PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<腐実の王国>おいしくたのしい喰肉祭

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃり。ぐちゃぐちゃ、ぐちゃり。
 べちゃべちゃ、べちゃり。べちゃべちゃ、べちゃり。
 不快な湿った音が絶え間なく繰り返される。
 それは『彼ら』の食事の音。肉を裂き、骨から剥がし、咀嚼する音。
 濁り、歪んだ黒いスライムの様な塊が、無数の腕と刃を生やして獲物を解体する。
 そして腐臭が漂う大きな口を生やして、獲物を喰らう。
「美味しいです? 美味しくないです? 身が硬いです? 脂っぽいです?」
「正しいです? 間違ってるです?」
「赤いです? 白いです? 黒いです?」
『彼ら』はスライム状の身体にちょこんと乗せた仮面を震わせ、機械的で無機質な声で意思疎通を取る。その言葉に大した意味があるとは思えなかったが。
「やめ、やめて、くれ……」
『彼ら』に生きながらゆっくりと足を喰われている男は、意味が無いと分かっていながらも命乞いをする。
「やめてほしいです? いきたいです? でもそれは出来ないのです。それは正しくないですから? 間違ってるは直さないとダメですから?」
「悲しいのです? 嬉しいのです? 楽しいのです」
「青いのです? 赤いのです?」
 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃり。べちゃべちゃ、べちゃり。
 食事が終わった。
「食べ終わったのです? おいしかったです」
「次はどこにいくべきです? 致命者様に聞くべきです?」
 ここは、天義の一角。街から離れた場所に建つとある宿『だった』。壁も床も誰かの血と肉片で染め上げられ、その身分も年齢も性別も関係なく、その場に居た人間は全員喰い殺された。
「おつかれ、リンゴちゃん、ソラちゃん、ユキちゃん。もう終わった?」
 と、そこに。小さなクマのぬいぐるみを抱えた金髪の少女が姿を現した。赤と青と白。3つの仮面が少女の方を向く。
「食べ終わったのですキキ様。美味しかったのです?」
「そっか、ちゃんと残さず食べられたんだね。偉い偉い」
 キキと呼ばれた少女が3体の怪物を優しく撫でると、彼らは全身を震わせて喜びを表現した。
「キキ様もいっぱい冒険者殺してたのです。すごいのです?」
「まあ、これでも結構強いからね。えっへん」
 少女が胸を張ると、怪物たちは黒い手を生やしてべちゃべちゃと拍手した。
「じゃ、行こうか。とりあえず肩慣らしにここの皆を食べたけど。次は船に乗って幻想に向かうよ」
「幻想です? 貴族食べられるです?」
「貴族は美味しいもの一杯食べてるです。だから食べたら美味しいのです?」
「太った貴族とか食べたいのです?」
「いっぱい人も居るだろうから、選り取り見取りだと思うよ。バイキング、あるいは食べ放題!」
 怪物たちはぐちゃぐちゃと嗤う。
「祭りなのです。食べ放題の祭りなのです?」
「喰肉祭なのです」


「どうも。ここしばらく鳴りを潜めていた影の軍勢による殉教者の森の侵攻。アレ関連でまた新たな動きが出たみたいだね」
【ガスマスクの情報屋】ジル・K・ガードナー (p3n000297)は、イレギュラーズ達に説明を始める。
「なんでも、天義の法王、シェアキム六世に神託が下りたんだってね。えっと、確か内容は――」

 ――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
 主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

「だとか何とか。まあ要は自分たちは正しくて悪いのはお前だって話かな? 歴史云々はよく分かんないけど。で、その神託で天義は結構混乱してるみたいだね。当然騎士団員達も動き出したんだけど……このタイミングで、新たな進軍が始まったんだよね」
 事が起きているのは『ヴィンテント海域』近辺。天義と幻想の国境に位置するこの海域の周辺で、進軍が起きている。
「色んな場所で事件が起きているけど……今回皆が相手取って貰うのは、黒くて大きくて不定形なスライム状の怪物、ワールドイーターと、彼らを率いる少女だね」
 彼らは現在小さな小舟に乗り、かなりの速度で幻想の港町『サガート』に向かっていると。イレギュラーズ達と彼らが町に到着するのはほぼ同時。恐らくはイレギュラーズ達の方が僅かに早い為、その港町で彼らを迎え撃つという形になるだろうとジルは言う。
「彼らは既に天義内で複数の襲撃事件を起こしている。被害者は解体されたり、生きながら喰われたり。とにかく残酷な方法で喰い殺されている。人を食べるという行為そのものを楽しんでいる様だね」
 これ以上の事件を起こさない為にも、ここで確実に仕留めて欲しいとジルは付け加えた。
「……まあ、こんな所かな。敵の数は少数。だけど少数精鋭と言っていい戦闘能力を持っているみたい。油断せず、確実に依頼を達成して欲しい。それじゃ、頑張ってね」

