PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<咬首六天>聖なりし歌

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●叶わない夢
Holy Night Dream
約束を 叶えに――

朝 白い息を 吐き出した時から
今日という 大切な日は始まる
「きっと 上手くゆけるから」
今から自分に 言い聞かせ
昼 一日じゅう そわそわとしたまま
逢える時 その瞬間に備えて
「ずっと 一緒にいようね」
何度も練習 繰り返す

ふたり最後に 別れてから
どれほどの時間 経ったでしょうか?
早くもう一度 逢いたすぎて
一秒さえもが もどかしくなる

Holy Night Dream
この厳しい 世界の中で
心に抱いた この気持ちだけは
きっとただ一つ 真実だから

Holy Night Dream
きっと叶えるよ――

●罪を贖うために
 フォン・ルーベルグのローレット天義支部に現れたその依頼人は、昨今の天義貴族社会を騒がす人物だった。
 名はメイヤ・ナイトメア。教皇の革新路線を痛烈に批判する保守派の代表格であり、『断罪の聖女』と呼ばれる苛烈な異端審問官――であったのは少し前までの話。今は自身の思想が実は魔種であった父により作られたものであったことを知り、これまでのナイトメア家の罪を精算するために忙しない日々を送っている女性だ。
 そして……彼女の『罪の精算』とは。
 父から自身を庇って反転した姉ミリヤ・ナイトメア――ローレットではミリヤム・ドリーミング(p3p007247)と名乗っていた――の行方を探すことも含まれていた。

 自分を裏切った親友との間のただひとつの真実であった、『アイドルのいる中華料理屋』という夢。それを追うために何もかもを捨て去る覚悟を決めた姉ミリヤを、メイヤは決して嫌いになりきれてはいない。
 一方で……無条件に認めるわけにも無論ゆかない。彼女はどうやらこう考えているらしい――姉が夢を果たした瞬間を見計らい、引導を渡すことこそが自身の使命なのだ、と。
 その使命を果たすため密かに放った間諜は、メイヤが新皇帝派の鉄帝貴族グレイヘンガウス家の領地に向かっていることを突き止めてきた。きっと、そこに親友――暗殺者『廉貞のアリオト』任桃華がいるとミリヤは知ったのだ。そして桃華がいるということは……。
「彼女を姉に接触させ、父が暴走する仕向けて我が国に戦乱をもたらさんとした『告死鳥』ロレンツォ・フォルトゥナートもそこにいるのです」

 おそらくはミリヤは桃華に接触し、任務を捨てて夢の実現を促すに違いないとメイヤは予想していた。そして鉄帝内で足取りを晦ませたロレンツォは、動乱に乗じてさらなる陰謀を企てているはずだ。
 もし、ミリヤという不確定要素がロレンツォを炙り出すためのきっかけになるというのなら……今はそのための最大の好機。と言える。
「もちろん、これは皆様の方がお詳しいかとは思いますが、新皇帝派はローレットに賞金を懸けています。潜入には危険が伴うことは私とて承知しております」
 しかしメイヤの調べによれば、グレイヘンガウス領を拠点とする新皇帝派の『ローゼンイスタフ志士隊』一党は暴力で無辜の民を支配するどころか、むしろ些細な不正すら許さぬ潔癖さにて治安を守ってすらいるのだとか。かの地には周辺地域から続々と人々が避難しており、潜入は容易く行なえるであろう。

 シャイネンナハトを前にして、動乱の最中にある鉄帝の人々を勇気付ける恋の歌。それを歌う旅のアイドルが魔種であることも、彼女が「逢いたい」と願う相手が巨悪の尖兵であることも聴衆たちは知る由もない。
 だが、知らせる必要はない……全ては闇の中で済ませればいい。人知れずソリで夜空を駆ける、あの聖なる老人のように。

GMコメント

 天義にて保守派と革新派が対立するよう仕向けた『宗教団体セフィロト』幹部ロレンツォ・フォルトゥナートの足取りを掴めるかもしれないきっかけが、ひょんなことから訪れました。
 ロレンツォを捕らえることはできないかもしれませんが、彼の動きを妨害することができればそれだけでも有益です。グレイヘンガウス領にて、皆様のできることを為してください。何ができるのかを考えることも、メイヤの依頼の一部と言えるでしょう。

 なお、プレイングに特に記載のないかぎり、皆様は『疑われたりしなければローレットの特異運命座標だと露呈しない』程度の偽装をしているものとします。変装などのスキルがあればより発覚しにくくなるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えてください。

●ローゼンイスタフ志士隊
 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)様の弟であるテオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフの信奉者たちです。バルナバスの即位を「鉄帝の伝統に則った正統なもの」と見なしており、それを認めない他派閥を批判しています。
 ただし彼らの理屈は「強者が弱者を虐げてもいいのが新皇帝バルナバスの掲げる弱肉強食の勅令ならば、強者が弱者を守ってもいい」であり、悪人というよりは盲目的な秩序の執行者と呼ぶのが正しいでしょう。
 グレイヘンガウス領の元々の騎士団詰め所を改修した『テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ練兵所』を拠点としています。

●グレイヘンガウス領
 領主のスタニスラフ・グレイヘンガウスがうっかりテオドールの思想に共鳴してしまったがために、新皇帝派と見なされるようになりました。スタニスラフは特に派閥に属しているつもりはなく、「領民のために手を組んだ相手がたまたま新皇帝派だった」くらいの認識です。
 昨今の難民の増加に伴い、聖職者を含むボランティアの流入も増加しています……もしかしたらロレンツォの息のかかった者もいるかもしれません。

●ミリヤ・ナイトメア
 町中でアイドル活動をしています。魔種であることは気付かれていません。妨害されないかぎりは誰かに危害を加える意思はないようです。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>聖なりし歌完了
  • GM名るう
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月11日 13時15分
  • 章数3章
  • 総採用数73人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

 『オリーブのしずく』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)とクラウディア・フィーニーが訪れたスタニスラフの別邸は、この地での新たな家の建設を待つ人々で満ちていた。広間に雑魚寝する疲労は隠せぬものの、もうじき新しい家ができるのよと我が子に笑顔を見せる母。夜になると彼女らの処へ戻り、今日はこんな仕事をしてきたのだと語る父。幾らかの人々は疾病に冒されていて個室に隔離されてはいたが、すでにいた医療ボランティアにより手当は済んでいる。
 フラーゴラたちが看病を申し出れば歓迎されて、様々な作業を手伝わされた。湯を沸かし、体を拭いて薬を飲ませ、時には術を使って患者の苦しみを緩和する――何の変哲もない看護仕事だ。……いいや。

「あの体つきや体捌き。お医者様がたはいずれも戦闘面での実力者でもあるようですね」
 クラウディアにふと囁かれた言葉は、フラーゴラ自身もやはり気になっていた。もっとも、それを「異常だ」と断じることは困難ではあろう……何故ならこの鉄帝という厳しい国で旅の医者なんてしようと思ったら、山賊の包囲を脱出し、魔物を返り討ちにするくらいは不可欠だろうから。それに、それを言ったら自分たちだって同じじゃないか。
(でも……この人たちの身元を、もう少し調べてみる価値はあるかな……?)
 フラーゴラは、そんなことを考えてみる。患者が自らを勇気づけるために口ずさむ、うろ覚えのアイドルソングを聞きながら。

成否

成功


第1章 第2節

刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

 不安げに。そして物珍しげに。
 『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の不審な視線はすぐに領内を警備していた志士隊員の若者の目に留まり、そして無事に幾らかの話を聞くことができた。
 志士隊とグレイヘンガウス領は善良で勤勉であるかぎりは決して難民とて見捨てないこと。病に冒されたら隠さず治療を受けねばならないこと。正義に酔いしれた様子で説明する若者は隠し事などできぬほど真っ直ぐなようであったから、雲雀の訊いた「聖職者たちも志士隊なのか」という問いに、素直に「そうではないが、彼らも正義のためにこの地に集った同志なのだ」と答えてくれる。
 ……なるほど。であれば彼らが、天義よりやって来たロレンツォの配下である可能性は十分にあった――この国で人々に尽くそうとする聖職者といったら通常はクラースナヤ・ズヴェズダーになるのだろうが、志士隊は革命派の中核たる彼らを断固否定しているとも若者は語るのだから。
 だが、若者から聞いた聖職者たちのリーダーの名は、ロレンツォではなく『ヴァイモーサ』と言うらしい……この地には、ロレンツォはいないのだろうか? それとも名義を別にしているだけで、彼自身もこの地に潜むのだろうか?

