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シナリオ詳細

<クリスタル・ヴァイス>修羅姫の帰参

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●新皇帝派と相容れず
(――一体、新皇帝とやらはこの国を如何しようってのかねぇ)
 無数の死体と、それによって出来た血溜りの中で、妖艶な雰囲気を纏った女は首を傾げた。女の名は、華幡 彩世(はなはた あやせ)。かつて、ラド・バウで『修羅姫アヤセ』と呼ばれた元B級闘士である。
 彩世は、バルナバス即位後にラド・バウから行方不明となり、盗賊団を創り出して率いた。全ては、不動 狂歌(p3p008820)と再び相見え、剣を交えるために。その目的は叶ったものの敗れた彩世は、狂歌と再度戦うために新皇帝派に与しようとしたが――。
(どいつもこいつも、如何しようもない)
 新皇帝派の隊をいろいろと見て回ったが、彩世が与しようと思える隊が皆無だった。それもそのはずで、本人は自覚こそしていないが元々自身の持ち得ない狂歌の善性に惹かれた彩世が、文字通りの弱肉強食を地で行き食物から人間から略奪していくような新皇帝派と性が合うはずなどなかったのである。
 さらに言えば、彩世にはバルナバスの目指すところが理解出来ない。わざわざ国力を衰退させるような所業を赦し、一体如何しようというのか。彩世の出身世界『天華(てんか)』は、様々な勢力が覇を目指して相争う戦乱の最中にあり、彩世はその勢力の一つ華幡家の姫だった。慣例に従い将となって戦場に出て、戦いに夢中になり幾多の戦場で死体の山を築いていたが、その一方で当主一族としての教育はしっかりと受けている。その彩世から、そして天華の常識からすれば、為政者が国力をわざわざ落とすと言うのは理解しがたいものであった。
 もっとも、バルナバスは鉄帝という国を新皇帝派の軍人らごと最後には滅ぼすつもりであるから、それを知らない彩世がバルナバスの意図を理解出来ないのも仕方ない。
 ともかく、そう言うわけで彩世は新皇帝派には与しないままふらふらと鉄帝を旅しており、今回も新時代英雄隊の「人狩り」に苦しむ村を救ったところだった。彩世の周囲に転がる死体は、全て「人狩り」に来た新時代英雄隊のものだ。
(ラド・バウに戻るとしようか……)
 これ以上、何処にも与せず無為に時間を過ごしても仕方ないと、彩世は感じるようになってきていた。狂歌もB級闘士であると言うし、ラド・バウにいれば共闘したり、試合で戦う機会もあるかもしれない。
 そう考える彩世の足は、いつのまにかラド・バウの方へと向いていた。

●帰参の条件
「ここに帰参したいと言う、貴女の意志はわかりました。ですが、条件があります」
「条件? 出来ることなら何だってやってやるよ」
 ラド・バウの中で、帰参を申し出た彩世に事務方であろう男が告げた。彩世は、可能な範囲で条件を受諾する意志を告げる。
「では――近く、地下道を探索する作戦が決行されます。貴女には、それに参加して頂きたい。
 その戦果次第で、帰参後の等級を決めましょう」
(――なるほど、禊ってわけかい)
 男が条件を持ち出してきた理由を、彩世は察した。ふらっと自分から出ていったのに、ただ戻りたいから戻して下さいと言われても、ハイそうですかとは行かない。それでは、他の闘士達が納得しないだろう。つまり、戻してもいいと思われるだけの功を挙げてこいと言うわけだ。
 将であった身としては、十分理解出来る話である――故に、彩世は参加を快諾した。

 男との話がまとまると、彩世は狂歌に手紙を出した。手紙は狂歌が息災であるかの問いに始まり、ラド・バウへの帰参を考えたこと、帰参の条件として地下道探索への参加を示されたこと、それを受諾して参加することが綴られていた。最後は、「だから、一緒に遊ばないかい?」と言う誘いの言葉で締められている。
「一緒に遊ばないか、か――アイツらしいと言えば、アイツらしいな」
 狂歌と彩世は、カムイグラで時に敵として、時に味方として戦った。新皇帝即位後には一度敵として戦ったが、今度は味方として戦いたいと言うわけだ。
「せっかくの誘いなんだ。無下にすることはないよな」
 ニッとした笑みを浮かべると、狂歌はその誘いに乗ることにした。

