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シナリオ詳細

<咬首六天>この村だけは

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●ギベオンとちいさな村
「魔導(マジカル)――!」
 発光、回転、振動と衝撃波。
 アフターバーナーをふかし突進する自身とほぼ一体となった機槍の先端が開き、巨大なエネルギーの螺旋を描き出す。
「流星螺旋滅光砕(メテオクラッシャー)!」
 巨大な拡張パワードスーツ型モンスター、EXラースドールの盾に突き立った螺旋は層構造になった相手の装甲を削り、広げ、貫き、そして相手のボディを滅茶苦茶に粉砕しながら突き抜けて行った。
 槍を突き出した姿勢でブレーキをかける。槍先端に集中していた大出力マジカルバリアユニット『ウィドマンシュテッテン』が展開し、自らの周囲を守るように再配置される。
 眼前のEXラースドールはくぐもった電子音を鳴らしながらがくりと膝をつき、最後には爆発を起こしてバラバラに散っていった。
「ふう……」
 『七十式型重機動型機動魔法少女』ギベオン・ハートはフウと息をつき、周囲の様子をいまいちどうかがった。
 遠ざかるバイクのエンジン音。残されたのは砕けたラースドールのパーツが数機分。倒されたモンスターを捨てて敵は撤退したのだろう。
 戦闘が終わったことを察し、多少の警戒をのこしつつも、ギベオンは振り返る。
「貯蔵庫は無事ですの!?」
「ああ、なんとかね……」
 農業用のピッチフォークを持ちヘルメットを被った男が建物から顔を出す。
 ピッチフォークというのは巨大なフォークめいた道具だ。干し草を持ち上げたり投げたりするためのもので、間違っても人に向けるようなものではない。実際、先端は血ではなく土で汚れていた。
 ソレを持つ手も震えており、ヘルメットも戦闘用ではなく高所作業用の安全ヘルメットにすぎない。
 彼はこの村の村長をしている男で、名をボッツと言った。彼はヘルメットをぬぐと、戦闘を終え汗をぬぐうしぐさをするギベオンへと歩み寄る。
「すまないね……僕らも戦えたらよかったんだけど……」
「無理をするものではありませんわ。駐屯していた兵隊さんも招集をうけて行ってしまいましたし」
 ギベオンが暮らす村は鉄帝南部の山岳側に位置する。交通にも不便で鉄道も敷かれていない。月に一度やってくる商人の馬車が唯一の取引相手であり、外との繋がりであったような田舎村だ。
 治安維持のために駐屯する兵士は一人だけいたが、彼は中央の招集をうけ渋々ながらこの村を離れてしまった。畑と牧場で生計を立てるこの村にさほどの自衛能力もなく、ギベオンは必然的にこの村を守るよう行動していたのだった。
 しかし。
「最近、襲撃が増えましたわね。モンスターだって無尽蔵というわけではないでしょうに、一体どうして……」
「わからない。こんな村を襲っても大した食料も残ってないのにな……」
 ギベオンが言うように、最近になって襲撃をしかけることが増えた。
 特筆すべきはその顔ぶれだ。当初は新皇帝派からの『接収というなの略奪』が時折起きただけだったが、いまは刑務所から釈放された死刑囚や凶悪犯たちが徒党を組んで幾度も襲撃を仕掛けてくるのだ。
 負ければ食料は持ち去られ、逃げても食料は奪われる。持って逃げられるような量ではないので、必然迎え撃つことになるのだが、こうも連続するとギベオンも蓄積する『疲労』に耐えがたい。
「そろそろここに留まるのも限界かもしれませんわね」
「やはり、そうか」
 村長はため息交じりにこたえた。
 冬を前にした物資不足ゆえにか、南部の拠点バーデンドルフ・ラインに身を寄せる者も出てきたと噂に聞いている。自分達もそれに加わるべきだという声が村であがっていたのだ。
「実際、冬になって道が雪で閉ざされれば助けをもとめて逃げ出すことも難しくなる。移動ができる今のうちに、荷物を纏めて避難しよう。彼らなら助けてくれるかもしれない」

