シナリオ詳細
<クリスタル・ヴァイス>抱卵への切符
オープニング
●憤怒の卵
ゴーマンシェルに口はなかった。無口な男、と、兵士からはそう思われていたことだろう。いくらか、銭湯に必要な合図を奏でる太いパイプのほかに、言葉を発する器官はなかった。
――お前は傑作だ。最高の機械だ。
ゴーマンシェルは鉄騎種だ。
父は、戦争において妻を失い、娘を失い、それから、復讐のためだけにゴーマンシェルを作った。
強く強く、強くあること――。
それが、彼に求められた全てだ。
父は、身体に負担のかかる無謀な改造を繰り返し、心血を注いでゴーマンを育てた。心は要らぬと育てられ、また、ゴーマンもその通りに育ったはずだった。それでも鉄帝では足りない。強者は山のようにいた。ゴーマンが全てを捨てても、届かない高みがあった。
全てを賭けて生きてきた世界で、ゴーマンはまだ「ちょっと優秀なだけ」の兵士だった。
そんなころに、鉄帝の騒動があった。
ゴーマンは父の教えの通り、新皇帝派に寝返ることとなる。そちらの方が強いからだ。
それは、彼の性根に合っていた。奪い、破壊し、殺すこと、そのためだけに生きてきた。どちらかといえば虫をもてあそぶ少年のように、無邪気だった。
ふと思った。
じぶんは、父親よりも強いのではないだろうか?
久しぶりに家に帰ってみた。家は流れ弾に当たり、崩落していた。父はがれきに潰されて死んでいた。ゴーマンシェルはぶつけられなくなった怒りに噴き上がった。
どうしようもない怒り。これは、誰にぶつければ良いのだろう?
ドクドクとあふれ出す心臓の鼓動が、ゆっくりと数を数え始める。ゴーマンシェルはもう自分が長くないことを知っている。無理に生きてきた。
そんなときだった。おぼろげな呼び声を聞いたのは――。
●キミも新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)に入って、英雄になろう!
『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く――、
鉄帝の秩序は、麻のように乱れていた。
数え切れない争いの中で、暖炉を暖めるはずの薪は戦いのために費やされる。人々の口に入るはずだったパンは志を持った兵士たちの口に入れば、まだよかった。強さこそが至上と、弱者を貪る者たちの口にのみ入る。
『フローズヴィニトル』――狼になぞらえた大寒波が、そこまで迫っている。
「いち、に、いち、に! ……そこっ、乱れてるぞ!」
軍部特殊部隊『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』の訓練の風景だ。
極寒とも呼べる寒さの中、それでも「それこそが身体を鍛えるためのもの!」という極めて脳筋の思考回路により、訓練は薄着で行われている。
列になられべられた者たちは、ほとんどが戦闘経験のない民間人だった。
レフ・レフレギノ将軍の率いる軍部特殊部隊『新時代英雄隊』は、この時代において新たな英雄たらんと謳っていた。しかし、現状を見れば、それは聞こえの良いスローガンに過ぎない。
彼らに正義はなく、暴力こそを是とする秩序など存在しないならず者たちの集団だった。彼らは『英雄狩り』と称し、一般人や子供たちを騙し、ときには攫い、過酷な訓練を課している――。
これが、それだった。
「大丈夫、まだできる、やればできる! 立ち上がるんだ!」
特殊指導教官トライセルの叱咤が飛ぶ。
言葉こそは優しいが、訓練の過酷さは常軌を逸している。
「そら、水をかけてやれ! 貴重な水だぞ! しっかり飲むんだぞ」
氷点下を下回る気温。そんなところで水をかけられては、氷の彫像になるに決まっている――。
「もっと爽やかに! もっと笑顔で! どうした!? 英雄になりたいんじゃいのか?」
すり切れる声ではい、と叫ぶ者たち。喉は叫びすぎて血があふれていた。ここを囲む柵は、高く有刺鉄線が張り巡らされている。
求む、英雄!