●挟撃
 彩世が参加する地下道探索については、ラド・バウから協力を要請する依頼がローレットに出されていた。狂歌はその依頼に名乗りを上げ、他のイレギュラーズ達と地下道探索に参加した。探索隊の陣容は、狂歌をはじめとするイレギュラーズ八名と、彩世をはじめとする闘士十一名の、計十九名。
 探索は、途中までは敵もなく順調に進むかに見えた。だが。
「――何かいる。どうやら敵のようだ」
 鋭敏な聴覚を持つ闘士の一人が、この先で待ち受ける敵の存在を探り当てた。敵との遭遇は当然想定内であり、一同は慌てることなく気を引き締めて、前からの敵に備えようとした。その最中。
「この声は――後ろからも敵だね。しかも、まずい奴だよ」
「知っているのか? 彩世」
「デミトリー・ミハイロフ中佐……アタシが見てきた新皇帝派でも、最悪の部類だよ」
 彩世が、後方から響いてくる声を感知した。その声の主を知っているらしい彩世に狂歌が問うと、彩世は嫌悪感に顔をしかめながら答えた。
 彩世の話によれば、デミトリーは新時代英雄隊の一隊を率いており、この隊による『英雄狩り』は特に苛烈であると言う。しかも、彩世は一度戦ったことがあるが、早々に逃げの一手を選ばざるを得なかったとのことだ。
「――魔種、か」
 彩世の実力を、狂歌はよく知っている。その彩世が早々に勝てないと判断したと言うことは――デミトリーを、狂歌はそう判断した。そして、その判断は間違っていなかったと、すぐ後に狂歌達は思い知る。
 ともあれ、このままでは前後の敵から挟撃されてしまう。如何対応するべきか、イレギュラーズ達は頭を悩ませるのだった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は、<クリスタル・ヴァイス>のうちの1本をお送りします。
 地下道の探索に入ったラド・バウの部隊が、偶然の産物ではありますが前方には冬狼や冬の精霊、後方には魔種デミトリー率いる新時代英雄隊と言う挟撃状態に陥りました(正確には三つ巴ですが、どちらもイレギュラーズ・闘士達を優先して狙ってきますので事実上挟撃となります)。
 前方であれ、後方であれ、敵を退けて活路を見出して下さい。

【概略】
●成功条件
 以下のいずれかの達成
 ・冬狼や冬の精霊の全滅
 ・デミトリー含む新時代英雄隊の撃退

●失敗条件
 ・ラド・バウ闘志達の全滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 鉄帝地下道内部。幅はそれなりに広いのですが、散開しての戦闘は困難でありそれなりに密集しての戦いを強いられることになります。そのため、この戦闘では複数回回避による回避ペナルティーが倍となります。
 また、天井があるため少し浮く程度なら別として飛行は不可能です。
 その他、環境によって戦闘に影響する要素は無いものとします。

●初期配置
 ラド・バウの部隊の前方に冬狼や冬の精霊、後方にデミトリーや率いる新時代英雄隊がいます。
 自分達がどう動くか、ラド・バウの闘志達をどう動かすかで初期配置は変わりますが、戦力を分散してそれぞれに対して足止めする形でない限り、片方と戦闘に入ったらもう片方も数ターン後には挟撃する形で参戦してきます。
 なお、戦闘前に配置を決定し組み直すことが可能な時間は、長くはありませんがあるものとします。 

