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シナリオ詳細

<昏き紅血晶>くれなゐに恋う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●蓮っ葉
 たたっと軽快に、小麦色の少女の健やかな足は地を蹴り駆けていく。
「あっ、ごめん!」
 積まれた木箱を飛び越える際、お昼寝をしていた猫に気付かずにフシャーッと怒られた。バザールで干物の小魚でも買って、帰りにあげよう。なんて笑って、少女は速度を緩めること無くゴタゴタとした家々の間を駆けていった。
 向かう先はバザールだ。
 この街で生まれた訳ではない少女は初めて見た時はその鮮やかさに驚いたものだが、既にそこは生活の一部。
「こら、駄目だよ」
 伸びてきた手をパシリと捕まえて、スリをしようとしていた小さな少年の手に「お金はあげられないけれど」と甘いデーツを落とす。目を丸くした少年に少女は桃色の瞳を細めて笑い、人差し指をひとつ立てる。きっと彼には元締めがいるだろうから、見つからないように食べて、と。
 礼も言わずに、少年は駆けていく。それを少女は悪いとは思わない。生きるのに必死なのだから仕方がない。『お嬢様』に拾われずにスラムに行っていたら、少女もああして過ごしていたかもしれない。
「っと、いかなくちゃ!」
 思いを断ち切るように、少女は白い髪を揺らして駆けていく。
 最近巷で流行っている『宝石』。それが手に入ったと知り合いの商人から聞いたのだ。取っておいてくれるとは言っていたけれど、驚くような大金を積まれたら解らない。が、そうなった場合は仕方がない。商人としてそれだけの金銭を提示できなかった自分がまだまだなのだから。
(お嬢様、喜んでくれるといいな)
 少女の全ては喜色に染まっていた。

●祈雨
 ラサ――ネフェルストでは最近、とある宝石が流通していた。
 その宝石は非常に美しく、『紅血晶』と呼ばれる宝石だ。詳しい流通経路は解ってはいないが、最初に持ち込んだ商人は「地下より発掘した」と告げていたらしい。
 流通経路が絞られているのか、入手は困難。しかし、美しいがために幻想の貴族たちを始めとした他国の者たちにも人気で、利を得ようと商人たちは躍起になって入手しようとしていた。
 付加価値(プレミア)がついて市場が賑わうのならば、それでいい。
 しかしその宝石には――『いわく』が付き纏う。

 ――その宝石を手にした者が化け物になり果てる。

 子供だましの噂だ、眉唾だ。お伽噺じゃなかろうに。
 侮る商人は多くいるが、火のないところに煙は立たない。
 危険なものであるならば、ラサ傭兵商会連合が野放しにしておく訳がない。ファレン・アル・パレスト(p3n000188)は妹とともに調査を開始し――そしてその噂が『真実』であることを識った。
 人は化け物に転じ、竜にまでも転じたとされた。其れ等は全て血色の化け物へと変貌して見せたのだ。
 ファレンはすぐに「鉄帝支援の返礼を」とローレットへ協力要請をだした。
 依頼内容は『ラサの市場調査』である。紅血晶と呼ばれる宝石が無辜の民の手に渡りそうならばそれを阻止し、化け物に変じてしまうのを防ぐことだ。
 そんな理由でイレギュラーズたちはラサのバザールへと向かったわけだが――。

