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シナリオ詳細

<腐実の王国>白のドレスを朱に染めて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●結婚式
 エル・トゥルルに建立された、聖エランゼル教会は、かつて守護聖人エランゼルが祝福を施したという『聖なるシンボル』を抱く、荘厳な建築物であった。
 守護聖人エランゼルによって施された祝福は、永遠の幸せと愛。もちろん、それをなすには人の苦労が必須だろうが、そうだとしても、聖人の祝福という『お守り』があることは人々にはプラスの感情をもたらしたし、必然『縁起がいい』と、多くの新郎新婦たちが式を挙げる場所として、有名な場所となっていった。
 ――そんなわけだから、今日も幸せを求めて、若い男女が夫婦の誓いを立てる。この日行われた結婚式は、素朴な一市民たちのそれであるために豪奢とはいかなかったけれど、それまでに一生懸命に二人で貯めたゴールドを使って、少しだけ背伸びした式となっている。
 参列者は、夫婦の友人と、家族たち。決して大規模なものではなかったが、二人のスタートを切るのに最もふさわしい人たちを招待したつもりだった。
 新婦・セレナは、ウェディングドレスのヴェールにその表情を隠しながら、神父の口上を聞いていた。神の名のもとに結婚を認めるとか、永遠の愛を誓うとか、そういうやつだ。ありきたりな文言ではあっても、気分を盛り上げるのに実にちょうどいい。目の前には新郎のテリィがいて、少し緊張した様子を見せているのがわかる。かわいい人だな、と思う。けれど、緊張しているのはこちらも同じだ。
 二人の馴れ初めは、と考えれば、随分と幼いころからの付き合いだった。エル・トゥルルの街の一市民として生まれた二人は、隣り合った家で、家族ともども助け合って生きてきた。そんな幼馴染の二人がひかれあうのも、また当然といえただろうか。子供のころからの縁は、こうして結実した。そしてここで、永遠の愛を誓い、新たな人生の門出を迎えるのだ。
 新婦がにっこりと笑って、二人に視線を移した。永遠の愛を誓いますか、と、尋ねる。テリィはうなづいた。
「誓います」
 と。だからセレナも、少しだけはにかんで、こういった。
「――――」
「え?」
 と、テリィが目を丸くした。セレナはおかしくなってしまった。きっと通じていないのだろう。テリィは、ああ、愛しい人は、『悪魔の手先に違いないのだから』。なぜなら、彼は『ゆがめられた歴史のうちに生まれた存在だから』。ああ、ああ、きっと彼は、『祝福を受けていないのだ』。『真なる神からの祝福』。『あるべき本来の歴史に生まれし主』。ああ、ああ、残念だ『テリィは選ばれなかったのだ』。『祝福を授けられぬ彼には、きっと悪魔のしるしが浮かぼう』。『黙示の時に、きっと彼は天の裁きによって消え去るのだ』。『聖なるかな』。『聖なるかな』。ああ、ああ、そうですね、かみさま。これは私の役目なのですね。
 セレナはにっこりと笑うと、ごきり、と腕を鳴らした。そのまま、ごきごきと、まるでぎくしゃくとしたロボットのような動きをしながら――こぶしを振り上げて、テリィの顔面を殴りつけた。
 何度も。
 何度も。
 それが聖なる行いであるから躊躇などはしなかった。
 悪魔を滅するのは、選ばれた『祝福された』ものの使命であるからだ。
 善をなす。
 善をなすのだ。
 それをためらってはならない。
 たとえ愛したものであっても――。
 彼らは悪魔に魅入られたものなのだから!
 そうでしょう、みんな!?
「――――――!?」
 セレナは、何事かを叫んだ。それは我々には認識できぬ、まったく、未知の言語であった。
『――――!』
 参列者の何人かが、同じ言語で何事かを叫んだ。
 言葉の意味は分からない。
 ただ――なんとなく、意図は察せられた。
 うなづいたのだろう。花嫁の言葉に。
 それから、惨劇が起こるのに、さほどの時間はかからなかった。
 ああ、聖なるかな、聖なるかな。まるでその惨劇に涙を流して喜ぶように、壁に掛けられた『エランゼルの聖シンボル』が泥のようなものを滲みださせていた。

