シナリオ詳細
<腐実の王国>遺失言語ゼノグロシア
オープニング
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仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
わたしの言葉が聞こえる者よ。光あるものよ。神はあなたがたをやみの力から救い出してくださった。
むなしき世界を耐え忍ぶ者よ。わたしたちは神のために『確定未来』を修正しなくてはならない。
――そのような『神託』が天義の大聖堂で確認された。今現在の天義の在り方を否定する様な文言だ……即座に箝口令が敷かれたが――さて。人の噂はどこまで抑えられる事か。
……同じ頃。天義の西部にて妙な動きが見えていた。
それは幻想王国との国境沿いに位置する港町エル・トゥルル。
本来であれば活気的に貿易も行われる賑やかにして美しい街なのだ、が――
「この世は間違っている」
「腐敗した柘榴は永劫なる林檎にならねばならない」
「鼠の果てに森を見た。慟哭なる世に雫が昇る! エブラ・カタブラに凍土の天を!」
住民たちの様子がおかしい。
支離滅裂な言語を繰り返し正気を失っているかのようだ。されどなぜかその『支離滅裂な言語』でも――彼らの間ではどこか意思疎通が取れているように見受けられる。暗号か? いやそういう風でもなさそうだが……
ともあれ彼らは歩む。各々に、農具や包丁などを武器として。
『影で形成された天使』の様な者達と共に。
「はぁ、はぁ……どうなっているんだこれは……!?」
「分からん……だがとにかく我々だけで止めるのは困難だ……救援を要請せねば!」
その様子を物陰から見据えているのは天義の騎士団の者達である。
彼らは偶然、エル・トゥルル付近で別件の任務に当たっていたのだ。故にエル・トゥルルの事態に比較的早く気付く事が出来たのだが……しかし突発的な遭遇であったからこそ、妙な天使の如き存在に加えて数の多い暴徒達を御する程の戦力は無かった。
街ではあちこちで暴力騒動が多発している。
このままではまずい。至急、彼らを止めなくては……!
――その時。なんぞや、声が聞こえた気がした。
どこからかは知らぬ。だがしかし、心に呼びかける様な何かが……
悪魔を討て。
正しき揺り篭に戻すのだ。
過ちに粛清を。
正しき恩寵と共に我らは在るのだ――と。
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「エル・トゥルルの街には聖遺物と呼ばれるモノがあるらしい――要は天義にとっての重要物の一つって考えると簡単かな、とは思うんだけど……それがどうにもね『毒』に蝕まれたのだとか」
「――毒?」
「滅びのアークによる影響なのかもしれないね。とにかく有害化しているって事さ」
騎士団より依頼を受けたイレギュラーズ達に情報共有を行うのはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。エル・トゥルルにはガレサヤ・ピレア大聖堂という地が存在し、此処には聖都フォン・ルーベルグに現物が存在する啓示の書の一片を保管されていた。
『聖遺物』とも呼ばれるソレは、言うなれば天義にとっての信仰物の一つで、他にも首飾りなども飾られていたらしい。しかし天義中央で生じた『神託』と時を同じくして、聖遺物が毒に犯されたとの事だ。
聖書や、それに連なるものが腐食もしているという話も聞く……
同時に街の住民の中には正気を失った暴徒も出ている。
「君達にはその暴徒を抑えてもらいたい――まぁ暴徒自体は正気を失っているだけで戦闘能力自体は大したことはないよ。囲まれたりして全方位から攻撃を受けたりしない限りは、そこまでの脅威じゃないだろう。問題は……『影の天使』だ」
「『影の天使』? この前は『影の兵』とかいう奴が出ていた様な……」
「それの亜種、或いは……進化した存在かな? ディテールが整っているみたいだ」
ギルオスが語るのは、暴徒の中に確認されている存在だ。
『影の天使』。それは正に影で出来た存在であり……どことなく天使を思わせる外観をしているという。かのベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士にも似ているが――しかしソレそのものではなく倒す事で消滅させる事が出来るようだ。
ともあれ暴徒と異なり明確な戦闘力を宿す『影の兵士』を倒すのが今回の依頼の主眼となる。あとは可能であれば暴徒と化している住民を無力化もしてほしいとの事だ。彼らも無力化すれば正気を取り戻すかもしれない……
ただ、街はほぼ全域が危険な状態にある。
全員を救い出すというのは難しいだろうから可能な限りで良いとの事だ。
「エル・トゥルルの西側にある住宅街付近が現場だ――
放置していれば更なる被害が生じるかもしれない……頼んだよ、イレギュラーズ」
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――『崩れないバベル』はこの世の原則の一つだ。
数多の異世界が、数多の言語がこの世に在ろうとも言語に不足を生じさせぬ理。
しかし暴徒が零している支離滅裂な言語は解析出来ぬ。
ソレが『意味のない言葉の羅列』であるのならばそれは当然である。元より意味がないのだから。
だが。奇妙な事に彼らの間では意思の疎通が取れているかのように感じられる。
「奥底に見える猿の鏡像」
「しかし万物の形は未知を超えて臨場感を超える――」
何故だ? 何故彼らの間では言葉(意味)が通じる?
