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シナリオ詳細

<Scheinen Nacht2022>雪灯の香り

完了

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 オレンジ色の空がゆっくりと淡い桃色に変わっていく。
 それは、次第に紫色のヘリオトロープのように移ろい、宝石煌めく群青の夜空になった。
 陽が落ちると途端に冷たい風が頬を刺す。

「寒いですね……」
「そうだねぇ」
 前を歩く『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)と『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)から白い息が漏れる。
 せっかくのクリスマスだから、『一緒にパーティをしよう』と燈堂家へと呼ばれた『煌浄殿の主』深道 明煌(p3n000277)は明るい人々に囲まれて少し疲れた顔をしていた。
 それを見かねた暁月が翌日、再現性山梨まで車を走らせたのだ。
「イルミネーション綺麗ですね」
「人もまばらで過ごしやすいだろう? ねえ、明煌さん」
 再現性山梨にあるハーブの園はイルミネーションの灯りで彩られている。
 明煌が人混みが苦手なのを知った暁月が、この場所を選んだのだ。
「ああ、そうだな」

 ゆっくりと光に灯された庭園の中を歩く。
 ハーブの園というだけあって、冬の季節でも様々な植物が植えられていた。
「これは、何でしょう?」
 立て札のあるハーブに近づいた廻は、顔を近づけて香りを吸う。
「わっ! カレーの匂いがしますよこれ!」
 触っても良いと書かれてあった看板に素直に従う廻。細い葉を優しく撫でる。
「カレープラントだね。触るとすごく匂いがつくよ」
「えっ!」
 指先に鼻を近づければ、カレーの香りとしか表現できない匂いが付いた。
「そこのおしぼりで拭くといい」
 ゼラニウムの香りがほのかにする温かいおしぼりで手を拭いて、視線の先にある温室へと向かう。

 温かい大温室に入ると、凍えた頬が血行を取り戻しパチパチと弾ける感覚がした。
 赤紫の胡蝶蘭が壁一面に敷き詰められ、赤いポインセチアと鹿の形をした植木が並ぶ。
 クリスマスツリーも飾られ、聖夜の装いに目を細めた。
「タイムが這ってる」
 柱の根元はクリーピングタイムの葉が覆っている。
「ここはあたたかくていいですね」
 頬を両手で押さえた廻はむにむにと温かさをかみしめた。
 その先に見える、看板にはクイズが書かれ、見覚えのあるハーブが置かれている。
「……クイズです。葉っぱを擦ると何の匂いがするでしょう? 僕は騙されませんよっ。さっき、すごくカレーの匂いつきましたからね」
「ふふ……」
 カレープラントの前でジリジリと距離を取る廻に、暁月が笑みを零した。
 そんな二人のやり取りが幸せそうで、明煌も心なしか温かい気持ちになる。

 ――――
 ――

 ハーブの園の一画には揺らめくキャンドルの灯りが壁やスタンドに並んでいた。
 キャンドルホルダーの中でチロチロと揺らぐ不規則な灯り。
 橙色の優しい光に暁月は吸い寄せられるように近づいた。
「あ、キャンドルかぁ……いいね、クリスマスっぽい」
 沢山の灯りに揺れる暁月をじっと見つめた明煌。
 その視界に空から降ってきた雪が舞い込む。キャンドルの灯りと雪は幻想的で美しかった。
 沢山のキャンドルに近づいた暁月は「あっ!」と声を上げる。
「……LEDじゃない。すごい、本物のキャンドルの火だ。見て見て明煌さん、廻っ!」
 キャンドルホルダーを一つ持ち上げて、暁月は振り返った。
 人の多い再現性東京ではキャンドルオーナメントはLEDに置き換わっている事が殆どなのだ。
「本当ですね。綺麗で、温かい……」
「そうだね。あたたかい」
 キャンドルを受け取った廻と微笑む暁月。グラスのキャンドルホルダーに光が反射して仄かに光る。
 それは明煌にとって眩いばかりの光景なのだろう。
 眩しすぎて此方まで絆されてしまうような、そんな温かさだ。
「ねえ、明煌さんも一緒にキャンドル見ましょうよ」
「ほらほら……」
 伸ばされた暁月の手に視線を落した明煌は困ったように微笑む。

 聖なる夜ならば、ほんの少しだけ太陽に近づいてもいいだろうか。
 その手を追いかけても構わないのだろうか。
 また置いて行かれてしまったら、そんな囁きが明煌の胸を締め付ける。
 伸ばし掛けた指先に冷たい雪が舞い降りて、独り残される恐怖を思い出した。
 あたたかさの後の寒さは、怖くて辛くて、きっと耐えられないから。
「うん、見てるよ」とだけ吐き出した。

GMコメント

 もみじです。シャイネンナハトの夜に煌めく灯りと共に。
 2人クリスマスピンナップを頂いた方へ優先をお送りしております。
 サポート参加の方はイベシナと同等の描写となりますのでご安心ください。

●目的
 シャイネンナハトを楽しむ

●ロケーション
 再現性山梨にあるハーブの園です。
 イルミネーションに飾られて、クリスマスの装いです。
 人はまばらなので、ゆっくりとハーブの香りとイルミネーションが楽しめます。
 入口付近にはワインや雑貨と、様々なハーブがお土産として並べられています。
 庭園には沢山の種類のハーブがあり、カレーの香りがするものも。
 少しだけ手に触れて香りを楽しんだり、ポプリを作ったり出来ます。
 奥にある温室には温かい地方で育つハーブがあります。

A:ハーブの園を散歩
 様々なハーブが植えられた庭園です。
 タイムやローズマリーなど冬の寒さに強いハーブが植えられています。
 春にはチューリップや薔薇などが咲き乱れるようです。
 また、カレープラントを触るとカレーの香りが手にうつります。
 シクラメンや、パンジー、ビオラなどの花が庭園を彩ります。
 所々にベンチがあるので、休憩もできます。