作ろう、新時代!
年功序列など一切不要!
完全なる実力主義が、あなたを待っている――。
●
元・ローゼンイスタフ志士隊、「ベン・K・スミス」――。
彼は、新皇帝の手先として悪事を働いていた聖職者くずれである。悪事については省略しよう。とにかく、もう好き勝手はできない身の上である。
それでも悪党にしてはたくましく――自分の持っている情報をちらつかせ、交渉をするつもりであった彼は、無論、それは叶わぬことだと悟った。安全な場所として、隠しておいた偽造の旅券やらなにやらを埋めておいた場所にはすでに社長――彼の雇い主がいた。
頭の良さならば練達の学者には劣るだろう。しかし、この世界で誰よりも自分が悪賢いと思っていたベンは悟ったのであった。
自分よりも「遙か上」がいる。
「地下鉄道ねぇ……」
かつて、新皇帝派から天衝種(アンチ・ヘイヴン)を借り受けたとき、ベンは奇妙な話を聞いたというのだ。天衝種(アンチ・ヘイヴン)にしては、異様な、殻で覆われた卵のようなカプセルめいたもの。卵の状態でありながらもその迫力は異様であった。
あれは魔種ではないか、というのがベンの言葉だった。いや、「なりかけ」ではないかという。
「クリスタル・ヴァイス(水晶の白)、『フローズヴィニトル』行き。十四番線」。
地上にない架空の鉄道の番地は、おそらく、先日、発見されたばかりの地下道だ。
そこで、何かが起こる。
- <クリスタル・ヴァイス>抱卵への切符完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年02月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●発車時刻――
タタン、タン。
通常の列車旅行であれば、熱燗を片手に弁当でもいただきたいところだ。しかし、この列車は破滅へと進む列車。
乗っているのは魔物と、新皇帝の手先たちだ。
「……その行き先って伝説の狼でしょ?
比喩にしても絶対ヤバいわよ!
必ず止めましょう!」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が言った。
ひらり、どこかからか春の様子を告げる花弁が一枚、列車の巻き起こす風のままに吹き飛んでいった。
「アレ、乗ってますね、クソッタレが」
『雨宿りのこげねこメイド』クーア・M・サキュバス(p3p003529)は、敵の性質を本能で察知している。
「そうですね。それに……政争に興味はありませんが直感がします」
妖艶に目を細める『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)が列車の天井に降り立つと、ふわりと薫香が漂うのだった。
「……うむ、同感だ。助けを求めている者たちがいるようだ。そうとなれば私がこのまま見逃すわけにもいくまい。怪盗リンネとして、助けを求めるみんなを攫って行こうじゃないか」
『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)――怪盗リンネの今回のターゲットは、無理矢理に列車に詰め込まれた民すべて、一両まるごとであった。
「……そうですね。無辜の民のため、しばし助力を致すとしましょうか
前から嫌な予感がします……クーア、万一は任せますよ」
はぁい、と、クーアは口を開ける猫のように、声を出さずに返事を返した。
眷属の身であるからにして、リカの言葉は重い。
……さて、今回はどうするやら。
「よっと」
『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は列車壁面に舞い上がった。探索を得意とするアルヴァは手際よく車両に侵入し、死角を見つけていたのだった。
「ここは死角だ。一般人が登れるとは思えないが、まあ、俺たちなら問題ないな」
「大丈夫?」
「ありがとうございます、蛍さん」
蛍が差し出した手に、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)がつかまった。飛行石を持った蛍はふわりと浮き上がって、珠緒と同じように宙を飛び、同じ高さで微笑んだ。
『社長の視察』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)のもたらした情報によると――。
「しかし、本当に、魔種を砲弾代わりに突っ込ませるのですか?