GMコメント

●成功条件
 3体のワールドイーター、並びに致命者キキの撃破。

●戦場情報
 幻想の港町サガート。の、港。時間帯は昼。
 港のすぐ傍に民家や商店が立ち並んでおり、活気づいていてそれなりに人が多い。
 そこまで大きな港でも無く視界も広い為、港に近づいてくる小舟を見逃すという事は無いと思われる。

●ワールドイーター『リンゴちゃん』
 赤い仮面を載せた黒いスライム状の怪物。鋭い刃を無数に生やして獲物を解体する。
 至~中距離の物理単体、列攻撃を行う。攻撃には重い『出血系列』のBSや『ブレイク』を伴う。単純な物理攻撃力が他ワールドイーターよりも大きく秀でている。

●ワールドイーター『ソラちゃん』
 青い仮面を載せた黒いスライム状の怪物。全身から棘や巨大な腕を生やし、獲物を刺して叩いて伸ばす。
 近い~遠距離の物理単体、貫通攻撃を持つ。攻撃には『毒系列』のBSや『怒り』を伴い、攻撃してきた相手には身体から生やした『棘』で反撃する。

●ワールドイーター『ユキちゃん』
 白い仮面を載せた黒いスライム状の怪物。無数の手を伸ばして獲物を絞め上げ、引き千切る。
 近~遠距離の物理単体、貫通、範囲攻撃を持つ。攻撃には『足止系列』『窒息系列』『乱れ系列』のBSを伴う。

●致命者『キキ』
 クマのぬいぐるみを抱えた金髪の可愛らしい少女。かつてアドラステイアの渓に落とされ命を落とした少女と姿が一致している。
『呪い』を帯びた『炎』や『氷』の刃、魔力の弾丸、回復魔法など、いくつもの魔術を行使可能。神秘攻撃力と回避の能力が大きく秀でている。

 以上です。よろしくお願いします。

  • <腐実の王国>おいしくたのしい喰肉祭完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 晴れ渡る青空が広がるヴィンテント海域。港町サガートの食堂の煙突からは肉を焼く煙が立ち上がる。
 積み荷を降ろしていた船員たちが、昼飯は何にしようかと腹の虫を押さえた。
 のどかな、よくある風景だろう。
 だからこそ、壊すわけにはいかないと『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は桟橋の上に乗った。指先を天に掲げ風と水の精霊達へ語りかける。
 オデットの声に呼応して現れた水色と黄緑色のマナの塊。
「私のお友達、よかったら力を貸してくれないかしら?」
『何を探すの?』
「……この港に向かって来てる小舟よ。すごく速いの」
 精霊がくるりと舞い上がり、海岸線をじっと見つめる。
 オデットの隣では『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も双眼鏡を覗いていた。
「見逃さないように注意しておかないと!」
「ええ。先回りして人の多い方に行かれないようにしないといけないものね」
 何が起っているのか、起ろうとしているのかスティア達には敵の目的すら掴めていない。
 けれど、虐殺を許すわけにはいかないのだ。
「まずはできるから地道にやっていくしかないのが辛いけど……」
 迫り来る危険を見て見ぬ振りはできないと強く拳を握るスティア。
「――絶対に止めてみせる!」

