PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<咬首六天>聖なりし歌

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●叶わない夢
Holy Night Dream
約束を 叶えに――

朝 白い息を 吐き出した時から
今日という 大切な日は始まる
「きっと 上手くゆけるから」
今から自分に 言い聞かせ
昼 一日じゅう そわそわとしたまま
逢える時 その瞬間に備えて
「ずっと 一緒にいようね」
何度も練習 繰り返す

ふたり最後に 別れてから
どれほどの時間 経ったでしょうか?
早くもう一度 逢いたすぎて
一秒さえもが もどかしくなる

Holy Night Dream
この厳しい 世界の中で
心に抱いた この気持ちだけは
きっとただ一つ 真実だから

Holy Night Dream
きっと叶えるよ――

●罪を贖うために
 フォン・ルーベルグのローレット天義支部に現れたその依頼人は、昨今の天義貴族社会を騒がす人物だった。
 名はメイヤ・ナイトメア。教皇の革新路線を痛烈に批判する保守派の代表格であり、『断罪の聖女』と呼ばれる苛烈な異端審問官――であったのは少し前までの話。今は自身の思想が実は魔種であった父により作られたものであったことを知り、これまでのナイトメア家の罪を精算するために忙しない日々を送っている女性だ。
 そして……彼女の『罪の精算』とは。
 父から自身を庇って反転した姉ミリヤ・ナイトメア――ローレットではミリヤム・ドリーミング(p3p007247)と名乗っていた――の行方を探すことも含まれていた。

 自分を裏切った親友との間のただひとつの真実であった、『アイドルのいる中華料理屋』という夢。それを追うために何もかもを捨て去る覚悟を決めた姉ミリヤを、メイヤは決して嫌いになりきれてはいない。
 一方で……無条件に認めるわけにも無論ゆかない。彼女はどうやらこう考えているらしい――姉が夢を果たした瞬間を見計らい、引導を渡すことこそが自身の使命なのだ、と。
 その使命を果たすため密かに放った間諜は、メイヤが新皇帝派の鉄帝貴族グレイヘンガウス家の領地に向かっていることを突き止めてきた。きっと、そこに親友――暗殺者『廉貞のアリオト』任桃華がいるとミリヤは知ったのだ。そして桃華がいるということは……。
「彼女を姉に接触させ、父が暴走する仕向けて我が国に戦乱をもたらさんとした『告死鳥』ロレンツォ・フォルトゥナートもそこにいるのです」

 おそらくはミリヤは桃華に接触し、任務を捨てて夢の実現を促すに違いないとメイヤは予想していた。そして鉄帝内で足取りを晦ませたロレンツォは、動乱に乗じてさらなる陰謀を企てているはずだ。
 もし、ミリヤという不確定要素がロレンツォを炙り出すためのきっかけになるというのなら……今はそのための最大の好機。と言える。
「もちろん、これは皆様の方がお詳しいかとは思いますが、新皇帝派はローレットに賞金を懸けています。潜入には危険が伴うことは私とて承知しております」
 しかしメイヤの調べによれば、グレイヘンガウス領を拠点とする新皇帝派の『ローゼンイスタフ志士隊』一党は暴力で無辜の民を支配するどころか、むしろ些細な不正すら許さぬ潔癖さにて治安を守ってすらいるのだとか。かの地には周辺地域から続々と人々が避難しており、潜入は容易く行なえるであろう。

 シャイネンナハトを前にして、動乱の最中にある鉄帝の人々を勇気付ける恋の歌。それを歌う旅のアイドルが魔種であることも、彼女が「逢いたい」と願う相手が巨悪の尖兵であることも聴衆たちは知る由もない。
 だが、知らせる必要はない……全ては闇の中で済ませればいい。人知れずソリで夜空を駆ける、あの聖なる老人のように。

GMコメント

 天義にて保守派と革新派が対立するよう仕向けた『宗教団体セフィロト』幹部ロレンツォ・フォルトゥナートの足取りを掴めるかもしれないきっかけが、ひょんなことから訪れました。
 ロレンツォを捕らえることはできないかもしれませんが、彼の動きを妨害することができればそれだけでも有益です。グレイヘンガウス領にて、皆様のできることを為してください。何ができるのかを考えることも、メイヤの依頼の一部と言えるでしょう。

 なお、プレイングに特に記載のないかぎり、皆様は『疑われたりしなければローレットの特異運命座標だと露呈しない』程度の偽装をしているものとします。変装などのスキルがあればより発覚しにくくなるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えてください。

●ローゼンイスタフ志士隊
 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)様の弟であるテオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフの信奉者たちです。バルナバスの即位を「鉄帝の伝統に則った正統なもの」と見なしており、それを認めない他派閥を批判しています。
 ただし彼らの理屈は「強者が弱者を虐げてもいいのが新皇帝バルナバスの掲げる弱肉強食の勅令ならば、強者が弱者を守ってもいい」であり、悪人というよりは盲目的な秩序の執行者と呼ぶのが正しいでしょう。
 グレイヘンガウス領の元々の騎士団詰め所を改修した『テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ練兵所』を拠点としています。

●グレイヘンガウス領
 領主のスタニスラフ・グレイヘンガウスがうっかりテオドールの思想に共鳴してしまったがために、新皇帝派と見なされるようになりました。スタニスラフは特に派閥に属しているつもりはなく、「領民のために手を組んだ相手がたまたま新皇帝派だった」くらいの認識です。
 昨今の難民の増加に伴い、聖職者を含むボランティアの流入も増加しています……もしかしたらロレンツォの息のかかった者もいるかもしれません。

