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シナリオ詳細

<ジーフリト計画>最新の英雄譚と報恩の蛇<貪る蛇とフォークロア>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 冬化粧に覆いつくされた小さな山がある。
 大寒波吹きすさぶ鉄帝の冬。
 純白の雪が山肌を覆いつくすのは、そこに殆どの樹木が残っていないから。
 チェルノムスと呼ばれるその小さな山は、数ヶ月ほど前にローレットと神話の魔獣『ニーズヘッグ』との決戦が行われた。
 山肌を締め上げ、七巻半した巨大な魔獣の痕跡はその地に合った木々を圧し折っていた。
 その麓にフードとローブに身を包んだ集団が潜んでいた。
「……ベアトリクス隊長、ホントに連中が来ますかねえ」
「――頭があそこまで言い切るんだ。来るだろうさ。
 それに、来なけりゃ来ないで構やしない」
 1人の傭兵がどこかぼんやりとした様子で言えば、それに平然と返すベアトリクスというらしき女。
「――『亡者』の野郎がローレットを選んだ以上、連中はここにくるはずだ。その種も蒔いといたらしいしね」
「まあ、ベアトリクス隊長も言うならそうでしょうや。
 そういえば、頭の言ってたあの話って……本気なんですか?」
「さてね。アタシらは『亡霊』だ。
 ヴァルデマールの旦那が望んだ死地で、死にぞこないの獣が『敗者の拠り所』を作ろうってんだ。
 なら、死にぞこないの命知らず、馬鹿犬の死に様を看取ってやんのも『亡霊』の仕事だ――違うかい?」
「それが隊長の本音ですか……」
「まぁね――その点、テオドシウスの旦那はヴァルデマールの旦那に遠く及ばない。
 あの人の煽り方は上手かった。燻ってる連中に刺激されやすいところを刺激して奮起させる。
 扇動の才能はヴァルデマールの旦那の方が遥かに上だ」
「たしかにそれに関しては否定できませんね……」
 静かに傭兵が結んだ。
「ニーズヘッグと氷狼の残滓を喰らい、ノーザンキングスや北辰連合を敵に回して勢力圏を築く。
 敗者たちによる勝者へのクーデター……漁夫の利を狙うにしたって、無茶って奴だろうに」
 ベアトリクスが誰にも聞き取れぬ小さな声で呟いた事は誰にも聞き取れてなかっただろう。


 鉄帝北東部に存在する城塞都市クラスノグラード。
 そこにあるラダの商会、アイトワラスの鉄帝支部。
 そこはローレットの支部のようにも使われているのだが――そこへ客人があった。
「やあ、皆。こんにちは、元気してた?」
 姿を見せた女はからりと笑ってイレギュラーズの方に手を振ってみせる。
「イルザ。あんた、まだ鉄帝にいたのか?」
「あはは。最初は帰るつもりだったんだけどね。
 知り合いが捕まったり色々あって帰るタイミング逃しちゃってさ。
 近くまで来たからついでに寄ってみたんだ」
 ラダ・ジグリ(p3p000271)が近づいて問えば、イルザは笑ってからひとつウインクしてみせる。
「ええっと、それで……そっちの彼がニーズ=ニッド君かな?」
「もぐもぐ……んっ、僕に何か?」
 ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)のギフトで用意されたマカロンを美味しそうに頬張るニーズ=ニッドが首を傾げる。
「知ってるの?」
 レイリー=シュタイン(p3p007270)が警戒したようにそういうと。
「うん。ここに来る前に北辰連合に行った時に情報を見たよ。
 ――なるほど、たしかにニーズヘッグの面影があるみたいだね?」
「イルザ殿、彼がどういう存在か知らないか?」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の問いかけにイルザが肩を竦めて否定する。
「僕は君達より持ってる情報が少ないから確実な事は何も言えないよ」
「……やはりこいつが生まれたって場所に行くか? 行くなら私も護衛するが」
「それなら、ついでにチェルノムス山の天衝種も退治してくるのがいいんじゃないかな?
 今あの山、ヘイトスネークって炎で出来た蛇がうじゃうじゃいるし、どこにも属してない鉄帝軍もいるし」
 そういう天之空・ミーナ(p3p005003)にイルザが言葉を続ける。
「――なんだって?」
「ほら、あの戦いで君らと一緒に戦った鉄帝軍がいたでしょ?
 そこの連中が駐留軍になって封印を封鎖してるんだ。
 万が一にでも新皇帝派に封印が利用されないためにね」
 イルザはなんでもなさそうにそう言って笑う。
「あぁ、そういえば、皆は知ってる? クラスノグラード近辺では新しい御伽噺があるんだ」
「御伽噺……でして?」
「そう、『神話の時代から蘇った大蛇を英雄たちが打倒して平和を取り戻す御伽噺』――君達が作り出した御伽噺がね」
「そんな話、聞いたことないわ……」
 レイリーが思わず呟けば、イルザは悪戯に成功したかのように楽しそうに笑う。
「それはまぁ、そうだろうね。
 君達は自分達が作った御伽噺を知ってるかって聞くことはないだろうし、
 聞かれた相手も目の前の相手に関する御伽噺を言うのは気が引けるでしょ。
 ミーハーっぽいし、何より君達が情報を聞く相手ってなったら――殆どの相手は『当事者でもある』だろうから」
「……ベロゴルスクやユージヌイの人達にとっても当事者だから、ってことね」
「そういうこと。ふふ、『君の描いた英雄譚』だね」
 朗らかな笑みのままにイルザはそう言い結んだかと思えば、直ぐに首を傾げる。
「……うーん、どうせ暇だし、もし行くなら僕もついて行かせてもらっていいかな?」
 そう言って再び君達に笑いかける。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】ニーズ=ニッドとの交流を続ける。
【2】ヘイトスネークの撃破。
【3】亡霊の撃破

