シナリオ詳細
<フィクトゥスの聖餐>魔女裁判場の決戦
オープニング
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「………………」
今日は吹雪だ。吹き荒れる大風が建物全体を揺らし。異常な大雪が外の光景を白一色に染め上げていた。
「アドラステイアの終ワリ、カ……」
そう呟いたのは、聖銃士――プリンシバル・エクスキューショナー。通称、プリンシバル・エクス。
汚く狂った大人達をも超える力を手に入れる為に、とあるシスターの協力の元、ありとあらゆる呪術と禁術を全身に仕込んだ少年。
右腕は赤黒い異形の大腕と化し、顔の半分は変形して岩の様に硬質化し。身体からは、猛毒が滴る鋭い棘が無数に生えている。『怪物』と呼ぶに相応しい姿だ。
「静カダナ……」
絞首台の隅に腰掛けながら、エクスは呟く。風音は喧しかったが、それでも久しぶりの静寂をエクスは感じていた。
ふと辺りを見回した。ここは、かの『魔女裁判』が幾度と行われた裁判場の1つ。そして、速やかな処刑を行使する為の処刑道具が揃えられた処刑場でもあった。
絞首台に、ギロチンといった基本の処刑道具は勿論、毒殺串刺し火炙り轢殺爆殺刺殺――思いつく限りのあらゆる処刑方法を行える設備が整っていた。
エクスはアドラステイアにて成り上がる為、同年代の子供達をまさにこの場所で大量に処刑してきた。数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどに、大量の子供達を。
「神ナド信じテ居ないガ、アレは最高だっタ……あのバケモノ女も一緒に楽しんでいたノハ腹が立つガナ……」
いくつもの処刑の光景が脳裏に浮かんだ。しかしそれを思い返すたびに嫌でも思い浮かぶのは、自身の教育役であり汚い大人の一人でもある、シスター・シーラであった。シスター・シーラは先日、エクスと共にイレギュラーズ達と戦闘を行った結果敗北し、虜囚の身となっていた。
その時は死んだと思い込んでいたが、どうやらそうでは無かったのだと戦いのすぐ後にエクスは知った。
「ここで多くの奴らを殺した……処刑して笑って、成り上がってあのバケモノ女に褒められて……一緒に笑い転げた。ハア……」
この場所はエクスとシスター・シーラにとっての遊び場でもあった。思い出の場所、と言えるのかもしれない。
「チッ……クソ、ジブンが何を考えテ居ルのか分からナイ……!!」
エクスは怒りが胸に込み上げてきた。何に対する怒りかは分からない。エクスにとって他者など利用するだけの道具でしかなく、大人は薄汚くて善人面したクズばかり。シスター・シーラも、当然そうだ。
いや、むしろあの女の方が酷い。他者を何とも思っていない、バケモノだ。自分と同じ位の。
「………………」
ふと、エクスは背後を振り向いた。そこには聖獣――背中に天使の羽根の様なモノを生やした、全身に甲冑を着込んだバケモノ達がいた。
「哀れナ無能共ガ」
それだけ呟いて、エクスは立ち上がった。そして処刑場をゆっくりと歩いた。過去の光景――シスター・シーラと共に愉しい処刑を行ってきた日々を回想しながら。
「アドラステイアは終わりダ……ソレ自体は興味が無イガ…………吹雪が止んダラ、行クカ…………イレギュラーズはヘブンズホールや疑雲の渓に向かう可能性が高いだろう……奴らの兵力がそちらに向いている内に……」
捕らえられているシーラを救出する…………何故? 何故そんな事をしなければならない?
そこには愛も友情も絆も、何もないというのに。
●
「それで……エクスくんが一旦身を潜めるとしたらどこかしら? なにか心当たりはある? シーラちゃん」
「んー……魔女裁判場じゃないですか? 色々な思い出がある場所ですからねえ、あの場所。エクスと一緒にやる魔女裁判はそれはそれは愉しくて……証拠の捏造や処刑道具の新調も、ついはりきってやってしまっていました」
ガイアドニス(p3p010327) の問いかけに、囚人となったシスター・シーラは驚くほどあっさりと答えた。
プリンシバル・エクスとシスターシーラ。2人の強敵ととの戦いの末、シーラを捕らえる事に成功したイレギュラーズ。強力な魔術師であるシーラは特殊な拘束具をつけられ囚人服を着ながらも、檻の中で優雅に椅子に腰かけていた。
「魔女裁判場……シーラちゃんを含めた大人が立会人になって行われる裁判ね? エクスちゃんとシーラちゃんが毎日笑いながらやってたっていう、あの」
「ええ、そうです。敬虔な信者であれば、ヘブンズホールに繋がる鐘塔への道の守備にでも入っている頃でしょうけど……私もエクスも信仰心なんて爪垢程にも持ち合わせていませんし、この混迷化した状況じゃあ、わざわざあの子に指示を出す大人も居ないでしょうし。となると、彼にとって安心する場所。魔女裁判場に足が向くのが自然な流れと思いますね」
足を組み換え、冷たい水を啜るシーラ。
「そして、恐らくは彼は新たに聖獣や銃士の補充も行ってはいないでしょう。彼の力は私をも凌駕しますが、それとは関係なく他者の力を借りる事に抵抗を覚える子ですから。何でも自分でやりたいお年頃なんですよね」
「なるほど……結構カワイイ所あるわねエクスちゃん! まあそれはあなたもだけどね、シーラちゃん!」
「あら、カワイイ顔立ちしてるとは生まれた時から思ってはいましたが。それはどうも。エクスはあなたの事を嫌ってそうですけね、フフ」
シーラは口に手を当てて笑った。
「……それ、本当? こっちから聞いておいて何だけど。どうしてそんなに、あっさりと敵に内情を喋るの?」
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の問いに、シーラは小さく笑う。
