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シナリオ詳細

【水都風雲録】沙武の礎

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●沙武四天王の侵攻とその撃破
 豊穣は水都(みなと)領、朝豊(あざぶ)。そこに店を構える外村屋の一室で、美咲・マクスウェル(p3p005192)は領主朝豊 翠(みどり)(p3n000207)から借り受けた文書を読みあさっていた。
「沙武(しゃぶ)の水都への侵攻は、二年前の三月からなのね……」
 その頃と言えば、豊穣の治政を壟断していた巫女姫や天香長胤が倒され、霞帝が為政者に復帰してしばらくした頃だ。巫女姫らの壟断とそれに伴う混乱の影響は大きく、高天京の影響力は――特に、辺境においては――弱まっていた。故に、周囲を制圧し覇を唱えんとする勢力は、沙武に限らず存在していた。
 沙武は四天王と呼ばれる、魔種や純正肉腫からなる将を用いて、周辺の領土を制圧していった。四天王の戦力は圧倒的であり、侵略される側に為す術は無いように思われた――神使たるイレギュラーズが現れるまでは。
 イレギュラーズは、沙武四天王に討たれた父の跡を継いだ翠の求めに応じて、沙武四天王を都合四度退けた。それにより、沙武に侵攻されていた南の芽玄(めぐろ)、西の多賀谷瀬(たがやせ)が沙武の支配から解放されている。
 だが、そこで情勢が膠着した。沙武は水都との領境付近に少なからぬ兵力を駐留させており、それに備えて兵力を動員している水都の財政を圧迫し続けている。
「美咲さーん。何か、わかった?」
「ダメね……やっぱり、沙武に行ってみるしかないわね」
 ヒィロ=エヒト(p3p002503)が、文書とにらめっこはもう飽きたという様子で、後ろから美咲に抱きつき寄りかかりつつ尋ねた。美咲は、首を横に振って答える。
 二人が調べていたのは、沙武がこれほど長く軍事活動を行えている理由だ。水都では、軍事活動が財政を圧迫し続けている。ならば、沙武でも財政が圧迫されていなければおかしいはずだ。沙武の財政が圧迫されていないのならば、その理由は美咲もヒィロも知りたいところだった。水都の財政を援助している、この外村屋の主のためにも。
 しかし、水都側の文書では、その辺りはほとんどわからない。やはり、沙武への潜入は必須と思われた。

●草との合流
「神使の皆さんが、沙武にですか? でしたら――」
 美咲とヒィロに沙武潜入の意を告げられた翠は、既に沙武に潜入している草(密偵)である左衛門と右衛門の双子について話をした。この双子は草として優秀であり、水都が沙武の侵攻をいち早く察知できたのも彼らの働きによるところが大きい。だが、その彼らを以てしても、肉腫による警備が厳しく潜入できない場所があると言う。
「そこを神使の皆さんの力で突破できれば、沙武が侵攻を続けられる理由もわかるかもしれません。
 まずは、彼らと合流してみて下さい」
「左衛門さんと右衛門さんね。わかったわ」
「翠さん、朗報を待っててね」
 翠の言に、美咲は頷きながら草の名前を復唱し、ヒィロは快活な笑顔を向けた。