●リプレイの流れ
 皆さんはリプレイ当初、基本的に【A】にいます。
 【A】でニーズ=ニッドと交流したい事柄があれば行うことができます。
 何も無ければ【B】に移動します。

●フィールドデータ
【A】『城塞都市』クラスノグラード
 赤い城壁が特徴的な鉄帝の城塞都市。
 軍事拠点でもありますが、観光地でもあります。
 多数の飲食店やお土産屋、衣料品店などがあります。

<エウロスの進撃>では鉄帝地下鉄網の駅が存在していることが判明しました。
<クリスタル・ヴァイス>では地下で敵の大将首と思しきテオドシウスと抗争中です。

【B】チェルノムス山。
 鉄帝国北東部に存在する小さいながらもちゃんとした山です。
 フォークロアシリーズの最終決戦となった魔獣ニーズヘッグ戦の舞台となった場所。
 ニーズヘッグが巻き付いていた痕跡や戦闘痕、辺りには吐き出された炎の焼け痕が残っています。
 近くには集落の類はありませんが、遺跡を封鎖中の鉄帝軍駐屯地が存在しています。

●エネミーデータ
・ヘイトスネーク×???
 炎で出来た3m級の蛇型魔獣、『魔獣ニーズヘッグ』の逆恨みに近い怒りの残滓です。
 イレギュラーズ陣営へ向け、その憎悪を籠めて攻撃してきます。
 全ての攻撃が【火炎】系列のBSを持ちます。

・『敗残の将』ベアトリクス
 『亡霊』達の部隊長クラスの女性。
 ハイエスタ系の武人、傭兵と言うよりもノーザンキングスに属していたハイエスタの一部族であると思われます。
 【痺れ】系列、【乱れ】系列、【追撃】を用います。

・『亡霊』×10
 自分たちを亡霊と名乗るラサの傭兵。
 比較的軽装備ですが彼らもラサの傭兵です。甘く見ると痛い目を見るかもしれません。
 自称の理由は自分達の首魁を討たれて残党となった時点で死んだようなものだからとのこと。
 ニーズ=ニッドがここに戻ってくると踏んでテオドシウスが遺しておいた傭兵達。

●NPCデータ
・『壊穿の黒鎗』イルザ
 依頼人でもある鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。
 フォークロアシリーズ終了後も鉄帝に居残っていました。

・駐留軍×50
 チェルノムス遺跡を封鎖中の駐留軍です。
 総勢で50人ほど。新皇帝派でも六大派閥でもない宙に浮いた戦力です。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ジーフリト計画>最新の英雄譚と報恩の蛇<貪る蛇とフォークロア>完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ


 暖炉の熱がじわじわと身体を温めている。
 空気中には用意されている多数のお菓子の良い匂いが漂っていた。
「先日ぶりだなニーズ殿、これのハーブバタークッキーは土産だ。
 チョコバーと迷ったけど、甘くない系の菓子もいいものだと俺は思う」
 個包装されたハーブバタークッキーを手渡しながら『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が言えば。
「こういう時はありがとう……だったっけ。早速1ついいかな……?」
「あぁ、構わない。……甘いものと塩気のあるもの、交互に食べると止まらなくなるのが難だが」
 そう忠告するアーマデルの目の前で、口に入れたニーズ=ニッドが1つめを瞬く間に咀嚼して呑み込んでいく。
「美味しい……! これの後の甘いものもいいんだっけ?」
 アーマデルの言葉が聞こえていたらしいニーズ=ニッドがカップケーキらしき物を口に運んで目を輝かせる。
「本当にいくらででも食べれそうだ!」
「それは良かった。普段は何をして過ごしているのだろう?」
「普段……? うぅん……普段はこことかで過ごしてるけど……
 外はすごく寒いし、町の人を怯えさせたりしたくないし」
 そう言ってニーズ=ニッドはまたお菓子を選ぼうと視線を彷徨わせ始める。
 そこへ『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)が持ってきたのは湯気立つホットミルクティーとそれに合わせた美味しそうなお菓子たち。
「温かい! ありがとう! 早速貰って良いかな?」
 目を輝かせたニーズ=ニッドに頷いてやれば、くぴっと一口飲んだ後、思わずぶるると震える。
「ち、違う。美味しいんだけど、熱くて……」
「あぁ、そういうことか。無理は良くないぞ」
「うぅん、少しびっくりしただけだから、大丈夫!」
 そう言ってもう一度口に入れ、ほぅと一息つく。
 偽の姿、偽の影に引きずられた被害者。
 それがリースヒースから見たニーズ=ニッドである。
 もちろん、そこには死者を模して生まれたリースヒースの感傷もあったが。
「……御身が御身として生きることができる平穏な地を探してやりたいものだ」
 そう呟けばニーズ=ニッドが顔を上げる。
(私は霊と語らうもの。しかし、支配などしない)
 それは醜い行ないだとリースヒースは思う。
 故に、それを為して挙句の果てに多くの霊をただの怨にまで貶めるテオドシウスは許せない相手であった。
「どう、元気にしてた? 今の生活は大丈夫?」
「うん、向こうにいた頃よりもかなり余裕があるよ。
 向こうにいた頃はこんなふうに食べたりできなかったし」
 1つのお菓子を食べ終えたばかりのニーズ=ニッドに声をかけたのは『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)である。
「何か困ったことがあったら何でも言いなさいね」
「うん。今のところは何もない……と思う」
「それは良かった。……そうだ、後で私の大切な人を紹介するわね」
「大切な人……?」
 その単語にニーズ=ニッドは首を傾げるばかり。
「お前さんがニーズ=ニッドっていうのか。俺は放浪者だ。まあぼちぼちに宜しくな」
 そんな2人に続けるようにニーズ=ニッドに声をかけたのは『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)である。
「放浪者……?」
 その言葉に顔を上げたニーズ=ニッドは首を傾げる。
「まぁ、いろんなところを旅してると思ってくれればいい」
「旅……」
 ニーズ=ニッドはきょとんと首を傾げる。
「そうだな、なら軽く1つ話してやるか。
 あれはそう、ここから東に行くと氷の崖があってだな……」
 バクルドが話し出せば、不思議そうに首を傾げていたニーズ=ニッドはやがて目を輝かせてその話に聞き入っていくものだ。
「ふふ、報告書で見てたけど、じかに見ると不思議な感じだね」
 その声に『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)が振り返れば、面白いものでも見るようにイルザが笑っていた。
「……やはりニーズの事は気になるか。紹介せねばな。
 ただひとまず彼自身は敵ではない。見ての通りの子どもだよ」
「うん、そうみたいだね。見た目は青年ぐらいの印象を受けるけど……」
 ラダの言葉に頷いてイルザが体勢を組み替えてこちらを見上げてきた。
「まぁ、子供みたいな顔して僕らより年上のハーモニアとかもいるし、気にしたってしょうがないかな?」
 そう言って笑うイルザへ、ラダも同意してニーズ=ニッドの方へ歩み寄った。
「もう一個もう一個とつまんじゃう気持ちはよーく分かるのですよー
 でも! 一旦はここまででして!」
 新しいお菓子に手を伸ばそうとしていたニーズ=ニッドを『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が制止する。
「そんな……!」
「山に行くまではまだ時間があるのです! そしてここには色んなお店があるのでして!
 いつでも食べれるもので先にお腹いっぱいになっちゃったら、
 何だかとってももったいない気がするのですよ……!!!」
 まるで昨日のことのように語るルシアの経験談は端正な顔に驚愕を乗せるニーズ=ニッドに鋭く届いたらしい。
「そうだな。山用のコートや靴も買っておいたほうがいいか……」
 それに頷くようにラダも言えば。
「いつでも……もったいない……それなら、今は我慢……」
 言いながらも視線が取り上げられたお菓子にくぎ付けのニーズ=ニッドを振り切らせるためにルシアはそっとギフトをしまっておいた。
「我慢……」
 心なしかしょんぼりした声が聞こえてきた。
「わーはっはっは! ヘルちゃんはヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム! 君がニーズ君なのだ?」
 声をかけた『凶狼』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)に、しょんぼりしていたニーズ=ニッドが顔を上げる。
 少しばかり驚いた様子のニーズ=ニッドはヘルミーネの自己紹介に答えるように頷いて自分の名前を名乗ってくる。
(ヘルちゃん、あまり今回の一連の騒動と関係ねーけど、個人的には気になってたのだ、ニーズヘッグの事)
 それを聞きながら、ヘルミーネは胸の内に思う。
 それは故郷に封じられし存在のことだ。邪悪なるかの存在にも似た存在。
(まあ、ニーズヘッグが倒された今、どーでもいいけど)
 ひとまずその思いを振り払って、にぱっと笑えば、後光が輝いた。
「ヘルちゃん、興味津々なのだ! 仲良くして欲しいからよろしくなのだ!」
 そのままハグしながら言えば、ニーズ=ニッドはまだ驚いた様子を見せるばかり。
「知り合いの伝手で美味しい料理の店を見つけたのだ! そこにも行くのだ!」
「美味しい料理……!」
 ヘルミーネが言えば、その単語へ途端にニーズ=ニッドが目を輝かせるではないか。
「そうだ、少しばかりドライブもせぬか?」
 続けてリースヒースはニーズ=ニッドへと声をかけていた。
「ドライブ……?」
「空からこの地を見下ろすのも、面白いものだ」
 不思議そうに首を傾げるニーズ=ニッドに頷いてそう言えば、彼が目を輝かせる。