●ミリヤ・ナイトメア
 町中でアイドル活動をしています。魔種であることは気付かれていません。妨害されないかぎりは誰かに危害を加える意思はないようです。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>聖なりし歌完了
  • GM名るう
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月11日 13時15分
  • 章数3章
  • 総採用数73人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

 そして――時は来た。

 南部戦線に身を寄せることとなったグレイヘンガウス領では多数の屋台と舞台を設営してのチャリティイベントが開催されて、領外ではヴァイモーサら外遊隊が賞金稼ぎらに取り囲まれた。
 イベントには任桃華と魔種ミリヤ・ナイトメアが、アイドルとして出場することが決定している。この場で彼女らの関係が変化すれば、もしかしたら後々のロレンツォ・フォルトゥナートを取り巻く状況にも影響が及ぶかもしれない。
 外遊隊の討伐はもっと直接的な影響を及ぼすだろう。ヴァイモーサが斃れれば、これ以上周辺の村々に安楽死がもたらされる心配はないのだ。

 いずれも今後のグレイヘンガウス領とその周辺を取り巻く情勢を決定づける、決戦とも呼べる戦いになるだろう。
 そこで、はたして何をするのか――その選択は特異運命座標にとっても重要なものとなるに違いない。



【第3章について】

 第3章では、再び第1章と同様のフリーアタック制に戻ります。
 プレイングは何度でも行なえますが、一度『チャリティイベント』と『外遊隊討伐戦』のいずれかでプレイングが採用されたなら、もう一方には移れませんのでご注意ください。

●選択肢
・チャリティイベント
 避難民や市民たちを勇気づけるライブステージと、炊き出しを兼ねた屋台群から成る新年祝賀イベントです。皆様も出演・出店は歓迎ですし、もちろん客としてイベントを楽しむことも可能です。

・外遊隊討伐戦
 トゥルヴィチ村では事件を起こさずに発ったヴァイモーサら外遊隊を、とある雪の原野で賞金稼ぎらが取り囲みました。安楽死術を駆使するヴァイモーサを撃破しなければ、彼らは引き続き鉄帝領内に死を振りまくでしょう。
 ただし、彼自身も協力な術士ですし、彼の率いる聖職者・聖騎士たちは自己犠牲的なまでの忠誠心を発揮します。しばらくは活動継続が困難となる打撃を与えて撤退に追い込むだけでも、十分な成果と言えるでしょう。


第3章 第2節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

 前触れなく信奉者のひとりが血を吹いた。何事か――ヴァイモーサが彼の胸元に刺さるナイフの柄の先に目を遣ると、野盗にしか見えない集団が下卑た笑いを浮かべている。
「なンだ、大したことねェや! ジェイクの旦那ァ、こいつァ楽勝ですぜ!」
「油断して深追いして返り討ちに合うんじゃないぜ? こちとら急造戦力なんだ」
 外遊隊相手の一番槍は、ジェイクの雇った荒くれ者どもだ。臨時パーティーとはいえ得手不得手に応じて役割分担した布陣で、近接から遠隔から外遊隊を攻め立てる!
 もっとも、外遊隊が後手に回ったのも最初だけ。すぐに聖騎士たちを壁役にして聖職者たちが治癒する布陣を作り、迎撃の体制を整えた。
 だがそこに。
(タチが悪いぜ。自分たちを正義だと信じてる悪ってのはよ)
 激しく回転するジェイクの弾丸が、治癒も効かぬほど聖騎士の肉体をずたずたに引き裂いてゆく。にもかかわらずヴァイモーサが祈りとともに聖騎士に触れると、彼の表情は笑顔へと変わる――ずたずたの肉体そのままに。

 まるで、苦痛を感じていないかのようだった。
「ゾンビだってもう少しは痛そうにするぜ」
 思わず顔を顰めたジェイク。この不死の集団のごとき外遊隊を討伐するのは、どうやら荒くれ者どもが思っていたより途方もないことらしい――。

成否

成功


第3章 第3節

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

 グレイヘンガウス領の人々は自分たちからそう遠くないところで激しい戦いが始まったとは知らず、ついに始まるお祭りに浮足立っていた。
 もちろん、彼らはイベントに登場するアイドルが魔種だとも夢にも思わない。その事実を公表して混乱とミリヤの不興を招くわけにはゆかないし、かといって魔種の歌声に対策しないなんてことはありえない――サイズにできることはただひとつ、あらかじめ観客の心を鷲掴みにし、ミリヤの歌への印象を薄れさせることだだけだ。
 ……だけど。

(俺に、そんな演目ができるのか?)
 大切な人に会えなくなっても進む勇者の話……は、ダメだ。効く人には効く一方で逆効果になる人も現れそうだ。
 じゃあ、妖精郷の物語? ……無理だ! あれは己の誇りだった妖精武器の名乗りをできなくなってしまった事件。そんな自分が何を物語れよう?
 今の自分が妻に見せられない顔をしているだろうことは、自分自身でもよく判っていた。それでも、だからって何もせずに逃げれば、捨て去るのは二つ名だけでは済まなくなってしまう。
「さあ、これから語るのは、海洋のリゾート、そして海底の竜宮の物語――」
 人形劇の前口上が響く。それは他と比べれば無難な選択肢かもしれないけれど――何もしないよりマシだ。

【継続】
 この人形劇がどれほどの効果を持つかは、『観客に伝えたい主題』と『主題の表現方法』のアピールによって決まります。現状でもゼロではない効果はありますが、より効果を得たい場合は改めてプレイングをお送りください。
 なお、このプレイングは今すぐである必要はなく、ミリヤのライブ内容が判明してから内容を決定しても間に合います。そうする場合、一旦は人形劇のことは忘れて別のプレイングをお送りくださってもかまいません。

