シナリオ詳細
<地底のゲルギャ>フェルゼンシュヴァイン
オープニング
●地下道の先へ
巨岩のごとき怪物が迫る。常人であれば轢き殺されて然るべき状況でありながら、鉄帝ザーバ派軍人にして『要塞卿』の二つ名を持つディートリヒ・フォン・ツェッペリンは一歩たりとも退かなかった。
理由は三つある。
ひとつ。後ろに負傷した兵たちがいること。
ふたつ。ディートリヒはやるべきときにはやると決めていること。
みっつ。今がその時であること。
「ぬう……!」
巨大な盾でもって突進を受け止め、両足でしっかりとブレーキをかける。
それでも吹き飛ばされるに違いないと心配そうに、しかし見つめることしかできない負傷兵たちが声をあげたが……。
「と、止まった!?」
なんと怪物の突進はディートリヒの防御によって止まったのだ。
しかし、喜んだのもつかの間。
カハッとディートリヒは血を吐き鎧を濡らした。
『落とすつもりなら破城鎚がいる』とまで言われた彼が、受けきれなかったのである。 つまりは破城槌かそれ以上の破壊力を、あの怪物は秘めているということだ。
「無事か、ディートリヒ!」
叫ぶ後ろから叫び、銃撃を加えるのはダヴィート・ドラガノフ。
同じザーバ派に属する軍人であり、鋼鉄戦艦の乗組員としての従軍経験ももつベテランである。
「なんとか、な……!」
「なら走れるな!? 目を瞑れ!」
ダヴィートはフラッシュグレネードのピンを抜くと、目くらましのために怪物めがけて投げつけた。
閃光が広がり、怪物がどこにあるのかわからない目をくらませているそのうちに……ディートリヒたちは負傷兵をつれ撤退したのだった。
●鉄帝地下鉄探索計画
「わざわざ来て貰って悪いな、シラス」
ダヴィート・ドラガノフは拠点施設の一室に通されたシラス (p3p004421)の肩をポンと叩き、笑みを浮かべる。
「革命派で活躍してるらしいじゃあないか。すまんが、こっちも少し手伝ってくれ。その代わり、あとでそっちも手伝う」
それでいいだろう? とばかりに肩をぽんぽんとまた叩くダヴィート。
元は争った仲だというのにえらくフレンドリーだ。まあ、『あれだけの』戦いを共に乗り越えたのだから、そうなっても不思議ではないのだが。
「別にいいけど……どうしてまた?」
「『頼れる奴』と聞いてパッと思い浮かんでな。なにせ同じ船で竜と戦った仲だ。それに、こういうときは直感を信じるほうがいい。第一……あれから更に名声を増してるんだろう、『竜剣』?」
またずいぶん名も知れたものである。
いっそ『ラドバウA級闘士』の肩書きよりも知れているではと思えた。ダヴィート個人の印象に強くのこったからとも言えそうだが。
「で、その手伝いっていうのは?」
シラスが部屋の中を見回す。
簡素な椅子とテーブルがあるだけの、まあまあ広い部屋だ。作戦会議室……なのだろうが、既存の建物を利用して間に合わせただけという印象だった。
そこにはディートリヒ・フォン・ツェッペリンとグレン・ロジャース (p3p005709)がそれぞれ座っている。
ディートリヒは怪我を負っており、身体へ派手に包帯を巻いていた。
そのことに流石に触れる気になったのか、グレンが一言問いかける。
「それは……大丈夫なのか?」
「心配無い」
その一言だけで返すあたり、かなり気心が知れている感じだ。
ディートリヒは腕組みをしてシラスやその仲間達を見る。
「俺たちは信念をもって幻想王国と戦う軍人だが、それ以上に国を想う軍人だ。今は手を取り合い協力したい。目下重要視しているのは……」
そう言いながら、後ろを振り返る。それは鉄帝の地下鉄の路線を示す不完全なマップだった。
鉄帝地下鉄の探索。
それは新皇帝派との戦いにおいて重要な意味をもつ。
例えばこの地下鉄を利用し新皇帝派が跋扈する地上を利用することなく秘密裏の補給線や他地上出口を探ることもできるかもしれない。
当然そのためには地下通路を攻略しなければならないのだが、あちこちに新皇帝派の戦力やモンスターが点在しており自由にあちこち探索することができないというのが現状だった。
「『フェルゼンシュヴァイン』――略してフェルゼンと呼んでいるこの怪物とは、地下通路探索中に遭遇した……」
