シナリオ詳細
年を越すなら踊ってしまえ
オープニング
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「どうして――!」
スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)は叫びながら、イル・フロッタ (p3n000094)を後方に押しやった。
「ぴえっ」
思わず抑えられたイルを庇いながらサクラ (p3p005004)が「スティアちゃんこれはどういうこと」と震えた声音で問いかける。
「違うよ、私のせいじゃないよ! 私じゃなくって、これは、ねえ!?」
「そうだね。琉珂君の個性というか……蕎麦って踊るんだね」
深緑の魔女だってそんな事予期していなかったとでも言うような顔をしてアレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)は目を伏せた。
「ちょっと、リュカ!」
「さ、さとちょー……」
晴れ着を着用していた珱・琉珂 (p3n000246)の側で秦・鈴花 (p3p010358)とユウェル・ベルク (p3p010361)が首を振っている。
「琉珂、聞きたいのだけれど、これは何?」
「と、年越し蕎麦を……皆にって思ったの……」
朱華 (p3p010458)は頭を抱えた。凄いねと笑ってくれる炎堂 焔 (p3p004727)の存在だけが今は救いである。
動き回る蕎麦(?)を前に最初は興味深そうに近づいていたポメ太郎も威嚇し慌しく周囲をぐるぐると回り続けていた。
ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)は「落ち着け、ポメ太郎」と愛犬を宥め続けている。
――事態を説明しよう。
イルがシレンツィオ特集を眺めていたときの話だ。『先輩とのデート』を想像しうっとりとしていた頃に「年越しといえば年越し蕎麦!」という豊穣の風習が目に入ったのだ。
さて、細かいことは分からないが『そばをうつ』らしい。
『そばをうつ』――打つ? 撃つ? 射撃の訓練なのだろうか。イルは首を傾いだ。
興味ばかりが芽生えてスティアに相談したイルは「晴れ着は着てきちゃ駄目だよ!」と言われつつも年越し蕎麦について教わりにやってきたのだ。
丁度、シレンツィオは新年を祝って花火なども上げるらしい。華やかな年越しを楽しめそうだと意気込んだスティアはふと、思い出す。新しい友達を紹介するとイルに約束していた事を。
親友であるサクラと協力し、声をかけたのは亜竜集落の里長、琉珂であった。
アレクシアと一緒に蕎麦打ちをイルに教える計画をしたスティアは焔とベネディクトにも是非手伝ってほしいと微笑んだ。
焔は「勿論だよ! 楽しく過ごそうね!」と快諾し――今回は悪い事してない焔ちゃんだよ!――ベネディクトはポメ太郎と共に遊びに来てくれることになった。
琉珂を誘えば彼女の友人達である朱華やユウェル、鈴花も同行してくれる事になったのだが……。
晴れ着姿で意気揚々と現れた琉珂は恐ろしい事に蕎麦を作って来た。
「本で見たからやってみた!」と宣言し、動き回っている蕎麦を手にしていたのである。
「リュカ、蕎麦は動かないわ」
「でも、鈴花。こうして動いちゃったの」
「さ、里長……これ食べ物なの?」
「うん、ユウェル! 食べれるわよ! ……イキが良いだけだし、ね?!
アレクシアさん、アレクシアさん! これって、茹でれば食べれるよね!?」
やけに動き回っている蕎麦を手に走り寄ってくる琉珂にアレクシアは頭を抱えた。
――どうなのだろう。
「と、とりあえず、楽しい年越しパーティーにしましょう! お料理食べたーい! ね? ポメ太郎?」
わんわんと嬉しそうに相槌を打ったポメ太郎にベネディクトは琉珂はポメ太郎とイコール位の勢いで食いしん坊なのだろうかと感じた。
「はっ、そうだった。思わず驚いて何も分からなかった。
スティア、今日は『年越し』についてよろしく頼む。私も色々、お手伝いして学びたいと思う。
あ、あと、それから……あの、晴れ着っていうのは綺麗だからスティアやサクラが着ているの見てみたいな」
私には似合わなさそうだから、ともじもじと呟いたイルの声を遮って琉珂が「うわああああん、蕎麦のダニエルが逃げ出したぁ!」と叫んだ。
- 年を越すなら踊ってしまえ完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年01月10日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「凄いね! ボク知ってるよ、混沌世界にはいるんでしょ?