 見知らぬ『イレギュラーズ』が集まっている。
 それは昼時の港町の人々にとって興味をそそられるものだろう。
 近づいて来るリーダーらしき男に『闇之雲』武器商人(p3p001107)は「しぃ」と指を唇に当てた。
 男の頭の中に響くのは妖艶な武器商人の声。
『やァ、突然悪いね。ローレットのイレギュラーズだ。この辺で人に害を及ぼす危険な生物と交戦するから、落ち着いて港から離れてほしい』
『何だって? そりゃ大変だ。すぐに避難させる』
 慌てて踵を返した男は様子を伺いに来ていた仲間へ指示を飛ばす。人々が逃げて行くのを武器商人の広域の視界が捉えていた。
「それにしても、随分とまあ、食欲旺盛なコたちみたいだね。我(アタシ)みたいな、何で出来てる様なわからないモノを食べて……腹を壊しても知らんよ? ヒヒヒヒヒ……!」
「生きているものには、ご飯が必要です。ですから、命をいただくときは感謝する。敬意を払う」
 近づいて来る小舟を見つめ『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は眉を寄せる。
 彼ら――致命者キキとワールドイーターの『食べ方』は命を粗雑に扱う、敬意とは真逆のものだ。
「……よくないのです」
 これ以上、残酷なやり方で潰える命を増やさないために。自分達は此処へ来たのだ。

 白波立て小舟が近づいて来る。
 其処へ乗っているのは三体のワールドイーターと致命者だ。
「合計四体の敵ですね。海の方から、しかも船に乗って来るなんて普通は夢にも思いませんよね」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は深く溜息を吐く。
「とはいえ、小さな子供と大差ない気はしますが……」
「さて、なんでワールドイーターがこっちに出てきてるんですかね?」
 眉を寄せた『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は『ワールドイーター』に対して引っかかる所があった。あれは練達の『ROO』の中で発生したモンスターだったはず。
 それが何故、とベークは思考を巡らせる。
「いや、なんでもいいんですけど。混沌は不思議がいっぱいですし……でも、うーん。食べられたくはないんですけどね。大丈夫ですよねぇ……?」

 視界に映るのは、幼い少女。
 小舟から飛び降りた致命者『キキ』はイレギュラーズを見遣り嬉しそうな笑みを零した。
「あは……食べがいがありそう」
 きっと、彼ら(イレギュラーズ)を食べればお腹が満たされる。
 何度も何度も何度も、そうやって『食べて』きたから。
 美味しくて美味しくて美味しくて。想像するだけでお腹が鳴ってしまいそう。

 キキの後ろ小舟と桟橋の隙間から水を纏って飛び出してきたのは『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。仲間と挟み撃ちをする形でワールドイーターに対峙する。
「このオークの、食いでのありそうな豚肉の魅力に果たして耐えられるかな?」
 即座に振り向いた青い仮面のワールドイーター『ソラ』がゴリョウに怒りを露わにした。
「肉です! 肉のぶんざいです! はらだたしい、はらだたしい!」
 ぶるぶると震え飛びかかるソラにゴリョウは歯を見せて笑う。
「クハハッ! そんなに美味しそうに見えたか? 人を煽るってんなら、煽られる覚悟もあるんだろ?」
 ソラが怒りを示しているのはゴリョウが自身の戦い方をそっくり真似て来たからだ。
「すぐ食べます! 食べます!」
「その割には、ずいぶん手間取ってるじゃねぇか。豚さんを料理するのは初めてかい?」
 黒い腕を薙ぎ払ったゴリョウは続けざまに漆黒の盾をソラへと叩き込む。
「それとも豚肉は柔らかくすることもせずにそのまま齧りつく派かな? いやぁ野蛮だねぇ! 料理の仕方教えてやろうか? ぶはははッ!」
 地面に黒い液体が飛び散った。それは再び収縮し元のワールドイーターの形状へ戻る。
「もしかして、攻撃が効かないですか?」
 メイの問いかけにゴリョウは首を振った。
「いいや、手応えはあったぞ」
「そうね……ゴリョウの言うとおり体力は減っているわ」
 フルールがソラを分析すれば先程より弱っている事が分かる。

「ソラちゃん! ユキちゃん! リンゴちゃんも気を付けて……!」
「キキ様!」
 頬を膨らませたキキはワールドイーター達の名を呼ぶ。
 そのキキの前に立ち塞がるのは『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)だ。
 自身へ守りの術式を展開したルチアは、キキへ手を翳す。
 瞬間、青空から光の柱が幾重にもキキに降り注いだ。
「きゃ!? なによおこれ!」
「あなたの好きにはさせないよ」
 鋭い瞳をルチアへ向けたキキは頬を膨らませる。ルチアの思惑通り、キキを引きつける事に成功した。