「イレギュラーズさんたち、大変だ!」
 エル・トゥルルに存在する、ローレット支部。そこに駆け込んできたのは、エランゼル教会で、結婚式をコーディネートするスタッフだった。
「と、とんでもないことが……ああ、神よ……こんなことがあって……!」
 ぶるぶるとふるえる男を、あなたたちは落ち着かせた。「何があったのです?」と尋ねれば、
「け、結婚式で、突然新婦と、一部の参列客が暴れだしたんだ!
 しかも、わけのわからない言葉を喚き散らしながら、狂ったように……!」
 その言葉に、あなたたちは視線を合わせた。おそらく、昨今発生している一連の事件に関するものだ。
 聖遺物や、それに連なる聖なる物品が何者かに汚染され、狂気を伝播してしまう。そして、狂気に陥ったものは、意味の分からぬ道の言語、『遺失言語-異言(ゼノグロシア)-』にて会話のようなものを行っている。
「それで、生存者はいるのか?」
「ああ、何人かは何とか逃げ出してきたらしい。ただ、逃げられないくらいに痛めつけられてしまった人たちは、まだ残ってる……!
 こ、このままじゃ、皆殺されてしまう……!」
「緊急事態ですね」
 イレギュラーズの一人が言う。
「依頼としては現時点で受諾、細かい書類は後でお願いします。
 すぐに向かいましょう! 作戦相談は走りながら、で!」
「了解だ! エランゼル教会ってのには、確か『聖なるシンボル』ってのがあったな。狂気の発信源がそれなら、さっさと破壊しないとまずい」
 仲間の言葉に、あなたはうなづいた。時は一刻を争うようであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 狂気に侵され、暴れだした花嫁。
 その白きドレスが完全に朱に染まってしまうかは、皆さん次第です。

●成功条件
 すべての敵の撃破・および『エランゼルの聖シンボル』の破壊

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 何者かの手により、エランゼル教会の、『エランゼルの聖シンボル』が汚染され、狂気を発し、伝播するようになってしまったようです。
 この狂気に感染した者たちは、強化、狂化され、『遺失言語-異言(ゼノグロシア)-』なる意思疎通不能の言語を使ってしゃべりだし、暴れだします。
 今回は、結婚式に参列していた参列客や、花嫁が狂化してしまったようで、新婦などを死亡寸前にまで痛めつけ、いまだに暴れ続けています。
 一刻の猶予もありません。皆さんは、現場に急行し、狂暴化してしまった人たちを無力化(生死は問いません)し、狂気の伝染源となっている『エランゼルの聖シンボル』を破壊する必要があります。
 作戦結構タイミングは昼。作戦エリアは教会聖堂内部です。特に戦闘ペナルティなどは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 花嫁、セレナ ×1
  ウェディングドレスを着た花嫁です。その口からはゼノグロシアを吐き、狂暴化したゆえに、まるで獣のように暴れまわります。
  非常に強力なアタッカー。このシナリオでのボスクラスです。至近距離~近距離を得意レンジとした、肉弾系パワーファイターとみてもらって構いません。
  狂気に陥っているためか、痛みに鈍感=防御技能も高め、です。BSなどのからめ手で攻めるのもいいでしょう。
  なお、彼女は『生存者』を狙う可能性もあるので、生存者を救う場合は足止めなどを考えてください。

 狂気の参列者 ×10
  狂気に陥ってしまった参列者たちです。新郎新婦の家族や、友人たちですが、今は恐るべき力を持った暴徒のようになっています。
  本来はただの一般人ですが、狂気のために、皆さんほどとは言わないまでも、強力な戦闘能力を持っています。
  やはり数が脅威です。まとめて蹴散らしたり、うまく誘導して連携をとらせないように立ち回ってください。

●味方NPC
 生存者 ×5
  暴行を受け、ひどく傷ついてしまい、動けなくなってしまった生存者たちです。神父や、新郎であるテリィなどを含みます。
  ひどく衰弱しているほか、全員『出血』系列のBSを付与されています。放っておけば死んでしまうでしょう。
  BS回復スキルを飛ばしたり、近づいて手当などをすれば、出血系列BSは解除されます。
  また、自力での移動は困難なため、担いで移動(主行動で行うものとします)させたり、あるいはかばって守ったりするとよいでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <腐実の王国>白のドレスを朱に染めて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月31日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

