PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Bug QUEST。或いは、Error、Error、Error…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Bug
――QUEST:諱千ォ懷セゥ蜈�ィ育判

Error――
――――Error
Error――――――――Error――――――――――――Error

「…………?」
 なんだこれは? と、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)はそう思う。
 Rapid Origin Online
 それはもう一つの現実。
 それはもうひとつの混沌。
 それはもうひとつの世界。
 つまりはゲームだ。そしてゲームには、ミッションやクエストが欠かせない。R.O.Oへログインした縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は、気紛れに1人でも達成できそうな類の低難易度クエストを受注した。
 依頼のために現地へ……砂漠の外れにある古い時代の三角遺跡へ足を運んだ縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は、しかしそこで首を傾げることになる。
 長い両腕を地面に付いて、白布に隠された顔を三角遺跡へ近づける。本来であれ「MISSION……START」の表示が出て、NPCから依頼の達成条件が提示されるはずなのだが、今日に限ってそれが無かった。
「……サテ?」
 三角遺跡に手を伸ばす。
 瞬間、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の腕は、見えない壁に弾かれた。どうやら三角遺跡の中へ立ち入ることは出来ないらしい。
「……?」
 弾かれた腕に視線を向けて、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は再び首を傾げてみせた。それと同時に、布に隠された縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の目は、僅かにだが見開かれただろう。
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の腕が……正しくは、肘から先の一部分だけの解像度が上がっていたのだ。
 どうやら、先ほどの一瞬で大容量のデータを送り込まれたらしい。
 果たして、どういう理由でこのようなことが起きたのか。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧にも原因は分からない。
 けれど、困った。
(……クエストを受けたかったんだけどね)
 これじゃあ遊べない、と。
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がそう思った、次の瞬間、眼前にあった見えない壁が砕け散る。
 壁の隙間から零れだした眩い光。
 視界を埋め尽くす膨大な量のテキストコードに、色とりどりのノイズの嵐。
 時間にして、ほんの数秒ほどか。
 最後に1度、視界を白に埋め尽くすほどの閃光が溢れ……。

●Bug QUEST
――Bug QUEST:清浄極まる隔離病棟、発生――

 閃光が消失した後、そこにあったのは病棟だった。
 正確には、サナトリウムとでもいうべきか。周辺を高い鉄柵に囲まれた白い建物だ。建物の周辺には、色取り取りの花が咲き誇る中庭がある。
「ようこそ、諱先€�病棟へ。ボクは警備責任者のH・P・トロイ。アナタが縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧……に間違いないね」
 どうやらクエストが始まったらしい。
 正門の扉を開けて、トロイと名乗った紺髪の少女は、視線を伏せて頭を下げる。頭頂部から伸びた兎の耳が、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の方を向いて小さく揺れていた。
「クエストの内容を説明するよ。アナタたちには、病棟内を散策して最深部にある“データBOX”を回収して来てほしいんだ。あぁ、データBOXはそのまま持ち帰ってくれて構わないよ」
 1歩、トロイが横へとズレる。
 正門から病棟までは、まっすぐに白い道が敷かれていた。
 進め、とそう言うことだろう。
「邂ア縺ォ縺ッ菴輔′蜈・縺」縺ヲ縺�k?」
「箱の中身? まぁ、データだよ。ボクたちが集めた膨大なデータの一部分……アナタたちの手に渡れば、通貨や経験値として還元されるんじゃないかな?」
 肩を竦めてトロイは答えた。
 その表情は、どこか嬉しそうにも見える。
「縺ェ縺懷屓蜿弱☆繧句ソ�ヲ√′縺ゅk」
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が問いを重ねた。
 会話するのが楽しいのか、嬉しいのか。頬を僅かに紅潮させて、トロイは何度も頷き答える。
「データBOXを回収する理由は……そうだね。データBOXのせいで、病棟内の時空が歪んでいる……ってことにしようか」
 外観は、二階建ての病棟に過ぎない。
 けれど、トロイの話では内部の構造は見かけほどに単純なものでは無いらしい。
 例えば、延々と上へ続く無数の階段。
 地平線の彼方まで伸びる、ひたすらに長い廊下。
 廊下に並ぶ、いくつもの扉と、いくつもの病室。
 それから、容姿さえも判然としない影の塊にも似た病人たち。
「影の病人たちに触れらると【呪殺】付きのダメージを受けるよ。それから【奈落】や【混乱】【廃滅】【崩落】【退化】の状態異常を受けるから気を付けてね」
 なお、影の病人を討伐することは叶わない。
 そして、影の病人たちは延々と後を付いて来る性質があるらしい。
「どうやってデータBOXまで辿り着くのか。まぁ、簡単な話でね、幾つもの扉を開けて、幾つものフロアを歩き回っていると、B・B・ウィルスという女性に出逢える。彼女が案内してくれた先にデータBOXがあるからさ」
 トロイが両手を広げて見せる。
 すると、半透明の人の像が現れた。十二単を身に纏う、兎耳の女性である。トロイと違って、こちらの髪色は白に近い。
「彼女がデータBOXの場所を知っているから。あぁ、それと病室の中だけどね……どういう風に変異しているか分からないんだ。たとえば、アナタたちの記憶を元にした“何か”があるかも知れないね」
 説明は以上、ということか。
 それっきり目を閉じて、トロイは何も言葉を紡がない。
 加えて、明らかに異常事態だが、どういうわけかトロイからは悪意のようなものは感じなかった。運営に報告するべきか……とも思うが、どうにもR.O.Oのサポートへ連絡する機能が上手く動いていないらしい。
(まぁ、面白そうではあるか)
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の口角が歪む。
 ゆっくりと地面を這うようにして、扉を潜った縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧へトロイは小さく囁いた。
「遊戯の邪魔をしてごめんね、お父さん。どうぞ楽しんで行ってよ」
 なんて。
 トロイの声は、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の耳に届かない。

