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シナリオ詳細

<天牢雪獄>敵の補給基地を襲撃しよう

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 鉄帝の、とある小さな村。
 騒乱状態の鉄帝では、吹けば飛ぶような寒村だ。
 そこに、リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は、依頼人である幻想の商人、リリスとヴァンを警護しながら訪れた。
「ここに、手配師が現れたんだよね?」
「ええ。手配書を配って回った時に、村の人達から証言が得られたらしいの」
 リリスの応えを、リコリスは静かに聞いた。
 いま話題に出た手配師とは、鉄帝で裏流通を行っている人物だ。
 盗賊などが奪った強奪品を新皇帝派に手配したり、盗賊たちが強奪をし易いよう武器の手配をしている。
 それだけでも性質が悪いが、犯罪組織の長をしているモリアーティという人物と協力関係になっており、何度かイレギュラーズの活動の邪魔になるようなこともしていた。
 それもあり、手配書を鉄帝の街や村に配っていたのだが、証言が得られそうなので村に訪れたというわけだ。
「それで、どこに行けば良いの?」
 戦闘ではないので、フードを被っていないリコリスは朗らかな口調で尋ねた。
「村長さんに会いに行けば良いのかな?」
 これにリリスが応える。
「迎えに来てくれるらしいわ。約束した時間は――」
「ぴったりだ。時間通りだね」
 突如聞こえてきた声に、リコリス達は一斉に横に跳ぶと、即座に戦闘態勢を取る。
 リコリスはフードに手を掛け、リリス達は少し下がり支援準備に入ろうとした。だが、それより早く――
「待ちたまえ。戦う気はないし、そちらに危害を加える気はないよ。少なくとも、今はね」
 紳士然とした男、手配書に記した人物の1人、モリアーティが呼び掛ける。
 その横には手配師と、ジャックと名乗った、元幻想領主の魔種の男もいた。
「戦り合う気はねぇぜ。商談したいからよ」
 軽い口調で言ったのは手配師。
 これにリコリスが返す。
「嫌って言ったら、殺り合うの?」
「うひっ、おっかねぇな、オイ」
 既にフードを被り狩人の目になっているリコリスに、手配師はビビったように身体を縮めると、ジャックの身体を盾にするようにして隠れながら言った。
「そっちが嫌って言うなら、俺達はトンズラするだけさ。でもよ、そんときゃ、この村は困ると思うぜ」
「村人を人質にでもしてるの?」
 いつでも跳び掛かれるよう体勢を整えながら尋ねるリコリスに、手配師はジャックを盾にしながら応えた。
「人質になんかしてねぇよ。むしろ、食いもんやら燃料やら手配してやってるんだぜ。それも俺達がいなくなったら、無くなっちまうけどよ」
 これにリリスが返す。
「……アタシ達が手配書を回してるって情報を、あんたらに売ったってわけね。ここの村人は」
「そうだよ」
 リリスの言葉に、モリアーティが応える。
「鉄帝で活動すれば、いずれ手配書は回ると思っていたからね。すぐに対応できるよう、下準備をしていたんだよ」
「手際が良いわね。それで? 別にあんたらが援助しないなら、アタシ達がすればいいだけよ」
「別にかまわんよ。その時は、私達も宣伝してあげよう。担保も何も無い村に、親切に援助をしてくれるところがあると」
 モリアーティは言った。
「言っておくが、この村には遺跡のような担保になる物は無いよ。君達の商会は、鉄帝の遺跡探索と遺物の優先権を担保に証券を作って資金を集めているようだが、この村では出来な