「真面目な貴女には分からないでしょうね、お嬢さん? その理由は……私が不真面目だからです。ほら、先の戦いでは私が集中的に殴られ斬られて散々だったじゃないですか。それなのにエクスだけそれを味わわないって言うのは、ねえ? それに貴女達も、まだエクスの実力をちゃんと知らないでしょうし……私より強いですよ、エクスは。そういう訳で、どうせなら私の一番弟子の力を見ていただきたいなあって」
「本当にあなたって人は……」
スティアは小さくため息を吐いた。
「そうですねえ、他に話す事としては……あ、知ってるかも知れないですし知りたくないかもしれないですけど、聖獣って、元子供です。イコルを過剰摂取したりファルマコンの血を飲んだらああなっちゃんですよね。才能の無い銃士や増えすぎた子供をそう変えてたらしいですけど、個人的にはあまり見た目にセンスがないというか、どうせ異形化するにしてもエクスみたいな感じの方がカッコいいというか――」
重要な事もそうでもない事も喋りまくるシーラから離れ、ガイアドニスとスティアは牢の外に出る。外は、あいにくの吹雪であった。
「プリンシバル・エクスは、やっぱりかなりの力を持っているみたいだね。戦術的な行動を取るかは分からないにせよ、好き勝手暴れられる前に仕掛けた方がいいかも」
「そうね……エクスちゃんが何を考えて行動するかは分からないけど、フフ! もしかしたらシーラちゃんを助ける為に動こうとしてたりして!」
「まさかそんな事……いや、私は彼らの事を理解してないからね。その可能性も無くは無い事も無くは……うーん……でも確かなのは、エクスとの決戦の場は魔女裁判場になるって事かな」
吹雪が止むまで、あまり時間は残されていない。
- <フィクトゥスの聖餐>魔女裁判場の決戦Lv:35以上完了
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- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年01月19日 22時10分
- 参加人数10/10人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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「まあ、結局の所私が施した呪術や禁術なんて、ファルマコンの力に比べれば大した事なんてないんですよね。もちろんエクスに施したソレもかなりのものではありますけど、聖獣達は本当の意味での怪物になってますから。その、なんといいますか。根っこから変質してしまったという意味で。所詮取り外し可能な力と言うか。怪物の様な力を欲する彼には、分かりやすい怪物の姿になってもらうのが良いと思ったんですよね。その方が力を手にしたという実感を得られますし。結局何が言いたいかって? さあ? あ、ところで作戦頑張ってくださいね。エクスにもそれなりに痛い目に会って欲しいですし……この話前にもしましたっけ?」
ここは牢の中。イレギュラーズ達がシスター・シーラは、止めなければどこまでも喋り続けていた。余程退屈なのだろう。
「……仲間割れというには随分とストレートな理由で。ま、実益あるからその話に乗るんだけどね」
だがそこで、『一般人』三國・誠司(p3p008563)が不意に口を開いた。シーラは小さく首を傾げた。
「別に仲間割れのつもりはないんですけどね」
「どうだか。アンタみたいな輩は自分しか信じちゃいない……エクスってやつもそうだろうけど……絶対どこかで僕らへの報復を狙ってる、そう思えてならないんんだよね」
「報復ですか? そりゃあエクスはあなた達の事を嫌ってますし、私も別にあなた達が死んでも何とも思いませんけど。別に報復がどうとかは……なんかそういうのめんどくさくありません? 復讐とか報復って、もっと真面目な人がやる事だと思うんですよ」
「自分は不真面目だからそんな事しないって? ……少なくともあんたは真面目さ。自分自身、に限定されるけどね」
「難しい事を仰いますね」
「僕が言ってる事は凄くシンプルだよ……ま、こんな場所で長話するつもりもないし。それじゃ」
「またいつでもどうぞ」
誠司はシーラの言葉に応えず、牢を後にした。晴れやかな気持ちとはいかなかったが、作戦開始の時刻はすぐ傍まで迫っていた。誠司は冷えた身体を軽く伸ばす。
「――とりあえず、仕事はしますか」
●
「…………寒いナ」
プリンシバル・エクスは魔女裁判上の隅、絞首台に腰掛けながらそう呟いた。窓から外に目をやると、相変わらずの大吹雪。相変わらずガタガタと建物は揺れ続け、相変わらず窓の外には白い世界が広がっていた。
そしてイレギュラーズ達は、その白い世界の中を突き進んでいた。
『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)の手によって用意された白いマントを羽織り、雪に紛れて道を進む。
天候はイレギュラーズ達の味方をしていた。吹雪の音も色も、エクスに悟られずに魔女裁判場に近づく事を容易にさせていたのだ。
「…………」
結局自分は何の為に行動しようとしているのか。あれからしばらく考えていたが、結局その答えは出なかった。
考えれば考える程気分が悪くなってくる。意味が分からない。
「鬱陶シイ……」
そう呟いた直後、どこかからカチ、と小さな音が聞こえた気がした。
が、そんなものは些細な事。雹が窓にでもあたったか、あるいは無能な聖獣の鎧が音を立てたのだろうと、エクスは気にも留めなかった。
だがその音は、魔女裁判場の扉の鍵が解錠される音だったのである。
「ジブンハ……ハァ……」
エクスが大きくため息を吐き、意味も無く天井を仰いだ、その直後。
エクスは自身に近づいてくる何者かの気配を感じ取った。
「……ッ!!」
咄嗟に大腕を構えたエクスの腕に、拳が叩きつけられる。エクスは眼前に立つ者、ガイアドニスを睨みつける。
「オマエハ……一体どこカラ……!」
「まあそんな事はどうでもいいじゃない! という訳で、おねーさんでーっす! また会ったわね、エクスくん!」
