シナリオ詳細
<咬首六天>聖なりし歌
完了
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オープニング
●叶わない夢
Holy Night Dream
約束を 叶えに――
朝 白い息を 吐き出した時から
今日という 大切な日は始まる
「きっと 上手くゆけるから」
今から自分に 言い聞かせ
昼 一日じゅう そわそわとしたまま
逢える時 その瞬間に備えて
「ずっと 一緒にいようね」
何度も練習 繰り返す
ふたり最後に 別れてから
どれほどの時間 経ったでしょうか?
早くもう一度 逢いたすぎて
一秒さえもが もどかしくなる
Holy Night Dream
この厳しい 世界の中で
心に抱いた この気持ちだけは
きっとただ一つ 真実だから
Holy Night Dream
きっと叶えるよ――
●罪を贖うために
フォン・ルーベルグのローレット天義支部に現れたその依頼人は、昨今の天義貴族社会を騒がす人物だった。
名はメイヤ・ナイトメア。教皇の革新路線を痛烈に批判する保守派の代表格であり、『断罪の聖女』と呼ばれる苛烈な異端審問官――であったのは少し前までの話。今は自身の思想が実は魔種であった父により作られたものであったことを知り、これまでのナイトメア家の罪を精算するために忙しない日々を送っている女性だ。
そして……彼女の『罪の精算』とは。
父から自身を庇って反転した姉ミリヤ・ナイトメア――ローレットではミリヤム・ドリーミング(p3p007247)と名乗っていた――の行方を探すことも含まれていた。
自分を裏切った親友との間のただひとつの真実であった、『アイドルのいる中華料理屋』という夢。それを追うために何もかもを捨て去る覚悟を決めた姉ミリヤを、メイヤは決して嫌いになりきれてはいない。
一方で……無条件に認めるわけにも無論ゆかない。彼女はどうやらこう考えているらしい――姉が夢を果たした瞬間を見計らい、引導を渡すことこそが自身の使命なのだ、と。
その使命を果たすため密かに放った間諜は、メイヤが新皇帝派の鉄帝貴族グレイヘンガウス家の領地に向かっていることを突き止めてきた。きっと、そこに親友――暗殺者『廉貞のアリオト』任桃華がいるとミリヤは知ったのだ。そして桃華がいるということは……。
「彼女を姉に接触させ、父が暴走する仕向けて我が国に戦乱をもたらさんとした『告死鳥』ロレンツォ・フォルトゥナートもそこにいるのです」
おそらくはミリヤは桃華に接触し、任務を捨てて夢の実現を促すに違いないとメイヤは予想していた。そして鉄帝内で足取りを晦ませたロレンツォは、動乱に乗じてさらなる陰謀を企てているはずだ。
もし、ミリヤという不確定要素がロレンツォを炙り出すためのきっかけになるというのなら……今はそのための最大の好機。と言える。
「もちろん、これは皆様の方がお詳しいかとは思いますが、新皇帝派はローレットに賞金を懸けています。潜入には危険が伴うことは私とて承知しております」
しかしメイヤの調べによれば、グレイヘンガウス領を拠点とする新皇帝派の『ローゼンイスタフ志士隊』一党は暴力で無辜の民を支配するどころか、むしろ些細な不正すら許さぬ潔癖さにて治安を守ってすらいるのだとか。かの地には周辺地域から続々と人々が避難しており、潜入は容易く行なえるであろう。
シャイネンナハトを前にして、動乱の最中にある鉄帝の人々を勇気付ける恋の歌。それを歌う旅のアイドルが魔種であることも、彼女が「逢いたい」と願う相手が巨悪の尖兵であることも聴衆たちは知る由もない。
だが、知らせる必要はない……全ては闇の中で済ませればいい。人知れずソリで夜空を駆ける、あの聖なる老人のように。
- <咬首六天>聖なりし歌完了
- GM名るう
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月11日 13時15分
- 章数3章
- 総採用数73人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
特異運命座標たちの広範に渡る潜入調査は、グレイヘンガウス領とその周辺に大きな変化を与えようとしていた。
ひとつ。領主スタニスラフは新皇帝派であるローゼンイスタフ志士隊との関係を見直し、他派閥との関係を検討している。
これに関して、志士隊に「裏切られた」と思わせてしまう心配はしなくてもいいだろう。首魁テオドールがどうかは知らないが、末端の志士隊員は政治的に潔癖症ではあるが鉄帝国の未来を憂う若者たち。スタニスラフは自分で考えて動けば何をしでかすか判ったものじゃないが、やることさえ決まっていれば真っ直ぐすぎる若者を言いくるめる程度の弁舌はある。
しかし……ロレンツォの配下だろうボランティアの聖職者たちがどう動くかは判らない。彼らに対する対策が必要だ。
ひとつ。グレイヘンガウス領の周辺地域では、『外遊隊』に対する警戒情報が出回っている。
外遊隊はセフィロト幹部ヴァイモーサの率いる物資調達部隊だが、実態は人々に“安楽死による苦痛からの救済”をもたらす危険な異端信仰の集団だ。彼らはトゥルヴィチ村では事件を起こさず、次の村へと向かおうとしているが……彼らをそのまま見送っていいのだろうか?
