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シナリオ詳細

<クリスタル・ヴァイス>黒き獣、氷下にて憤激す

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ボーデクトンに獣は走る
「チカの氷狼、かぁ」
 そういうのはイグナート・エゴロヴィチ・レスキン (p3p002377)だ。イグナートがいるのは、ボーデクトン地下に存在する『地下鉄駅』と呼ばれる中継拠点だった。どうもここから、帝都および南部、そして『さらなる地下通路』に通じるこの地下鉄駅は、先ごろ、帝政派の勇者たちが制圧し、兵士たちによる調査が行われたところだった。
 また、他の派閥との協同により得られた情報によれば、地下にはフローズヴィトニルを封印し、散逸させた欠片が存在するのだということが判明する。その情報を頼りに、帝政派兵士たちは、地下への探索を続けていた。もちろん、それに伴い、イレギュラーズたちも地下探索を続けていたことは事実だ。
 そしてその結果、『地下鉄駅』より先に未知の空間が発見された――との報告が、先ごろ上がった。
 帝政派はイレギュラーズたちに調査を依頼。同時に、バックアップとして、地下鉄駅へのイレギュラーズたちの待機を依頼していた。
「まるで、そのイキヅカイが聞こえるみたいだね。この寒さは……」
「氷狼の吐息、ですか」
 オリーブ・ローレル(p3p004352)が嘆息する。
「おとぎ話の怪物が相手とは。自分はいち冒険者にすぎませんから、なんとも、分不相応な相手ですね」
「君ほど高名な冒険者ならば、分不相応とはいいがたいだろうね」
 恋屍・愛無(p3p007296)が静かに言った。
「むしろ、適しているのでは? 化物の僕よりもね。
 おとぎ話の怪物などは、人間の勇者にやっつけられて、めでたしめでたしと行くものだろう?」
「自分は勇者ではありませんよ」
 苦笑するオリーブ。謙遜であるとはいえた。オリーブの実力は、並大抵とはいえまい。だが、オリーブ一人でその怪物を倒せるわけでもないのは事実だ。力を合わせなければなるまい。それはここにいる全員が、理解していたことであり、バックアップという役目を快く引き受けた理由でもある。
「なんにしても、これで冬もひと段落着くといいんだけれど……」
 ふぅ、とスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がため息をついた。今年の冬は異常だった。その異常さが、地下のフローズヴィトニルのせいなのだとするならば、それを何とかすることが、ひいては鉄帝の国民のためになる。
 おとぎ話の怪物は、実際に人々を脅かしていた――地上で行われる悲劇が、すべてフローズヴィトニルのせいではないにしても。その発端となったことは、事実だ。だから、この戦いには、力を注がなければならない。
「スティアさん」
 と、兵士が、スティアたちに声をかけた。
「皆さんも。お疲れ様です。豆茶(コーヒー)を用意していますので、どうぞ。ミルクと砂糖もありますので、自由に使ってください」
「ありがとう」
 スティアがほほ笑んで、コーヒーの入った保温ポットを受け取った。
「君は、ナッツ君だったよね。軍の新人さんだった」
「覚えてくださるとは……光栄です!」
 スティアがそらんじて見せたのは、帝政派の一兵士の名だ。共に作戦に参加したことはないが、日常でよく見かける人たちのことは、なんとなく覚えている。ナッツもその一人だ。
