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シナリオ詳細

<咬首六天>強がりな彼女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「どうでした? ラド・バウは」
 ラド・バウより撤退した『脱獄王』ドージェはその声に振り向いた。ペストマスクの青年、最早見慣れたその姿にドージェは笑う。
「ああ、ギュルヴィか。手配書と賞金首の確認で邪魔した割りに良い収穫があったぜ?
 例えばよ、『統率の黄金瞳』だってよ。ブレンダってお嬢ちゃんは興味があるなあ。
 いや、それ以外にも最高額のお嬢ちゃんも良い。オッドアイのフラーゴラちゃんもどっちにするか迷うだろ?」
 指折り数えるドージェが名を上げたのはブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)、マリア・レイシス(p3p006685)、そしてフラーゴラ・トラモント(p3p008825)か。
「ゼファーちゃんの脚も良かったし、アイドルパルスちゃんを狙うときの焔ちゃんの目も良い。
 上物揃いだなあ。五体満足じゃなくて良いなら『本気』で狩りに行くのもアリだと感じたわけだよ」
 へらへらと笑うドージェはゼファー(p3p007625)や炎堂 焔(p3p004727)にも興味を持っているのか。
 その他にも、と指折り数え始めた彼に「そこまでで結構」と告げてから男は穏やかな声音で言った。
「余り遊んでいれば狩られるのは貴方の側ですよ」
「はは、その言葉そっくり返してやろうか、ギュルヴィ!」
 彼は司祭アミナの信頼を得ている。クラースナヤ・ズヴェズダーの革命派がその力を誇示している理由こそアラクランの協力だ。
 そして彼の目的をアミナは正しくこう語ることであろう。

 ――同志ギュルヴィは『歪みきった鉄帝国の政治を正し』、新たに治政を敷く事で平等を為すのだそうです。

 ドージェが彼を見ている限りその主張は間違っていない。この男はバルナバスの信者でもなく弱者救済という甘ったれた理想を語っているわけでもない。だが、彼がこの国に新たな王国を作り上げたいのは確かなようなのだ。
 その為には邪魔者がイレギュラーズであると言うのか。革命派とて『力をつけてきたならば最後は瓦解させる』事が目的とも思える。
「ギュルヴィちゃんはさぁ、イレギュラーズを狩って欲しいわけだろ? その金はどうしたいんだ?」
「ええ。イレギュラーズはバランスを崩します。『多いのだから間引いても』構いませんでしょう。
 得た賞金を民草に分け与え、彼等の生活基盤を安定させるのです。ええ、優しい彼等ですからね。誰かを救えるなら命くらい安い物でしょう?」
「――ま、そうしておこうか。
 お前のお願いの通り、手配書は配ってきて遣ったからよ。『狩り』を暫く楽しもうぜ。俺ちゃんは昼寝するけど」