ひとつ。そろそろミリヤ・ナイトメアと任桃華が互いを認識した頃だろう。
魔種であるミリヤの桃華を呼ぶ歌が強まれば、聴衆の「誰かに逢いたい」という思いが増幅されるあまり、悲劇が引き起こされてしまうかもしれない。これに対してミリヤの側に何か働きかけることは難しいだろうが……もしかしたら桃華の側には何かができるかもしれない。
ひとつ。全ての青写真を描いただろうロレンツォの姿はグレイヘンガウス領内には見当たらず、別の場所でひそかにほくそ笑んでいるに違いない。
足取りを追うことのできない彼の計画を打ち砕くために、どんなことができるのか考えるべき時が来た。それは今すぐに効果を発揮するものではないかもしれないが、だからと言って今何もしなければ、永遠に彼を捉えることなどできないのだ。
他にも細かな問題はあるが、現状で特異運命座標たちが取り組むべき問題は以上の4点だろう。
いずれも明確に『こうすべきだ』という答えはない……が、それでも特異運命座標たちならば、そこに答えを創り出すことができるに違いない。
【第2章について】
本章のプレイング確認とリプレイ執筆は、1月4日以降を予定しています。また、前章と異なりリプレイ執筆は1キャラクターにつき1回のみとなる予定です。
以上を踏まえてプレイングの相談と送付を行なってくださるようお願いいたします。
第2章 第2節
しょげ返るスタニスラフの縮こまった姿は原因となったヴィクトールをすらも気の毒に思わせるほどだった。だがまあ、それは彼が今回の件を悔いて良い方向に向かってくれるという現れではあるのだろう。
(ですからそろそろ、この可哀想なチワワにも反省のご褒美をあげる頃合いでしょうね)
だからヴィクトールはこう切り出したのだ。
「貴方の思いと優しさは、この冷たい地では得難い血の通う宝ではありませんか。ですから貴方の後ろには、“食い物”にしようとする人がついてくるのです――そして勿論、貴方を本当に慕う人たちも」
貴方を庇護してくれるばかりか大喜びで必要としてくれる場所がある、と伝えた時の、スタニスラフの花の咲くかのような笑顔ときたら。スタニスラフの側からはどうかは知らないが、ヴィクトールはそんな無邪気な彼が嫌いではない。
「ほう。あの高名なザーバ将軍率いる南部戦線がこの俺を! 知らぬこととはいえ悪逆非道のヴァイモーサとやら一味を招き入れ領地を荒らさせた俺を、赦すばかりか歓迎してくれると言うのか! 確かにザーバ将軍の力であれば志士隊の戦力を補って余りあるだろうな……ふ、それだけの価値を俺に認めてくれると言われるのであれば、俺とて微力を尽くすことに吝かではない」
しばらくすれば南部戦線の軍人らとともに、どこぞの司書がようやくマトモに仕事のできる文官の増えた喜びに感涙を流しながら山ほどの事務書類と見繕った事務員見習いを送り込んでくることだろう。その時にスタニスラフがどれほどの地獄を見ることになるか――今はまだ誰も知らない。
【特殊判定発生!】
グレイヘンガウス領が南部戦線の勢力下に編入されました! 『アイアン・ドクトリン』の効果を含め、南部戦線は軍事力-30・求心力+20・技術力+50を得ます。
