に存在しているシャドーレギオンを睨め付けた。
「歪んだ願いを持ったシャドーレギオンと、本来にあった正しい願い。
 まるで、精霊の在り方そのものを顕して居るみたいだよ――ね!」
 ヨゾラが放った魔性。それは汚泥にすべてを飲み干してゆく。シャドーレギオンは『同じ顔』をしていた。
 まるで鏡写しの自分が目の前に居るのだと咲耶は臆すこともなくひらりと前線へと飛び出して。
「――例え己の影とて構っている暇はござらぬ。今、こうしている間にも沢山の人々が国を取り戻す為に戦い続けているのだから!」
 其れは実に、実に勇者めいている。そんな俯瞰した思考でおもう愛無は勇者は真実を掴み一度は挫けるのが定石だと言われるが、イレギュラーズは早々挫けてはくれないのだから物語の作り手(ストーリーテラー)は嘸、悔しいことだろうと考えずには居られなかった。
「アタシたちが何を見て、どんな思いでここにいるか。何も知らない癖に、勝手に『願い』を騙るんじゃないわよ」
 唇を尖らせたジルーシャはシャドーレギオン達を打ち払い、その向こう側に存在した望遠鏡に手を伸ばす。


「これが望遠鏡……」
 リースリットの呟きにクレカは「使い方は、わかる」と頷いた。
 どうやら王宮内にはバルナバスの姿は現在は無い。が、此処に長居をしては鉢合わせる可能性もある。
 望遠鏡がこの地に存在した理由は分からないが同じ通路を利用し、安全地帯へと戻るべきだろう。
 そそくさと王宮を後にしたイレギュラーズ達はクレカがヴェルザンディで演算した安全区域に咲耶が秘密の隠れ家を構え『望遠鏡(ヴェズルフェルニル)』の機能を展開させた。
 周辺に鮮やかな光が満ち溢れる。

 ―――――0.0000001%。対象との同期を行ないます。

 クレカが手を翳した刹那に、その数値がぐんぐんと上がり始める。
「この望遠鏡を覗くことが出来るのは一度に複数人? それとも、一人ずつ?」
「……何方でも、大丈夫そう。けど、時間は掛けられないから」
 同時の方が良いだろうかとヨゾラは頷いた。先に雑談を混じらせ話した推測の答え合せを此処から行なうのだ。
「ねえ、ちょっとだけ怖い話をしても良い?
 封印が解けた時期と、太陽が現れた時期が同じなら、その二つには関係があるって結び付けられるからまだ安心できるわ。
 一番怖いのは――『あの太陽はフローズヴィトニルとは何の関係もない』場合じゃない?」
 それは、とオデットは唇を動かした。ルーキスも「まあねえ」と頷く。
「バルナバスが皇帝に就いてから増えた代物。
 太陽に見える何か、今までの騒動で奪われたのは封印のみ。
 この天体に見える何かは『フローズヴィトニルそのもの』ではないかと予測するのが単純だ。
 ……けれど、それがブラフであったなら、私達は大いに踏み込む必要があるんだね」
 渋い表情を見せるルーキスにオデットは俯いた。
「そう、よね……あれがもし、フローズヴィトニルと関係があるものなら……。
 太陽――というか、太陽ではなく月なのではないかしら? 太陽の熱を抑えるか、地上を寒くする要因でありそうよね。
 この予測があり得そうならフローズヴィトニルの権能ってことになりそうだし……そして止めなきゃいけないわね」
 オデットの提案にそうであって欲しいと言うようにジルーシャは頷いた。
 覗き見るのはフローズヴィトニルについてだ。
 例えば、セレナの推測だ。フローズヴィトニルとはあくまでも氷と冬を司った精霊であったのではないか、ということだ。
 それが善悪の存在に分けられた理由こそが『太陽』であったならば――?
 だが、それには時期が大きく違う為、別の理由が存在するだろう。愛無も『太陽を喰らう』事や『太陽の影響』がフローズヴィトニルには存在して居るのではないかと考えた。
「ええ、ええ、フローズヴィニトルの伝承に曰く『獣は四肢を断たれ、首を落とされ尾を引き抜かれた』
 絶たれた四肢や砕かれた爪牙が、各地に封印された欠片なのでしょう。
 恐らくは精霊として昇華されきっていない、未だ意志無き、されど意思に応える力………なら。『落とされた首は何処に』?」
 呟いたリースリットは『そもそも首の封印が解かれてこの冬が来たのではないか』とも考えた。
「そうなの。アタシたちが要石――『氷狼の座』に辿り着いた時、フローズヴィトニルの封印は既に解かれていた。
 フギンたちが要石を手に入れたのは、一体いつからだったのかしら。封印を解いたのも……太陽だって気付いた頃には天にあったわ」
 太陽はいつからあったのだろう。それは二つ目の太陽が『視認可能になった』段階からしか分からない。
 もっと早い内からそれが最初からそこに存在し徐々に大きくなっていたならば――?
 リースリットは「嫌な予感がします」と唇を震わせて。
「心の温和な断片は精霊女王らのように別個の精霊となったというけれど。
 封印の欠片に意思を感じられない以上、『それ以外の心』は別に存在しているのでは?」
 リースリットは呟いてから太陽を思い浮かべた。例えば、イレギュラーズの手に渡っていない封印――フギン=ムニンの手の内、なんて。