【敵】
●デミトリー・ミハイロフ ✕1
 新時代英雄隊の一隊を率いる、筋骨隆々とした体格の憤怒の魔種です。新皇帝派軍人でもあり、階級は中佐。
 新皇帝派の――と言うよりも自己の利益のためなら犠牲は厭わない人物で、彼による『英雄狩り』は苛烈を極めています。
 回避は低いのですが、ただでさえ防御技術がやたらと高い上に皮膚の下に特殊装甲を埋め込んでいるため、【防無】、【弱点】、【邪道】、【乱れ】系BSは効果が半減します。なお、自身か部下にある程度損害が出れば、撤退します。また、冬狼や冬の精霊が敗れた場合、基本的に深追いはしません(彼らにとっても、この先の鉄帝地下道は未知です)。

・攻撃能力など
 ビームカノン砲身 物至単 【邪道】
 ビームカノン 神超貫 【万能】【識別】【防無】【崩落】
  【識別】は、味方を巻き込まないように撃ったり、巻き込まれないよう味方が動いたりする技術を表現するものです。
 拡散ビームカノン 神近扇 【弱点】【識別】【体勢不利】
 再生能力
 皮下特殊装甲 本文参照
 【封殺】耐性
 BS緩和

・【怒り】が入った場合の挙動
 デミトリーに【怒り】が入った場合、デミトリーは通常の【怒り】との挙動とは違い、出来るだけより多くの対象を巻き込んだ上でビームカノンを撃ってきます。
  
●新時代英雄隊 ✕20
 攻撃力、防御技術、生命力が高く、回避、反応は低い傾向にあります。
 5✕4の隊列を組み、効果的に量産型ビームカノンの弾幕を張ってきます。
 なお、このシナリオの新時代英雄隊には、やむを得ず参加している善良な人はいません(この情報のみ、情報精度A)。

・攻撃能力など
 剣 物至単 【出血】
 量産型ビームカノン 神超貫 【万能】【識別】【弱点】【体勢不利】
  【識別】については、デミトリーのビームカノンと同じです。

・【怒り】が入った場合の挙動
 新時代英雄隊に【怒り】が入った場合、新時代英雄隊は通常の【怒り】との挙動とは違い、出来るだけより多くの対象を巻き込んだ上でビームカノンを撃ってきます。

●冬狼 ✕20
 悪しき獣『フローズヴィトニル』が創り出した幻狼です。幻狼ですが、物理攻撃は普通に効きます。
 反応、機動力、回避、EXAに優れるスピードタイプです。

・攻撃能力など
 凍てつく爪 物至単 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【凍結】【氷結】
 凍てつく牙 物至単 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【失血】【凍結】【氷結】【氷漬】
 コールドブレス 神超貫 【鬼道】【溜】【識別】【凍結】【氷結】【氷漬】

●冬の精霊 ✕10
 悪しき獣『フローズヴィトニル』が創り出した幻の精霊です。幻ですが、物理攻撃は普通に効きます。
 命中と神秘攻撃に優れる後衛タイプで、冬狼の後方から吹雪の魔法を撃ってきます。
 精霊とは言いますが、厳密な意味での精霊ではないため、精霊疎通などは通じません。

・攻撃能力など
 吹雪の魔法 神/至~超/域 【邪道】【鬼道】【凍結】【氷結】【氷漬】

・【怒り】が入った場合の挙動
 冬の精霊に【怒り】が入った場合、冬の精霊は通常の【怒り】との挙動とは違い、出来るだけより多くの対象を巻き込んだ上で冬の魔法を撃ってきます。

【味方】
●華幡 彩世 ✕1
 不動 狂歌さんの関係者です。
 ラド・バウのB級闘士でしたが、新皇帝のバルナバスの勅令が発せられてから程なくして、行方を晦ませました。しかし、新皇帝派の所業に呆れ、ラド・バウに帰参しようとしています。ラド・バウとしても実力者である彩世が戻ってくること自体は歓迎なのですが、他に示しを付ける意味で今回の作戦への参加を禊としています。
 攻防共に隙がなく、さらに高いCTで多数相手でも割と何とかしてしまうのが特徴です。しかしながら、愛用の太刀を『<総軍鏖殺>修羅姫の企み』で狂歌さんに折られ、それが修理されていない分その当時よりは弱体化しています。
 その他詳細については、こちらの設定委託『修羅姫アヤセ』(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/4010)をご覧下さい。