この決定に対してローゼンイスタフ志士隊の中からは反発も生じているようですが、グレイヘンガウス駐留部隊の総意としては「志士隊はこれからも戦乱を口実に私腹を肥やさんとする輩を発見し次第制裁を加えるつもりで、それは南部戦線とて例外ではないが、それが妨害されず、ザーバが新皇帝に対する勝利もなしに皇帝を僭称することもないのであれば、特別に攻撃する意思はない」となっています。
ただし、この見解がテオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフの見解でもあるとはかぎりません。
成否
成功
第2章 第3節
だがそんな未来の地獄に気づくまでの間は、スタニスラフは大いに奮起して、この地に好ましい結果を及ぼすことだろう。その証拠に今の彼はむしろ食い気味なほどに、領主館を訪れたマリエッタの質問に対して見解を述べてくれる。
「なるほど、外遊隊の手引きをしているだろうロレンツォが潜みそうな場所を探したいと貴殿は言うのだな? 無論、賊徒の根城になりそうな場所の心当たりがあるかないかで言えば幾つか候補に挙げられはするし、望むならば地の利のある者や俺の騎士たちを貸し与えもしよう」
しかし、と彼はこうも付け加えるのだ。
「もしもそれでロレンツォが見つからなければ、それはとんでもない事実を示すことになるぞ? すなわちロレンツォが配下をこの地に送り込んだのは、監視者の目を欺くためだったということになるのだ……陰謀家が、何の隠れ家の用意もなく異郷の地に足を踏み入れることがあるだろうか? なるほど今朝までの俺ならば、準備などなくとも上手く丸め込んで利用することは容易かろうな。だが……この通り、俺は目が醒めたのだ! その時に俺が敵に回るだろうことくらい、ロレンツォは想定せぬのだろうか? もしも志士隊にせよ外遊隊にせよ奴に伝手があるのであれば、そもそもグレイヘンガウス領に拘る必要はなかろうな……どちらも、各地に幾つもの拠点を持っているはずだ。そのひとつに身を寄せて悠々自適に過ごしていたとしても、俺は決して驚きはしない」
その場合……もしもロレンツォが配下らに何らかの指示を出す必要が生じても、直接的に配下らに連絡する必要はないという彼にとってのメリットもありそうだった。彼は身を寄せた相手のネットワークを間借りして、配下たちの行動トリガーを発生させてやるだけでいい。複雑な指示こそできなかったとしても、たとえば「志士隊が引き上げたなら一緒に引き上げ」だとか、「ヴァイモーサに協力を仰がれたらテロを開始」だとか、事前の取り決め通りに動かすくらいならそれこそ一言も発することなくできる……!
(だから、医療ボランティアの聖職者の人たちをどれだけ監視してても、誰かとこっそりと連絡していた様子はなかったんだ……!)
夜中にもボランティアたちを盗み見ていたフラーゴラの目にも怪しい動きが見当たらなかったことは、彼らの無罪を示す証拠というよりも、スタニスラフの推理を裏づける証拠でさえあるように思えてならない。きっと、事を起こす時にはボランティアたちだけでなく、当然、桃華も動かす算段でいるのだろう。
もしも彼女がひとたび牙を剥いたなら、グレイヘンガウス領にはどれほどの血の雨が降るのだろうか?
そんな想像をするほどに、フラーゴラには願わずにはいられない。
(ミリヤさんが桃華さんと接触することで、何かいい方向の変化が訪れるといいけど……!)
