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シナリオ詳細

<咬首六天>悪意ある徴兵

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●牙はあらゆるものが持っている
 扉にかかったクローズドのプレートにすら、雪が積もっている。
 ミルクバーの店長兼看板娘のキャトル・ミューティは、雪が積もり続けて仕方の無い窓から外を物憂げに見つめていた。
 そんな背中に声をかけるレッド・ミハリル・アストルフォーン (p3p000395)。
 暖炉で暖めた白湯をカップに注ぎ、ちびちびと口をつけている。
「ミューティさん、お店は暫く開かないっすか?」
「そうねえ、牛乳も届かなくなってしまったし」
 鉄帝国は人が住むにはかなり過酷な土地だ。特に冬の環境は厳しく、鉄帝国の住民に鉄騎種が多い理由になっている。要するに、過酷耐性をもたない種族にとってこの国はひどく生きづらいのだ。
 秋口まではミルクバーも経営できていたが、こと真冬になればそうもいかない。
 店を閉め、備蓄をちょこちょことつまみながら冬をやり過ごすという暮らし方に必然なってくるものである。
「増して、いまの国はぐちゃぐちゃっすからね……」
 ミューティは『パルスちゃんに冬の間もミルクを飲ませられたらなあ』などとため息交じりに呟く。彼女もまた、パルスちゃんファンクラブの一人なのだ。
「大丈夫っすよ。今は大変だけど、私たちが新皇帝体制なんてばしっとやっつけてあげるっすから!」
 拳をシュッシュと突き出してパンチのまねをするレッド。実際、生き延びること自体は難しくない。
 このまま何もなければ……だが。

「リュカシス、無事か!?」
 首都郊外。ボーデクトン近隣。帝政派が『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』たちより奪還したボーデクトンを拠点とし、周辺地域へも手を伸ばしつつある一方。
 新皇帝派から武装やモンスターの供給を受けた囚人達の襲撃は未だに続いていた。
 ヘルメットを被った囚人服の男性がミサイルランチャーを抱え、それを発射する。
 対するリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー (p3p000371)は両腕を交差するようにして防御。
 激しい爆発がおきたが、リュカシスに大した怪我はない。
「大丈夫! それよりジェイビー……!」
「ああ、任せろ。完璧な作戦があるぜ」
 リュカシスの学友にして親友。ジェイビー・コクーンは釘バットを手に親指を立てて見せた。
 その後ろでは同じく友のホランド・ホットベアが癒やしのオーラを体内に溜め、リュカシスの腰に拳を当てて治癒している。
「いいかリュカシス。まず俺が神秘と物理両方の無効化結界をはって突撃する。ホランドはBSの治癒。リュカシスは俺の結界を壊すようなやつに目星を付けて排除だ。俺もラドバウで手の内をだいぶ晒してるが、このチームプレイなら相手にとっては初見殺しになる筈だぜ。というわけでリュカシスは俺が合図するまで――」
 目を瞑り自信満々に語るジェイビー。その肩を、ホランドがぽんと叩いた。
「リュカシス、もう行っちゃいましたよ」
「リュカシーーーーーーーーーース!?」
 こう見えて、わりといつもの流れである。リュカシスは速効で敵へ突進し、敵兵を殴り倒す。敵が集中砲火を浴びせにかかるが、慌てて割り込んだジェイビーが無効化結界によって砲撃を防御。それすら越えてくるダメージをホランドがヒールパンチによって治癒という、実はお決まりのチームプレイなのだ。
 そんなこんなで最後の一人を殴り倒し、逃げていくのを見送ったところで……。
「皆さん丁度良いところに! 新皇帝派からこんな書状が来たっすよ!」
 戦闘を終えたリュカシスたちのもとへ、レッドが駆け寄ってきたのだった。