・攻撃能力など
 刀 物至単
 薙ぎ払い 物至範
 衝撃波 物遠単

●ラド・バウ闘士達 ✕10
 今回の作戦に彩世と共に参加している、ラド・バウの闘士達です。平均してC級相当の実力は持っています。
 攻撃手段については、得物の別はあれど大体彩世と同じような手段を持っていると考えて下さい。

※彩世もラド・バウ闘士達も、イレギュラーズからの指示があれば基本的にそのとおりに動きます。
 指示をしたい場合は、どうさせたいかプレイングに明記して下さい。
 プレイングでの指示がなければ、GM判断で適当に動かします。
 なお、彩世とラド・バウ闘士達は別個に動かすことが出来、彩世への指示は狂歌さんからでなくても構わないとします。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <クリスタル・ヴァイス>修羅姫の帰参Lv:30以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年02月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
エリス(p3p007830)
呪い師
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

リプレイ

●迫る挟撃
「うわぁ、三つ巴か。全く、困ったもんだぜ……」
 『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)が、うめくようにつぶやいた。
 鉄帝地下に広がる地下道の探索に出たラド・バウの闘士達と護衛のイレギュラーズ達は、前方と後方から敵が迫りつつあることを知ったのだ。
「前から冬狼と冬の精霊、後から新時代英雄隊……挟み撃ちされる形になりますね」
「これは困りました……耐えるのは得意ですけど、さすがにこのままじゃ潰されかねないですよ」
 『呪い師』エリス(p3p007830)が言うように、三つ巴とは言え敵が前と後にいる以上、闘士達とイレギュラーズ達が事実上挟撃される形となる。その事実に、『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は頭を抱えた。いくら鏡禍が味方を護るために耐えるのが得手であるとは言っても、限界はある。
「慣れないことですが、手早く追い払って動けるようにしないとですね」
「そうですね。明らかに不利な状況ですが……皆さんを死なせないように頑張るしかないですね!」
 だが、状況を悲観してばかりもいられない。闘士達を生存させるためにも、どうにかして前方か後方かどちらかに突破口を作らねばならない。鏡禍の言に、エリスは深く頷いた。
(挟み撃ち、ですか。さあて……どうしよ……)
 鉄帝を襲う寒波に対処することが出来ればと勇んで調査に同行した『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)も、如何この状態に対処したものかと困惑する。
(フローズヴィトニルの事……また少し、知れるかと思ったけど……また遠のく……。
 『もどかしい』って……こういう気持ちを言うのかな……)
 『フローズヴィトニル』とは、地下の奥底に封じられていると言う伝説上の狼のことだ。この探索で少しでもフローズヴィトニルについて知ることが出来ればと考えていた『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は、一歩後退させられたような気分になっていた。
 一方で、『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)は前向きだった。
「偶然とはいえ会敵とは……運がいいのか悪いのかってやつですねぇ……。
 まぁ、ここで会ったのも何かの縁です。できるだけ新皇帝派を削っておきたいですね!」
 妙見子は、この状況を新皇帝派の戦力を削る好機と捉えていた。

「こうやってお前と共闘すんのも、久しぶりだな」
「確かに、カムイグラ以来だものねぇ」
 『鬼斬り快女』不動 狂歌(p3p008820)は、豊穣で敵としても味方としても遭遇してきた華幡 彩世に声をかけた。彩世は、ニッと笑みを浮かべる。自分ではそう認識していないものの、その善性に惹かれて狂歌を追うような動きをしてきた彩世としては、今回狂歌と共に戦えることが嬉しくて楽しくて仕方がない。
「獲物がないなら後ろに下がっててもいいが、その程度で下がるほど柔じゃねえよな?」
「アレを折られたのは痛かったけど、甘く見ないで欲しいねぇ」
 彩世の愛刀は、新皇帝バルナバス即位のすぐ後に敵味方として相見えた時に、狂歌によって折られてしまっていた。その修理が間に合っていないため、彩世はあり合わせの刀を携えていた。だが、得物が違うぐらいで修羅姫と異名を取った彩世が臆するわけがない。ましてや、今回は久々に狂歌と共に戦える機会なのだ。彩世がそれを逃すはずはなかった。
「それでこそ、だな。まぁ、無理しない程度に暴れるとしようや」
 狂歌もまたニッとした笑みを浮かべて、彩世に言った。