成否

成功


第3章 第4節

マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)

 そう――イベントにはミリヤも登場する。もしロレンツォや七剣星が動くのならばそのタイミングしかないと思えば、その瞬間はマルコには気の抜けないものになるに違いなかった。
 あからさまに護衛として動く姿を見せてはみたものの、今のところ、その気配は見られぬようだ。もっとも、それが単にマルコに対する殺気を飛ばしていないだけなのか、それとも本当に何も動くつもりがないのかまでは判らぬことではあるのだけど。

 いずれにせよ予兆がないことは確かだったから、ふと、こんなことを考えてしまう。
(メイヤ様もいらっしゃればよかったのに)
 天義の貴族が鉄帝を訪れるのが好ましくないことは確かなれども、彼女ならお忍びで姉に会いに来ることもできただろう。
 なのに、何故――そう問うた時のメイヤの返答を、マルコはよく憶えている。

『責任を持ってナイトメア家の行く末を導く今の仕事も、お姉様の仰った“自分の願い”であることは確かなのです。ですから、マルコキアス・ゴモリー。お姉様にこう言伝てなさい。
 私に公演を見せるまで、下らぬ罪を犯して討伐されるような羽目にならないように』

成否

成功


第3章 第5節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

 思わず、ジェイクの口から悪態が漏れた。
「自分の信者の生き死にすらどうでもいいってのか」
 するとヴァイモーサが零したのはこんな言葉。
「おや。貴方が彼を傷つけさえしなければ、彼から取り除くべき苦痛などなかったのですよ」
 確かに、それ自体は真実だ。だけどそれにはさらに前提があることを忘れてはならない……。
「村々を救済の名の下に滅ぼした誰かさんが大人しくくたばってくれりゃ、俺とてそいつらを傷つけずに済んだんだがな!」
 BLAM! BLAM! ヴァイモーサ討伐の決意を籠めた弾丸が標的へと放たれる! ……けれどもそれが命中する直前で、別の聖騎士が我が身を盾にする。
 ジェイクの執念が聖騎士を縛る。強い想念に中てられた聖騎士は立ちすくんだが、聖騎士はまだ何人もいる。
 荒くれ者ども相手に呼び掛ける。
「野郎ども! まずはあの“邪魔くさい奴ら”を始末しちまおうぜ!」
 すると口々に雄叫びを上げて、彼らは配下たちに群がらんとする……が、よく見ればその中に一際存在感のあるヤツがいる。
「おうおうおう! おめえらがどれほど“おめえらの信じる幸福”とやらをバラ撒こうとも、このおれさまがいるかぎりいくらでもブッ壊してやるぜ!」
 新皇帝派の囚人かと思ったら『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)だった。
「ヴァイモーサ様の献身を無駄にしようだなんて!」
「貴様のような輩がいるからこの世界は!」
 配下たちが憤って立ち向かってくるさまを、グドルフは悦に入った様子で見下している。馬鹿どもめ、そんなへっぴり腰でおれさまを捕らえられるとでも? お得意の逃げ足で駆け回ってやれば、配下たちはどんどんと守るべき主から引き離されて――。
「――怒りなどという不幸に囚われてはなりません」

 ヴァイモーサが鶴の一声を発すれば、配下たちは完全に主を置き去りにしてしまう直前で我に返った。慌てて主の元に戻ってゆく彼らを見送りながら、収まらないのはグドルフのほうだ。
「おいおめえら! このおれさまを踏み台に使ったうえに、とんだ恥までかかせてくれたんだ! これでキチッとボス猿の首を取ってこなかったらタダじゃおかねえぜ!」
 特異運命座標たちへと喚き散らすが――言われるまでもない!
「ええ……確かに、悪意はないのでしょう。ですが悪意なき悪行こそが一番質の悪い悪人ということ、到底許せる事ではありません!」
 この烏天狗が成敗してやりますと千代。
「わーはっはっは! ここまで頭頑固で馬鹿な連中だったら和解は不要。このヘルちゃんが――いや、何より…テメー等に殺されたこいつらがテメー等を殲滅するのだ!」
 ヘルミーネの集めた村人の亡霊たちが、辺りに呪いの歌を響かせる!

 亡霊の歌は物理的な障害物をものともせずに、戦場一帯に響き渡った。
 何故殺した。
 確かに苦しい生活ではあったが、命捨ててまで楽になりたいとは思わなかったのに。
 自分たちの善行に対して返ってきた非難の声が、配下たちの動きを鈍らせる。空へと舞い上がった千代の射撃からヴァイモーサを護りうる者などただでさえ限られていたというのに、その状態では動ける者がいるはずもない。ヴァイモーサの瞳が見開かれ、手にした香炉を射線に翳すも、叶うのはせめて威力を削ぐことくらい。
 安楽死の紡ぎ手の額から血が滴った。
「ヴァイモーサ様!」
 聖職者のひとりが血相を変えた……が、ヴァイモーサは首を振り制し。
「人は、死は苦痛の先にあるという先入観ゆえに惑わされるもの。死してなおこの世に囚われつづける者たちもまた同じです。誤解に心痛める時間があるのなら、迷える魂を真なる高みに導けるよう精進なさい」
 彼の詞に込められた波動が広がると同時、元からこの地にいた無害な霊たちが掻き消えた様子がヘルミーネには感じられた。彼女と契約していなかったなら、あの村にいた死霊もどうなっていたことか?
 しかし……それよりも何よりも厄介だったのが、彼の言葉で配下たちが士気を取り戻したことだ。
「今のうちにヴァイモーサさんを討ち取りたかったところですが……」
 千代が空から見下ろした戦場では再びヴァイモーサ配下たちの治癒術が激しさを増し、ヘルミーネの魔力と衝突しあうのが見えた。そして――ヴァイモーサの香炉が妖しく燃え上がったのも。