直後、扉からイレギュラーズが流れ込み、聖獣達に一斉に攻撃を始めていた。
また奇襲を受けてしまったのだと、エクスは忌々し気に舌打ちする。
「俺ノ邪魔ヲすると言うならバ……今度こそ殺ス!!」
そして戦いが始まった。
●
「おねーさん達が何故ここにいるか、もう分かってるわよね! シーラちゃんに教えてもらったのだわー!」
ガイアドニスはエクスの前に立ち塞がりながら、言葉を投げかける。
「シーラが……まあ驚きは無イナ。アイツナラそれ位やるダロウ」
「あら、やっぱり驚かないのね! おねーさん達に埋葬まで頼んだシーラちゃんだけど、一人じゃ寂しかったみたいね! それはエクスくんも一緒かしら?」
「寂しかっタ? ……ハッ」
エクスは心底馬鹿にしたような嘲笑をガイアドニスに向ける。
「あり得ないナ……ソンナ事より……俺ノ前ニ立つという事ハ、それなりノ覚悟は出来ているんダロウナ?」
「あら、お喋りは嫌いかしら?」
「オマエが嫌いなダケダ」
そしてエクスは大腕を振るい、力任せにガイアドニスに叩きつける。凄まじい衝撃がガイアドニスを襲ったが、ガイアドニスは変わらない笑顔を浮かべたまま、立ち続けていた。
「でもおねーさんは嫌いじゃないから話し続けるわね! さっきエクスくんは寂しくないって反応をしてたけど……本当かしら? エクスくんは、シーラちゃんを助けに行こうとしてたんじゃないかしら?」
「黙レ」
「あ、ちなみにシーラちゃん、エクスくんのことカッコいいって言ってたのだわ!」
「知るカ! あの女の言ウ事を一々真に受ケル方が馬鹿ダ! あと黙レと言った筈ダ!!」
「もう、そんなに怒らなくてもいいじゃない、ふふ!」
エクスが次々と放つ攻撃を、ガイアドニスは受け止めていた。
「……本当は仲が良いんじゃないか? そこの二人」
「殺スゾ」
「冗談だよ」
『隠者』回言 世界(p3p007315)は、エクスの足止めをしているガイアドニスのサポートの為に彼らがぶつかり合う絞首台の傍まで近づいていた。
「プリンシバル・エクスが今までしてきた所業は聞いたし、その行いは当然咎められて然るべきなわけだが……それはそれとしてできる限り己の手で何かを成し遂げようとする姿勢は嫌いじゃないぜ。ストイックな利己主義とでも名付けるべきか」
「誰モ信用出来ナイダケダ」
「その言葉もまた事実なんだろう。こんな場所で生きてれば尚更だ。それでも、性根の捻じれ切った俺にとっては見知らぬ誰かの為などと宣う輩よりかは幾分信用できるというものだ」
「同感ダナ。ソレデ何かガ変わル訳デモ無いガ」
エクスの言葉に、世界は軽く頭を掻きながら頷いた。
「それはそうだな。敵対した以上遠慮はしない。俺は世の為人の為働く善人だからな」
「ソウカ。ソレは残念ダ」
「それは冗談か?」
「アア」
「だろうな」
エクスは立ち塞がり続けるガイアドニスに攻撃を繰り出そうと腕を振り上げる。世界はすぐさま魔眼を解放すると、ガイアドニスに視線を向ける。
「ここでしくじれば一気に全てが崩壊する。悪いがしばらくはここで遊んでてもらうぜ、エクス」
すると世界の魔眼の力がガイアドニスに加護を降ろし、エクスはガイアドニスが更に頑強になった事を感じ取るのだった。
ガイアドニスと世界がエクスの対処をしているその隙に、イレギュラーズ達は聖獣達の掃討を開始していた。
「奇襲は上手くいったみたいだね! 今の内に聖獣を倒さないと……この機会を活かさない訳にはいかないよね!」
『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が、本の形をした古代の魔導器『セラフィム』を手に聖獣達に突撃する。
起動したセラフィムには瞬く間に魔力が満ち、辺りに天使の羽根の様な魔力の残滓が舞い散った。
「さあ、まずは私が相手だよ! 止められるものなら止めてみなよ!」
スティアは意気揚々と聖獣達に投げかけると、セラフィムから膨大な魔力が放出。放出された魔力は瞬く間に旋律となって、聖獣達を包み込む。そしてその旋律を聴いた彼らの意識が、一瞬にしてスティアに向けられたのである。
「ガ……ガ……ガガ……」
不気味な声を漏らしながら、聖獣達が剣を構えてスティアに襲い掛かる。
「悪いけど、そんな攻撃受けてあげないよ!」
しかしスティアはすぐさま自身の周囲に術式を展開。剣を振り上げた聖獣の眼前に魔力の障壁を生み出し、斬撃を弾いてよろめかせる。
「最終的にあなた達がどうなるかは分からないけど……ファルマコンの思い通りにはさせないよ!」
よろめいた聖獣にスティアはすぐさま接近。セラフィムから放出した魔力を光の刃へと変え、掴み取る。
「今は眠っていてね!」
そして一閃。聖なる刃が聖獣の身体を真っすぐと斬ると、力を失った聖獣がガシャンと音を立てて倒れるのだった。
「ガガ……ガガ……」
「スティアちゃんが敵を纏めたこの隙に……!」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は、ロウライト家伝来の刀『残影聖刀【禍斬・華】覇Ω』を構え、纏まった聖獣達との間合いを一気に詰める。
「天義の聖騎士、サクラ・ロウライト。推して参る!」
言い放つや否や、サクラは刀を抜き放つ。縦横無尽に放たれる滑らかな斬撃の数々が、聖獣達の鎧ごとその身体を斬り裂いていく。
「ガ……ガ……」
「…………」
聖獣の一体が桜の背後から剣を突き出す。サクラは振り返り様に刀を薙いで刃を打ち、剣先を逸らす。そしてその胴体に蹴りを放ちながら後方に跳躍。間合いを取る。
「貴方達は…………いや、今は戦いに集中しないと」
聖獣。手遅れとなった子供たちの成れの果て。救えない事が決まっている哀れな存在。それを改めて目の前にしてサクラの表情は一瞬だけ曇るが、すぐに刃を振るう聖騎士の顔つきに戻っていた。
「再生能力はかなり高いけど……仕留められない事は無いね。斬らせて貰うよ!!」