 町に出たイレギュラーズ達はレイリーが事前にリサーチしていた店からリストアップした店舗へと足を運んでいた。
「街中とはいえ、何が起こるかわからないからな。警戒はしておいて損はないだろ……」
 希望の剣を何時でも抜けるようにしつつ『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)がいうその隣。
「紹介するわ、彼女はミーナ。さっき言った私の大切な人」
 レイリーがそう紹介すれば。
「ってお前はいきなり何を!? いや、事実だけどよ……
 少し気恥ずかしいが……まあ、うん、そういう事だよ」
「そういうこと……?」
 頬をぽりぽりと掻いて気恥ずかしそうに言うミーナに、ニーズ=ニッドは首を傾げる。
 そういう方面の機微を感じ取る感性は未発達のようだ。
「よく分からないけど……うん、温かい感じがする……」
 そう言ってニーズ=ニッドは頷くのだ。
「ふふ、それじゃあ、次は温かいものでも食べに行きましょうか」
「……美味しい物なら食べたい!」
 レイリーが言うのに合わせ、ニーズ=ニッドは嬉しそうに目を輝かせるではないか。
「この近くならヘルちゃんの知り合いの店が近いのだ! こっちなのだ!」
 そういうヘルミーネに引っ張られるようにして、一同が歩き出す。
「虫歯に気をつけろよ?」
 多くの店舗に目を輝かせていたニーズ=ニッドにタイミングを見てラダは声をかけた。
「虫歯……?」
 それまで目を輝かせていたニーズ=ニッドはラダを見て首を傾げる。
「あぁ、治療するのも痛いからな」
「……分かった」
 ラダの言葉に沈黙の後にこくりと頷いた。


「チェルノムスの戦いは終わったが、残党が残っている……
 故に、蛇の件も手伝う故、共同戦線と行かぬか」
 黒鎧の姿になったリースヒースが問えば、責任者らしい人物が少しばかり渋った様子を見せる。
「こんにちはーなのですよ!」
 それに続けてルシアは部隊の下へと姿を見せる。
「『開幕を告げる星』の話、分かるのでして?」
「ええ、あの星の輝きは我々にとっても心強い光でした」
 それにこくりと責任者が頷く。
「なに、別に全員でなくてもいいさ。調べたいことがあるから、その間だけ共闘して欲しい。
 ここにずっといたのなら、蛇達の対処もお手のものだろ?」
 そう続けたのはミーナだ。
「たしかに蛇の対処の経験は嫌になるほど経験しています。
 30……いえ、20人であれば随行させて構わないでしょう」
「あぁ、十分だ」
 その答えにミーナが頷けば、責任者は兵に向けて指示を始めた。