「皆さんは、まさに英雄ですから。自分などは、めにもはいらぬものかと……」
「自分たちは、そこまで大したものではありませんよ」
 オリーブが苦笑する。
「あなたと、同じ。あくまで一人の人間です。であれば、礼儀を持つのは当然でしょう。
 こうして、コーヒーを入れてくれる心遣いにも感謝しています」
「そうだね!」
 イグナートが笑った。
「帝政派で一緒に戦うナカマたちなんだから。そんなに気を張らなくてもいいよ!」
 こうしたイレギュラーズたちの細やかな気さくさも、あるいは求心力が高い所以だろうか。なんにしても、帝政派の兵士たちの士気は高い。それは一般市民たちにも言えることで、それはイレギュラーズたちのこれまでの活動の成果ともいえる。
「何かあったら言ってください。すぐに対応します」
「ありがとう。君も休むといい」
 愛無がそういうのへ、ナッツは笑った。
「ええ、これの後に休憩に入ります。
 ……でも、おかしいな。そろそろ交代要員が声をかけてくれるはずなんですけど――」
 彼がそうつぶやいた刹那。
「ナッツ君!! 逃げて!」
 スティアが叫んだ。その手を伸ばす。瞬間! まるで黒い暴風のような何かが、ナッツの体をぼろきれの様に吹き飛ばしていた。
 ナッツが、それが『何者かからの手痛い攻撃を受けたのだ』と理解した瞬間、それと同時に彼の意識は闇に閉ざされた。彼の体が、冗談のように吹っ飛ばされて、壁にたたきつけられる。そのまま動かなくなった。
「――温い」
 それが言う。
 獣である。
 黒き、獣だ。
「惰弱なるものに生きる価値はない」
 それは、つまらなさそうに吐き捨てた。
「……あなたの顔、見たことがあります」
 オリーブが言った。
「鉄帝軍人、『黒狻猊』バトゥ・ザッハザーク――ええ、鉄帝に生きて、知らぬ者はいないでしょう」
「うれしいぞ、オリーブ・ローレル」
 にぃ、とバトゥが笑んだ。
「お前のごとき実力者が、ここにいることがな」
「スティア君、ナッツ君は」
 愛無が言うのへ、スティアが頭を振った。
「わからない……助けに行きたいけど――」
 それを、目の前の獣は許してはくれまい。
「ソモソモ、鉄帝軍人ってことは、新皇帝派ってことだよね?
 ってことは、ここにはオレたちのボウガイに来たってことかな?」
 イグナートが言う。
「それでいい」
 バトゥがうなづいた。
「レフの机上の算段に付き合うのも気に食わなかったが――こうして、お前たちのような強者がここにいるというのなら話は別だ。
 フローズヴィトニルの欠片を奪う作戦の後押し――下らん仕事を押し付けられたと思っていたが、ああ、お前たちのようなものがいるのならば」
 バトゥが吠えた! それは、氷狼とは違う、まさに恐ろしき獣の咆哮であった! 同時に、イレギュラーズたちは理解する。これだけの咆哮に、『この場に存在するはずの、帝政派の兵士たちが確認に現れない』。それはつまり――。
「雑魚はすべて散らした」
 そういう、ことなのだ。
「メインディッシュと行こうか。お前たち力、ここで味合わせてもらう――」
「来るよ」
 イグナートが言った。
「構えて!」
 その言葉に、イレギュラーズたちはいっせいに構える!
 ここでバトゥを止めなければ、彼に襲われたであろう帝政派の兵士たちを救出することもかなわない! それに、万が一敗北し、彼を自由にさせた場合、おそらくフローズヴィトニルの欠片の調査を行うチームへも、多大な影響が発生するだろう!