ディートリヒが始めた説明はこのような内容だった。
地下通路の奥。横道に逸れたところに巨大な鍾乳洞が発見された。
そこを進んでいったところ、まるで巨岩のごとき四足歩行の怪物が姿を現したのだった。
おそらくは新皇帝派の放ったであろう天衝種。
フェルゼンと呼ばれたそれは強力な突進攻撃によって兵を圧倒し、同時に展開したヘイトクルーなどの雑兵と連携しこちらを瞬く間に追い込んでしまった。
やむなく撤退したが、あそこで探索を終えるわけにはいかない。
そのため、シラスやグレンたちに討伐依頼が舞い込んだのであった。
「防御に秀でたディートリヒがやられる程だ。奴の突進には充分気をつけていけ。なにかカラクリがあるかもしれん」
ダヴィートはそう苦々しくいうと、シラスたちに位置を記した簡易マップを手渡した。
「いい報告を、期待してるぞ」
- <地底のゲルギャ>フェルゼンシュヴァイン完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月02日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●『要塞卿』の再来
南部軍の『要塞卿』とも言われたディートリヒ・フォン・ツェッペリンが敗北したことで、部隊の士気が落ちたかに見えたが、しかしそんなことはない。
彼の教えを受け継ぐもう一人の要塞が、このタイミングで鉄帝国の動乱に参戦したためである。
「それが俺だって? まあ確かに、俺の防御スタイルは要塞卿のZ式防戦術だけどな。流石に買いかぶりすぎだぜ」
などとクールな調子で答える『理想の求心者』グレン・ロジャース(p3p005709)。
「そうか? ディートリヒはお前の自慢話ばっかりしてたがな」
おっとこれは言わない約束だった、とダヴィート・ドラガノフは苦笑しながら続けた。
ディートリヒほどでないにしても結構な怪我を負っているダヴィート。フェルゼンの出現する地下通路前までの案内を終えたところで足を止めた。
「俺が手伝えるのはここまでだ。危なくなったら戻ってこい。無事に全員撤退させるくらいならまあ、ワケないだろう」
『竜剣』シラス(p3p004421)の肩をポンと叩いて言うダヴィート。
対するシラスは肩をすくめそれに応えた。
「それはいいが……約束は忘れるなよ」
「終わったらそっちの仕事を手伝うって約束だろ? 一応先に聞いといてやる」
ダヴィートの言葉に、シラスはどうしたもんかと小さく唸った。後回しにしてもいい案件だが、検討の時間を与えるのもいいだろう。そして……。
「革命派は食いものと燃料が足りてないんだよな。手を貸せとまでは言わないが、情報を寄越せよ。軍なら民間に知られていない資源の在処も把握してるんじゃないか?」
「おいおい、軍の情報を売れって?」
シラスからの提案にダヴィートは肩をすくめ返す。
「報酬にしては高いか?」
「どうだろうな。情報による……いや、まてよ」
ダヴィートが口元を多い、もごもごと何事か呟いた。そして、にんまりと笑みをつくる。
「いい情報があるぜ。こいつに成功したらそいつをオマケにつけてやる。どうだ新時代の勇者殿?」
「オーケー、いいだろう」
いずれにせよ報酬は正当な額だけ貰っているのだ。損はない。情報の活用難度が高ければ、それこそ『手を貸して』もらえばいい。
「で? そっちは革命派の……」
身体を傾けて後ろを覗き込むダヴィート。『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が並んで小さく手を振った。
「コレに関しては派閥に関係なく一大事、ですわ。装備を整えた軍隊が撃退されるほどの敵なら、それこそ私達ローレットの出番でしょうから」
「その通りだねヴァリューシャ! それにしても、見通しは良くなさそうな地下道での戦いか……」
ここまで歩いてきた感想として、空を飛び回って派手な連続攻撃をしかけるマリアのバトルスタイルに対して、このエリアは当然ながら天井が低く壁が近い。明度問題はどうにかなるにしても、壁まで追い詰められるようなキツい状況が出てくるだろう。
「…………」