 紅蓮が戦場を巻く。
 怨嗟の炎によって構成された蛇たちが、戦場へといくつも姿を見せる。
「ハッ! 蛇風情が負けた癖にみみっちく逆恨みしてるのが笑えるのだ、ざーこ♡ざーこ♡」
 ヘイトスネークへと煽りながら戦場を駆け抜けたのはヘルミーネだ。
 凄まじい反応速度を以って駆け抜け、全てを斬り裂き、喰らいつくしていく。
「わーはっはっは! ヘルちゃんこそが悪狼! フローズヴィニトルよりもな!」
 爆ぜるように四散するヘイトスネークを呑むように、ヘルミーネは戦場を走り続ける。
「俺の守神は蛇神でな、混沌で縁を得た神もまた蛇神。
 蛇には少々思う処はある……残滓、或いは未練。そのような類のものであれば尚更だ。
 俺の『英霊残響』も志半ばにして斃れた英霊の未練だからな。
 寄り添い、技として振るって磨き上げることで昇華する、それが『一翼の蛇』の使徒の努めだろう」
 すらりと愛剣を振り上げたアーマデルは一気に剣を振り払った。
 鮮やかに響く残響、閃く赤。
 触れたヘイトスネークが爆ぜて霧散していく。
「俺はここだぞ! お前さんらのでかいのを喰った『蛇喰らい』は俺だ」
 そう高らかに告げるはバグルド。
 刹那、ヘイトスネークたちが一斉にバグルドの方へ顔を上げる。
(俺はあの場でニーズヘッグを狩って食う以外さほど考えちゃいなかったがこいつらは駄目だな……)
 何せ眼前に渦巻く蛇たちは炎で出来ている。
 蛇としての肉の無い、ただの炎の塊でしかない。燃えてる以前に『肉がない』物は食えやしない。
「全く、また食いでがありそうだと思ったんだが……」
 肉薄してきた一匹を殴り飛ばしながらそう独り言ちた。
「遠距離攻撃ができる者は無理に前に出る必要はないからな!
 回復ができる者は、悪いが怪我人の助けを優先してくれ!」
 ミーナがそう指示を与える中で、駐留軍の銃撃が戦場を走り抜ける。
 戦況把握に務めつつ、ミーナは肉薄したヘイトスネークの1匹めがけて希望の剣を振り下ろす。
 美しい軌跡を引いて打ち下ろされた斬撃がヘイトスネークを真っ二つに切り開いて炎の塊が霧散する。