 暗くなるとイルミネーションが灯され、ゆっくりと散歩が出来ます。
 一画には沢山のキャンドルが飾られ、炎の揺らめきと仄かな温かさを感じられます。
 また、大きな温室がありクリスマスの装いのポインセチアや紫のヘリオトロープが植えられています。
 温室は眼鏡が曇るので楽しいです。

B:雑貨屋巡り
 ワインセラーやハーブの販売を行う雑貨屋ゾーンがあります。
 国外から輸入されたものや山梨で作ったワインが楽しめます。
 ワインに合ったチーズやハムなども取りそろえています。
 隣にはハーブや花を販売する雑貨屋があります。
 良い香りのするハーブをお土産にするのもいいですね。

C:体験工房
 雑貨屋の隣には小さな工房があります。
 色取り取りの花やハーブを流し込んでキャンドルやハーバリウムを作れます。
 また、乾燥したハーブを自分で選び、ポプリにすることも出来ます。
 ポプリの香りをお土産にしてもいいですね。

D:ハーブの足湯
 庭園の奥には本格的な石造りの足湯があります。
 ローズゼラニウムを使った足湯で、冬の寒い季節に温かさが染み渡ります。

E:ディナー
 カフェレストランでディナーを楽しみましょう。
 料理の美味しさを邪魔しない優しいハーブの香りが楽しめます。
 お皿に添えられた花は愛らしいです。
 また、食後には豊富なハーブティの中から好きなものをチョイス出来ます。

F:その他
 鉄帝や豊穣など好きな場所でシャイネンナハトの夜を楽しめます。
 星を見上げるのもいいでしょう。温かなココアを一緒に飲むのもいいでしょう。
 温かい恰好をしていきましょう。

●プレイング書式例
 強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。
 特にサポート参加の方は迷子になってしまいますのでご指定ください。

※サポート参加の方
 イベシナと同等の描写となりますのでご安心ください。
 お気軽にご参加くださいね。

 一行目:ロケーションから【A】~【F】を記載。
 二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
 三行目から:自由

例:
【A】
【香廻】
ハーブの香りに包まれながらイルミネーションを見上げます。
歩き疲れたらベンチで休もうかな。

【F】鉄帝
ギルバート・フォーサイス(p3n000195)
輝かんばかりのこの夜に!
寒いので温かい恰好をして銀世界を眺める。

●NPC
 もみじが所有するNPCを呼ぶ事が出来ます。
 練達は明煌、暁月、廻、龍成、テアドール、繰切(Fで燈堂家とご指定ください)
 鉄帝はギルバート(疲れた様子でヘルムスデリーに帰省しています)、
 アルエット(ローゼンイスタフ)、アンドリュー(ラド・バウ)、マイヤ(アーカーシュ)
 豊穣は遮那、朱雀、ラサはキアン、海洋はバルバロッサ
 ラビ、ファンについては何処でも大丈夫です。

  • <Scheinen Nacht2022>雪灯の香り完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2023年01月11日 22時05分
  • 参加人数12/12人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC12人)参加者一覧(12人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護
ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)
戦乙女の守護者

リプレイ


 白い雪の合間に星が降り注ぐ聖なる日。戦いは止み、優しい静寂が訪れる朝。
 鉄帝国の銀世界で小さな足跡が二つ伸びる。
 温かい恰好をした『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)と『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)は寄り添いながら歩いていた。

「去年も、いや毎年同じようなことをしている気がしますね。まあ今年は何時もと違ってアイドル! とかしましたけど」
 折角の特別な日だから、特別な事をしたかったと四音が微笑む。
「どうでしたか、アイドルというのは?」
 アルエットは四音と歌って踊ったステージを思い出した。
「四音さんと一緒だったから、すごく楽しかったの!」
 にへへと歯を見せて笑うアルエットは四音の腕に抱きつく。
「強引に連れ出してしまいましたので、実は困ってたりしてたんじゃないかと少し心配だったりしました。私はアルエットと一緒で楽しかったですが、貴女も楽しんで頂けたのなら嬉しいです」
 疲れたであろうアルエットを気遣い四音はさり気なくベンチへ座った。
「ふふ、隣り合って寄りそうのも悪くありませんね」
 木製の椅子が小さく音を鳴らす。寒いから、肩が触れあうぐらいくっついて。
 こうしてずっと一緒に居られたら良いと呟いた。
「……ねえ、アルエット。私が実はとても悪い奴だったらどうします?
 誰かのことを平気で傷つけて。命を奪った所でなんとも思わないような酷い奴だったら」
 人の命を奪う事は取り返しの付かないことだと理解はしている。人間社会においてやってはいけないことだと知っている。
「でも、だからどうしたんですか? というのが『私達』なんですよね。
 優しいのは貴女に対してだけで、他の人には非道を働くような奴だったら、どうします?」
「……うーん」
 困ったように瞳を揺らすアルエットの頬を包み込む四音。
「ふふふ、冗談ですよー。私は皆さんのことをとても大事で大切にしたいと思っていますよ」
「冗談かぁ……よかった。びっくりしちゃった」
 安心したように笑うアルエットの顔を見て、四音は不思議な感覚を覚える。
 アルエットに嫌われることを回避した。冗談だと言って誤魔化したのだ。
 この気持ちは何なのか、四音とてまだ答えは出ない。