成否

成功


第1章 第3節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

 しかしそのヴァイモーサなる人物に、いまだフラーゴラは出会っていなかった。もちろん、簡易宿泊所となったスタニスラフ別邸の責任者はいる。けれども彼はあくまでも現場監督にすぎず、ヴァイモーサ自身は周囲の町村を回っているという……苦しむ人々をグレイヘンガウス領に逃がすため。あるいはその場で苦しみを取り除くため。
 だが、奇妙なことに……彼に助けられたという難民は、フラーゴラがそれとなく患者たちに訊いてみたかぎりでは見つからなかった。それにグレイヘンガウス領で奉仕する聖職者たちも、ヴァイモーサはこの場にいないのが当然のような雰囲気で働いている。
「単に、説得されて逃げてくるような人ならヴァイモーサさんに言われるまでもなく逃げてるから会ってないだけ、ってことならいいけど……」
 そんな言葉を誰にも聞こえないようそっと口に出しつつも、フラーゴラには物事がそんなに楽観していいものには思えなかった。
 そもそも、ヴァイモーサという人物は実在するのか? 仮に実在したとして、彼が行く先々で何か邪悪なことをしてはいないか?
 もしかしたら領内を調査するだけでなく、周辺地域を調査する人員も必要かもしれない……。

成否

成功


第1章 第4節

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

 妖精女王はもういない。

 遣り処のない情念に胸が苦しくなったところで、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は向こうから「逢いたい」という歌声が響いていたことに気がついた。
 はっとして声の方向に駆け寄れば、漂い来る香は中華粥のもの。彼女は、アイドルのいる中華料理屋という夢に一歩近づいたのだろう……それは中華料理屋ではなく難民への炊き出しで、彼女の隣にあるべき親友の姿はいまだないけれど。
 だからだろう、ミリヤ・ナイトメアは世界への敵意なんて何らおくびにも出さず、あたかも普通の人間のように振る舞っていた。彼女が魔種だなんてこと、志士隊員たちだって気づいてはいない……今の彼女はちょっと歌声で人々の感情を動かせるだけのただのアイドルだ。

 その『感情を動かせる』という能力が問題だった。

(もし今の何倍か、俺の心が女王陛下に執着していたら……)
 あるいはミリヤの歌声が、何倍か心を掻き乱すものであったなら。正気でいられる自信は怪しくなってくる。おそらくはミリヤ自身に自覚はないのだろうが……親友と会えぬ時間が積もるたび、彼女の歌声は破滅を招くのだ。
(まだ、猶予は十分にある……だけどどうするかくらいは考えておかないとな)
 今討たんとすれば良くて志士隊との三つ巴。悪くて志士隊の横槍のせいで虻蜂取らずか。今はミリヤが桃華と早々に出会い、歌声が落ち着くのを祈るしかない……。

成否

成功


第1章 第5節

溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

 だから『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)の選択は、桃華を探すことだった。もしかしたら以前の毒中華まん騒動で現れた時と同様に楊華鈴や、さらに別の名前を名乗っているかもしれないが……いずれにせよ中華系の彼女の顔立ちは、この地では強く人々の記憶に残っていてもおかしくはない。
(ミリヤムさんには思うところはあるけど、無差別毒殺よりは今のミリヤムさんの方がまだマシだゾ!)
 早く毒殺テロの主犯の桃華と李明明を見つけてやらないとと意気込んで、知り合いもこの地に避難しているかもしれないので探しているという体で聞き込みしたり、偶然にもずっと昔に夢魔としてたらし込んだ男が難民になっていたのでもう一度Win-Win関係を結びつつ話を聞いたりしたら……あーら不思議、ミリヤとは全く別のボランティアたちの炊き出しの場に、お団子髪を下ろして口調も変えていたが桃華かもしれない人物がいたという話を聞けたではないか!
「なーるほど。役に立ったゾ! またよろしくだゾ!」
 じゃあ、次の炊き出しまで待ってみようか……そうすれば彼女らが――桃華と明明が現れるかもしれないから。

【注意】
 瑠璃の『地元のダチコー』である難民の男は、瑠璃がローレットの特異運命座標として桃華を探していることに気がついた。
 彼は瑠璃の不利益にならぬようにこの事実を胸に秘めつづけるつもりだが……万が一誰かに支配されたりした場合には隠し通せないかもしれない。人心支配なんていう強力な術を取るに足らない難民の男に使う者がいれば、の話だが(敵側が大きな動きを見せはじめてから対策すべきかどうか検討すれば十分です)。

成否

成功


第1章 第6節

マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)

 街角炊き出しライブが終わり、撤収作業を始めた頃。ミリヤの元にひとりの男がやって来たと思ったら、そっと彼女を手伝いはじめた。
 その姿は誰から見ても、ファンがアイドルを手伝おうとしてるだけ。ミリヤ自身も最初はそう思い、ふと男の横顔を見て……そこではっと表情を変えた。
「そのままで。メイヤ様からの伝言をお伝えいたします」
 男がメイヤの忠臣マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)であることは、今はまだミリヤにしか気づかれていない。周囲の喧騒に紛れるように戦いの意思はないことを伝え、さらに主人からの伝言を伝える――。

「――そうやって感謝と謝罪をしてもらえるのなら、メイヤを助けた意味があったっす。最後には戦うしかないのは解ったうえでの選択っすから、メイヤには『夢が叶うまで待ってくれるだけでも十分だから、気兼ねせずに来い』って伝えてほしいっす」
 ミリヤム口調で答えたミリヤだったが、内心では焦りを押し殺しているようにマルコには感じられた。少しでも早く桃華を見つけねば、夢の叶っている時間が短くなると知っているからだろうか。
「ご安心になり、我々にお頼りください。ミリヤ様が焦って動けば動くほど、ロレンツォは貴女の動きを利用しやすくなるのですから……」
「……わかったっす」

 それからは、互いに必要最低限しか喋らなかった。それが覆ったのは最後の別れ際だけだ。
「この酒場の2階に宿を取ってるっす」
「何かあれば連絡をいたします」
 互いの滞在場所を書いた紙を交換し、それから何事もなかったかのように歩き去る。
 それが魔種ミリヤ・ナイトメアとの、最初の邂逅の結末だった。

成否

成功


第1章 第7節

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

 もしあの時自分に力があれば、彼女が明るくも悲しい歌を響かせることもなかったのではないか?
 そんなことをいくら思ったところで、今が変わるわけもない。だから『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の為すべきは、今のこの世界をより良く変えること。
 すなわち魔種すらをも自らの邪悪な計画に利用せんとするロレンツォの居場所を、いち早く見つけることだ。