崩れないバベルで解析できないのに――?
分からぬ理が其処に在るのか?
誰が呼んだか。遺失言語-異言(ゼノグロシア)-と称される疎通の謎が――天義で蠢いていた。
- <腐実の王国>遺失言語ゼノグロシア完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月28日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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――意味不明な言語。そんなモノが蔓延っているとは、如何なる事か。まぁそもそも『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)にしてみれば世界法則たる『崩れないバベル』そのものが奇々怪々なる所なのだが。
「伝える意志があるなら伝わるという不可解な法則――
お陰様で私の十数年に渡る言語学習は無意味になってしまった。
世界を憎むべきか、愛おしむべきか」
仰ぐ天。なれど天は黙して語らず。故にルブラットは眼前エル・トゥルルを見据えよう。
「気になる事は多々ありますが……まずは事態を落ち着けねばなりませんね。
急ぎましょう。暴徒の波が広がれば、どんな被害が齎される事か」
「そうだね。暴徒を率いている天使たち……この前見たものより輪郭がはっきりしてるのも気になるし……もしかして、力が増しているのかな? フルールさん、手を貸してもらってもいい?」
「勿論――まずは、暴徒の人達を落ち着かせないと、ね」
然らば『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)に『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)そして『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)も一斉に行動を開始するものだ。
意味の理解が困難な言語に暴徒化する民衆、邪悪に染る聖遺物に影の天使。
正に混沌の極みであると正純は眉を顰めるものだ。が、確認した敵影。
天使や暴徒の姿が在れば、思考は振り払い彼女は根源たる泥を顕現せしめる。
押し流す様に。直後には敵のみを掃う神秘なる光にてアリアとフルールが一閃しよう。ルブラットもまた優れた歩みによって連続的に光を放つ――さすれば暴徒達より響く声があろうか。
悲鳴、だと思うのだが。しかしソレもまた理解不能の金切り声。
なんなのだこれは。埒外の言語なのか、はたまた。
「バベルにバグが発生しているのかしらね? あれと意思疎通したいとなると……」
私達も狂気に犯されてみる? ……なんて。
フルールは冗談めかして呟くものだ。
「むぅ……! こちらでの経験が少ないとはいえ……只事ならぬ事態。明らかなる異常事態が生じているのは分かるぞ――放置してはおけぬ! 征くぞ、救うべきを救うべく、武蔵、出撃!!」
更に続け様大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)も馳せ参じるものだ。
現場に突入する武蔵。正純らの一撃の後に、彼女は四足獣型の亜竜を操りて。
――暴徒達の瞳は濁っている。とても正気とは思い難い。
が、まだ救う事が出来る段階ならば、と。武蔵は果敢に往くのみだ。
状況は不鮮明、言語は不可解、だが為すべきはただ一つ。
「無辜なる民を害させはせん……! 偽りの天使よ、砕けろ!」
彼らを誤った方向に導かんとしている者達を、倒すのみ。
故に武蔵は天使を主に狙いて一撃紡ぐものだ。穿つ鋼の驟雨が奴らを逃がさぬ――!