その横では、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が表情を変えずにむっつりと黙っている。
また何か難しいことを考えているんだろう……とは思ったが、口に出さないということは出す必要がないと思っているということだろう。ダヴィートもエッダの顔色をちらちらと観察している様子があったが、互いに何も言わないことで何かの均衡を保っているのかもしれない。
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)はそれに気付いているのかいないのか、全く関係の無い話へとシフトさせはじめる。
「フェルゼンシュヴァインでしたか。最早何が出てきても驚かない……つもりでしたが。
やはり此の国の生態系の多様さには驚かされてばかりですね」
それだけの突破力があるならわたしではひとたまりもないかと、と皮肉げに続けるアッシュ。
口ぶりの割に怯えるような様子は一切なく、どころか銀の弓をくるくると手元で回す余裕を見せている。
「しかし、倒せば地下の探索も進むのでしょう? 手は抜けませんね」
『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)が久しぶりにアーカーシュを降りたといった様子で言った。常人ならばうーんと背伸びでもしている頃だろうか。
「最近では平時、アーカーシュにいることが多いので、あまり地上の現状に詳しくはありませんが。
冬を乗り越えるためにも、脅威を退けるためにも、地下を活用できるようになることは望ましいですね」
「地下道の探索も早めに進めないと、新皇帝派が何してきてもおかしくないしね」
それに同意して続けたのは『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)だった。
サイ状の短棒武器を手に持ち、くるくると回している。
イリスはイレギュラーズの中でも特に防御性能が高く、今回の戦いにおける『判断役』として非常に期待が持てるタンクヒーラーだ。
イリスたちは警戒を続ける兵士たちと入れ替わるようにして、通路の先へと進んでいった。
●フェルゼンシュヴァイン
通路を進むと、それだけで敵の気配が分かった。
ズン――という地面を強く踏む音が聞こえ、近づいてみると巨岩のようなフェルゼンシュヴァインの姿が見えるのだ。
周囲にはヘイトクルーが配置され、動きをフォローするかのように周囲を警戒している。
ディートリヒたちの話によれば。あのヘイトクルーがこちらの動きを阻み、そこへフェルゼンの強烈な突進が襲ったということらしい。
「気になるのは突進のカラクリよね。私が行くわ」
そう言ってまえに出たのはイリスだった。
「まずは状況を作る!」
イリスはあえて大きな声を上げると、フェルゼンやヘイトクルーたちの注意を引きつけた。
槍を装備したヘイトクルーがまずはイリスへと襲いかかり、両サイドから挟み込むように攻撃を仕掛けてくる。
が、その動きは分かっていた。
「まずは手分けして取り巻きの排除ですわね。マリィ、後ろはお任せしましてよ」
ヴァレーリヤはサイドから襲いかかるヘイトクルーめがけ、メイスに炎をと纏わせる。
パワーを活かした戦闘はヴァレーリヤの得意とするところだ。防御も回復も仲間(主にイリス)に任せられるとあれば、存分に力を発揮できるというもの。更に言えば――。
「ふふ! 任せておくれ! ヴァリューシャ、君の背には常に私がいるとも。不意は打たせない!」
マリアも一緒につくことでヘイトクルーへ追撃を叩き込む。
ヴァレーリヤを槍を水平に翳すことで防御しようとしたヘイトクルーに、構うものかとばかりにメイスを叩き込むヴァレーリヤ。槍が途中でぼきんとへし折れ、そのままヘイトクルーの頭部らしき場所を粉砕する。
それでも死なないのか頭に手を当てよろめいて下がる動きを見せる……が、逃がさない。マリアがヴァレーリヤの肩に手をおくと、彼女の上を宙返りでもするように飛び越えて前に出た。
ダンッと強く踏み込んだ足元の地面から溢れる蒼雷。それを纏い蒼雷状態となったマリアは、ヴァレーリヤが『あえてマークしていない敵』へ狙いをつけて自らを弾丸のごとく放った。