「どうした……? 痛みが和らいでくぜ!」
「こりゃあいい! 今のうちに全員ぶっ殺してやるぜ!」
 荒くれ者どもが喜び勇んで、聖騎士たちに突っかかっていった。だけど――。
「ダメだよ……!」
 叫ぶフラーゴラ。彼らは『痛み』という感覚を、弱者に自らの弱さという罪を知らしめる徴だとしか理解できていない。本当は、自分の体の損傷を把握して、命の危険を報せるためのものなのに。ヴァイモーサ配下たちと異なり痛みを失うという感覚に慣れておらぬ彼らは、自らの無謀さに気づかぬままに戦って、そしていつの間にか戦闘力を奪われてゆく。
 フラーゴラの警告の意味に気づけた者は多くない。そもそもが、自分が認めた相手以外からの指図を素直に聞いたりをしない。
 だから戦線を維持するためにフラーゴラにできることは、ただ、彼らの傷を癒やしつづけることだけだ。彼らの痛覚の代わりに自分が彼らの状態を把握して、彼らの闇雲な突破力を維持するために――そしてヴァイモーサの罪に終焉をもたらすために。

成否

成功


第3章 第6節

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

 その頃、グレイヘンガウス領のイベント会場でも“戦い”が始まりつつあったことを知る者は、特異運命座標たちを除いてはそう多くない。ゆえに真実を知る一人であったイズマには、その戦いの行く末を知る責任がある。
 掻き鳴らす楽器はギフトにより音色を変えて、人間シンセサイザーとでも呼ぶべきアンサンブルを織り成してゆく。激しく鳴り響くスピーカー。重厚なビートに合わせて振り乱す全身もまた、観客たちを楽しませるための演出のひとつだ。
「今日は来てくれてありがとう! イベントを楽しんでもらえたら俺も嬉しいよ!」
 大声で呼びかければステージから遠い人々も、こちらに向けて肯定のジェスチャーをしたのが見えた。皆の反応は上々のようだ。ならば次は――今年の目標は決めたかと問い掛ける。
「もしまだなら……美味しい中華料理を食べながら、これから頑張りたいことを考えてみよう!」
 予定通りならば次はアイドルステージのはずだった。つまり、“戦い”の中心人物であるミリヤと桃華のはず。
 イズマは重ねて、次の演目も楽しんでくれと呼び掛ける。彼女らの歌と踊りが観客たちに、勇気を与えてくれることを願って――。

成否

成功


第3章 第7節

 ――その演奏の終わる、少し前。

 轟く爆音と喝采の中で、ミリヤは雷に打たれたように立ち尽くしていた。
 勇気を出して一歩前に出て、目の前の人物に何言かを伝えようとして。けれどもその言葉が本当に相手に届いたのかどうかは、次々に襲い掛かってくる音色の中では確信を持てない。
 桃華の顔がバツの悪そうに見える。アイドルとしての彼女との再会はミリヤにとっては確かにサプライズプレゼントではあったけれども、あんなにも求めて止まなかったそれがいざ実現した時に、自分には、それを受け取る資格があるのだろうかと自問してしまう。
 でも――。

 彼女は、幼子だ。
 そのことを桃華はよく知っている。
 生まれた時からずっと父の道具であることを強いられてきたミリヤにとっては、桃華と出会った時がようやく訪れた“幼少期”。
 それを解っていて桃華はミリヤを裏切った。慕わせておいて、油断させて殺すのが『廉貞のアリオト』の仕事――その対象が屈強な男だろうと、何の罪もなき少女だろうと、そんなことに今更後ろめたさを感じることはないけれど。家族も、平穏も、人生さえもなげうってでも自分に着いてこようという幼子がいるならば、七剣星だって“見どころがある”として拾って居場所になってやるくらいはする。
 ……だから。


第3章 第8節

刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

 伸ばされた手。
 それがもう自分を拒むことはないと知ってミリヤの歌声が変質した様子を、観客たちの案内と整理に勤しんでいた雲雀は気がついた。
 寂しげだった二胡の音色が一気に陽気さと力強さを増して、願いは必ず叶うのだと説く。野良ライブでは人々に切なさや苦しさを植えつけていた魔性の歌声が、今ではどんな困難でも打ち砕けるという希望で人々を支配する。
(もし、ロレンツォ配下たちが動き出すとしたら、今だろうね)
 魔種が動きはじめた、という絶好のタイミングにくわえて、歌声が特異運命座標たちによる妨害を恐れて慎重になろうという心を麻痺させている。
 一方で、もしも彼らも歌声の力に気づいていたならば……彼らは逆にますます慎重になり、何もできぬまま全てが終わることだろう。
 だから、自身に何の活躍の場もないことは、雲雀にとってはむしろ安堵することでもあった。
(何故なら、今動かないということは、これ以降も動けないということだからね)
 もちろん、かといって完全に警戒を解いてしまっていいわけではないのだろう。けれども今は中華アイドルたちの楽しげな歌声に、しばし耳を傾けていることができる――いつか彼女らの夢を潰えさせるのも、自分たちの使命なのだろうとは感じさせられながら。