●新時代英雄隊、ではなく――グロース師団より
 首都を中心として鉄帝各地で猛威を振るっているゼシュテル鉄帝国軍参謀本部、グロース・フォン・マントイフェル将軍。かの将軍の使役する『グロース師団』は様々な土地に現れては国民に対する一方的な搾取を行っているという。
 グロース師団に怒りを募らせる国民も多いが、モンスターすら使役し大規模な部隊を擁しているグロース師団に反抗するだけの力は無い。ましてや、こんなに生きるのが難しい季節となれば。
「ミューティさんといって、ボクとは仲の良いお姉さんっす。この人のいる地域に、グロース師団から『徴兵』の書状が届いたっす!」
 レッドいわく、徴兵に応じる物は所有する物資の全てを軍に献上し、兵に加わるというものらしい。噂によればひどい薄給で死地に放り込まれ、物資を差し出すだけの捨て駒扱いであるようだ。
 拒めば釈放され武装強化された囚人や新皇帝派兵、それらが率いるモンスターといった恐ろしい戦力が投入され『軍への反抗勢力』であるとして捕まってしまうのだという。
「なんだそりゃ! アテツケじゃねーか!」
 ジェイビーは書面を真っ二つに引き裂いて怒りの叫びをあげた。
「ていのいい没収命令ですね。従えば命まで利用されて没収。反抗すれば殺されて没収。この二択ならマシな方を選ぶんでしょうけど……」
「おいリュカシ――」
 ジェイビーが『何黙ってんだ』と呼びかけようと振り返る……と、リュカシスは笑っていた。
 えへへーとどこか朗らかに笑みを浮かべていたのである。
 レッドがきょとんとするその一方、ジェイビーとホランドはゾッと青ざめた顔になる。
「レッドさんつったか。リュカシスのこれ、マジでキレてるやつだ」
「ただ怒ってるだけじゃないんですよ。本気すぎて覚悟が決まっちゃって、逆にリラックスしちゃってるんです」
「へー……」
 リュカシスがすっと立ち上がると、三人が同時にビクッとする。
「やっつけよう」
 リュカシスが平然とそう述べるのを、しかしジェイビーたちは驚かない。
 同じく立ち上がり、『やろう』と呟いた。
 戦いは明日。
 投入されるであろう軍の戦力を迎え撃ち、教えてやるのだ。
 『思い通りになってやらない』と。

GMコメント

●オーダー
 ミューティーのミルクバーがある地域へ、グロース師団から徴兵命令が下されました。
 女子供関係なく連れ去られ命も物資も奪われるという凶悪な命令に対し、今こそ立ち上がるチームが現れたのでした。
 ジェイビーやホランドたちと共に、襲撃してくる敵部隊を撃滅しましょう!

●フィールド:街中
 建物がおおく、住民の多くは安全な場所に避難しています。
 ホランドが保護結界を張ってくれているので流れ弾による被害は心配ありません。
 建物に挟まれた路地、あるいは屋根の上などを利用した立体的な戦闘が繰り広げられるでしょう。
 この部隊には武装した囚人と天衝種が配備されており、おそらく囚人たちを最初に突入させて場を混乱させた後、天衝種で個体戦力を補いながらヴァイスの本隊が突入という作戦をとる筈です。ヴァイス隊はリーダーが主力そのものなので、ヴァイスを倒すと自ずと撤退するでしょう。その場合天衝種に殿を任せて撤退するスタイルが多いようです。

 なので戦闘の前半は囚人対策。後半はヴァイスと天衝種に手分けしてあたるという作戦が有効です。

●エネミー
 こっそり入手した情報によると、この地域に投入されるのはヴァイス少佐率いるヴァイス隊であるそうです。
 ヴァイス隊はアイアングローブによる格闘戦を得意とするヴァイス少佐を前に出し兵で補佐するというスタイルが特徴で、一番の強敵はやはりヴァイス少佐となるでしょう。