「お、可愛い雑貨屋があんじゃねぇか。見に行ってみないか?」
 ローゼンイスタフの城下町は聖夜の装いに彩られ、その中で『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)はアルエットに振り向いた。
 雑貨屋の中は可愛らしい小物が多く、大柄なジェラルドには些か手狭である。
 浮いてないかと問うジェラルドにアルエットは「大丈夫よ」と笑った。
 ここの所暗い顔ばかりだったアルエットが楽しげに微笑むから、ジェラルドはそれだけで嬉しくなる。
「お、なんか良さそーなんあんじゃねーか」
 ジェラルドは棚に置かれたオルゴールを手に取った。雛菊が描かれた小物入れがついているもの。
「わぁ、可愛いね」
「雛菊の花言葉には『平和』とか『希望』ってのがあんだろ?
 これは白だから『無邪気』も含むし……アンタっぽい気もする」
 ジェラルドから出てくる花言葉の知識にアルエットは目を丸くした。
「すごい! ジェラルドさん物知りなのね!」
「ん? ああ、いや……アンタの誕生日ん時をキッカケにべんきょーするようになったっつーか。こーゆー何とか言葉とか、調べるの楽しくなっちまったんだ。らしくねーだろ? はは。でもよ、アンタの楽しそーな顔見れんならって思ったら頭に入ってきちまってな?」
 尊敬の眼差しで見上げてくるアルエットに、照れたような表情を浮かべるジェラルド。
「それに、言葉はまじないになるぜ。そこに込められた思いはいつか本物になる」
 らしくないと自分でも思うけれど。それでも信じたいとジェラルドは思うのだ。
「平和と希望の思い出がアンタの中にこれからもっと増えるように。これは俺からのシャイネン・ナハトプレゼントって奴だな?」
「え!? いいの?」
 手の中に置かれた小物入れに目を輝かせるアルエット。
「ま……アンタにだけ、特別だぜ?」
 幼馴染み以外の女友達は初めてだから、甘やかしてしまうとジェラルドは笑みを零す。
 それでも悪い気はしなかった。この満面の笑みが見られるのなら何度だって甘やかしてやる。
 悲しい顔は見たくないと、ジェラルドはアルエットの頭に手を乗せた。

『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)のバイーンとした胸が視界に入り込む。
「……いやさぁ、ラドバウで平常通りシャイネンナハト祝おうって言い出したのは俺だよ?」
 サンタコスの闘士がプレゼントを配った方がいいと言ったのも『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)自身であったと自覚している。
「…………なんで『大胸筋サンタ』が完成してるんだよ!?!?」
「ううむ! サンタの衣装は胸がキツくてな!」
 溌剌と笑うアンドリューの、布面積がいつも通り少ないとカイトはチラ見する。
「お前のトナカイ姿も似合っているぞ! トナカイ、カイト……トナカイトか!」
「トナカイトて」
 世紀の大発見だと言わんばかりのアンドリューの純粋な目にカイトは視線を逸らした。
 寒空の下、アンドリューの『大胸筋センサー』がいつも以上にぶるんぶるん震えている。
「ムム! こっちだカイト! こっちに良い子が居るぞ!」
「健やかな筋肉を育むよい子を探すことに妥協が、一切ねぇあいつ」
 遠ざかって行くアンドリューを追いかけてカイトも袋を担いだ。
 あんなに頑張っているアンドリューを見ると、勝手に抜けて遊びに行く訳にも行かないのだとカイトはトナカイの角を揺らす。
「そんかわりに終ったらしこたま付き合って貰うし、そんだけ寒空の下に居たら絶対欲しいだろ?」
「おお! そうだな!」
 星降る日に届けられたプレゼントに子供達も喜んだ事だろう。
 ならば、残るは。
「肉! ターキー!! ローストビーフ!!!」
「ううおおお!! 肉うう!」
 アンドリューとカイトは肉を貪り尽くす。聖夜の料理と言えばやはり肉であろう。
 賑やかな楽しさの余韻を抱え、アンドリューはカイトを連れて家に帰る。まだまだ遊び足りないのだ。
 星の降る夜ぐらいは、『誰か』も許してくれるだろうかとカイトは僅かに思案しながら。
 アンドリューの笑顔につられて微笑んだ。

 アーカーシュの星空を眺めるヨゾラは浮島の上で温かいココアを飲む。
 のんびりと夜空を見上げれば、先日の妖精たちとの触れあいを思い出した。
「輝かんばかりのこの夜に…流れ星、いくつ流れるかな」
 空から降り注ぐ幾筋もの光。あの中に双子星の妖精ジェムとミニズもいるのだろうか。
「2人は役目を終えたら、どうするんだろう……のんびり過ごせるのかな。また、会えたら嬉しいな」
 鉄帝の色々な騒動が終わっても、こうしてアーカーシュで時々星空をながめられるといいな。
 そんなふうにヨゾラは思ったのだ。
 同じ星空のもと、アルヤンはレビカナンへと足を踏み入れた。
「早速デートに誘いに来たっすよ、マイヤ」
 まだまだレビカナンの復興は進んでいない。課題も山積みだ。だから、今夜ばかりは休んでもバチは当たらないとマイヤを散歩に連れ出すアルヤン。
「マイヤ」
「なあに?」
 彼女と初めて会ったとき、とても悲しそうな顔をしていた。
 けれど、アルヤンには差し伸べる手が無い。だから、ただ声を届けたのだ。
「声が届いて、自分も誰かの力になれるってことが分かって凄く嬉しかった」
 アルヤンはマイヤの手にコードを絡める。


「今、楽しいっすか?」
「ええ、とっても楽しいわアルヤン! だって、あなたと一緒なんだもの」
 満面の笑みでアルヤンのコードを握り返すマイヤ。
 彼女もっと幸せになってほしい。この想いは届いているだろうかとアルヤンは温かい風を送り出した。