GMコメント

●ミッション
データBOXを獲得すること

●エネミー
・影の病人×無数
容姿の判然としない、影を塗り固めたような人型。
意思の疎通は不可能だが、場合によっては参加者の記憶に基づいたセリフを喋ることがある。
影の病人を討伐することは出来ない。影の病人は走らない。影の病人は、参加者の後を付いて来る。
病室ごとに1人存在し、触れられると【呪殺】付きのダメージを受ける。
また、触れられることで【奈落】【混乱】【廃滅】【崩落】【退化】のいずれかの状態異常を受ける

●NPC
・B・B・ウィルス
十二単を身に纏った白い髪、兎耳の女性。
病院内のどこかにいるらしい。
フロアの移動や、病室の観覧を繰り返すことでランダムにエンカウントする。
彼女の案内を受けることで、データBOXのもとへ辿り着くことができる。

●フィールド
“砂嵐”にある砂漠のどこか。
三角遺跡と呼ばれる遥か古代に造られた遺跡のあった場所。
遺跡は消失し、代わりに真白い病棟が出現した。
病棟内の空間は歪んでおり、外観に対して遥かに広大。階段は永久に上方へ続くし、廊下は延々に伸びている。廊下には幾つもの扉があり、開くことで病室に入れる。
病室内には、参加者の記憶を元にした“何か”があるかも知れない。無いかも知れない。
『死亡』すると、死亡位置の少し手前でリボーンする。オートセーブ。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • Bug QUEST。或いは、Error、Error、Error…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年01月27日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

すあま(p3x000271)
きうりキラー
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
※参加確定済み※
ェクセファリォン(p3x005156)
紫鉱天龍
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
きうりん(p3x008356)
雑草魂
エイラ(p3x008595)
水底に揺蕩う月の花
いりす(p3x009869)
優帝