列車砲を勘違いされた方が考えたのでしょうか……敵が知っているとは思いませんが」
「うーん、発想は悪くないと思うが、切り離したら人質の意味がなくね? いやまぁ、どうせこっちがやることは変わらないけどさ」
そう、この列車は、そのまま味方の陣に突っ込むというのである。
「<十四番線>とか、どこぞの伝承のせいで嫌な予感しかしませんよ」
「後方と、前方で別れましょう」
「わたしは後ろからいくわ。この子はわたしの使い魔よ」
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)の蜥蜴が、列車の屋根に貼り付いた。
「それでは、この子を」
珠緒のファミリアーが、代わりにセレナに寄り添うのだ。
「まかせて」
「……どうか、ご武運を」
次に全員がそろうのは、作戦が終わったとき、だろうか。
●後方から忍び寄る
「お先に」
雷の翼をグライダーのようにしてリカはするりと屋根に乗る。
エモノは鉄の天井を通して、下だ。
ミルキーウェイ・ドリームが、気が付かないままに、わずかな間の夢を見せる。うとうととまどろむような心地よさは訓練された者であっても抗いがたい。警戒を緩めたとも自覚できないあいだに、無意識に警戒を緩め、受け容れようとしてしまう。
それは、本能であったからだ。
人の心の隙間をこじ開け、入り込む手腕はお手の物だ。派手な陽動。目立って場をかき乱すこと――それが今回のリカのミッションだ。
クーアは満足そうに頷き、リカに続いた。
『にひひ♪ 助けに来ましたよっと。今は大人しく、気がつかないフリをしていてください』
人質めいた英雄隊に、クーアはそっと語り掛ける。
同刻。アルヴァの暖かなる風光に導かれるように、セレナはするりと最後方のデッキに降り立っていた。
とたん。
前方から、激しい戦闘の音がする。
「なんっ……」
後方に乗っていた指揮官トライセルは慌てた。
けれども、その警戒心は、膜を張ったように向こう側にぼやける。リカのウインク――ほとばしる夢魔の魔眼が、頭に血をのぼらせる。
「どこを見ているの? そんなものより、夢を見ましょう?」
先頭車両に乗り込んだ二人が、陽動を開始しているはずだ。
セレナとアルヴァは頷きあった――。
●未熟な卵
「悪しき夢の揺り篭を止めるため、正義の味方の参上よ!」
堂々と、ほぼ真正面からやってきた闖入者に、ヘイトクルーたちは虚を突かれる。
びしびしと敵の殺意が蛍に突き刺さる。
それでよかった。
(蛍さんを、一人にはしません)
魔種の意気を挫くべく、珠緒は蛍とともにあった。
背を合わせ、呼吸を合わせ、息を合わせる。
舞桜――。
極寒の地下には、決して届かぬはずの桜がそこにあった。蛍の故郷の桜が舞う、闇を払う光輝があった。
(退かず、屈せず、諦めず!)
何度何度傷つこうとも、二人はそこに立ち続けると決めていた。
ゴーマンシェルが鳴動する。
列車が揺れる。大きく揺れる。先頭の車両の中では、二人だけがわずかに浮いて、この騒乱の中で、静止を、均衡を保っていた。
(蛍さん……)
蛍が攻めるなら、珠緒は守る。危険から遠ざけるという意味ではなくて……隣に立ち続け、見届けることで達成されるのだ。
「ありがとう」
この反応速度に、この世界についてこられるのは、珠緒だけだった。同じ景色を見ているのもまた珠緒だけだった。
茨の鎧が蛍を覆い、敵だけを棘で切り裂いてゆく。
ヘイトクルーも置き去りにして……黄金の残響があたりに満ちた。
後方。
「失礼、早々だが邪魔なアンタらには退場を願おうか」
アルヴァが、窓から飛び込んできた。
「トライセル――だったかしら」
セレナは魔女の装束を翻し、魔力をトライセルに突きつける。
「誰だ、貴様らはぁ! お前たち! 今が特訓の成果を見せる時だぞ」
「わたしね。アンタみたいな奴が大っ嫌い!