「――は?」
 冷ややかな声音と共に彼女は苛立ったように呟いた。その姿は直ぐさまに強敵へと変化する。
『永遠の0・ナイチチンゲール』リリファ・ローレンツ(p3n000042)、そのギフトの『ナイチチ イウヤツ ドイツジャ』はラド・バウ闘技場の中で烈火の如き勢いで発動されていた。
「亮くん」
 冷ややかな視線を送ったのは『アイドル闘士』パルス・パッション (p3n000070)その人だ。
 ラド・バウの防衛を担当し、脱獄王とも呼ばれた囚人ドージェの『撃退』に成功した事で安堵の表情を浮かべていた彼女は休憩をとろうとリリファの差し入れの牛乳を手にしていた所であった。
 目の前に居た『壱閃』月原・亮 (p3n000006)はあろう事か「リリファ、牛乳を飲んでももう望み薄だぞ」等と宣ったのだ。
「ムッ、ムキャアアアアアアア」
「おあっ、ちょ、助けてパルス!」
「……ボクは知らないよ」
「パルスってば――――!」
 ――数刻の後、ボコボコになった亮はパルスに消毒液をぶっかけられていたのだった。
「馬鹿だなあ」
「馬鹿って言うなよ。ホントの……いててッ」
「亮くんってリリファちゃんの事、気に入ってるからいじめるの? 子供っぽいよ」
 唇を尖らせるパルスに亮は「アイツ、俺にだって『元の世界のこと』言わないだろ」と呟いた。
「あのさ、俺、アイツのこと全然知らないんだよな。
 ローレットで一緒に活動して、練達でゲームしたり、飯食ったり、漫画合宿したり……。
 そう言う事しても『魔法も何もかもがない』在り来たりな世界から来た俺と、アイツじゃ大きく違うんだよなって思ってさ」
「教えてくれないから意地悪したんだ」
「アイツは今後も教えてくれないだろうから、俺も意地悪してるんだよ」
「変なの」
「変じゃないって。アイツがさ、何か背負ってんなら俺にも……まあ、なんてーか……荷物分けてくれてもいーだろ」
「友達だから?」
「……そーいうこと」
 友達。その言葉で括るべきかは分からないが、親友だ。一番の友達だ。それから、大事な奴なんだ。
 そんなことを口にするのは妙に気恥ずかしくて亮は「でも乳がないのは本当」と言いパルスに傷口を抉られた。
 斯うして日常会話を楽しんでいるのはラド・バウも自警団が活動を行って居るからに過ぎない。
 鉄帝国内の六つの派閥はそれぞれが異なる目的や理想を抱いている。ラド・バウは更なる生活基盤の安定のためにも鉄道網の奪取に動いていた。
 その最中に、聞こえたのはイレギュラーズや反皇帝派勢力に賞金が懸けられたという一報だ。
 囚人達は飛び付き、一般市民さえ目も眩む。其れ等の襲撃に備えた準備を怠ることなく進めているからこその束の間の休憩だ。
「でも、鉄帝国はこんな状態だから出来るだけ仲良くしてよね。
 ボクが使ってる消毒液だって、ファイターのためにあるもので女の子を揶揄って殴られた治療用じゃないんだよ?」
「わーってるって……って、なあ、リリファは――?」

 ――彼女は一人、走っていた。
 どうすることも出来まい。『人を殺すくらい』は易いかもしれないが、そうする事で芽生える罪悪感を拭えなかった。
 頭の中から抜けてはいたが自身とてローレットの一員だ。『賞金が懸けられる対象』でもある。
 引き攣った声が漏れた。脚を縺れさせながら彼女は――リリファ・ローレンツは新人イレギュラーズの手を引いている。
 リリファはラド・バウ派に合流するというローレットに所属したての新人イレギュラーズの案内を買って出ただけだった。
 ラド・バウはその軍事力が高いものの帝都内という立地で在るが故に新皇帝派の攻撃に備えなくてはならなかった。
「私が連れて行ってあげますよ」とまだ年若いイレギュラーズを闘技場にまで誘えば其れで良かったのだ。
「待て!」
「ローレットだろ!?」
 追掛けてくるのは無辜の民だ。その背後に、肉切り包丁を手にしている男の姿が見えた。
 狩られる。
 賞金を目当てに目の色を変えた民と、其れを扇動する囚人だ。その数は多く無傷ではラド・バウにまで逃げられないだろう。
「リ、リリファさん」
「大丈夫ですよ。ここからまーっすぐ行けばラド・バウにつきますからね!
 ええと……月原さんに言ってきてくれますか? パルスさんを呼んでくれるはずですから!」
 イレギュラーズの背をぽんと叩いてからリリファは祈るように目を伏せた。自分が惹き付けていれば彼女は救われるはずだ。
「頑張って走って!」

GMコメント

 月原君とリリファちゃん。リリファは茶零四SDからお借りしてきました。
 俺さ、お前のこと本当に――乳がないと、アアアアア、痛ェッ!