・ヴァイス少佐
 この部隊を任されたグロース師団所属の指揮官です。鋼のグローブをはめ、格闘戦を得意としています。
 自己完結した強さがあり、おそらく部隊の中でも特に秀でた戦闘力を発揮するでしょう。
 指揮官という立場ですが、彼は積極的に前に出て戦うタイプのようです。
 また、ヴァイス少佐は非常に好戦的で戦いを楽しむタイプであるようです。

・ヴァイス隊兵士×複数
 グロース師団ヴァイス少佐直属の兵たちです。非常に訓練されており武装も豊かです。
 前に出て戦うヴァインを補佐するように、援護射撃を行ったり邪魔になる敵を排除したりといった動きをします。

・武装囚人×複数
 グロース師団によって武器を供給された囚人たちです。
 彼らは金を貰って雇われている立場ですが、であると同時にイレギュラーズを捕まえるとかなりの賞金が手に入るとあって殺気だっています。

・天衝種(アンチヘイヴン)×少数
 やや強力なモンスターが数体投入されると予測されています。
 どの種類が投入されるかはまだわかっていません。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>悪意ある徴兵完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
レッド(p3p000395)
赤々靴
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾

リプレイ

●悪意ある徴兵、そして抵抗
 白くてふわふわのファーがついたジャケットを着込むと、『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)はゆっくりと空に浮かび上がった。
 屋根の上へとよじ登ったジェイビー。そして保護結界発生装置に魔力を込め始めるホランド。
「リュカシス、見えるか?」
「うん。それにしても、徴兵が始まるに来られて本当に良かった」
「確かに……」
 空中に水鏡が生まれ、そこからするすると通り抜けるように『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)が出現する。
 不思議な力で空中に浮遊し続ける鏡禍は、眼下に広がる街の光景に表情を曇らせた。
 イレギュラーズを探してうろうろと歩き回る人々。服装からして元囚人たちだろう。おそらくは賞金目当てでこの街に投入されたのだろうが……。
「人が人を殺して、この国はどう成り立っていくつもりなのでしょう?
 それが魔種の思惑かと言われたらそうかもしれませんが、それができてしまう人が恐ろしいです」
 妖怪なんかよりよっぽど。そう呟く鏡禍たちの姿を、『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は建物の間から見上げていた。
(戦場に立ち続けてると、自分の醜さを、嫌でも目の前に突き付けられる。
 他の人を踏み躙りながら、平気な顔して笑ってるみたいな。
 そういうやり方、俺――反吐が出るほど大嫌いだ)
 心の中で悪態をつく。けれど、それを聞いて気分のいいひとなんていないと、イーハトーヴはこれまでの人生で学んでいた。
 だから目を閉じ、呼吸を整える。
「どうしたんですか? だいじょうぶですか?」
 後ろから問いかけてくるのはホランドだ。ROOで見た姿とそっくりなのですぐにわかった。
「うん、大丈夫。えっと君は……」
「ホランド。リュカシスの友達ですよね。なら僕とも友達だ」
 にこやかに握手を求めてくるホランドに、イーハトーヴは笑った。