 手掛かりには見当がついていた。
(ロレンツォの周囲には、多くの信奉者たち・護衛の姿がありました……彼がもしこの地にいるのなら、どうやって彼らのぶんの物資を獲得しているのでしょうか?)
 同じような境遇の人々を助ける手伝いをしたい、として潜り込んだボランティアの場は、その疑問をますます深めてくれた。人手は難民たちのお蔭で十分にある。スタニスラフも私財を投じて助けてくれる。だが志士隊とボランティアまで含めれば何百人もの人々を養う物資がどこからやって来るのか、全く正体が掴めない。
 木を隠すには森の中。多数の出所不明の物資の中に自分たちのぶんを紛れ込ませていたとするのなら、納得のゆく状況ではあった。だが……それを今のマリエッタの立場で探し出せるのか? もしもこの地に届く前にロレンツォらのぶんが抜き取られているのだとしたら、志士隊やボランティアが用立ててくるという物資の正体を掴まないことには始まらない。
 今見える範囲の物資の流れをもっと精査するべきか、それとも物資の出所を探りにゆくか。どうやらマリエッタは悩まなくてはならないようだ……。

成否

成功


第1章 第8節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

 応接間に姿を表すや否や、スタニスラフの顔色は気の毒なほど青ざめた。
「すみません……」
 反射的に謝ってからすぐ気づく。よくよく考えたなら姿を見ただけで嫌がられる自分のほうがよっぽど気の毒じゃないのかと。
 天敵、『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)に対するスタニスラフの行動は、大きく分けて3種類だ……まず逃げ出す。しかし家宰が帰り道の扉を塞いでいることに気づくと自分がいかに民想いの素晴らしい領主でありヴィクトールに口を挟まれる筋合いはないのだと喚き、ヴィクトールがポカンとしていると最後には何でもするのでもう関わらないでくれと懇願しはじめる。
 こんな時ヴィクトールは「貴方の領民への愛を信じています」などと彼を肯定してやってしまうわけだが、そうすると今度は彼は深読みし、「俺はどうなってもいい、領民たちには手を出さないでくれ」と大騒ぎする。
 家宰の老人は、今ですどうぞ、とばかりに目配せをした。彼の差配のお蔭でヴィクトールの来訪は、スタニスラフと、グレイヘンガウス家の使用人の中でも限られた信用のおける人物たちの他には知られていない……それじゃあ安心して、領民を人質に、領主に言うことを聞いてもらおうか――いやヴィクトールは領民をどうこうするつもりなんてこれっぽっちもないわけなんだけど。
「貴方は、無辜の民を守るという大義名分を隠れ蓑に貴方の良心を食い荒らすような虫どもや魔種をのさばらせ、結果この地を滅ぼすかのようなことはなさいません。そうですね? そうだと仰るのであれば、聞いていただきますよ……この地に、いかなる危機が迫っているのかを――」

【注意】
 家宰はヴィクトールとスタニスラフの面会の場を慎重に用意したが、もしスタニスラフが説得内容に納得できなければ、彼はローゼンイスタフ志士隊の前で愚痴るなどしてヴィクトールの来訪を洩らしてしまうかもしれない。
 なお、今回の来訪には他の特異運命座標も同席していたことにしてもよい。特に時系列などを気にする必要はなく、誰でもこの説得に参加できる。

成否

成功


第1章 第9節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

 密かに残してきたチップがミリヤの苦しみを和らげることを、雲雀は願わずにはいられなかった。人であることを失ったとしても大事な人を救いたいという選択は大切なものだと信じるし、何より雲雀自身にも心当たりのあることだったから……ただしそれは、その選択をさせない力が自分にあれば、どれほどよかったかとの悔いにも繋がるのだけれど。
 もっとも、言っても仕方ないこと。今は少しでも彼女が報われるよう祈りながら、元凶たるロレンツォに迫るのだ……。
 そう心に誓ったその時、ひとつの報告が飛び込んできた。
「外遊隊が帰ってきたぞー!」
 外遊隊。それはヴァイモーサをはじめとした、周辺地域を回る者たちのことだった。

 古い家具、古着、そして、たくさんの食糧や燃料。外遊隊の荷馬車は荷物で満載で、聞けばヴァイモーサが救った人々から譲られたものだとか。そして外遊隊は荷物を置いたら、再びヴァイモーサの元へと戻るらしい。
(……つまり、彼らに同行すれば)
 ヴァイモーサの正体も、荷の動きも暴けるわけだ。とは言え、手伝わせてくれと願い出るわけにもゆくまい……道中は危険だからと諭されて、より安全な町での活動を勧められ逆にて行動に縛りを受けるのが落ちだろうからだ。
 だから……こっそりとついてゆく。それなりの数がいて馬車も用立てている外遊隊は、あちらからこちらが見えない距離からでも容易く尾行できるから……。

 ……ところで外遊隊の持ってきた荷の中に、違和感を覚えた者はいただろうか?
 少なくとも『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)はそうした者のひとりだ。
(古い家具や古着があるのは、要らないものを貰ってきたって言われれば納得いくんスよ。でも……食糧と燃料はちょっと多すぎやしませんかね? 今はまだ冬は半ばにもなっていない時期ス。いくらヴァイモーサとやらに助けられたからって、荷物の半分にもなるかならないかって量を差し出すんスかね?)
 近隣の街々で話を聞いたかぎりでは、この辺りも新皇帝の勅令を鵜呑みにする山賊ども――つまりこれまた新皇帝派が跋扈する地。『救った』というのが新皇帝派同士でドンパチしたという意味かと訝しんでいた美咲だったが……。
(現実はどうやらそれよりもさらに怪しいらしいスね。こんな量、『救った』っていうのが『どこかの村の物資を根こそぎ奪った山賊からさらに根こそぎ奪った』の意味じゃなければ説明つかないんスよ)
 あるいはもっと単純に……『山賊行為を働いたのが、そもそも自分たちであったか』、だ。

 外遊隊が通っただろうと思われる道のりを調べていた『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が見つけたものは……そんな美咲の想像と当たらずしも遠からずな有様だった。
 すっかり無人になった村。中には至るところに墓標が立っており、かつてこの土地で何か恐ろしい出来事が起こったことを物語っていた。
 これまでの鉄帝での活動のために特徴的な魔術紋が知れ渡ってはいないかと警戒して紋を化粧で隠し、化粧が目立たないよう性別まで偽っていた彼も、変装が役に立ったのは手前の村までだ。ここには襲撃者の残党すらいない。そして目ぼしい家具や衣服や食糧や燃料が、全てすっからかんになっている。

 もしも奪ったのが山賊だというのなら、村人は野ざらしになっているはずだ。けれども死者は全て丁重に葬られている。
 ならば……全てが外遊隊の仕業であるのだろうか? たとえそうであるのだとしても、結局は村の財産を根こそぎ奪うような輩が、わざわざ死者を葬るとも思えないのは同じだ。
「どうやら、もう少し詳しく調べてみる必要があるみたいだね……」
 幸いにもヨゾラは防寒の準備もバッチリで、もうしばらく滞在して調査することができる。もしもこの村で外遊隊が何をしたのかを解き明かせれば……ヴァイモーサとやらについての分析も進むかもしれない。

成否

成功


第1章 第10節

ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

 ところ変わって外遊隊が荷を運び込んだ先。
 テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ練兵所に付属する倉庫では、何人かの志士隊員が嫌そうな顔をしながら帳簿をつけていた。
「外遊隊が帰ってくる度にこの調子だぜ……物資なんてひとつひとつ細かく記録しなくても、あるものがある、で十分だろうに……」
「それは非志士隊的だぞ、隊員!」
「げぇっ、隊長!?」
「そうやって何でも適当に済ませようとする輩のせいでこの世に不正が蔓延るのだ……叛逆者どもと同じ轍を踏まないようたがを嵌めるのも、我々ローゼンイスタフ志士隊の使命だと肝に銘じるべきだ!」
 そんなコントみたいな遣り取りを、マリエッタはすっかり窺うことができた。
(なんということでしょう……保管庫ではちゃんと物資の記録をつけているだなんて!)
 つまり彼らの記録を精査したならば……荷物の不審な行き先があればバッチリ見つけられるということじゃあないのだろうか?
「それ、家計簿みたいなものですよね? それなら私、得意です!」
 試しにそんな申し出をしてみたら、話はなんかとんとん拍子に進んでいった。
「素晴らしい奉仕精神だ! ほら隊長……ここは不得意な俺なんかに任せるよりも、そちらのレディにお任せするほうが」
「むむむ……難民に仕事を与えるのもまた我々の仕事……か。いいだろう。だが隊員、彼女の監督くらいはしたまえよ?」