 イレギュラーズたちは意を決すると、突如現れた獣へと、相対することとなる――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 獣の襲撃。

●成功条件
 バトゥ・ザッハザークの撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●状況
 フローズヴィトニル調査チームのバックアップと拠点確保のため、ボーデクトン地下『地下鉄駅』にて待機を行っていた皆さん。
 しかしそこに、突如として新皇帝派の敵軍人、『バトゥ・ザッハザーク』が現れます。
 バトゥの目的は、フローズヴィトニルの欠片を奪取する新皇帝派チームの援護のため。イレギュラーズ側の拠点を粉砕し、同時にバックアップである皆さんを無力化するつもりのようです。
 彼をこれ以上自由にしてはおけません。この場で撃破、最低でも撃退し、後顧の憂いを断ってください。
 作戦エリアは、『地下鉄駅』。あたりには光源が十分にあり、また戦闘ペナルティなどは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 『黒狻猊』バトゥ・ザッハザーク
  非常に強力な新皇帝派の軍人。一騎当千級の戦闘能力を誇る、『歩く大災害』です。
  戦闘方法はひどくシンプルです。近づいて殴る。それだけ。ですが、それを極限まで追求したゆえに、一撃は必殺級。振るう刃は、一撃で暴風を巻き起こし周囲を薙ぎ払い、盾はオリハルコンもかくや、という勢いで強烈に攻撃を受け止めます。動きも素早く、1ターンに複数回の行動は確実に行ってくるでしょう。
  しいて言うならば、命中や回避がやや低め。同時にFBの値も高めです。思わぬところで色々とミスってくれるところが救いになります。また、特殊抵抗の値もあまり高くないため、BSをしっかり重ねてやると弱体化を狙えるかもしれません。
  ちなみに、強敵に対して強く惹かれる傾向があります。強さをアピールできれば、攻撃をうまく引き付けられるかもしれません。

●特記事項
 本シナリオの成否によって、『<クリスタル・ヴァイス>地維下氷狼すなわち怒り』に敵増援が発生する可能性があります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <クリスタル・ヴァイス>黒き獣、氷下にて憤激す完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年02月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
恋屍・愛無(p3p007296)
神喰い

リプレイ

●氷下
 獣だ。
 獣がいる。
 黒き獣。
 暴力の具現。
 鉄帝。弱肉強食を強く掲げていた、その帝国の、いわば一側面の具現といえる。
 強き者のみが栄えよ。
 弱き者は地を這え。
 頭をたれよ、強者のために。
 強き者のみを讃えよと――。
 強さとは、すなわち力である。暴である。
 そして力とは、すなわち神である。
 暴と力の顕現。
 鉄帝という一側面の遭遇したくない現実。
 それがバトゥ・ザッハザークという男に間違いはない。
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)がその男と相対したときに、真っ先に浮かぶのは「目を逸らすな」という言葉であった。
(嵐の如き刃、鋼を超える守り。そして、力無き者への無慈悲。
 これから立ち向かう物が、憧れ続けた物が、遠ざけれど捨てきれない物が、そこに)
 胸中で思う。憧れた、鉄帝というものの姿。そして国体という存在に対する矛盾。それがまったく、オリーブの目の前にあった。
(だから、打ち破らなければなりません。臆する訳にも、敗れる訳にもいきません。
 自分は立ち向かうと決めたのです。誰かの為でも、ましてや国家の為でもない、自分自身の為に)
 はぁ、と息を吸い込んだ。地下の冷たい空気が、口と、喉と、灰を冷やすような気がした。でも、頭はひどく熱く、『熱を失うな』と何かが語り掛けるような気もしていた。それは戦人の培った『経験』なのかもしれない。
「好い」
 バトゥはにぃ、とその口角を吊り上げた。人の笑みを、肉食獣が笑うかのような、と例えることがある。だがバトゥのそれはたとえではない。肉食獣の笑み。獲物を見つけたという笑み。それがイレギュラーズたちの皮膚を泡立たせた。
「いずれも劣らぬ強者ばかり。それ故に、残念だ」
 あざける様に、バトゥは言った。
「それだけ強いなら、何故新皇帝派につかない? 強き者が栄えるありうべき世の顕現だ。
 お前たちならば、その力で! より良き鉄帝に変えていけるだろう!」
「ジョウダンでしょ?」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が構えつつ、言った。僅かに冷汗が落ちる。奴は油断も隙も見せていない。
「共闘した時にも思っていたけれど、キミとは本当に、気が合わない!