リプレイ

●ドレスは朱に染まるか?
 赤い。赤い色が聖堂の床に広がっていく。
 それが自分たちの体から流れ出るものだと知ったとき、新郎テリィ、そして残された神父たちの表情は絶望の色に染まった。
「どうして……」
 テリィが、痛みに苦しみながら声を上げる。
「どうしてしまったんだ、セレナ……」
 愛しい人の名を呼ぶ。されどセレナは、にっこりと笑い。
「――――――?」
 意味の分からない言葉を返すだけだ。
 ずっと彼女と生きてきた。幼いころから。そしてこれからもそうするつもりだった。
 分かり合っているつもりだった。たとえ言葉を失おうとも、彼女のことはわかるつもりだった。
 でも、今はわからない。何もわからない。言葉を違えるだけで、人はこんなにも分かり合えないのだろうか。
 愛したものですら。その狂気の一端を、わかってやることもできないのだろうか……。
「魔に飲まれてはなりません」
 神父が言う。その腕はひどく切り裂かれていて、しとどに赤く染まっている。
「彼女は……彼女たちは、魔にとりつかれているのです。諦観してはなりません。仕方のないことです……!」
 勇気づけるように、この状況においても、屈するな、と神父は言う。強い人なのだろう。聖職にありて、心強き人だ。
 そうだ。自分は今さっき、彼女を愛すると神に誓ったばかりじゃないか。諦めない。たとえこの場で自分が死ぬのだとしても、せめて彼女を『あきらめない』事が、自分のすべきことだと、テリィは理解した。
「先に、逃げた人たちがいます。結婚式のコーディネーターさんも」
 テリィが言った。
「助けを、呼んでくれているはず……ですよね。
 自分には力がない。でも、絶対に、セレナに僕を『殺させはしない』」
「そうです」
 神父が言った。テリィに、そしていまだ残されてしまった参列者たちに。
「祈り、耐えましょう。彼女のドレスを、親しきあなた達の血で汚してはならないのです」
 ああ……と人々は声を上げた。かわいそうなセレナ。そしてテリィ。身内式のようなものであった分、二人に親しみを持つ者たちが集まっていたから、参列者たちもまた、セレナ、そして狂気に陥ってしまった家族たちを愛していた。それゆえに、心強く、耐えることができていた。

 そんな血塗れた教会に向かう道を、八名の救出者たちが走り抜ける。
「結婚。血の繋がらない二人が家族になるという事。
 とってもめでたい事だ。
 俺と息子達ではできないし、
 父としては結婚による子離れが苦しいけど……。
 我が子が幸せになるならこの痛みは我慢できる。