「このバクラヴァっていうお菓子美味しい」
「ルゲマートも美味しいよ」
 劉・雨泽(p3n000218)とフラン・ヴィラネル(p3p006816)は、只今絶賛バザールを満喫中! いえ、これも市場調査です。現地のことを知るのは大事なんです! 本当です!!
 物珍しい物が集う夢の都ネフェルストのサンドバザールには、異国の民の知らない菓子とて溢れている。
 雨泽が口にしたバクラヴァという菓子は、フィロと呼ばれる薄いパイ生地を幾層にも重ね、ピスタチオやクルミ、松の実、カシューナッツなどのナッツ類をたっぷりと挟んで焼き上げ、甘いバターシロップをこれでもかと染み込ませた菓子だ。ピスタチオバクラヴァとくるみバクラヴァが人気と聞いたため、雨泽はピスタチオバクラヴァを購入した。
 フランが口にしたルゲマートという菓子は、この地方なら家庭でもよく作られる。この地方の言葉で『一口サイズ』を意味しているとおり、一口サイズに揚げたドーナツ。そこにデーツの甘い蜜や蜂蜜をこれまたたっぷりと掛ける。屋台の揚げたてならば、外はカリッと中はもっちり。けれどもしんなりとするまで蜜に漬け込んだ状態も大層人気だ。
「ひとつ交換しようか」
「ひとつでいいんだ?」
 くすりと笑い合いながら、ふたりは交換し合う。
 因みに、どちらも手で掴むのは止したほうが良い。手が蜜まみれになってしまうからだ。
 ピックで挿した甘味を口にすれば、ふたりの口からはまた「美味しい」の声が溢れた。どちらもとても甘くて美味しく、甲乙つけがたい。
(それにしても、紅い石って……)
 フランにはひとつ、思い当たるものがあった。
 いつの間にか握っていた、奇跡みたいに不思議な薄紅の結晶――『睡恋花』。
 それが現実にも無いかと探していて、流行っている宝石が紅いと聞いてつい気になっていたのだ。
「あっ」
 唐突にフランが声を上げた。
 知った姿を人混みの中に見た――気がしたのだ。
「どうかした?」
「ううん、ごめんね。気のせいだったみたい」
 だってあの子は。フランの知っている子は、ROOの住人だ。
 もしかしたら現実でも会えるかもと思ったことはあった。けれどこの一年、出会うことは無かった。
(気のせい……だよね)
 小麦色の肌も、白い髪も、珍かなものではない。ちょうど思い描いていたから、過敏になってしまったのだろう。
 恥ずかしげに笑ってそっと視線をルゲマートへと戻したフランを見遣り、ROOでは密かに少年探偵を演じている雨泽は人混みへと視線を向けた。
(――似ていた、ね)
 そこには明るく笑う少女の影はなく、ただザワザワとした活気だけが残っていた。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 寒いのでラサに行きます!

●目的
 市場調査をしましょう

●失敗条件
 交渉決裂

●シナリオについて
 バザールを調査――という名目で歩き回って、買い物等をしたりしてバザールを楽しむことができます。折角のバザールなので、楽しみましょう!
 南国フルーツの切り売りや、甘い果実のジュース。肉や魚・野菜をパンに挟んだケバブ、ひよこ豆やそら豆を潰して揚げたファラフェル。鮮やかな絨毯、美しい装飾品等、目を引くものが沢山あります。
 後半、『商人の少女』がとある店から『紅血晶』を購入します。その場面を、少し離れた場所から見て気付く人も居るでしょう。すぐに少女は人混みの中に姿が見えなくなりますが、追いかけて紅血晶を手放させる必要があります。
 化け物に転じる、と言った話をしたとしても少女は眉を顰めます。商人たちの街ラサには詐欺師が多く、あなた方もそういった手口でだまし取ろうとしているように見えることでしょう。
 少女は商人です。交渉しましょう。交渉が決裂すると少女は紅血晶を持ち帰ります。失敗にはなりますが、倒す・騙す、という行為でも回収は可能です。以降の少女からの心象がとても悪くなります。

●商人の少女
 ROOで『イヅナ』と呼ばれた少女に瓜二つな少女。
 きっと『元になった』少女でしょう。名前、生い立ち、性格、全てが違います。当然、ROOのことも知りません。
 少女には『お嬢様』と呼ぶ存在が居ます。最近噂になっているこの宝石を欲しがっており、随分と探していましたがやっと入手が叶ってウキウキしていたところでした。
 話しかけられると「(なんか変な人たちに絡まれた……早く帰ってお嬢様に見せたいのに……)」と笑顔で隠しながら思うことでしょう。お嬢様を大事に思っていおり、驚かせたいから「今日入手できます!」と伝えてはいません。
 それとは別に、少女は『とある絵本』で読んだ石を探しています。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。

●NPC
 劉・雨泽(p3n000218)が同行しています。
 バザールを楽しむ気満々です。
 ラサのお酒を気にしたり、装飾品を気にします。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <昏き紅血晶>くれなゐに恋う完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月14日 20時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)

