PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<昏き紅血晶>シルバーバレット

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●獣の中で育ったパドラ
「これが『アンガラカ』?」
 少女は白い粉の入った小瓶を手に取った。
 白く長い髪をした、これまた雪のように白い肌の少女である。その様相に似合ってか、白いハットとコートがまた彼女の印象を染めている。
 彼女は皆から『パドラ』と呼ばれていた。
 パドラはゆっくりと手の中で回してみる。
 まるで灰のようにさらさらと瓶の中でゆれるそれは、奇妙な艶をもっていた。ただの灰では当然なく、魔力的な気配をも放っているように思える。
「蓋を開けるんじゃねえぞパドラ。ヤベえ臭いがしやがる」
 舌打ち気味に言ったのは恐ろしい狼。もとい、狼の獣種ハウザー・ヤークであった。
 ラサ傭商連合でも特に名のある傭兵団『凶(マガキ)』の頭目で、本能的に正解を嗅ぎ分ける勘の良さには定評がある。実際今もすんすんと鼻を鳴らして更に顔をしかめていた。
「そいつが見つかったのは……あー……」
 ハウザーは説明を始めようとして宙を仰ぎ見ると、すぐそばに立っていた長身の男に目を向ける。眼帯をした彼の名はザキという。
 細かい説明は苦手なのか、どうやら部下に投げるつもりのようだ。
「昨今、ラサで幻想種(ハーモニア)の拉致事件が頻発しているのはご存じですね?」
 説明を受けて、パドラはこくんと頷いた。
「知ってる。ザントマンの再来なんだって? でも死んだよね、あいつ」
 ラサでは今、幻想種を特殊なアイテムを使って眠らせ拉致するという事件が頻発していた。
 幻想種の拉致と聞けば、ラサの民は数年ほど前に起きたザントマン事件を思い出すだろう。
 盗賊たちを使い幻想種を拉致し奴隷として売却するというその悪逆非道な行いは傭商連合からの実質的な追放という形で手を打たれ、その背後にあった強大な魔種と共にザントマンの名を騙る奴隷商人は倒されたのだった。
 ちなみに全く同名のザントマンなる真なる怪物(肉腫)が他国に現れたことがあったが、これはまた別の物語である。
「ええ、その通り。ですので別の人間の仕業だとみて間違いないでしょう。
 我々も商人たちの依頼を受けて調査を進めていたのですが……犯人グループのひとつがこの粉を使用していたことが分かりました。
 彼らはこれを『アンガラカ』と呼んでいたようです」
 やっと話が、パドラの手元にある小瓶へと戻る。
 このアンガラカを使用することで幻想種たちの意識を奪い、拉致を容易なものにしていたようだ。
 説明は済んだとばかりにハウザーが腕を組む。
「この案件はお前の仕事だ、パドマ。ローレットの連中に依頼書を出してこい」
「別にいいけど……」
 クールにそう言い返そうとするパドラに、ハウザーがニイッと笑みを浮かべた。彼の顔だと獣が威嚇したようにしか見えないが。
「これで金が入れば、あの等身大のぬいぐるみが買えるかもしれないぜ。お前がベッドに置いてるピンクのナマズの――」
「ばかっ……! ちょ、そんなんじゃ……!」
 顔を真っ赤にしてパドラは声を荒げたのだった。

●合同作戦
 ラサにある開放的なバーの一角。
 マガキからの招待もとい依頼をうけ、あなたは銀髪の女パドラの隣に腰掛けた。
 開放的なバーで、等間隔の木柱と革の屋根が申し訳程度にある。残るは太陽と空気とビールだ。目立つ席では楽器片手に音楽を奏でる吟遊詩人の姿もある。
「こいつを見て」
 パドラはビール瓶を片手に一枚の写真を翳し、それをあなたに見えるようテーブルに滑らせた。
 ひとつはラサにある食品加工施設の遠景写真。もうひとつは作り笑いが顔に張り付いたようなポニーテールの女だ。
「ヨリョトル精肉。食肉加工を主にする企業で、社長の名前もヨリョトルだよ。つまりその女」
 パドラがもう一枚の写真を見せる。そこには馬車が建物に乗り付けている風景画遠くから撮影されたものだった。
 注目すべきは馬車の積荷だ。何人もの幻想種(ハーモニア)が縄に繋がれ、おとなしく施設へと引っ張られ歩いて行く様子がとらえられていたのである。
「最近幻想種の拉致事件が頻発してるのは知ってるよね。このヨリョトルはそれに関わってるみたい。幻想種たちを助け出すために力を貸してほしい」