【情報】
この時点を以って、スタニスラフは正式にヴァイモーサら外遊隊を手配犯として宣告する命令書にサインした。この命令書は、志士隊に外遊隊の凶行に気づけなかった力不足を突きつけて南部戦線の戦力の招聘を呑ませる材料として使われたが、それ以上の布告の方法は特異運命座標に一任されている。
【情報】
ロレンツォは、グレイヘンガウス領から遠いローゼンイスタフ志士隊やヴァイモーサ信奉者たち拠点に身を寄せている可能性が高い。だとすればロレンツォ配下たちの情報網よりも、志士隊やヴァイモーサの情報網を把握するほうが重要そうだ。
成否
成功
第2章 第4節
本当は、もっとじっくりと時間をかけて是非を見極めたかったのではあるが。
(致し方ない。これ以上桃華にミリヤ様を避けさせたままにすれば、ミリヤ様が保たないかもしれないのだから)
両者の接触を許すこととは人々の安寧というチップを魔種にベットする大博打であって、今こそ特異運命座標になって元がつくとはいえ天義の聖騎士にして異端審問官たりきマルコには、到底打てるわけもない。
(だが、どれほどの遺恨があろうとも、ミリヤ様は元主人の娘にして現主人の姉なのだ。だから、俺の為すべきは……博打が博打にならぬよう手を尽くすのみ)
特に交渉材料なんてないけど、と謙遜しながらも雲雀がついてきてくれるということが、マルコをどれほど勇気づけただろうか? 少なくとも彼女はミリヤの想いを解ってくれていて、いざとなったら力ずくにでも桃華に伝えるべきことを伝える力になってくれる。
実際、チャリティイベントへの参加要請という形で個室に連れ込んだ桃華にミリヤの話を持ち出した時、雲雀が咄嗟に出口を塞がなければ桃華はマルコを振り切って逃げてしまっていただろう。その際に両者を襲ったものは、いつでもふたり纏めて首を刎ねられそうなほど強烈な殺気。もし桃華が本気で望んだのであれば、実際に個室は血の海に変わっていたに違いないと思わせるほどの。
だけど実際には……もちろん、そうはなってはいない。その理由を、雲雀は考えるまでもない。
「……貴女の親友を想っている気持ちも本物だからでしょう?」
マルコが桃華に叶えてほしいと願った、ミリヤの、そして桃華自身の夢。
「『廉貞のアリオト』とその標的としてではなく、ミリヤ様とその親友としての『夢』。どうか叶えてあげて欲しい」
元異端審問官が断罪すべき異端に頭を下げた時、桃華は仏頂面を作って口を開いた。
「ここでその名前が出てくるってことは、どうやらトボケても無駄そうっスね。なら教えてあげるっス……『七剣星』は依頼人の意向を裏切らないっス」
……でも雲雀がじっとその時の彼女を見つめれば、その仏頂面は口許に生まれそうになる笑みを隠すためのものにも見えて。
「まあ……これ以上聖女の親友を装うなとは、依頼人には言われてないっスね」
付け加えたそんな言葉は、ライブ出演の承諾と同じ意味だった。
成否
成功
第2章 第5節
こうして急遽開催されることが決まった新年チャリティイベントは、難民たちはもちろんのこと、古くからのグレイヘンガウス領住民たちも、ローゼンイスタフ志士隊も、誰もが楽しみにするものになるに違いなかった。単に歌や踊りで盛り上げるだけでなく、普段よりも豪勢な食事が訪れた人々に提供される。もちろん供される食材に、外遊隊が用立てた怪しいものは使わない。イズマが自分自身で用意した出どころの確かなものばかりだ……それだけで賄おうと思ったら、荷馬車があと何台必要になるかは定かでないが。
「周囲の建物が作り出す音響効果を考えたなら、メインステージの配置はこうで、そうなると照明はこことここの家にもお願いするのがよさそうだな。必要な人員はここがこうで……いやだめだ、これだと李明明が毒を盛るための死角が生まれてしまう」
イズマの練るイベント進行計画は少しずつ完成に向かっていったが、とりわけ注意深く扱わなければならないのはやはり『アイドルのいる中華料理屋』だろう。物珍しさに人が集まっても捌けるような配置が必要になり……それは同時に、万が一のことがあっても避難誘導がしやすい条件でもある。
「あとは、全てが無事に終わるのを祈るだけだな……いいや、今はまだミリヤさんが来ると決まったわけではないか」
成否
成功
第2章 第6節
チャリティイベント出演を承諾こそしたものの、本当に自分のところをミリヤが訪れるのか、桃華は半信半疑なままだった。
(こっちは仕事でやってただけで悪感情はないんスけど、ミリヤがどう思ってるかは判らないっス)
本来なら一生騙し通せる前提で誑かした相手と、騙して全てを奪ったと知られた状態で再会する。そんな失態は前の世界で『廉貞のアリオト』の二つ名が知れ渡るようになってからは起こったことがなかったが、その前に起こった幾つかの事例では、例外なく面倒な事態が引き起こされた。
ましてやこの無辜なる混沌なる世界では、相手は魔種なる驚異的な戦闘力を得た存在となって現れるのだ……桃華とてミリヤが反転したあらましを聞き及んではいるが、まさか本当に一緒に夢を追って大団円になれると信じきれるはずもない。
一方で、自分とは別口の炊き出しグループがいると聞いて様子を伺いにゆき、遠目に桃華らしき姿を捉えたミリヤのほうも、実際に彼女に声を掛けてみることはしなかった。
(間違いない……雰囲気は変えていても、私の目は誤魔化せない。でも……なんて言って声を掛ければいいの? 今は正体を暴かれたくないから変装しているんだろうし……)
だが、声を掛ける時に誰にも見つからないようにするにしても、その一歩が踏み出し難い。相手は、ナイトメア家を崩壊させる任務を帯びていた女。その任務は終わり彼女に自分を狙う意味がないことは解っていても、考えてしまう……彼女の真意も知らず、父の呼び声を受けるまでアイドルが華々しさだけで成り立つわけではないと気づかなかった自分に、本当に彼女の隣に立つ資格があるのだろうかと。
感じる隔絶は自ず歌声となって洩れ、聴衆を自信喪失感に苛んでゆく……だがその時。
第2章 第7節
「さあ、今から始まる人形劇は、かのローレットの物語!」
不意に響いた陽気な声が、人々を魔種の嘆きから解放させた。始まるのは実在の特異運命座標たちを模した人形たちによる冒険譚。あるいは時に滑稽譚。桜鈴の甲高い音色とともに、サイズの語り口が辺りから憂鬱な気分を吹き飛ばす!