サポートNPC一覧(1人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ

●サンドバザール巡り
 紅血晶とは一体、どんなものなのだろうか。
 それは、熟れた紅玉かと思いきや柘榴のような美しさに、宵闇のような光をも湛えた美しい宝石だ。
 人々はその美しさに魅了され、今、ラサや各地で流行りだしている。
「……人を化け物にする石なんて、綺麗でもお断りだよ」
 何だか文字の響きからしてもきな臭い。眉を寄せて呟いた『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)に、雨泽は「そうだね」と顎を引きながらピスタチオバクラヴァを勧めてきた。
「『血色で美しい宝石』とも言われているから、血のことは皆連想しているようだね」
 それでも求めてしまうほど美しいのだろう。紅いルビーの方がいいのにと思いながら、ヨゾラはバクラヴァを食んだ。
「あ、おいしい!」
「でしょ。ルーキスも食べてご覧よ」
「ん。いいの? それじゃあ……」
 食べ歩き経験値が低いのだと『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は事前に伝えているから、まずは皆が口にしているものから。
「ルーキスさんが食べるのなら、止まろっか」
「そうですね。足元と口元、両方に気を配るのは大変ですから。……あ、これ美味しいです」
「えっ、どれどれ?」
 あたしは何度か来たことがあるんだよと先導していた『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が気を利かせて立ち止まれば、食べ歩きの漫ろ歩きを楽しんでいた一行は一旦立ち止まる。ルーキスがバクラヴァを口に運ぶのが見遣りながら、『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)はつい今しがた購入したばかりの『ボレッキ』を一口齧って口元へと手を添えた。
 ボレッキは惣菜パンだ。ひき肉やほうれん草、じゃがいもと具沢山で美味しい。
「ボレッキは美味しいですよね」
 一応(管理はほぼ丸投げだが)ラサに領地がある『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)はボレッキを口にしたことがあるのだろう。頷きを返して手元の一口大に切られたセモリナケーキ『レヴァニ』を食んだ。こちらもバクラヴァやルゲマートと同様にこれでもかとシロップが染み込まされていてとても甘い。
「……何ですか、劉さん」
「え。甘い物も普通に食べるんだなぁって」
「これでも年頃の乙女ですよ、私!」
「えっ、雨泽さんって乙女の敵なの!?」
「違う違う、誤解だよ。あっ、なんか僕今すごく皆に奢りたくなってきちゃったなー」
「僕はナテフって言うのを食べてみたいかな」
「俺は肉をガッツリ食べたいぞ」
 当然女性陣だけじゃないよね? とヨゾラが微笑み、『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)はとりあえずあれがいいとケバブを指差した。
「ルーキスさんも一通り挑戦してみようね」
「歩きながらはなかなか難しいが、頑張ろう」
 ルーキスに頷き返しながらも、ルーキスは生真面目にファミリアーでの周囲の確認も怠っていない。そういった性分なのだ。――が、あれもこれもと皆にお裾分けされる度に食べることに忙しくなってしまう。けれどそれも楽しいのも事実。ありがたく受け取り、皆で分け合うのも醍醐味なのだと学んだ。
(……いっぱい食べればハンナさんみたいになれるかなぁ)
 頬をリスのように膨らませながらモグモグと食べるフランの視線は、ハンナへと注がれている。どこが、とは言いません。どこがとは。
「フラン様、喉は乾いておりませんか?」
 見られていることに気が付いたハンナが微笑む。シロップたっぷりの甘いものは美味しいけれど、喉が乾いてしまう。リモナタかチャイかと提案すれば、フランが決めかねたので、ふたりでシェアすることにした。
「装飾品、結構色んな店で扱われているんだね」
 スリにあっていないか定期的に確認しながら、しっかりと食べ物屋さん以外にも視線を向けていたヨゾラが口を開いた。
「そうですね、刃物を扱っている店もありますし……劉さん」
「……何かな」
「今笑いましたよね」
「ワラッテナイヨ」
「皆さん、劉さんが夜ご飯もご馳走してくれるそうですよ!」
 やったーの声が響く中、雨泽は経費でどこまで落とせるのかな、と考えた。
「この焼鳥も美味いな。シシ・トゥクと言うのか」
 ライにはあまり馴染みのないラサは様々なものが新鮮だ。
 肉料理を中心に口にしながら、ちらりと装飾が扱われている店へも視線を向ける。
(俺をこんな格好にしたヤツとは別物だろうが、元に戻る方法の手がかりになるかもしれないしな……)
 何より、犠牲者も出て欲しくはない。
 突然人ではないナニカに変わってしまう混乱と苦しみは、ライは知っているから。
 勿論、イレギュラーズたちは食べ歩きばかりをしている訳では無い。……本当です。
「なあ、紅血晶に関する噂は知らないか?」
 学者の端くれたる『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、普段からよく遺跡関連の商品で世話になっている商人のもとへと顔を出していた。
「チップは弾むよ」
「ああ、あの赤い宝石か」
 噂によると、『地下から発掘された』と言われている。
 しかし、だ。
「その噂自体が嘘だと俺は踏んでいる」
「根拠は?」
「俺の仲間内でも、そんな話は聞かないからだ」
 どこぞの遺跡で発掘されたとしれば、探窟家はこぞって向かうだろう。
 けれどもラサによく出入りしている付き合いのある探窟家からはそんな話を聞かない。となれば――。
「出どころを隠したい後ろ暗いやつが流してるってことだ」
 商人の男はゼフィラを手招き、密やかにそう告げていた。
「これは本物?」
 装飾品の店を覗いていた『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)が足を止めた。
 指差す先には紅色の宝石。それを視認した店主は「ああ」と口を開く。
「兄さんも紅血晶を探しているのかい?」
 最近多いんだよねと口にした店主は宝石を手にして光に翳す。落ちる影は薄紅が強い。紅血晶ではない。
「本物だったらもっと高額なのか?」
「そうだね。一概にいくらとは言えないな」
 欲しがる者が多いせいか、値段は高騰しているらしい。店によると告げた店主にありがとうと返し、サンディは他の店へと爪先を向けた。
 緑の玉石の指輪に、淡いオパールのネックレス。
(あれは珊瑚か)
 商人たちは商魂逞しく、豊穣や海洋とも取引をしているのだろう。
「……これは魔導の材料に使えるのか?」
 黒い蜥蜴がぶら下がっているような如何にも胡散臭そうな老婆の店まで揃っていて、さながらバザールは世界の様々な物が集まった宝箱のよう。
 其れが宝物であるかガラクタであるかは、サンディ自身が見極めねばならないのだ。何せ此処では『騙される方が悪い』のだから。