●破壊されたビームカノン
 前後から敵が迫る間に、イレギュラーズと闘士達は手早く戦術を相談し、配置を決めた。イレギュラーズ達が採ることにした戦術は、特に新時代英雄隊にとって驚愕するべきものだった。
 ちょうど配置が完了した頃合で、前方から冬狼と冬の精霊、後方から新時代英雄隊が姿を現し、交戦可能となる距離へと入っていった。

「『英雄狩り』ねぇ……別に、『英雄』を狩った所で新しい英雄に成れるわけじゃないんだけどな。
 後世の歴史は勝者が決めるとも言うが、そもそれでも英雄を定めるのは『外野』だ。
 ……つーわけでまぁ、外野の評価を正しく仰ぐ為に少々お付き合い頂きますか」
 飄々と新時代英雄隊に告げながら、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が戦闘の口火を切った。
 カイトの口上と共に、地下道の中であるにもかかわらず新時代英雄隊の上から雨が降り注ぐ。その雨は、一瞬にして凍結し部隊長である魔種デミトリー・ミハイロフを含む新時代英雄隊の身体を凍てつかせた。
「僕が、相手ですよ」
 鏡禍は、冬狼達に邪魔されないように壁際を、冬の精霊達の方へと駆けた。そして、手鏡から薄紫色の妖気を放ち、冬の精霊達へと浴びせかける。冬の精霊達は、鏡禍に敵意を向けると次々と魔法を発動し、鏡禍を吹雪で覆った。
「ぐっ……でも、僕は倒れません」
 妖怪としての不死性を持つ鏡禍は、必殺の気迫を込めた一撃を受けない限りどんなに傷つこうとも倒れることはない。そして、冬の精霊達のもたらした吹雪にはそのような必殺の気迫などは込められていなかった。
「皆を、生かす為に……」
 レインは、津波を発生させて冬狼達にぶつけた。圧倒的質量の水が冬狼達と衝突し、その身体をよろけさせる。この津波は、この後の戦術のための重要な援護だ。
(少しでも、新時代英雄隊を削っておきましょうか)
 カイトの降らせた雨によって凍てついた新時代英雄隊の一人を狙い、エリスは己の血から創り出した呪いの矢を撃った。呪いの矢は、鎧など存在しないかのように新時代英雄隊の一人の肩に突き刺さった。
(魔種を狙うよりは、取り巻きを攻めた方が良さそうですね)
 そう判断したルドヴィリアは、カイトの雨によって凍てついた新時代英雄隊を狙い、ラサを思わせる熱砂の嵐を発生させる。凍てついた身体に急に浴びせられる熱砂は、その激しい温度差によって新時代英雄隊の生命力を削り、苦悶の声を上げさせた。
「自己利益のためなら、ねぇ……で? 部下に囲まれて尚且つ特殊装甲ぅ? ……随分と臆病さんなんですねぇ~?」