(危なかった……もう少しで俺まで後悔に囚われるところだった)
妖精女王にまつわるサイズの自信喪失感は、精神無効装備あってなお和らぐことはない。後悔のあまり自暴自棄にさせられることを防いでくれるというだけで、心の傷を塞いでまではくれないのだから。
だから、結局は自分の気の持ちようだ。役に立たない装備なんて置いて、楽しいことばかりを考えるようにした。
すると……あら不思議。あれほど重かったはずの心が、何の枷も受けなくなったようではないか! 見れば人々も暗鬱な表情を止めて、一心にサイズの劇に食い入っている。
(なるほど。それがあの歌声の性質なんだな)
人形たちの丁々発止の遣り取りを演じながらも、サイズは思考の片隅でそんなことを考えていた。ミリヤの歌声は聴衆の歌に応じた感情を増幅こそするが、それに凝り固まらせることまではない。
であれば彼女にライブを許しても、大惨事にしない方法はいくらでもあるわけだ。あとは具体的な方法を選択するだけだ……。
【情報】
ミリヤの歌は、聞き手の感受性や気の持ちようで効果が変わる。その性質を周知し、警戒を促しておければ、彼女が明確な害意を持って攻撃しないかぎりは被害には繋がらないだろう。もっとも周知の方法次第では、ミリヤはライブを妨害されたと認識し、予定になかった攻撃に移行するかもしれないが……。
成否
成功
第2章 第8節
ただ……歌声を聞いた者たちの心は落ち着かせられても、当のミリヤの心は騒いだままだ。
夢のためならどんな障害も乗り越えると誓って反転した癖に、本当に大切な選択には一歩踏み出せない自分。
勇気を出せばいいだけなのに。
ミリヤム・ドリーミングからミリヤ・ナイトメアに戻った時に、無闇に無思慮に無計画に飛び込む無謀さをも置いてきたようだ。
帰ってきた宿の戸の鍵をちゃんと掛けたかも記憶にないほど気もそぞろなままで、ばったりとベッドへと倒れ込む。質の悪い布団の繊維が顔に当たる。けれどもその程度では傷つかなくなった鋼の玉肌だけが、明確に感じる魔種になった利点だ――そんなことを思うともなしに思いながら体を起こそうとした、その時。
第2章 第9節
「やっほーミリヤㇺちゃーん!」
突如背中に飛びついてきた衝撃に襲われて、ミリヤはやはり戸に鍵を掛け忘れていたのだと知った。誰? 慌てて体を裏返して襲撃者の正体を見ようとすれば、ピンクなバニーさんに両頬を掴まれる。
「久々のジェーンちゃんの登場だZE! ブイブイ!」
バニーさんの正体をミリヤは知っている。かつてミリヤムも所属していたアイドルグループの先輩にして年中発情期の露出狂、『一肌脱いだ』ジェーン・ドゥ・サーティン(p3p007476)! 他人の心も知らずに「元気ならオッケー」と満足げな顔を作って、それからすぐに「でも勝手に『シャドウプロジェクト』脱退して魔種なんてセカンドライフ楽しんでるなんて、ジェーンちゃんはプンスコだZE!」と頬を膨らませる彼女の様子は、“選択”しなければアイドルであることも覚束なかった自分と比べて、よっぽど立派なアイドルに見える。
……けれども。
「でも、それがミリヤちゃんの選択ならそれもまたミリヤちゃんのアイドル道。胸張ってイっちゃおうZE!」
その彼女がそう請け合ってくれるなら、この鬱屈した想いもきっと糧にできるのだ。表情から硬さの消えたミリヤにジェーンは笑いかけてみせ、そしてこんな言葉まで付け加え。
「今度のチャリティイベント、ミリヤちゃんアイドル枠で出てくれない? もしかしたらとっても素敵なサプライズがあるかもだZE!」
そこまで先輩に言わせて足踏みしたままなんて、もう、ミリヤにはするつもりない――きっとそのサプライズとは桃華に関することだとは、大方の予想はついてしまうけど。
成否
成功
第2章 第10節
さあ、グレイヘンガウス領内が大団円へと向かうのならば、領外も団円に導いてやろうじゃないか。