 ハーブ園は人もまばらで騒がしくなくて、落ち着くと『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)はベンチでのんびりとした時間を過ごしていた。ふと、視線を上げ「見知った一行」に目を瞬く。
「ふふ、明煌はやっぱり後ろの方なんだ」
 こちらに気付いた『煌浄殿の主』深道 明煌(p3n000277)に手招きをするジェック。
 どこか疲れた顔に見えたから休憩してほしかったのだ。
「静かで綺麗で、良いところだね」
 ベンチに座った明煌は小さく返事をする。
「ハーブは香りが強いものが結構あるけど、多くは触れたり切ったり摘んだりして傷つけた時に出るんだってね。鳥とか動物とかから身を守るための手段らしいよ」
「へえ……ジェックちゃん物知りだ」
「だから、こうして見てるだけだと香りすらしないね、明煌」
 確かにと匂いを確かめる様に辺りを見渡す明煌。
 お土産屋ではハーブが買えたりポプリを作れたりするらしい。
「破邪の香りとかもあるくらいだから、明煌も作ったことあるかな」
「あー、そういうのは作るかも」
 ハーブもポプリも香りを楽しむものだけど、いずれ薄れてきえてしまう。ずっと香りを楽しむためにはどうしたらいいかと問うジェックに明煌は首を傾げる。
「アタシはね、答えは単純だと思うんだ。香りが消えてなくなっちゃう前にもう一度来ればいいんだよ」
「まあ、そうだけど」
「そうして同じ香りでも違う香りでも、更新していくの。そしたら忘れないでしょう?」
 ジェックの言葉に、忘れられない香りは何だったかと明煌は考えを巡らせる。
「へへ、なんてね。ちょっと休憩し過ぎちゃったかも。眞哉やミアンへのお土産も買っておくから、帰ったら渡してあげて」
 立ち上がったジェックはふと振り返り、短くなった襟足を触る。
「あ、そういえば、アタシ髪切ったの。垢抜けたでしょ?」
「も……似合ってるよ」
 思わずもったい無いと言いかけて、辛うじて言葉を変える明煌。長い髪は呪物回収に色々と使えただろうと考えてしまったのだ。ジェックに対して気兼ねないと感じているからこそ、飛び出す言葉に遠慮が無くなってしまうのだ。気を付け無ければと明煌は思いながら、それでも「似合う」ともう一度口にした。

 ハーブ園の雑貨屋で『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)の隣に立った。元気が無さそうな廻の横顔が気になる。
「煌浄殿での生活は如何だね? 如何した所で無理はしているのだろうが。身体の具合はどうだい?」
「今日は元気ですよ!」
 つまり数日前は熱を出していたということで。日に日に弱って行くような気がしてならない愛無。
 廻が燈堂家を離れてから中々情報が伝わってこないから。
「こうして君に出会えると少し安心するよ」
 積もる話もあるけれど、お土産を先に選んでしまおうと店内を見渡す。
「山梨といえばブドウ。ブドウと言えばワインだ。君も酒は好きだろう。酒は百薬の長ともいうからな」
「はい、お酒大好きです」
 呪物達の分ともなると重そうだが……明煌の分は買っていこうと愛無はワインを取る。
「彼、好き嫌いが多そうだから如何したものかな。まぁ、何か甘目の奴が良いかな。炭酸とか飲め無さそうだからスパークリングは止めておこう」
 つまみはどうだろうかと問う愛無に。チーズは優しい味なら食べると答える廻。苦いのは苦手らしい。
「まぁ、何にせよ。廻君。深道のぱんだと会う時は明煌君と一緒に会うようにしておきたまえ。彼は何だかんだで人が良さそうだ。君は変なのに好かれやすいタイプであるしな。少なくとも、君を切るか如何かは迷う程度には君に依存していそうだしね」
「春泥さんですか……明煌さんが居ない時たまに来るんですよね。『様子見』っていって。でも、気付いたら居なくなってて。実と真に確認したら来てたっていうから、多分居たんだとおもうんですけど何話したのか全く覚えて無くて……その夜はいつも高熱が出てしまうんですよね」
 しょんぼりと眉を下げる廻に「いつでも連絡をしていい」と愛無は告げる。呪物からも信頼できる仲間を作っておくようにとも。
「あぁ、そんな事を言った後ですまないが。あのぱんだにお土産を渡して貰っていいかな。明煌君に押しつけてもかまわないから」
 春泥が普段何を食べて居るか分からないが。三番目に安いワインで良いだろうと、ブルーチーズと共に廻に渡す愛無。

「輝かんばかりのこの夜に!」
 笑みを零した『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)に廻もつられて微笑んだ。
 二人はハーブ園の中をゆっくりと寄り添って歩く。
「……凄いねぇ、まさに一面のハーブ園!」
 顔を近づけないでも僅かに香るハーブ。手で優しく触れてみれば少し香りが強くなる。
「それにしても、カレーの香りがするハーブなんてあるんだねぇ」
「香ばしい匂いですよね」
 本当にカレーみたいな匂いが鼻腔を擽る。黄色い花もカレーのようで。
 視線を上げれば温室が見えた。シルキィと廻は温室へと足を向ける。
「ここで取り出したるは、お仕事(保健の先生)で使ってる伊達眼鏡~!」
 眼鏡を装着したままシルキィが温室へ入れば一瞬で視界が湿気に覆われた。
「わぁ! 曇った!」
「ふふ……シルキィさん可愛い」
 笑顔の廻にシルキィも安心したように笑みを零す。平和なひとときに幸せが胸に広がった。
 歩き疲れたからベンチで少し休憩をとシルキィは廻の手を引く。
「……えへへ。今日はとっても楽しかったよぉ、廻君。廻君はどうだったかなぁ?」
「僕も楽しかったです!」
 とりとめの無い会話。ベンチについた廻の手にシルキィの指先が触れる。
 ゆっくりと重ねれば、廻の手の温もりがジンと伝わって来た。
 重ねられたシルキィの指を慈しむように、廻も指先を動かす。シルキィの指先を間に挟み撫でる。
 廻と出会ってもう二年。
 もうとっくに『ライク』とは違う気持ちを抱くようになっているはずなのに。
 心の奥にある想いを、シンプルな言葉をシルキィは伝えられずにいる。
 月が綺麗ですねも、大切な人だとも伝えた。手を繋ぎ合った。
 それでも、やっぱり……一番大切な想いを言葉にするのはどうしようもなく勇気がいるのだ。
 だから。この指の温もりがもう少しだけ続いて欲しいとシルキィは願った。
 それは廻とて同じ気持ちであるのだろう。
 二人繋いだ手は離れがたく、いつまでもこうしていたいと思うのだから。