 パドラの話を要約すると、商人のもつ施設に突入し拉致された幻想種を解放してほしいというものだ。
「当然これだけの数を拉致するにも武力がいるよね。傭兵を雇ってるか抱えてるか、どっちにしろ『返して』といって返してはもらえないでしょ」
 ならどうするか? 簡単である。
 パドラが銀の大型拳銃を抜き、人の頭に突きつけるような動きをしてみせる。
「第一、今時幻想種の拉致なんかしてタダで済むわけないからね。証拠をおさえた以上、あとは武力行使だけだよ」
 金貨がそれなりに入った袋をテーブルにドンと置くと、ビール瓶を煽ってみせる。そして何か思い出したようにコートのポケットに手を突っ込むと、数枚のコインを取り出してテーブルに追加した。
「あと、これは今日の奢り」

GMコメント

●オーダー
 ヨリョトルの所有する施設へ突入をしかけ幻想種たちを解放します。
 現場にはヨリョトルが雇っている傭兵たちが守りを固めているため、それなりの武力や工夫が必要になるでしょう。

●フィールドとエネミー
 ラサにある食品加工施設です。周囲は高いフェンスで囲われており、見える範囲だけでも銃を持った傭兵が巡回しています。
 建物内部の様子は魔術的な結界が張られているせいか透視することができず、ファミリアーによる偵察も失敗したため把握できなかったようです。
 傭兵との戦闘は勿論ですが、未知の敵との戦闘にも警戒してください。

 突入方法は指定されていません。表から派手に突入してもいいですし、裏からこっそり入ってステルスキルをしていってもいいでしょう。その両方をやっても良い筈です。

●打ち上げ
 仕事が終わったあとはパドラと一緒にラサのバーで打ち上げをします。
 マーケットで遊んだりもしたいようです。
 彼女もこの期にローレットと仲良くなっておきたいようです。

●味方NPC
・パドラ
 凶に所属する傭兵です。幼い頃に両親を何者かに殺され、凶に引き取られ育てられた娘のようです。少女のようなやや幼さの残る外見ですがしっかり成人しています。
 むさくるしい獣だらけの環境で育ったせいか、ぶさかわ系のぬいぐるみなど可愛いものにめがないようです。本人はクールぶって隠していますが結構バレバレです。
 実力派の凶で育っただけあって戦闘力はそれなりにあるので、戦闘面では肩を並べて戦っていけるでしょう。

●サポート参加について
 サポートは『打ち上げパート』でのみ参加が可能です。
 仕事終わりのパドラたちと合流し一緒にバーで飲んだりマーケットで遊んだりしましょう。
 ※極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。