変態外道め、地獄に落ちなさい!」
セレナが掌上に浮かべた幻月が、黒紫の光を放った。
下にあるはずのない満月は、その場にいるものに凶兆を告げる。
(悪いんだけど手加減は出来ないし、する時間も無い)
英雄候補とおだてられた者たちが必死に繰り出す攻撃は外れ、トライセルの声は枯れていく。それが、彼らの助けになる。
「ひるむなァ! 気持ちがあれば当てられるはずだぞ!」
「気持ちだと?」
沙耶は鼻で笑った。
「全く、根性論で済む話があるわけがない! 戦力増加に必要なのは適切な作戦と戦法、緻密な準備だ!」
「なんだと?」
怪盗の三連撃がひらめいた。
後ろからとびかかる人間を狙った……と見せかけてトライセルをうちのめす。口ばかりではない、たしかな実力に裏打ちされたそれは戦場を広く見渡していた。
「ちっ、コイツ……」
「意外な攻撃だったかな? 根性があればかわせるのでは? あ、もしかして頭が根性論に染まってしまった君にはそのような単純な事すらわからなかったかな? これは失礼した。指揮官っぽいようだからてっきり頭がいいのかと思ったぞ?」
「貴様ぁああ!」
どうも頭に血が上っているらしい。
(思った通りだ。攻撃は単調。力任せだな。なら……)
沙耶は一歩引き、わざとの隙を作った。
「はっ、ははははは! その程度か? ……がっ」
無数のフェイクを織り交ぜた攻撃だ。本命の一撃に、トライセルは大きく吹き飛んだ。
トライセルを抑えたことで、人質めいた者たちの動きはどうしても鈍っている。
(いいぞ。3両目を切り離してくれるまでの耐久だ!)
●この方程式を
満開の桜の結界が咲き乱れている。
強烈に輝くそれは、ひとではない者たちの心もひきつけた。零桜が、異形の本が、いくつもの線分を浮かび上がらせる。
魔種と同じように、熱を帯びている。
鼓動を。きらめく脈動があった……。
「悪いわね、この車両は二人乗りなのよ
ボク達以外は下車してくれないかしら?」
蛍が手に持った聖剣は、桜色のオーラをたなびかせている。
藤、桜、魔物たちには、理解できない春。
それに焦がれるように、しかし、幼体はその言葉を持たない。ゆえに怒る。自分にはないものを見つけて、血をほとばしらせて怒る。
「憤怒を以て反転された貴方……珠緒では語る言葉を得られぬ程憤られておりますね」
御霊守を手に、珠緒はすっと息を吸って、背筋を伸ばし、終焉の帳を下ろす。
びくびくと動く卵は苦しそうに息を吐きだす。
「しかしその憤怒は行き場なき様子。珠緒が束ね、お返しします」
アンジュ・デシュ。憤怒よりも濃いような呪が、その場に押しとどめるのだった。そう。とどめる。とどめればいい。今この場で打ち滅ぼせられずとも、この場に立ち続けるためならそれでよかった。
攻撃を通じて、痛みが、怒りが――伝わってくる。
「多くは語りません。ご自身の痛みで悲しみを理解され、解き放たれませ」
破壊的な魔術。収束する魔力が、ゴーマンシェルとともに敵を打ち滅ぼそうとした。
●月は満ちた
前方は春なら、後方は夜。
セレナの満月が、列車内を照らしていた。
「根性論でする事がそれですか!」
夢幻の魔剣を夜から取り出すようにして、リカは切っ先とともに嗜虐的な笑みを唇に乗せた。
「ヘドがでますね! 言ってやりますよ!」
「ひ……」
トライセルは這うようにして逃げ出そうとしていた。
「人質がいれば手を出せまいとか!
私らに対する考えが!
甘いんですよ!