い。そうなると、君達の純粋な持ち出しになるね」
「別に村ひとつぐらいなら、どうということは無いわね」
「すばらしい。だが、数が増えればどうかね? 何の担保も見返りもなく、援助をしてくれる救い手を求める者は多い。それを切り捨てる労力は、大変だと思うよ」
 困窮している人間を煽って押し寄せさせるぞ、とモリアーティは暗に言った。それを理解したリリスは――
「分かったわ。商談というなら話は聞いたげる。持て成しなさい。営業かけて来たのはそっちでしょ」
「ふむ。では茶会を開くとしよう」
 そう言うとモリアーティは、仲間を連れて先導するように歩き出す。
 完全に背中を向けて先に進むモリアーティ達に、リコリス達は警戒しながらもついて行く。
 その先で辿り着いたのは、他の家屋とほとんど変わらない粗末な家。
 村長の家だというそこに入ると、村長らしい壮年の男性と、数人の若い男女がいた。
「彼らのことは気にしないでくれ。商談がまとまったら、約束した物資支援をすると話をしているのでね。それを見守りに来ているだけだよ」
 そう言うとモリアーティは、ひとつだけしかないテーブルを前にして座ると、若い男女達に指示を出す。
「持って来ていた紅茶とお菓子を出してくれるかな? これから大事な商談をするのでね。持て成したいのだよ」
 これを聞いて、若い男女達は緊張した顔で用意を始める。
 しばらくして、香りの良い紅茶と甘い匂いのするお菓子がテーブルに広げられた。
「どうぞ」
 モリアーティに勧められ、リリスとヴァンは紅茶とお菓子を口にする。
 そのあとモリアーティも同じように紅茶とお菓子を口にしたあと、商談を始めた。
「新皇帝派の補給基地のひとつを襲おうと思うんだ。君達も噛まないかね?」
「なんで?」
 リコリスが尋ねる。
「新皇帝派とコネ作ろうとしてるって話を聞いたけど、違うの?」
「そっちは手仕舞いしようと思ってね」
 平然とした口調でモリアーティは説明する。
「新皇帝派が鉄帝を掌握できるなら、コネクションを作るのは有益だが、無理筋に見えるからね。君達イレギュラーズや、複数の鉄帝勢力の動きを見てると、先行きは暗い。そうであ
るなら、新皇帝派から絞れるだけ絞ろうと思ってね。ほら、言うだろう? 落ちた犬は棒で叩けと」
「だから補給基地を襲って、物資をぶんどろうってこと?」
 リリスの問い掛けに、モリアーティは応える。
「そうだよ」
 これを聞いてリリスは少し考えたあと、言った。
「儲け次第ね。その補給基地には、どの程度資材があるの?」
「大まかなリストは、これだよ」
 手帳を差し出すモリアーティ。
 それをリリスは受け取り、中に書かれている資材リストを読みながら続けて尋ねる。
「補給基地までの移動経路はどうするの? それと資材を運ぶための足は用意されてるの?」
「移動経路は、鉄帝の地下道を利用する」
 新しい手帳を取り出したモリアーティは、リリスに渡したあと続けて言った。
「補給基地近くに、地下道に繋がる入口を見つけたのでね、それを利用する。足回りについては、補給基地に資材運搬用の蒸気トラックが置かれている。運転手を引き連れて向かうと
いい」
「……なるほどね。出来る出来ないで言えば、可能なんでしょうね。それで、そっちの利益なんだけど、アタシ達を囮に使うってことよね?」
 モリアーティから受け取った手帳を返さず、ヴァンに渡しながらリリスは言った。
「どうせ、アタシ達が補給基地を襲撃するって話を、新皇帝派にするつもりなんでしょ? それで警備の人間を回させて、他の場所の守りを薄くさせる。そこを襲って資材を奪おうっ