●黄昏時に
「これが良さそうかな」
「いいもの見つけた?」
 ヨゾラが手を取ったのは、星モチーフのアクセサリー。造形は一緒だが、星部分に嵌めてある硝子の色が違う。それを4つ。自分と親友たちへのお土産だ。
 お腹も満たされたからとイレギュラーズたちはバザール内に散らばり、紅血晶を探しているところだった。雨泽はつい先刻、家族用の土産に悩むルーキスの姿も確認済みだし、フランとハンナがナニカおそろいの装飾を買おうか等と話している姿も見ていた。
 綾姫はと言うと――。
「刃物バカが宝石に……って馬鹿にしてますね!?」
 伝手のある商人の元に宝石の聞き込みに行ったようだが、やはり彼女の刃物好きは有名らしい。雨泽が知ったらまた笑いそうなやり取りをしていた。
 仲間が居ないこと、そして近くに聞き耳を立てていないことを確認し、綾姫は声を落とす。
「……噂は眉唾ではありません。極力触れないことをお勧めしますよ」
 イレギュラーズとして動いていること、そして見つけたら誰にも触られないようにしてローレットかラサ傭兵商会連合に連絡して欲しいと伝え、また宝石の情報集めに向かった。
 ガヤガヤと賑わうサンドバザールは、兎角『多い』。人も、物も、店も。
 足と目と耳で、探し回る他はない。
「気に入ってくれるといいな」
 のんびりとした空気に変化が訪れたのは、ヨゾラが買い物を済ませたその時だった。
「おい」
「あれ、ライ」
 呼ばれて振り返れば猫ほどの大きさのライがふわふわと飛んできていた。
「買っている子供を見つけたぞ」
 その相手はライの年齢からすれば子供で少女。
 小麦色の肌に白い髪を持つ快活そうな少女だった。
 その姿を追いかけていたらフランとハンナに任せ、ライは他の仲間たちへと連絡にきてくれたのだ。大体の位置をヨゾラたちに告げ、ライはまた飛んでいく。他の仲間たちの元へ行き、同じように伝えるために。