「ミューティーさん、家の中から出たらだめっすからね! ちゃっちゃと終わらせてくるっす!」
 そう言いつけて、ミルクバーの外へと出た『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)。
「やろうやろうやっつけてやろっす!
 冬の蓄えを差し出してやるもんかっす」
 気合いの入ったファイティングポーズをとると、その横で待っていた『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がからっとした笑顔を見せた。
「徴兵って名前のクセに非常識な略奪行為だよね。おかげでエンリョ無くぶっ飛ばすことが出来るけれどね!」
 敵部隊の戦力を削って、戦力のこれ以上の追加を防ぐことが出来る!
 オレたちにとっては一挙両得のサクセンだね!
 などと続け、ぎゅっと拳を握って見せる。
 プレス機並みの握力を持つ彼の握りこぶしは、ただの決意の表れではない。実力行使のサインだ。
 その姿勢に共感したのか、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)がどこかニヒルな様子で笑う。
「盗賊よりタチのわりぃ徴兵が力ずくでまかり通るなら、力ずくで踏み倒すのも道理だな」
 懐からオシャレなケースを取り出し開くと、絵筆のセットが入っていた。ケース以上に洒落た、そして美しい装飾のついた筆のセット。その一本を取り出すと、ベルナルドは宙に虹模様を描いてみせる。
「それにしても、最初に投入するのが囚人兵とはね。肉壁のつもりかしら」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が肩をすくめれば、同じタイミングで『凛気』ゼファー(p3p007625)もまた肩をすくめてみせる。
「撃てば撃たれる、斬れば斬られる」
「なあに、それ?」
「この世の理ってやつよ。人間、何年も生きてるとうっかり忘れるみたいなのよね。自分が『一方的に撃てる側』だと思い込むみたい」
「よくある話だわ……」
 さあ行きましょうか。そう言って、イナリは広域俯瞰を発動させた。
 街に放たれた囚人たちは四方に散っている。まずはこの連中を潰して、街の混乱を抑えなくては……。


「ほらほら、賞金がついたイレギュラーズならここに居るっすー!」
 路地から飛び出し、レッドは両手をぶんぶんと振りながらジャンプしてみせる。
 そのあからさまな態度に、街をうろついていた何人かの囚人チームがぎろりと目を向ける。
「あいつは?」
「レッド・ミハリル・アストルフォーン……うお、金額やべえぞ!」
 手配書の束をぱらぱら捲っていた男が声をあげると、それをチラ見した女がにやりと笑って腰から銃を抜いた。即断即決。レッドめがけて銃を乱射しながら走り出す。
「あっ、おい!」
 射撃で距離を詰めるという覚悟のキマった行為に出た仲間に、他の連中も慌てた様子でレッドへと駆け寄る。それがレッドの発した誘引魔法の効果だとは気付かずに。
 レッドは路地を曲がった所へと逃げ込んでいき、囚人達が追いかけた……その瞬間、地面にはってあったロープに先頭の一人が足をひっかけて転倒。それにぶつかったもう一人もまた転倒した。
 そんな二人へ、屋根の上から跳躍するゼファー。
「鬼さんこちら、とは言ったものね? 追いかけっこがお好きならどうぞ、ついてらっしゃいな!」
 ついてこれるものなら! とばかりに着地と同時に槍を叩きつける。
 ゼファーの打撃を受けた囚人二人は地面とサンドされ意識を失う。続いた数人は罠だと察して後退しようとするが……その時には既に壁を透過し現れたイナリが『残影稲荷式九式短機関銃-改』を構えていた。
「しまった、囲まれてるぞ!」
「気付くのが遅いのよ」
 イナリの放つ機関銃の射撃。囚人の一人が盾を翳して防御するも、そのうちの何発かが盾を貫通して囚人の身体へと吸い込まれていく。
「くそっ、こいつ盾を抜きやがる! どんな弾つかっていやがるんだ!」
「クリティカル特化ってやつよ。ここへ攻め込んだ運のなさを恨むのね」
 イナリがそう続ける一方で、ならばと長髪の囚人が握っていた剣から鞘を外す。
 どこにでも売っているような長剣だが、構えがどうもサマになっていた。
 ゼファーは武術に長けているからこそそれがわかる。
 どうやら隙は無さそうだ……が、そんな相手は飽きるほど戦ってきたのだ。
「悪いけど、時間はかけて上げられないわよ」
 ゼファーは槍を山なりに投擲すると、それを横向きに避ける相手の動きに合わせて高速で接近。それを読んでいた相手は剣を突き出すも、更に先を読んでいたゼファーは身を更にかがめて相手の腰へタックルを浴びせた。
 地面に押し倒される形になった男。その真横に槍がバウンドしながら到着し、マウントをとったゼファーがまるで最初からそうなると分かっていたかのように槍をとりあげた。
「こ、降参は……」
 剣から手をはなす男に、ゼファーは笑顔でゆっくりと顔を横に振った。