 仲良くなれないとは思ってたけれど、こんなに早く殴り合える機会が来るなんてね!」
「ああ、イグナート・エゴロヴィチ。実にいい。お前もな。いや、お前だけではない。ここにいる誰もが、いずれも名をはせたものたちなれば」
 バトゥが凄絶に笑った。
「食らうもまた一興。下し、己の力を誇示する。下し、支配する。それこそが鉄帝、強者のあるべき姿よ」
「武力を否定しないけどさ! 強さっていうのは、それだけじゃないよ」
 イグナートが言う。構えつつ、仲間たちに視線を送った。
「それに――硬いだけの鋼は、意外とあっさり折れたりするものだよ、バトゥ・ザッハザーク。アタマは柔らかくしないとね!」
「下らん。真に強き鋼鉄は砕けん。惰弱なものたちの言い訳にすぎん」
「惰弱、ですか」
 『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)が声を上げた。その眼で、バトゥにしっかりと見据える。
「この混沌の世に抗う者、ただ本能に従い従い暴れる者。
 どちらが本当の強者と言うべきか……」
 ゆっくりと、刃を抜き、構えた。
「ラドバウA級闘士、リカ。貴方に問いましょう。貴方の怒りはまだ『ヒト』のそれですか?」
「私が『魔種か?』という問いなら否だ。『ヒトか?』という問いなら、否だ」
 バトゥがその剣と盾を構えた。
「この身、既に鬼人羅刹であるならば――」
「そうやって、人間やめたアピール。やるなら本当にやめてみろってのですよ」
 挑発するように、リカが言う。おそらく、もう会話は意味を成すまい。そもそも、猛犬をつないでいた鎖は、とっくの昔に切れていたのだ。あれがここまで会話にしてくれたことが奇跡といえるだろう。今すぐにでも、こちらの喉笛にかみつきたいに違いない。そしてそうするだろう。鬼人羅刹とは大げさだが、なるほど、確かに彼はもはや獣ではあった。
「来るぞ」
 『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)が言った。
 その言葉に、誰もがうなづいた。間違いなく、来る。ほんの、一呼吸も終わらなうほどに。例えるならば、あれはもはや、火種を目の前にしたガソリンのようなものだった。ぱちん、と火が爆ぜれば、そのわずかな火花を皮切りに、轟烈に燃え盛るだろう。そしてそれは全く、その通りに行動した。
 う、と声が響いた。ナッツ兵士の声だった。生きている、とわずかに『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は安堵して、すぐに目の前の獣に意識を向けた。ほんの、一瞬。一瞬だ。その一瞬で、獣の戦意を、火花は点火した。
 文字に書き下ろすなら、轟。あるいは豪。それとも剛。何れにしても、何か巨大な旋風が巻き起こったのは事実だ。それが、バトゥがその『剣』を振り払ったゆえの旋風だと気づいた刹那、イレギュラーズたちの体を、強烈な衝撃が走った!
「周囲への大火力連続攻撃。多対一に特化したような相手か」
 愛無が声を上げる! バチバチと体を叩く衝撃! 直撃ではなくとも、強烈な痛みが走るのを理解する!
「まだ来るぞ。存外に足も速いらしい」
 愛無が構えた。その手が変形する。刹那、上空より飛来する黒い影! 否、暴力!
「ガァァァァァァッ!」
 それは獣の咆哮! 先ほど無抵抗の兵士を仕留めた時とは違う、『全力の』一撃! 愛無はその手を振るった。刃と、異形の腕が、交差! 衝撃――愛無は顔色一つ変えることなく、されどダメージは確かに受け止めながら、その衝撃から逃れるべく、跳躍!
「スティア君」
「任せて! サクラちゃん、手を!」
 貸して、と叫ぶ。『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)がうなづく。当然だ。二人で、戦う。それはこれまでもやってきたことだ。そしてこれからも。
「スティアちゃん、必ずみんなを助けよう。こんなやつ、速攻で倒してね!」
 みんなを、といった。今壁にもたれかかれ、わずかに呼吸を残しているナッツ兵士もそうだし、このエリアに駐留していた、帝政派の兵士たちもそうだ。名を知らずとも、共に戦っていた者たちだった。まだ生き残っているなら、全員を助ける! こんなやつに、その命も尊厳も奪われるわけにはいかない!