「そっちは任せたよゴリョウさん、ルチアさん! 私はこっちの白い仮面の方を押さえるね」
 スティアは仲間とは反対方向へと走り、ユキへと魔力で作った矢刃を放つ。
 空気を切り裂く魔刃はユキの黒い胴を切り裂いた。
 飛び散る黒い液体を巻き上げながらユキはスティアへと走り出す。
「ダメです! だめです! 食べますから! 食べます!」
 スティアの目の前へと跳ねたユキは彼女の首目がけて手を伸ばした。
 黒い手がスティアの白い肌を締め付ける。
「……そんなの、きかないよ!」
 ユキの締め上げをものともしないスティアは手にした聖書から光の刃を作り上げた。
 それを天高く掲げ、ユキへと振り下ろす。
「アア! 痛いです!」
 真っ二つに割れたユキの身体は、片方が元に戻らず地面へ溶けた。
 スティアはフルールに視線を送る。彼女のエネミースキャンの分析で弱ったことを裏付けるのだ。
 フルールが「大丈夫」と頷き双眸を上げる。
 その対角線でリンゴを相手取るのは武器商人だ。
「んふふ……我を食べたいの? 少しだけならつまみ食いしても構わないけど……きっと、お腹を壊してしまうよ? それでもいいいなら……ふふ」
 武器商人の妖艶な三日月の唇から甘い声が紡がれる。沸き立つ感情は怒りなのだろう。或いは武器商人から発せられる底知れぬ恐怖なのかもしれない。
「おこ、怒ってます! 食べます! 食べます!」
「ふふ……その辿々しい喋り方。まだ上手く『真似』出来てないねえ。そういう拙さも可愛いけれど」
 出来損ないを愛でるように武器商人はリンゴへと言葉を掛ける。

「可愛い名前のわりにかわいく無い見た目ね、私ならもっと別の名前にするのだけど」
「何ですって!」
 オデットの声にぷんぷんと拳をあげるキキ。
「まぁいいわ、か弱い妖精を食べられるものならどうぞ……」
 ルチアがいる時点で負ける気なんてしないとオデットは手を高く掲げた。
 髪に輝く水晶のひかり。その輝きが光量を増す。
 それはオデットが作り出した小さな太陽を反射したから。
「まずはこっちの赤い子から……!」
 柔らかな陽光はその恵みを求む者に優しく降り注ぐだろう。されど、強すぎる光は時に害悪となる。
 オデットが手に掲げた太陽は灼熱の業火を纏い、ワールドイーターの身を激しく焼いた。
「アアアア!!!!」
 身が沸騰する痛みにワールドイーターが叫び声を上げる。
 フルールはオデットの反対側から蒼い焔を揺らした。
 白く輝くオデットの陽光と、蒼く揺らめくフルールの真焔。
 地面を這うように伸びた蒼い焔はワールドイーターの目の前で立ち上がり渦を巻く。
「これが一番火力を出せるんですよね」

 メイは戦場を冷静に見渡し己の役目を掴む。
「えとえと。武器商人さんだけは回復はぎりぎりまで……」
 敵の攻撃を溜め続け力へと変える武器商人の戦い方は、メイの瞳には危ういと映ってしまうだろう。
 されど今まで多くを学び戦いに赴いてきたメイは武器商人のような戦い方もあるのだと知っている。
 いま重要なのは、冷静に焦らず回復を届ける事。
 特に敵のリーダーである致命者の前に立っているルチアの消耗が著しい。
「大丈夫です。メイがいるです……」
 メイの回復があったお陰で、ルチアはキキの前に立ち続ける事が出来た。
 それは、ゴリョウやスティア、武器商人がそれぞれワールドイーター達の押さえを的確に熟してくれたからこそ回復に集中することが出来たとも言える。
 改めて仲間が居てくれる事にメイは感謝を覚えた。
「皆、ありがとうですよ」
 仲間が抑えと攻撃を担ってくれていたから、メイは癒やしの音を届けられるのだ。