「テオドシウスの旦那の言ってた通りだな」
 そんな声が聞こえてきたのは戦闘が始まって少しした頃の事だ。
「イルザ殿、ニーズ殿の護衛をお願い!」
 レイリーは声をあげた。
「ニーズは下がっていろ。戦うはお前次第だが、まずは身を守れ!」
 続けるように声をあげたラダはそのまま銃口を声の方へ向ける。
「おっけー。任されるよ! じゃあ、下がろっか、ニーズ君」
 イルザの返答はからりとしたものだ。
「ふ、素早い対応だ。流石にそれぐらいの予想はついてるか。
 私の名はベアトリクス。こいつらの隊長を務めてるもんだ。
 あんたら相手に油断はしない、行くぞ!」
 クレイモアを構えたハイエスタ系を思わせる女、ベアトリクスがそう言って笑い、一気に突っ込んでくる。
 合わせ、ローブとフードに身を包んだ亡霊たちが一斉に姿を見せた。
「無視できると思うなよ!」
 刹那、ラダは銃弾をばら撒いた。
 放たれた無数の弾丸は亡霊達を撃ち抜くことはないが、彼らの意識を絡めとるには十分すぎる。
「駐留軍の方々がある程度は抑えてくれているのですよ!
 だからルシアも頑張らなきゃでして!」
 ルシアは一気に戦場へと突出していく。
「私の名はレイリー=シュタイン!そこのお姉さん、私がお相手するわよ!」
「――あぁ、その姿、見覚えがある。あの戦場でもその威風はよく見た! 良いだろう、受けて立つ!」
 笑ったベアトリクスの剣が振り抜かれた。
 強烈な斬撃を盾で受け流しながら、レイリーは笑って見せる。
「こんな攻撃で私が堪えると思ってるの?」
 重たい一撃を振り下ろすベアトリクスを挑発すれば、弧を描くような軌跡の連撃がレイリーの堅牢なる守りを僅かに軋ませる。
「待ってたわよ、ミーナ!」
 同時、希望の剣がベアトリクスの背後を取る。
「待たせたな、レイリー!」
 そんな静かな声と共にミーナが剣を払えば、美しく切り開く斬撃の軌跡が内側からベアトリクスを蝕んだ。
「――ッぁ!? やってくれるな!」
「信じてたわ、愛してる」
 レイリーは小さく笑って見せた。
「せっかく生き延びたくせして死に損なったと言わんばかりの亡霊達。
 生きたいのか死にたいのかはっきりしたらどうだ!」
 肉薄するラダは白い銃床を振るいぬいてベアトリクス目掛けて叩きつける。
「そう言われちゃあ敵わないな! こっちも死ぬ気でいたんだがね!」
 叩きつけられた連撃に後退するベアトリクスが笑いながら答える声を聞きながら、ラダはもう一度連撃を叩き込んでいく。
「頭を失っただけで自分までも『死にぞこない』認定してる人に、
 本物の『死にぞこないの命知らず』とは何なのかを叩き込んでやるのですよ!」
 ルシアは銃口をベアトリクスに向け、引き金を弾いた。
 直線を薙ぐようにして迸る魔神の魔弾がベアトリクスを貫き、女が倒れ伏す。
「……は、もう終わりか」
 それでもどこか憑き物が取れたように女が笑う。
「なぁ、あんたら。最期に頼まれてくれ」
「……なんでして」
「テオドシウスの旦那のことだ。
 アタシらは、あのガキの若すぎる夢に、死に損ないの……敗者なりの夢を見た。
 ――あんたらが勝つんでもいい。あの馬鹿なガキに、精いっぱいをみせてやってくれ」
 馬鹿な弟を慈しむように笑い、事切れた。


 粗方のヘイトスネークを屠り、戦場を見て回ったイレギュラーズは鉄帝軍の駐留地に滞在させてもらっていた。
「どうだ、何か感じることはあるか?」
 ラダがニーズ=ニッドに問いかける。
「……それは」
「大丈夫よ、私がいるから。落ち着いて」
 不安そうにあるいは気まずそうに呟いたニーズ=ニッドにレイリーはそう言って。
「あぁ。何も無くとも気にするな」
 続けてラダも肯定してやれば。
「……何もないわけじゃないんだ。すごく、懐かしいんだ。
 君達とニーズヘッグ? だっけが戦ってる、そんな風景は思い浮かぶんだ。
 でも、それだけというか……」
「懐かしいけど、ね……」
 不思議な感覚を覚えているらしいニーズ=ニッドの言葉を聞いたイルザが呟いた。
「……主観ならニーズヘッグの生まれ変わりみたいなものなのかもしれないけど。
 あの戦いの事を全て『客観的に見下ろして懐かしんでる』って――変な話だ」
 そう言うイルザはどこか揶揄うような含みがあり、同時に何かを確信しているものだ。
「つまり、何らかの要素が『新しく芽吹いた御伽噺』と結びついて生まれた精霊種。
 それが彼の正体なんじゃないかな? ってことだよ。
 もちろん、これを正解と断じる証拠はないけどね」
 結び彼女は微笑する。
「もしそうなら、『ニーズヘッグ』も彼の構成要素なわけだ。
 そこばかりが成長すればたしかにニーズヘッグの再誕だってできたかもね」
「なるほどなぁ……蛇は輪を描くと輪廻転生だとかなんとかいうが、蛇から外れりゃまあ人間ってこったろ。
 そんでこいつが蛇じゃないんだったら、何の心配するこたぁねえ、だろ?」
 重ねてバグルドが言えばイルザが頷く。
「確かにね。今のあの子を見るになんの心配もいらなさそうだし、何の問題もない。
 ……さてと、用事も終わったことだし、帰ろっか」
 締めくくったイルザはぐぐっと身体を伸ばして立ち上がる。
「僕はこのままラサに帰るよ。紅血晶だっけ? 流通してるんだよね?
 タイミング逃してたけど、今なら帰れそうだからこのまま鉄帝国を突っ切って帰るよ
 ……なんだか、嫌な予感がするんだよね。そんなわけで、会えたらまた、元気でね!」
 それだけ言うとイルザは武器を片手に走り出す。
 そのまま鉄帝軍に何やら交渉すると、予備と思しき馬を貰って走り抜けていった。

成否

成功

MVP

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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