 そうやってお手伝いの合間に記録を漁るマリエッタの様子は、使い魔のリディアを通じて『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)にも見えていた。記録が残っているということは、おそらくはこの倉庫に正規に出入りするぶんには不正な横流しはされていないのだろう。くわえて、正規でなく運び出されたぶんなどのないこともユーフォニー自身が確かめている。
「本来ではない使い方をされたって怒っている窓はありませんでしたね……だったら、窓からこっそりと盗み出された荷物もないはずですねっ。ただ……正規に運び出されたけれども量が多すぎるものがあるかとか、そこまではさすがに無機物たちや動物たちでは判りませんか……。でも、それをやるとしたら炊き出しのために荷物を各地に分ける時の出来事でしょうか。このまま辺りの様子の録画を続ければ、どこかに隠しきれない証拠が見つかるかもしれません」
 そうでなくとも撮影した映像をナイトメア家の関係者などの然るべき相手に見せれば、もしもロレンツォなりその配下なりが映っていればそのことを指摘してくれるかもしれない……。

成否

成功


第1章 第11節

溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

 ただし……任桃華に関してのみ言えば、その映像を調べるまでもなく見つけることができた。
 なるほど情報提供のあったとおりに、彼女は炊き出しの場に姿を現していた。遠目から見れば何の変哲もないボランティアの女性。しかしながら吊り目気味の東洋風の顔立ちまでは、印象を変えるまではできても完全に隠し通せはしない。
「ありがとだゾ!」
 食事を供してくれたことへの感謝という名目でなら、瑠璃は彼女の顔をまじまじと見つめることができた。照れてはにかみそうになる顔を、必死で堪らえている彼女。桃華の夢とやらが本当だとすれば、食事を出して感謝されるというのはさぞかし嬉しいことだろう……もしも不満があるのだとすれば、それが中華料理でなかったことと、この場ではアイドル活動ができないことだけだ。

 かつて現れた時と違って、食事に毒は盛られていなかった。ならば、今すぐどうこする必要はない。欲を言えば明明のほうも探しておきたかったところだが……こちらはどう探しても炊き出しにはいない。この地にはいないのか、それとも別の任務に就いているのか。
(ひとまずは、任務完了ということにするゾ)
 一旦は、情報交換のために戻るとしよう。
 何故ならここは敵地であり、いつ襲われるともかぎらない。欲を出して全ての情報を抱えたまま消されるよりは、小まめにでも情報を持ち帰るほうがいいに決まってるのだから。

成否

成功


第1章 第12節

雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

「……そもそも、セフィロトや七剣星にはどんな人がいるのでしょうか!」
 元気よく質問した『立派な姫騎士』雑賀 千代(p3p010694)に対し、九頭竜 友哉はいつ終わるのかというほど長い溜息を吐いた。
「お前な……そいつらが何なのか知ってるのか?」
「はい! タダでさえ大変なことになってる鉄帝をさらに滅茶苦茶にしようとしている巨悪です! 倒さなければなりません!」
 千代という幼馴染はいつもこうだ。溢れすぎる正義感が空回りして、ほっとくと危ない道に首を突っ込んでゆく。泣く子も黙る九頭竜組ですら静観を決め込む相手にも、無思慮(本人は熟考の末だと思っているはずだ)に特攻しようとするさまは、友哉が止めても止まらない……ああ畜生、せめて正確な情報をくれてやり、多少は手綱を引いてやるくらいしかできることはない!
「高くつくぞ?」
「ひぇぇぇぇ!? 借金が増えた!?」
 金で済むなら安いもんだが? いつか体で払わせるから体なくすなよ?

「まず七剣星の奴らだが……こいつらは裏では名の知れた異世界人の暗殺者集団だ。暗殺者といっても暗殺だけを請け負うわけじゃなく、護衛から諜報まで何でもござれだ。ローレットにも暦とかいう奴らがいるだろう、それと同じで、凄腕だが個性も激しい奴らだ。
 だがな……そいつらは数年前から、ぱったりと連絡がつかなくなった。だけどこの前ロレンツォの起こした騒動で理解したよ。早い話が彼女らは、纏めてロレンツォに雇われていたというわけだ。
 そして、そのロレンツォが所属するのがセフィロトって宗教団体だな。練達の首都と同じ名前だが練達と関係はない――強いて言うなら外の奴らにはわけのわからない真実を追い求めるって共通点があるくらいか」
 そこまで語ってから一息ついて……友哉は、これ以上のことを語るべきか否かと逡巡する。だが……結局は目を輝かせる千代の様子を見て諦めたようだ。また溜息を吐き、それから言葉を続ける。
「宗教団体セフィロトは、終末思想の信奉者どもだ。信者どもは、ヤバい奴らは世界がなくなれば自分は苦しみから解放されると信じていて、マシな奴らは世界を一旦壊してから作り直せばより素晴らしいものになると思ってる。マシな奴らでそれだ。わかるか?
 そしてその幹部がセフィラと呼ばれている奴ららしいが……そいつらの情報はほとんど知られていない。ロレンツォはおそらくは確実。だが、他はあやふやだ……目的もイマイチ知られていない。自分も信者と同じことを信じているのか、はたまた世界を壊すことに何らかの意義を見出しているのか――」

 結局は『どんな人』という質問には答えていないじゃないかとぶうたれる千代に対して、友哉は、どうしてこの女はこんな時にばかり頭が回るのかと呪うばかりだ。
 仕方ないだろう、七剣星もセフィロトも秘密主義的で、正確な情報など友哉が知りたいくらいだからだ。
 だから……試しにこんなことを言ってみた。
「ああそうだ。じゃあ、こうしよう。てめぇは何でもいいから情報を持って来い。そしたらその分だけ借金をチャラにしてやるよ」
 これで彼女は特攻するよりも生きて帰ることを優先してくれるんじゃないかと、淡い期待を懐きつつ。

成否

成功


第1章 第13節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

 はたして、外遊隊の訪れたこの村で何が起きたのか。
 略奪と丁重な埋葬というちぐはぐな状況に違和感を覚えることができたのは、きっとこの村が事件からそう経っていなかったからなのだろう。
(例えば、俺たちが訪れるのが春だったならどうだ……? その時は全滅が先で火事場泥棒を働かれたとか、略奪で全滅した村を誰かが弔ったとか、そんな解釈をして納得しちまったかもしれない)
 だが、まだ真新しい箪笥の跡や掘り返された土を見るかぎり、そうではないことを『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は知ってしまった。すなわち……。
「ヴァイモーサたちは周辺集落の民を殺して物資を得ている」
「……そういうことになるな」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)から洩れ出た言葉に頷いたジェイク。このままでも戻ってきた外遊隊分隊を追跡することで本隊に辿り着けるのかもしれないが、両者の頭をよぎるのはその時には新たに手遅れな村が出た後かもしれないという可能性だ。
 もちろん、まだ低くはあるが可能性はある……略奪者が殺戮を果たした直後に外遊隊が現れて、埋葬と残された物資の回収をしたという驚くべき偶然が。
 だが……そんな偶然はないと、ヨゾラは知ってしまったのだ。
 その時の彼の心の中では、遣る瀬なさと憤りが燃え上がるかのようだ。
『死は救済です、命を絶って苦しみを取り除きます、とか言ってな』
 あって欲しくはないという願望とともにイズマが吐き捨てた言葉が、ヨゾラの中でリフレインする。