 だからこんな不幸せな結婚式は我慢できない。
 絶対に死なせるものか……!」
 悔しがるようにそういうのは、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)だ。状況を聞いていた。どれだけひどいことになっているのかも。それにうなづくのは、『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)だ。
「ああ。最高の幸せ噛みしめる日だってのによ……何で邪魔が入っちまうかね。
 誰の仕業か知らねぇが……絶対に許さないからな」
 パカダクラの砂駆を走らせ、その背に駆る。ミーナは仲間たちに視線を映し、
「元凶は、例の汚染された聖遺物や祝福品、ってやつだ」
「ああ、確か『エランゼルの聖シンボル』というのがあるらしいですね。はるか昔の時代に、聖人が祝福を授けたシンボルだとか」
 そういうのは、『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)だ。
「原因はわかりませんが、それが今回の依頼の事件の元凶なのは確かです。すでにそういった報告もちらほら聞いていますからね。
 ……ふうむ、いったい何がなにやら……? まぁ、おかしくなっているらしいことは分かりますが。
 ええと、とりあえずは鎮圧すればいいんですかね……?」
「そうだね。狂気に陥った人たちも、元凶を破壊して、落ち着かせれば元に戻るらしいから」
 そううなづくのは、『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)だ。
「心配なのは、逃げ遅れた人たちもだよ。神父さんや、新郎のテリィさん、だったね」
「ええ。どうやら酷いけがを負っているようです」
 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)がうなづいた。
「守りながら戦うにしても、すぐに救出するにしても。何らかの手当は必要だと思います」
「手当は、私が担当いたします」
 静かに、『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)が言った。言葉は、いつも通りに静かに。しかし、その心中には『何か』が渦巻いているようにも見えた。それを確認するように、グリーフは続ける。
「……今この国で起こっている一連の不可思議な出来事。
 亡くなった故人を模した、誰でもない誰かを産み出すだけでなく。
 人の信じるもの、感情までも歪めて、生活を壊す。
 愛し合う方たちの、その愛までも歪める。
 私の目にうつる彼らの感情は、はたして。
 ……私は、怒りを覚えているのかもしれません」
 その表情に変わりはなく。しかし、心にざわざわとした何かを覚えつつ。グリーフがそういうのへ、『特異運命座標』セシル・アーネット(p3p010940)はうなづいた。
「きもち、わかります……僕も、こんなことはあってはいけないんだって。そう思う」
 セシルはトナカイのマーシー、そしてマーシーの引くそりに乗りながら、続ける。
「だから、みんなを助けたいんです。グリーフさん、僕も頑張ります。だから、力を貸してください」
「もちろんです」
 グリーフが静かにうなづいた。皆を助けたいという思いは、ここにいる全員が一致するところだ。
「見えました、エランゼル教会です……!」
 『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が声を上げる。目の前には荘厳で、神聖さを感じさせる白の建物が見えた。天義教会のシンボルを掲げたそれの入り口は開け放たれていて、ぐちゃぐちゃの足跡(赤黒いのは血の跡だろう)が見える。幸いにして野次馬もおらず、このまま一気に突っ込んでもよさそうだ。
「グリーフさん、念のため中の確認をお願いします。
 それから、私とベークさんでセレナさんたちをひきつけますから、その間にテリィさんたちを助けてあげてください」
「わかりました」
 グリーフがそううなづいて、ファミリア―を飛ばす。
「了解です。引き付け役は、慣れてますから」
 ベークもうなづく。
「見えました。幸い、『暴徒』たちと『被害者』たちの距離は離れています」
 ほかに適切な言葉もなかったため、グリーフはそう呼んだ。これからはそれに倣い、敵を『暴徒』と、救助対象を『被害者』と記述する。いずれにしても、両者の間はまだ離れているようだった。暴徒たちの意図は不明だが、それはイレギュラーズたちにとっても幸運といえた。
「ウェール殿、先行をお願いするよ」
 ヴェルグリーズの言葉に、ウェールがうなづく。
「ああ。自分が突撃するから、ついてきてくれ!
 さぁ、行くぞ皆!」
 ウェールが声を上げるのへ、仲間たちはうなづいた。絶対に、この場のすべてを救って見せる。その決意を胸に、今白亜の大聖堂に、イレギュラーズたちは足を踏み入れた。
 内部は恐ろしいありさまだった。床のあちこちは血でぬれていた。奥にはその拳を地で汚した『暴徒』たちがいる。奥には、ヴェールをまとった素朴な女性がいる。それは、白いドレスの裾を赤く染めて、優しい笑顔を浮かべていた。
「セレナさんですね……!」
 マリエッタが声を上げる。
「――?」
 何事かを、セレナがつぶやく。意図は不明。意味は不明。わからない。何も。
「今は、やるしかない……!」
 ルーキスが叫んだ。その通りだ。今は、為すべきことを為すしかないのだ。
「始めますよ、皆さん!」
「ああ。せっかくの結婚式だ、幸せを取り戻してやらないとな!」
 ルーキスの言葉にミーナが応答して、仲間たちもうなづいた。
 果たして、救出劇は幕を開ける。