 美咲、ヒィロ、そして沙武の潜入に参加したその他のイレギュラーズ達は、まず翠の言のとおりに左衛門と右衛門の兄弟と合流した。
「神使の助力が得られるとは、何と有難い」
「これで、我らでは歯が立たない警備の奥に行けるな」
 そう喜んだ兄弟は、警備が敷かれている場所について説明する。そう言う場所は、大きく分けて二つ。
 一つは、沙武城周辺とその地下。地下はともかく、周辺も時折、何かを見せまいとするかのように警備が厳しくなると言う。
 もう一つは、街から離れた様々な場所。何の変哲もない平原や森や山の所々に、不自然に警備が厳しくなっている場所があると言う。
「八人で一気に一つずつ行くも良し、四人ずつ二手に分かれるも良し。我々は、神使の判断に従おう」
 二人はそう言うと、イレギュラーズ達の判断を待つのだった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は、久しぶりとなる【水都風雲録】をお送りします。
 水都は二年前から沙武に侵攻されており、侵攻自体はイレギュラーズの活躍によって食い止められているものの、領境付近に駐屯する沙武軍への備えは水都の財政を圧迫し続けています。
 沙武は水都以外にも侵略の手を伸ばしていますが、そもそも沙武が長期間・多方面に兵力を動員出来る理由は何処にあるのか。
 沙武に潜入している草(密偵)と協力し、その理由を探るのが今回のシナリオとなります。

●成功条件
 沙武に潜入し、長期間の動員を可能にする経済基盤を探る

 基本的に、白紙やシナリオブレイク多数などでなければ、問題なく成功すると思います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 沙武領内。大きく、2カ所での出来事を描写します。
 8人で1カ所ずつ当たってもいいですし、4人ずつ二手に分かれて2カ所同時に向かっても構いません。
 1カ所は、沙武城周辺&沙武城地下。もう1カ所は、平原や森や山などの野外(なお、そう言う場所自体はたくさんありますが、そのうちの1つを代表して描写します)です。
 左衛門と右衛門はこの2カ所を探ろうとしていますが、これまで警備が厳しく(複製肉腫とて、彼らにとっては脅威です)、潜入がままなりませんでした。
 そこで、イレギュラーズ達に警備を破ってもらおうと考えています。

●複製肉腫 ✕多数
 ロケーションで提示した場所を警備している複製肉腫です。複製肉腫としては強めですが、イレギュラーズの敵とは言い難いです。
 具体的には、参加PCのレベル合計が300以上(なお、薄プレは半分、白紙は0として計算します)で、それぞれが装備やスキルをしっかり設定しているなら、誰も戦闘についてプレイングに記入していなくても問答無用で勝てます。後述する理由もあって、念のため記入するにしてもサラッとでいいでしょう。
 なお、【不殺】などで戦闘不能にしたとしても、元に戻れるかどうかは、肉腫となってから長いのでせいぜい4割程度となります。

●左衛門&右衛門
 沙武に潜入している、水都の草(密偵)です。糸目の双子。戦闘能力は高くありません。
 左衛門が沙武城側の、右衛門が野外側の案内を担当します。

●描写とプレイングに関して
 今回は、戦闘よりも沙武の経済基盤についてと、それを知った時の皆さんの心情や行動をメインに描写する予定です。
 そして、今回のシナリオでは解釈違いの記述を極力回避したいので、事前に沙武の経済基盤について明かしておきます。いわゆる、肉腫案件です。
 具体的には、以下の2つについてどう考えるか、どう行動するかを記載していて下さい(二手に分かれる場合は、該当する方だけでOKです)。基本的には、アドリブなどは入れずにプレイングそのまま描写します(マスタリングとしてのアドリブが入る可能性はあります)。

・囚われて連行され、今まさに肉腫に変えられようとしている、あるいは変えられたばかりの人々を見てどう思い、どうするか(城側)
・肉腫にされ、自らの意志もないままに休みなく重労働を課されている人々を見てどう思い、どうするか(野外側)

 ですので、プレイングとしては、以下の2つをメインに書いて頂けると、リプレイ執筆の際に助かります。
・依頼開始前の心情(通常のプレイングでもよく書いて頂いている分です)
・沙武の経済基盤が肉腫によると知った時の心情と行動