「おい、この中で高い酒に興味があるやつはいるか? 儲け話だ……それも、いけ好かない善人気取りをぶっ殺せる機会つきだ!」
治安の悪い酒場に入るや否や前祝いと称して盛大に酒を振る舞いはじめた男の姿に、荒くれ者どもの視線は否応にも注がれてゆく。
ここは南部戦線の勢力の陰で、罪人たちが集まる酒場。中には新皇帝派のバラ撒いた手配書を見て特異運命座標を襲った顔ぶれもあるが、つまりはそういう奴らの根城だ。
男も賞金首ジェイクであることがバレれば袋叩きに遭っただろうが、その前に気前の良さを見せつけてやれば話は別だった。彼らは新皇帝に従うのではなく、目先の金と快楽に従うのだから。
ゆえに、冷静な賞金稼ぎならヴァイモーサの危険性を知ってパスするような依頼でも、彼らを尻込みさせる理由にはなりえない。他人の命は小銭より軽いが、大金の前には自分の命すら軽い。そして何より――ヴァイモーサがどんな信条を唱えようとも、自分の信じたいことしか信じない。
「外遊隊をぶち殺した賞金は俺たちのものだ!」
ジェイクの呼びかけに応える声は、この酒場だけでなく、戦場でも再び轟くことだろう。
その時にヴァイモーサと彼ら、どちらが生き残ることになるかはまだジェイクには判らないが……。
成否
成功
GMコメント
天義にて保守派と革新派が対立するよう仕向けた『宗教団体セフィロト』幹部ロレンツォ・フォルトゥナートの足取りを掴めるかもしれないきっかけが、ひょんなことから訪れました。
ロレンツォを捕らえることはできないかもしれませんが、彼の動きを妨害することができればそれだけでも有益です。グレイヘンガウス領にて、皆様のできることを為してください。何ができるのかを考えることも、メイヤの依頼の一部と言えるでしょう。
なお、プレイングに特に記載のないかぎり、皆様は『疑われたりしなければローレットの特異運命座標だと露呈しない』程度の偽装をしているものとします。変装などのスキルがあればより発覚しにくくなるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えてください。
●ローゼンイスタフ志士隊
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)様の弟であるテオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフの信奉者たちです。バルナバスの即位を「鉄帝の伝統に則った正統なもの」と見なしており、それを認めない他派閥を批判しています。
ただし彼らの理屈は「強者が弱者を虐げてもいいのが新皇帝バルナバスの掲げる弱肉強食の勅令ならば、強者が弱者を守ってもいい」であり、悪人というよりは盲目的な秩序の執行者と呼ぶのが正しいでしょう。
グレイヘンガウス領の元々の騎士団詰め所を改修した『テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ練兵所』を拠点としています。
●グレイヘンガウス領
領主のスタニスラフ・グレイヘンガウスがうっかりテオドールの思想に共鳴してしまったがために、新皇帝派と見なされるようになりました。スタニスラフは特に派閥に属しているつもりはなく、「領民のために手を組んだ相手がたまたま新皇帝派だった」くらいの認識です。
昨今の難民の増加に伴い、聖職者を含むボランティアの流入も増加しています……もしかしたらロレンツォの息のかかった者もいるかもしれません。
●ミリヤ・ナイトメア
町中でアイドル活動をしています。魔種であることは気付かれていません。妨害されないかぎりは誰かに危害を加える意思はないようです。
●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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