彼女の大技は物理的なダメージよりもAPへのダメージが大きい。援護にはいろうとしたヘイトクルーを『弾切れ』にさせるに充分なダメージを与えるのだ。そこから更に攻撃を重ねれば更に酷いダメージをHPに入れることが可能になるだろう。
「残ったヘイトクルーの対処に回るぞ、グレン」
「ん? オーケー。というかそんな口調だったっけ?」
エッダとグレンはあえて仲間達から離れて突出。距離をとって射撃を浴びせてくるヘイトクルーへと迫った。
彼らの射撃にはこちらの機動力を奪う効果があったようだが、一度近づいてしまえばこちらのものだ。引き撃ちをすれば相手は孤立することになるし、むりに仲間との距離を保ちながら戦場をぐちゃぐちゃ動いてくれればそれはそれで都合がいい。
「――ッ」
エッダは銃弾を左腕で受けながら滑るような突進を仕掛け、右の拳――を打ち付ける直前で手のひらを開いて寸止めをはかった。
衝撃が放たれ、ヘイトクルーたちがぐらりとよろめく。彼らの注意がエッダに集中したのを察すると、グレンはすかさず防御に回った。
ヘイトクルーたちが手にしたライフルを鈍器のように振りかぶり殴りかかったのだ。
「得意分野だ、こいいうのは!」
割り込んだグレンは翳した両手で二つの攻撃を同時にキャッチすると、受け流すような動きで相手を無理矢理回転させる。
その上で背負っていた剣と盾を手に取ると、至近距離に迫りながら銃撃を浴びせてくるヘイトクルーに盾を翳す。
正面に向けるのではなく器用に斜めに受け流すところはさすがのグレン。チョットのブランクがあるとはいえその実力は鈍っていない。
「さっさと成仏しやがれ」
そこへ追撃をしかけるシラス。
エッダの精神影響下から逃れようとするイトクルーたちの間をジグザグに駆け抜けると彼らの背後へと回り込む。
一人だけエッダの影響下になかったヘイトクルーが素早く振り向きシラスに銃を向ける……が、その時には既に『仕込み』は済んでいたようだ。シラスがキュッとグローブをした手を握って引くと、ヘイトクルーたちの腕や脚が一斉に切り裂かれた。
突然のことに困惑したようにばたばた動くヘイトクルー。
シラスが『チャンスだぞ』と目で合図を送ると物陰に隠れていたアッシュが素早く飛び出し弓を水平に構えた。
つがえた矢は一本――だけではない。三つの矢をつがえ、それを同時に発射した。矢は見事にヘイトクルーたちへと突き刺さり、その矢尻に仕込まれた魔術式が解放される。
パパパッと次々に発生した赤い花形の魔方陣。それが意味するものは熱の顕現である。
高熱、つまりは光の礫が破片手榴弾のごとくまき散らされヘイトクルーたちを一網打尽にする。
驚くべきは、その場にハンドポケット姿勢で立っていたシラスには一片たりとも当たっていないことだろう。
残ったヘイトクルーはといえば……。
「どうぞ」
グリーフが好きにかかってくれば良いとばかりに立ちはだかってみせると、ヘイトクルーたちは槍を構えて襲いかかった。頭を狙った突きを、身をそらし首を傾けることで回避。腰を狙った突きを軽くスピンをかけ横移動することで回避。横薙ぎにしようと払われた槍を素早く屈むことで回避。
まるで一連のダンスを踊っているかのような美しい動きで攻撃を回避すると、グリーフは呪術を発動。地面がとぷんと液化し、足をとられたヘイトクルーたちが一斉によろめく。
「これで、最後です」
グリーフが呟くと、仲間達からの一斉攻撃がヘイトクルーを粉々にしていった。
そして、こちらは本命。イリス。
ヘイトクルーの邪魔が無くなったことでフェルゼンの突進を受けるだけの足場を確保した彼女は、巨岩の突進をまずは盾で受けることにした。
ディートリヒが攻撃を受け止めたにもかかわらずダメージを受けたというのは気になるが、同じ状況になってみれば何かわかるのではないかと踏んだのだ。
「くっ……!」
突進を……止める。イリスほどの防御力があれば止めることはワケないのだろう。
だが、その直後に内側から吹き出るような痛みがイリスを襲った。