 なお、城側の(警備を除く)複製肉腫は死亡さえさせなければ高確率で元に戻せますが、野外側の複製肉腫は肉腫とされて長いので死亡させなくても6割以上は元に戻せません。

●【水都風雲録】とは
 豊穣の地方では、各地の大名や豪族による覇権を巡っての争いが始まりました。
 【水都風雲録】は水都領を巡るそうした戦乱をテーマにした、不定期かつ継続的に運営していく予定の単発シナリオのシリーズとなります。
 単発シナリオのシリーズですから、前回をご存じない方もお気軽にご参加頂ければと思います。

・これまでの、【水都風雲録】関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『【水都風雲録】悲嘆を越え、責を負い』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5350
 『【水都風雲録】敵は朝豊にあり!』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5958
 『【水都風雲録】敗残の四天王、民を肉腫と為して』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6550
 『【水都風雲録】クリスマスの民 苦しますは闇』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7122
 『<潮騒のヴェンタータ>一角獣の鎧の少女』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8158
 『住まうは醍葉 救うは西瓜』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8242
 『<竜想エリタージュ>運ぶは西瓜 狙うは鯨』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8357

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 【水都風雲録】沙武の礎完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

リプレイ

●潜入の前
 豊穣は水都領朝豊。此処を含む周囲への侵略を繰り返す隣領沙武に潜入すべく、八人のイレギュラーズが集まっていた。
「敵がこんなにいっぱい戦争吹っ掛けられるのおかしいでしょ、ってことだよね」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が、パートナーの『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)にそう問うた。沙武の、水都への最初の侵攻から、かれこれ二年近く経っている。沙武四天王と呼ばれた将が次々と討たれたために、最近は直接攻撃されることはなくなっていたが、それでも沙武は領地の東に大兵力を駐屯させて水都を威圧し続けている。
「ボクのスラムでの経験から言わせてもらうと、そういう時って絶対何かズルしてるんだよ!
 弱い人とか貧しい人とかを食い物にして、権力持った奴らが好き勝手してるんだよ!
 海を挟んでても文化が違ってても、人間がやることなんて結局同じに違いないよ!」
「それにしては、隣国の資料で二年遡っても不明なのが異常ね。嫌な感じしかしないわ」
 激昂するヒィロとは対照的に、美咲が静かに思考を巡らせながら応じた。むしろ、その程度の手合いであればマシだとさえ感じている。
(あの時の指揮官は魔種だったし、為政者もそっちとすると――)
 美咲はヒィロと共に、馴染みの商人がシャイネンナハトにちなんだイベントを催した際に、それを妨害し参加者を鏖にせんとした沙武四天王の一人と戦っている。その沙武四天王は、飛行種の魔種だった。また、最初に水都に侵攻してきた軍の大将である沙武四天王も、魔種であったと聞いている。
 四天王が魔種であるなら、それを従える領主は――その想像は、美咲の背筋に怖気を走らせるに十分だった。
「財政に問題がない=経済をまわせている、って考えたのは失敗かも」
 美咲は自分の考えの甘さに顔をしかめた。真っ当な感性が、相手にもあるなどと思うなど――! もっとも、美咲自身ならともかく、余人が美咲を責めることは出来ない。凡百の者では、美咲の思考の入口にさえ立てなかったであろうから。