 妙見子は、デミトリーの心理を読みつつその怒りを煽り、デミトリーの敵意を煽ろうとした。だが、妙見子の煽りはデミトリーには通じなかった。隊列を組んで戦いに挑むのも、戦いに備えて武装を整えるのも、軍人ならば当然のことだ。それを臆病と言われたところで、デミトリーからすれば取るに足りない戯言でしかない。
「貴方の相手はこの妙見子です! ……ひ弱そうな女で舐められたもんだと思ってますのでしょう? こちらこそ舐めないで頂きたいですね!」
 煽りにデミトリーが動じていないのを察しながらも、妙見子はデミトリーの前へと駆け出してなおも挑発を重ねた。だが、相手がイレギュラーズである以上、デミトリーに性差で相手を舐める発想はない。
「く……!」
 挑発が通じなかったことを察しつつも、邪を裁く力を巨大な鉄扇に宿し、デミトリーへと振るう。鉄扇の一撃はデミトリーに命中して傷を負わせたが、魔種の膨大な生命力からすれば被害はわずかと言えた。だがそれでも、脅威であるビームカノンを撃たせずにすめばと妙見子は考えていた。しかし、デミトリーからすれば至近距離に迫られようとも、妙見子を巻き込んでビームカノンを撃つまでであった。
(突っ込んでったか……逃げ道を作っておかないとな)
 サンディは、敵中に突入した妙見子を案じ、いざという時の逃げ道を作っておくべく多数のナイフを天井に向けて投げた。ナイフは天井すれすれを弧を描くように通り、新時代英雄隊の前衛へと降り注ぐ。ナイフは、新時代英雄隊の前衛を次々と貫いて、傷を負わせていった。
「んじゃ、俺はあっち行くから彩世はそっちよろしく。どっちが多く倒せるか競争な」
「数の競争なら、負ける気はしないけどねぇ」
 狂歌と彩世は、短く言葉を交わし合うと、真逆の方向へと駆け出していった。狂歌は新時代英雄隊の方へと、彩世は冬狼達の方へと。
「そいつは、撃たせねえよ」
 狂歌はデミトリーの前まで駆け寄ると、『斬馬刀・砕門』を大きく振りかぶり、渾身の力を込めて振り下ろした。「対城技」と呼ばれる対物破壊に特化した一閃が、デミトリーのビームカノンを両断する。
「貴様ァァァ!」
 デミトリーは狂歌に対して激昂しながら、破壊されたビームカノンを投げ捨てた。そして、拳で狂歌を殴りつけようとする。
「よっぽど頭に来たんだな。狙いが甘いよ」
 だが、狂歌はデミトリーの拳をヒラリと躱した。
「やっぱり、やるもんだね。でも、これで四つリードだよ」
 彩世はその間に、レインの津波を受けた冬狼達を連続で斬りつけ、四体を斃していた。