「あの!」
「ん?」
 大切そうに何かを抱えた少女が、フランの声に振り返る。
 布でくるんでいるそれは、ライが買うところを見たと言っていた紅血晶だろう。
 桃色の瞳が真っ直ぐにフランへと向けられ、フランは息を飲んだ。
「えっと、あれ、知り合い、でした?」
 少女は首を傾げ、ぼんやりとしてしまったことにフランは慌てた。
「あっ、ごめんなさい。会えないと思っていたお友達によく似ていたから」
「アタシと似た子? それなら……」
 少女は何かを言い掛け、やめる。少しだけ気になったけれど少女は笑顔で隠してしまったから、ハンナもフランも追求はしない。
「私はハンナと申します。こちらはフラン様」
 新緑から、それも同じ里から来たのだと告げると、『早く帰りたいな』の雰囲気を出していた少女がへぇと声を上げた。ふたりの何かに興味を惹かれたらしい。
「ハンナさんにフランさん。アタシはシャファクです。ラサへようこそ」
 商人らしく人好きのする笑みを少女――シャファクが浮かべた。
 どうしようか、とハンナとフランはこっそりと目配せをしあった。いきなり宝石の話を切り出せば、少女じゃなくとも警戒するだろう。
「あのね、よかったら、少し……お話、できない……かな?」
 知っている子と姿が似ているから、どうしても気になっちゃって。
「それに、ちょっとお菓子を買いすぎちゃったから、急いでなければ一緒に食べてくれたら嬉しいな」
 ね? とハンナへと視線を向ければ、「はい」とハンナも微笑んだ。
「あー……お菓子の一番いい時を逃しちゃうのも大変ですもんね。
 ……いいですよ。すごく急いでるって訳ではないので。あちらに少し座れる場所があるので、そちらに行きましょう」
 少女を混じえた三人は、広場らしき場所へと移動していく。
 それを少し離れた場所で見守る、他のイレギュラーズたち。
 まだ紅血晶を出した訳では無いから良いタイミングで合流していこうと相談し、ゼフィラはそれをこっそりとハイテレパスで伝えていた。

「フランとハンナが探している石って、コレのこと?」
 甘味が好きなところもそっくりだ。美味しいお菓子を食べてお互いのことを話ていたら、シャファクの言葉から敬語が取れた。
 シャファクが入手するの大変なんだよ、と包みを解く。
 ――紅血晶だ。
 その目を引く鮮やかな紅は間違いないだろう。
「あの、変なことを言うのだけれど」
「うん?」
「シャファクさんはそれ、どうするの?」
「お嬢様にあげるの」
「シャファク様の大切な人、ですよね?」
「そう。アタシを拾ってくれた恩人で、アタシが働いている商会のお嬢様」
 フランとハンナは視線を合わせた。
「あのね、その石のことで話したいことがあるのだけれど……」
「居た居た、ハンナさん、フランさん」
「ここに居たんだね。……あれ、その石って」
 フランが言葉に悩みながらも口を開こうとした時、『偶然』を装ってヨゾラとサンディが合流した。因みにライはバザール中を飛び回って休憩中で、ゼフィラと綾姫と雨泽はこっそり覗い、ルーキスは知り合いの商人を見掛けたと呼びに行っている。シャファクが商人――それもお嬢様がいる程の大きな商会に所属しているのならば、商人の知り合いは多い可能性が高いからだ。
「初めまして、僕はヨゾラって言います」
「俺の名前はサンディ! サンディ・カルタだ、よろしくな!」
 挨拶は基本。明るく名乗れば、シャファクも応じてくれる。
「おふたりは私たちの仕事仲間です」
 こっそりとハンナがシャファクへ告げれば「そうなんだ」とシャファクは返し……少し「ん?」と眉を顰めた。
「もしかして、この石が欲しいって話をしようとしてます? 駄目ですよ、これはお嬢様にあげるんですから」
「いや、まあ、そうなんだが。俺たちの話を聞いた上で判断してくれていい。ひとまずは話だけでも聞いてくれると助かるな」
「商人の君なら、正しい判断が出来ると思うんだ。どうかな?」
 商談を持ち込まれ、それが利益となるのならば。
 それならば、シャファクも商人として揺れるだろう。
「む。そう、ですね……」
 若干距離を取ったシャファクにフランは少し寂しく思うも、それでもどうやら聞いてくれるらしい。菓子もなくなりかけていたところだったため、さり気なくサンディが追加した。
「その石はね、危険なものなんだよ」
「化け物になったという報告もあります」
「もしかして……石の価値を下げようとしている?」
 シャファクが眉を寄せる。
「そうではなくて……うーん、シャファクさんはいくらくらいならそれを手放せるかな?」
 どうやら他の石ではなくこの石が良いと思っているのを見越し、ヨゾラは借金も覚悟で買い取りを提案してみる。
「値段はバラバラなので難しいです。アタシは知り合いから安く譲って貰ったけれど、それでも何日も探し回ってやっとでしたし……また次の入手があるかどうかもわかりません」
 ご尤もだ、とイレギュラーズたちは思った。流通は定まっておらず――定まっていたとしても困るのだが、『次』がいつになるのか分からない。
「……あたしもね、探している物があるから、難しいのはわかるよ」
「この石ではなく?」
「うん。……『そらとたいようは、毎日いっしょ』」
「っ! 砂漠の睡恋花!」
「あ、知っている?」
「アタシも、探してるから。……でも」
 今回のこれは、『お嬢様』へのプレゼントなのだ。
 睡恋花をくれると言われたとしても、シャファクは悩んでしまう。
 けれども少し、シャファクが悩んでいる。それは交渉の余地があると言うことだ。
 フランが嘘をついているようには見えないし、他の人たちだって真摯に接してくれている。しかも危険なものだと知りながら正当な価格で買い取ると言ってくれているのだ。
(もし本当にこれが危険なものだとしたら……)
 危ないものを『お嬢様』にはあげられない。
 しかし、断じる事のできる材料も無かった。
「――お待たせ。難航してそうだね」
「おや、誰かと思えば」
「確かキャラバンの……?」
「あれ、知り合い?」
 商人の知人――チー・フーリィを連れてきたルーキスが首を傾げる。口利きをとは思っては居たが、互いに顔は知っているようだ。
「大きな商会で働いている子だね、確か――」
「アタシはシャファクです」
 チーの言葉に被せるようにシャファクは名乗り、お姉さんはと向けられる視線にルーキスも名乗る。聞きたいことはあるけれど、それは少女が帰ってからの方が良さそうだ。
「チーさん、紅血晶が危ないというのは本当ですか?」
 返る答えは是だ。
 ついでにアルパレス商会がローレットへと『返礼』を求め、それ故に動いているイレギュラーズたちだとチーが伝えた。
「詐欺師じゃなくて……ローレット。それじゃあ本当に、これは」
「話を聞いてくれる気になったかな」
 サンディの声に、シャファクが頷いた。
 出来るだけシャファクの望みに沿うかたちで引き取るよ、とイレギュラーズたちが告げる。
 シャファクが差し出すのは『大好きなお嬢様が欲していた宝石』。
 対してイレギュラーズたちが差し出すのは、
「情報を。……さっきフランが言っていたの、『砂漠の睡恋花』って言う絵本の一節で、アタシはそこに出てくる石を探しています」
「分かった。それじゃあその情報を積極的に探すようにするし、得たらキミに教えるよ」
 それでいいかとルーキスがシャファクと、イレギュラーズたちへと視線を向ける。異論は返らないから大丈夫だろう。
 そうして紅血晶は、シャファクが購入した金額と、情報を得たら知らせるという約束で取引された。
「あ! アタシ、そろそろ帰らなくちゃ」
 いつの間にか太陽は地平線に近く、空は紅掛空色に染まっている。
 輝く金星に瞳を細めてから、あのねとフランはシャファクへと声をかけた。
「砂漠の睡恋花を、一緒に探しに行こう」
 もし情報が入ったら、一緒に。
 目的が一緒なのだから、いいでしょう?
「それにあたしって結構強いから、貴女のことも守ってあげられるよ!」
「……用心棒は必要だもんね。いいよ、フラン。一緒に探しに行こうね!」
 またねと紅掛空色の下で明るく笑う姿は――ああ、変わらない。
(彼女が現実のイヅナさんだ)
 フランの胸に、確信が広がっていった。