「戦争はかなしいけれど、経済が回るのも確かなんだよね。沙武は戦争景気で成り立ってるのかな?」
「そうだとしても、沙武ってそこまで大きい勢力に感じないのですが」
「そうなんだ。領土に対して、軍の規模があまりに大きすぎるよね」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)のつぶやきに、『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)が疑問を挟む。
 沙武と、水都を含む周辺の領土それぞれに、土地面積において大きな差は無い。ただ沙武が勢力として図抜けているとすれば、かつては北の九樹森、南の芽玄、西の多賀谷瀬を支配下に治めており、未だ北の九樹森は占領し続けていることだ。しかし、芽玄、多賀谷瀬が過去の経緯から反沙武である以上、沙武はそちらにも押さえの兵を置かねばならない。
 南と西に押さえの兵を置きつつ、東に大兵力を置き続ける――。
「長い期間兵を遠征させておくことができるって……普通は魔種だろうが何だろうが、損耗していくはずですけど……」
「一年以上、沙武の動きは止まっているみたいだからね。損耗自体は、起きてないかも知れない。
 でも、その分兵力を維持する兵站は必要なはずだ。そこは、如何なっているんだ?」
 兵站担当である秋宮出身の史之にとっては、そこが最も気にかかるところだった。
「確かに、腹減って大規模な殴り合いは出来ねぇからなぁ」
「それに、金も必要になる」
 史之の言葉に、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)と『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)もうーん、と考え込んだ。
 ゴリョウは料理を覚えてからと言うもの、兵站を意識した行動をすることが多いが、それ以前においても空腹で戦争など出来ないことぐらいは理解していた。そして、兵站を維持するには食事自体は当然必要として、その食事を用意したり駐屯場所の環境を整える金が必要となる。
「俺達イレギュラーズも報酬あっての依頼だし、対価無しの兵力はきな臭い。
 考えられるとすれば奴隷でも使ってるか、或いは……」
 本来、人を動かすには金か、そうでなくても対価が必要だ。強制的に動員しているのでなければ、兵達には給金を支払う必要がある。だが、もし兵自体への給金が必要ないとすれば、その裏には……と、アルヴァは思案を巡らせた。
「対価無しですか……となると、募集とも違いますよねぇ。きな臭いな~と感じますが……『妙見子は訝しんだ』っと…」
「きな臭ぇのは同感だぜ。打ち出の小槌もあるまいに、無限に物資が出てくるわけでもねぇだろうし」
「そうだな。確かにいくら奴らでも、本来無尽蔵の物資があるはずがない。その絡繰りを暴いてしまおうか」
 ゴリョウの言を、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が首肯する。元々、そのためにイレギュラーズ達は集まったのだ。
「うん。僕も、お手伝いするね……」
 気弱そうな、儚げな様子で『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が頷いた。レインは、水都や沙武の事はよくは知らない。ただ、敵地への侵入や調査は大変そうだと考えて、少しでも力になれればと沙武潜入に名乗りを上げていた。レインの様子は確かに気弱そうではあるが、その瞳にははっきりとした意志の強さが篭もっていた。

 八人は沙武領内に潜入すると、左衛門と右衛門と言う双子の草と合流し、二手に分かれて調査へと向かった。

●沙武城地下にて
 沙武城下には、左衛門と共に史之、ヒィロ、美咲、錬が潜入した。一行は、史之を主人とした旅商人として城下の人々から話を聞きつつ、城下の警備が厳しくなる時を待った。
「僕は流れの商人だよ。景気のいい話を探していてね」
「商人ですか。珍しいですなぁ」
 史之は城下の人々から情報を聞き出そうとしたが、如何にも核心を突くことが出来ない。人々は沙武領や沙武領主を抽象的に褒めるばかりで、名産や沙武の繁栄、人々の暮らしぶりと言った質問には具体的な言葉を返さずに言葉を濁す。
(この雰囲気……見たことあるわね)
 美咲は、城下の人々に既視感を覚えていた。混沌に転移する前、テレビで視た近隣の独裁国家の民衆に非常によく似ているのだ。おそらく、監視の目があって迂闊なことは言えないのだろうと察する。
(……余所の領内の様子に少しは期待していたが、この様子だとダメそうだな)
 馬車の御者役を務めていた錬は、内心で失望していた。少なくとも、沙武城下には技術的な、あるいは神秘的な革新があった様子は見られない。そう言う革新や、人々の暮らしぶりにおいては、明らかに水都の方が上に見えた。