●護衛任務
「それで、私に?」
 オニキス・ハート(p3p008639)は自らを指さし、小首をかしげた。
 その後ろにはイーリン・ジョーンズ(p3p000854)とレイリー=シュタイン(p3p007270)。
 村に拡張された特別なラースドールが攻め込んだという情報を受けて二人は調査に訪れたらしい。
「確かに、情報にあったギガレックスとパーツが一致するね」
 ひとつひとつを拾い集め、並べていたレイリー。イーリンはそれに頷き手帳にメモを走らせる。
「アンチ・ヘイヴンモンスターの使役。けれど襲撃者が軍ではなく囚人たちということは……やはり裏に新皇帝派が絡んでいるのね」
 悩み顔のイーリン。どうやらただのカツアゲとは思えないらしい。
 実際、ギベオンの村は物資も少なく、質の低い食料を冬の間保たせることがギリギリ可能かどうかという微妙さだ。わざわざモンスターや兵に犠牲を出してまで奪うものにはみえない。なにせコストが見合わないのだ。
 レイリーが懐から手配書を取り出す。
「きっと理由はこれだね」
 囚人たちを主な対象として、以前よりイレギュラーズへ懸賞金がかけられていた。彼らによる襲撃事件は主に首都部で起きていたが、それが全国へ拡大したというところだろう。
「『賞金首』には新皇帝派に敵対する人間達に対してかけられてる。鉄道倉庫での奪還作戦に関わったギベオンも例外じゃなかったんだね」
「理由はなんでもいいんですわ! とにかく、南部軍の庇護下に入らないことにはこの方々が生き延びられませんの。けれど物資を大量に積んでいどうするとなると……」
「まあ、目立つよね」
 オニキスは荷物を満載にした馬車数台が並んでいる光景を振り返った。
 頻繁に襲撃をしかけた軍のことだ、この夜逃げめいた大移動を見逃すはずがないだろう。物資貯蔵庫を狙うより容易に物資を奪えると襲撃をたくらむはずだ。
 オニキスはこんなときに他の機動魔法少女たちは何をしているのだろうと想像した。
 トパーズやペリドット、カイヤナイトやヘタマイト。彼女たちは噂によれば国外で活動しているとも聞くので、鉄帝に入ることすらできずにモヤモヤしているのかもしれない。
 そうなると、ギベオンが国内で自由に活動しているオニキスに護衛を依頼してくるのは自然な流れといえよう。
「とにかく、分かったよ。襲撃を仕掛けてくるって言うんなら、護衛に協力する」
「そうね。新しい情報も手に入るかもしれないし」
 イーリンたちも頷き、護衛の馬車や馬へと乗り込んでいく。
 ギベオンはその様子を一通り眺めて、オニキスへ振り返った。
「ありがとう、オニキス……わたくし、この村だけは……」

GMコメント

●オーダー
 南部軍の庇護下に入るべく移動を開始した村の人々。
 大勢の『賞金首』と荷物を満載にした馬車の列は賞金稼ぎにとって格好の的です。
 襲撃してくる彼らを撃退し、南部まで逃げ延びましょう。

●シナリオ構成
 このシナリオは移動中の警戒と戦闘が描かれることになります。
 そのため、プレイングには移動中の警戒方法、そして襲撃が起きたときの撃退方法について記述してください。
 困ったら戦闘プレイングに極振りして役割をハッキリさせておくのもいいでしょう。

●警戒
 山岳地帯から森にそって南下していきます。
 途中、深い森などを通るため視界が通りづらい(上空からでも見えづらい)ポイントがいくつかあり、襲撃がおこるならそのあたりだろうと予測されています。
 襲撃を事前に察知できると村人たちを固めて身を守らせることが出来、もし察知できなかった場合は奇襲を受け物資を多少奪われてしまうかもしれません。

●戦闘
 敵は拡張された装備を纏ったアンチ・ヘイヴンモンスターです。
 予測されているのはグロース師団に属するギガレックスとラースドール。加えて一般の兵たちです。

・ギガレックス×少数
 古代兵器を利用した鎧等で武装したモンスター(アンチヘブン)です。
 ティラノサウルスレックスにも似たフォルムをしており、堅い鎧を上から装着しています。
 高い攻撃力、防御力を備え、更には高い抵抗力ももっているため高い火力や集中攻撃によるゴリ押しが推奨されています。
 以前は襲撃する側としてこれらを撃破しましたが、逆にされる側となると抑えこむのが難しく、多少ダメージを負ってでも少数の戦力で素早く破壊する作戦が必要になるでしょう。

・EXラースドール×少数
 拡張装備を施された自律パワードスーツ型のモンスターです。
 今回投入されるモデルは隠蔽能力に優れ、高い機動力で奇襲をしかけると予想されています。