5年早いわこの短小●×※野郎!」
トライセルが口を開こうとしたが、リカは、返事を聞くつもりはなかった。いらない。
――首根っこ捕まえて、目を覗き込む、ただそれだけ。
そこにあったのは、先ほどまでの誘惑とはまるで違った。
体の中から、脳天から直接注ぎ込まれる妖蛇魔眼。雷光がはじけるように背筋を駆け抜ける。
真なる誘惑。夢の女王は雌のイデア。
快楽も苦痛も、意のままに。
怯えた表情のトライセルはやぶれかぶれにも持ちこたえたが、それでも、指揮には影響がある。膝をついたトライセル。
ガクガクと震えているのだった。
「もしや性欲まで緊縛に囚われているのですか? 気持ち悪い……」
リカは吐き捨て、夢幻の魔剣を掲げた。
大いなる魔力。呆然自失に陥ったトライセルは、それを避けることすら叶わない。
トライセルが人を操るために作り上げた恐怖は、そこにはもうない。
ギョルギョルギョルギョル、と……。
響く異音の原因に、魔物たちは思い至らない。
「護るのが利香なら、壊すのは私の領分なのです!」
いったいなにが、と息をのむ英雄隊に、アルヴァは笑みを向けた。
「悪いが急を要していてね、投降するなら後で回収に来てやるさ」
「もちろん」
セレナの神気閃光が、あたりをなぎ倒していた。思わず顔をかばう新時代英雄隊だったが、それは一つも彼らを傷つけなかったのだった。
「――この作戦が犠牲を強いるものである事を薄々感じていたひとも居るでしょう
でも安心して。わたし達が必ずあなた達を助けるから」
セレナは箒を手にして、床を蹴った。
そして、仲間はそれぞれに跳んだ。
「せーの」
クーアの、一撃。猫が気まぐれな一撃が、連結を切り離す。
「今!」
セレナの合図があった。
「あああっ!?」
揺れる列車は、のたうち大きく跳ねた。
3両目が、切り離される。戦いから切り離され、そして……。
止まる。
それが悪夢の終わりであると、英雄隊は知らなかった。ただ茫然とその場に立っていた
●後方からの援軍
「来る」
蛍と珠緒は、魔種を前にしてよく耐えていた。ヘイトクルーを蹴散らし、数を減らし、あまりにも過酷な猛攻に、咲き誇るように立ち止まっていた。
「『その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない……』」
蛍は言い、共有するように珠緒は微笑んだ。
来る。
系統は違えども、同じ意思を持った破壊的な魔術が、後ろからやってくる。
そして、それは吉兆だった。
「セレナさん……」
「来たわ!」
天まで届きそうなくらいのほうき星が、悪者めがけておちてきた。セレナの姿。桜はいまや月下に咲き誇る。
「とにかく火力を集中させて、カウントダウンが終わる前に倒すのよ!」
「よっと」
「待たせたね?」
《火遊びメイド》のメイド服を翻し、クーアの魔道火車が扉事ぶち抜くのだった。
クーアと怪盗リンネが参戦する。
「油断大敵だな」
慌てて緊急の何かを操作しようとしたヘイトクルーを、アルヴァの光が打ち抜いた。どう考えても間に合わないだろう距離を、アルヴァはすさまじい速さで移動してきていたのだ。
「列車の操作系統はこちらで抑えさせてもらうよ」
アルヴァの光輝の魔術が、襲い来るヘイトクルーをしばりつける。
アルヴァは警告を告げ、かかっていた錠前を素早い手つきで外した。緊急用のレバーを引くと、ゆっくりと列車のスピードは落ちていった。
まだ、止まりはしない。それでもずいぶんとやりやすくなった。狂ったような速度は少しずつ収まる。
……。
「上だ!」
アルヴァの声に、沙耶が素早く反応した。
(あの指揮官と、同じ戦法では間に合わないな。なら、私が作るのはスキだ!)