こういう動く蕎麦みたいな謎生物が! ……えっ? いない? じゃあアレは何?」
年越しを控えたシレンツィオリゾート。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はにんまりと笑顔で蠢いている謎の『蕎麦』を指差してから表情筋を硬直させた。
目の前に存在しているのは蕎麦らしきものが毛の長い動物のように蠢いている様子である。にんまりと微笑んでいる珱・琉珂 (p3n000246)と困惑しているイル・フロッタ (p3n000094)の双方を視界に捉えてから『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は酷い頭痛がしていた。
「スペシャルだけでも頭が痛いのにー!」
目の前の怪物は琉珂が張り切って作ってきた蕎麦である。そう、謎の生物を作り出す亜竜種ガールと全ての料理を無意識下でスペシャルてんこ盛りにしてしまう『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が居るのだ。
「もしスティアちゃんが琉珂ちゃんに料理を教えたら恐怖のダニエルすぺしゃるが生まれちゃうかも知れない!
イルちゃん! スティアちゃんが琉珂ちゃんをスペシャらないように見てあげてね!」
「あ、ああ、任された!」
手をがっちりと掴んで願い出たサクラへとイルは大きく頷いた。滲んだ不安はスティアが山盛り料理を無意識で作る以上に『奇妙な蕎麦』が踊っている現状が悪化する事を考えてなのだろう。
「琉珂君のお料理……いつの間にこんなふうなことに……!」
琉珂の料理が奇妙な方向へと進化したのは何時だったのだろうと『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は頭を抱えた。少なくとも前に顔を合せた時にはお世辞にも料理は下手では無かったが動く事は無かったはずだ。
「ううう、これ以上変な方向に進化しないように、責任を持って監督します! いいよね、琉珂君」
「なんでお蕎麦が動いてるの! かな!!! さとちょー!!!」
困惑する『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)の足元でポメ太郎が吼え続けて居る。宥めるのは『黒き葬牙』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の役割でもあるが彼の表情にも困惑の色がべったりと張り付いている。
「生命が誕生するとは…ゴーレムの様な物なのか?」
もう吼えなくても良いとポメ太郎と抱きかかえるベネディクト。ポメ太郎の威嚇を受けた蕎麦が怯えるように蠢いている。
「しかし、普通の蕎麦を食べるのも楽しみだな、手打ちはやっている所は見た事が無い気がする。
年越しパーティーとは楽しみだ。誘いに改めて感謝をするよ。イルと琉珂と――ダニエル……も宜しく頼む」
蕎麦にまで恭しく挨拶をするベネディクト。その穏やかな笑みを見詰めていたダニエルこと『蕎麦』がぽっと頬を染めた気がした。
「染める訳ないじゃない!」
『煉獄の剣』朱華(p3p010458)が叫んだ。自己主張の激しいダニエルを見ていると不安になるのだ。
「琉珂……年越し蕎麦を皆に振舞おうって気持ちは嬉しいのだけど、食べ物はね、普通動かないのよ。……動かないわよね?」
「ダニエルは、ワライグサとウキウキダケを――」
「……兎も角っ!
琉珂は今度から料理を作る時はスティアや鈴花だとか、ちゃんと料理が作れる人と一緒に作ることっ!