てことでしょ」
「そうだよ」
 しれっと、モリアーティは言った。
「少しだが、新皇帝派へのコネクションがあるのでね。それを使って、襲撃する計画があることを掴んだと伝えるつもりだよ」
「つまり、襲撃する時の囮にアタシ達を使う上に、あんたらが襲撃した場所も、アタシらのせいにしようってことね」
「その内、バレるだろうけどね。けれどいま彼らがより敵視しているのは、イレギュラーズだよ。それだけ君達は色々とやってるからね。目先の敵意と疑念をどちらに向けるかといえ
ば君達だよ。もちろん、それで稼げる時間は短いが、その間に新皇帝派を絞れるだけ絞る予定だ」
「悪党ね」
「そうだよ」
 当然のように応えるモリアーティに、リリスは軽くため息をついたあと言った。
「それで、それを信用する保証はなに? 言う通り補給基地を襲撃しに行ったら、あんたらも一緒に待ち受けてて襲われるってのは、面白くないわね」
「それについては、約束しよう。お互いの利益のために、お互いを利用し合うが、嘘はつかないと」
「自分のことを悪党だというヤツの言うことを信じろっての?」
「別に信じる必要はないよ。私達は必要なら嘘も吐くからね。だが、悪党だからこそ約束は守るよ。これは信義の問題では無く、ただの戦略だ。信用できない嘘つきの悪党だからこそ
、約束は守る。でなければ、何ひとつ取引は出来なくなりいずれ詰む。約束を破るとしたら、何もかも全てを終わらせる最期の時だけだ。今は、そうではないのでね。約束は守るよ」
「……」
 じっとリリスはモリアーティを見詰めたあと、隣で無言のまま座っていたヴァンに尋ねた。
「本当のことを言ってる?」
「本当ですね」
 それを聞いたモリアーティは、興味深げにヴァンに視線を向け尋ねた。
「ギフトかね?」
「元の世界の能力と比べると劣化し過ぎて、ほとんど役に立ちませんがね。それでも相手の表情や反応を見ながら推測すれば、本当のことを言ってるかどうかぐらいは判断できます」
「ふむ。では、こちらの証明は出来たというわけだ。あとは、こちらの話に乗るかどうかだが――」
「乗るわ」
 リリスは言った。
「資材は幾らでも欲しいもの。それで困窮してる村や街が助けられるなら、乗らない手は無いわ。でも、追加でお代りが欲しいわね」
「……どういうことかね?」
「この村への援助、山盛りにしなさい。あと、どうせ他の村や街にも手を出してんでしょ? そこへの援助も予定の倍は出しなさい。潤った所で、うちが交渉して取り込むから」
「分かった。援助すれば良いんだね?」
「ええ。約束しなさい。予定の倍以上の援助をすると」
「……がめついね。約束しよう」
 そう言うとモリアーティは立ち上がり、手配師の肩を叩き言った。
「では、頼んだよ」
「丸投げかよ!」
 わちゃわちゃ言いながら家屋を出る手配師達。
 あとに残ったのは、村長と若い男女数人。彼らにリリスは言った。
「というわけで、物資が来ることになったから。でも、全部が必要な物とは限らないから、その時はウチで適性値段で買い取らせて貰うわ」
「……いいんですか?」
「もちろん。これから末永いお付き合いさせて貰おうと思うから、よろしくね」
 笑顔で応えるリリス。続けて、リコリスに言った。
「そういうわけで、新皇帝派の補給基地を襲おうと思うの。気が向かないかもしれないから無理には頼めないけど、もしよければローレットに依頼を出すから、手伝って貰えないかしら?」
「考えとく」
 応えると、お菓子を食べるリコリスだった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。