リプレイ

●諱先€�病棟
 まっすぐに……果てさえ見えぬほど延々に白い廊下が続いていた。
 窓はない。
 廊下の左右には汚れの1つもない白壁と、いくつもの扉が並んでいる。
 ここは“砂嵐”。砂漠のどこかにある病棟だ。
「砂漠に病院……何だかポストアポカリプス系のゲームみたい、だけど綺麗すぎますよね」
 通路の奥へ視線を向けて『優帝』いりす(p3x009869)が呟いた。
 直後、いりすの体が数回ほどピカピカ光った。今後に備えて、自身に付与スキルを重ね掛けしているようだ。
 なにしろここは、奇妙で奇怪な砂漠の病棟。
 人の行き来も滅多にないような砂漠の果てに、なぜ突然に病棟なんかが出現したのか。その理由は、誰にだって分からない。
 けれどきっと、原因は自分なのだろう。『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)はそう直感していた。
『アリスに でも なった気分』
 ここはR.O.Oの中の世界で、そして病棟の攻略は「Bug QUEST」とされている。“Bug”と付いてはいるものの、あくまでこれはゲームの一環。
 警備責任者を名乗るH・P・トロイの言動は怪しかったが、しかし攻略せねば……つまり、病棟内にある“データBOX”なるものを発見せねば、この場から出られないのも事実。
「迷子にならないように皆で進もう。わたし先頭、出発進行!」
 つまり、こうなる。
 ほかに選択肢はないのだから当然だ。
 動く鎧の肩に乗った小柄な猫人……『きうりキラー』すあま(p3x000271)を先頭として、一行は真白い通路を進む。
「ホラーゲームのような依頼ですね。参加した後に二~三人、行方不明者が出そうな雰囲気だ」
 異常なほどの静謐さ。静寂が耳に痛い、というやつだ。
 それが余計に気色悪い。『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)は、近くの扉へ目を向けて縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧へ視線を向けた。
 2人は同時に肩を竦める。まったく、厄介な事件に巻き込まれたものである。
「んー。病院ならぁ観葉植物はぁあるだろうけどぉ。疎通してもぉ大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だと思う。敵の気配はないし……まぁ、バグで感知できないだけの可能性もあるから油断は禁物だけどね」
 通路の奥の観葉植物を見やり『水底に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)と『紫龍天翔』ェクセファリォン(p3x005156)が言葉を交わした。
 クエストの説明役、つまりH・P・トロイの発言を正とするならば、今回のエネミーは病室内にいる“影の病人”のみとなる。
 そして、病室の訪問や上下階の移動を繰り返すことで、ゴールへの案内人とエンカウントするという仕組みであることも説明を受けている。
 つまり、いつまでも廊下をまっすぐ進んでいては埒が開かないということだ。
「砂嵐とか植物育たんやん。こんなところに居られるか! きうりはおうちに帰らせてもらう!!」
 誰かが先陣を切って行動を開始する必要があった。
 ならばそれは彼女の役目だ。『わるいこ』きうりん(p3x008356)は躊躇なく近くの扉に手をかけて、豪快にそれを開けたのだった。

●白い病棟、黒い病人
 肩を並べて病棟を見上げる人影が2つ。
 病棟の警備責任者、H・P・トロイと、データBOXへの案内人、B・B・ウィルスである。
「お父さんは楽しんでくれるかな?」
 不安を滲ませた声で、トロイはそう呟いた。
 横目でトロイの方を見やって、ウィルスは荒く髪を掻く。頭の上では長い兎の耳がひょこひょこと揺れていた。
「私(オレ)らに出来るだけのことはしたんだ。悩んでも仕方ねぇだろ」
 外見に対してウィルスの口調は荒っぽい。
「そうだね。まったく、誰も参加しない寂れたQUESTだと思って忍び込んだら、お父さんが来ちゃうんだもんな」
「手持ちのデータ容量と、あの短時間じゃ、この程度のSTAGEしか造れなかったしな」
 病棟を見上げ、2人は同時に肩を落とした。