「そもそも太陽にした理由は何かしら。
 あれだけ目立つように堂々と浮かんでいるってことは……それ自体に意味があるような気がするのよね。
 万全を期すなら、見つからないように隠しておいたっていい筈だもの」
 呟くジルーシャにルーキスはあっけらかんとして「隠さなくて良いと考えたのかもしれないね」と返した。
「え、え? そうなのかしら。
 空になくてはならない理由があるのかと思っていたわ。
 例えば、氷に対して炎があるように、あれがユーディアと対になる存在――太陽の精霊が変質した姿、とか。
 太陽はすべてを照らすだけじゃなく、白日に晒すもの。
 隠していた感情を暴いて、争いを加速させる……それがバルナバスの切り札なんじゃないかしら」
「『バルナバスの切り札』という意見には同意するでござるが、太陽とフローズヴィトニルはそれぞれ別個ではなかろうか」
 咲耶の提案にジルーシャは「いやだわ、そんな」と首を振る。
 それこそが『最悪』の自体だとも認識していた。何故ならば、戦うべき相手が別々に存在しているという事にもなる。
「……なら、隠さないで良い理由にも行き着きやすいと言うことか」
「うん、そうなると思うよ。ユーディア……『月と狩りと獣の女神』の存在や『炎と鍛冶の精霊』の存在も、フローズヴィトニルの存在さえ『興味が無い』誰かのものだったりして」
 愛無はルーキスの言葉に渋い表情を見せ、リースリットも別個の答えに行き着いた。
「ああ、その点、細かく登場人物を配置するのはフギン=ムニンの側で、その全てをベースに勝手に動くのがバルナバスであろう」
 その時、ゲオルグとヨゾラ『己の太陽に対する推測が正解であった』事に気付く。

 ――空に浮かぶ二つ目の太陽、それはバルナバスの権能そのものだ。
 人々の絶望を、憤怒を、悪しき感情を吸い上げて成長する。それが意図する先が何か分からぬ程に穏やかに生きては居ない。