「ああ、もう。聖なる物が毒? に侵されて狂気を撒き散らして、天使が害を為してる場所が、よりにもよってそういうのの造詣が深い天義だなんてさぁ。皮肉が利きすぎてて逆に笑えないんだよね――こーんな悪趣味な笑劇(ファルス)、さっさと閉幕にしてやろー!」
「急がないとね。最低限、人の域には留まらせないと。
永く異常に浸からせてたら、戻ってこれない可能性もあるし」
次いで『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)に『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)の介入も行われようか。暴徒達より感じ得る狂気……あぁ。大雑把には文字化けの様なモノだと――美咲は思考するものだ。
脳や精神の使用コードやチャンネルがずれてしまった状態。
一体どこの誰がそんなズレを生じさせたのか知らないが――
しかし。うまくチャンネルとの接続が途切れればまだ『戻って』これる筈だと。
「みなさま何を話しているのでしょう?
うう。言葉がわからないなんて……そんなの、ニルははじめてです。
なんだか、ざわざわします。この言葉は、聞かないほうがいいような……」
そして周囲に強力な結界を巡らせるのは『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)であった。術式の重ね技で広大な地を保護する力を巡らせているニルの下には……彼らの言葉が届くもの。
――永遠の林檎は天に昇り地獄を駆け巡り獅子へと――
意味が分からない。聞こえた言葉、オウム返しに繰り返してみても……
(やっぱり、なにもわからないですよね?)
それは一体誰の言葉なのだろうか。誰から贈られた言葉なのだろうか。
――ニルは頭を振る。あまり深くまで考えれば、泥沼の様に嵌ってしまいそうだから。
駆ける。結界を張り終わらせれば続けざまにファミリアーの鳥を放ちて。
この事態を解決する為に――ニルは全霊を尽くすのだ。
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「あああ真なる梟が耳障り! 開闢の使いが至る――!」
暴徒らの叫び。意味不明だが、イレギュラーズへの敵意は感じるものだ。
「一刻も早く無力化を進めます……! この街は最早完全なる敵地。急がねばッ!」
であれば迫りくる者達へと、正純は続けざまに一手放つ。
星光の如き一射を放ちて足を止めさせれば再度の泥を顕現。
確実に敵陣へと撃を叩き込むのだ――同時に彼女は聞こえてくる言葉一つ一つを、記憶に留めんと試みようか。どんな些細な言葉でも、音でも……リズムの一つから得られるモノがあるかもしれぬのだ。音の保存も行いながら後の検証に繋げんとする――!
「周囲は、まだ暴徒のみなさまは見えない様です。いまのうち、ですね!」
「どこまで増えるかも分からないのは厄介だな。しかし、やり様はあるものだ」
直後にはニルとルブラットの動きも続こう。
ニルは、先程放った二羽の鳥から情報を得るものだ視覚を共有し、周囲を俯瞰するような視点から敵の位置を確認。特に暴徒の援軍などがいないかも見るものだ……今の所は姿が見えない、が。人の動きはやはり街の中心部――
聖遺物が保管されている方角から気配を感じ得る。
やはり『毒』に侵されているという場所が全ての起点なのだろうか。
ともあれ眼前には妖しき天使たちもいる――イレギュラーズへ害を成さんと動きだす天使がいればニルは泥の魔力を紡ぎて迎撃の動きを。ルブラットはその横から再びに光を放ちて。
「あははは! 見敵必戦! サーチアンドバトルッ!
さぁ掛かっておいでよ――御大層な翼をもった天使さん達も、ね!!」
更には、その撃の援護となる様にヒィロも高速に至るものだ。
名乗り上げる様に立ち回る彼女の動きに引きつられる暴徒達。いいよいいよー……お前らがボクに殺意を向ければ向けるほど、美咲さんや仲間達や一般市民が安全になるんだから。全部纏めて引き受けてあげるよ!
「来なよ! 武器を構えてかかってこい!