●成功条件
 リリファ・ローレンツ もしくは 月原・亮の無事

●ロケーション
 ラド・バウ付近、帝都スチールグラード内部。
 リリファが逃げた方角は非常に入り組んでおり、スラムにも近い様子です。
『新人イレギュラーズちゃん』が亮とパルスに彼女の危機を教えてくれました。どうやら、彼女をラドバウに逃がすために敢て逆に逃げたようですね。
 周辺には新皇帝派の軍人や天衝種が居るため注意をしながらリリファを探さねばなりません。
 勿論、それは相手も同じ。民草や囚人は其れ等を避けながらリリファ(ローレットのイレギュラーズ)を探しています。

●囚人『肉屋のリンちゃん』
 肉屋のリンちゃんと名乗っている屈強な男です。肉を断つための包丁を二刀手にしながらリリファを探しています。
 手配書を持っているのは彼のようです。其れなりの実力者であり、猟奇殺人鬼。
 リリファではなくとも問題はないためイレギュラーズを『リリファを見付けるより先に見付けた』場合は襲いかかってきます。
 前線で戦術も何もない我武者羅な戦い方をします。痛覚が鈍いのか傷を負ってもある程度動き回るようです。

●目が眩んでいる民 10人+15歳以下の少年少女 5名
 冬を越すために金が欲しい人達。肉屋のリンちゃんに唆されています。
 手配書は持っていないため「あいつが金のなる木だぞ」などと言われてリリファを追いかけ回しています。
 死に物狂いです。信じられるのは自分だけと言った様子であり、保護をするなどの説得には応じてくれ無さそうです。
 目的は一攫千金。金を得て高飛びしてシレンツィオ辺りで豪華な暮らしを楽しむことです。あんまり強くないです。

●NPC『リリファ・ローレンツ』
 逃げています。一人で15人+リンちゃんから逃げていたのでかなり疲弊しています。保護してあげてください。
 月原の喧嘩友達です。とっても仲良し。お泊まり会といって夜通しゲームをする仲ですが、付き合ってません。

●NPC『月原・亮』
 リリファを助けに男、月原参ります。日本刀を使った前衛ファイタータイプ。実力は中堅程度。
 リリファのことを心配する余り、あんまり周りが見えていませんので適度に殴って正気に戻してあげてください。
 リリファを見付けると庇いに入ります。ちなみに背中の翼はテンションが上がったときに出てくるギフトです。
 また、パルスちゃんは調整役としてラド・バウに残っています。皆さんに「亮くんを宜しくね」と言って居ました。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>強がりな彼女完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ


「リリファおねーさんを探してあげれば良いのですね?」
 状況を『アイドル闘士』パルス・パッション (p3n000070)に確認する『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は武装を整え今にも飛び出して行きそうな『壱閃』月原・亮 (p3n000006)を冷めた瞳で見詰める。
「亮おにーさんは少しだけ落ち着きましょうか」
「――ッ、でも!」
「焦りは視野狭窄を招きます。深呼吸をするなり、雪に頭を突っ込むなりして落ち着いて、目的をもう一度口に出して言ってみて」
 喧嘩をして飛び出していった『永遠の0・ナイチチンゲール』リリファ・ローレンツ(p3n000042)が亮と行なうはずだった新人イレギュラーズの案内を一人で行って居る最中、囚人の襲撃に遭ったという。
「落ち着け、亮。そのままだと、最終的には御主がリリファから心配される羽目になるぞ」
 嘆息する『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)にちくりと言われ、亮はぐうと詰まった。確かにそうだ。リリファはあの様な調子だがちゃんと感謝や心配と言った感情の機微を確り音も手に出すタイプだ。
「目的……リリファを助ける」
「ああ。よく聞け、亮。守る者が抱くべき覚悟は二つ。『必ず守る』、そして『必ず生き延びる』。この意味は分かるな?」
 汰磨羈へと大きく頷いた亮は「師匠!」と突然彼女を呼んだ。何を云いだしたのだとフルールが亮をまじまじと見遣るが彼の機嫌は良さそうだ。
「さて、おさらいです。『敵より先にリリファおねーさんを見つける』、『敵がリリファおねーさんを見つけるより早く敵をこちらが見つける』、で宜しかった?」
「うん。亮はこっちね」
 メンバーを半分に分けてリリファの救出と囚人の撃退を並行させようと『魔法騎士』セララ(p3p000273)は力強く言った。新人イレギュラーズをラド・バウまで案内していたのはこの動乱で無事に辿り着ける保証が無かったからだろう。ならば、それ程入り組んだ場所には向かっていないはずだ。
「囚人、かあ。私達にも懸賞金が掛かっていて、それで生きるのに必死な人達をお金で釣るなんて……。
 英雄隊のことといい、甘い言葉で人を扇動するのに慣れているみたい。今は無理でも背後にいる黒幕はいつか捕まえてやる!」
 唇を尖らした『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)へと『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)も大きく頷いた。
「亮くん、必ずリリファちゃんを見付けてね。私がちゃんと囚人をぶん殴っておくからさ。言わなくちゃならないこと、分かってるよね?」
「言わなくちゃならないこと」
「ね?」
 念押しするように言ってはみたが、亮とリリファの普段のやりとりを見ていれば正しく言葉を伝えてくれる気がしないのだ。
 サクラに念を押されてから「囚人の奴ら、絶対リリファを人質に皆と交換しろって言ってくるぜ。ほんと、あいつはさあ」と軽口を叩き始める。
「莫迦者」
 ごちんと頭に拳骨を落とした汰磨羈。亮が「いてえ」と叫んだ様子に『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は首を捻った。
 確かにリリファと亮は仲が良い。だが、これは仲良しで済ませて良いかどうか――その視線が『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)を見詰めれば、弾正は任せろ言った様子で頷いた。
「金は人の心を惑わすというが……寄ってたかって女の子ひとりを追いかけ回すとは何たる非道か!殺人鬼に加担する者達にもお灸を据える必要があるな」
「ああ、そうだな。金に目の眩んだ市民は此方も狙ってくる可能性がある。油断しないで行こう」
 厳しい寒さに晒されて、普段の蓄えも当てにならない。そんな状況下だからこそ、イレギュラーズは飯の種位に思われ居るのだろう。
「―――ぶあっくしょい」
 大きな嚔をしてから『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は「アーー、クソ寒ィ!」と叫んだ。
「とっとと嬢ちゃんを連れ戻して帰るとしようぜ!」
 新皇帝派なんかも山程居るのがこのラド・バウだ。気張っていけと亮の背を叩いてからグドルフはセララと共に市街地へと走り始めた。