成否

成功


第3章 第9節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

 そんなステージを遠巻きから見下ろす建物の、特等席にて。
「……悔しいが、貴様らに頼る羽目になったのは正解だったようだ」
 珍しく素直なスタニスラフの物言いを、ヴィクトールは隣で聞いていた。ヴァイモーサの所業を聞いて激怒した彼も、これからも各勢力の情報を収集し、何をすべきかの意見を募ることにすると約束した彼も、どうやら自分は随分と気に入っているらしい。思わずこんな言葉が洩れる。
「私自身、どうやらやはり貴方を義子息(むすこ)程度には愛してるのかも知れませんね」
 何だこいつ気持ち悪い。そんな表情がスタニスラフに浮かんだ。けれどもそれが嫌悪寄りというよりも困惑寄りの表情だったのを見るに、スタニスラフの中でも――彼自身は認めないだろうが――ヴィクトールに対する尊敬の念が育っているらしい。

 ならば、もうひとつ。その尊敬に応えなければ。
 そのためならば自分の中で作っていた“均衡”を自ら壊すのを、今やヴィクトールは恐れなかった。
「ヴァイモーサ。友人に手を出した罪はそこそこ背負っていただきますよ」
 善行を装ってスタニスラフの立場を危ぶませた罪は重い。いかにスタニスラフ自身にも見抜けなかった責任があるとはいえども、それで首謀者の罪が帳消しになることなどるはずもない。
 針葉樹林の中を駆けるヴィクトールの前方に、一瞬だけ開けた視界と、その中央から立ち昇る怪しげな煙の姿が飛び込んできた。
(もしや……あれはヴァイモーサが何かの術を?)
 だとすれば、まずはその術をぶち壊してやる必要があるのだろう。ヴィクトールの影はますます加速して、ヴァイモーサの下へと近づいてゆく……。

成否

成功


第3章 第10節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

「俺をなめんなよ、ヴァイモーサ!」
 唸りを上げた『狼牙』と『餓狼』。幾度となくヴァイモーサ配下らに襲いかかって縛めるジェイクの銃弾は、同時に荒くれ者たちに一歩退る理由にもなっていた。
 彼らが自身で身を守れないのなら、守れるよう気を配ってやるのが統率者の役目。同時に……そうやって退かせて溜めさせたフラストレーションを、一気に開放するよう号令を掛けるのも!
「今だ! ヴァイモーサに目にものを見せてやれ!」
「言われるまでもねえ!」
「奴の首は俺のモノだ!!」
 動きを止めた聖騎士たちの隙間に、荒くれ者どもが雪崩れ込んだ! 信仰心で無理矢理足を動かす者に、聖職者の術により解放される者。聖騎士たちも決して手をこまねいているわけではないが……その全てを止めることは叶わない!
 ……何故なら、彼らのうち幾らかは、聖職者たちの治癒術も空しく命を落としたからだ。

 心臓を砕かれたり首を刈り飛ばされたりすれば流石に魂が肉体から離れる様子が、ヘルミーネには見てとれた。どれだけ彼らの信仰心が篤かろうとも、肉体を砕かれれば死ぬという法則までは変わらない。
「死出の番人『ニヴルヘイム』の巫女が宣言する――全てはそれが答えだと知れ!」
 そしてどれだけ彼らがヴァイモーサ以外の生者の言葉から耳を塞いだところで、ニヴルヘイムと契約した亡霊たちの呪詛からまでは逃れられないという法則も。
 怨嗟が、彼らに罪を突きつける。彼らが善行と信じるものは傲慢であり、救うどころかより深い苦しみを与えるのだと。
 それでも聖職者らの術は、“悪霊”を跳ね除け浄化する。死霊たちの言葉も欺瞞であるならば、ヘルミーネの放つ後光も偽物だと断じるために。
 すなわち、その術を用いるということは、聖騎士たちを治癒する術を用いなかったということだ。
 ヴァイモーサの術も強力ならば、言葉が配下たちに与える影響も絶大なもの。けれども決して無尽蔵なものではない――何故か? 千代には見えている。彼の力の源はあの香炉であって、おそらくはそこに焚べるべき香料のほうに限りがあるからだ!
「ヘルミーネさん!」
 呼び掛けるや否や『白鳥』の銃弾の雨がヴァイモーサ周辺を覆った。限界を超えた連射の反動を支えるもののない空中で受け止めるため、千代ばかりか地上のヘルミーネにも、翼も限界を超えて軋んでいるのが判る。
 だから、それが“メッセージ”であることに、ヘルミーネも気がついた。それが意味するものは――たったのひとつ!
「了解なのだ!」
 鉄帝の冬をも更に凌ぐ、文字通りニヴルヘイムから喚び出したかのような冷気が、彼の動きを一瞬だけ止めた。その一瞬を逃さず放たれた最後の『白鳥』の銃弾が、香炉の穴へと吸い込まれてゆく。
 激しい跳弾音が香炉の中で幾度も響いた後に、香炉は内側から破裂するかのように砕け散った。
「なんということを……この香炉は貴重な古代文明の遺物だったのですよ」
 ヴァイモーサの非難の声は、同時に彼の配下たちが思い出しはじめた苦痛の声にほとんど掻き消されんばかり。そして彼らの悲鳴は同時、彼らがしばし、その役割を果たせなくなってしまったことも意味し――。

成否

成功


第3章 第11節

「認めましょう。この度は私の力が及ばなかったということを」
 それだけを一言語った後に、ヴァイモーサは天へと片手を掲げた。輝く光の玉が掌の上へと現れて、その激しさはますます増してゆく。
 そして、もう一方の手は祈りの形を作り――直後、光の玉は分裂し、四方八方へと飛び散ってゆく!