  • <昏き紅血晶>シルバーバレット完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計

リプレイ


 銀の大口径ピストルの銃口を下に下げ、開いたリボルバー弾倉に弾をひとつずつ滑り込ませる。
 その動作はどこまでも手慣れていて、右手がミシンのように素早く動きルーレットのように弾倉を一回りさせた頃には既にリロードが終わっていた。
 手首を返すやや乱暴なアクションで弾倉を銃におさめると、マガキの傭兵パドラは顔にかかった前髪を指でどかした。
「みんな、準備は良い?」
「勿論!」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が赤い鎧を全て装着し、最後に剣と盾を手に取る。
「スラムでいっぱい見てきたからボク思っちゃうんだよね。
 人を人とも思わない扱いする奴らは全員死ね! って。
 だから今回も皆殺しだよー、ソコにいる奴ら。アハッ」
 過激なことをいうヒィロに、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)が肯定するように頷いて見せる。
 こちらは対照的に系防具。動きやすさを重視したむしろスリムな作りだ。
「ザントマンの件だってそう昔じゃないのに。同じ事して上手くいくと思ってるなら……舐められたものね」
 武器はといえば、出刃包丁をおさめた革のホルダーのみ。重武装のヒィロとはそれこそ対照的な装備である。
「自信はあるようだし? 砕いてやるのがむしろ慈悲ね」
 一方『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は道具を準備しつつ手押し車に手をかけた。
(またいつぞやの事件のように幻想種がさらわれてるのか…助けないとな…しかし巷で噂の紅血晶と繋がりはあるのか?無いといいが…まあ、それは調べていけばだんだんわかってくるだろう、まずは幻想種を助けることに集中しよう)
「今回は二面作戦だったよね」
 『人生を贈ったのだから』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が『ウルバニの剣』なるバスターソードを鞘にかちりと収め、仲間たちの顔ぶれを今一度確認した。
「正面から攻める陽動チームと、裏からこっそり忍び込むチーム。この方法はテッパンだよね」
 ローレットがやってきた依頼のなかでも成功実績の多い作戦である。そのため注意点も分かりやすい。分断したことで戦力が過剰集中すると危険だということや、隠密チームの存在がバレると戦力の偏りが各個撃破される弱点に変わってしまうこと。
 要は陽動チームがどれだけ派手に暴れつつしのげるかと、隠密チームがどれだけこっそり移動できるかがポイントとなるのである。
 『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は胸に手を当て、音階を確かめるように「アーアー」と発していた。
「あ、そうだ。パドラさんは私と一緒に表側の陽動チームに来ませんか? 派手に暴れられますよ」
「いいね」
 クールに言って髪を耳にかけるパドラ。
 こうしてみると冷静なガンマンといった雰囲気だが、それを見ていた『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がスッとゴラぐるみを翳した。
 素早く視線が動くパドラ。
 スッスッと左右に動かすと、パドラの視線がそれを追う。なんか猫か犬みたいだなと思ったが、エクスマリアは手にしたゴラぐるみをパドラに差し出した。
「……ビールの礼、だ。少しなら、吸っていい」
「まあ、興味ないけど。少しだけなら……」
 などと言いながら顔を埋め、そのまま数秒硬直していた。暫くすーはーし続けている。
 どうやらハマったらしい。
「幻想種が攫われたという話は聞いたことがありましたが、まさかまた起こって関わることになるとは。
 僕の知り合いも攫われたことがあると言ってましたし心配です。
 不穏な目はここで潰しておかなくては」
 パドラをよそに『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)がぐっと拳を握り、決意を固めている。
(私としては別に拉致監禁ぐらいは嫌いじゃないけど人を他人が売り買いするのは好みじゃないわね!)
 『炎熱百計』猪市 きゐこ(p3p010262)は本心までは語らず、あえて鏡禍の意見に頷いて見せた。
(まぁどちらにしても悪い事がバレたら手痛いお仕置きは仕方ない事だわ♪ 大義名分がこちらにある事は便利で良いわよね~♪)