以下が詳細になります。

●成功条件
 新皇帝派の補給基地のひとつを襲撃し、溜め込まれた資材を持ち帰る。

●状況
 以下の流れで進みます。

1 鉄帝地下道から、補給基地近くに出る。
  敵となる新皇帝派には気付かれていない侵入経路になります。
  襲撃場所の補給基地からは100mほど離れており
  間に家屋などもあるので、地下から出た時点で気付かれることはありません。

2 補給基地の襲撃に向かう。
  補給基地の周囲30mほどは、運搬用の蒸気トラック置場にもなっているため
  開けた場所になっています。
  そのため、補給基地に30mほどまでは気付かれずに近付けますが
  そこから先に進むと敵に気付かれます。

3 戦闘開始。
  補給基地を警護する新皇帝派の兵士との戦いになります。

4 敵撃破後、資材を運ぶ。
  補給基地にある資材を、基地の傍に駐車されている蒸気トラックを使って
  持ち帰って依頼は終了です。
  戦闘終了後に、地下道に待機している運搬役のNPCが来て手伝ってくれます。

●戦場
 補給基地の倉庫周囲30mほどの開けた場所が戦場になります。
 戦闘時に支障が出る物はありません。
 逆に、壁にしたりする物もないため、基本は真正面からの戦いになります。

●敵
 新皇帝派の兵士30名程度。
 全員、そこそこの強さ。そんなに強くは無いですし、弱すぎる事もないです。
 襲撃があることを聞いており警戒していますが、援軍が来るとも聞いているので
 そこまで危機感は無いです。
 なお援軍は、現地到着が手遅れになるように調整されて、襲撃の情報が伝わっています。
 なので、今回の戦闘で援軍が現れることは無いです。
 生死は問いません。捕縛した場合は、依頼人のリリスとヴァンが拘留場所を用意します。
 拘束した上で、蒸気トラックに荷物として載せられ持ち帰られます。

●味方NPC

リリス&ヴァン
依頼人です。支援特化で援護してくれます。
各種バフとデバフの解除。回復をしてくれます。
あくまでも支援NPCなので、直接戦闘は基本できません。

運搬役NPC達
戦闘が終了するまでは、地下道に隠れて待機しています。
戦闘後に、運搬に関することを対処してくれます。


●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に
 影響を与える事が出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上になります。
 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <天牢雪獄>敵の補給基地を襲撃しよう完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ファニー(p3p010255)

リプレイ

 鉄帝地下道をイレギュラーズは歩く。
 目的地は、新皇帝派の補給基地のひとつ。
 道中、『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は、気になっていたことを口にした。
「魔種とつるむ悪党の言うことなんて信用できるのか?」
 これに依頼人であるリリス達が応える。
「ごめんなさいね、心配させちゃって。でもリスクを取ってもリターンの方が大きかったから」
「そりゃあ、戦争において物資から潰すのは有効打とは思うが」
 理屈では理解しつつ、感情的には納得し辛いアルヴァ。そこに――
「そこは割り切っていくのも必要かもね」
 話に加わったのは、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
「ハックアンドスラッシュ! 敵兵を倒して資材を奪う。一挙両得のサクセンだね!」
 乗り気なのか、やる気を見せている。
「いつもこっちが資材や人員を守って戦わなきゃいけなかったからね! 今回は思いっきりやり返してやろうぜ!」
「だよな」
 賛同するように言ったのは、『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)。
「やられるばっかじゃなくて、やり返さないと。それに戦争してるわけだしな」
 考えを纏めるように言った。
「恨みっこなし! ってのも違うけど、かといってぶっ殺してやる! とか押し通る! って気もそんなしねぇや。まぁ、運が悪かった方が負けるってのはいつもの事か」
「それもあるけど、世の中はギブアンドテイク、ってところもある」
 新たに話に加わったのは、『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)。
「相手が誰であれ、お互い利用できるうちが華なのだからな」
「使える者は使っていく、ということだな」
 応じるように言ったのは、『ノブレス・オブリージュ』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)。
「確かに手配師は悪党ではあるし、何度か戦ったこともあるが、補給基地の撃破のためには利用することも必要だろう」
「そうね」
 同意するように、あるいは話を纏めるようにリリスがシューヴェルトの言葉に頷く。
 とはいえ、いまいち納得がいかない者も当然いる。
(あのいけ好かない手配師さんの囮にされた上に盗みの片棒を担がされるなんて、誇り高い狼のやることじゃないよね、全く)
 言葉には出さないが、『狩ったら喰らう』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)としては完全に割り切れるわけじゃない。
 だが依頼ではあるので反対する気もない。それに――
(ま、いつか頭から思いっきり噛み付きたいよね)
 狩人としての戦意は高い。
(何せ魔種と手を組んでる上に都合が悪ければボクらみたいなのとも手を組む奴らだからね。いつまでもビジネスごっこで遊ぶつもりはないよ) 
 まだフードを被っていないので狩人として先鋭化してないが、獣めいた闘志を内に秘めていた。
 それぞれが自分なりの割り切り方をする中、アルヴァも気持ちを切り替える。
「ったく、今回は義賊として協力してやるが、次からそんな危ない商談はしないでくれよ?」
「ありがとう」
「助かります」
 アルヴァの言葉にリリス達は礼を言う。
 そうして進み、出口に辿り着き地上に出ると、補給基地へと駆けて行く。
 接近を気取られるギリギリの距離まで近づくと、それぞれの配置に分かれた。
(このぐらいまでなら、大丈夫そうだな)
 敵との距離を見極めながら、『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は配置につく。
(これなら、こちらの不意打ちは通るな)
 敵は警戒しているが、援軍が来ると聞いているので気が緩んでいる。
(まぁ、援軍は来ないわけだが)
 いつでも行動できるよう魔力を励起しながら、ファニーは敵への対処を思案する。
(あー……生死は問わないとは言われているが、情報源として何人か生かしておいたほうがいいよな?)
 ファニーと同じように、敵の処遇を思案しているのは、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)。
(手加減する気はありませんし、徹底抗戦するのであれば殲滅するしかありませんが――)
 自身の名誉と鉄帝の平和の為に戦うことを第一とするオリーブとしては、鉄帝の害になる者は排除した方が良いように思える。
 とはいえ生かしておけば情報源として使えることを考えれば、不要に殺す必要はない。
(我々が援軍の事を知らないと思っているのを利用しましょう)
 利用しない手は無い。
(援軍が来ると思っているなら、追い込んでから降伏を呼び掛ければ従うかもしれません。援軍による形勢逆転を期待して拘束されてくれれば重畳です)