「見てください龍成。タイムにセージに、よりどりみどりです」
「おお、ほんとだ」
『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)と『刃魔』澄原 龍成(p3n000215)はハーブを覗き込む。
 ボディは少し離れた場所にあるハーブの看板へ視線を向けた。
「龍成、嗅いでみてください。ビックリしますよ」
「うわ! なん……カレー?」
 鼻先にカレーの匂いが向けられ近づけた顔を離す龍成。
 ボディは閃いたように、龍成の手を「えいやッ!」と握った。擦り込むようにぎゅっと。
「悪戯です。これで龍成も同じ匂いになってしまいましたね」
「……もっと良い匂いがいいな」
「まあ……」
 ゼラニウムの香りがする温かいおしぼりで手を拭いて。再び手を繋ぎ合った龍成とボディ。
「こんどは良い香りですから」
「んー、たしかに」
 繋いだボディの手を鼻先に近づけてくんくんと匂いを吸う龍成。
 それが何だか妙に恥ずかしくて、ボディは頬に熱が集まるのを感じた。
 寒空の下、繋いだ龍成の手が温かい。
 龍成の熱を感じると胸が何だか嬉しいきもちで満たされる。
 そのままキャンドルコーナーへと足を踏み入れた二人。柔らかな灯りがボディの瞳に揺れた。
「龍成、少しいいですか。私は貴方と色んなことをしました。一年を過ごし楽しかった。数え切れない思い出がいっぱいあります。貴方と一緒にいられて、良かった。これまでも、これからもよろしくお願いします」
 そういえば、一年前は龍成に抱きしめられたとボディは思い返す。感謝を伝えるのはこれが最適解だろうかと思い至ったボディは繋いだ手を解き、龍成に抱きついた。
「おおう、どうした」
「感謝を伝えようと……た、大切な人、ですし」
 とてつもなく緊張して顔から故障の火が出そうなボディを優しく包む龍成。
「俺もお前と一緒に居られて嬉しいよ」
 柔らかな感触がボディの額に触れて、そこから龍成の熱が侵入してくる。
 それは愛おしさと祝福のぬくもり。
 ――お前がその気持ちを理解するまで、待っているから。ゆっくりとあるいておいで。
 焦らなくて良い。俺は傍に居るから。ずっとずっと。

『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)と明煌を連れて雑貨屋とカフェスペースを巡る。廻と神々廻絶空刀も一緒だ。
「暁月殿や廻殿は燈堂にいた頃は日本酒を飲んでいたようだけれどワインはどうかな?」
「ワインいいね。明煌さんもどう?」
 暁月の問いかけに明煌は首を振った。車で来ているから飲めないということだった。
「暁月殿と明煌殿は叔父甥の関係なんだよね? 小さい頃から仲が良かったのかな?」
「そうだねぇ。小さい頃はいつも一緒だったよ。ね、明煌さん」
「ああ」
 昔の事をヴェルグリーズに話すというのは、少し恥ずかしくて楽しいものだ。
 嬉しそうな暁月を見てヴェルグリーズは楽しそうで良かったと目を細める。
「明煌殿はとても大人びて見えるから小さい頃もしっかりしていたのかな」
「わ、私も大人ですけども」
 ワインを煽り少し頬を染めた暁月がヴェルグリーズに頬を膨らませた。
「……え? あぁ、暁月殿が子供っぽいとかそういうことを言いたいわけじゃないよ?」
「ヴェルグリーズさん、違いますよ。明煌さんのこの静かな佇まいは、何を話したらいいか迷ってるんですよ……あ、ちょっと明煌さん痛い~。大丈夫ですよ、ヴェルグリーズさんは良い人ですから」
 いらんこと言うなと廻のほっぺをつまんだ明煌は気まずそうにヴェルグリーズから視線を逸らした。
 ヴェルグリーズはこの一年色々な事があったと集まった人達を見てワインを揺らす。
「れどこうして無事にシャイネンナハトにお酒を酌み交わせているのはとてもうれしいよ。今年は少し寂しいシャイネンナハトになるところだったからすごくほっとしているんだ。ふふふ、少し酔ったかな。なんだか楽しくなってきてしまったよ」
 ヴェルグリーズは隣に居る空に手を伸ばし、ぎゅうと抱きしめる。
 ぶどうジュースを飲んでいた空は突然のヴェルグリーズの絡みに玩具の剣『DXヴェルグリーズ』を押しつけた。酔っ払った親ほど困るものはない。
 そんなヴェルグリーズに暁月はくすりと微笑んだ。

「わ……こういう場所もあったんだね」
 チックは静かに群生するハーブを眺める。ゆっくりと園内を散策すれば見知った顔を見つけた。
「こんにちは……明煌。もし迷惑じゃないければ……だけど、お花、一緒に見る……したいなって思って」
「やあ、チックくん」
 冬の季節に咲く花も色々あるけれど、春にはどんな色を見せてくれるのか。楽しみだと微笑むチックへ頷く明煌。
「ハーブは料理にも使われたりするん……だよね」
「そうだね。昔から肉の匂いを消したり、風味を高める為に使われていたらしいよ」
 なるほど、勉強になるとチックは感心したように明煌を見上げた。
「自然があって、落ち着く所。おれも此処、好きになった」
「俺も静かな場所は好き」
 ジョシュアはゆったりとした庭園の中を散策する。
「いつになく寒い冬ですがここの植物達は元気そうでよかったです」
 友人がパイを焼いてくれるらしいから、お土産に料理に合いそうなハーブティを買って帰ろう。
「でも、どんな物があるでしょうか?」
 普段は紅茶を飲んでいるジョシュアはハーブの事は余り知らないのだ。
「苦味が強い物は僕が苦手なのでそこまでではない方がいいのですが」
 花の香りがする『カモミール』が定番だろうか。さっぱりしたものだと『ミント』もいいだろう。
 その二つを購入したジョシュアは友人との食事が楽しみだと微笑んだ。