まーそんなどんくさい動きでボクを捉えられるとは思えないけどねー!」
わざと高笑う様に目立つ彼女に数多の撃が集まろうか――
しかしヒィロの卓越した動きはそうそう彼らの手中に収まらぬ。特に彼女が躱す事にだけ専念すれば仕留めるなど夢のまた夢。天使の刃だけは注意しておく必要がある、が。
「ヒィロだけ狙えばいい――なんて思わない事ね。させる訳ないでしょ」
共に行動する美咲も連鎖する様に行動すれば攻勢が分散するものだ。
包囲され過ぎないように美咲は立ち回る。切断の概念を齎しながら――同時に、彼女は解析も行おうか。天使たちに隙があるか? 奇襲をかけた際の反応は? 人か獣か機械か、お前たちはどれに近い?
(何の情報もないと流石にね……まずは探りを入れようか。必ず、何かある筈)
只の魔物であったとしても、本能的なモノがある。
それを見極めれば。敵の弱点が分かれば――より深く『斬る』事が叶おう、と。
「う、あ、あ……あぁ? お、おれは一体……」
「気を取り戻したかね? ――私たちは特異運命座標だ。貴方がたを助けにきた。
命が惜しいのであれば、今はあちらに避難してくれたまえ。
安全を確保した後に、脱出を試みよう」
そして。ヒィロや美咲が多くを引き付けているのと時を同じくして暴徒の中には、やはり一般市民としての力しかない故か沈静化しうる者達も一部には出てくる。
ルブラットが紡いだ先にいるのは武蔵か。先の、騎乗していた亜竜の背後には荷台があり馬車――いや亜竜車と呼べる代物であった。正気を取り戻した一般人は次々とそこへ導かれていて……
「急げ! 全ての事が片付いた後に、離脱する――! それまでは頭を伏せておくのだ!」
直後。武蔵は正気に戻った者達へと言を紡ぎながら同時に整えるは砲撃準備。
「ありったけの砲弾を呉れてやる!! 逃れられると思うなかれッ!!」
音が鳴る。空中にいる天使共を狙う、砲撃の音が。
炸裂、衝撃。怒涛の攻めにて連中の息の根を止めてみせよう――! 未だ正気を失っている暴徒から撃が至る事もあるが大した事も無ければ放置。あぁこんな程度で武蔵が揺らぐものか!
「ふ、む……狂気が、一定以上の衝撃で解除される事もあるのなら……そこまで深く侵食してはいないという事の証左……? 気絶でも解除されるという事よね。でも睡眠では解除されないとすれば……」
と、その時。フルールは暴徒の正気が取り戻される様子を見ながら思考を巡らせるものだ。彼女も引き続き暴徒の無力化に努めているのだが――観察していて分かった事もある。これは其処まで深く人々を狂わせている訳ではない様だ。無論、ある程度個人差はある様だが。
「まぁ。上手く意識を残したまま、というのも中々難しいですし。
どうぞ、ゆっくり眠ってください。目覚めた時には、ええ。
きっと救われた地にいますから」
悪夢から覚めていますように、と願いも込めて彼女は更なる一撃を紡ごうか。
(それにしても、聞こえない言語だなんて……世界法則から外れているって事? まさかバベルの適用を受けない存在がいる……? もしくは理の外に外れようとしている人でも……? いや~そんなまさかシュペルさんじゃあるまいし……)
そして思案しているのはアリアもか。フルールと行動を共にする彼女も、この不可解な事態には興味がある。ひとまず上手く無力化出来た暴徒は、武蔵の亜竜車にぽいぽいっと投げ込みながら……周囲を観察しうるもの。
「じゃ、ここからは私が守るから――攻撃をお願いね」
「ええ。任されたわ」
アリアはフルールに言の葉を紡ぎながら態勢を整えるものだ。天使は未だ健在であるが、暴徒の方は多くの不殺を共にする意志と光によって順調に片付いている。援軍が来たとしても減る速度の方が明らかに早いだろう――だから天使共への攻勢だ。
終わらせるとしよう。悪夢なんてのは、長く続くものではないのだから。
●
天使の剣が襲い掛かる――
鋭き一閃。特に、イレギュラーズに対する敵意が強く感じるのは何故か。
――悪魔め、我らが剣にて滅ぶがいい――
そんな意思が、どこか感じられる気もする、が。
「ニルは、ニルが悪魔かどうかなんてしらないです、けど……天使のみなさまが、正しいとは思えないのです……! ニルは、ニルにできることを、させてもらいます……!」
そんな攻撃的な意思にニルは折れない。杖を硬く握りしめ彼女は往く。
天使を……なんとかしなきゃ!