相手はまだ未熟だ。攻撃を誘い、大きく回って気を引いて。
沙耶こと、怪盗リンネは列車の中で飛び回った。
自由に、優雅に。
アルヴァのもたらす光のなかで、蛍と珠緒は呼吸を整える。慈愛の息吹が、桜吹雪に降り注いだ。
「あの魔種紛い。
あの有り様は正直なかなか悪くないと思うのです」
クーアは言った。
二つの月がゆがんだ。
クーアの無間赤月が、セレナのもたらす掌の月が、空間を大きくゆがませる。
「……アレが魔種紛いであるという事実と、アレが齎しうる被害を除けば」
金属音は、どこか悲しそうだった。
人の心があるかのようで。それから、怒っているようだった。
慟哭のように鳴り響く鼓動。
「……魔種ではあるようだけど、どうしてかしら。とても哀しく感じるわ」
セレナは、だからこそ箒星に祈る。歩みを止めるわけにはいかない。手向けとして、掌に向けた月を向ける。
「せめて意思のある内に葬ってあげるべきね」
見たことのない世界。
それは、興奮であり、おそらく喜びであったもの――今は塗りつぶされてしまった怒りとなって、ゴーマンシェルから鳴り響いている。
ほとばしる怒りをあおりながら、蛍は敵に向き合うのだった。崩落する運命に、業炎があたりを焼いている。
愛と勇気と友情と。すべてはここに、この胸に。
どうして、と、思わないわけではなかった。
(卵ってことはまだ赤ちゃんじゃない!
なんでそんなに暴れるの!)
流れ込んでくる記憶は言葉ではなくて。
分かり合えるようなものではなくて。
それでも、胸を打った。
「……そう、そんなにヒドい仕打ちを」
蛍は目を一瞬だけ伏せた。そして、光り輝くエクス・カリバーを改めて握りしめるのだった。
「救ってあげることはできないけど――これがせめてもの慈悲よ!」
●どうか安らかな眠りでありますように
「まずい、速度が」
列車の速度が再び早まる。
車両が、もたない。ゴーマンシェルは今にも爆発しそうなほどに膨れ上がっていた。
炎に包まれた列車。
ゴーマンシェルの脈動は止まらない。
「いったん、切り離すぞ!」
「ほいさ!」
離脱するしかないと判断し、アルヴァとクーアは協力して一両目を切り離すことにした。
その判断は正しかっただろう。
すさまじい爆音が響き渡った。
崩落する天井が、列車を押しつぶしていった。
最悪の事態は食い止められたはずだ。
しかし、あの爆発ですべてだったのか。
命を失ったか。あるいはまだ生きているのか……。
『心は消え、魂は静まり、全ては此処にあり』
珠緒は、祈りをささげる。
望むならば、安らかなる眠りがあらんことを……。
「爆発は私的にナシなのですが」
「おかえりなさい、クーア」
助けられたものもまた多くある。
新時代英雄隊の少年が、やってきた避難民と抱き合っていた。無理やりに引き離された者たちだったらしい。何度も何度も礼を言った。
「どうにかなったか……皆、もう心配はいらないからな」
沙耶は傷も抑えて、強がって見せた。
だが、彼らも帰るところがあるものだけではない。彼らの多くは暗い顔をしていた。
「楽だったんだ。トライセルの言うことに従ってるだけでも、楽だった……」
引きずってきたトライセルは、皇帝派に引き渡されたというのだ。
「アンタらが望むなら、俺の名の下に保護することを約束しよう」
アルヴァの言葉に、男たちは顔を上げる。
「別に助けるわけじゃない。俺は義賊として、自分に従う迄だ」
行くところがあるというのか。明日があるというのか。
それは、彼らにとっては考えたこともないような希望だ。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
列車奪還、お疲れさまでした!