 やがて、沙武城周辺の警備が厳しくなる時が来た。警備の中では、どうやら多数の人間が連れて行かれているようだ。左衛門の案を受けた一行は、この人々が沙武城に収容されたタイミングで警備を突破することにした。
 沙武城を警備するのは複製肉腫だったが、イレギュラーズ達の敵ではなかった。沙武城内の地下に突入したイレギュラーズ達は、そこで今まさに複製肉腫に変えられようとしている人々を目の当たりにする。
「全く、尋常な手段ではないとは分かっていたがここまで人力とは。呆れるぜ」
 錬が、忌々しそうに吐き捨てた。
「こんなに厳重に警備してこそこそしてると思ったら、やっぱりろくでもないことやってたんじゃん……!
 あんな無理矢理……絶対許せないよ!」
 ヒィロは、怒りに身体を震わせる。
「ヒィロ、数秒でいい。動かず警戒していて」
 その声を聞いた美咲は、すかさずヒィロに声をかけた。そして、目を閉じて深呼吸する。
(複製肉腫を作り出して、労役や生産をさせている……? こうすれば効率はいい、とか思ってるのかしら)
 こんな事をやる者の領土を敵国――敵であっても『ひとの生きる地』――と考えていたなどとは!
 だが、美咲は自身の感情を抑制しなければならなかった。パートナーのヒィロは、虐げられる者の感情をよく理解出来る者だ。それだけに、隣にいる美咲が先に激昂するわけにはいかなかった。
(……そう、複製肉腫なのか。この人もあの人も……複製肉腫を奴隷にしてねえ……なるほどなるほど。
 ってことは、命令を出しているオリジンが居るはずだ。何処に居るんだろう? 順当に考えて、城主か?)
 史之は冷静に思案しているように見えるが、その内心には抑えがたい怒りがあった。ここが海洋――敬愛する女王陛下のお膝元だったならば、史之は一も二もなく攻勢を仕掛けていたところだ。
 人への奉仕は、史之にとって喜びである。だが、強制されるようなことではない。ましてや、人でない者に変えられてまで隷属させられるなど。
「――考えただけで、嫌だよ」
 呻くように、史之が言った。
(本人の意思も関係なく、無理やり植え付ける事が出来る肉腫も極めて厄介、かつ同様に根絶が必要だな)
 錬は、内心で肉腫と魔種を比較する。魔種の呼び声の誘惑もろくでもないが、それに屈するかは本人次第であるため、まだわずかに魔種の方がマシに思えなくもない。五十歩百歩ではあるが。
「……こんなやり方で維持している経済基盤が、何時までも保つとは思えんがな」
 そう独り言ちると、錬は複製肉腫へされた者達の方へと駆け出していった。錬が潜入にしては目立つ馬車を用意していたのは、過去の経験からこのような事態もありうると想定して、複製肉腫とされた者達を極力救出するためだった。その意図を察したヒィロ、美咲、史之も錬に続く。
 けっきょく、複製肉腫とされた者達はわずかな例外を除き、その大部分が救出された。救出した者達を残らず馬車に運び込んだ五人は、すぐさま沙武城を後にした。
(今回は助けられたけど……)
 ヒィロの目には、肉腫にされた人々の姿、顔、絶望が焼き付いている。今回救出された者達は、運が良かったと言えるだろう。だが、これまで多くの者が同様の目に遭ってきたはずだ。それを思えば、ヒィロの心中には沙武を倒さねばならないと言う義憤が燃え上がる。
 「今回だけは」と言う思いは、美咲も同様だった。人々の肉腫化を止めない限り、沙武の侵攻は終わることはないだろう。