「天義の聖騎士、サクラ・ロウライト!」
「天義のスティア・エイル・ヴァークライト!」
『推して参る!』
 二人が同時に名乗りを上げ、駆けた。コンクリート風の地下鉄の地面を踏みしめて、暴風へと迫る!
「来い! 天義の! お前たちが強者ならばよし! 弱者ならば死ね!」
 バトゥが声を上げた。スティアがその魔導器を開く。天使の羽が舞い散る。魔力の形。
「もし私に強さがあるとしたら、それは絶対に折れない私の心だよ!」
 叫び、スティアがその手をかざした。心の刃。折れぬ意思を魔力と変えて、撃ちだす一撃! 不可視の一撃が、バトゥを狙う。ぬぅ、とバトゥがうめいた。衝撃が体を駆け抜けるのを自覚した。それだけでも、バトゥがスティアを獲物としてにらむに十分。
「及第点だ!」
「なら、こっちは!?」
 そのすきをついての、サクラの一撃! 雷をまとった斬撃が、バトゥのサイドから振り下ろされる! バトゥは刃を振るって、それを受け止めた――が、剣より走る雷が、お互いの刃を伝ってバトゥの体に走る――!
「むぅ……!? なるほど、からめ手できたか!」
 バトゥが叫ぶ。サクラの一撃は、相手の意思抵抗力を奪うような、そんな雷の衝撃をまとっていた。それを奪えれば、強烈なダメージとともに、様々な神秘的な呪詛が体を蝕むだろう。
「卑怯とは言わないよね?」
 切り結びながら、サクラが声を上げる。
「それがお前の武力であればな!」
 だが、それでもまだ、バトゥの暴力は健在だ。バトゥはその右手の刃を力強く振るうと、サクラを吹っ飛ばした。
「くっ……!」
 強烈な一撃。その衝撃を少しでも殺すべく後方に跳びながら、入れ替わる様に翔ける『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)に言葉を飛ばした。
「お願い!」
「任された!」
 ウェールが吠える。その両手に数枚のカードをつかむ。放たれる、カード。それは飛びナイフの様に、鋭く、宙を駆ける!
「惰弱な奴なんてここにはいない!
 ナッツさんだってお前の接近に気づけば逃げずに構えた!
 お前が雑魚だと言った人達は守りたいものの為に命を懸けれる強者だ!
 力だけはお前や俺達に比べれば劣っていても……!
 怖くても逃げずに他者を守れる兵士達の心、精神、魂は俺達と同等かそれ以上に強い!」
 宙を駆けるカードを、バトゥがすんでのところで盾を構えて受け止めた。かかっ、と鋭い音が鳴り響いて、カードが次々と盾に突き刺さる!
「下らん! 力がなければ、そんなものは弱者の飯事にすぎん!」
 轟! バトゥが咆哮を上げた。ウェールの体に衝撃が走る。同時に、『奴を何とかしなければ』という本能的な憤怒が湧き上がる。
「お前は……!」
 ウェールはカードをナイフの様にきらめかせ、接近した。強烈な斬撃は、しかしバトゥの体の薄皮を裂いたに過ぎない。強烈な筋肉は鎧のようでもある。
「力なき言葉など精神などぉ! そんなものは寝言にすぎん!」
「精神も言葉もない力などは、ただ暴れるだけの自然災害のようなものじゃないか!」
 ウェールが再度、そのカードをナイフのように振りぬいた。バトゥはそれを刃で受け止める。衝撃がバトゥの体を駆け抜けるが、致命打にはまだ遠い。
「それが力の本質だ。古来より人は自然を恐れた。それは、圧倒的な暴力でもって、人を蹂躙したからだ!