 油絵で描かれた翼を羽ばたかせ、ベルナルドが空を飛んでいく。
 その横を、空飛ぶ水鏡の上に立つ形で並走する鏡禍。
「そこまでです」
 ぴょんと水鏡から飛び降りた鏡禍は、走る囚人達の前へふわりと着地した。
「皆さん殺気立ってて怖いですねぇ。僕なんかあっさりやられそうですよ……なんて、ね」
 慌てた様子で拳銃を抜き、乱射してくる囚人達。妖力で作り出した鏡を翳し弾を弾く鏡禍。
 相手が弾切れを起こした所で、力のこもった手刀をスッと翳して目を細めた。
「悪い子、にはお仕置きが必要ですよね」
 囚人達がヒッと声をあげて後退しよう……としたその矢先、空から急降下をかけたベルナルドのキックによって一人が踏み潰される。
 鏡禍に気をとられた相手への奇襲である。
 ベルナルドは絵筆を握ると、『七彩の誘色』を描き出した。鮮やかに痛みを伴う色をうけ、囚人達が喉をかきむしりその場に転がる。
「これに懲りたら過去の罪を償うつもりで、真っ当に生きるんだな。
 帝政派も人手が足りねぇ。ミューティー達が再び襲われないように護衛をしてくれるんなら命は助けてやってもいいぜ?」
「むううん……」
 そんな現場へと現れたのは身の丈3mにもなる巨体の囚人であった。
 囚人服のサイズがなかったのか、彼の上半身は裸である。鋼の両腕からして、おそらくは鉄騎種だろうか。
「手強そうだね。サクッと片付けるよ!」
 イグナートがなんでもないかのように屋根から飛び降り登場すると、巨漢囚人が繰り出す拳を手のひらで叩くようにしていなした。
 そのままくるりと身を転じ、相手の足元まで接近すると肘を撃ち込む。ムエタイのように横側から斜めに撃ち込む肘である。ただそれだけで囚人の足から何かがへし折れる音が響き、そして当然のように囚人はその場にぶっ倒れ悲鳴をあげた。

「ジェイ、ホリー、よろしく!『いつも通り』で暴れてやろう」
 いつも以上にごちゃごちゃした装備を腕に接続したリュカシスは、物理無効化結界を張ったジェイビーと共に囚人達の集団へと突進した。
「ボク達を捕まえるとお金になるんでしょ。どうぞやれるものならやってみて」
 リュカシスの不敵な笑みに、囚人はトンプソン機関銃を乱射する。
 が、それはジェイビーによって全て阻まれてしまった。
「ちっ、無敵のジェイビーだ! ブレイク弾もってこい!」
「させないよ」
 路地裏から飛び出したのはイーハトーヴだった。彼が素早く開いたアタッシュケースからは、バレリーナのように美しく立ち上がるメアリの姿。
「なっ――」
 囚人達が咄嗟に振り返り反撃に出ようとするも、囚人たちの間をメアリが駆け抜け、メアリとイーハトーブは同時にキュッと糸を引く。
 それだけであちこちに絡みついた糸が締まり、囚人達は首や腕を押さえてその場に固まってしまった。
「しまった! けどこんな糸くらい……」
 囚人のひとりがナイフを取り出した、その時。
 目の前にリュカシスがゆっくりと近づいていた。
「あ」
 これはまずい。そう思った時には既に、リュカシスの拡張されたパンチが囚人の腹へと叩き込まれていたのである。