「いずれは地に堕ち、鉄帝を焼き尽くして灰燼に帰す――」
「有り得なくはないでござるな。
 拙者も太陽の正体こそバルナバスの権能そのものであると考えている」
 望遠鏡で覗き込みたいのはバルナバスのことではあるが、どこまで深く覗き見ることが出来るかは定かではない。
「元々奴が掲げるのは弱肉強食の理。現在、奴は積極的に自ら動かず、他者を利用し間接的に国民を追い詰めている。
 バルナバス自身の権能や行動理由もまたその理に基づいたもので、あの太陽は強者に虐げられ自然の脅威などに苦しんだ弱者の憎しみや無念、魂などの犠牲で出来ているのではなかろうか」
「……ああ、同じ考えだ」
 渋い表情をしたゲオルグに咲耶は危険を承知してバルナバスを覗き込んだ。
「大寒波で多くの犠牲が出た事もあり急速に成長したのかもしれぬ。
 ――奴の目的は必要な量が十分溜まった時に太陽の力を開放して国を消し飛ばすつもりなのでは」
 ぞお、と背筋に奔ったのは嫌な気配だった。望遠鏡を覗き込む咲耶を護りながらも彼はぽつり、と呟いた。
「二つ目の太陽、精霊達すら忌避する……って点が妙に気になるんだよね
 もし憤怒の塊なら……内包する憤怒は、今を生きる人達の憤怒だけではない…?
 心で燃え続ける憤怒は、捻じれれば憎悪や呪いになりかねないから……」
 ヨゾラを見遣ったリースリットは「まさか……」と呟いた。バルナバスの権能は『民による憤怒や絶望』を吸収し――それが周囲諸共巻込む可能性が『正答』であったならば。
「精霊だって、其れに飲まれやすい。もしかすると、フローズヴィトニルは『あの太陽を見て吼えている』のかな」
 咲耶は望遠鏡に釘付けになっている。真っ向から探るように過去を覗き見、バルナバスという男の権能である証左を探している。
「……ほら、皆が言ってただろう? 封印が破壊等された時の為の警告が御伽噺で、それが転じて子供達へのしきたりになったんだ」
「そう、かもしれないわ。エリスみたいな存在は、そのフローズヴィトニルの欠片が『逃がした善性』だったのかも。
 いつかの冬、全てを閉ざすほどの恐ろしき精霊だった彼が、エリスを分けて……それから悪い部分だけを封印して、エリス達を管理者にしていたのなら……」
 オデットはゲオルグの言う通り『エリス・マスカレイドが自分こそを要にして封印しようとしている』という結論に思い当たって「だめ」と首を振った。
「核が同じであった方が扱いやすい――それは確かです。
 ユーディアも、ミシュコアトルも、オリオンでさえ精霊女王エリスという『同質である』という存在には及びません。
 ……フギン=ムニンは敢て太陽の下にフローズヴィトニルを解き放つことで大きくその影響を受けさせたのでしょう」
 バルナバスが鉄帝国に争いを広げ、人心が乱れたそれは『バルナバスの権能によって地に満ちた憤怒が注がれた』だけに過ぎないのだろう。
「『最悪の可能性』を考えるなら。天に現れた『二つ目の太陽』はフローズヴィトニルの最後の欠片、落とされた首たる残る心の在り処……。
 ですが、そうではないとするならば、落とされた首こそがフギン=ムニンの有する要石に封じられていたものであり、それをバルナバスの『憤怒集め』に利用した可能性がある。
 ええ、バルナバスはその様な事には興味は無いでしょう。フギンが勝手にそうしただけに過ぎない筈ですから」
 ――悪しき首はフギン=ムニンの手の内にあるのだ。
 リースリットの告げる不安にぎゅ、と拳を固めたジルーシャは「どうすればいいのかしら」と呟いた。
「フローズヴィトニルの封印手段も、考えなくちゃならないわよね。
 御伽噺の狼は鎖によって縛られると言うのが相場だけれど、それに類する拘束具、封印の術もどこかにあるんじゃないかしら」
 セレナはせめて其れを識る事が出来ればと呟いた。ゲオルグは「封印、か」と呟く。
「エリスは要石を破壊するように言っているが、フローズヴィトニルの再封印には要石が必要なのではなかろうか。
 まさか、エリス自身が要石の代わりになるつもりなのでは……」
「それはダメよ」
 オデットが声を張った。ゲオルグとてそれは避けたい。だが、エリス・マスカレイドの動き方にはそれが正しいであろうと思わせるものもある。
「自我や意思を持つほどに強い力を持つフローズヴィトニルの欠片で、人間に好意的だから封印の制御も負担がかかりにくいだろう。
 ここ最近、妙に無茶をしている今のエリスならば……それくらいやりかねん」
 ゲオルグは俯いた。望遠鏡を覗き込むことを辞めて彼は酷く嘆息する。
「最も強い封印である中央の悪き魂とエリスは言っていたが、クラウィスは自らが命の危険に晒されても要石を抱き抱えるようにして守っていた。
 もしや、ネーロとビアンコはフローズヴィトニルに取り込まれているのでは……」
「ネーロとビアンコって、フローズヴィトニルの要石を持っている人の相棒だっけ?」
「ああ。彼は動物を大切にしている。……その大切な存在が彼の傍には居らず、要石を彼はずっと手にしていた。
 だが、もしそうだとしたならば、ネーロとビアンコの存在が完全に消えていないのであれば。
 対話できる可能性が残されているかもしれない。優しさや愛、温和な心を持った存在がフローズヴィトニルの中にいるという事なのだから」
 ゲオルグはその点に賭け、帰還次第エリスには封印について相談をし直そうとも呟く。
「――少しでも、勝利を手繰り寄せられるならば、そうするべきでござる。
 ユーディアの加護も、ミシュコアトルの加護も、使うべき場所はある。ならば、封ずる為の綱とエリス殿の『負担軽減』は拙者達ができるやもしれない」
 呟く咲耶はそう返してから後方に手を振った。彼女は見ていた。危険が及ぶのは己で良い。
 覗き見て、その存在が露見するのは己だけで済むならば其れで良いとバルナバスを一人で覗き込んでいたのだ。
「間違いない。
 ――『あの太陽はバルナバスの権能。皆の憤怒を集めしもの』だ」