 此度の冬。それは圧倒的な自然の暴力だ! 力だ……力こそが、世を統べるにふさわしい!」
 それはある意味で、バトゥの信念にも近い。力。力こそがすべて。その具現。鉄帝という国の悪しき一側面。
「もうちょっと大人しくなってくれないかしら?」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が静かにそう声を上げると、その周囲に虹色の庭園が現れる。心象風景とでもいおうか。結界術【虹色庭園】の具現。
「ウェール、一度引いて頭を冷やしてもらって? あちらも随分と熱いのですもの。気を当てられてはいけないわ?」
「すまん……!」
 ウェールがカードを弾幕のように打ち放ち、バトゥに叩きつけた。バトゥがそれを立てて防いだ隙をついて、跳躍して距離を取る。一方で、ヴァイスは悠然とその手を掲げると、指先から強烈な魔力の銃弾を撃ち放った。術式によって編み上げられた、致命を狙う一撃。それがバトゥを狙う。バトゥは盾でそれを受け止めるが、寸前で炸裂した呪詛は、その体を駆け巡る。
「ふん……力を削ぐ、か」
「お気に召さないかしら?」
 ヴァイスが言う。
「あなたの拠り所なのですものね。力こそがすべて。逆を言えば、それにしか頼れないということですもの。
 ねぇ――あなた、力を失ったら、それが必要ではなくなったら――どうするの?」
 ヴァイスが小首をかしげた。
 バトゥは笑った。
「死ぬだけだ」
 獰猛に、笑った。
 ああ、彼は全く、獣なのだな、とヴァイスは思った。まさしく暴力の具現。であるのだと。
 そして獣は死ぬその刹那まで獣なのだ。ヴァイスはゆっくりと、冷たい空気を吸い込むそぶりを見せてみせた。体を冷やす冷気が、今は必要な気がした。

●獣
 イレギュラーズたちは、獣の力を削ぐ方向で戦いを継続していた。それは明確な『弱点』であり、攻めるべき要素で間違いなかったが、それでも獣は、いまだ牙を砕かれずに方向と暴を続けていた。
「くっ……!」
 スティアが顔をしかめる。強烈に叩きつけられたバトゥ刃の旋風は、スティアの腕を切り裂き、その洋服に鮮血を散らせる。
「交代しますよ!」
 リカが叫ぶ。同時に飛び込み、スティアの前に立った刹那、サクラはその意図を察して、スティアを守る様に立ちはだかった。
「サクラさん、スティアさんを」
「うん!」
 リカの言葉に、サクラがスティアをかばいながら交代する。一方で、リカは蛇腹剣を手に、鞭のようにそれをしならせた。
「さぁて、また遊びましょうか? わんちゃん? それともねこちゃんですかね?」
 ぱちん、と蛇腹の剣を叩いて見せる。バトゥは余裕を崩さぬ様子で笑ってみせた。
「とらえどころのない女だ。ゆえに、一度捕まえてしまえば、引き裂くのに造作もない」
「ひらひら飛んでる布切れじゃァないですよ。私はね――!」
 リカがその剣を振るう――鞭のごとくしなるそれが、バトゥを狙う這う。その一撃をバトゥは盾で受け止めながら、右手の刃を振るった。斬撃。強烈なそれは空間を裂く烈風。リカの体を激しく打ち据えるそれに痛みを覚える。
「可能性が削れるような衝撃も、何度受けたことか!
 『ただの災害』なんてこの程度です、場数が違うんですよ!」
 激痛をこらえながら、リカが刃を振るう――斬撃。それはよけられる。それでよい。こちらは独りではない。
「本来、獅子は群れで狩りを行う動物だ。群れから追い出された者の末路は知っているかね?」
 愛無が声を上げ、その手を振るった。弱者に見えるようにふるまった。薄皮を一枚一魔はぐような攻撃。そのように思わせた。そのすべては布石。地名の一撃を食らわせるための、布石!