 他のイレギュラーズ達も、それぞれ敵を生かすか考えながら配置につき、完了した所で一斉攻勢に出た。

●戦闘開始!
 戦火の始まりは遠距離からの広範囲一斉掃射。
 事前に話し合っていた通りに、サンディとファニー、そしてローレルが口火を切る。
(可能な限り、一気に削る)
 最初に動いたのは、反応速度に優れたサンディ。
 空に向けて投げた投射物が、精密な軌道で敵の一団へと降り注ぐ。
 狙いは蒸気トラックから離れた一団。
 ファニーが、蒸気トラックや資材を巻き込まないよう保護結界を伴った攻撃をしてくれるので、外れる範囲を狙って攻撃している。
 天から降り注ぐ凶器の群れに敵の一団から悲鳴が上がった。
「なんだ!?」
 不意を突き混乱している所に、ファニーがタイミングを合わせるように攻撃を重ねる。
(さぁ、愚か者のお通りだ)
 自身を強化した上で一歩前に踏み出しながら、無数の星屑を降り注がせる。
(止められるものなら全力で止めてみせろよ)
 敵との距離を詰めながら、可能な限り多くの敵を巻き込むように狙いを修正しながら進攻する。
 さらに響く敵の悲鳴。
 だが同時に――
「敵襲! 迎撃するぞ!」
 敵も遠距離攻撃の準備に入る。そこに――
(後のことを考えれば、まず削るのは末端からですね)
 ローレルがクロスボウで連続掃射。
 次々放たれる矢が、敵の腕や足に当たり動きを阻害していく。
(今のところ、敵兵の方が数が多い。まずは確実に数を減らしていきましょう)
 矢で射ぬいた相手に攻撃を重ねる。
 痛みと傷で戦闘不能にすると、次の獲物に狙いをつけた。

 初手、遠距離攻撃による奇襲は成功。
 これにより敵戦力は削られ、意識は距離の離れた相手に向かう。
 近距離への意識が薄れている状態だ。
 その隙をつくように、近接戦を担当するイレギュラーズが一斉に動いた。