・武装囚人×小数
 軍用のアサルトライフルなどで装備を固めていますが、彼らの役割はモンスターへの指示や支援が主であり、彼ら自身が危なくなると撤退を選ぶだろうとみられています。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>この村だけは完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)

リプレイ

●ノイズ・イン・ホワイトノイズ
 粉を踏みしめるような、或いは粉挽き小屋を開いたような音がしている。
 馬車に揺れは少なく、それが雪によって衝撃が吸われているからとも、雪によってスピードがひどく落ちているからともわかる。
 冷たい外気を感じながら、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)はドレイクチャリオッツの御者席から周囲を見た。
 村長ボッツを先頭にして、何台かの馬車の列ができている。最初に作った轍にそって進む事で少しでも負担を和らげているのだろうが、ここまれ綺麗に一列になっていれば襲撃者からすれば襲い放題だろう。
「この寒波に加えて新皇帝派やら賊やら天衝種達の襲撃かぁ。そりゃ、避難もやむなしよねぇ……」
 ラムダは独りごち、並走している『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)のドレイクチャリオッツを見た。
 今回はミーナと大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)。三人のドレイクチャリオッツで村人達の馬車の列を囲むように進み、警戒を広げる作戦をとっていた。
「私はな、一応神ではあるがその前に人なんだよ。
 だから、なんの罪もない人々が襲われるのも、私の大好きな人達が襲われるのも嫌いなんだよ……」
 ミーナは感情をあえて露わにし、敵意をむき出しにして周囲を警戒している。
 そんな中で最も上手に馬車を操れていたのは武蔵だった。
 雪道を進むのはそう簡単なことではないが、難なくドレイクを操縦し馬車を引かせている。
「ギベオン・ハートよ、先日ぶりであるな」
「そうですわね。あなたとは他人という気がしませんでしたけれど……」
 村人の馬車に同乗することで最後の守りとなっていたギベオンがこたえると、武蔵は『ははっ』と笑みを浮かべた。
「苦慮を聞いて駆け付けた次第。武蔵も協力する故、文字通り文字通り大船に乗った気でいるといい」
「船というより馬車ですけれど」
「私こそが『大船』だというのだ」
 どんと自らの胸を叩いてみせる武蔵。
 そんな様子を横目に、仲間の馬車にのっていた『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)はふりしきる雪に手をかざす。
「人々を守る機動魔法少女が賞金をかけられてお尋ね者になるなんてね……」
「だな。俺らにゃ賞金、お国は囚人大開放ってのは完全に滅ぼす気満々としか言えない状況だな。こんな状況にさせた奴はさぞ肌寒い格好してる頭空っぽの野蛮人に違いない」
 ティンダロスType.Sに騎乗し、雪にとらわれぬよう低空を飛んでいた『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が顔をしかめる。寒さで震えて然るべき状況だが、彼の表情は平気そうだ。こっそりと耐えているのか、それとも戦闘を前に気分を高揚させているのか。
「実際笑えん状況だがそれで依頼が増えるんだから悲しいこった。襲撃強奪ではなく護衛であるのが救いだが」
「そうだね。それに……このままじゃ村の人たちが冬を越せないのは明らかだし。
 何としても守り抜いて拠点まで連れて行かないとだね」
 こんな村が、鉄帝のあちこちには出てきているのだろう。
 大派閥を頼って逃げるだけの脚や決断力があるならいいが、留まる決断をしたりそこまでの脚がない村がどうなるのか……想像するだに恐ろしい。