サクラは居合の構えを取り、強く地を蹴って再度聖獣に接近。聖獣はその動きに反応する事も出来ない。
次の瞬間、維持の斬撃が放たれる。冴え冴えとした一撃は聖獣の身体を両断し、その身体が崩れ落ちた。
「これ以上、貴方の好きにはさせないよ」
サクラは力強い声でそう言い切った。
「あくまでも本命はエクス。ここで時間をかける訳にも、倒される訳にもいかない」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は『瑠璃雛菊』と『白百合』。二振りの刀を構え聖獣への追撃を仕掛ける。
「ガガ……ガガ……」
「……私情を捨て、今はただ刀を振るうのみ!」
声にもならない声を漏らし続ける聖獣に強く言い放ち、ルーキスは聖獣に接近する。
すぐさま聖獣はルーキスの脳天目掛けて剣を振り下ろす。瑠璃雛菊を構えてその一撃を刃で受け止める。更に立て続けに聖獣は何度も何度も剣を振るうが、ルーキスは冷静に剣の軌道を見定めて、軽い動作で次々と斬撃を弾いていく。
「力だけは強い様だが。剣術とも呼べない攻撃で、俺を斬り伏せられると思うなよ」
言い放ち、ルーキスは聖獣の首元に鋭い刺突を放ち、貫通させた。刃に塗り込まれた神経毒が、聖獣の動きを封じ、蝕んでいく。
「倒れないか。なら、倒れるまで続けるだけだ」
しかしルーキスの攻撃は止まらない。二振りの刀を構え直すと、上段の構えを取って聖獣の動きを見定める。
「ガ……」
「……さらばだ」
咄嗟に剣を構えた聖獣に、ルーキスは一気に刀を振り下ろす。鬼の力が宿った強烈な二連の斬撃が、聖獣が手にした剣を断ち切り、その鎧ごと聖獣を両断するのだった。
「次だ」
呟いて、ルーキスは刀を軽く振り払うのだった。
「聖獣は再生能力を持ってはいるけど、そこまで頑丈という訳でもないみたいだ。攻撃を集中させれば、簡単に数を減らせられるかもしれない」
誠司は仲間に呼びかけると、至近距離から聖獣に大筒を突き付け、魔力を込めた砲弾を放って吹き飛ばす。
「さて。マリアは対峙したことのない相手だが……まあ、いつものこと、か。奇襲が上手くいったという事は、あのシスターの情報にも、それなりの信憑性があるのだろう、な」
『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)もまた、聖獣達の前に立っていた。
「聖獣達含め、引導を渡させて貰おう……個人的に、名前が似ているのは気に食わん」
『黒金絲雀』。魔力同然である自らの髪を縫い込んだ、手袋の形を成した魔力媒体に魔力を込めながら、エクスマリアは軽く天井を仰いだ。
「まあ、高さは十分だろう。多少この場所が荒れるだろう、が。まとめて吹き飛ばすのも、それはそれで悪くは無い、な」
そしてエクスマリアが手袋を掲げる。すると天井付近の空間がぐにゃりと歪み、そこから無数の鉄の流星が降り注ぐ。それらは辺りに散らばる処刑器具や傍聴席を吹き飛ばしながら、聖獣達を巻き込み爆発していく。
「ガ……ア……!!」
「悪いが、クレームは受け付けていない、ぞ」
爆発に巻き込まれた聖獣が剣を構えて突進してきたが、エクスマリアは硬質化させた魔力を纏わせた右手を軽く払うと、その剣先を弾いた。
「グ……グ……」
攻撃を受けた聖獣の一部が、自らの傷を癒そうと魔法術式を展開していたが、その予兆を『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は見逃さなかった。
「そうはさせないわ。皆再生能力に長けている様だけど……邪魔させてもらうわね」
ヴァイスが呟いた次の瞬間、聖獣を包み込むように結界が構築。それが一瞬鈍い光を放ったかと思うと、毒の魔石が結界内部に生成され、聖獣の身体を貫いた。
「アドラステイアはいくつもの闇を孕んでいる……それはこの子達もそう。きっとこの子達は、望んでこうなった訳じゃない。けれど……」
ヴァイスはエクスに視線を向ける。その異形化した肉体をじっと見据える。
「けれど、そうじゃない子も……自ら望んで壊れる子もいるのね……」
ヴァイスはエクスの再生能力も妨害しようと、再び空間術式の詠唱を行う。
「ソレ位で無ければ、コノ腐った街では生きていけナイ、という事ダ。弱い奴は死ニ、強イ奴は生き残る。分かりやすい場所ダ、ココハ」
「そうね。そうなのかもしれないわね……でも、それとこれとは別問題だし、暴れる前に何とかさせてもらうわ」
そして詠唱は完了。再び構築された結界に包まれたエクスは、毒の魔石の一撃によってその再生能力が封じられるのだった。
「プリンシバルにしろシーラというシスターにしろ。環境によるものというよりは、そもそもが生まれ持った性質でしょうね……この手の、根本の心…魂の在り方が人から外れてしまっている人間というものは、案外と居るものです」
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は、魔導器『戦乙女の槍』を構えて聖獣達を見据える。
「アアソウダナ。ココのにいる狂った連中は、大体ガアドラステイアに狂わされタ奴ダ。ダカラこそ盲目的で、馬鹿バカリナンダ」
「だから自分は特別だ、とでも言いたげですね」
「違うカ?」
「言ったでしょう。貴方の様な人間は、それなりに居るのですよ」
そう言って、アリシスは槍の先端に魔力を集束させていく。そしてその魔力が黒い光を帯びたと同時に、アリシスは大きく槍を薙ぎ払った。
「貴方達は、手早く片付けさせてもらいますよ」
放たれた漆黒の魔力は泥の様に変質化し、蠢く聖獣達を包み込み。そしてその閉ざされた運命を更に漆黒に塗り潰していく。
「アガ……ガ……!!」
聖獣の一体が苦悶の声を上げながらアリシスに突撃する。アリシスは静かに視線を向けると『銀の円環』を掲げる。構築された防御術式が聖獣の攻撃を阻む。
「これで終わりです」