暴徒の数が減ってきたが故にこそ自由に動ける狭間も生まれる。ニルは剣を躱し一気に踏み込んで――魔力を炸裂させようか。収束させたその一撃たるや超常の域。全力全霊のぶつけた一撃が天使の身すら砕かん――!
「みなさま、住人……いえ暴徒のひとたちが、来るみたいです!」
「誰か、手紙とか持っていたりとか――していたら楽なんですけどね。
遺失言語の文章から解読出来たりする余地が……あるかもしれませんから」
「どうなんだろうね。でも、文章もホント意味が通らないとかもありそう、とッ!」
同時。ニルは空の鳥から得た情報を皆に共有するものだ。
暴徒の援軍が見えたのである。やはり減る速度の方が早い故に、致命的な事態ではないが……ニルは治癒の術も周囲に巡らせながら声を飛ばす。さすればフルールとアリアは、暴徒達の持ち物に微かに興味を抱くもの。
遺失言語は文にも影響するのか――?
今の所文章のやり取りがされた手紙などは見つかっていない。また今度探しに来るのがいいだろうかとも思いながら……援軍の暴徒鎮圧に動くものだ。アリアが守護する様に立ち回りながらフルールが神秘の光を放つ――
(あの天使、やはり――影の兵の上位版――と言った所なんでしょうね)
同時。フルールは天使らに探知の術を向ける。
少しでも能力を見ておきたい、と。出来得るならば言語の解析も行いたい、が。
しかし言語の方は強固であった。
いや『分からない』と言う事に特化しているのだろうか。解析が難しい。
世界法則にすら抗っているモノだ。謎を解く機会、どうにかして得たいものだが……
今は眼前の事態を片付けるべきかと尽力し。
「影の天使共が大きく動くぞ――逃がすな、ここで仕留めるッ!!」
「天使共を片付ければ後はどうとでもなるだろう。此処が攻め時、かな」
さすれば天使達に動きが見えた。イレギュラーズの背後を突かんとしたのか、一部が大きく迂回せんとしている――故に気付いた武蔵とルブラットが、させじと撃を紡ぐものだ。天使の数も少しずつ減って来ていれば、各個撃破の為の集中が出来るモノ。
武蔵の物量が天使共の羽を打ち砕く。喉を潰して尚に続く弾幕が仕留めにかかるのだ。
動きが鈍った個体がいれば、ルブラットの舞踊が如き一閃が魂を穿つ。
――崩れてきた。天使も暴徒も、その陣形は大きく崩壊。
数こそ多かったものの纏めて薙ぐ方策が上手く機能したが故か優勢であり――
「そんなもの? じゃあそろそろ終わらせてもらおっか! いこ、美咲さん!」
「ええ――そろそろ『全部』斬るとしましょうか」
そこへヒィロと美咲が動くものだ。
お前達は意味不明な言葉で意思を疎通してるんでしょ? でもね。
「ボクと美咲さんの間には――言葉すら要らないんだ!」
以心伝心。ヒィロの美咲の行動は、正にその熟語通り。
迅速たりうる連携が――歪たる天使達を貫き滅ぼそう。
美咲の探知による、天使の癖の見切りもあって攻勢は通りやすく防げ切れぬモノ。
斬る。割断する。解き、刻む――
「この国で天使の姿を気取る、貴方達こそが過ちなのでは? ――では。仕舞です」
そして。最後の一撃は、正純により放たれる。
彼女の引き絞る弓の一閃が――最後の天使の胸を貫き、その命を絶つのだ。
落ちる。天使が力なく、まるで塵屑の様に……
「……影の天使。アドラステイアもそうですが。
あくまでも聖なるモノの姿を取るのですね。内に秘めしモノはともあれ。
その狙い。敢えて神聖なものを司るのは――信仰を揺らがせる為ですか?」
汚し邪悪な姿を見せることで信仰を否定し。
堕落させる目的があるのでしょうか。
……いつか問うてみたいものだ。この天使の奥底に潜む者達へと。
――何はともあれ。天使達が消え失せれば、依頼は達成だ。
後は保護した住民と共に脱出するのみ――故に。
「無事でしたか? あの。誰か不審者が来たとかそういうのがあれば教えて欲しいです。
覚えてる事は――ありませんか? 些細な事でも、なんでも」
「あ、ああ……いや、分からない……
分からないけど、頭の中に妙な『何か』は聞こえたような……
偽りの歴史がどうだのこうだのとか……」