 同時刻。
 病棟一階で動きがあった。
「ダイナミックお邪魔します!!!」
 きうりんが、病室の扉を勢いよく全開にしたのだ。
 ノックとか、そういう気遣いはない。
 だが、不満の声などあがらない。声をあげる“口”など無いというべきか。
 病室内には、ベッドが1つ。そして、ベッドの横に佇んでいる、影を塗り固めたような人型が1体。人型ときうりんの目が合った。
 人型には“目”や“鼻”、“口”といった器官が存在しないが、不思議ときうりんは“見られた”という感覚を覚えたのである。
 数瞬の間も置かず、人型が移動を開始する。きうりんを追いかけているのだろうが、その歩みはゆっくりだ。
「あの、いいですか? 少し試してみたいことを思いついていたんです」
 ゆっくりと歩み寄って来る病人を見て、いりすがそっと手を挙げる。
 どうぞ、ときうりんが場所を開けると、いりすはおもむろに病室の扉に手をかけた。それから彼女は、スパン、と勢いよく扉を閉じる。
「ん?」
 困惑の声をあげたのはすあまだ。
 いりすは少しだけ申し訳ないような顔をして、自身の仮説を簡単にだが口にした。
「まず敵は“病室ごとに1人存在“”しています。それから、B・Bさんとは“フロアの移動や、病室の観覧を繰り返すことでランダムにエンカウント”しますよね」
 つまり、扉の開閉回数がB・B・ウィルスとのエンカウント条件に関係していると考えたのだ。トロイはきっと、病室を進む度に後を追って来る影の病人の数が増え、被ダメージや移動に障害が生じる状況を想定していたのだろう。
 だが、いりすは別の可能性に思い至った。
「だから倒せない敵をどんどん増やしながらの探索をするよりは、“同じ病室に何度も出入りして観覧をしまくればいい”のかなって……!」
 再び、いりすは扉を開く。
 影の病人は、扉の前1メートルほどの位置にまで移動していた。
 一瞬、迷うような素振りを見せていりすは再び扉を閉じる。
 そうして3度、扉を開こうとした瞬間……。
 ドン! と、病室内から扉を叩く音がした。扉に触れていたいりすの手に、蟲の群れに似た影が這う。
「っ……!?」
 ダメージ判定。いりすは咄嗟に扉から手を離し、後方へ下がった。
 扉が開き、影の病人が廊下へ出て来る。迷うように視線を回し、病人はきうりんの方を向いた。
「はいはい鬼さんこちらー!」
 ターゲットはきうりんに集中しているようだ。
 廊下を先へと歩き始めたきうりんを、病人はゆらゆらとした足取りで追いかけていく。

 建物の2階。
 白い廊下を、黒い怪物が這っていた。
 怪物の名は縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧。ずらりと並んだ扉の1つに手をかけ、開いた。
 その病室を選んだのことに理由はない。
 “なんとなく”だ。
「……オヤ?」
 病室の中は薄暗い。壁は木造、天井には蜘蛛の巣だらけのシャンデリア。まるで洋館の一室だ。そして、床に転がっているロケットチャーム。
 そういえば、トロイが最初に言っていた。

『アナタたちの記憶を元にした“何か”があるかも知れないね』
 
 なるほどつまり、床に転がるロケットチャームは縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の記憶を元にしたものだ。
「ナニ こっちまで 着いてきたの かァいいね」
 ロケットチャームを手に取った。
 細かな傷や汚れさえも、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の記憶にあるものと瓜二つ。眷属より渡されたロケットを開けば「CとRは私が貰う。残りの文字は貴方に捧ぐ」というメッセージが刻まれていた。
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はロケットチャームを懐に仕舞って視線をあげる。そこに居たのは影の病人だ。影の病人が笑った気がした。チェシャ猫を思わせる悪戯な笑みは、ロケットチャームの送り主によく似ている。
「デモ 似ているだけで 別人 だ」
 病人へ手を翳し、広げた指で縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は虚空を握り潰す。
 空間が歪む。
 影の病人の体がへし折れ、ぐちゃぐちゃに潰れた。
 だが、それはすぐに元の形を取り戻す。
「……」
 不機嫌そうに鼻を鳴らして、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は病室を出て行った。