『かふっ』と喉から血が漏れる。これが例の『止められない突進』か……と思いつつ、脳内でいくつかのシミュレーションを行った。物理攻撃を無効化する結界を張るのはどうか。否。フェルゼンの突進にはグレンに予め付与してもらっていたする『聖躰降臨』と自分が纏っていた『節制』を破壊する効果があった。そして『その後に』ダメージが来たのだ。おそらくこれは多段攻撃。一度目にブレイクし、二度目に防御をすり抜けるような攻撃を行っている。しかしそんなことが可能なのだろうか? 高度なEXFによる耐え凌ぎも考えてみたが、相手が必殺系の攻撃を持っていた場合に詰むだろう。
だが、ディートリヒの時と違うポイントがある。それは……。
「イリス! 大丈夫ですの!?」
ヴァレーリヤの呼びかけに、イリスはこくんと頷く。
「大丈夫。体力には余裕があるよ」
そう述べるイリスを無理やりはねのけると、フェルゼンはターンして走って行く。
一人を集中して攻撃するのではなく、この広い地下空洞を存分に使って走り回り、あっちこっちへ攻撃を散らしていく。とはいえ防御に難ある仲間も居る。エッダたちによってカバーされたのだが……。
フェルゼンの次なる狙いはグレンだった。
「こいつ! こだわりなしか!?」
グレンは素早く『吸血魔女の霊薬』を服用すると、盾を構えてフェルゼンの突進を受ける。
止めはしたが同じようにブレイクされ――そして、イリスよりも激しいダメージを受け、ぐらりと体勢が傾いた。
「回復を――」
グリーフとシラスが素早く反応し、グレンに治癒の魔法を放つ。
放ちながら……グリーフはフェルゼンをよく観察していた。
グリーフだからこそわかったこと、なのかもしれない。つぶさに無機物を観察し疎通し理解する彼女だからこそ。
「本当にあの巨岩全てがフェルゼンなのでしょうか」
「なんだって?」
「あの中に何かが潜んでいるということはないでしょうか」
グリーフにそう問いかけられて、グレンはハッと目を見開いた。
「多段攻撃……そうか! マリア、ヴァレーリヤ! 内部に浸透するタイプの攻撃はできるか!?」
グレンと同じ事を思いついたのだろう。ヴァレーリヤとマリアは一度だけ顔を見合わせると、それぞれ雷と炎を纏ってフェルゼンへと走った。
それだけではない。イリスがフェルゼンの背にぴったり張り付くようにブロックをかけることでグレンと二人によるダブルブロック状態を作り出した。フェルゼンに『走る』ことを禁じたのだ。
必至にどちらかをはねのけようと暴れるフェルゼン。
そこへ激しい炎と雷が浴びせられた。
ギャギャッ! という声がしたかと思うとフェルゼンの身が震える。
「なるほど」
エッダは完全に理解した様子でダッシュをかけると、エネルギーを集めた錬鉄徹甲拳をフェルゼンの臀部(だとおぼしき場所)へと叩き込んだ。
バキッとフェルゼンの表面にヒビが走る。
「くるみを割るには圧力をかければいい。細く、強く、そして確実に」
グレンやイリスによって『抑え』られていたフェルゼンにかかった圧力は、その外殻を破壊した。
「ギャッ!」
内部からは小柄なカエルのようなモンスターが飛び出し、エッダから逃れる。
アッシュは急速に距離を詰め、剣を抜くとカエルを切断しにかかる。
斬ったのは足。血を出しながら転落したカエルは振り返り、口を開くとビッと素早く舌を出した。ただ舌を出したわけではない。槍のように鋭く堅くそして伸縮性に優れた槍を一瞬だけ放つのだ。
これがフェルゼンの多段攻撃のカラクリであり、防御を抜くための手だったのだろう。
「『やはり此の国の生態系の多様さには驚かされてばかり』――ですね」
アッシュは先ほどと同じことをあえて言うと、シラスたちへと視線をうつす。
「ええい、しぶといですわね! シラス! 悔しいけれど手柄は譲って差し上げますわ!」
ヴァレーリヤが叫ぶと、シラスは『遠慮無く』とばかりに跳躍。そのまま飛行状態をとると、滑るようにカエルのもとへと急接近した。
「まあ、見てろって。この俺がスマートに仕留めてやるから」
空中で激しいスピンをかけると、その勢いを完璧にのせたスタンピングをカエルへと浴びせる。舌の槍を放つ暇すら与えずに。
無論……生き延びられるカエルでは、ない。
●恩と縁
「ほら、動かないの! 少しの傷でも、放っておくと酷い病気になってしまうことがありますのよ?」
「怪我くらい、死んでいなければどうとでもなる。……ええもう、わかった。わかったでありますから!