救出対象はイレギュラーズに非常に感謝しているようです。
GMコメント
●目標
・「ゴーマンシェル(魔種のなりかけ)」の討伐
・新時代英雄隊にとらわれた一般人の生存
●場所
鉄帝地下道、廃列車内。
俗に新皇帝派からは<十四番線>と言われている地帯のようです。
新皇帝派は、投棄されていた古代兵器と線路を再利用するようですが、形状は汽車に似ています。
なお、<十四番線>は線路も遠く、補給路としてはあまり利便性がよくありません(例えば、爆発で崩れても避難していれば大丈夫です)。
●敵
・「ゴーマンシェル」
憤怒の魔種です。全身が機械でできた蜘蛛のような形をしていますが、卵の殻に覆われています。
その状態でも卵のヒビから足をはみ出させて、無差別に周りのヘイトクルーを襲っています。イレギュラーズには強い殺意を向けます。
かつて、「戦闘兵器」として育て上げられた鉄騎種です。
聞き取れない音を発しています。
・周りへの範囲攻撃
・時折覗くビーム兵器からの照射
・謎の「カウントダウン」
発声器官はありませんが、意思疎通を試みれば何かに怒っていることが分かります。説得は不可能と思われますが、父親から受けていた辛い仕打ちを感じ取ることができるでしょう。
カチコチと時計の音がします。カウントダウンが0になると完璧な魔種へと変じ、同時に爆発します。解除は不可能とみたほうがいいでしょう。動いてる列車であれば、逃げ場がありません。
なお、戦闘でのショック・ダメージはカウントには影響ありませんのでご安心ください。きちんと倒しきれれば停止して、猶予が長くなります。また、威力も弱まるでしょう。
・ヘイトクルー✕15前後
汽車に詰め込まれたヘイトクルーたちです。魔種を護衛していますが、無差別攻撃に遭い負傷するものも多いようです。
・新時代英雄隊 特別指導員「トライセル」
「どうしたんだ!? 嬉しくはないのか? 笑顔が一番だぞ!」
一見すると熱血指導教官……に見えますがやっていることは悪辣です。
ムチで縛り付け、そこに仕置きをするのが喜びです。
言葉こそ通じるようですが、説得は不可能っぽいです。
・新時代英雄隊
『英雄狩り』の名の下さらわれた一般人や子供たちです。過酷な訓練を課されていますが、その中でも適性がないものが選ばれています。つまり、あまり戦いが上手くなかったり、やる気がないものたちです。
「この作戦が終わったら解放する」と言い聞かされ、疑問に思いながらもそれにすがっています。ともに爆発する運命とは知らないようです。
●状況
・新皇帝派の作戦としては「前2車両を切り離して奇襲をかける(爆発を起こす)、皇帝派の部隊がいる方に向かって列車を突っ込ませる」というものらしいです。一般人は捨て駒であり、保護対象であるためにイレギュラーズや皇帝派も強くは出るまいと踏んでいます。
・廃列車は緩やかに走り出しています。しかし、イレギュラーズたちは作戦を知り、出発に間に合いました。こっそりと、あるいは正面から乗り込むことができるでしょう。
どこから乗っても構いません。
●<廃棄列車>
先頭車両↔後方車両
・[魔種+ヘイトクルーたち(比較的弱い敵)]ー[保護対象が多く乗る車両]ー[新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)指揮官+少数のヘイトクルー]
となっているようです。
・列車は連結器でくっついています。少々乱暴ですが後ろ2両は切り離せば止まります(エンジンは先頭です。)
・最初から最後まで一本道ですが、たびたび線路がすれ違いのための切り替えポイントを通過します。切り替えると揺れそうです。
・ヘイトクルー、あるいは指揮官は度々列車内を行き来して見張り、というか見回りをしているようです。
・一番前方の車両には、緊急停車レバーがあります。
・一番後方の車両には、指令を出すためのマイクが通じています。
ただ、これを用いなくても別の手段で意思疎通ができて構いません。
・イレギュラーズであれば列車の屋根に乗ったり、あるいは下にはり付いたり、なんて芸当も可能でしょう。保護対象の中に紛れ込むことも可能です。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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