「村人達が、覚悟を決めて避難しよう決めた。その決意を無駄にしないために……」
 『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はムーンリットナイトの馬上でそんなふうに呟いた。
 ドレイクチャリオッツによって囲むように配置してこそいるが、実際にその馬車に騎乗している仲間は少数だ。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は『鋼鉄の女帝』ラムレイに跨がり、『魔女断罪』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は赫塊に跨がっている。雪上である程度の機動力を維持しようとするなら、こうした選択は間違いがないだろう。
 部隊の展開力も高く、咄嗟の陣形変化にも対応できる。
「村……故郷を捨てるかもしれない覚悟。
 彼らの旅路に祝福を授けるためにも……」
 イーリンは、この作戦中エーリンと名を偽って参加していた。
 割と偶然の成り行きなのだが、元々呪い避けをするための呼び名を持っていただけに都合が良いともいえた。
 ココロがコホンと咳払いをしてから問いかける。
「敵が襲ってきそうな場所は――急に狭くなる道や橋といった細い道の途中。それと視界が遮られるほどの深い森の入り口か出口。ですよね」
 見ると、深い森の入り口があった。
 暗い場所に入ると視界が一時的に悪くなり、そこを狙った者が暗がりから襲うという寸法である。
 ココロは胸に手を当て、一度だけ目を瞑った。
「わたしにとって人々を不条理な死から遠ざけるのはイレギュラーズとしての責務だと思っています。
 そして自分の望みを義務であるかのように振舞うのは善行に見せたわがまま。
 でも、それでいいと思ってます。それで助かる命があるのですもの」
 今目の前にある命を失うことは、彼女の道理に反する。
 ゆえに、あがくのだ。
 イーリンはこくりと頷き、そして背負っていた傾国の戦旗を手に取る。
「――『神がそれを望まれる』」
 何かを予見したように、そう呟いて。