 それらは当然ながら敵たる特異運命座標らを穿つものと思われたが、実際にはそれ以上に目を疑うような光景を生み出していた。
 すなわち、光は敵の代わりに、致命傷を受けており激痛に苦しむヴァイモーサ配下を次々に貫いて即死させてゆく。致命傷ではない者には一切の傷を与えずに。
「彼らには、私に従ったがために要らぬ苦痛を与えてしまいました。せめてその苦しみから解放することで、私の罪滅ぼしと致しましょう」

 それから彼は懐から新たな傘状の遺物を取り出して、それを掲げてみせた。
「あなたがたは私を許せないのでしょうが、私は、あなたがたも救いたいと願っているのです。……ですが、私がこの場にいるかぎり、あなたがたに不要な憤りを与えてしまうのでしょう。それは私の本意ではありません」
 ゆえに彼は、遺物を開く。そして生み出した風に乗り、まるでジェットスキーのように雪原を滑り去ってゆき――。


第3章 第12節

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

 ――不意に、ヴァイモーサの目の前に赤黒い大鎌が生える。咄嗟のことに彼は驚き身を捻ったも、大鎌はまるで生きているかのように彼の動きに着いてくる!
「何と……!」
 ヴァイモーサのローブの胸元が大きく裂けて、鎌はあたかも死神の刻印のごとき傷跡を生んだ。転倒した拍子に思わず手放した遺物がそのまま風に乗り、ふらふらと少し離れた雪原へと着地する。

「遠巻きから様子は見ていましたが……こうする他はありません。あなたは、死というものに焦がれすぎている……死は、救いなんかではないというのに」
 雪の中で顔だけを持ち上げたヴァイモーサを見下ろすマリエッタの緑色の瞳に、強い憂いの色が浮かんだ。解っている……自分だって、魔種を、悪人を救うと言いながら死をもたらしている。自分とて彼とそう変わらぬ血濡れた魔女なのではないかと自問する。

 もしもここでヴァイモーサを見逃したなら、彼は再び遺物を掴み、そのまま雪原の彼方へと去ってしまうに違いなかった。それは仲間たちの努力を無に帰す行為ではあるけれど、マリエッタの中での矛盾は解消できる。
 けれど、そうしなかったなら……ヴァイモーサは追いついてきた特異運命座標らに討たれ、そしてマリエッタは矛盾とともに生きることになるだろう。
 その2つの選択肢のうち、はたしてどちらかを選ぶのか。マリエッタの出した、その答えは――……。



【今後の展開について】
 外遊隊討伐戦は、次回プレイング採用が最終回となります。外遊隊討伐戦最終回の執筆は1月27日頃を予定していますので、ご参加予定の方はそれまでにプレイングをご送付ください。

成否

大成功


第3章 第13節

鬼城・桜華(p3p007211)
子鬼殺し
首塚 あやめ(p3p009048)
首輪フェチ
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
獅子神 伊織(p3p009393)
獅子心王女<ライオンハート>
ハク(p3p009806)
魔眼王

 陽気に響くミリヤの歌声を、せめて思い出に残してやるのが手向けなのだろう。残念ながら魔種になってしまった彼女が討たれ、最期を迎えるその時に。思い残すことのないよう力を尽くすのが、『子鬼殺し』鬼城・桜華(p3p007211)の考える責任だ。
 考える。ミリヤの強烈な感情操作の歌声は、彼女の知る唯一の七剣星――魅了魔法の使い手とされる紂・妲己にとって、どれほど利用価値のあるものになるのだろうかと。何にせよ、彼女自身が現れれば大惨事になることは疑いようもない……だから。
「全力で見回りに強力するのだわ!」
 ……って、こんなに人がいる中でどうやって見つけるのだわ!?
 少なくとも、妲己が現れたなら生まれるだろう人々の声なき声も、集団が何かトラブルを起こす予兆も今のところ見つかっていないので、いたとして様子を確認しに来た妲己の奴隷たちが精々だろうが。
「それに人を攫うにも、こういったイベントは絶好の隠れ蓑になるものですからねぇ!」
 クヒヒと『首輪フェチ』首塚 あやめ(p3p009048)がほくそ笑み、警備に当たっていたローゼンイスタフ志士隊員に睨まれかけたが、別に彼女自身は人攫いなどという三流奴隷商の仕事をするつもりはないのだ……口八丁で言葉巧みに拐かすタイプの同業者は見かけたが。
「あなた、生活苦に陥った辺境を回って口減らしを兼ねて子供を二束三文で買い叩くのが生業でしょうに。こんな立派な町に何の用です?」
「人聞きの悪いことを言うな首輪フェチ! これは……ここだけの話、この町に逃げ込んだ奴らを余所に帰すのを俺の口八丁で手伝えって依頼だ」
 ……ということは、難民の流入元の領主が依頼主か。だとすれば辺りでこっそりと町の人々に声を掛けている奴らは、七剣星も新皇帝派も関係はない……ザーバ派の末端が、勝手に――しかしある程度の正当性はある形で難民たちを逆勧誘しているというだけだ。
 だとすると……。
「七剣星を炙り出すためには、もう一歩踏み込まなくてはなりませんわね! ですから、私も辻ライブを始めますわ!」
 すなわち、『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神 伊織(p3p009393)は七剣星に対する囮役!
「さあ、私の歌を聴けぇ―――ですわーー!!!」
 ミリヤたちに負けないほどの明るい元気な曲を、歌って、踊って、演奏もして! 人々が彼女らに向けはじめた意識をこちらにも奪う!
 ……本当は、同じアイドル仲間であった彼女が夢を叶えるために反転という逆境に身を置いたという事実を、残念に思うと同時に眩しく感じて、負けないように張り切りたい気持ちでいっぱいになってしまったからだ。
「私も未来のアイドルですわ! 私が人目を引きつけている間に、どうか皆さん、為すべきことを……」
「もちろんだゾ! 敵は七剣星……絶対にこの機会に何か仕掛けてくるはず……特に、毒遣いの李・明明だゾ!」
 瑠璃が応え、『魔眼王』ハク(p3p009806)を連れて露店街に猛突進していった。
「むむッ! 毒耐性のある僕の舌にかかれば、この砂糖たっぷりの菓子パンが、美味しすぎるからって毎日食べたら糖尿病になることくらいお見通しだゾ! こっちのスープは……病みつきになって飲み過ぎたら塩分過多で高血圧一直線だゾ!」
 それ、単なる食べ歩きですよね?
「!? ……いや、普通にイベントを楽しんでるわけじゃないゾ! これも大事な仕事だゾ! 食べ歩きっていうのはハクちゃんみたいなことを言うんだゾ……というかハクちゃんは食べ過ぎだゾ!?」
「……ふぁい?」
 もぐもぐ、ごくん、と手にしていたカップケーキを飲み込んだ後、またすぐにおかわりを注文したハクの姿は、どー考えても彼女の主張する「これも調査のためなのです」とは結びつかなかった。終いには、明明のことまでは知らないが彼女らの任務について察したおばちゃんがハクたちの使命を察して気を利かせて注文をキャンセルしようとしたら、魔眼を使ってまでキャンセルを取り消させる始末。
 彼女の名誉のために言っておくと、彼女はそうこうしている間にも使い魔のカラスに周辺を監視させているので仕事をしてないわけではないのである。ただちょっと……いやかなり……ケーキに夢中な間もカラスと共有した視界にちゃんと意識を向けていられていたかは怪しかっただけで……。