本当に、調子が狂うでありますね。貴女という人は。
ふん、消毒よりアルコールよこせであります!」
「ふふ! ヴァリューシャは世話焼きだなぁ! 私も応急手当手伝うよ!」
ヴァレーリヤとマリアが、戦闘で怪我をおったエッダたちを治療している。
「苦労に見合っただけの成果が有れば良いのですが」
「きっと、あるでしょう」
アッシュとグリーフはそんな様子を遠巻きに眺めている。
「だろうな。ザーバ殿も確信無しに地下へ軍を派遣してるわけじゃあない。限られたリソースを有効に運用できる御方だ。この作戦には意味がある。俺はそう思う」
「確かにな……『このチーム』に私が割り当てられたことにも、意味があるのだろう」
そう言ったのはダヴィートとディートリヒ。
イリスはハッとしてシラスの方をみた。例の取引の結果が出る頃だと思ったのだ。
「ダヴィートさん、確か」
「ああ。約束通り教えよう。新皇帝派が占拠してる貯蔵庫があるんだが……」
「おいおい」
今度はシラスがその言葉を返す番だった。
「俺にとってこいって言うんじゃないだろうな」
「まあ聞け。俺とディートリヒはシラス――というより、革命派に協力する計画を纏めて、申請を出しておいた。俺の部隊がその拠点に襲撃をしかけるんだが……位置がな、革命派の拠点、ギアバジリカにだいぶ近い」
「あーぁ」
シラスは鷹揚に頷いた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
――ダフィード&ディートリヒの部隊が革命派に協力する計画を立てています。
――引き替えに、フェルゼンから得られる情報を南部戦線へと持ち帰っているようです。
●運営による追記
本シナリオの結果により、
<六天覇道>革命派の軍事力が+10されました!
<六天覇道>ザーバ派の技術力が+10されました!
GMコメント
●オーダー
南部軍のダヴィート、ディートリヒたちに依頼され、地下道に出現したモンスターを討伐します。
それなりに戦力の整った部隊ですら撤退を余儀なくされるほどの敵です。充分注意して挑みましょう。
●エネミー
・フェルゼン(フェルゼンシュヴァイン)
巨岩がそのまま四つ脚を生やしたような怪物です。突進攻撃が強力で、防御に優れたディートリヒがやられるほどです。
突進攻撃、あるいはフェルゼンそのものになにかカラクリがある筈ですが、まだ詳しいことは分かっていません。
戦いの中で見つけるか、予め予想して対策するとよいでしょう。
・ヘイトクルー×多数
陽炎のようにゆらめく人型モンスターです。
近接型と遠距離型のヘイトクルーが多数配置されており、個々の戦闘力は低く兵らでも十分対応できましたが、彼らの真のねらいはフェルゼンの突進からこちらを逃がさないためであったようです。
序盤のうちに排除しておないとかなり厄介なことになるでしょう。
●NPC
・ダヴィート&ディートリヒ
南部軍の名のある軍人たちです。
今回は同行しませんが、この依頼に成功したら今度仕事を手伝ってくれるという約束をしてくれました。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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