 病棟の散策を開始してから、十数分が経過した。
 最初は何も無かった白い廊下だが、今ではすっかり影の病人たちに埋め尽くされている。
「待って病人の癖に足が速い! 違うわきうりが遅いんだわ!」
 病人たちを引き付けているのはきうりんだ。
 自分の右腕を齧りながら、隊列の一番後ろを進んでいる。すぐ背後に迫った病人たちが、きうりんの頭や肩を掴むせいで、元々遅い移動速度は、さらに一段落ちていた。
「これじゃあ引き返せないね。まぁ、後ろの方に用事は無いし、さくさく進も」
 きうりんの置かれた状況や良くないが、かといって病室を開かないわけにはいかない。すあまは新たな扉を開く。
「あ……」
 すあまの足元を、猫の影が横切った。
 それはすあまの見た幻覚だ。けれど、その小さな猫の姿には見覚えがあった。
 思わずすあまは病室の中を覗き込む。
 そこに居るはずのない、女商人の姿を探して……。
 それが、よくなかったのだろう。
「っ!?」
 すあまの視界が黒に塗られた。
 それは、伸ばされた影の病人の手であった。
「なんだコイツらは……まぁ何でもいいけど」
ェクセファリォンがすあまの手を引き退がらせた。
 その間に、すあまの連れた鎧の騎士が前に出る。病人の手が鎧に触れて、その金属の体を黒に塗りつぶす。
 鎧の動きがほんの一瞬、停止した。その間に病人は、次の獲物をェクセファリォンに定める。そこに敵意や悪意はない。ただ、機械的に腕を伸ばし、攻撃を仕掛けて来るだけだ。
 R.O.Oの適正NPCにしたって、不自然なほどにその動きは機械的だ。
 人に似た形で、けれど機械的な行動をする影の姿は不気味である。人に良く似たロボットを見ている気分になるのだ。
「気安く触ろうとするんじゃない!」
 背筋に怖気を感じながらも槍を一閃。
 ェクセファリォンが、病人の腕を斬り落とす。
 一時凌ぎだ。影の病人は消滅しない。
「先に進みましょう。文字化けさんの方も今のところ進展は無いようです」
 a-phoneを耳に充てたまま、ツルギが仲間へ指示を出す。
 今のところ、後ろに続く影の病人はきうりんが惹き付けている。けれど、長く足を止めて居れば、すぐに周りを病人たちに囲まれる。
 リスポーンは可能だが、囲まれる状態は好ましくない。
 リスポーン即キルなんて状態になれば、病棟の探索どころでは無くなってしまうからだ。
「そろそろ限界! バトンタッチしよう!」
 移動を開始した直後、きうりんの叫ぶ声がした。
「頼んだよ!」
 病人たちの頭上を“何か”が跳び越えて来た。
「バトンた~っち」
 “何か”を受け取ったのはエイラだ。
 エイラが受け取ったのは、きうりんの腕である。
「すぐ近くにリスポーンできるのもぉありがたいね~」
「っていうか、ぶっちゃけこれしかできない。きうりは他の生き方を知らないんだ」
 さよなら、エイさん。
 きうりんがそう告げた瞬間、彼女の体が閃光に包まれ弾け飛ぶ。
 自爆スイッチを押したのだ。
 爆炎、爆風、病棟が崩れ落ちるのではないかというほどの衝撃。
 きうりんの爆発に巻き込まれ、病人たちが四方へ飛んだ。

 廊下を埋め尽くしているのは、影の病人、それから膨大な量のクラゲたちである。
「そうそうエイラに触れることはぁできないんだよ~」
 クラゲに触れた病人たちが足を止める。
 ダメージを与えれば、一時的なスタン状態を付与できるようだ。その間に、リスポーンしたきうりんと、仲間たちが先へと進む。
「は、走っても逃げれない……! 皆さんは先へ!」
 その場に残るのはエイラと、それからいりすの2人だ。
 イリスはエイラの隣に並ぶと、ガトリングの掃射を開始。弾幕を張れば、病人たちの進行速度を少しは遅らせられるだろうか。
「オートセーブぅ便利だけどぉ。記録されてるってことでぇ。誰が記録してるのかなぁ?」
 廊下を進むきうりんの背を横目で見やって、エイラは「はて?」と首を傾げた。
 それからエイラは、開きっぱなしの病室へと目を向ける。
 そこにあったのは、占いに使う幾つかの道具だ。
「……そっか。病院から連想したんだね」
 さっきまで、占い道具はそこに落ちていなかった。
 エイラの口元に、ほんの微かな笑みが浮かぶ。
 どこか寂しそうな、そんな儚い笑みだった。
「大丈夫。覚えてるよぉ、カリスト」
 クラゲによる防衛網を、影の病人たちが次々に突破した。
 次の瞬間、エイラといりすは膨大な“影”の波に飲まれて、姿を消した。

 病室を開くと、そこには遺体が転がっていた。
 黒い髪に、小柄で細い蛇を想起させる体躯、床に転がる蛇腹の剣と、力なく投げ出された手足。広がる血がツルギの足元を……爪先を濡らした。
 見知った誰かの遺体に見える。
 最愛の人の、哀れな亡骸がそこにある。
『守れなかったねぇ』
 影の病人がそう囁いた。
 目を見開いて、声にならない悲鳴をあげて、ツルギは周囲に暴風の領域を展開。それをがむしゃらに解き放とうとした瞬間、ツルギの耳に声が届いた。
「落ち着いて」
 しろねこイズルさんの声が、ツルギの正気をギリギリのところで繋ぎ止める。
「そうだ……この世界で死はさほど恐ろしくない。誰かの心を守れない方がよっぽど辛い」
 その言葉は、誰に向けられたものか。
 すあまの鎧が、影の病人を廊下へ引き摺り出すのを見送り、ツルギは熱い吐息を零す。
 それから、どこからともなく取り出したのは白いソファ。
「先に進む? その場合は、直感を信じるか運を頼るかくらいしか他の手はないんだけどさ、困ったことに」
 ェクセファリォンの問いかけに、ツルギは「待て」と呟いた。
 それから、ソファに腰かけて……ツルギは思考の海へと沈んだ。