「上手く回収できたな」
 シャファクの姿が見えなくなった頃、ハイテレパスでサポートに回っていたゼフィラと、見守りや人避けに動いていたライと綾姫と雨泽がお疲れ様と労いの声を掛けながら近寄ってきた。
 直接触らないように布に包んだまま、紅血晶は雨泽に手渡される。
 少し包みを開いた雨泽が「確かに」と口にしたことから、本物であることに間違いはないだろう。
 ひとつ回収できたことは大きい。あのままシャファクが持ち帰っていたら、彼女の大切な人の身に不幸が起きていたはずだ。誰かが零した安堵の吐息に、少し場が緩む。
「そういえば、さっきのは」
 ルーキスの言葉に、チーが「ああ」と口開く。
「あの子は、大きな商会に所属している子だよ」
「大きいってどれくらいなのかな?」
 問うてきたヨゾラに、チーはこてりと三角耳を倒す。
 確かな規模は知らない。
 けれど確実に言えるのは、アルパレスト商会と彼女は面識がある。
 少女がお嬢様と呼ぶ存在は、大商会『アルアラク商会』会長の孫娘なのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

美味しくて甘い物いっぱいで、ちょっときな臭い動きもあるラサ! でした。
少女とお嬢様のお話は暫く続いていきますので、興味があったら追ってみてくださいね。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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