 この村で最近生まれた死者は、主に2種類。流行り病の死者と、安楽死者だ。いいや……それを『安楽死』と呼んでよかったのかすらも判らない。
 何故ならその死は霊たち自身ですら何故死んだのかを知らない、強制的な催眠死であったのだから。
(この村は主要な街道から離れた村だから、流行り病に冒されても誰も助けてはくれなかったのだろう)
 そんな村にどうして流行り病が持ち込まれたかはさておき――買い出しに出かけた者が貰ってきたようだと霊たちは語るが、その真偽や、そこに新皇帝派やセフィロトの思惑があったのかどうかまで調べる方法は流石にないだろう――、病のため村人たちは極度の不安に苛まれていただろう。
 そこへとヴァイモーサと名乗る聖職者の一行が現れて、こう説くわけだ――「信じなさい、さすれば救われます」と。
 そしてヴァイモーサはその約束を、ある意味では確かに守ったのだと霊魂は嘆く。
 ある夜、彼は秘術を用いて人々を、二度と病にも冒されず、食糧の不足にも喘ぐ必要もない身へと変えていった。そして全てが終わった後で、彼らを丁重に埋葬し、もはや彼らには必要のなくなった物資を、他の人々を救う原資とするために根こそぎ拝借していった――ある程度はヨゾラ自身が想像で補ったところもあるが、これらが幾つもの証拠が示すこの村を襲った出来事のあらましだ。

 それは、悍ましき『聖と驕り善を騙る傲慢』だった。
 でなければ聖職者が全てを弔った村で、どうして霊がこの世に留まりつづけるというのか。
「ごめんね……こうなる前に、助けに来れなくて」
 言葉を絞り出したヨゾラに対し、けれども霊は復讐なんてやめてくれと冀う。
『きっとあいつは、他人の恨みや恐怖といった感情を燃やして殺すんだ……その証拠に俺にはこの世に留まりつづけるほどの無念はあるのに、奴を恨もうって思いは不思議なほど綺麗さっぱりなくなっちまってるんだから』

 無理に復讐なんてするつもりはジェイクにもなかったが、それでも次の凶行は止めねばと心に誓う。
(なぁ。この5つ並んだ墓標を見てくれよ。大きなのが2つに、小さなのが3つ。これがどういう意味なのかはひと目で解っちまうだろうが)
 これほどの虐殺が起こったというのに、ジェイクが近くの大きめな街を回ったかぎりでは、目撃者はひとり残らず殺されたのだろう、そんな事件があったなんて話は誰も知らない。聞けるのは、最近周辺地域で広がっている流行り病――これ自体は季節性のもののようで外遊隊との関係は見当たらない――に対する注意と、ローゼンイスタフ志士隊がどこぞの悪徳貴族の館に押し入って、不正に溜め込んだ財宝を市民らにばら撒いて支持を集めたとかいう話くらいだ。
「知り合いの行商人にも注意するよう言っといたほうがいいかい?」
 ジェイクの話を信じてくれた商人はそう訊くが、外遊隊の噂が広がることは、はたして吉と出るか凶と出るか……?

 その頃――。
(……なるほど。外遊隊の次の行き先は……おそらくはトゥルヴィチ村というところだろうな)
 グレイヘンガウス領を出た外遊隊分隊の動きと使い魔に調べさせた本隊の向かった方角を総合し、イズマはそう結論づけていた。
 外遊隊は本隊も分隊も規模なりの速度で進んでいるようで、個人個人で動ける特異運命座標ならばいくらでも先回りできそうだ。
(外遊隊は、本隊が先にトゥルヴィチ村に辿り着いて、しばらくしてから分隊が合流、といったところか。できれば分隊だけでなく本隊も村に近づけたくはないところだが、本隊には高い戦力がありそうだ……)
 さあ、どうする特異運命座標。ここでの選択はきっとトゥルヴィチ村の運命を大きく左右するだろう……。

【特殊判定発生!】
 ジェイク様は次回プレイングの際、周辺地域に外遊隊の噂を広めるかどうかをご選択ください! この選択次第で、将来的な外遊隊やグレイヘンガウス領に対する周辺地域の対応が変化する可能性があります。
 期限は特に定めませんが、関連する展開が生じた際までにご選択のない場合は、ひとまずは慎重に様子を見ることにしたものとして扱います。

成否

成功


第1章 第14節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

「……ということだったんだよ」
 外遊隊に関する真実を伝えた時のスタニスラフの顔色ときたら! ヴィクトールを前にした時のものよりもさらに蒼白になって、彼の拳は怒りにわなないていた。
「おい、ローレット! ……その言葉、よもや嘘ではあるまいな?」
 スタニスラフは民から愛されて然るべきと自負する男。そしてそれは自身が民を愛するゆえと信じる男。そんな男が領外の話とはいえ民が殺戮されているなどという話を聞いたなら……翻意を促す説得など必要などあるものか。むしろフラーゴラに必要だったのは、彼の怒りを鎮めるための言葉だ。
「証拠は――そうか。イズマとやらの映像記録。これがあれば疑う必要はあるまい。今すぐにでも志士隊に訴えて、エセ聖職者どもを取り調べるよう申し入れよう」
「待って!? 今それをやると誰がこの証拠を見つけたのかって話になって、ワタシたちの潜入がバレるから!」
 目下の問題はボランティアの聖職者たちが、志士隊とは全く無関係にグレイヘンガウス領に現れて協力関係を築いているだけだということだ。両者の繋がりを示すものは、志士隊が新皇帝派であることと、外遊隊の行動も実に新皇帝派的だということでしかない。
 もっとも、両者が本当に無関係だったとしても、事実を志士隊に訴えることが得策かと問われれば答えはノーだ。志士隊の過度の正義感……それがどのように働くにせよ碌なことにはなりそうにない。
「む……ではどうすればいいと言うのだ! 俺の嫌いなものはこの世に2つ……民を虐げる者とヴィクトールなのだ!」

成否

成功


第1章 第15節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

「おや、まるでそれじゃあ私が民を虐殺する大犯罪者のようじゃないですか、スタニスラフ」
 ヴィクトールの瞳が赫くぎらついたかのように見えて、スタニスラフは自身が感情のままに喚きすぎたことを知った。
「貴方が『自分だけで考えて突っ走ったこと』が上手くいったためしがありますか? 自分が使う道具はきっちりと検めてから使うべきですよ」
「ご……ごめんなさい……」
 今度はスタニスラフが縮こまって謝る番だ。それを見て、もう数言ばかりの小言を言って魔王は良しとして、それから「ところで」と切り出した。
「貴方自身が『新皇帝派』と見做されても、領民を危険にさらしてでもテオドール殿の『高潔な思想』についていくことを優先するのでしょうか?」
「いえ……そのようなことは決して……彼らならば領内の治安を乱すこともなく新皇帝派の横暴から民を守ってくれると思っただけで……ほら……別にテオドール閣下も最終的にはバルナバスを打倒するつもりらしいですし……」
 スタニスラフの言葉の最後のほうは小さくなり聞き取りにくくはあったが、それでもまあ何かを考え直そうとしているらしいことはヴィクトールにも伝わった。

 ……だがまさか、あのスタニスラフから「自信がない」なんて言葉が聞けてしまうとは。
「ですがその……彼らを追い出したら領民を守りきれるか自信がないので……よろしければお知恵をお借りできないでしょうか……?」

【特殊判定発生!】
 スタニスラフは新皇帝派を離れ、他の派閥に合流しようとしています。しかし、これが成るには他派閥がグレイヘンガウス領を庇護する必要があります。
 ヴィクトール様は以降のプレイングのいずれかの時点で、彼を引き入れたい派閥に所属し、ご勧誘ください。該当派閥は軍事力50と引き換えに、求心力20と技術力50を獲得します。また、派閥によっては『アイアンドクトリン』の効果で軍事力消費が多少削減できる可能性があります(ただし、本シナリオ中にローゼンイスタフ志士隊を追い出すべき出来事が生じないかぎり、しばらくは「トップは知らないが我々下っ端の兵士は人々を守りたい気持ちは同じ」とかなんとか誤魔化して志士隊と共存することになるでしょう)。
 勧誘派閥の決定の際には、相談掲示板・ギルド掲示板等における各派閥メンバーとの相談が推奨されます。
 派閥への勧誘が行なわれない場合は、彼は当面の領内の治安維持を優先し、ローゼンイスタフ志士隊との関係を続けます。