●衝撃と畏怖と、反撃のIF
 正解を先に述べよう。襲撃のタイミングは『森の入り口』であった。
 茂みや暗がりに隠れていた囚人達は、待機状態にしていたラースドールの担いでいた大砲の角度を僅かに上げさせる。
 陽光を照り返し必要以上にまぶしい雪原と、木の上に積もった雪のせいで光を遮られすぎた森の中。明暗の差は強く、暗がりに潜むものを見つけるのは難しい。
 防寒着を着込んだ囚人達をみつめる温度視覚を除いては。
「そこだ」
 ミーナは真っ先にドレイク・チャリオッツの荷馬車を切り離すと、ドレイクへと飛び乗り走らせる。
 慌ててこちらへ向けられた砲身は、見えている。
 ミーナは発射のタイミングを直感で計ると、飛来する砲弾を剣によって打ち払った。
 回転ゆえに弧を描き、雪原にぶつかり爆ぜる砲弾。
「イ…エリーン、ココロ、そっちは任せた! レイリー、行くぞ!」
 レイリーはすかさず『只其処爾有罪』の権能を解放すると、茂みに身を潜めていたはずの囚人達めがけて放つ。
 たちまち悲鳴があがり、囚人の一人が自らの腕にナイフを突き立てる。
 レジストに成功した者も、実ダメージまでも免れたわけではないようだ。隠れることが無駄だと察して待機させていたギガレックスをけしかける。
 その影に隠れ、盾にする形で正面からの襲撃を試みるつもりだろう。
 ボッツたちに馬車をとめるように鋭く呼びかけると、レイリーはムーンリットナイトに加速を命じた。
 素早く風となる栗毛の馬。
 雪を散らして走るその姿に、雪上仕様となったラースドールが空圧噴射とスノーボードによる高速機動で対抗してくる。
 レイリーの横を一度すりぬけたラースドールは腕に装着していたサブマシンガンをレイリーの背に向ける――が、腕のアームドコンテナを展開したレイリーの方が一枚上手だった。
 展開した装甲が銃弾を防ぐと、ムーンリットナイトの機敏なターンによって向き直る。突き出した盾が追加の銃撃を受け止めた。
「エリーン、ギガレックスの方はお願いね。ボッツさん、私達が荷物も馬車も護るから。みんなはしっかり自分の身を護って!」
 レイリーは村人達の方へ向かおうとするラースドールとぴったり並走する形で剣を叩きつけると村人への接近を強引に阻んだ。
 たちまち展開した装甲がレイリーの頭部までもを覆い、おなじみの前身鎧へと変化させる。
「私はヴァイスドラッヘ! 人々を護るため、参上!」
 ラースドールは彼女から離れ迂回しようとするが、後ろにぴったりとつけたミーナによってそれもまた阻まれる。
 一方でまっすぐ突進を仕掛けてくるギガレックス。イーリンはあえてラムレイから飛び降りると、雪に両足をざっくりと埋めた状態のまま、傾国の戦旗を振りかぶるように構える。頭を突き出す形で突進を仕掛けるギガレックスと、イーリンの叩き込んだ旗槍が激突した。
 無論ただの旗槍ではない。紫の炎が燃え上がり、衝撃が迸る。
 サイズ差でいえば圧倒的。小柄なイーリンであればまるで障害にならず突き飛ばされるかに見えたが、彼女はギガレックスの突進を真正面から止めて見せたのである。
 が、ノーダメージというわけではない。ギッと食いしばった口の端からは小さく血が流れている。
「ティンダロス、戦闘態勢だ」
 マカライトは浮遊していたティンダロスを地上へと着地させると、イーリンと激突しているギガレックスを側面から狙いにかかった。
 ティンダロス上で槍を構え、その槍に何本もの鎖が巻き付く。
「こんな冬場に囚人共が襲い掛かるってのも怖いもんだ。懐も頭髪もさぞ寂しいんだろう」
 などと皮肉をつぶやきながら、槍を突き出すように振り込む。螺旋状に伸びた鎖がギガレックスの装甲へと直撃。その装甲を破壊する。
 ギガレックスの目がぎろりとマカライトへむくが、マカライトの表情は涼しいものだ。
 そして、すぐに別方向から突っ込んでくるもう一体のギガレックスへと視線を移す。
「俺の担当はこっち、か」
 マカライトはティンダロスにターンを命じると鎖の壁を展開。
 ギガレックスは展開された鎖の壁をいとも容易く食いちぎり、その鋭い牙を露わにマカライトへと威嚇する。
「オニキス!」
「分かってる。ボッツさんたちをお願い」
 オニキスは武蔵のひくドレイクチャリオッツの馬車上でライフル型マジカルステッキのセーフティーを解除した。
 天に向けてトリガーを引くと変身シークエンスが開始される。
 一方のギベオンもポール型マジカルステッキを地面に突き立てるように持ちスライドスイッチを回すことで変身シークエンスを開始した。
 飛来してきた黄金の鷹めいたユニットが分解。どこからともなく走ってきたドローン戦車が分解。それぞれギベオンとオニキスに装着されると、最後に大型機槍マジカルカノンランサーとマジカルゲレーテ・アハトを完成させる。
 ラースドールが肩に担いだミサイルポットから次々にマイクロミサイルを発射するが、大出力マジカルバリアユニット『ウィドマンシュテッテン』の展開によってボッツたちの馬車が守られる。
「いつまでも耐えてはいられませんわよ。オニキス、得意のアレで速攻なさいな!」
「いわれなくても」
 オニキスは特殊弾頭を装填。馬車から飛び降りると地面にアンカーを撃ち込むことで上体を固定させた。
「面白い。この大和型戦艦武蔵、付き合おうではないか!」
 その横に着地した武蔵もまた無骨なアンカーを地面に撃ち込むことで上体を固定。
 二人はそれぞれ異なる魔力を砲身内に溜め込み始める。
「九四式四六糎三連装砲、改――撃ェ!」
 艦姫艤装に仕込まれた小さな妖精たちが機械の一部のごとく動き、大砲を発射させる。
「マジカルアハトアハト、シュート」
 と同時にオニキスの大砲もまた激しいエネルギーを発射する。
 黒と青のエネルギーが同時にラースドールへと直撃。肩口にぶつかったそれは一瞬にしてラースドールの肩を熱によって膨張させ、爆発によって四肢をバラバラに分解する。
「次弾装填、急げ!」
 武蔵はそう妖精に呼びかけると、ギッと身体をひねり別のラースドールへと狙いをつける。
 彼女たちの火力が邪魔だと判断したのだろう。スキーボードのような装備をつけたラースドールが腕から高熱を放つブレードを展開、突っ込んでくる。
 次の攻撃までのタイムラグを狙われたようだ。
 が――。
「こっちの戦力を侮りすぎ、かな」
 荷馬車を切り離したドレイクに跨がったラムダがその側面から激突。そう、激突した。
 ドレイクの重量をそのままラースドールにぶつけると、バランスを崩したラースドールめがけて剣を抜く。
 魔導機刃『無明世界』。
 魔力収斂圧縮加速機構が組み込まれた鞘と機械刀からなるその剣は、抜刀において圧倒的な速度とパワーを誇る。そして一般物理法則において速度とパワーはそのまま威力となる。
「――対軍殲滅術式『無尽無辺無限光』」
 抜刀によって放たれたエネルギーは黒い光の束となりラースドールを切り裂いたかと思うと、広く拡散し周囲の敵集団を纏めて切り裂きにかかった。
 腰から上を切り裂かれ雪の上を転がるラースドール。
「なっ!?」
 それに驚いたのはギガレックスの影に隠れていた囚人達だ。
 自分達が襲撃し物資と賞金首をいただく側だと思っていたら、たちまち襲われ戦力をもぎとられたのである。動揺して然るべきだろう。
 茂みの中では仲間が狂気によって自決しており、一人残された囚人はきょろきょろと辺りを見回している。
 ズン――と音をたててギガレックスが倒れた風景を振り返ったところで、囚人は半笑いになって両手をあげた。降参の姿勢、である。