●二面作戦
 荷車を押して、サイズが例の食品加工場の前までやってきていた。
 情報通り高いフェンスで覆われ、正面のゲートにも鎖と南京錠ががかけられている。
 鍵開けの能力があれば容易に突破できそうな錠前だが、難点となるのは……とサイズが周囲を観察すれば、アサルトライフルを肩から提げた男が二人ほど門の内側に立っていた。
 片方の男の腕にはびっしりと蛇のタトゥー。もう一方に至っては顔にタトゥーが入っている。彼らはぎろりとサイズを睨んだ。
 サイズは荷台が重いので中に運ぶのを手伝ってほしいと言ってみたが、彼らは顔を見合わせて舌打ちし、そしてそんな予定は知らんとサイズを突っぱねた。
 いや、つっぱねただけならいいのだが……。
「雇われた傭兵かもしれねえ」
「始末しとくか。今更一人殺してもバレやしねえだろ」
 あろうことか銃に手をかけ始めたのである。
 こうなっては仕方ない。サイズは相手が銃撃をしかけるその瞬間を狙って妖精サイズへ変化し回避すると、道具術で攻撃を始めた。
 と同時に物陰から駆け出すパドラ。
「突っ込むよ、援護を」
 パドラは一撃で男の手元を撃ち抜くと、銃を取り落とした相手へと距離を詰める。
 間には錠前のかかったゲートがあるが、事ここに至ればもはやないも同然であった。
「マリアさん!」
「――任せろ」
 エクスマリアはゲートの中央めがけて手を翳すと、ため込んでいた黄金のエネルギーを解放した。
 まるで黄金の蛇が二重螺旋を描くかのように宙を舞い、エネルギーがゲートへとぶつかる。粗末な錠前と鎖など簡単に食いちぎり、その衝撃のままゲートを内側に押し開いてしまう。
 おこった爆発に巻き込まれ、内側にいた男達は身体をくの字にして吹き飛んでいった。
「くそっ! やっぱり傭兵じゃねえか!」
 男が地面に転がった銃を手に取ろうとしたところで、ココロがひもに結んでいた星夜ボンバーをぐるぐると回してその勢いのまま空高くに投げ飛ばす。激しい音と光がまき散らされ、エクスマリアの砲撃と相まって建物内から次々と人を呼び出すに至った。
 どんな者であれ、正面から爆発音がして様子をうかがわないものはない。隠しているのが後ろめたいものであればなおのことだ。
「突入します!」
 ココロは走りながら貝殻型の魔術障壁を展開。建物の窓から射撃が飛んだが、障壁の美しい曲面がそれを弾く。
「いい盾だね。入れてもらえる?」
 パドラがココロの側により、盾の裏から窓に射撃を加える。
「窓からの攻撃が邪魔かな」
「そういうことであれば」
 鏡禍がズッと妖力を纏いながら一歩を踏み出した。
 まるで湖面を歩くかのように波紋を作ったその脚は、不思議と鏡禍を足元から鏡映しにする。
 かと思ったその途端、とぷんと鏡禍が偽りの湖面へと沈み込んだ。
 その様子に窓から再び顔を出した男が困惑する……が、その時には既に鏡禍が後方の鏡から姿を現していた。
「な、どうやって――」
 その問いには答えない。幻覚かもしれないし、何かの術かもしれない。いずれにせよ回答する意味はない。
 鏡禍は鋭いナイフのようなものを手のひらの中に作り出すと、それを放って男の首筋へと命中させた。
 と同時に自らの妖気を手鏡から放出し、建物内の敵の注意を引き始める。
 そのころにはパドラたちは既に建物内へと入り込み、一緒に居たアリアは剣を握りつつも自らの喉に手を当てていた。
「ショータイムだよ、アリア。二階席まで届けて上げて」
「まかせてください!」
 あーあー、と音程と声質を整えると、先ほど叫んだ男の声を完全に真似て叫んだ。
「敵襲だ! 正面からカチコミ……ぐああああ、応援を、全員出てこい!」
 悲痛な叫びを聞き、いよいよ内側で守りを固めようとしていた者まで通路へと飛び出してくる。
 パドラにグータッチを向けられ、アリアは微笑んでそれに応じた。
「あとはしのぐだけ。回復は仲間に任せて、通路を死守」
「了解っ」
 仲間を助けに走ってきたつもりの敵が通路から飛び出すと、アリアは剣の刀身を特殊な道具で叩いた。キィンという不思議な反響がおき、それが波となり力となる。
 虹色の音符が可視化されるほど力をもったその時点で、アリアは剣による突きの動作と共に解き放った。
「ざーんねん、私でしたー♪」
 音の突風は通路に飛び出した男達を巻き込み、錯乱させる。
「敵襲があったのは、ホントだけどね」
 ぺろりと舌を出し、アリアは笑った。