 なお今のところ、グレイヘンガウス領の近隣の派閥に関する設定はありません。勧誘した派閥がグレイヘンガウス領に隣接していたことになります。

成否

成功


第1章 第16節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器

 再び、グレイヘンガウス領外――。

 かつて外遊隊が通ったらしいその村も、やはり同様の有様だった。
 大地を覆う雪の中から、幾つも先端を突き出させた墓標。あったはずの物資は目ぼしいものは軒並み“有効活用”されてしまった後で、伽藍堂になってしまった家々の姿が哀愁を誘う。
 あの村では嘆いていた霊たちも、この村では見つからなかった。無念が晴らされたわけでは決してない。ただ、この村があの村と違うのは……外遊隊による接収の前に起こったのだろう、残虐な略奪の傷跡がちらほらと残っていることだ。
 おそらくはこちらの村は、外遊隊とは全く関係のない山賊に襲われた後だったのだろう。最初に訪れたのがこの村だったなら、自分は外遊隊の本質に気づけぬまま納得してしまっていたかもしれない。いや自分だけでなく、ローレットの他に彼らを疑う者がいたとしても――。

(これ以上の調査は必要なさそうだ)
 そうヨゾラは結論づけた。他にも外遊隊の通った村はあるのだろうが、どれも似たようなものだろうと想像がついたから。
 必要なことは、いかに次の犠牲を阻むべきかだ――だが、それに関してヨゾラができることはない。何故なら彼は外遊隊の来た道を遡ってきた。今更彼らを追い直すより、今は町で為すべきことを為すほうがいい――。

成否

成功


第1章 第17節

ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)

 もしかするとグレイヘンガウスの町は、すでにロレンツォの手が伸びていたのかもしれなかった。さしものマルコキアスもユーフォニーの撮影した映像をその場でどれがロレンツォ配下だと断じることはできなかったが、彼ならばナイトメア家に戻って故モーリスの収集した資料を調査することが許されている。
 その結果だったのだ……この町で働く幾人もの聖職者の特徴が、ロレンツォが天義司教位にあった時の教会関係者であることが明らかとなったのは。
 メイヤは、確かにマルコキアスにこう釘を差しはした。
「人相書きなど完璧なものではないのですから、それだけでの決めつけなどないようにしなさい」
 だが1人2人の話ではなく、5人6人と人相書きにあったような顔が町中にあったとしたら……もはやそれは偶然とは言いがたい。むしろ人違いのほうが少ないと考えるべきだ――そのようにマルコキアスが訴えたなら、メイヤもそのままロレンツォらに迫るよう激励してくれる。マルコキアスも、そしてメイヤも、依頼や使命という以上にロレンツォらの所業に対する憤りを感じているのだから。

 桃華以外の七剣星やヴァイモーサに関する情報はナイトメア家にも多くは残されていなかったが、モーリスの調査簿に、食中毒事件の際に現れた明明を七剣星の暗殺料理人『巨門のメラク』に比定する推測や、世界各地で散見される安楽死事件にセフィロトが関わっている可能性を疑う記述は見つかった。全事件の完全解明を命じられ、意気込んで戻ってきたマルコキアスを待っていたものは――ユーフォニーの新たな映像だ。
「……でも、古い映像にも新しい映像にも、ロレンツォ自身の姿は映っていないのですよね?」
 そうユーフォニーが首を傾げるとおり、町中にはロレンツォの配下と思しき人物の姿は幾つもあるのに、肝心のロレンツォ自身の姿は見当たらなかった。
『マリエッタさんもいろいろな場所を調べているのですよね』
『ええ……練兵所に出入りする人は検めましたし、炊き出しにやって来る人たちも確認しました。けれど、ロレンツォらしき人影は見ていませんね』
 両手でユーフォニーの使い魔のリディアを抱えてじっと瞳を見つめているマリエッタの姿は、もしも彼女が人目を忍んで物陰に隠れていなければ、傍から見れば何事か思ったに違いない……が、これは猫のようでドラゴンなリディアの瞳を通じた念話術。ユーフォニーはマリエッタと行動を共にせずして彼女と言葉を交わすことができるのである……彼女が動物を連れて入ってもおかしくない場所であれば、だが。
『簡易宿泊所になっているスタニスラフさんの別邸も、未開放部分やスタッフルームを除けば見当たりませんでした。あとは、そういったプライベートエリアに隠れている可能性くらいしかありませんが……もしも領内の個人個人の家を全て訪問しなければならないとしたらとんでもない労力がかかります。情報が洩れる可能性を考えたなら、個人の家はさすがになさそうですが』

 ハイテレパスによる通話を終えて、ふぅ、と小さく溜め息を吐いたなら……そこでユーフォニーはふと隣のマルコキアスに訊いた。
「そういえば、以前現れたという明明という人はどこにいるのでしょうか……毒料理を作るから炊き出しの場にはいない? となると……どこへ?」
 もっともさしものナイトメア家の資料にも、そこまでは書かれていなかったことを記しておこう。

【情報】
 町中でロレンツォが隠れていそうな場所を探すという方法では、どうやら限界があるようだと判明した。
 おそらくは、彼はこの町にはいない。町の配下たちは囮にしているのか別の目的で派遣しているのかは判らないが、別の場所に居を構えているのだろう。

成否

成功


第1章 第18節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

 一方の近隣の町――。

 ジェイクから外遊隊の所業について聞かされたなら、商人はしばらく悩みこんだ様子を見せた。
「何かマズいことでもあったのか?」
 訊けば商人は首を振り、しかしこれは厄介な仕事だねと唸る。
「何が厄介ってそりゃあ『外遊隊』って名前のことさ。外遊隊がいるってことは、どこかに本隊がいるってことじゃないかい。じゃあ、その『本隊』ってのはどこだ、って話になったら、どうしても新皇帝派の連中とつるんでるグレイヘンガウス領を連想する奴は出てくるさ。そりゃあお前さんの言うとおり、領主も領民も奴らの本性を知らんのだろうけど、だからって無関係を貫き通せるかどうかは判らんだろう?」
 だが商人は、決して『協力しない』と言ったわけじゃない。重要な安全情報を最初に告げて貰ったという恩に報いれなければ商人とは言いがたい。
「いっそのこと、『真相を知った領主が激怒して指名手配するようだ』なんて話をでっち上げちまうのもいいんじゃないかい? なぁに、所詮は噂なんてそんなもの。後から真実になりゃあどこからが尾びれか判らなくなるさ……もっとも話を聞くかぎりじゃ、今更どんな噂を流したところで、トゥルヴィチ村に届く頃には手遅れだろうが……」

成否

成功


第1章 第19節

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

 イズマがトゥルヴィチ村に辿り着いたのは、外遊隊本隊を通り越した翌朝だった。畦道は固く凍りついているものの、日差しは遮るものなく温かい移動日和だ。
 この太陽が沈む頃には、ヴァイモーサらが現れるはずだ。避難のタイムリミットはそれまでか。説得と準備の時間を思えば、ひとつの失敗も許されはしない……だから。
「聞いてくれ、この村に危険な集団が現れるかもしれない」
 その一言に村人たちは驚いて、息を切らすイズマを慌てて村長のところへと案内した。