そしてよろめいた聖獣にアリシスが槍の一撃を叩き込むと、聖獣の身体は崩壊していくのだった。
「ハァ……ドイツモコイツモ、役立たズだ……結局信じられるのはジブンダケカ……」
次々と倒れていく聖獣を目に、エクスが大きく息を吐く。
「セメテ…………チッ」
「せめてシスター・シーラが居れば……って? 君達は君達なりに、心を通わせていた、って事なのかな……」
『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)は小さく呟く。彼らにどれ程の心が残っているかは、計り知る事も出来はしないが。
「それでも僕らは、この街の、アドラステイアの在り方を認める事は出来ないんだ」
「認められる筈もナイ。狂った奴ラが作った狂った箱庭ダ。ダガ狂っているカドウカは関係ナイ。力が強けレバ、狂気も道理へと変ワル」
「……ああ、そうだね。それがまかり通ってしまったのばこの場所だ。だからこそ。こんな世界は、街は。破壊しなければならないんだ」
マルクは意思の籠った声で言い切り、聖獣達を真っすぐと見る。
「聖獣を救う事は出来ない。それでも、ファルマコンの贄となって終わる結末だけは避けられる……」
マルクは『ワールドリンカー』の名を冠した指輪に魔力を込める。込められた魔力は立方体の塊として生成され、細かく分割されていく。
「ガガ……ガ……」
「それが救いになると言うつもりはない。けど、僕は出来る事をやるだけだ」
そしてマルクが聖獣達を指差すと、無数の魔力の塊が一斉に射出される。そのあまりの数に聖獣達は対処しきれずに、次々と全身を打たれ、あるいは貫かれていく。
「聖獣達はかなり弱っている……これで終わりだ!」
間髪入れずに再び巨大な魔力の立方体を生成。分割せずに射出すると、巻き起こった魔力の爆発に巻き込まれ、残った聖獣達の全てが沈黙するのだった。
「……結局こうナルノカ……役にタツとは思っていなかったが、ココマデトハ」
エクスは吐き捨てて、周囲を見回す。
魔女裁判場。アドラステイアの狂気を象徴する場の1つにして、怪物としてのエクスの原点。
「ダガ。ソレガドウシタ……ココハ魔女裁判場。ジブンはココで邪魔ナヤツを1人残さず処刑シテキタ……今回も、ソウスルダケダ!!」
エクスは叫び、イレギュラーズ達を憎しみを込めた視線で睨みつけるのだった。
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「俺ノ邪魔ヲスルナ……!!」
「……! 棘が来るよ、構えて!」
エクスの攻撃の予兆を『読み取った』誠司が仲間に呼びかける。直後、エクスの全身から猛毒滴る棘が射出された。
「グォオオ……!!」
そしてエクスは唸り声を上げると、全身の棘が鋭く強化される。
「思い通りにさせてたまるか……その棘は封じさせてもらうよ」
棘の強化を確認した誠司は、すぐさま大筒に特殊弾頭を装填し、引き金を引く。放たれたトリモチ弾がエクスの全身に纏わりつき、棘の威力を抑え込む。
「チッ……鬱陶しい真似を……何故俺ノ邪魔ヲスル……アドラステイアなどどうデモイイと言うノニ……!」
「アドラステイアに居ながら、神を信じないという君らしい台詞だ……神様なんているとは確かに思わない。正義とか、弔いで戦うつもりもない……だけど、眼の前にいるお前が気に喰わない。だから殺す……君もそうなんだろ?」
誠司の言葉に、エクスは小さく笑いを零す。
「ソレハ……オマエの言う通リダ。気に食わナイ。ソレダケデ殺す理由ニハ十分だ」
「…………」
誠司は小さく頭を振る。そして大筒を構え直すと、その砲身に魔力を込めていく。
「……あぁそうさ、気に食わない。化け物になった子達の悲劇も。殺しを楽しむ君の選択も、そしてこのクソッタレな世界の何もかも!!」
だからお前を殺すんだ、と誠司は心の中で呟いて。そして引き金を引いた。砲身から放たれた黒い魔力が大顎を形作り、鋭い牙がエクスの身体を食い破った。
「知ルカ……世界に絶望シテイルノハオマエダケデハナイ……!!」
エクスは魔力の牙を引き抜き、吐き捨てる。そして更なる攻撃を繰り出そうと構えるエクスの前に、エクスマリアが進み出た。
「シスター・シーラを、返して欲しくはない、か?」
「……ナンダオマエは?」
「答えるん、だ。シスター・シーラを、返して欲しくはない、か?」
「…………答エル理由はナイ」
「そうか」
エクスマリアの表情は変わらない。そのまま坦々と続ける。
「シーラも言っていたな、自慢の一番弟子が、必ず助けに来る、と」
「嘘ダナ」
「即答、か……ああそうだ、すまない。嘘だ。むしろ、お前の居場所や戦闘能力についても、詳しく教えてくれた」
エクスは小さく鼻を鳴らす。
「戦闘能力にツイテモカ。フッ……アノ女ノヤリソウな事ダ。アノ女が狂っテル事位知ってイル」
「そうか……思ったよりも互いを理解しあっている様だ、な」
「気色の悪い事をイウナ」
「ああ、そうだ……最後に、一番弟子と言ったのは本当、だ。案外、期待はしていたかも、な?」
「知ったコトカ……!!」
そしてエクスは毒針を射出する。苛立ちにより僅かにブレたその軌道をエクスマリアは見切り、軽く頭を逸らしてこれを避ける。そして密かに魔力を溜めていた手袋をエクスに向ける。
「悪く言うつもりはない、が。めんどくさいな。お前達」
そうエクスマリアが呟くと、再び魔女裁判場に鉄の流星群が降り注ぐ。絞首台が吹き飛び、斬首台も砕け散り、そしてエクスの身体に流星が直撃する。
「グオ……!!」
その威力にエクスは一瞬膝を付くが、すぐに立ち上がる。
「マダ倒れてタマルカ……」
そしてエクスは流れる血に目もくれず、大腕を振り上げる。
「……どうしてそんなになってまで戦うの? シーラさんのことがそこまで大事なのかな?」
そんなエクスの前に躍り出たスティアが、エクスに投げかける。エクスはあからさまに嫌悪感を滲ませた眼でスティアを睨む。