まだ気は早いけど、チョコレートモンスターは勘弁してほしいしね」
「チョコレートも一緒に作ってくれるの? 鈴花、スティア!」
ぱあと輝く笑顔を見せた琉珂に「やばい」と朱華は口を押さえた。この流れでは『チョコレートモンスター』の毒味係に指名されてしまう。
視線を逸らした朱華の傍でダニエルがぴょんぴょんと跳ねている。一連を眺めて大きなため息を吐いたのは――そう、『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)であった。
「リュカが新しいトモダチに張り切らないわけがなかった。それを見抜けなかったアタシの監督不行届ね……監督?」
――兎も角、楽しい『年越しパーティー』の始まりなのだ。
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「と、そういえばイル君と直接会うのもかなり久しぶりな気がするね。元気にしてた? 今度、天義にも遊びに行くね!」
にんまりと微笑んだアレクシアに呆然としていたイルは大きく頷いた。大所帯での年越し準備に彼女も張り切っているのだ。
「アレクシアも元気だっただろうか?」
「勿論」――と、言いながらも身の上に起きた事は敢て口には出すまい。イルは初めて対面する亜竜種達に向き直り「イル・フロッタだ」と微笑んだ。
「ちょっとうちの子のせいでバタついちゃったから改めて名乗らせてもらうわ。朱華よ。イルはどうかよろしくね」
「鈴花よ。料理なら任せて頂戴、正しい料理を教えるわ」
――そう、だからこそ『あの』ダニエルのことは忘れるようにと鈴花は口を酸っぱくする。
「うん! 何も居ないよね、ねー。イルちゃん。折角出し美味しいお蕎麦を作ろうね! 料理はウゴカナイヨ」
何も見ていないとでも言う様にスティアは視線を逸らした。ダニエル係はスティアなのだとサクラが微笑んだ事を思いだしイルは目を逸らす。
「あ、用事を思い出したかも……って動けないよー!」
「スティアは現実を見なさい」
首を固定される。見ろとでも言う様に鈴花ががっちりとスティアを羽交い締めしているのだ。サクラは「そうだよ、スティアちゃん」と肩を叩く。
「そしてダニエルに立ち向かいなさい」
「なんでー! どうしてー! サクラちゃん、鈴花さん! ひどい!」
ばたばたと脚を動かしているスティアを見詰めてから琉珂は「ダニエル、どうするの?」とボウルにぶち込んで抱えていた。
食物に困ればペットだと思っている亜竜でも食べてしまう辺り、食に関しては強か『過ぎる』感覚を持ち合わせる里長。その蕎麦で朱華は「ダニエルはスティアが食べてくれるそうよ」とボウルの中でショックを受けるダニエルを見詰めていた。
「ちゃんと食べてもらえるなら生まれてきたダニエルも浮かばれるってものね。ソレで実際味の方はどうなの? お、美味しいのかしら?」
ショックを受けている様子には見ない振りをする朱華に「さとちょー、ダニエルはスティアせんぱいにわたしてね」とユウェルは笑う。
「ダニエルのことよろしくね、スティアせんぱい!」
「どうしてー!」
「さあ、俺達は料理をしようか。時間は限られているしな。ポメ太郎と俺は瑞への土産を作り始める。軽食も用意しておこうかな」
食材を取ってくると、まるでダニエルなんていなかったようにベネディクトが歩き出す。「待ってー!」と叫んだスティアを抑えてサクラは「仕方ないよ」と首を振ったが――「あ!」と琉珂が声を上げた。
「どうしたの? 琉珂ちゃん」
「焔さん、大変! ダニエルが食べられる事を悟って逃げた!」
どうして、と叫びたくなったのは焔とサクラの側だった。アレクシアはそっと目を伏せる。年越し蕎麦が逃げる事が彼女の尊い記憶に残されてしまう。
「……よし! お蕎麦は……ダニエルをどうにか茹でるとして、それ以外の薬味とか付け合せの一品とかを作っていくのが良さそうかな」
――スルーした。ダニエルが浮遊しながら逃走を図るがサクラが直ぐにお箸を聖剣よろしく二刀流で握り捕縛していたからだ。
「ダニエルはちゃんとお鍋から動いて出たりしないようには見張りつつ、鈴花君が教えるのを補助してあげる感じで立ち回るのがよさそうかな?