「独りとは、結局の所、やることが限られているということだよ。ヒトの強さとは、群れであることだ。僕が人間を語るのは烏滸がましいかもしれないがね」
 強烈な横なぎの一撃を、愛無はバトゥへと叩きこんだ! この時受けた、それがおそらく強烈な直撃だった。バトゥがその体を、わずかに傾ける。足に、ダメージが来ている。
「ふ――む?」
 興味深げに、バトゥがうめいた。自身が強者であるプライドと自信はあった。イレギュラーズたちを侮らぬ実力も持ち合わせていた。だがそれでも、自身に刃を届けられたということは、衝撃に近い――。
「人外の刃が故か?」
「いいや、僕もこの世界では、ただの『旅人(ヒト)』として混沌肯定されているのだ。オリーブ君」
 間髪入れず、オリーブがその刃を振るった! 愛無と挟み込むように、振るわれる斬撃! オリーブの何の変哲もないただのロングソードは、この時悪鬼を切り裂く刃と化していた。
「あなたが自分を評価してくれるのは光栄です。ですが、買い被りですよ。秀でた力ではなく積み重ねでやってきた身です。
 そして、仲間がいなければ……独りでは、積み重ねることすらできなかった」
 謙遜ではあっただろうか。だが、その一撃は、確かに、強く、強く、バトゥを『圧して』いた。
「バトゥ・ザッハザーク。たしかに貴方は強い」
 スティアをかばいながら、サクラが構える。聖刀を、残影のそれと化して、斬りつける。バトゥが対応しきれぬほどの、速度!
「私達を強いと思うなら、それはここにいるみんなの強さだ!
 今私たちが体力を温存出来たのも、周囲の警戒をしたり、温かい食べ物を作ってくれた彼らがいたからこそ私達は今戦えるんだ……!」
「あの雑兵どもを評価するとは……!」
 バトゥが吠えた。彼の評価軸には存在しえないものが、彼が切り捨てたものだった。
「狭量な強さに囚われ、弱者の強さを侮った貴方の負けだ!」
「『弱者の強さ』だと!?」
 バトゥが吠える。抑え込まれたバトゥに、イグナートが翔ける!
「暴力の価値はオレも否定できないし、しない。
 でも、暴力だけじゃない強さもゼシュテルのヒトたちの中にはあるハズだよ! 力だけじゃないものが国を強くしている!
 それを認められないお前たちにゼシュテル鉄帝国はくれてやれないんだよ!」
 拳が、駆けた! バトゥは対応できない!
「イグナート・エゴロヴィチ!!」
 吠える! 強烈な一撃が、バトゥの腹を貫いた。内部からも破壊されるような、強烈な一撃! 仲間たちが、ここにいるすべての戦士が、力を合わせ、背中を押し続けたが故に届いた、一撃! それを強さというのならば、これはすべての人の強さに違いない――!
「ぐ、ぅっ!!」
 バトゥは忌々し気にうめいた。腹部を抑えながら後退――イグナートが構える。
「投降する気はあるかい! 今なら帝政派にクチを利いてあげるよ!」
「戯けろ!」
 バトゥが吠えた。
「お前『たち』と私は平行線だろう。力こそあれ、向き合う方向が違う……くく、だが、良き遭遇であった」
 バトゥが再度後方へと跳躍。大通路へ向けて。
「退く気か……!」
 ウェールがいう。バトゥがにぃ、と笑った。
「じきに決着の時だ。我々とお前たち、どちらが正しいか――」
 バトゥが暗闇に姿を消した。暴風のような気配が去っていく。
「あっちは地上へのルートだ」
 ウェールが言った。
「地下には向かっていない。撤退したんだ……それより、ナッツさんたちを助けないと」
「ええ、そうね」
 ヴァイスがうなづく。
「スティア、疲れているところ申し訳ないのだけれど、治療をお願いしたいわ」
「任せて」
 スティアがほほ笑む。ヴァイスがうなづいた。
「皆も、手分けして救助に当たって頂戴。一人でも多く、助けないとね?」
 暴風は去った。
 それを退けたのは、無数の勇者たちの『強さ』 に間違いなかった。

成否

成功

MVP

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この後、皆さんの懸命な救助によって、兵士たちはみな命を拾ったようです――。

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