【情報】
 瑠璃の情報源であった『地元のダチコー』は、今のところ安全が確保されているようだ。イベントを楽しもうと出てきた彼を情報収集がてら護衛しようと思ったら、まるで使命をすっぽかしてデートを楽しんでいるみたいな構図になってしまったが……。

成否

成功


第3章 第14節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

 追いついた千代とヘルミーネが見たものは、その場にうずくまるヴァイモーサと、彼に片腕を向けたマリエッタの姿だった。
「死は、救いなんかではないというのに」
「試しに、この世界などに囚われぬ目でご覧なさい」
 ちぐはぐな言葉の遣り取りの後に訪れた静寂。ただマリエッタの腕に浮かび上がった死血の呪印のみが、雪に覆われた光景の中でまるで蠢いているように見える唯一のものだ。
 その姿は悲しみに暮れているようにも思え、躊躇っているかのようにも見えた。
「……マリエッタさん、悪人だとしても助けたい気持ちは尊いと思います」
「辛いなら、ヘルちゃんたちが代わりにやるのだ」
 けれど……そうじゃない。答えは、彼女の中ではもう決まったことだ。
(すみませんお二人とも。少し、失った記憶の、忘れ果てた残罪と向き合う必要がありました)
 けれども静止したかのような時間の中で、自分の罪は見つめ終えた。必要なのは矛盾をなくすことじゃない……自らの矛盾を認めてでも、今為すべきことをすることだ!
「貴方をここで……仕留めます!」

 呪印より夥しい量の血が溢れ、再び死の影へと変化した。遺物に手を伸ばしたヴァイモーサ……その行く手を阻むように。
 そして……止まった腕に赤血を散らした、千代の八咫の狙撃弾。
「貴方は死に魅入られ、救いと思い込んでる……そのような人々の害悪を、私は……『烏天狗』として討ちましょう」
 それは、ヴァイモーサの言葉を借りるなら“救い”。
 ……今、彼自身も死から逃れようと足掻いているのに? けれども、彼にとって本当に死が救いになるのかどうかは、千代ではなくヴァイモーサ自身だ。
 そう――死に直面した、その人自身が決めること。
 ヘルミーネとて、あるいは、死者と直接向き合う力を持つニヴルヘイムだからこそ、死によってしか救われぬ者もいることを否定はしきれない。
「だが、それを強制する事は断じて許されない」
 口調が、自ずと改まる。
「故に死出の番人、ニヴルヘイムの名において、テメェには死して尚辛い罰を与える」
 そしてその裁定は、決して彼女の独断による判決ではないのだ……マリエッタの瞳も緑色に光る。
貴方の罪が正義・信念から来たものだと仰るのなら……貴方はここで私に奪われる。私も私の正義と信念を以って、その血と魂、死血の魔女が奪いつくしてあげますよ……解放などさせません」

 遠くからがやがやとした喧騒が近づいてきた。
「ツイてるぜ! 野郎め、まだ生きてやがる!」
「上手くいきゃあトドメは俺が貰えるかもなぁ!」
 モヒカンの、あるいはスキンヘッドの一団は、当初より幾分数を減らした、ジェイクの雇った荒くれ者たちだ。
「もはや相手は奴一人、一斉に攻撃を仕掛けるぜ! とはいえ……最後まで油断はするなよ? いくら手柄が欲しいからって、足を引っ張り合うような真似は厳禁だ」
 彼らが興味を持ったのは討伐報酬のカネだけで、ジェイクのようにアレを野放しにしてはならないという使命感で動いているわけじゃない。だが、ヴァイモーサを倒そうという意思と、勝利とは生きてこの世の快楽を謳歌することであり死による幸福を得ることではないという価値観だけは変わらない。
「死は救いだってな? だったら俺たちに感謝しろ」
「そのとおりだぜ! なにせ、お前を救うのは俺たちなんだからな!」