(この位置なら、まとめて薙ぎ払えるな)
 重心を落とし、一気に走り出したシューヴェルトは駆けながら抜刀。
 呪詛の力を込められた斬撃は一直線に飛び、軌道上にいた敵の全てを貫いた。
 不可視の呪いに貫かれ、敵は苦悶の声を上げ動きが僅かに止まる。
 その隙を逃さず距離を詰め、攻撃を切り替えた。
 それは空間を切り裂く刃。
 敵の守りすら切り取るような威力で次々血の花を咲かせていく。
 この時点で、敵リーダーが指示を飛ばす。
「近接部隊! 守りと迎撃に――」
 敵の統率が取れそうになるが、それを食い破る様にリコリスと恋屍が突進してくる。
(さて、おやつの分くらいはしっかり働いてこよっと!)
 フードを被り狩人へと先鋭化したリコリスは、敵の只中に真っ直ぐに跳び込む。
 気付いた敵は当然迎撃するが、光輪を自らに付与したリコリスは、防御を捨て戦闘のみに己を特化。
 当然敵の攻撃を受け傷つくが、傷付くほどに動きの鋭さが増し、瞬く間に距離を詰め接敵。
 敵の群れを駆けまわり、紫色伴う終焉の帳を放ち続ける。
 攻撃を受け、敵は態勢を整えるように一端下がろうとするが――
「さあ、殺してみなよ!」
 目を逸らすのは許さないと言わんばかりに、リコリスは声を響かせる。
「キミ達とボク、どちらが狩人か殺し合いだ!」
 明確な殺意と血に塗れて襲い掛かってくるリコリスに、敵は恐怖を怒りで塗り潰し襲い掛かってくる。それを見た敵リーダーは――
「馬鹿か! 挑発に乗るな!」
 統率を取るべく声を上げるが、それを乱すように恋屍も攻撃に加わる。
(さぁ、仕事といこう)
 敵陣へ突進しながら、超視力と広域俯瞰を使い戦局を見極める。
(攻めるなら、ここだな)
 的確に攻め所を見つけると、さらに加速。
 敵が気付き攻撃して来るが、恋屍は多少の傷は無視して一気に距離を詰める。
 間合いを侵し敵の群れへと跳びこむと、体表の粘膜が蠢き無数の魔眼を生み出し周囲の敵を一斉に邪視する。
 途端、敵は恐怖に飲まれたかのように身体を硬直させた。
 それに合わせ、恋屍は声を上げる。
「君達は不味そうだ。殺して喰う気にもならないが仕事だから仕方ない」
 展開した触手で敵を削り食らいながら注意を引きつける。
「投降しないならば殲滅あるのみだ。喰い殺されたくなければ死ぬ気で頑張りたまえ」
 挑発するような恋屍の言葉に、敵は恐怖から目を逸らすように怒りを浮かべ襲い掛かって来た。
 奇襲から戦力分断が進む中、敵リーダーが焦りを滲ませ声を上げる。
「挑発に乗るな! 訓練通り――」
 どうにかして混乱を収めようとするが、そこにアルヴァが跳び掛かる。
(今だ!)
 敵に気付かれないよう、高機動力を生かし敵陣の背後に回っていたアルヴァは突き刺すような鋭い蹴りを叩き込む。
「貴様っ!」
 蹴りを受けながらも敵リーダーは耐え、周囲から援護が向かって来る。
 それをアルヴァは迎撃。
 対人狙撃銃に神聖なる光を込め、近付く敵を次々撃ち抜く。
 確実に敵を抑えながら、敵リーダーへ提案するように言った。
「大人しく投降するなら、無駄な血は流さずに済むぜ?」
「ふざっ――」
 激昂した敵リーダーが襲い掛かってくる。
 それをアルヴァは捌きながら、近付く敵を牽制も兼ねた銃撃で削っていった。
 アルヴァが敵リーダーを抑えているので、敵の統率がどんどん乱れていく。
 それを危惧した敵の一部が、アルヴァを仕留めようと視線を向けるが、イグナートが纏めてぶっ飛ばす。
「余所見をしてる暇はないよ!」
 敵の群れに跳び込んだイグナートは、勢い良く拳を振う。
 潰し砕くような勢いで放たれる無数の拳撃は、次々敵を沈めていく。
 その拳に容赦は無く、けれど止めを刺すことはない。
(出来るだけ死なずに済めばイイけど――)
 殺す気はないが、かといって加減する気もない。
 敵の攻撃を、守りを固め捌きつつ拳の間合いに踏み込むと、虎爪の構えから掌打を繰り出す。
 練り込んだ気を伴う、手首を旋回させながらの突き込みは、体表ではなく内部に衝撃を浸透させ炸裂。
 食らった敵は堪らず、崩れ落ちるように倒れ込んだ。