「カレープラント! 本当にカレーのにおいがします」
 興味津々で園内を駆け回るのはニルとテアドールだ。
「ニルはカレーすきです。カレーはキャンプのときに、みんなで作って食べるのです」
 わいわいしていて、沢山の「おいしい」がつまっているとニルは笑みを零す。
「この葉っぱも、おいしいのでしょうか? ニルはとってもとっても気になります」
 しゃがみ込むニルに習ってテアドールも小さくなる。
「葉っぱ自体は苦いと思います」
「あ。テアドール様はカレー好きですか? キャンプは?」
「はい、どっちも楽しそうですね」
 二人とも秘宝種で本質的には『味』は分からない。
 けれど、そこに満ちる楽しさを『おいしい』と感じるのだろう。
 いつかカレーを一緒に食べたいとニルはテアドールと約束をした。
「はー、あったかーい! それにいい香りもするし、最高に癒されるわー……♪」
 ジルーシャは庭園の奥にある足湯を訪れる。ローズゼラニウムを使ったその湯に目を細めた。
「香り言葉は『あなたを守る』……フフ、確かに、冬の寒さから守ってくれているみたい」
 足湯に身を委ね考えを巡らせるのは鉄帝のこと。
 ギルバートも心配だし、ベルノだって放っておけない。
「そういえば、ヴィーザル地方に温泉ってないのかしら。バーニャはあったけれど……こんな風に足湯とか、落ち着いて温まれるような場所があれば……」
 リラックス効果のある香りや薬湯を調合し提供出来れば気持ちも少しは前向きになれると思うのだ。
「キラキラしていて、良い香りに包まれて。宝箱のような、庭園です、ね」
 ふわりと微笑んだメイメイに廻もこくりと頷く。
「そうだ、廻さま、ポプリを一緒に作りませんか?」
 数十種類の中からリラックス効果のあるラベンダーを主体に、レモンバーム、ローズマリー、コーンフラワーを選ぶ廻とメイメイ。
「えへへ、こういう作業も、楽しいです。ん、やさしい香りです」
 使い勝手が良いようにサシェの袋に入れて。
「輝かんばかりの、この夜に、です……!」
 廻と暁月と明煌へとそれぞれお揃いのサシェを渡すメイメイ。
「香りは、いつか薄れてしまうかもしれません、が。思い出は、いつまでも残っていると思います、ので」
 祈りを込めた贈り物に三人は感謝を告げる。

『偽りの無い心』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は『琥珀薫風』天香・遮那(p3n000179)を連れて山の上の神社へと昇る。よくお参りする神社は高天京の夜景がよく見えるのだ。
 途中の出店で買った焼き芋を二人で分けて食べる。
 食べ終えた朝顔は懐から可愛らしい包みを取り出した。
「前に遮那君が手ぬぐいを私にくれたじゃないですか」
 だから朝顔もお返し同じものをプレゼントしたかったのだと遮那の前に差し出す。
「本当はもっと豪華なモノが良いんでしょうけど……遮那君が私の為に向日葵の刺繍をしてくれたのが凄く嬉しくて……私が作ったモノで遮那君が喜んでくれると嬉しいな、なんて思っちゃったので……」
 照れた様に笑う朝顔に、遮那は満面の笑みで「ありがとう」と受け取った。
「灯理さんの事は……残念でしたね」
「……」
 遠くの灯りを無言で見つめる遮那に朝顔は顔を向ける。
「遮那君、いつも言っていますが、私の前では有りの儘の君でいて下さいね」
 黒翼の少年は何かと耐えて抱えてしまうのだ。愛も罪も涙も笑顔も。何だって分かち合いたいのに。
「どんな君だって私は大好きだから強がらないで下さいね」
「……すまぬの」
 それで……と朝顔は改まって遮那に向き合う。
「ずっと考えていたのです。君を想っていた彼の為に私が出来る事を。彼が大切で失ってしまった君に私が出来る事を。遮那君、お願いがあるんです。遮那君の仕事、私にも教えて頂けませんか?」
 自分では灯理の代わりにはなれないだろう。獄人では政も任せられず敵視する者も居る。
「だけど私は君の最愛になりたい。支え合う関係になりたい」
「……向日葵」
「君の負担を少しでも減らす為に、灯理さんの心配を1つ減らす為に。私にとって地獄でも貴方と同じ道を歩きたい。それが共に生きるという事でしょう? だから少しで良いので手伝わせてくれませんか?」
 遮那は真っ直ぐに朝顔の瞳を射貫く。
「元より、私はこの国の獄人として生まれ落ちた其方の視野がほしいと申しておっただろう。私には絶対に持ち得ないものだからの。だから、傍に居て支えて欲しいと。この豊穣……いや、私の行く道を。代わりに、私は其方を守ろうと」
 柔らかな微笑みを浮かべ、拳を突き出した遮那に朝顔も同じように拳を重ねた。