●白のドレスを抱きしめて
「行くぞ!」
 ウェールが叫んだ。仲間たちはいっせいに動き出す。
「――!?」
 『暴徒』たちが一瞬、浮足立ったが、すぐに怒号のような声を上げてその拳を振り上げた。中には、結婚式の儀式に使ったであろうナイフなどを所持しているものも見える。
「狂気に陥って、戦闘能力は上がっているはずです」
 ルーキスが言った。
「くれぐれも気を付けて。それから――」
「うん。誰も死なせない、だね?」
 ヴェルグリーズがうなづく。だれも、だ。敵も、味方も。皆が被害者なのだから。
「さぁ、マリエッタさん、やりますよ」
 ベークがそういって、ゆっくりと構える。マリエッタも構えを取った。
「サポートします! 熾天宝冠――そのいただきに輝いて!」
 ふわり、とその手を振るった。聖印が輝き、その光が天に昇りて恩寵を降らせる。ベークはそれを受け取りながら、
「さて、少しここで相手をしてもらいますよ。聞こえているのかは知りませんが」
 甘い香り、を放った。それは実際に甘い香りであるが、それ以上に蠱惑の香りである。受け取れば、目を離せぬ。魔性の誘い。
「花嫁は任せろ」
 ミーナが言った。駆けだすと同時に、テリィに視線を向ける。
「もうすぐ助けがくる……それまで死ぬな。踏ん張れよ」
 それから、セレナへと、強く視線を向けて、
「あんたもだ、花嫁さんよ。絶対に私が助けてやるから……訳のわからねぇ声になんざ負けるな!」
 そう叫ぶ。
「――? ――――。――――」
 何事かを、セレナが言った。小首をかしげる。暴徒たちが「――! ――!」と声を上げた。
「――! ――! ――――! 『――――――』。――?」
 何かを会話している。何か、得体のしれない言葉で、意思疎通を行っている。それがあまりも奇妙で、違和感を覚えさせる。
「まったく……崩れないバベルの埒外にいるってのが、ここまで違和感を覚えさせるなんてな……!」
 ミーナが言った。その見た目が化け物であれば、あきらめもついただろうか。しかし目の前にいるのは、同じ人間なのである。違和感は、激しい。
「抑えるぞ! 新郎や神父たちを!」
「はい」
 グリーフが、被害者たちのもとに駆け寄った。ゆっくりと瞳を閉じて、祈る様に手を合わせる。荘厳な光が、あたりを包み込んだ。
「もう大丈夫です。これから、私たちの指示に従ってください。すぐに傷も言えるでしょう」
 荘厳なる、号令。クェーサーアナライズ。その魔性の言霊が、被害者たちの心を落ち着かせ、同時に出血を抑えていった。
「ああ、ローレットの方ですね……? 助けを……?」
「はい。ご安心を。それから、セレナさんたちも、必ず助けます」
「た、頼むよ」
 被害者の一人の男が言った。
「俺の妻も、おかしくなっちまったんだ……たのむ、殺さないでやってくれ……!」
「もちろんです」
 グリーフは、表情を変えずとも、安心させるように力強くうなづいた。
「一人ずつ運搬していきます。私は、ここで待機を」
「了解! さぁそりに乗って! マーシー行くよ!
 安心してください。大丈夫です! 僕が守りますから!」
 セシルがそういって、そりに被害者をのせた。マーシーがうなづくように首を振り、
「ヴェルグリーズさん、この場所の確保を……!」
「任せてほしい」
 ヴェルグリーズがうなづく。ゆっくりと刃を引き抜いた。ベークたちの『抑え』から抜けてきた暴徒に、ゆっくりと立ちはだかる。
「俺達を信じて、目を逸らしていてくれてかまわない。
 ……たとえ殺さないとしたって、隣人と誰かが戦っているなんて、見たくないよね?」
 ヴェルグリーズの精いっぱいの配慮だった。それを理解していたから、被害者たちもヴェルグリーズたちを信じ、そして、
「神よ……この勇敢なる優しき勇者たちに祝福を……」
 そういって、無事を祈ってくれている。ヴェルグリーズが斬撃を、襲い掛かってきた男性暴徒に叩きつけた。いわゆるみねうちだ。直撃を受けた暴徒たが倒れ伏す。ああ、と被害者たちの間にどよめきが走った。
「セシル殿、この人も運搬を頼むよ! 万が一があってはいけない!」
「はい! 任せてください!」
 セシルがうなづく。その一方、ルーキス、ミーナがセレナと相対していた。セレナは拳を固く握り、狂ったように殴りつけてくる。花嫁の細腕は、まるで魔力と狂気に守られるように、怪物の剛腕のような衝撃を与えてくる。
「くっ……これほどとは。厄介ですね」
 ルーキスが一撃を受け止めながら言うのへ、ミーナがうなづいた。
「ああ。全力で……とはいかないからな……」
 抑えながら戦うのは、イレギュラーズたちへの負担は大きい。さらに言えば、被害者の救出に戦力をさいているのもある。必然、せん滅力は落ちていた。
「けれど……ここで私たちがあきらめるわけにはいかないからな……!」
「そうですね……そうですとも!」
 ルーキスがその刀の腹で、セレナの拳を打ち払った。「――!」苛立たし気に、セレナが声を上げる。
「わからねぇよ、なんていってるか。でも、愛する彼には、わかる言葉で、告げてたんだろう。愛してるってな」
 ミーナが構える。
「ちゃんとわかるように言ってやれ。これからも、ずっとな」