 イレギュラーズの攻勢は、終始優勢だった。
 奇襲からの戦力分断。敵リーダー格を抑え、戦局の回復も封じている。
 明らかに、このまま行けばイレギュラーズが敵を殲滅させるのは目に見えていた。
 その状況で、ローレルが動いた。
(そろそろ、ですね)
 後方支援をしていたローレルは前に出ると、敵リーダーへと呼び掛けた。
「降伏を勧告します。従うなら殺しはしません」
(さて、どう出ますか?)
 従うなら良し。無理ならば殲滅する。
 それを態度で表明するように攻撃を続けるローレル。
 これに迷うような表情を見せた敵リーダーに、相対していたアルヴァが言った。
「命が勿体ないから降伏しなよ。言っとくけど、これは善意の忠告だ。後悔しないよう、選んでくれ」
「……っ」
 歯を噛みしめ、敵リーダーは怒りを飲み込むように黙る。そこに――
「捕縛と引き換えに命だけは助かるか、新皇帝の為に命を捧げるか、生きてる間に好きな方を選んどいた方が良いと思うよ?」
 敵と自身の血に染まったリコリスが楽しそうな声で言った。
「みんなはともかく、ボクは生かして逃すつもりは毛頭無いんだ。なによりボクってば手加減がヘタクソなんだ。死んでからじゃ、遅いよ」
 その言葉を証明するように、リコリスは攻撃の手を緩めない。さらに――
「降伏するなら早くした方がいいよ」
 敵の1人の顎を打ち抜き沈めたイグナートも、リコリスに続けるように言った。
「止めを刺す気はないけど、容赦する気もないんだ。降伏しないなら、悪いけどこのままやらせて貰う」
 言葉通り、攻撃の手を止めることなく敵を沈めていくイグナート。
 さらに、シューヴェルトも投降を促すように動く。
「悩む時間は無いぞ」
 尋問用の捕虜を確保するため、死なないよう加減しながら言った。
「今なら無駄死には減らせる。指揮官なら選べ」
 放置すれば部下が死ぬのは確実な中、敵リーダーは迷いを見せる。
 その迷いを壊すように恋屍は事実を告げた。
「援軍を当てにしても無駄だ。そういうように仕組まれている」
「なっ……」
 恋屍の言葉に、敵リーダーは事態を悟ったのか落胆したような表情を見せる。
 だが周囲の敵は状況が掴めてないのか、さらに攻撃をしようとしたが――
「死にたくなかったら地に伏せてろ」
 ファニーが星屑の豪雨を降らし牽制する。
「生き残れるよう、あとはお星さまにお願いでもしておくんだな」
 降り注ぐ攻撃の雨に、一部の敵の手が止まる。
 それでもまだ諦めていない敵もいたが――
「止めろ!」
 サンディが指先から紫電を放ち感電させる。
「せっかく生き残る目があるんだ。自分からツキを捨てて死ぬことは無いだろ」
 この時点で、もはや勝負の趨勢は付いていた。
 抵抗して死ぬか、降伏して生き残るか。
 選択を強いられた敵リーダーは、相対していたアルヴァに噛み付くような視線を向けながら問い掛けた。
「なんで殺さない?」
「労働力はいくらあっても困らないだろ? それに――」
 自身の信念を告げるようにアルヴァは言った。
「義賊として如何なる理由があろうと殺したくねぇのさ」
 例え敵だったとしてもね。
 言外に告げるアルヴァに、敵リーダーは部下の命も天秤に乗せた上で――
「分かった……降伏する」
 敗北を口にした。