●人気の無い平原にて
 一方、ゴリョウ、アルヴァ、レイン、妙見子は右衛門と共に、沙武城から離れた平原へと向かっていた。街からも街道からも離れているのに不自然に厳しくなっている警備を突破した一行は、まるで機械のように黙々と土地を耕し続ける複製肉腫達を目撃する。
「なるほど……こいつぁ、えげつねぇ」
 ゴリョウが、苦虫を十匹ほど纏めて噛み潰したような苦々しい顔をする。普段は豪快な笑みを浮かべるその顔の眉間には、幾重にも堀のような皺が寄っていた。
「ああ、そういうことかい。確かにそりゃ、人権もクソもねぇわな」
 アルヴァは、今にも反吐を吐き出しそうな表情をする。
「奴隷と同じ……いや、それよりうんと酷いか。下衆が!」
 奴隷なら、自由意志はなくともまだ「人」ではいられた。だが、意志自体を奪い人ならざるものへと変えて使役しようとは! 可能なら、今すぐにでも全員救い出したい。が、その気持ちを抑えてアルヴァは周囲の警戒に当たる。機動力に優れたアルヴァにこそ相応しい役割だからだ。
「あはは……あははは……!」
 この光景を見て笑い声を上げたのは、妙見子。あまりの悪趣味さに、一周回って可笑しさが込み上げ、逆に笑えてきたのだ。複製肉腫を使えば、休み無く永遠に働かせることは出来る。だが、これは。
「自らの意思までも奪われてしまったら、それは人形と同じじゃないですか……!」
 妙見子の元の世界においても、奴隷のようにぞんざいに扱われている人間はいた。理由があるとは言え、妙見子自身も人を奴隷として扱う側の存在であった。ここまではしていないとは言え、昔の自分を見ているようだと妙見子は憤慨する。
「人形か……言い得て妙だ。文句も言わなきゃ、反抗もしない。まさに理想の『労働力』だな」
 最早、この複製肉腫達を『労働者』とはゴリョウは言えなかった。
「――?」
 複製肉腫達を見て憤ったり笑ったりする仲間達を見て、レインは首を捻る。皆、此処に調査に来たはずなのに、何で調査に動かないんだろうと。確かに、複製肉腫達は驚愕するべき存在ではあったが、此処には調査するべき何かがあるのではないのか。
「そうじゃねえ……そうじゃねえんだ。こいつらの存在が、こいつらがこうして働かされていることが、その何かなんだよ」
 ゴリョウは、レインにここの複製肉腫達について、そして彼らが此処で働かされている意味について、レインに語る。
「無理矢理巻き込まれて……本当だったらやりたくない事を……やらされてるって事?」
 レインの問いに、ゴリョウは頷いた。
(そんなの……僕だったらヤダな……)
 自身がそうなったらと重ね合わせながら、レインは変わらず働き続ける複製肉腫達を見つめた。
(……一歩間違えれば、あいつらもこんなんになってたのかねぇ)
 ゴリョウも、自分が保護した元奴隷達を複製肉腫達と重ね合わせた。
 幻想で大規模な奴隷市が催された際に、ゴリョウは何人かの奴隷を引き取って保護した。それにより自由を得た元奴隷達は、今では食事もしっかり食べて、元気に働いたり遊んだりしている。
 だが、彼らを初めて見た時、その目が暗く澱んでたのをゴリョウはよく覚えている。「人がこんな目出来るんだな」と思ったほどに。
(……それを超える業の深さを目にすることになるたぁ、思いたくなかったぜ全く)
 元奴隷達は、眼が暗く澱んでいてもまだ絶望を感じることは出来ていた。だが、複製肉腫達はその存在を変質させられた上、絶望を感じることさえ出来なくなっている。
 ともあれ、一行はこの非道の証拠として、何人かの複製肉腫を確保した。その後、一行は場所や労働内容は違えど、同じ事をやっている場所を何カ所か右衛門に案内される。森を切り開いての開墾、鉱山での鉱石の採掘など……。
「こんな大規模な肉腫感染、沙武の上層が関わっているのはほぼ必ずといっていい」
 アルヴァの言を否定する者は、その場にはいなかった。そして、この言は沙武城地下を見てきた側と合流した後、ほぼ確定的な事実と断定されるようになる。
(こういう国は早々に潰したいところなんですがねぇ……私が内部から……)
 混沌に来て弱体化したとは言え、傾国の狐として活動してきた妙見子としてはそう思うのだが、今回の目的はあくまで調査であって、今はまだその時期とは言えなかった。