 その刹那のことだった。
 クレカがひ、と息を呑む。クレカちゃんと呼び掛けるジルーシャにクレカは震えながら慌て咲耶の元へと駆けた。
「だめ」
 クレカが咲耶の手を引いた。ゲオルグはクレカの言わんとしていることに気付き直ぐさまに『望遠鏡』の機能をシャットダウンした。
 ヨゾラは「直ぐに戻ろう」と声を掛ける。嫌な予感がした。
 確かに、咲耶が覗いたことで真実にはより近い場所に至ることが出来た。だが、相手は冠位魔種だ。覗き見されて『誰かに知られた』程度の変化でも察知する可能性がある。
「クレカさん、大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ。エリスが、呼んでる」
 リースリットとて聞こえていた。
 戻ってこいと、精霊女王が運命を手繰り寄せるかのようだ。エリスは外での操縦者、何らかの危険を察知したということか。
 無理矢理にでも『ヴェルザンディ』に灯した精霊炎(いのち)の権限でイレギュラーズを呼び寄せているのだろう。

 ――イレギュラーズちゃんたち!

 呼ぶ声がする。その声に答えるようにオデットは手を伸ばした。
 ぐん、と引き寄せられるように『ヴェルザンディ』が投影を終えて現実へとイレギュラーズを押し流してゆく。
 濁流のように体を流し、周囲に押し寄せるときの流れで呼吸さえも難しいかと思えた刹那。
「ッ、はあ!」
 顔を上げたセレナは心配そうな表情をしているエリスを真っ正面から捉えた。
「セレナちゃん!」
「大丈夫、皆逸れずに帰ってきた」
 セレナとジルーシャと手を繋いでいたクレカは「ちゃんと、分かったよ」と何処か草臥れたような表情をしていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 遂に太陽のことが分かりましたね……!

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