 新時代英雄隊は、その大半がカイトの雨により攻撃もままならなくなっていた。カイトの雨の外にいた新時代英雄隊はビームカノンを妙見子と狂歌に撃ちかけてきたが、護りの技術に長けた二人には軽い傷を負わせるに留まった。
 残る冬狼達は、ラド・バウの闘士達と互角の攻防を展開していた。

●冬の精霊 VS 新時代英雄隊
「次は、こいつだ――命運ごと『裏返れ』」
 妙見子と狂歌が敵中に飛び込みデミトリーに接近したことから、カイトは攻撃手段を変えた。
 黒い雨が「地面から」降ってデミトリーを中心とした新時代英雄隊だけを濡らしていく。その雨に濡れた新時代英雄隊は、運命を凶兆へとねじ曲げられた。周囲から見れば、新時代英雄隊が地面から出現した黒顎に呑まれたようにも見えた。
(鏡禍の……道を、作る……)
 レインは闘士達と冬狼達が戦う中へと進み出ていくと、背中に光の翼を生やした。ばさり、と光の翼が羽ばたけば、多数の光の羽根が舞い散り、闘士達を癒やして冬狼達を斬り刻んでいく。冬狼達のうち、先程の津波を受けた個体が次々と斃れていった。
(鏡禍君がそろそろ来るし、もう一丁行っておくか)
 サンディもまた、この後に備えて鏡禍の道を作ろうとする。再び、新時代英雄隊の前衛に向けて多数のナイフが投げられた。既に先に投げられたナイフによって傷ついていた新時代英雄隊は、再度のナイフを受けてバタバタとその場に斃れていった。
(さぁ、ついてきて下さい)
 冬の精霊達の敵意を引き付けた鏡禍が、縮地でも使ったのかと言うような速度でデミトリーの前へと移動する。邪魔されにくい壁際を通ったことに加え、既にレインとサンディによって道が作られていたため、鏡禍は何者にも邪魔されること無く移動することができた。
 そして、移動してきた勢いのままに、鏡禍は周囲の新時代英雄隊を次々と殴りつけていく。
(鏡禍くんが来たなら、下がらないとまずいですね)
「ちょっと、彩世と差が付いちまったな」
 妙見子は邪を裁く力を宿した巨大な鉄扇で、狂歌は斬馬刀・砕門で、それぞれデミトリーの側にいる新時代英雄隊を攻撃した。既にカイトやルトヴィリア、鏡禍の攻撃で負傷している新時代英雄隊は、巨大な鉄扇にも斬馬刀・砕門にも耐えきれずに斃れる。
 それぞれ新時代英雄隊を仕留めた妙見子と狂歌は、後退して鏡禍から距離を取った。
 入れ違いに冬の精霊達が鏡禍に引きずられる様に新時代英雄隊の方へと進んでいき、鏡禍を狙って吹雪を吹かせる。吹雪は、鏡禍だけではなくその周囲にいる新時代英雄隊をも巻き込んだ。吹雪の中で立っていられたのは、鏡禍とデミトリーだけだった。
 冬の精霊を誘引して、鏡禍ごと新時代英雄隊を攻撃させる――それが、イレギュラーズ達が採った戦術だった。冬狼や冬の精霊にとって、イレギュラーズや闘士も、新時代英雄隊も外部からの異物であり区別はされない。それをイレギュラーズ達は利用したのだ。
(さすがにこれだけ戦力が減れば撤退すると思いますが、もう少し削っておきましょう)
 エリスはやや前に出て、吹雪に巻き込まれなかった新時代英雄隊の一人に己の血からなる呪いの矢を放った。腹部に呪いの矢を受けた新時代英雄隊は、傷口を押さえて悶え苦しむ。
「さあ、ラド・バウの闘士達よ! 今こそ闘士の意地、ド根性の見せ所ですよ――圧し切りなさい!」
 ルトヴィリアは闘士達に高らかに告げつつ、エリスの呪いの矢を受けた新時代英雄隊を中心に熱砂の嵐を発生させた。その中で、エリスの呪いの矢を受けた新時代英雄隊が力尽きて倒れ伏した。
 ルドヴィリアの檄を受けた闘士達は奮起し、冬狼達に対して優勢に立ち始めた。

 部隊がほぼ壊滅したデミトリーは、撤退を選択。イレギュラーズ達は新時代英雄隊は追撃せず、戦力を冬狼や冬の精霊に向けた。こうなると、冬狼や冬の精霊に勝ち目は無かった。冬の精霊が鏡禍に無駄な攻撃をしているうちに、イレギュラーズと闘士達は冬狼達を殲滅し、次いで冬の精霊も全滅させた。
 前後から迫り来る敵を両方とも排除したイレギュラーズ達と闘士達は、パン! と掌をハイタッチしあって勝利を喜んだ。狂歌と彩世もまた、掌をハイタッチし合う。
「競争は、負けちまったか……次は、負けねえよ」
「今度もアタシが勝って、勝ち越したいところだねぇ」
 カムイグラを出てからの二人の勝負は、これで一勝一敗。次は肩を並べる立場になるか、対峙する立場になるかは不明だが、狂歌も彩世も次は勝利すると意欲を燃やしていた。
 そして、ひとしきり喜び合ったイレギュラーズ達と闘士達は、地下道の奥へ奥へと進んでいくのだった。

成否

成功

MVP

鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾

状態異常

鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。まさか冬の精霊をトレインして新皇帝派にぶつけて新皇帝派の撤退を促す戦術に出るとは、読めませんでした。この雄山の目を以てしても(●のリ●ク風)。
 MVPは、その戦術のキーマンとなった鏡禍さんにお贈りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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