●グロースの牙
「皆、怪我はない?」
 ココロは村人たちの中に流れ弾やブレーキの衝撃によって怪我を負った者がいないか見て回っていた。
 イーリンもその作業を手伝いつつ、ボッツ村長の腕に包帯を巻いている。軽いかすり傷だが、この状況では怪我が悪化することもあるだろうと。
「生きてればなんとかなるわ。私みたいにね」
 イーリンは治療を行いながら、自身の体験を語って聞かせていた。
 常人では目にすることすらないような、この世の果てとも言うべき風景や事件をいくつも。
 ボッツはきょとんとしながら話を聞き、そして自分の境遇がその一部であることに思い至って苦笑する。

「馬鹿だなお前ら、牢屋の中ならまだあったかかったろうに」
 一方、マカライトは鎖で生き残った囚人を縛り上げていた。
「咎人に情状酌量余地なし。審判の時間だよ。懺悔の言葉とか受け付けないのでそのつもりでね?」
 それを冷たい目で見下ろすラムダ。
 オニキスと武蔵は他に被害がないことを確認すると、ギベオンと共に囚人のところへとやってきた。
「何か吐きましたの?」
「いや、まだ吐かせる前だ」
「拷問でもするつもり?」
 オニキスの呟きに、囚人の男がヒッとおびえを見せる。
 武蔵は片眉を上げ、試しにオニキスの肩を叩いて見せた。
「彼女は貴様の上半身をその森の肥料に変えることができるだろう。およそ15秒程度でな。実演して見せようか?」
「武蔵……?」
 そんなことしないよ? という目をしたオニキスだが、囚人にはどうやら効いたようだ。首を大きく横に振って自分の知っていることを全て早口で喋り始めた。

「へえ、グロース・フォン・マントイフェル将軍ねえ」
 ミーナがあたりに散らばったラースドールのパーツやギガレックスの装甲を一箇所に集めながら呟いた。囚人の吐いた情報によれば、ギベオンたちの状況や戦力を囚人達に伝え、『達成可能な戦力の貸し出し』という形で天衝種を与えていたらしい。
 作業を手伝っていたレイリーが装甲板を地面へおろす。だいぶ重いが、堅くて丈夫なのは確かだ。持ち帰ってなにやらしたいというのでミーナを手伝ったのである。
「出世払いっていうか……賞金首をとってきたら差し引いてお金を払うつもりだったのかな?」
「支払われるかどうかすら怪しいが……む? だとすると気前よく戦力を支払いすぎなきもするな」
 何か狙いがあるのだろうか。囚人に『達成可能な戦力』として貸し出している割には、こちらは多少のダメージを受けただけで済んでいる。村人に被害もナシ、だ。
 参謀本部の悪魔などと呼ばれる人間がこちらの戦力を見誤るというのも不自然な話なのだが……。
「南部軍に関係ありそうな話か?」
 話をふってみると、情報共有にきていたオニキスが首を横に振る。
「ううん。南部軍はゲヴィド・ウェスタンから地下通路の探索を進めてる最中だし、新皇帝派の影もあるけど殆どアラクラン系列だったよ。グロース将軍とは関係ないかな」
「となると、この『わたくし』を狙った個別の動きということですわね!」
 後ろでギベオンが胸をはってそう言った。言い張った。
 さすがにギベオン個人のためにここまでリソースを割かないとおもうけど……と思いつつ、何かしら狙いがあるのは確かだとオニキスは小さくうつむく。
「とにかく、南部軍の拠点についてから考えようか。安全確保が先」
「ええ……そうですわね。あの方達をこれ以上……」
 ギベオンはボッツたちを振り返り、ひどく悲しそうな目をした。
 彼女がこの大寒波の中で何を見たのか、あえては聞かない。だが、それが彼女を突き動かすに足る悲劇であったことは確かだ。

 雪はまだ降り続け、たちまち死んだ囚人の身体を埋めていく。
 春ははるかに遠く。空は冷たいままだった。

成否

成功

MVP

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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