……どう見ても手が足りてなさそうだし」
アレクシアは先が思いやられた。バタバタしているダニエルをスティアの口に『ぶち込む』のは忍びないからと捕獲したサクラが鍋にぶち込んでアレクシアに茹でる事を依頼する。
「ダニエル、いい湯加減ね」
鈴花はアレクシアが見張っていてくれる間に勢い良くダニエルに鍋蓋を叩きつけた。茹でる間に蕎麦の薬味の準備も必要だ。
「リュカ、イル、手伝って頂戴。天ぷらの材料を切って衣をつけて……そう、リュカは鋏でリズムよくネギを切ってね」
葱をキッチン鋏で切る琉珂は心なしか楽しそうである。料理慣れしていないが、まだ常識人であるイルはそれなりに料理をしていたが――
「であああ油が怖いからってえいやって投げないのイル!」
「だ、だが、ぱちぱちするぞ!?」
おろおろとしているイルに世話を焼いている鈴花の耳に「って、ユウェルちゃん何を入れようとしてるの!?」と焔の叫び声とポメ太郎が尾をぶんぶんと振り回しベネディクトに「あれはなんですか!? おいしいですか!?」と問うている様子が見られた。
――ふふふ、こんなこともあろうかと今回はわたしもちょっと奮発したのです。
黒豆に混ぜる用の黒真珠! 真珠はうちの里でも取れないから海洋に行ったときに買っておきました! ちょっとおたかいやつ!
……仕方がない。ユウェルは宝食の竜だ。皆がダニエル達に注目している間にそっと入れようとしていたのだ。
「はっ! ぽ、ポメ太郎これはおいしーんだよ? ほ、ほんとだよ?」
「だ、駄目だよ。注意しなきゃいけないのが琉珂ちゃんだけじゃなかった……。
よく見つけてくれたね、ポメ太郎! お礼に後でポメ太郎でも食べれるおせち用意してあげるから」
嬉しそうなポメ太郎が褒めてくださいとベネディクトの元に戻っていく。穏やかな微笑みの青年に焔は自らを指差してから「自分で言うのもなんだけど、こういう時にボクが常識側に入るってなかなかないよね?」と問うた。
「……驚くべき人材が眠っていたのかも知れないな」
「そうかも、ボクも驚いてる」
鈴花はイルと琉珂の世話をアレクシアに任せてつかつかとユウェルに近づき羽交い締めをする。
「あとゆえも鍋に変なの入れない! ――ぜえはあ、身体がいくつあっても足りないわよ!」
「びえーん。もう持ってないです。はい。これは自分のおやつにしますです。うっうっ良かれと思ってたのに……さとちょー抑え係になります……」
しょんぼりとしたユウェルはダニエル以外の蕎麦を取りあえず用意しようと準備を整えていた。
一方で茹で上がったダニエルを抑えながらサクラは「頑張ってね」とスティアに微笑んでいた。
「えんえん、観念してダニエルを食べるね。味はどうなんだろう……お腹壊さないかな?
あ、結構……あ、うんうん、蕎麦……蕎麦の味がする。あれ? 動いてたけどまとも……あ、お口の中で動いて――」
何があっても不屈の精神でカバーするスティアにイルは涙がこぼれ落ちそうになった。
●
おにぎりとサンドウィッチを作っているベネディクトは足元でぴょんぴょんと跳ねるポメ太郎に胡瓜を懇願されていた。
瑞神の為のお土産は鮭とおかかをそれぞれ具材を変えて準備をすることにした。サンドウィッチは卵サラダにレタスと胡瓜。
手際よく用意するベネディクトの脚に二足歩行を覚えてかのようにしがみ付いているポメ太郎は「胡瓜下さい」と懇願し続けて居る。
「ポメ太郎、食事は皆で獲ろう」
ぴょんぴょんと跳ねるポメ太郎。ちょっとだけ下さいと言いたげな愛犬はその動きを繰り返していればダイエットにでもなるのではないかとベネディクトは見下ろしていた。
先程から『ずどん、ずどん』と音がしているのは愛犬が重すぎるからなのだろう。
「駄目だぞ、ポメ太郎。もう摘まみ食いする具材はないし完成してしまった。女性陣の料理の様子を見学させて貰おうか。
ポメ太郎、あちらの様子を見に行くのはいいが勝手に食べたり、迷惑を掛けたりしたらダメだぞ」
「わう!」
分かりましたと尾を振ったポメ太郎の頭を撫でてからベネディクトは気を取り直したスティアがイルに蕎麦打ちを教える様子にベネディクトも興味津々だった。
「ダニエル、良い最期を迎えられたわね」
よかったと頷いてから朱華は琉珂が料理に変な物を入れないかと彼女を観察していた。
「……流石に普通に作るだけで第二第三のダニエルが生まれたりはしないわよね?」
「本当に? でも絶対に目を離さない方が良いよね? そうだよね?