 入り口通路で出てきた敵を凌ぎ続けるイレギュラーズチーム。
 対してヨリョトルの構成員たちは必死で彼女たちに攻撃をしかけていたが……それは裏から侵入するチームへの陽動であった。
 陽動は派手であればあるほどよい。
 きゐこは優れた感覚や、あたりをやけに大量に彷徨っている霊魂たちを利用して裏からの侵入を果たしていた。
「それにしても、すごい量の霊魂だわ……」
 さすがのきゐこも引くくらいいる。その誰もが恨み言を口にし、ヨリョトルの面々が滅びることを望んでいるようだ。おかげで侵入は楽だったのだが、ここまで人の死に関わり恨みを買うというのも……。
 裏からの侵入を担当するきゐこ、そしてヒィロと美咲は全員物質透過をもち、透視や解錠、忍び足といった適切なスキルを活用できていた。
 そのため容易にヨリョトルの地下倉庫へと侵入でき、一人だけ残った敵と相対するに至ったのである。
「貴様、どこから入った。正面から来た連中ではないな」
 訛りのある言葉で話す髭の深い男。彼はショットガンを手にヒィロたちに狙いをつけている。
 対して、ヒィロはどこか露悪的に笑ってみせる。
「あと何匹殺せば、ココにいるゴミを全員始末できるのかなぁ。ねぇ教えて?」
 挑発のようなものだ。聞いて応えるなどとは思っていない。相手が射撃をしかけたそのタイミングで、ヒィロは盾を翳しあえて突進した。
 衝撃を盾ですべてうけ、そして完璧に流してしまう。
 至近距離まで迫ったヒィロがシールドバッシュによって相手を圧迫したその瞬間、完璧なコンビネーションでもって側面から回り込んだ美咲の包丁が男の腕を切り落とす。
「ぐあ!?」
「他に戦力はなし。終わりだね」
 美咲は腕を押さえる男を蹴倒し、その胸に包丁を突き立てた。
 ちらりと見ると、部屋の隅に意識を失った幻想種たちが固めて寝かされていた。
 このとき殺したのがヨリョトルのリーダーであったことは、後から知ったことである。

●マーケットへ出かけよう
 仕事を終えたヒィロと美咲。二人はラサのマーケットを歩いていた。
 他国ならまだ雪の残る季節だというのに、この街はすこし暖かくすらある。空は青く、露店が呼び込む声や人々の話し声で賑やかだ。どこからか香るスパイスと、大きな鉄鍋で炒められるパエリアをエスニックに寄せたような料理が異国情緒をかきたてる。
「ねえ、この香水なんかどうかな」
 美咲は赤い色の瓶を手に取り、ヒィロに翳してみせる。蝶の形をした小瓶の中で香水の液体が揺れる。
「いいかも。試してみて良い?」
 店主に顔を向けると、黙って頷くので手首に一滴だけ垂らしてみる。
 体温でふくらむ花の香りをゆっくりと吸い込み、ヒィロは目を細めた。
 今頃パドラたちは例の酒場で楽しんでいる頃だろうか……。