「肉屋のリンちゃんって可愛い名前を名乗ってるんだね」
 囚人の『肉屋のリンちゃん』は可愛らしい名前とは裏腹に凄惨な事件を幾たびも起こしてきた猟奇殺人犯だそうだ。
 周辺住民たちに「実はね、手配書が出てる囚人が逆に私たちにも手配書を出したんだって」とサクラは話しかけた。コネクションを駆使し、近隣の住民には『イレギュラーズはこちらだ』とアピールしてもらうのが狙いでもある。
 音を頼りに進んでいる弾正は「リリファ殿を探してる囚人たちは騒がしいだろうが……さて、何処だろうな」と呟いた。
 街中で彷徨う霊達を頼りに探索を行なうアーマデルは逃げ回る若い女性とそれを追いかける者が居ないかと問い掛けた。彼を手伝う酒蔵の聖女はアルコールが足りないとでも言いたげだ。
「上空から確認しても良いが……金と欲に目を眩んだ市民が此方に来る可能性があるな」
「そうだね。寧ろ私達が囮になっても良いけど、リンちゃんが何処に居るかが問題かも」
 早期に肉屋のリンちゃんが見つかればこの様に悩まないとスティアは悩ましげに呟いた。路地を抜ける際に樽や箱を蹴倒してバリケードとしておく案もアーマデルは思い浮かんだがそれがリリファを足止めする可能性になるのも悩ましかった。
 手配書をばら撒き続けるサクラは「配っておけば相手が追ってきてくれるよ」と揶揄うように笑った。
 スティアは肉屋のリンちゃんは来ないかなあと何度か呟いてみせる。心待ちにして居るかの様子にサクラは「スティアちゃん、気になる?」と揶揄った。
「ががーん、そうじゃないよ」
「分かってる。早く倒さなくっちゃね。肉屋のリンちゃん。亮くんたちがリリファちゃんを見付けてくれていればいいけど……」
 敵達は住民がサクラの手配書を配って行方を示している以上、此方を追ってくるだろう。
 リリファ側の追っ手が減りカモフラージュともなるなら都合が良い。セララ達が接敵しない事だけを願いながら市街地を走った。
「事前の情報だとリリファ殿は地平線――むっ、殺気?!」
「大丈夫か、弾正!」
「いや……どこからかひどい殺気を感じて……」
 リリファルゴンは地獄耳なのだろうか。背筋に嫌な気配が走ったと身を縮めた弾正にアーマデルがゴクリと息を呑んだ。
 そんな二人を見詰めていたスティアとサクラは顔を見合わせたのであった。