「――!」
 雄たけびとともに、暴徒たちが襲い掛かってくる。ベークはその一撃を、大旗でいなした。バランスを崩した暴徒の男に、マリエッタがその手をかざす。神気・閃光。放たれる聖なる光は、命ではなく悪徳を刈り取る。意識を失った男が倒れた。マリエッタはそれをかばうように、一歩を前に出る。
「せめて、被害者の皆さんが無事に教会から出るまでは、倒れたりはしません……!」
 マリエッタの言葉に、ベークは静かにうなづく。二人は生命線だった。仲間たちの、そして被害者たちの。二人が傷つき、それでもなお立ち上がるからこそ、彼らは命をつなぐことができていた。
「すまない、遅れた!」
 ウェールが叫び、仲間たちともに現れた。
「被害者は全員無事だ。セシルも頑張ってくれた……!」
「お役に立ててよかったよ!」
 セシルがほほ笑む。
「さぁ、次はこの人たちを救いましょう!」
「そうだな。俺達も、ここからは攻撃に転ずる。傷ついているなら、いったん下がってくれ!」
「大丈夫ですよ」
 ベークが言った。
「まだまだ。倒れたりはしません」
「そうです! さぁ、もうひと頑張りです!」
 マリエッタがほほ笑む。一方で、ヴェルグリーズはグリーフとともに、戦線深く切り込んでいた。
「あの『聖シンボル』……あれが元凶でしょうか」
 グリーフがそういうのへ、ヴェルグリーズがうなづく。
「情報通りなら、間違いないはずだ。今のうちに破壊してしまおう。手伝って、グリーフ殿」
 ヴェルグリーズが刃を構える。そのまま一気に駆け出した。振るう刃が、聖シンボルの深い傷をつけた。その内から、泥のようなものが、血の様ににじみ出る――汚泥のような、泥。
「とどめを」
 グリーフがその手を掲げる。無数の炎欠片が、桜花が散る様に舞い踊る。美しき炎の舞は、汚泥をまき散らす聖シンボルを、その熱で浄化し、破砕せしめた――。
「――!!」
 花嫁が絶叫する。ああ、ああ、なんと罰当たりな。なんと恐ろしいことを。そのような感情がのせられているような気がした。狂気に陥った者たちにとって、あれは間違いなく聖なる何かであったのだろう――悪しき、何かだ。
「――、――!!」
 花嫁が、その拳に力を込めて殴りかかる。ミーナの刃が、それを受け止めた。
「そんな顔するなよ。結婚式なんだろ? 幸せいっぱいに笑ってくれ」
 ミーナが、刃の腹を振るい、花嫁の拳を打ち払った。そのまま、腹部に蹴りを入れる。ごふっ、と呼気を吐いて、花嫁がたじろぐ。
「ルーキス!」
「はい!」
 ルーキスもまた、その刃を返し、みねで鋭い斬撃を見舞った。体を駆ける、衝撃! 痛みが花嫁の意識を刈り取る。「ああ……」と声を上げて、花嫁が頽れた。ルーキスがとっさに、それを受け止める。
「大丈夫です、意識を失っただけです」
「ああ。残りのギャラリーも止めてやらないとな……!」
 残りはほんの数人の参列者たちだ。ウェールが参列者たちの足元に、けん制するようにカードを打ち払う。
「俺は加減ができないからな……! すまないが、けん制にとどめさせてもらう」
「ありがたいよ!」
 ヴェルグリーズがほほ笑み、その刃のみねを参列者に叩きつけた。ぐ、と意識を失って、参列者が倒れる。ほどなくして、辺りは静かになった。
「これで全員、ですね」
 グリーフが言った。
「念のため、傷の具合を確認します」
「ああ、私も」
 マリエッタが声を上げる。
「手伝います」
「セシルさん、ひとっ走り、騎士団に連絡をお願いできますか?」
 ルーキスが言う。
「外の人たちも傷は深い。早めに病院で見てもらった方がいいでしょう」
「うん! わかりました!」
 セシルがうなづき、マーシーとともに駆け出していく。
 一方、ミーナは破砕された聖シンボルをにらみつけながら、怒りをあらわにするようにつぶやいた。
「どこから来たのか知らねぇが……私、かなり怒ってるからな」
 聖シンボルへ、正確には、それにとりついた悪意に向けて。
「厄介なことになりそうですね……」
 ベークのつぶやきに、ミーナは同意した。
 事件は続いている……その気配を感じつつ、イレギュラーズたちは救助を再開した。

成否

成功

MVP

グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この後、参列者と花嫁は正気を取り戻しました。これはどうしようもない事件だということで、参加者たちの間での禍根はないようです。
 後に、また改めて、二人はささやかな式を挙げるのでしょう。

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