 だが……そこからの村人たちの反応は、芳しいとは言えなかった。
 流行り病に苦しむ者はトゥルヴィチ村にも何人かいて、村の隅の小屋に隔離されている。村人たちは不安に満ちており、苦痛を死という形で解決するというヴァイモーサの存在に恐怖を抱きはしたが……。
「待ってくれ。それで避難するのはいいが、どうして余所の領地に逃げなきゃいけねえんだ」
「その外遊隊って奴らは怖いが、勝手に逃げて、後でこっちの領主様にとやかく言われるのも怖い」
 次第には誰かがこう喚き立てもする。
「アンタ、そもそも本物の使者か? 俺たちが弱ってるのをいいことに、まんまと言いくるめて人さらいでも企ててんじゃないだろうな!」

 幸いにもそこまでの反発意見はどうにか収められはしたものの……結局は最終的な村人たちの結論は「荷造りの準備は進めるが、まずはこちらの領主様にお伺いを立ててから」だ。
 けれども……その返答が来てからでは遅い。町へと向けた使者の姿が遥か遠くに消えてからしばらくした頃……外遊隊の質素ながら頑丈な馬車は、トゥルヴィチ村を訪れてしまったのだ。

【情報】
 村人たちは「苦しんでいないフリをすれば大丈夫なんだろ?」と理解して明るく振る舞うことに決めた。避難はできなかったが、もしかしたら外遊隊を上手くやり過ごしてくれるかもしれない。
 また、使者が町に向かうことになったため、もし最悪の状況が発生してしまっても彼が外遊隊の凶行の目撃者となるだろう。

成否

失敗


第1章 第20節

ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

 いまだ村も見えていないうちから、外遊隊はひそかに監視の目に晒されていた。
 ひとつは友哉に情報収集をそそのかされた千代。
「だって『何かの情報を持ってこないと借金増やすぞ』なんて言われたら、手っ取り早く情報を得て稼ぐしかありませんからね!」
 ……この場に友哉自身がいたら、とんでもない濡れ衣だと抗議されただろうけど。何が悲しくて借金を棒引きするために、いつどこでどんな大ポカをやらかすかも判らん奴を護衛する依頼料まで出してやらなきゃいかんというのか――グレイヘンガウス家という貴族の弱みを握れたことは、それ以上の利益に繋がる可能性を秘めているとはいえども。
 そんなわけで監視の目のもうひとつ兼とばっちりで子守りを押し付けられた役の『凶狼』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)と神楽・ニヴルヘイムは時折祈りを捧げながらやって来る一行と同時に、千代をも監視しているわけである。もっとも今のところはどちらも落ち着いた様子で、外遊隊がどのような人々かをじっくりと観察できるのだけれど。

 一言で言えば彼らの見た目は、“ありがちな巡礼中の聖職者の一行”であった。
 信徒であろう普通の旅装束の人々の姿に混じり、幾人かの聖職者らしきゆったりとしたローブの人影も見える。もっとも、それは彼らの全てではなく、きっと馬車列の中にはより高位の聖職者も控えていることだろう。
(……でも、聖職者にしては聖印を持ってませんね?)
 千代が疑問を抱くのももっともなことだ。とはいえヘルミーネには考えるまでもなく想像がつく。
「どうせ、邪教認定されてるから聖印を人目につくところに飾れないとかなのだ! 悪いことしてるって解ってて死を冒涜しつづけるなんて、ヘルちゃんはもちろんのこと、死出の番人のニヴルヘイム一族が黙っていないのだ! ねえ婆ちゃん!」
「そうじゃのォ……儂らの恐ろしさを知らしめてやるのじゃ馬鹿弟子よ」
「もしかしてヘルちゃんだけでやるのだ!?」

 唐突に修行タイムが言い渡されて嫌そうな顔を浮かべたヘルミーネをよそに(本当にどうにもならなさそうな時は神楽も手伝ってくれるだろうが)、外遊隊は村へと迫りゆく。
「猊下。もうじきトゥルヴィチ村に辿り着く頃かと」
「彼らの生は、苦しみに溢れているでしょうか? だとすれば私たちは彼らを救済しなければなりません……」
 悍ましき信仰を体現せんと目論む馬車の中の声。避難を拒否した村人たち。両者の邂逅は今行なわれる――。

 ――トゥルヴィチ村よりも幾ばくか手前の場所で。

成否

成功


第1章 第21節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
柳・黒蓮(p3p010505)
偽窓嘘録

 想定と全く異なる接触に、驚いたのはむしろ外遊隊のほうだった。
「もしやあなたたちではないか? 人々を救ってくれるという有り難い一行は」
 イズマの先制攻撃に外遊隊員たちが驚かぬわけはなく……しかし訝しむこともない。
「どちらでそのお話を? いかにも、あちらの馬車にいらっしゃるのが全ての苦しむ人々の救世主、ヴァイモーサ様であらせられるのです」

 信者たちがイズマに向けた表情は、一片の曇りも浮かぶことはなく。あたかも幸せを感じる以外の感情が、丸ごと失われてしまったかのようだ。
 気持ちが悪い――そんな感覚に襲われど、それでもイズマはどうにか態度に出さずに済んだはずだ。少なくとも信者たちののっぺりとした笑顔は変わっていないのだから。もっともそれは美咲が適度な世間話で彼らの注意を惹いたお蔭でもあったかもしれないけれど。
「皆様の村で祈らせていただいてもかまいませんか?」
「とんでもない! 俺たちは今十分に幸せだ!」
「そうなんスよ……皆さんにはこの村でお手数を煩わせるよりも、遥かに不幸で苦しんでる人たちを救ってもらうほうがいいと思うんスよね」
 なるほど、それも道理に違いない。信者たちは頷きはしたものの、しかし、と食い下がる。
「今から他の村へ向かうとなると、野宿になってしまいます。私たちにできることはないのかもしれませんが、私たちのために軒先を貸してはくださらないでしょうか?」

 そう請われてしまっては、流石にこれ以上の拒否はできそうになかった。だが……心配はない。ひとたびトゥルヴィチ村の住民たち(に扮したイズマたち)を“救われるべき人々”ではなく“ともに人々を救うべき同志”と見做してしまったあとは、外遊隊は不気味なほどに無害で友好的な集団に変わってしまったのだから。たとえ『偽窓嘘録』柳・黒蓮(p3p010505)にこんなことまで言われてしまっても。
「最近、周辺で『外遊隊』を名乗る山賊集団が略奪と殺戮を犯しているって噂が流れてるんスよね……それで、、近くのグレイヘンガウスの領主がどうやら激怒して、そんな偽物は指名手配して徹底排除だー、ってことになったらしいっスよ? もちろん、貴方がたを見ていればそんな正義の風上にも置けない畜生どもとは違うことは判るんスけどね……でもちょうどその噂について領主様にお伺いを立ててる最中でして、万が一自分らに何かがあった時に怪しまれないように、うちの村にはあまり関わらずに、早めに出発することをお勧めするっスよ」
「それはいけませんね……そのような邪悪な行為を行なうのは不幸に苦しんでいる証拠です。もし出会うことがあれば、彼らも救ってやらなければいけません」

 ヴァイモーサは『略奪と殺戮』が自分たちの行為を指すものだとは一切思ってもみないかのように、まるで他人事のように答えてみせた。
(もしかして、噂は噂だと軽く考えてるんすかねー? ……次の村ではきっと歓迎されなくなるっていうのに)
 実際にジェイクと彼に協力を申し出てくれた商人たちが流布した噂は『聖職者たちからなる外遊隊と呼ばれる集団は元々はグレイガウス領の兵站を担っていたが、指揮官の暴走により村人を安楽死させて略奪を行なう山賊紛いの連中となる』というほぼ真実に近いものであり、尾鰭らしい尾鰭は『真相を知った領主スタニスラフが激怒して外遊隊を指名手配するようだ』という部分くらいだ。
 だがその尾鰭もじきに真実になるのだろうし、そうでなくともこの噂が広まれば、周辺地域一帯に警戒網を敷くことができる。次の村ではもう上手くはゆかないだろう……黒蓮が『外遊隊“を名乗る集団”』とあたかも別口がいるかのような口ぶりを使ったのは、あくまでもこの村で正面衝突をしないための方便にすぎないというのに!
 だが……ヴァイモーサの説法を聞けば聞くほど、どうやら彼が噂を軽視しているわけではなさそうだと結論づけるほかなくなってくる。