 ヒュウと上空に吹いた風は冷たい。だが、物ともせずに鷹は飛び続けた。フルールのファミリアーが索敵を行ない続ける。
 セララが助けを呼ぶ声を探しフルールが上空の目を駆使する。其れ等を利用しながらも先行気味に進む汰磨羈は広域からの視界確保によりリリファを逃すまいと目を光らせる。
「あんまり大声出さない方が良いんだよな?」
「そうだな、ボウズ。クソみてェな奴らが彷徨いてやがる。先に嬢ちゃん見付けてから大声出しやがれ」
 背をばしんと叩いたグドルフが笑う。リリファを確保した後、囚人を撃破しておけば危険を一つ回避できる筈だ。
 あいて、と呟いてから亮は「何かなあ、俺って無力だよなあ」と呟いた。前を行くセララは臆することも怯えることもなく助けを呼ぶ声に向かって走って行く。
「あっちだよ。いこう!」
 指差したセララは振り向いてから「おいでよ、亮」と手招いた。何れだけ幼く見えたって魔法騎士を名乗る彼女は真っ直ぐに誰かを救うために走って行ける。眩い光のような少女がリリファの助けを呼ぶ声を拾い上げ、フルールの鷹がその位置を見定める。
「走るぜ、ボウズ」
「亮、転ぶなよ」
 走り始めた汰磨羈とグドルフを亮は追掛けた。建物の影から青いポニーテールが覗いている。幾分も実年齢より幼く見える彼女はラド・バウから距離を取るように逃げていた。新米のイレギュラーズを護る為、ラド・バウと言う避難民の多い地に凶悪犯を近寄らせない為。
「リリファ! 見付けた!」
 セララの声にリリファがはっとしたように振り向いた。
「ああ、リリファおねーさん」とフルールは蜜色の髪を揺らし拾い上げていた箒を駆り彼女の元へと向かう。
 チートコードを用いて全力で疾走をする汰磨羈は直ぐにリリファの確保に急いだ。この僅かな隙でさえも敵が訪れる可能性はあるからだ。
「本当にリリファおねーさん?」
 彼女の胸元に手をやろうとしたフルールに亮は「本物のリリファだよ」と静かな声で言った。「間違いない」と確かに告げた亮の頭を汰磨羈はぽんと叩いた。