「あれ以上の情報はなし、か……」
 サイズは酒場に残り、椅子に座ってヨリョトルのアジトを調べたことを思い出していた。
 彼らは幻想種の拉致を行いどこかへと売り払っていたようだが、売る相手の情報を残してはいなかった。相手から情報を残さないよう求められたのか、あるいは彼らの管理がそれだけずさんだったのかはわからない。いずれにせよ、尻尾を掴ませるつもりはないらしい。
 この先どうするか……と考えていると、きゐこの陽気な声がした。
「乾杯ー!」
 ビール瓶を翳すきゐこと、それをカチンと打ち合わせるパドラ。
 二人は瓶をぐいっと煽ると、陽気な音楽がレコードプレイヤーから流れ始めた。
 アリアが気を利かせていい曲を選んでくれたらしい。サングラスをかけた恰幅の良い店主はそれをどこか微笑ましげに眺めている。
「また一緒にお仕事できたらいいわね」
「そうだね」
 並んだ椅子に座るきゐことパドラ。
「ヨゾラだよー、よろしくね!
 パドラさんは初めまして&よろしく!
 バーで打ち上げ!僕も混ざって良いなら嬉しいやったー!」
 そこへ『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が機嫌良く合流する。
 乾杯するヨゾラにパドラも応じた。
「マーケットでも一緒に遊んだりできたら嬉しいな。
 縫いぐるみ…いいよね、可愛い!僕も1体買おうかな、猫の縫い包み。
 そういえば…僕の親友にも縫いぐるみな旅人がいるんだ。
 呼べる機会があったら紹介するね!」
 アリアも隣に座り、パドラの持っている瓶をじーっと見つめていた。
「ねえ、ビールってどんな味?」
「飲んだことないの?」
 こくんと頷くアリア。彼女は二十歳になったばかりだ。パドラはそれならいいかと、自分の瓶をアリアにスッと差し出した。
 そしてチョットだけ飲んでみなとジェスチャーする。
 言われたとおり口をつけ……。
「……ふわふわする~。
 目が回るよ、くらくらするよ~。
 えへへ楽しくなってきちゃった!一番アリア、うたいまーす!
 いええええええい、たーのしーーーーー!」
「酔い回るの早っ」
 一口で? と思ったがアリアはどうやら場酔いしていたらしい。そのまま瓶を手に立ち上がり、ぐびぐびと飲み干す。元々いけるくちだったのだろうか?
 そんな様子を眺めながら、エクスマリアは冷えたジョッキに注がれたビールをちびちびとやっていた。
「酒の肴に、ゴラぐるみを吸う……これが通、だ」
 世界の新常識みたいな者を持ち出すエクスマリアを、興味深げに眺めるパドラ。
 しばらくじっと見つめていたパドラに気付いたのか、エクスマリアがスッとゴラぐるみを差し出す。
「好きなだけ吸って良い、ぞ。仕事の後は格別、だ」
「……」
 黙って受け取り、そして顔を埋めるパドラ。
「なんで煙草吸うみたいにぬいぐるみ吸ってるんだろ……」
 ココロがやっと常識めいたことを言ったが、止めるつもりは特にないらしい。
 テーブルに運ばれてきたソーセージとビールに手を合わせる。
 ひとしきりゴラを吸ったパドラがテーブルへやってきて向かい合う。
「今日はありがと」
「うんっ」
 かちんとビール瓶をあわせ、そして口をつける。
「ねえねえ、パドラさんは動物好き? わたしは狐と狼が好き」
「狼ね……」
 パドラはぐるりと目をまわしてから天を仰ぐジェスチャーをした。すぐにココロはパドラの所属するマガキという傭兵団を連想する。
「そういえば、小さい頃からマガキにいたんだって?」
「その話、僕も興味あります」
 鏡禍がマーケットの買い物から戻ってきたらしく、同じテーブルへとついた。パドラがオススメした香水を買ってきたらしい。
 他の仲間たちも興味深げにパドラを見ている。
 パドラーは『んー』と小さく唸ってからビール瓶をあおり、中身を空にしてからテーブルに置いた。
「小さい頃だった。あんまりよくは覚えてないんだ。家に……私と両親がいて。両親が殺された。私はクローゼットの隙間からそれを見てた」
 あっけらかんというパドラだが、その手には小さな震えがあったのを鏡禍たちは見逃さなかった。
「あとから来たマガキの人等に引き取られて、預けるアテもないまま今に至るって感じかな。幸い、性には合ってたみたい」
 ホルスターから銃を抜いてみせる。大口径の銃だ。女性が扱うには重すぎるほどの。
 これを片手で撃つのだから、相当の腕力があるのだろう。
 鏡禍はそれ以上を尋ねる気にはならなかった。
 両親を殺した犯人はどうなったんですか? なんて。
 だって、パドラの目には深い憎しみの炎が、かすかに燃えていたのがわかったから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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