「あーきら君、ハッピーシャイネン!」
 燈堂家に来ていた明煌の前にウシュが姿を現す。
 警戒するような表情を浮かべる明煌に「やだなぁ、そんな顔をして」と口元に笑みを浮かべるウシュ。
「お手紙では敢えて嫌がりそうな事してるけれど」
 それは嫌がる顔が見たいからで他意は無いと首を振るウシュに明煌は怪訝な顔を向けた。
「ほらほら、その証拠に美味しそうなケーキ買ってきたからさあ一緒に食べよう? お近付きの印だよ。何も仕込んでないから安心してね」
 隣の廻に食べさせてから、恐る恐る自分もケーキを口にする明煌。
「去年まではどうか知らなかったけど、今年は明煌君にとって素敵なシャイネンになってる? なってたら俺まで嬉しくなっちゃうかもなあ。なんでって? ふふ、言わせないでよ」
 怒濤の勢いで喋るウシュに、明煌はとりあえずケーキのお礼を告げた。

「繰切、楽しんでる?」
「おう、紫桜か」
 封印の扉の向こうへ紫桜は語りかける。プレゼントは何を選んだらいいか分からなくて、結局用意できなかったのだ。
「それでって言うのも変な話かもしれないんだけど俺へのプレゼントも兼ねて俺と一緒にこの日を過ごしてくれない? その、2人きりで。ダメ、かな? 少しだけでもいいからさ」
「なあに、そんなことか。よいよい。幾らでも居るが良い」
「……あのね、繰切。俺、繰切のこと好きだよ」
 特別で唯一な気持ち。この気持ちから逃げないと紫桜は告げる。欲しいものは積極的にだ。
「『人間』らしくどん欲に、『神様』らしく傲慢にってね。だから、繰切。俺の気持ち覚えておいてね」
「中々愛いぞ、紫桜よ」
 封印の扉の奥から一瞬だけ手が現われ紫桜の頭を撫でていった。
「メリークリスマス。みゃー」
 ジュースやクッキーを手に燈堂家のパーティへやってきた祝音。
 普段は話す機会の少ない白銀や黒曜、牡丹ともわいわいとお喋りをして。
 勿論、白雪は祝音の傍で寛いでいた。
 パーティの合間で祝音は繰切の所へ下りていく。
「繰切さん、メリークリスマス。元気してるかな、みゃー」
「おう、元気だぞ。うむ、このクッキーもうまい」
 鉄帝での動乱も波及してくるかもしれない。だから少し心配なのだ。
「今年も、来年も……その先も皆が幸せに過ごせますように」
 何があっても乗り越えるのだと、祝音は固い決意のもと拳を握った。

「龍成、メリークリスマス! 見て見て、ゲーム機とソフトもいっぱい買ってきた!」
 イーハトーヴは龍成の部屋へゲームを持ってやってくる。
 身体があちこち動くイーハトーヴは「……龍成、ゲームって難しいんだねぇ」と悲しげに呟いた。
 その表情が面白くて龍成は思わず笑ってしまう。
「でも、一緒に遊べて嬉しいな。なんかさ、何でもない、クリスマスらしい楽しいこと、龍成とやりたいなって思ったんだ……あっ、そうだ! 今日はね、君としゅうに貰ったチャームでお洒落していきたいってオフィーリアが」
 イーハトーヴがオフィーリアを抱き上げた瞬間「えっ」と不安げな声を出す。
「何で怒るの? デリカシーが足りない?」
 慌てるイーハトーヴとオフィーリアのやりとりに龍成は目を細めた。
 あとでしゅうにもお土産を渡してゲームをしたいとイーハトーヴは楽しい気分で胸がいっぱいになった。

 聖夜から数日、希望ヶ浜学園の屋上でアーリアは暁月に溜息を零した。
「こんな世の中が浮かれた日に宿直なんて、ツイてないわよねぇ」
「はは、仕事だからねえ」
 尤もこうして屋上で過ごせるのは案外悪く無い。
「ま、悪い大人はお仕事中にこんなものも嗜んじゃうってことで!」
 アーリアの手には飲みきりの小さなボトルワインが日本握られている。
 ハンカチの上にはコンビニのケーキと学園祭の残りの紙コップ。
「これは二人だけの秘密ね、暁月先生――ううん、暁月くん?」
 学校でこの呼び方は悪い事をしているようで、少し胸が高鳴る。それは暁月も同じだろう。
「くしゅん!」
「おや、その恰好じゃ寒いだろう。これ着なよ」
 アーリアの肩にコートを掛ける暁月。香り立つ香水の匂い。
「暁月くんの香りね」
「君が凍える方が心配だからね。我慢しておくれよ」
 紙コップに注がれたワインで「乾杯」と笑み。秘密のパーティが始まる。

『涙と罪を分かつ』夢見 ルル家(p3p000016)は遮那と共に聖夜の街を歩く。
 何時もより口数の少ないルル家を心配そうに見つめる遮那。
 今夜、ルル家は心に決めていることがあった。勇気を出して遮那に想いを伝えたいと思ったのだ。
 この前も伝えはしたのだが、落ち着いて返事をもらう状況ではなかったから。
 決心したルル家は人通りの少ない場所へ遮那の手を引いて連れて行く。
「遮那くん、お話があるんだ。聞いて貰えるかな」
 いつもとは違う口調、赤く染まる頬。
「この前も言ったけど、あの時は勢い任せだからもう一度ちゃんと言っておくね」
 怖いと思った。
 遮那の周りには沢山の女の子がいるから、ただの友達だと言われたらどうしようかと思うと怖かった。
 それでも、シレンツィオの時みたいな辛い思いはもう嫌だから。
 ……一人の女の子として『私』を見て欲しいから。
 ルル家は震える手を胸の前でぎゅっと握り締める。勇気をかみしめ緑の瞳を上げた。
「遮那くん。貴方が好き。友達じゃなくて、一人の女の子として」
 仕事をしている遮那の真面目な横顔が好きだ。けれど、疲れている顔は心配になる。
 他の女の子に会いに行く遮那を見送る時、胸が締め付けられる。
 伝えたいことは沢山あった。それはこれからゆっくりと話すから。
 まずは一番大事なことを伝えたかった。
「遮那くんの友達だって言うのは変わらないけど、これからは私のことを一人の女の子として見て欲しい」
 もっとずっと、女の子の自分を遮那に好きになって貰いたい。
 だから……ルル家は遮那の袖を掴んで背伸びをする。
 唇を重ねたいと思ったけれど、まだ遮那の返事をきいていないから。
 今はまだこの気持ちを伝えるだけで精一杯だから。
 頬に触れたルル家の唇の感触。柔らかく温かいもの。
 今まで『親友』として見てきたルル家を『女の子』として強く意識した瞬間だ。
 恥ずかしく、むず痒い。そういう目で見てはいけなかったものを、否応が無く叩きつけられる。
 恋愛というものの難しさを、遮那は初めて自覚した。