「ハッ……大事? 大事ダト? アノバケモノ女ガ? 他者の命も運命も何もかもがどうでもイイト思ってイルあの女ガ? 馬鹿な事ヲ言ウナ!!」
そう叫び、エクスは大腕を振り下ろす。スティアは即時に展開した魔力の障壁で威力を抑えるが、それでも尚強烈な衝撃が全身に伝わる。
「グッ……! ……本当に? シーラさんはあなたの事を一番弟子とまで言ってたけど。本当に、何とも思っていないの?」
「クドイ! ジブントアノ女の間には、愛も友情も、ナニモカモが存在シナイ!!」
そう言い切るエクスの言葉に、嘘が込められているとはスティアは感じなかった。それでも、釈然としない何かが残る。
「『私には理解できない』……シーラさんが言っていた通りなのかな……でも、戦いをやめないというなら倒すしかない……そこに理解できない絆があったとしても……!!」
スティアは再び魔導器セラフィムを起動。放たれた魔力が、禍々しい魔女裁判所を包む『気』を浄化し。自らと仲間達の傷を癒していくのだった。
「ナイ……ソンナモノがある訳ガナイ……!」
「確かにその言葉には嘘は感じないけどな。だからと言ってお前にとってシーラが『特別』だという事までが真っ赤な嘘とは言い切れない。そうだろ?」
世界はエクスの抑えに徹していた仲間達を回復しつつその注意を逸らす為、あえてそんな言葉をエクスに投げかけた。
「ドウイウ意味ダ……?」
「誰の力も借りたくないというお前が、自らの身体を弄る方法を委ねた相手がシーラである事。人気がないとは言えわざわざこの場所を潜伏種場所に選んだ事……他にもいろいろあるけどな。どういう形であれ他の大人達と、シーラに対する行動・態度は明らかに違う。それを『特別』と称してもおかしくはない」
「ジブンはアノ女ヲ利用シタだけダ……!」
「それでもだよ……っと、まあ。どういう答えが返ってきても俺は構わないけどな」
言葉による時間稼ぎはこれが限界だろうと判断した世界は、回復を終えるとエクスに接近。幻術を用いて、自身の周囲に剣や槍や斧や銃――多種多様な大量の武器を創り出し、自由自在に操る。
「素人技で恐縮だが。当たればそれなりには痛いと思うぜ」
次の瞬間、無数の武器が一斉にエクスに叩きつけられる。無数の刃がその全身を斬りつけ、大量の弾丸がその全身を撃ち抜いた。
「意地の悪い事を言って悪かったな。けど、それこそ嘘は言ってないぜ」
「グ……!」
エクスは痛みに思わず声を漏らすが、それでも異形の肉体はまだまだ限界を迎えてはいなかった。
「私達の攻撃もそれなりに通ってはいるみたいだけど……流石に頑丈ね。手痛い反撃を受ける前に、終わらせられるといいのだけど……」
ヴァイスは戦況を見極めながら、白の儀式短剣『トレーネ』を構える。
「ジブンガ、オマエラに敗けるナド、あり得ナイ……!!」
「それはどうかしら。身体に仕込んだ魔術も呪術もとても強烈だって事は見れば分かるけど。だからと言って私達に勝てるという道理はないわ」
「ホザケ……!!」
そしてエクスが大腕を上げる。次の瞬間、魔女裁判上の天井付近に無数の黒い刃が出現し、一斉にイレギュラーズ目掛けて降り注ぐ。
「これも呪いの力ね……当たる訳にはいかないわ」
ヴァイスはエクスに接近しながら、自らの頭上に結界を展開。結界に閉ざされた刃は次々と空中で制止し、砕け散っていく。
「あなたが苦悩する様な悪夢が在るかは分からないけど……試させて貰うわ」
そしてヴァイスはエクスの身体に短剣を突き立てた。その刃はエクスの身体に傷をつける事は無かったが、そこから流れ込んだ魔力がエクスを蝕む。
「グ……!!」
その時魔力が、エクスに一瞬だけ悪夢を見せた。それはかつてアドラステイアに訪れるよりも前、貴族の息子として生きていた屋敷での暮らし。無味無臭の、何もない、どこまでも退屈な暮らし。
「へえ……」
ヴァイスはその悪夢の一端を垣間見たが、言及する事は無かった。
「アンナ場所に比べレバ……アドラステイアの狂気ナド屁デモナイ……俺は負ケナイ……!!」
エクスは小さく頭を振る。退屈という名の悪夢を振り払う様に。そして目の前の敵と戦う理由を思い出し、強く床を踏みしめた。
「お前は何故そこまで戦う? それはシーラを救出する為か? だとすればそれは驚きに値するが……」
「知ルカ……理由ナド……ドウデモイイ……ジブンはジブンの闘いたい様に闘う……!」
ルーキスが刀を構え直しながら言うと、エクスは半ばムキになっている様子で反応する。
「……気づいていないのか、認めたくないのかは分からないが。それは人間の抱く『情』というものだ。どうやら、中身まで完全に異形となった訳ではなさそうだな?」
「見た目など……ミタメなど大シタ問題デハナイ……生まれた時からバケモノナンダヨ。オレも、あの女モ……」
「だから情など一切沸かないと言いたいのか? それは納得できないな……ここはシーラとの『思い出の場所』だそうだな。遠くへ逃げる事も出来たはずなのに、お前はあえてここを潜伏場所に選んだ。そのお陰でこうして再会できたわけだが……」
「……」
ルーキスは投げかけながら、エクスとの間合いを詰める。対するエクスは応えずに、異形の大腕を振り上げた。あるいは、応える言葉が見つからなかったのかもしれない。
「力を手にして尚、最後まで捨てきれなかった『心』。それこそがお前の敗因だ!」
ルーキスは刀を振り降ろす。エクスが咄嗟に異形の大腕を振るって抵抗するが、鬼の力を宿したその一撃はその大腕に深い傷を刻み込んだ。
「黙レ……何が敗因ダ……俺はマダ負けていナイ!!」
エクスは怒りを込めて叫び、力強く床を踏みしめた。
「確かにこれは……シスター・シーラよりも強いっていうのは間違いないかもね。まだここまでの元気が残っているのは……中途半端な攻撃は通用しないね」
マルクはイレギュラーズの猛攻を耐えしのぐエクスにそんな感想を漏らすと、自らの両手に目を落とし、そこに魔力を集束させていく。