「君達ですかあ、賞金たんまりくれるって言うのは。確かに嬢ちゃんと優男が中心だなあ」
 肉を断つために使っているのであろう大ぶりの包丁を引き摺るようにしてやって来た巨漢はサクラとスティアに目を遣ってから「柔らかそうだなあ」と笑った。
「ががーん……」と零したスティアにサクラは剣を構える。此処で肉屋と一般人達を引き寄せていられればリリファを見付けた仲間達と合流できるはずだ。
「天義の聖騎士、サクラ・ロウライト! 賞金額は私の方がずっと大きいよ!」
 リリファを狙うよりもサクラやスティア、アーマデルに弾正を狙う方がもっと効率が良いことをアピールしながらサクラの剣が周囲の一般人を薙ぎ払う。それは神の祝福を纏う禍つ刃。鋭く、輝きを帯びた軌跡が弧月を思わせ欲に目の眩んだ民達の脚を掬う。
「来るが良い。俺とて鉄帝で暴れ続けた賞金首だ。欲しくばまとめてかかって来い、この冬越弾正、逃げはせぬ!」
 仲間を巻込まぬように気を配りながらも平蜘蛛は機械音を響かせ、その姿をマイクに変化させた。胸の内から湧き上がる歌が周囲へと響き渡った。
 心(しん)に声に――歌い叫ぶが如く弾正の平蜘蛛は慈悲の糸をひらりと垂らす。
 するりと後方へと回ったアーマデルは前方よりリリファを連れた別働隊が入りよってきている事に気付く。
 追っていたイレギュラーズが此方に向かってきたことに肉屋のリンちゃんが気付いたか。弾正は勢い良く声を張り上げた。
「リンちゃんとやら、肉屋ならば標的はもっと捌き甲斐のある賞金首を相手にした方がいいんじゃないのか?
 見ろ、俺の大胸筋! 素直に斬られる道理は無いが、肉体には自信があるぞっ!」
「ががーん!」
 今から肉やを引き寄せる積もりであったスティアは唐突な筋肉自慢の始まりに思わず周囲に魔力の残滓を散らした。
「そうだなあ。確かに良いけど、先ずは女の子の肉が柔らかいからねえ」
「そ、そっか。こっちにお出でよ、肉屋さん!」
 金銭に目を眩ました者達は、肉屋と違って罪人では無い。先程からの肉屋は『女の肉は柔らかいから良い』などと前科を宣っている次第でもある。
 だからこそスティアは出来る限り一般人は命を奪う事は無いようにと考えた。生きる事に対して必死なだけの彼等は反省するだけで良い。
「待たせたか」
 駆け寄った汰磨羈に「大丈夫!」と微笑みかけたスティアに肉屋は「お友達かなあ」とぐりんと勢い良く首を向けた。
「魔法騎士セララ参上! ボクの懸賞金はなんと、1000万Goldだ!(適当) さあ、賞金が欲しいならボクと勝負だよ!」
 実際の金額は違うが、それでもセララのその言葉が気を惹くのは確かだ。にゃーんと可愛いポーズを決めたセララのラ・ピュセルが鋭い色を帯びた。
 セラフィヌをインストールし、赤い魔法少女服が白く染まる。燐光を散らし距離を詰めるセララの一撃は肉屋の重苦しい刃にぶつかった。
「獲物が重いから動きが鈍いのかな?」
「はあ、こっちの戦闘スタイルまで把握するとはたまげたなあ」
 余裕を見せるリンちゃんに驚きを滲ませている一般人達。サクラはリリファの姿に気付いてからウィンクを一つ。
「大事な人なんでしょ。ちゃんと守ってあげてね!」
 大切な人と言われれば気恥ずかしいが彼女がいなくなれば夜通しのゲームも、バカみたいに笑って遊ぶ日々も失われる。それを大切だと呼ぶならその通りだと何とも奇妙な思考回路を経てから亮は頷いた。
「ボウズ――死んでも守れ、その代わり、あのカスどもは任せておきな」
 肩をばしりと叩いたグドルフの唇が吊り上がった。斧を手に煤けたロザリオを下げた男は熱傷を与え、一般人達に『慈悲』を齎す。
「凍死するよか、今死ねたほうが幸せだよなあ。そんじゃ、おれさまからプレゼントだ。
 地獄へのバカンスへご招待するぜ。あっちはさぞ、体の芯から燃えるようにアチアチだろうよ!」
 ――それが『厚意』だというのだから亮は「ひえ」とだけ小さく呟いたのだった。