●B・B・ウィルス
「どうにも 不可思議な点が多い 今は此処から 出られるかどうかも 怪しい」
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がそう呟いた。
「あぁ、俺もそう思う」
 ツルギも縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の言葉に同意を示した。
 そもそもの話として、今回のQUESTは異常事態の連続だ。
 遺跡から病棟に変更されたSTAGEに『Bug QUEST』という見慣れぬ表記。
 これまで見たことのないH・P・トロイとB・B・ウィルスなるNPC。
 そして、あまりにも単調なゲームの内容。
 病棟から持ち帰るアイテムの名称が“データBOX”というの違和感がある。
「急いで作った テスト用の ステージみたいだ」
 廊下と病室だけの病棟に、影を塗り固めたような敵性エネミー。それから“データBOX”というアイテム名と、移動するだけの単調なルール。
 プレイヤーを楽しませるためではなく、トロイやウィルスが何かのテストを行うために用意されたQUESTだと考えればどうだろう。
 病室の外で爆音が響く。
 これで3度目。つまり、きうりんは3回、自爆した。
 エイラとェクセファリォンは2回、すあまといりすは1回ずつ【死亡】している。
 急ごしらえのバリケードにより、病人たちの進行速度は鈍っているが、それもいずれは数の暴力に突破されることだろう。
 時間的な猶予は少ない。
 けれど、しかし……。
「テストプレイ以外の目的があるのか?」
「だとしたら 我々の 記憶データの 採取じゃないか?」
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が取り出したのは、クローバーの意匠が掘られたロケットチャームだ。本物と寸分違わぬ再現度から、相応のデータ容量を割いて作製されたものであることが窺える。
 猫の影も、占い道具も、誰かの遺体も……記憶を元にしたオブジェクトはどれも影のように黒かったはずなのに。
「文字化けさん……何か心当たりは?」
「なぁんにも」
 けれど、しかし……。
「ここはきうりに任せて先に行ってくれ!」
 病室の外できうりんが叫んだ。
 そろそろ考える時間は終わりだ。
 そして、ゲームも。

「にゃぁ!」
 すあまの爪が影の病人を引き裂いた。
 空いた空間を駆け抜けるのは、ェクセファリォンと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧だ。
 向かう先は次の病室。
 2人が病室の扉を開けると、十二単を纏った女がそこに居た。
 淡い燐光に包まれた、光に満ちた部屋である。よくよく燐光に目を凝らせば、今回、QUESTに参加した仲間たちの記憶らしき光景が映り込んでいるのが見える。
「よぉ、十分に楽しんでくれたかよ?」
 B・B・ウィルスは呵々と笑って一行を迎えた。それから、背後に背負った巨大な機械に手を翳し、一塊の光球を掬う。
 ぽん、と放り投げられた光球はまっすぐ縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の手に渡った。
「それが……ですか?」
 光球……“データBOX”を一瞥し、いりすが問う。背後に背負う機械の中身が全てデータだとすれば、その容量はどれほどのものか。
無言で縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が頷いて、ウィルスの出方を待っている。
「楽しめたかよ?」
 再び、ウィルスは問うた。
「単調 だ」
「う……そうかい。じゃあ、次はもう少し難しくするよ。データも色々手に入ったしな」
 なんて。
 それだけ言って、ウィルスの姿が……否、病棟そのものが“初めから存在しなかった”みたいに崩れ去る。
 かくして後に残されたのは、どこまでも続く広い砂漠だけだった。
 

成否

成功

MVP

きうりん(p3x008356)
雑草魂

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
H・P・トロイに課された依頼は無事に達成されました。
獲得したデータBOXは報酬という形で皆さんに分配されました。
依頼は成功となります。

この度は、シナリオのリクエストおよびご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼にてお会いしましょう。

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