「だからこそ僕も全力を以て立ち向かわなくてはならない……君を倒すよ、エクス」
マルクの両手に集束した魔力が、剣の形を成す。眩しいほどの光を宿した『ブラウベルクの剣』を手に、マルクがそう言い放った。
「貴様の様な優男に、何が出キル」
「大した事じゃないけどね。ただ、君を斬れる」
そしてマルクは剣を構え、一気にエクスに接近する。その間もマルクは絶えず魔力を刃に込めていた。異形の腕による振り下ろしを軽いステップで避け、そしてその懐までマルクは辿り着く。
「これが僕の全力だ……痛くない、なんて嘘でも言わせるつもりはないよ」
一閃。文字通りの全身全霊、凄まじい程の魔力が込められた剣がエクスの身体を斬る。眩い斬撃をエクスは真正面から喰らい、その胸元に深い傷が刻まれた。
「グ……グオオオオオオッッ!!」
大量の血を流し、エクスは胸を抑えながら後ろに下がる。冗談など言う余裕は無かった。
「キサマァアア……!!」
「お気に召したようで何よりだよ。どうせなら今ので決めきりたかったけど……流石に頑丈だね」
激昂するエクスに相反するようにマルクはいつもの調子でそう呟いた。
「グゥ……!!」
そう。確かに頑丈。与えた傷はかなりのものだが、それでもエクスは立ち続けていた。シスター・シーラの協力の元手に入れたその力は、確かなものだったのだろう。
「……そこまで身体を改造して安定し、これほどの力を手に入れているとは。余程適性があったのですね、貴方は」
そんなエクスの様子を見て、アリシスは呟く。
「肉体的な素養もそうですが、何よりそこまで身体を改造しても意に介さないその魂の在り様……いえ。どちらかといえば、魂の在り方に相応しい形に近づいた……という所でしょうか」
「ゲホ、ゲホ……ソレガ、ドウシタ……!!」
「それでも大した事ではない、という事ですよ。私は貴方を怪物とは思いませんね。逸脱せし者にとって、その程度は『自然な姿』の範疇でしょう」
「ソウカヨ……アア、クソ……ドイツモコイツモ腹のタツ事しか言ワナイ……」
エクスは再び前進に棘を生やし、苛立たし気にアリシスを睨む。アリシスは『戦乙女の槍』を構え、エクスの動きを見定める。
「……それに。貴方がシスター・シーラと行動を共にしていた理由もよく解りました……共に逸脱せし者、『同類』の匂いがする存在ですものね」
「知ったヨウナ事ばカリ言うナ……!! オマエにも、シーラニモ、ソシテジブンにも! ダレにも『ソレ』が何なのカヲ決めるコトハ出来ナイ!!」
「……貴方達だけの世界を、大事にしているのですね」
エクスは猛毒の棘を放つ。アリシスは降り注ぐ棘を静かな槍捌きで弾き返すと、その切っ先をエクスに向ける。
次の瞬間、エクスは『神の毒』の刃によって斬られ、そして呪いをも刻まれていた。ソレは本当に一瞬の出来事であり、避ける事など出来なかった。
「…………マダ、マダダ……!!」
最早戦況は大きくイレギュラーズの勝利に傾いていた。だが、それでもエクスは諦める素振りも見せない。
「貴方がそこまで戦う意思を持てるのは、きっとシーラちゃんを想うからこそ……貴方が何と言おうとね」
サクラは刀を構える。エクスはかなり追い詰められている様子だが、それでも決して油断が出来る相手では無かった。
「…………」
最早エクスはサクラの言葉を否定しなかった。否定する余力すら残っていないのか、それを心の中で認めたのか。それは分からない。
「……イクゾ」
エクスは呟く。そしてこれまで何度もそうしてきた様に、異形の大腕を振り上げた。
「ソレは貴方の力の象徴の一つ……その厄介な腕、封じさせて貰うよ」
エクスが腕を振り上げるとほぼ同時に、サクラも刀を居合の型で構え、駆け出していた。
大腕が振り下ろされる。そのタイミングでサクラは居合の斬撃を拳に放ち、斬りながら攻撃の勢いを殺す。
そして間髪入れずもう一太刀。ルーキスが刻んだ大腕の傷の後を更に斬る。更に斬る。
「…………」
サクラは息を殺す。全てがスローモーションに感じられた。刃を納めた聖刀【禍斬・華】の力は解放され、そして爆発的な速度を伴って飛翔する。
一閃。放たれた居合の一刀が、エクスの異形の大腕を斬り飛ばしていた。宙を舞った大腕が、裁判場の中心にゴトリと落ちた。
「…………ッ!!」
エクスは歯を食いしばりながら、痛みに耐える。
「貴方がシーラに向けている感情の名前はわからない。でも名前なんてわからなくても良い……その感情に向き合って、自分がどうしたいかわかったら貴方が相応しい名前を決めると良いよ」
「は、ハ……! まるでジブンに未来があるかの様な言葉ダ……! ハハ……!」
エクスは心底おかしいとでも言うように笑う。だがすぐに表情を険しく変えて、イレギュラーズ達を見回す。
最早勝敗は決した。役立たず共は全滅し、自分も瀕死。勝ち目は最早無い。逃げる気力も湧いてこない。
「クソ、クソ……ソレデモジブンハ……!!」
それでも諦めるつもりは無かった。
エクスは不意にドン、と壁を蹴り付ける。魔女裁判場が大きく揺れ、その振動で窓が砕け散る。
どこまでも冷たい風が、魔女裁判場の中を吹き抜けていく。
「みんなのおかげで、おねーさんも相当頑張ってこれたのだわ……! でも、そろそろ限界みたい……おねーさんも、エクスくんもね……!」
ガイアドニスは傷だらけの身体を抑えながら、しかし未だに立ち続けていた。そしてそれは相対するエクスも同じであった。
「正直、こう見えておねーさん達にも余裕なんてこれっぽっちもないけど……でもね。それでもエクスくんが生き残る事があったとしたら……それこそ、神の思し召しなんじゃないかしら?」
「神なんてクソダ」
「あらあら、本当、心の底から嫌そうな顔ね! でも。もしそんな事があったとしたら。それが罰よ? 信じてもいない神様に救われる。それ自体がね」
「ハッ……何と言ワレヨウト神ナド信じナイ。ソレニ……勝つノハジブンダ。いイイ加減目障りなんだよ、デカブツ。片腕無くシタトシテモ……ソレデモジブンがバケモノだという事実は変わらナイ……!! 殴リ殺シテヤル……!」