●予定外の強敵
「情報通り、来たっす!」
 レッドが叫びをあげると、屋根から屋根へと飛び移るように走る影のようなモンスターたちが見えた。
「ベルナルドさん!」
「ああ、スキャン中だ。連中、結構手強いな」
 屋根の上へと飛行し飛び乗ると、ベルナルドは絵筆を握りしめる。
 一方で屋根を物質透過で通り抜けるようにしてぴょんととびだしてきたイナリは儀礼用の小太刀を抜いて構えた。
「何人くらい必要そう? 二人でいけるかしら」
「いや、予定通り四人でかかろう。鏡禍、来れるか!」
「大丈夫です」
 空から降下し、ストンとベルナルドの隣へと着地する鏡禍。壁をよじのぼってきたレッドと並び、四人で迎え撃つ構えをとる。
 広い路地を挟んだ向かい側。赤い煉瓦の屋根には雪が積もっている。
 そこへ、影のようなモンスターたちがずらりと並んだ。
 行儀良く整列しているかと思いきや、一体は前屈みになってこちらを威嚇するようにギリギリと歯を見せている。影でできているのに歯をみせるとは随分凝った作りだな、とベルナルドはそんなことを思った。
「鏡禍さん、この連中は私達で引き受けたいの。任せられるかしら」
「ん……やってみます」
 鏡禍は三度しか使えない力を発動させると、広域にわたって薄紫色の妖気を放射した。
 突然のことに気をとられた影のモンスターたち。仮称『シルエッタ』は一斉に跳躍。
 対する鏡禍やベルナルドたちも屋根から跳躍し、あえての近距離戦を挑みにかかる。
 空中で激突したベルナルドとシルエッタ。至近距離から絵筆を放ちヒマワリを描き出すと、太陽のごとき輝きがシルエッタたちへ直撃する。対するシルエッタからは腕を剣のように伸ばした攻撃が鏡禍へと迫る。展開した障壁でその一部をとめるも、何本かは障壁を貫通して鏡禍へと突き刺さった。
「ッ――!」
 痛みをこらえる鏡禍。だが問題無い。レッドがこんなこともあろうかと治癒のうたを準備していたのである。
 いわく『救世と慈悲の詩』。
 レッドが朗々と読み上げたその詩は鏡禍へ突き刺さった影の腕とそこから始まった侵食を素早く食い止め拒絶させる。
「さあて、こいつら倒したらどう利用してやろうかしら」
 イナリはチャンスとばかりに跳躍すると、『三光梅舟』を繰り出した。
 必殺の剣が目のくらんだシルエッタたちを切り裂いて行く。
 跳躍力が足りずに路地へ落ちそうになったイナリを両サイドからキャッチして、ベルナルドと鏡禍が向かいの屋根へと着地する。
「ありがと」
「いいえ」