 魂とは自由であるがゆえに幸福を得られるのであり、肉体は、そしてこの無辜なる混沌という世界そのものが、自由たるべき魂を世界に囚えることで不幸をもたらしてしまうものである。
 にもかかわらず不幸と無縁でいられるトゥルヴィチ村のような人々は真の幸福者なので、祝福すべきである。
 だが、そうでない者は……肉体を破壊して魂を取り出してやる――もしかしたら数多の旅人たちの魂がかつて在りし高みにまで登れるように、この無辜なる混沌という世界そのものも破壊してやらねば幸福にはなれぬのやもしれない。

 そんな彼の信念のために、彼と彼の信徒らは、本当に自身らの行為と『略奪と殺戮』という言葉が繋がらずにいたに違いなかった。
 彼らの殺人は殺戮ではなく救済。
 救済を経て物欲から解放された者たちは次は他の人々の幸福を願うはずなのだから、彼らの窃盗は略奪ではなく、救済された人々の、かつての所有物を他の人々のために用いたいという願いの代行。
 それはヴァイモーサにとって皮肉でも悪意でもなく……全くの善意そのものなのだ。


成否

成功


第1章 第22節

溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
香 月華(p3p010546)
月華美人

 そこで瑠璃と『月華美人』香 月華(p3p010546)が疑ったものが、ヴァイモーサがこれまた善意から、「あなたがたは幸せだと思い込んでいるのかもしれませんが、実は真の幸せは別にあるのですよ」と教えようとお節介している可能性だ。
「つまり……『わざと人々を病気にさせて、ほら、あなたがたの幸せは、こんなに簡単に毀れてしまうのですよ、やはり不幸な人だけでなくあなたがたにも救済が必要ですね』と言ってグフッ、ゲホッゲホッ!」
 いきなり咳き込んで吐血して倒れた月華には瑠璃もドン引きではあるが、さらに困惑させたのが彼女がすぐに立ち上がり、血走った眼で駆け出したことである。
「ウェスタの医家の娘として、流行り病と聞いて座してはおれません……診察と治療に向かわなければならないのです……病の感染経路も判らない以上、これは病などではなく仕組まれた毒――人々を不安に煽るためのテロであってもおかしくはないのですから」
「それについては同感だゾ……しかも、荒唐無稽は承知だけど、流行り病を装える毒を作れるかもしれない存在を僕は知っているゾ」

 すなわち――李 明明。

 結論から言えば2人の調査はほとんど空振りで、流行り病と言っても多くが毎年発生する季節性の流行性感冒であることが判明しただけだった。十分な免疫力さえあれば、多少の悪化をしたところで死者が出ることはそう多くない病。
「もっとも……この地域の食糧事情は、元よりウェスタよりも厳しいように思えます。そこに今年の混乱と、休養を軟弱者の怠けと見做しがちなお国柄とが相まってしまえば……重傷者が増えるのも頷ける話ゴホッゴホッ!」
 だからヴァイモーサは特段何かを企むまでもなく、ただ放っておいても栄養状態の悪くなりそうな辺鄙な村を選んで行脚すればよかっただけだし、実際に彼はそのようにしていたわけだ。

 だけど――だからといって本当に杞憂だったと安堵してもいい?
(このまま寒村ばかり回ったところで、どこかで頭打ちになってしまうはずだゾ)
 その時に、明明は極めて都合の良い駒だ……。
「早めにヴァイモーサを止めておかないと、本当に明明が動き出してしまうゾ!」
 特に、ヴァイモーサ自身は寒村を回るだけで事足りると思っていても、明明の雇い主たるロレンツォまでそうは思わない可能性まで考慮に入れれば。

成否

成功


第1章 第23節

古木・文(p3p001262)
文具屋
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

 さてこの辺りで一度トゥルヴィチ村を離れて、スタニスラフが志士隊や聖職者たちと手を切った後の課題について整理してみよう。
(やっぱり、大きいのは防衛力と医療面になるね……)
 後々の報復についてはスタニスラフが上手く言いくるめて防いでくれるとしても、魔物や山賊らまではそうもゆくまい。だからフラーゴラはスタニスラフにこう説くわけだ。
「どこの派閥に所属するにしても、ローレットが戦闘訓練をするから防衛力の問題はクリアできるよ……医療技術に関しても、ワタシをはじめとして得意な人はいるし、『オリーブのしずく』からも治療だけじゃなくて医学教育ができるはず……!」
 そもそもが、グレイヘンガウス領はこれまで他者の支えなどなくともやっていけたのじゃないか……対応しなければならない部分なんて本来、昨今の治安の悪化と、難民の流入によって新たに入り用になった部分だけでしかないわけだ。

 では――何故グレイヘンガウス領がまるで志士隊や聖職者たちがなくては立ちゆかないように見えるのか?
 難民たちを相手に不満などはないかと聞き取り調査をしていた『結切』古木・文(p3p001262)には、どうやらそのからくりが見えてきたかのようだ。
「不満も何も、苦労したのは最初ばかりで、その後は至れり尽くせりでこっちが恐縮しちまうくらいだよ!」
「そりゃあ最初は新皇帝派と聞いて恐ろしくなかったわけじゃないがね、俺たちからすればローゼンイスタフ志士隊様々さ! なにせ、前にいたとこの領主は戦乱への備えを口実に、何でもかんでも税、税、税だ……志士隊が天誅を下してくれなけりゃ、誰もまさか領主一族がその税で私腹を肥やしてたなんて気づかなかっただろうね!」
 早い話が『大盤振る舞いのしすぎ』というやつだ。そりゃあ大した増税もせずにこんなに手厚く難民を保護していたら、新たに自衛団や医療団を組織することになれば喜んで参加しようという意欲の高い勤労市民が手に入る代わりに、本来なら足りる物資も底をつく!
 難民たちに大きな苦悩がないことは、文としては安心するかぎりではあるのだけれど。

 もしもこの保護体制が、何者かが『グレイヘンガウス領が志士隊やボランティアの聖職者たちに依存するように仕向けた』ものだとしたら?
「その正体を暴いてやる必要がありますね……!」
 もっともユーフォニーがいくら調べて回ったところで、誰かが志士隊や聖職者たちに指示をしている様子は見ては取れない。
「だとすると……きっと、今も姿を表さないロレンツォさんが、あらかじめ全てを計算して部下たちに何をすればいいのかを指示していたのかもしれません」
 すなわち、これからも常に後手に回りつづけるしかない――本当に?
「……いいえ、こちらから相手に出てきてもらえばいいんです」
 もし、ジェイクが外遊隊に対して行なったのと同様に、ロレンツォや明明が看過できない噂を流してしまうのはどうか?
「たとえば、セフィロトの理念に反する行動や思想を持っているとか。
 たとえば、本人たちが絶対否定したくなるような、変な性癖持ちだったとか……はっ」
 口に出してしまってからしまったという顔をしたけれども時すでに遅く。伺いを立てた先のメイヤは、ローレットに影響されるとそうなってしまうものです、みたいな悟ったような表情になっていた。だって敬愛するお姉様もなんか言いくるめられて自分のぱんつにサインして配るとかいう奇行をしてたんだもの。

 ……ともあれ。
 この『ロレンツォに関する噂を流す』という作戦は、人々に警戒を促すという意味も含めて、有効ではあるだろう。
 ただし、具体的にどのような噂を流すべきかには……もう少し材料を集めてみてもいいかもしれない。

成否

成功

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