 ベークはリンゴへとブラウンの瞳を向けた。
「攻撃役……ですか。あんまりやったことはないんですが、まぁできる限りのことはやろうと思います」
 普段は攻撃力を主としない戦い方をするベーク。
 仲間達の先制攻撃から、恐らく問題無くワールドイーターへ攻撃を当てられるだろうと判断する。
「あんまり燃費はよくないんでタイミングとかはちょっと考えないといけませんが……」
 生命力を破壊力へと変えるその脅威の一撃は、それ故に反動も大きい。
 フルールとメイ、オデットの攻撃で削られたリンゴの身体へ照準を合わせるベーク。
「さあ、行きますよ!」
 戦場を突抜けるピンク色の光弾がリンゴの身体を灼く。
 再生する間も無く蒸発したリンゴから赤い仮面が地面へ落ちて、パキンと割れた。


 戦場はイレギュラーズの優位に進む。
 幾度となく死闘を繰り広げてきた彼らの前にワールドイーターは為す術も無く消え去った。
「リンゴちゃん、ソラちゃん、ユキちゃん……!!!! アアアアア!!!!」
 友達を殺され悲しみに涙を流すキキが癇癪を起こす。目の前のルチアへ怒りのまま攻撃を繰り出した。
 深く傷を負い気を失ったルチアをメイは戦場の隅へと運ぶ。
 そのままルチアを庇うように戦場へと向き直ったメイ。
「命を冒涜するような振舞い、消して許されるものではないのです!」
 誰かの、何かの生を奪うなら、自分の糧となるなら、感謝すべきだと。
 そうやって命は繋がっていくのだと……優しい声で言ってくれた。
「メイは大事な人に教えて貰ったです。命の輪から解き放たれた、ねーさまに」
「……だって、美味しそうなんだもの。お腹が空いて、すいて……何で食べちゃだめなの?」

 食べたいという本能の欲求。
 その気持ちだけがキキの中には取り残されたのだろう。
 致命者キキの根源は『餓え』からくるものだ。
 幼き日の、地面に横たわる少女は、ただ『お腹が空いた』という思いを抱いた。
 その純粋な思念がキキの中に残っている。

「私は魔種や肉腫をむやみやたらと敵視はしませんし、ワールドイーターや致命者も同様に扱いたいとは思うのですが……」
 フルールがキキから感じるのは受入れられないという感情だ。
「こちらも相応の対処をしなくてはいけませんね」
「いやだ……食べるもん。お腹空いてるもん!」
「倒される前に教えてくださる? 致命者は死者と同じ姿をしているということですが、生前の記憶はありますか?」
 フルールの問いに駄々を捏ねるように「わかんない!」と泣きわめくキキ。
 あってもなくても、キキが攻撃を仕掛けてくる以上、倒さねばならない相手だ。
「未知や不確定要素があるのなら、情報収集は怠るべきではありませんからね」
 真新しい情報も無い。目の前にあるのは彼女が『致命者』であることだけ。
 餓えの欲求に囚われ泣いている哀れな子供だ。
「……死者は死者らしく眠らなければ。可哀想ですから」