「アーマデルさん!」
 亮にリリファを任せ、死角からの攻撃を行って居たアーマデルはマントをはためかしている。
「マントが邪魔で走り難そうに見えるか?
 これで体表の凹凸を覆い隠す事で風の抵抗を受け難くする……即ち、逆に速くなるんだ」
「リリファはだから掴まらなかったのか」
「どう言う意味ですか」
 頬を摘まみ上げたリリファに亮がばたばたと脚を動かした。ひらりとマントを揺らして不意を衝くように弾正の元に集った一般人等を蛇銃剣が英霊の音色を以て縫い止めた。
 罪人の魂など食わせてしまえばそれで良いとフルールは目を伏せる。焔が静かに揺らめいた。苛烈な焔に色彩を変えればフィニクスの纏う激情は破壊の衝動と変化する。
「死んでしまえば、食べさせてしまうけれど」
 死者の霊魂を好むジャバウォック。傍らに佇むそれを一瞥したフルールに子供達は怯え竦んだ。その隙を、セララが縫うように飛び込む。「もうやめようよ!」と声を掛ける少女の背後より命を奪わぬ『愛染童子餓慈郎』が振り下ろされた。
「少年少女とて容赦はせん。欲に溺れて人の命を奪う、その愚かさを知るがいい」
 意識を失った子供達。汰磨羈は淡々と彼等を見遣る。これ以上の慈悲はなく、特に眼前のリンちゃんは赦してはおけまい。
「食う価値も無い堕肉だな。ここで灰にしてやろう――亮!」
「オーケー!」
 格好いいところを見せろと背を叩いた汰磨羈に頷いて亮が鯉口を切る。彼と共にサクラの居合い術が鋭く宙を裂いた。
「よう。さぞかしイイ肉を売ってきたんだろうねェ。そんじゃ、おれさまも一丁注文していいか?
『肉屋』のハツ――鮮度バツグンのやつを、なる早で頼むぜ!」
 傷が深くなればなる程にグドルフは暴れ始める。血潮を溢れさせ、その膂力を生かして勢い良く斧を、刀を振り下ろす。
 がん、と音を立て跳ね返されたがそれでもグドルフは愉快だとでも言う様に唇を吊り上げた。
「なっちゃいねえな。しょうがねえ、特別に肉の捌き方を教えてやるよ。
 ねェ袖を振らせ、毛の一本まで毟り、ホネまでしゃぶれる山賊流の捌き方をな!」
「山賊、そりゃあこわいなあ」
 商売敵だとせせら笑ったリンちゃんの足元は眩んでいる。スティアは目の前で「反省、してね」と微笑んだ。
 聖女の慈悲を飛び越えるようにアーマデルの支援を受けた弾正がその顔面に滑り込む。
「情け容赦はしない――!」
 鋭き一閃にリンちゃんが一歩。後退する。その眼前に――「捌くてぇのはこう遣るんだよ!」
 山賊の刃が鈍い色を放ち叩きつけられた。

「少しは頭は冷えたかな? 私達と一緒に来てくれるなら衣食住くらいは保証できると思うけどどうかな? かわりに仕事はして貰うけどね」
 イレギュラーズがこの様な『狩り』をしなくとも避難民として扱えば生活基盤はある程度の安定を見せるだろう。ひもじい思いをさせるかも知れないが、それでも野を駆けずり人を殺し回るよりは十分に良い。
 声を掛けたスティアに幼子達は泣きじゃくり、民達は所在なさげに俯いた。
「ねぇ、キミ達が良ければラド・バウでお仕事を探してみない? ボクも一緒に付き合ってあげるから」
 屹度楽しいよとセララが笑う。彼女も名の売れたラド・バウファイターである。ラド・バウA級闘士ともなれば、ファンも幾人も存在しているだろう。
 此の辺りも人が増えてきた。ラド・バウも避難民の受け入れを行って居るらしい。真面目に働いて冬を乗り越えようと提案するセララに子供達はこくりと頷く。
「ほら、亮くん。ちゃんと言う事があるでしょ?」
 肘で小突くサクラに亮は「ううーん」と呟く。大切な人と彼女が称したこともあって妙な気恥ずかしさがあったのだ。
 そっとリリファに向き合ってその手をぎゅっと握りしめる。生きている事を実感できてほっと胸を撫で下ろした亮は彼女に向き直った。
「……リリファ悪かった。俺、お前とバカみたいなパーティーしたり、ゲームするの好きなんだ。友達ってか大切と言うか、何だろ、まあ、兎に角……ごめん」
「月原さん……」
「例え、胸囲の事が本当のことでも言って良いことと悪い事があるよな」
「ムキャ?」
 リリファから殺気が立ったことに気付いてアーマデルと弾正が肩を跳ねさせる。
「さて。二人にはひとまず休んで貰う。その後でたっぷりと説教だ」
 肩を竦めた汰磨羈へと亮が「そりゃあないっすよ」と情けない声を漏したのだった。
「……付き合ってないのか? 弾正、あのレベルでは付き合ってないらしいぞ弾正」
「……不思議だな」
 くいくいと袖を引いたアーマデルに弾正も首を捻った。月の軌跡を描いたサクラの『お仕置き』に亮は「ぎえー」と悲しげに叫んだのであった。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。亮ももうちょっとね、気を使える男になればいいなって思います!

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