そう言ってエクスは拳を構えた。
異形の大腕はもう無い。もう片方の拳、人間の拳を握りしめた。
「ふふ……もちろん、おねーさんは全て受け止めてあげるのだわ!」
ガイアドニスは避ける素振りすら見せず、大きく腕を広げて近づいてくるエクスを待ち受ける。
「流石に俺も疲れた……決めてくれ」
その時、世界がガイアドニスに反撃の力を与えた。ガイアドニスは大きく頷いた。
「コレで終わリダ……徹頭徹尾腹ガ立つ、頑丈デ、鬱陶しい、デカブツ!!」
エクスの拳がガイアドニスの身体を穿つ。異形でなくとも、確かにそれは強力な一撃。だがガイアドニスは朦朧としかけていた意識を気力で踏み留まらせ、そして広げた腕を閉じて思い切り抱きしめる。
そしてその体勢のまま大きく首を逸らすと――。
「これで、終わりッ!!」
その額に強烈な頭突きを叩き込んだ。
ゴン!! と魔女裁判場に鈍い音が響き渡り。エクスは白目を剥いて気絶した。
「……何かはね、あったのよ。きっと。言葉にも出来ない二人だけの何かがね」
異形の銃士、プリンシバル・エクスとの魔女裁判場の決戦は、こうして終わりを迎えたのだった。
●
「今はまだ無理だけど、大人しく捕まっていればそのうちシーラにも会えるように取り計らうよ」
「………………」
戦いが終わり。戦場の後始末を行っていたイレギュラーズ達。そんな中、サクラは全身をガチガチに縛り上げられたエクスにそう声をかけた。エクスは意識を取り戻していたが無視した。
「もう二度と、こんな事は繰り返させないから……」
そしてサクラは祈りの聖句を唱えた。救えなかった聖獣の子供達と、この場で犠牲になった子供達に向けて。
「生きている聖獣は……捕縛したままにしておいた方がいいだろうなあとエクスも」
「お優シイ事ダ」
「馬鹿を言え。自慢じゃないが俺も割と利己主義だ。親玉が復活した今、贄は用済みだろうが……まあ念の為って奴だ」
世界はエクスに言い返しながら、無力化した聖獣達を纏めて捕縛していた。
そして全ての後始末を終えたイレギュラーズ達は、様々な悲劇を生み出した魔女裁判場を後にするのだった。
●
「なるほど、結局エクスは負けましたか。まあ私ほどの逸材を倒したあなた達ですからそうなるだろうとは思ってましたが。で、何ですか? 私と同じようにエクスも生かしておいたんですか? へえ、それはまた。言っておきますけど私もエクスも簡単に改心するとか思ったら大間違いですよ? 大体善悪の区別が付いているうえで故意にずっと悪い事してたんですからこれ以上性質の悪い奴なんていないですよ。まあ一番悪いのは彼の性格を理解した上で助長した私ですけど。全くおかしな事をする人たちですね……あと、その内エクスを連れてきて貰えます? あなた達に敗けた弟子なんて破門ですよ破門。彼に仕込んだ呪術も禁術も全部取っ払っちゃいますもんね。その後は私の事なんかもアドラステイアの事なんかも全部忘れて好き勝手に生きたらいいんじゃないですかね? だから、お願いします」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。魔女裁判場の決戦を無事制し、プリンシバル・エクスと聖獣達を撃破する事が出来ました。
プリンシバル・エクスは生存という結果になりましたが、彼の力は取り払われ、彼が再び凶行を起こす事は無いでしょう。結構な間は塀の中に居ると思われますが。
という訳で、お疲れさまでした。MVPはプリンバル・エクスの抑えと火力に貢献したあなたに差し上げます。
GMコメント
のらむです。魔女裁判場に機を伺っているプリンシバル・エクスを逆に強襲していただきます。
●成功条件
プリンシバル・エクスと聖獣達の撃破(生死は問わない)。
●戦場情報
教会の様な神聖さが漂う魔女裁判場。アドラステイアの住民の一部は、ここで行われる派手な裁判と処刑をエンターテイメントとして楽しんでいた。
裁判場と処刑場が一体化した、大きな建物。内部は縦にも横にも広く、あちこちに処刑道具が転がっている。
●プリンバル・エクス
神など一切信じない聖銃士の少年。己の愉しみと力の為、魔女裁判によって多くの子供達を処刑してきた。吹雪が止むと同時に、捕らえられたシーラを救出する為に強襲を仕掛けるつもりでいる。
全身に施した呪術や禁術により、その全身は異形と化している。異形の大腕、全身から生えた猛毒滴る棘、シスター・シーラより伝授された魔術を駆使して戦闘を行う。前回の戦闘やシーラからの情報により、以下の戦闘能力が判明している。
・エクスの全ての攻撃には『毒系列』のBSを伴う。全身から棘を射出する攻撃には全ての毒系列のBSを伴う。
・異形の肉体から繰り出される殴る、蹴る、暴れ回るといった攻撃には『防無』を伴う。
・身に纏った『棘』を強化させる技は、同時に自らの攻撃力と命中を増加させている。
・強力な自己回復を行う魔術では、HPの回復と同時にBSを回復し、『再生』を付与している。
・威力は低いが広範囲の敵に『呪い』『魔凶』を付与する魔術を行使可能。
●聖獣×8
背中に天使の羽根の様なモノを生やした、全身に甲冑を着込んだ人型の怪物。
甲冑の中身は、文字通り異形のバケモノが詰め込められている。が、その正体は元『子供』である。救出は不可能。
機動力が高く、それぞれが自己回復能力を持っている。力も強く、力任せに振るわれる剣の一撃はバカにできない威力。
●プリンシバル・エクス、シスター・シーラ登場シナリオ
・<ネメセイアの鐘>愉しい処刑は雪空の下で
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8807
以上です。よろしくお願いします。お気をつけて。
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