だって何かの拍子に天ぷらや刻んだネギが動いたらどうするの!? もう収拾つかなくなっちゃうよ!? じーーーーーーーっ!」
最早緊張を滲ませているアレクシアに朱華は「そ、そうね。確かにそうだわ!」と琉珂を真っ直ぐに見詰めている。
くすくすと笑っているスティアに気付いてからアレクシアは口を酸っぱくして「スティア君も絶対スペシャルなのは作らないでね!!!」と言った。
「え?」
「たすけてサクラ!! 保護者でしょ!?!?」
嫌な予感を感じた鈴花が叫ぶ。ベネディクトは「手遅れか……?」とスティアを注視した。
「焔ちゃんもいっとく? サクラちゃんと鈴花さんは食べるよね!
スペシャル中のスペシャルをみせてあげる! 普段よりも多めに盛っておくね! どーん! せっかくだし、美味しく頂かないとね」
にんまりと微笑んだスティア。サクラは目を伏せてから首を振った。
「ごめんね鈴花ちゃん……私もいまだかつてスペシャルを止めようとして止めれた事はないんだ……」
「はっ! 本当だ! 注目しなきゃ行けない相手を忘れてた!
ユウェルちゃんに気を取られてる隙にスティアちゃんがスペシャ……えっ、いつもよりスペシャってない?
うぅ、さっき見捨てたバチがあたったのかな、美味しいし動いてないしもったいないから頑張って全部食べるけど!」
焔の目にも涙が浮かぶ。イルに教えているからだろう。こんもりとした蕎麦の山を見詰めてサクラが頭を抱え――ベネディクトは料理とは此程恐ろしいことだっただろうかとポメ太郎の頭を撫でた。
「琉珂ちゃん、ファイナル鈴木DX(仮)を生み出さないように祈らなきゃ……」
「ファイナル鈴木DX? 良い名前ね!」
「駄目だよ!?」
叫ぶ焔に琉珂は「えへへ、グラオクローネを楽しみにしててね」と微笑んだ。
ユウケルは「知ってるんだからね、さとちょー。幻想で変な本買ってたでしょ」と頬を突いて琉珂のネーミングセンスを指摘したのだった。
●
「よ、よし、気を取り直してトランプだ!」
ババ抜きの秘技を教わったという焔はジョーカーだけ1枚上に突き出していた。あからさま過ぎるがサクラは慢心していた。
「ふふふ、私はババ抜き得意なんだよ! 清廉潔白な聖騎士のワタシはジョーカーの方から避けて……うわーん! ジョーカーだー!