「よーお、元気?」
 手をぱたぱたと振りながら、軍服をラフに着こなした男が現れる。
 十字路を挟んで、軍服の男達とリュカシスたちは向かい合っていた。
「ヴァイス少佐……ですね」
 リュカシスが問いかけると、振っていた手をとめて曖昧に握ったり閉じたりする。
 その一方で、イーハトーヴはそっとリュカシスの表情を確かめた。
 リュカシスはいつものようなニコニコとした表情を崩し、どこかリラックスした有様だ。
「あなた、お仕事しに来たって調子じゃなさそうね?」
 話を続けてくれたのはゼファーだった。
 助かったとばかりに『そーなんだよー』と返すヴァイス。
 イグナートはといえば既に両手の拳を握り込み、いつでも殴りかかれる姿勢をとっている。
「俺さ、マジバトルができるっつーから働いてんのに、仕事内容は物資調達じゃん? くそだりー、って思ってさ」
 大袈裟に肩をすくめてみせるヴァイスだが、その目はひどくギラついている。
「そしたらおめーら囚人共をぶちのめしてるじゃん。俺この仕事の責任者じゃん。セキニとらないとじゃん? マジでウケるぜ。つえーやつボコして金もらえるんだからよ」
 にたりと笑うヴァイス。なるほどこれが本性か。ゼファーはスッと顔から表情を消し、一方のリュカシスはやや顔をうつむけた。
「ボクも戦いは楽しいタイプだけれど、貴方とは方向性が違いそうです」
「そりゃ残念。んじゃバンドは解散だな!」
 などと言いながら、ヴァイスはタンッと地面を蹴った。
 ――蹴った、瞬間には、ヴァイスは既にリュカシスの目の前にいた。
「リュカシス!!!!!!」
 それに気付いたのはジェイビーとホランド。
 咄嗟に庇いにはいったジェイビーの無効化結界が破壊され、咄嗟にホランドがカウンターヒールでジェイビーを殴り飛ばさなければそのまま彼の身体が破壊されていただろう。
 それほどヴァイスの拳は早く、そして必殺の威力を持っていた。
「ジェイビーっ」
 リュカシスはその様子を一瞥し、そして感情の爆発をそのまま現すかのように腕のギミックからボンッと小爆発をおこさせた。
 この対立状態はマズイ。ゼファーはすぐさまそう判断してヴァイス――の更に向こう側へと飛び込んだ。
 なぜならヴァイスの後ろからライフルを構えた眼帯の男がリュカシスめがけ発砲したためである。彼らの狙いは擬似的な『一対多』を作ること。実際、撃ち込まれた弾をゼファーがかわりに受けたところくらった箇所から広がるように身体の動きが鈍くなった。
 ヴァイスのような人間を前にした状態でこれをくらえば、直後に待っているのはクリーンヒットだろう。
「無粋なことするわね」
「なるほど、そっちはマカセルね」
 イグナートは結構な無茶を言いながらもヴァイスへと殴りかかる。対するヴァイスはというと、イグナートのパンチを紙一重でかわしながらもリュカシスと至近距離で殴り合っていた。
「メアリ、オフィーリア、みんな! こっちを片付けるよ!」
 イーハトーヴはゼファーに加勢する形で前に出ると、リュカシスへの集中攻撃を仕掛けようとする兵隊たちめがけて魔法を発動させた。
 彼らの中央へと躍り出たメアリが美しく舞うと、広がった黒い波紋がまるで食虫植物のごとく周囲の兵達を包み込んでいく。
 そのさまにぎょっとした眼帯の男めがけ、ゼファーは一気に距離を詰めにかかる。
 近距離でライフルは無駄と判断してか、銃を捨て腰の剣を抜く眼帯男。
 刀身と槍が激突――した次の瞬間、男の剣がぐにゃりと折れた。それだけの威力がゼファーの槍には乗っていたのである。
「どうかしら。続ける?」
「うーむ、相手が悪すぎますな」
 冷静につぶやきつつも、眼帯の男は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

 イグナートの激しい連打とヴァイスの連打が交差し、一進一退の勝負が繰り広げられる。
 跳躍し壁を蹴ったイグナートと同じく壁を蹴ったヴァイスが交差する……と、二人はがくりと屋根の上でよろめいた。互角。だが、だからこそ『こちらの勝ち』だ。
「リュカシス、こいつを使え!」
 ジェイビーが投げた釘バットをキャッチし、リュカシスが跳躍する。
 ハッとして振り返ったヴァイスめがけ、リュカシスは思い切りバットを叩き込んだ。
 腕を翳し防御するヴァイスだが、その腕が折れる音が響く。
 ヴァイスは顔を引きつらせ、そして飛び退いた。
「やべーやべー。死ぬとこだったぜ。ここで死んじゃあ楽しくねえよな」
 ヴァイスは大きく距離をとると、追撃しようとするリュカシスたちに手をかざす。
 途端、まばゆい光と激しい音があたりを包み込む。
「俄然仕事が楽しくなってきやがった。またあそぼーぜ!」
 音の中にそんな言葉を残しつつ……ヴァイスとその隊は撤退していったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 街は守られ、ヴァイス小隊は撤退していきました。

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