アリアは問うものだ。正気を取り戻した住民へと。
……変な言葉を使っていた記憶はあるようだがしかし。解放されると使っていた言葉は分からなくなってしまう様だ。『正しい歴史の為に行動せよ――』と言った思考に支配されていたらしい。
「ふしぎな、言葉なのですね……誰がつくって、誰がひろめているんでしょうか……?」
「音そのものに意味があるのか……? いや、きっと違うな。
なんとなくだが……遺失言語の本質は、この世界に属したくない傲慢を感じるな」
ニルやルブラットも、解放された住民の言を聞きながら思考を巡らせようか。
遺失言語。バベルとは異なる言語。別の法則で上書きせんとする意志。
なにがしかの傲慢振りを感じる。世界如きに解析できるか、と。
「……理解すれば飲み込まれることになりかねないか、ままならぬものだな。いずれにせよ脱出を急ごう。この街にいれば、またいつ狂気の影響を受けぬとも限らないし、天使や暴徒が来るかもしれない」
ともあれ、武蔵の言う通り脱出の準備を進めるものであった。
此処はまだ危険だ。保護した者達と共に、外へと向かうとしよう。
しかし、まぁ。尖兵たるこの天使たちは脇役。精々モブだろうとヒィロは思考するものだ。
主演は……そして脚本家はどこに隠れている事やら。
「いつかブン殴ってやらないとねー
ボクらがデウス・エクス・マキナになって、ズバッと解決! してやるから!」
「ダガンの瘴緒みたいに『視え』れば簡単だったんだけれど。
病とはなにか違うみたいだし――調査を進めたいみたいもの、ね」
ヒィロは拳を握り、美咲は吐息を一つ零しながら――街を後にせんとするものだ。
街の混迷は続く。いずれまた中核を解決する時は来ると信じて。
今は無事に救出した市民と共に、外へと向かおうか。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れさまでした、イレギュラーズ。
かの言語は異常の証。
操る者達の根底にいるのは――またいずれ。
ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
『影の天使』の撃破
●フィールド
天義に存在する港町『エル・トゥルル』内です。
現在この街では不穏な空気が漂っています……一部では暴徒の様に狂暴化した者達が徒党を組んでいる場面もある様です。皆様にはエル・トゥルルの一角に存在する住宅街へと踏み込んでいただきます。
集まっている敵戦力(後述)が見えてくるでしょう。
『影の天使』を撃破してください!
●敵戦力
『影の天使』×10体
『影で出来た天使』の様な形を取っている存在です。
恐らく魔に属する存在であると思われますが、よく分かっていません。<獣のしるし>で目撃された『影の兵』と似ていますが、どこか造型が更に精密になっている気がします……
後述する暴徒と異なり、明確な戦闘能力を持ちます。
剣や盾の様なモノも持っています。恐らく、接近戦を得手とする者が多いでしょう。
『暴徒』×20人~
正気を失っている様に見えるエル・トゥルルの住民達です。
農具や包丁などを携え『影の天使』と共に歩んでいます――ただ、戦闘能力自体は一般人レベルでそこまで大したことはありません。不殺攻撃などを用いれば安全に無力化する事は出来るでしょう。もしかしたらソレで正気を取り戻す事もあるかもしれません。
ただ街全体が不穏な状況です。
戦闘が長時間に及ぶと、他の場所から暴徒がまた来るかもしれません。
なお、彼らは一様に『意味不明な言葉』を口走り続けています。
支離滅裂でありとても意味がある様には感じ取れないのですが、この言語を使う彼らの間ではなぜか意思の疎通が取れているかのようです。遺失言語-異言(ゼノグロシア)-と呼ばれるナニカの様ですが、詳細は不明です……
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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