 矢継ぎ早に放たれる、銃弾、魔術、呪詛、ナイフ、鎖……。特異運命座標たちと罪人たちの怒涛の攻勢を前にしたならば、いかに歪んだ信仰を力とするヴァイモーサとて、配下たちを見捨てたのは裏目であった。多勢に無勢の戦況の中、彼が撒き散らす死よりも彼に蓄積されてゆく死のほうが色濃くなってゆく様子がヘルミーネには見て取れる。
 否、ニヴルヘイムの力なくとも、情況は誰の目にも明らかであったろう――それこそ、押っ取り刀で駆けつけたヴィクトールにも、自分の加勢など必要としないことが判る程度には。
(いえ、サボりのつもりはないんです。何かあった際の殿を務めるためには、この位置がちょうど良いというだけで……)
 そんな自分への言い訳を心の中で呟きながら、彼は、スタニスラフに宛てるべき報告書のためのメモを記録しはじめた。信仰心のために命を賭した外遊隊。自らの信念に基づいて、そんな彼らの命をも奪ったヴァイモーサ。幾つかはこの時点でのヴィクトールの推測によるものでもあったし、後に関係者の証言を元に書き改められる部分もあるが……兎に角、ヴァイモーサのもののような危険な信仰がこの鉄帝国に存在することを知らしめることにより、スタニスラフにせよ他の良心ある者たちにせよが、これから吹き渡るだろう冷たく厳しい風を乗り越えられるために――そのあれこれに実際に骨を折る人間は、ヴィクトールではなくスタニスラフと南部戦線から派遣された文官たちなのだろうけれど。

 カソックなどを着込んでいたくせに久しくしていなかった祈りというものの形をヴィクトールはなぞってみせた。神など信じても、信じるつもりもないが、そうすれば世界がより良く変わるような気がして。
 雪原に、千代による最後の銃声が響く。多くの人命を奪ったヴァイモーサには“救い”をもたらし、マリエッタには贖罪の旅の始まりを告げる音が。
「なんてことなのだ……最後の最後で逃げられたのだ!」
 無辜なる混沌という世界に救いを求めていなかったヴァイモーサの魂は、まるでヘルミーネに捕まるのを避けるかのように忽然とこの世から消え失せてしまったが……少なくとも彼が新たな罪を犯す心配は、これで未来永劫必要なくなったはずだ。



【今後の展開について】
 これにて『外遊隊討伐戦』本編は終了しますが、もしも後始末等でやりたいことが残っている方がいらっしゃればプレイングを受け付けます。
 なお、『外遊隊討伐戦』参加者の方は『チャリティイベント』にて他者に対して意味ある影響を及ぼす行動はできませんが、イベントシナリオにおける観光程度の内容であれば引き続きプレイングをご送付いただいてもかまいません。

成否

成功


第3章 第15節

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

 一転して性質を大幅に変じたミリヤの歌に、サイズは自分の用意してきた演目が必要なくなったと知った。
(でも、一体どうしてだ……? 会いたい人に会えたからなのか?)
 その予想はきっと真実なのだろう。何故なら……アイドルとは、踊りと歌で感情を揺さぶる存在だから。悲しみの歌を歌えば人々は悲しさを分かち合い、喜びの歌なら笑顔を取り戻すものだから。
 そして同時……アイドルの指し示す希望というものは、堪らない憎しみを生むこともある。推しの結婚を許せないファン。そして、ミリヤの喜びを妖精女王と二度と会えない自分への当てつけのように感じて苛立つサイズ……。

 もし、それもまた魔種の力の一端だとするのなら、彼女はとんでもなく厄介な敵であるようだ。
(利用されればとんでもないことになるぞ)
 ミリヤが傲慢の魔種であることは幸いですらあろう。何故なら悪意ある何者かが都合のいい歌を彼女に歌わせようと思っても、彼女に歌いたいと思わせなければ叶わないのだから。
 だが……ひとたび彼女が歌いはじめれば、彼女の周囲にいる人間は全て彼女の味方に変わる。早く討たねばならないが、今討てば聴衆全てを敵にすることになる。
 だから、サイズは息を潜めて伺いつづける。
 ミリヤがグレイヘンガウス領から離れ、一人になるその瞬間を求めて。

成否

成功


第3章 第16節

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

 もしも誰かを楽しませる秘訣があるのだとすれば、それは自分自身が楽しむことだろう。
 傍目に楽しそうに踊るミリヤを見ていると、自分はそれを少しでも手助けできたようでイズマははほっとする。
 歌声が情熱を帯びているのなら、完成は熱狂に沸いている。誰もが楽しい気分に浸っているせいか、イズマが対処せねばならないようなトラブルは起こっていない……誰かが動いた拍子に足を踏んだやら、腕を上げた拍子にぶつかったやら程度はあるにせよ。

 かくして魔種と暗殺者のステージは、無事に成功裏に終わってくれた。
「凄く良いステージだった。元気をもらったよ」
 イズマが握手を求めれば、アイドルたちは笑顔で応じてくれる。けれども……これで彼女らの仕事が終わったわけじゃない。
「次の舞台は、『アイドルのいる中華料理屋』だ。舞台の袖から覗くだけでも見えるだろう? あの舞台のアイドルが接客してくれるのかと驚いている人が。ライブを見た後でまた中華の味が恋しくなって、そわそわと再び列に並んでいる人が。皆が貴女たちを待っている……行ってくれるかい?」
「「もちろんっス!」」

成否

成功


第3章 第17節

 まだ、やりたいことは済んではいない。だって、この『中華料理屋』は幻だから。
 確かにライブで人々を楽しませたし、中華料理に舌鼓を打たせもできた。けれども、それはあくまでもイベントあっての話。
 本当に胸を張って『アイドルのいる中華料理屋を開いた』と言えるのは、それらを全て実力で――誰のお膳立てもなく店を始めて、ちゃんと常連客ができた時。

 だから、まだ、討たれるわけにはゆかない。
 きっと、いつかその時は来るのだろうけれど……今は、もう少しだけ、夢を見せて。

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