ほらベネディクトさん! ジョーカー引いて! 騎士で紳士のベネディクトさんなら助けてくれるよね!」
懇願するサクラへとベネディクトは真顔で一度ジョーカーを預った。サクラのほっとする笑顔にはついつい釣られて笑ってしまう。
「アレクシア辺りは強そうな気がするな……ふむ、いや、これは…いや、そうだな、こちらにしておくか?」
「そうでしょうとも! 魔女の本領を見せてあげましょう! ほら、魔女ってこういうの強そうじゃない! ふふー、どこからでもかかってきなさい!」
――だが表情で丸わかりだったのだ。
「いきなさいポメ太郎、アタシがジョーカーを触ったら鳴くのよ」
おやつと賄賂を渡そうとする鈴花に気付いてベネディクトが彼女を見詰めるが――
「ああ、卑怯よベネディクト! 顔がいいからってこっち見ないでよ!! 顔面が反則よ!!」
顔面で反則を切られた騎士は為す術もない。ががーんしているスティアも「ベネディクトさん駄目だよー!」と叫んでいる。
「ぐぬぬ……せんぱいたちの顔を見ても誰がババ持ってるかわからない……うわーん! またババが来たー! なんでー!!!」
慌てるユウェルに朱華はあんぐりと口を開いた。
「皆でババ抜き……にしても亜竜組ちょっと弱すぎないかしら? 皆の顔が面白いことになってるわ……」
「朱華、これ交換して?」
「ルールが違うわよ、琉珂」
ババはいらないわ、と朱華が首を振れば琉珂は悲しそうに「ユウェルー!」と叫んだのだった。
花火の音が聞こえ始める。もうすぐ年越しだ。眠たい目を擦ったユウェルはそわそわと身を揺らし。
年越しの花火に花を添えたアレクシア。思い出は鮮やかに咲き綻ぶ。
「3,2,1――」
サクラのカウントダウンにポメ太郎もぴょんと跳ねた。
「今年もよろしくお願いします」
皆揃っての挨拶に焔は「アレクシアちゃんも晴れ着を着よう! 着付けをするよ」と微笑んだ。
「折角だ、ポメ太郎も着てみるか?」
問うたベネディクトにポメ太郎もあん! と楽しげに応えた。一眠りすれば初詣に行こうとアレクシアは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「みんなで迎える新年も楽しいものだね! 初詣はせっかくだし何かお土産になりそうなもの買って帰りたいな! 破魔矢とか、お守りとか!」
「そうしましょうね。……こんなに大勢で、里の外で新年を迎える日が来るなんて思ってなかったわね、ほーんと。
初詣も楽しみだわ。今年もきっと、いい一年になるわね!」
「ええ、今年も良いことがありますように!」
微笑んだ朱華と鈴花が顔を見合わせれば琉珂が勢い良くユウェルと共に飛び付いてくる。
きらきらと輝く空を眺めていたイルはスティアとサクラを見てから「焔がアレクシアを着付けるらしいんだ」と晴れ着を着てみたいと提案した。
嬉しそうなポメ太郎の頭を撫でてイルは「楽しいな」とベネディクトに微笑んで――願わくば、幸せな一年になりますように。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
イルも琉珂もとっても楽しんだと思います。ありがとうございました。
グラオクローネのチョコレートモンスターか、成程な……!!
GMコメント
どうしてー!!!
●成功条件(?)
年越しを楽しく過ごしましょう!
●シレンツィオのわくわく年越しパーティー
天衣永雅堂ホテルです。
シレンツィオで年越しを楽しもうとスティアさんが提案した所、たまたま近くで聞いていた中務卿が胃薬と一緒に場所を提供してくれました。
お代金はお料理を作ったらポメ太郎に担がせて、瑞に包んでお土産にしてやってくれとのことでした。わんわん。
カウントダウンと一緒に花火も上がるそうですよ。やった~!
その前に楽しくお料理をしたり、年越し蕎麦を食べたり、何なら新年明けてからも美味しくご飯を食べましょう。
キッチンは広く、ある程度の食材が揃っています。ホテルの中にある厨房の一つを貸し出してくれました。
お部屋はスイートルームを2つ。隔てている壁は開閉が自在なので繋げて大広間として楽しむことも可能です。
楽しく年越しをしていただければオールオッケー。持ち込みも大歓迎です!
●ダニエル
蕎麦です。琉珂が本を見ながら作った蕎麦……ですが、動いています。
ちなみに命名は幻想国で『赤ちゃんの名付け』という本を琉珂が手に入れてそこから名付けました。
びくびくとしていますが食べられそうになると突然逃げます。お湯が嫌いです。
食べる事ができます。
●鮫さん
今日はお留守番です。エミリア・ヴァークライト叔母様が頭を抱えていました。
●NPC
・イル・フロッタ (p3n000094)
スティアさんに『としこしそば』を学びにやってきた天義騎士。
『そばをうつ』とは射的だったのか、『そば』は動くのかと怯えています。
基本的にはとても素直。とても不器用で料理はへたっぴさんですが皆さんに教わりたいそうです。
・珱・琉珂 (p3n000246)
ご存知亜竜集落の里長。お料理をすると何故か謎の生命体を良く生み出します。
テンションが高く大暴れ系ガール。イレギュラーズがとっても大好きです。
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