●戦い終わり
 戦闘後、皆は戦後処理を素早く済ませていく。
(墓穴掘るのに骨を折らずに済んだのは、良かったかもな)
 降伏した敵を拘束しながら、ファニーは思う。
(無駄に殺すのは気分良くないしな)
 放置しておけば確実に死ぬ敵もいたが、依頼人は回復が得意だったので死なない程度に回復させている。
「あとは資材の運び込みを手伝うか。”骨”が折れるが、こればっかりは仕方がねぇ」
 拘束を終わらせファニーは詰み込みの手伝いに向かう。
 他に視線を向ければ――
「これでよし。傷跡も残らないようにしといたわ」
「ありがとう!」
 傷付いていたリコリスが依頼人であるリリス達に癒されてると、資材の積み込みに向かう。
 同じように、サンディも詰み込みを手伝っている。
「これ、こっちで――そっか分かった。あっちに積み込んだ方が良いんだな」
 待機していた運搬役の人員と会話を交わしながらテキパキと手伝っていた。

 資材の積み込みが終る頃、簡易の尋問なども行われる。

「他に隠された資材などは無いのか?」
 恋屍が尋ねる。
「どうせ失敗した君らは殺されるだろ? 少しでも有利にしておきたいなら協力しておいた方が今後のためだぞ。屑は屑同士。協力しようじゃないか。世の中はギブアンドテイクだ」
 これに敵リーダーが待遇を良くすることを条件に応える。しかし――
「それ、手配師達が盗ってそうですね」
 依頼人のヴァンが言った。
「向こうが攻める場所も聞いてましたけど入ってます」
「本気で搾り取るつもりね、手配師の奴ら」
 呆れるように言ったリリスに、妖精の木馬に資材を乗せ終えたシューヴェルトは問うように言った。
「手配師達は、どういうつもりなんだろうか? 約束を破るときは最期の時だけ、とも言っていたようだが」
 これにリリスが返す。
「多分、最低限やりたかったことは終わらせてるのよ」
 ため息をつくように続ける。
「手配師は、それこそ手配が出来れば楽しいタイプだし、協力してる奴らは自分の命も手段の一つにしてるタイプだと思う」
「どういうことだ?」
「自分が死んだ方が良いと判断したら、全部巻き込んで死ぬタイプってこと。最期って言ってたのは、たぶんそれね。あと、殺されても後が続くよう後継とか色々用意してるんでしょ」
 リリスが話している間に、ローレルが補給基地から手に入れた書類を敵リーダーに見せ尋ねる。
「これは他の拠点や輸送経路ということですか?」
 ローレルの問い掛けに、待遇を良くすることと引き換えに敵リーダーは知っている範囲を話した。

 そうしてその場で出来ることは終わり、資材満載の蒸気トラックで帰還する。

「蒸気トラックの運転はマカセテよ! というかやらせてよ!」
 腕に覚えのあるイグナートが運転を買って出てくれ、他の運搬役より一足先に出発する。
「それじゃ出発!」
 いきなりトップスピードで走らせる。
「荷物乗せてるから重くて運転し易いね!」
 ドリフトしそうな勢いの爆走に、荷台に乗せている捕虜達の悲鳴が上がった気がしたが気のせいだろう。
 
 かくして、新皇帝派の補給基地をひとつ潰し、資材を山盛りで持ち帰るイレギュラーズであった。

成否

成功

MVP

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
皆さまのお蔭で、新皇帝派の補給基地のひとつを潰すことが出来ました。
また、捕虜や基地の中に残っていた資料などから、一部補給路などの情報が得られ、そちらも対処に当たるようです。

それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!

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