「あなた美味しそう……」
「うわ!?」
 ベークから漂う甘い匂いに誘われキキがふらりと身体を揺らす。
「お腹空いて、すいたの……食べたい、食べたい、食べたい」
「……食料じゃないですよ!?」
 ベークにしがみついたキキは、少年の首元をガブリと噛んだ。
「おいしいねえ」
「うわあ!? だから、食べ物じゃないですって!」
 首元をおさえながら飛び退いたベーク。キキの目には食材としての適性が高いと映ったのだろう。
「でも、追いかけてくるなら好都合ですね」
 上手く役割を熟せるか内心ベークは心配であったが、この様子であれば十二分に役立っているといえるだろうと頷く。
 高火力を叩きつけたベークの向こうでスティアが、動き回るキキの前にたちがだかる。
「これ以上の犠牲者を出す訳にはいかないから逃がす訳にはいかない!」
 食べたいという欲求は誰しもが持つものだ。スティアとてお腹が空けばご飯を食べる。
 メイが言うように命は巡るものなのだろう。
 されど、その欲望のまま他人を害する致命者を野放しにするわけにはいかなかった。
 それは誰かの未来を無為に奪うものだから。これまでの彼女の言動から、きっと情緒は幼く世界を知らずに死んでしまった子供なのだろうとスティアは推察する。
 だからこそ、これ以上罪を重ねて欲しくはなかった。致命者として成れ果ててしまったとしても。
「此処は通さないよ!」
 スティアはキキへと光の刃を解き放つ。叩きつけられた刃の重みでキキの腕が千切れた。
「キイイアア!!!!」
「どうして、幻想にまで出て来たですか? 命を奪うなら天義内でも良かったはず。幻想に来る理由があったですか?」
 メイはキキに問いかける。されど発狂したように髪を振り乱す少女からは理由は伝わってこなかった。
 餓えの苦しみと絶望がキキを支配しているのだろう。
 武器商人はそういった『人外』をよく知っている。
 生きる者の、本能としての食欲は、何よりも強い欲求だろう。
「満たされない空腹ってのは、嘸かし辛いだろうねえ」
 可哀想にと武器商人は首を振った。彼女を助けられる術はこの世の何処にも無い。
 救いがあるとすればそれは、永遠の眠りなのだろう。

「食うも調理も計画的に、だ! 後先考えずの行き当たりばったりじゃ大して上手く食えねぇぞってな!」
 ゴリョウは暴れ回るキキをスティアと共に抑えつける。
「やだー! お腹空いたの! 食べる……食べたいよぉ……!」
「分かった……だったらこの生姜焼きを食べるがいい! ちゃあんと調理したやつだから美味いぞ!」
 ゴリョウはカバンの中から取りだした生姜焼きをキキの口に詰め込んだ。
 口元をタレでべちゃべちゃにしたキキは目を輝かせ「おいしいねえ」と微笑む。
「こんな、美味しいの初めて食べたの……おいしい」
「そうか! そりゃ、良かったなあ!」
 生まれて初めての味。飢えを満たす為だけではない。濃厚で複雑な旨味が口の中いっぱいに広がった。
「おいしい、おいしい、おいしいねえ……」
 世界にはこんなにも美味しいものがあったのかと、キキは涙を流す。
 ゴリョウが生姜焼きを持って来ていなければ、キキは『本当のおいしい』を知らぬままだっただろう。

 ――少女はいつもお腹を空かせていた。
 痩せた身体、ボサボサの頭、カサカサの肌。
 あばら骨は浮き上がり、喉の奥がいつも掠れているみたいだった。
 ゴミ箱の中から残飯を漁り、雨をバケツに溜めて飲んでいた。
 だから、死んでしまった友達の味が忘れられなかった。美味しいと思ってしまった。
 その時きっと少女の心は壊れてしまったのだろう。
「もっと、もっと、欲しい。食べたい……?」
 満足できぬ身体。飢えという根源から生まれし者。

 オデットは深呼吸をしてキキを見遣る。
 お腹が空いたと泣いている『亡霊』を太陽の温かさで包むのだ。
「もう、苦しまなくていいわ。一瞬で終わらせてあげるから」
 耐え難い空腹に身を捩る心配も無い。絶望と共に死にゆく怨嗟を引き摺る必要もない。
「燦然と輝く太陽は、安らぎの揺り籠となる――包め包め、眩き光と共に真白に包め!」
 オデットの手に掲げられた太陽がキキを白く染める。

 キキは不思議と怖くはなかった。
 お腹が満たされていたからだろう。
 こんなにも幸せな気持ちで、あたたかい揺り籠に包まれて眠りにつけるのだ。
 何も言うことなんて無い。このまま眠ってしまいたい。
 口の中に『本当の美味しい』を詰め込んだまま、キキは眩しさに目を閉じた。

 視界が色を取り戻した時、其処には何も残らなかった。
 致命者となってしまった『少女キキ』の餓えも、悲しみも、絶望も。
 陽光に包まれ全て、消えたのだ。


成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 長らくお待たせして申し訳ございませんでした。
 代筆対応させて頂きました。
 少女キキはお腹いっぱいにして陽光に包まれ消えました。 

PAGETOPPAGEBOTTOM