『涙の約束』鹿ノ子(p3p007279)は遮那の部屋でふわりと微笑む。
 色々なことがあったから。聖なる夜はゆっくりと過ごして欲しいと鹿ノ子は思っていた。
 こうして遮那の隣にいられることが嬉しくて。ひどくてずるい女だと自分でも思うのだ。
 されど、自惚れても良いと言ったのは遮那の方なのだ。
 だからもう少しだけと遮那の手を握る。
 鹿ノ子と遮那の関係性にはまだ名前が無いのだろう。
 彼の口から出る『大好き』という言葉に含まれる意味が鹿ノ子にはまだ分からない。
 遮那の心に芽生えたものが、まだ蕾であるのか、花を咲かせているのか判断できないのだ。
 一言問えば済む話なのだろう。けれど、それは勇気が必要なのだ。
 遮那は『自分が立派な当主になるまでは』と以前言っていたから。
 鹿ノ子とて豊穣に身を捧げるにしても、女としても、未熟であると自覚している。
 けれど、それでも確かなものが欲しいのだ。
 未来を見たい。その約束が欲しい。それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
 それを『よすが』に生きていくことが出来るから。
「……愛しています、遮那さん」
 握られた遮那の手がびくりと跳ねる。俯いた視線がおそるおそる鹿ノ子を向いた。
 その頬が赤く染まっているのが灯火に映し出される。
 いつもと違う表情に鹿ノ子は瞳を瞬かせた。
 愛の言葉は幾度も紡いだのに、響いたとはいえなかったから。
 けれど、今夜は恥ずかしげに頬を染めている。
「僕は、ずっと遮那さんのお傍におります。
 どうか離さないで。僕がもう二度と、何処へも行かないように。離さないでください」
 繋いで居ないもう片方の手で顔を覆う遮那。鹿ノ子の耳にドクドクと遮那の心臓の音が聞こえた。
「……わ、かっておる」
 ぎゅっと握られた手の温度が高い。
「いつか、いつか、この左手の小指の……その隣の指にも、指輪をくださいませんか」
 鹿ノ子の左手の薬指をじっと見つめた遮那は、指先でそっとなぞった。
 琥珀の瞳に鹿ノ子の手が映り込む。

 雪降る銀世界ヘルムスデリーを訪れた『翠迅の守護』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)は疲れた顔でローゼンイスタフ城を出た『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)を心配していた。
 彼に会ってどんな言葉を掛けるべきか思案しながらの道は中々足取りが進まない。
 思い出すのはリブラディオンでギルバートがこぼした『許さねばならないのか』という言葉。
 ジュリエットは違うと首を振る。確かに共闘の受諾をしたが、だからといってベルノ達の犯した罪が消える訳では無い。許さなくてもいいのだとジュリエットは指を握り締める。
 気がつけばギルバートの家の前。戸惑いながらも指先はノッカーを打つ。
 姿を見せた青年は表情が暗く疲弊していた。無理矢理作る笑顔が心配になるほど。
「今夜は星が綺麗ですから気分転換に少しだけ一緒に見ませんか?」
「ああ……そうだね。温かい恰好をしていこう」
 去年と同じように温かい飲み物を用意して分厚いマントを羽織り夜の銀世界へ旅立つ二人。
 寄り添いながらジュリエットは自分の気持ちを零す。
「あの時彼等を、『許さねばならないのか』と言いましたよね。
 私は許さなくて良いと思うのです。それは人として当たり前の感情なのですから」
 これから何をしようと彼らの罪が消えるわけではない。ギルバート達が決して許さない事が彼らの罪の証明となる。
「だから貴方はそのままで良いのです。大丈夫、貴方の怒りが行き過ぎないよう私達もカバーしますから」
「ありがとう」
 ギルバートはジュリエットの身体を強く抱きしめる。
 冷えた肩が寒そうで「そろそろ帰ろうか」と手を繋いで来た道を戻った。
 温かな暖炉の前でジュリエットはもう一つ伝えたいことがあるとギルバートの傍に寄る。
 こんな事を今、伝えるのは卑怯なのかもしれない。
 けれど、今後もまたこんな風に一人で悩むギルバートの傍に居られないのは嫌だから。
「だから、私を恋人にはして頂けないでしょうか。お願いです、どうか貴方の側に居させて……」
 ジュリエットはギルバートの頬にそっと触れて、月石の瞳で見つめた。
 睫毛が触れそうなほど近くなった顔、ジュリエットの柔らかな唇がギルバートに重ねられる。
 啄むような愛らしい口付けに、肩を抱いて逃げられないように追いかけた。


 蕩ける体温が柔らかな唇から伝わってくる。惜しむように何度も何度も口づける。
 パチリと暖炉の薪が弾ける音に唇を離してギルバートはジュリエットの頬を撫でた。
「……この戦いが終わったら、聞いて欲しいことがある」
 切ない眼差しに、ジュリエットは小さく「はい」と頷く。

 星降る夜の瞬きが夜空を駆け巡り、しんしんと積もる雪が窓の外を覆い尽くしていた。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 星降る夜のひとときをお届けしました。
 NPCから小包が届いている方は、設定相談や文通などで詳細をお届け出来ます。

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