●得られぬ、援護
 二手に分かれたイレギュラーズ達は、合流して情報を整理しつつ沙武を脱出。そして、水都へと戻る。沙武の内情について証言と共に報告を受けた水都領主朝豊 翠(p3n000207)は、「まさか――」とつぶやいたきり、しばらく呆然として絶句していた。
 肉腫とされた者達の証言の中でイレギュラーズ達や翠を驚かせたのは、彼らが沙武の領民であったと言う事実だ。その証言に拠れば、彼らは領主に反抗していると「断定されて」沙武城下まで連れて来られたとのことだ。

 その後、イレギュラーズと翠の情報交換が始まった。
「この事実があれば、それを理由に多方面から侵攻して、肉腫を開放出来るんじゃないか?」
「ああ。それに、お上にも話を通しやすくなるかもしれねえ」
 アルヴァとゴリョウの意見に、翠は否定的な見解を示した。多方面から沙武に逆侵攻しようにも、北の九樹森は未だ沙武に占領されており、南の芽玄、西の多賀谷瀬に沙武の防衛戦力を突破する力はない。特に、かつて沙武四天王の一人に民を肉腫とされた芽玄の疲弊は著しかった。そして、さらにその周辺地域においても、沙武に抗する力を持った勢力は存在しない。
 お上――高天京に関しては、距離がネックであった。水都は高天京からあまりに遠すぎるため、水都が沙武の非道を訴えても、高天京が実力で対処することは難しい。そもそも、霞帝の復帰直後に高天京に戦乱を抑制する力があれば、沙武の侵攻は始まっていなかったはずだ。
 ただ、この事実の公表によって、水都、芽玄、多賀谷瀬やその周辺領土の民衆からの支持は得やすくなるだろう。だが、それは軍事力には直結し得ない。
 つまりは現状、沙武に対しては水都が自力で何とか対抗するしかない、と言うのが結論となった。

「沙武の非道を明らかにしても、あんなこと止めさせられないのかな?
 戦争のせいで悲しむ人達が増えるの、無くせないのかな?」
 翠との情報交換を終えた後、非道を明らかにすれば沙武を止められるのではと期待していたヒィロは、それと真逆の結論となったことに、美咲の胸の中でボロボロと涙を流して泣いた。
「確かに、非道を明らかにしても沙武は止められないかも知れない――でも、この調査は無駄じゃないわ。
 考えましょう? 何処を如何すれば、沙武の基盤を崩せるのか」
 美咲はヒィロの頭と背中を優しく撫でながら、慰める。非道を明らかにすることで沙武を止められなくても、何らかの手段で沙武を止めることは出来るはずだ。そして、そのための材料は今回の調査で得たはずなのだ。
 美咲の言葉に、ヒィロはもっともっと頑張りたいと思いながら、ただ頷き続けるのであった。

成否

成功

MVP

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。OPのGMコメントでは明かしてましたが、侵攻を続ける沙武の経済基盤が複製肉腫の生産に支えられていることが、皆さんの視点からもこれで明らかになりました。
 リプレイ中でも描写しましたが、周辺の領地には沙武を止める力はありません。国力的も兵力的にも、あとついでに言えば皆さんへの依頼料を捻出する意味でも、水都だけが沙武に抗することが出来る、と言う状況です。また、現状においては、高天京による介入も難しい状態です。
 もちろん、翠も沙武を何とかしたいとは当然思っていますが、沙武四天王が魔種や純正肉腫と言った存在である以上、沙武を止めるには神使たる皆さんの力が必要となります。今後も、翠や水都にお力添えを頂けましたら幸いです。
 MVPは、沙武城下の雰囲気を描写するベースとなったプレイングをして下さった史之さんにお贈りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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